遊戯王Wings「神に見放された決闘者」   作:shou9029

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ep93「荒ぶる『烈火』」

【決島】…

 

その、決勝戦が終わった直後。

 

天城 遊良と天宮寺 鷹矢の戦いに、異様な盛り上がりを見せていた世界は…

 

 

―突然途切れてしまった中継の映像に、にわかにざわめき立っていた。

 

 

何せ決勝戦が終わったばかりで、まだ3位決定戦も終わっていないこの現状。

 

それに表彰式も閉会式も、【決島】の全プログラムがまだ終了していないのだから、今この中途半端なタイミングで全チャンネルの中継が途切れてしまったというのも可笑しな話であり…

 

急遽ニュースに切り替わった番組もあれば、対応できずに暗転したままのチャンネルもある。白黒の砂嵐が吹き荒れているだけのモノもあれば、場繋ぎのためだけの音楽と静止画だけの映像もある。

 

…そう、メディアも混乱しているのだ。

 

現地にいるスタッフからは、妨害でもされているのか全くもって連絡がつかず…現状を理解できないメディア側からすれば、ただただ現況を調べるのに必死になっているばかり。

 

そんな、突如として途切れてしまった【決島】の中継に対し。

 

世界中の観客達は、意味も分からずただただ困惑しているだけで、推測と憶測とに忙しくなるしかなく…

 

…Ex適正のない天城 遊良の戦いが目を見張るモノだったから、その腹いせに中継を切ったのか。いや、一つ二つの局ならばいざ知らず、そんな小さな理由で全メディアが中継を切るものか。

 

…メディア側に、一斉に機器の不備が出たのか。いや、全局の機器が一斉に壊れるなど、根底からしてありえない。

 

ならば…何だ…

 

その真相の分からぬ突然の切断に、世界中の観客達がざわめき立ち…

 

 

 

 

 

…けれども、世界中の観客達は知らない。

 

 

 

 

 

一体今、【決島】で何が起こっているのかを。

 

今、【決島】の決勝戦が終わったばかりの島で…誰が、何をしたのかなど。

 

 

まさか、誰もが思うまい―

 

 

【決島】が今、超巨大な『竜巻』によって取り囲まれ、外界から隔離されてしまっているなんて―

 

 

 

そんな、世界中が知りえるはずも無い…巨大な『竜巻』に囲まれた、外界から隔離されてしまった【決島】。

 

その、突如発生した人知を超えた災害の中に、取り残されてしまった島の中に…

 

 

 

 

 

「うわぁぁぁぁぁあ!」

「きゃぁぁあぁぁあ!」

「や、やめてくれぇぇえええ!」

 

 

 

―!!!!!!!!!!!!!!

 

 

 

 

…島のあちこちから戦いの音と、悲痛な学生達の悲鳴が上がっていた。

 

それは主催者を名乗った謎の男、【紫影】の放った『裏決島』の開会宣言と共に、突如島の中に解き放たれてしまった、200人の裏世界のデュエリスト達による容赦の無い襲撃。

 

そんな、突如として襲いかかってきた犯罪者達にいきなりデュエルを仕掛けられ…

 

学生達は次々に蹴散らされていくばかりであり、更には若き学生達が倒されては、犯罪者達に担がれどこかへと『連れ去られ』ていくではないか。

 

 

…いくら敵が、犯罪者だとは言え。

 

 

その犯罪者達は全員が【裏決闘界】を隠れ蓑にしていた者達ばかりであり、その実力は並のプロかそれ以上と、ピンからキリとはいえ全員が一筋縄ではいかない曲者達ばかりなのだから…

 

…いくら学生達が、各学園から選りすぐられた猛者ばかりだとは言えども。

 

突然島が外界と隔離され、いきなり犯罪者達が実体化したデュエルと共に襲い掛かってきてしまっては、とてもじゃないが【決島】の参加者達と言えどその若すぎる精神力では落ち着いてデュエルなど出来るはずも無いのか。

 

…精神的に一歩出遅れてしまっている、逃げ惑う学生達。

 

そしてソレを、嬉々として追い回すのは喧嘩慣れした…と言うよりは、人を傷つけ慣れ過ぎている、裏側の世界に住まう者達。

 

…その中には、実際に人の命を奪ったことのある者も居るのだろう。そんな、学生相手でも容赦の無い実体化した攻撃に…次々に学生達は倒されていくばかりであり、そして攫われていくばかり。

 

まさに地獄、まさに奈落、まさに阿鼻叫喚の生き地獄―

 

煌びやかな祭典から一転。

 

現在、この島は文字通りの地獄となっていて―

 

 

 

 

 

「バトルだ!【炎星侯-ホウシン】でダイレクトアタック!」

 

 

 

―!

 

 

 

そんな、海岸近くの…砂浜が見える、森の中。

 

自身を追ってきた、1人の犯罪者を相手に。デュエルを行っていた、1人の学生の姿があった。

 

…それは【決島】に参加していた、炎のように赤みがかった茶色い髪をたてがみの様にして後ろに流した1人の少年。

 

どこか幼さの残る顔立ちをした、決闘学園サウス校1年…

 

 

 

獅子原 炎馬―

 

 

 

「はぁ…はぁ…な、何なんだよコイツら…うぐっ…」

 

 

 

苦しげに呼吸を乱しながら、痛みに顔を歪めつつ。

 

デュエルディスクを装着した左腕を重そうに垂れ下げ、そのまま左腕を痛そうにして押さえた…サウス校1年の、獅子原 炎馬。

 

…この海岸近くまで逃げてくるのに、炎馬は一体どれだけ戦ってきたのだろう。

 

倒したばかりの、気絶している裏決闘界のデュエリストを見下ろしつつ。乱れた呼吸と吹き出る汗、そして脈打っているのが分かるのでは無いかと思える程に鳴り止まないその心臓の鼓動は、炎馬の抱いている恐怖を傍から見ても分かってしまうほどに現しており…

 

…一緒に逃げてきた他の3人の学生は、皆裏決闘界の者達に敗れ気を失い…そして散り散りに、犯罪者達にどこかへと攫われてしまった。

 

何とか自分だけは運良く突破できたものの、目の前で他の学生が実体化したモンスターに弾き飛ばされ、そして意識を失い犯罪者達に連れて行かれてしまったあの光景は、まだまだ若すぎる炎馬にとっては恐怖以外の何物でもないのか。

 

そう、実体化したデュエルによる恐怖、犯罪者が追いかけてくる恐怖、負ければどこかに攫われてしまうという恐怖、そして最悪の場合は命すら危ないというその恐怖は、例えまだ経験の浅い獅子原 炎馬という少年でなくとも恐怖を覚えてしまうモノなのだ。

 

…まるで今の炎馬の雰囲気は、今にも恐怖に駆られ泣き叫びたくなっている小さな子どもの姿のようにも見え…

 

 

 

「…何なんだよ…意味わかんねーよ…うぅぅ…」

 

 

 

負ったダメージと極限状態による焦燥の中、自分がデュエリストであるという誇りのみで、どうにかここまで犯罪者デュエリスト3人をデュエルで弾き飛ばせはしたものの…

 

…派手にデュエルを行えば、そこに新たな敵が現れる。

 

1vs.1では何とか戦えるとは言え、相手は法の通じぬ裏社会の者達。もしも出会ったのが複数人で、その多人数がもし一気に襲い掛かってきてしまえば…

 

その考えたくも無い最悪の展開と、極限の緊張感と負った怪我の所為で。炎馬は、益々その呼吸を荒くしてしまうのか。

 

逃げれば逃げるほど現れる敵…何度倒しても現れる敵。

 

その実力も決して低くはなく、下手をすれば自分なんて足元にも及ばない敵が無慈悲に現れるかもしれない恐怖と…

 

この海岸近くまで逃げてきたとは言え、そもそも『逃げる』という選択肢が正解だったのかがわからない今の炎馬にとっては、あとどれくらい逃げれば助かるのかなど全くもって見通すことなどできはしないのだ。

 

そもそも海にはあの竜巻が壁を作っているのだから、泳いで逃げられるわけもないというのに…

 

パニックに呑まれ、必死に逃げ続けてきた炎馬の体力は既に限界が近いこの現状は、まだ若いというよりは幼さの残る高等部1年の炎馬にとってはあまりに酷な現実に違いないことだろう。

 

そんな、助かるのかどうかも分からない、ただただ増し続ける恐怖に…

 

炎馬の目に、大粒の涙が零れそうになった…

 

 

その時だった―

 

 

 

「おっ、またまたガキ一匹はっけーん!」

「ひゃひゃひゃ、これで5匹目だな!ボーナス期待できそうだぜ!」

「ッ!?」

 

 

 

突然―

 

森の奥から響いてきたのは、聞くからに下品な男達の声であった。

 

パキパキと、地に落ちている枝を折りながら…

 

ニタニタと、ガラの悪さが顔に張り付いた笑みを浮かべながら近づいてくるのは、見るからに人相の悪い2人組の男達。

 

下品な顔と雰囲気を駄々漏れにして、炎馬へと近づいてきて…

 

 

 

「げひゃひゃひゃひゃ、ボウヤ、ここまで逃げてきてごくろーさん。」

「たった一人で今まで逃げ切ってたのは褒めてやるよ。けどオマエもここまでだなぁ。プススス…」

「あ、あぁあ…」

 

 

 

自分達が悪人だということ、おおっぴらに見せつけながら。

 

森から現れた2人の男たちは、デュエルディスクを構えて炎馬を視野に捉えている。

 

…最悪だ。

 

ようやく海岸近くまで逃げてこられたというのに、ココへ来て敵が2人も同時に現れるだなんて。

 

炎馬の脳裏に、そんな弱音が浮かび上がるものの…

 

学生側に不利に作られたこんな状況では、いくらここまで逃げてこられた炎馬とて敵の襲撃を回避できたわけもないというのは今の炎馬には知る由もなく…

 

だからこそ炎馬も、体力な限界が近いこの状況で現れた2人の敵に対し。

 

思わず、反射的に逃げ出そうと振り向きざまに走りかけ…

 

 

しかし…

 

 

―ドンッ!

 

 

という、『肉壁』にぶつかった様な感触が顔面一杯に広がったかと思うと。

 

冷たいような熱いような、そんな鼻に生じた痺れる痛みと共に…炎馬は、勢い余って尻餅をついて転んでしまった―

 

 

…突然のことに、頭が真っ白になる。

 

…突然の変化に、思考が吹き飛んでしまう。

 

 

何せ、壁などなかったはずの背後に。急に、音もなく『肉壁』の様なモノが現れたのだ。

 

逃げ出そうとした瞬間に、全ての勢いをその『肉壁』の様なモノに弾かれた驚きは…極限状態だった炎馬の思考を、一瞬で漂白するには十分過ぎる衝撃であり…

 

 

その、壁など無かったはずの背後に突如現れた『肉壁の様なモノ』に対し。

 

 

炎馬が、反射的に見上げた…

 

 

そこには…

 

 

 

「ッ!で、でか…」

 

 

 

思わず炎馬も、そう叫んでしまうほどに大きな男が1人、立っていたのだった。

 

そう、炎馬が見上げたそこには、後ろの2人とは比べ物にならない雰囲気を醸しだす…1人の、屈強なスキンヘッドの『巨漢』が音も気配もなく立っていた。

 

…現れたのは、『逆鱗』の劉玄斎にも匹敵するほどの鍛え上げられた体躯をした、スキンヘッドの大男。

 

丸太のような太い腕、鉄板のように硬い腹筋…

 

戦場を棲み家としている兵士のような、平穏からかけ離れている物々しい雰囲気と…

 

何より特徴的なのは、顔を斜めに両断する程に大きなその古い傷跡―

 

 

 

…敵だ―

 

 

 

炎馬が、一瞬でそう悟ってしまうほどに。

 

突然背後に現れたこのスキンヘッドの巨漢が持つ雰囲気は、自分を助けにきた救援などでは絶対にないと断言できるほどに冷たい雰囲気ではないか。

 

 

…任務をこなす兵士の面持ち。心を捨てた職人の面持ち。

 

 

そんな筋骨隆々なスキンヘッドの巨漢が、音もなく背後に現れていたのだ。逃げようとしたこの時に、こんな背ろのチンピラ2人組が霞んでしまうほどのオーラを持った男を見上げてしまっては…

 

絶対に見逃してはくれないであろうことを、炎馬もその一瞬で悟ってしまって…

 

 

 

「げひゃひゃ!運がなかったなぁガキんちょ!もう逃げらんねぇぜ!さっさとディスク構えな!それとも、デュエル無しでぶっ飛ばされる方がいいかぁい?」

「プッスッス、3対1とはまた運がなかったなボウヤ。プスススス…」

「うっ、くぅぅ…」

 

 

 

そして、急いで立ち上がった炎馬へと。下品な表情で近づいてくる、2人の裏社会のデュエリスト達。

 

…前門の虎、後門の狼。

 

否、醸し出されるオーラを比べたら、例えるなら2匹の前門の子ハイエナと、1匹の後門の巨大マウンテンゴリラといったところなのだが…

 

はっきり言って状況は最悪。逃げ出そうにも、後ろには物言わぬままで道を塞いでいる、圧倒的な巨漢の壁が立ち塞がっており…

 

前面にはチンピラ崩れとは言え、2人組の犯罪者デュエリストが有無を言わさず襲いかかろうとしてきているのだから、体力も限界が近い炎馬からすればもう逃げられはしないことを嫌でも悟ってしまう他ないのか。

 

しかし…

 

逃げられないことを悟っていても。

 

 

 

「ッ…」

「お?いっちょまえに戦る気だぜこのガキんちょ。げひゃひゃ、勇ましいねぇ。」

「3対1だってのに健気だねぇ、プススのス…」

 

 

 

震えながら、怯えながら。

 

それでも残ったデュエリストの本能で、どうにかデュエルディスクを構えようとしているサウス校1年の獅子原 炎馬。

 

…例え、敵が3人で襲いかかってきても。

 

自分はデュエリストであるという、たった一つのその誇りのみで。無意識に、炎馬はデュエルディスクを構え…

 

 

 

「…こんな少年に3人で戦う意味などない。私は失礼させてもらおう。」

「お?アンタはヤんねーのかい?ガキ一匹につき100万だぜ100万。」

「…あぁ。確かに仕事は請けたが、私の目的は別にあるのでな。この少年が探し人に似ていたから来てみたが…どうやら、人違いだったようだ。」

「げひゃひゃ、意識がお高いこった。そのスキンヘッドが眩しいぜ。」

「ま、それならこのガキは俺達が貰ったからな。後からくれつったってもう遅いぜ。」

「…あぁ。構わん。」

 

 

 

そんな折に、一体何を思ったのか。

 

この場で最も強者のオーラを持ったスキンヘッドの巨漢が、この戦いに興味などないのだと言わんばかりの落胆ぶりを見せたかと思うと…

 

犯罪者側の敵だというのにもかかわらず、この場から立ち去ろうとし始めたではないか。

 

 

 

「さーて、そろそろボコらせてもらうとするぜガキンチョ!」

「プスス…これで500万…ガキ攫うだけで500万…ボロい商売だぜ。」

 

 

 

…それでも、状況が悪いことに変わりはない。

 

何せ、最も危ないオーラを放つスキンヘッドの男が襲いかからないとわかったとは言え。

 

敵が3人から2人に変わっただけで、炎馬が多人数を相手にしなければならないことになんら変わりはないのだから。

 

…まぁ、目の前のハイエナのような2人組のチンピラなどより、この筋骨隆々のマウンテンゴリラのようなスキンヘッドの男の方が何倍も強者のオーラを醸し出しているのだから…

 

絶対に勝てそうもない圧倒的強者が、この場から去ってくれるというだけでもまだ炎馬にとっては幸運と呼べるのだろうが。

 

しかし、それでも疲弊しきっている炎馬にとっては。まだまだ状況は、最悪中の最悪のままでもあり…

 

 

 

そして…

 

 

 

「行くぜぇガキんちょ…」

「プスス…500万…500万…」

 

 

 

炎馬の意思に反して、不条理なデュエルが今にも始まりかけたー

 

 

 

その時だった―

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「アタシの孫に何してんだぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁあ!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

―!

 

 

 

 

咆哮―

 

 

海岸近くの森に響き渡ったのは、紛れも無い咆哮であった。

 

 

…否、咆哮だけではない。

 

 

怒り狂った女性の咆哮と共に、解き放たれたのは巨大なる『炎の弾』―

 

そう、女性の怒りの声が、実際に燃え盛るかのように。炎馬を襲おうとしていた一人の男を、爆音と共に、1つの『炎の弾』が弾き飛ばしたのだ。

 

 

…男1人を弾き飛ばし、森の奥深くにて爆発するその巨大なる炎弾。

 

 

その、瞬間的に通り過ぎた炎弾の、軌道線場を辿った…

 

そこには―

 

 

 

 

【星態龍】レベル11

ATK/3200 DEF/2800

 

 

 

 

「せせせ【星態龍】ぅぅぅう!?な、なんであンなモンが!ありゃあ確か『烈火』の…っ、あれは!?」

 

 

 

また、残ったチンピラの片割れが叫んだ、煌々と燃える星の龍の下。

 

海水と砂浜の境界線、その波打ち際へと視線をやったそこには…先ほどの咆哮の主であろう、ずぶ濡れになった壮年の女性の姿が。

 

 

 

「れれれ『烈火』ぁぁぁぁあ!?うっそだろおい!なんで『烈火』のババアがここにいんだ!」

「誰がババアだぁぁぁぁあ!アイツも蹴散らせ、【星態龍】!」

 

 

 

 

―!

 

 

 

燃える炎弾が、残った1人の男も弾き飛ばす。

 

それは明らかに実体化している、現実離れした壮絶な光景ではあるものの…

 

しかし、見るからに怒り狂った女性の叫びは何の躊躇も感じさせずに、無慈悲にもチンピラの片割れを巨大なる炎弾にて森の奥へと弾き飛ばしてしまったではないか。

 

その、海から現れた、まるで『泳いできた』かのようにずぶ濡れになったその女性の雰囲気は…

 

見るからに怒り狂った、野生の獣のソレと同じモノ。

 

この世界において、こんな怒りの野獣のオーラを醸し出せる人物など、世界中探したってたった1人だけしか該当しないに違いない事だろう。

 

 

 

そう、この場に現れたのは紛れもない…

 

 

 

決闘学園サウス校理事長、かつては『烈火』と恐れられた元プロデュエリスト…

 

 

 

獅子原 トウコ―

 

 

 

 

 

「っ、ばあちゃぁぁぁあん!」

「ゼィ…ゼィ…炎馬…無事かい?」

 

 

 

絶体絶命の窮地に、突如現れた祖母に飛びつく炎馬。

 

…ずぶ濡れの祖母に力の限り、自らが濡れることも構わずに。

 

ただただ必死に、自分を救いに来てくれた祖母にしがみ付く炎馬のその姿は…心なしか、どこか小さな子どものように見えることだろう。

 

しかし、それも当然か。何せ【決島】がようやく終わったと思った矢先に、理解する暇もなく『こんな目』に遭わされたのだ。

 

犯罪者たちに襲われかけ、負ければ攫われるか『最悪の場合』も有り得たこんなときに…祖母が助けに現れた事で、孫がホッとしないわけもないのだから。

 

 

 

「ばあちゃん何でいるんだ!?俺めっちゃ危ないとこで!うわぁぁぁぁぁあ!」」

「落ち着きな、男だろ!ゆっくりでいいから、何があったのか説明しな!」

「あ、え、えと…」

 

 

 

しかし、一体あの『竜巻』の壁を彼女はどうやって超えてきたのだろう。

 

島の外に居たはずの獅子原 トウコが、あの『竜巻』を超えられるはずも無いと言うのにも関わらず。

 

短く整えられた、ウェーブのかかった髪が顔に張り付くほどにずぶ濡れになってまで。いや、髪から服から、何もかも全身くまなくずぶ濡れになってまで砂浜に登ってきたということは…

 

彼女は間違いなく島の外から泳いで来たのだろうが、しかしその方法がまるで思いつかぬ孫からすれば、今ここに現れた祖母の姿は幻とさえ思ってしまうかのような現実離れした確かな現実。

 

けれども…今それを炎馬へとゆっくり説明している暇などトウコには与えられないのか。

 

何せ、獅子原 トウコの頭上にて煌々と燃えていた【星態龍】が消えていくのと同時に。

 

少々離れた所に居た、この場を立ち去ろうとして距離を取っていた巨漢が…ゆっくりとトウコたちに近づいたかと思うと、徐に声をかけてきたのだから。

 

 

 

「【星態龍】を操る御夫人…なるほど、『烈火』とお見受けする。」

「あ?何だいアンタ。」

「敵だよ、貴女達のな。…つまらない任務に飽きていたところだが、貴女ならば子ども相手をするよりよっぽど意義のある相手だろう。是非お相手願いたい。」

「…」

 

 

 

自分から堂々と敵だと言うことを認めながら、不遜にもデュエルディスクを構え始めたスキンヘッドの大男。

 

普通、目の前の女性が歴戦の決闘者である『烈火』本人であったのならば…先ほどの吹き飛ばされたチンピラ達のように、多少なりとも慄きを感じてもいいはずだと言うのに。

 

けれどもトウコの前に立ち塞がるように、壁のようにして立ち塞がったこのスキンヘッドの男からは恐れなど少しも感じられず…

 

 

…それは、単なる無知の戯言などでは断じてない。

 

 

そう、それほどまでに、己の力に自信があるということの表れでもあり…既にこの世界の歴史に刻まれている歴戦のデュエリスト、燃え盛る女傑と恐れられた『烈火』を前に、この大男も己の力に相当たる自身があると言うことに違いないだろう。

 

 

…現代に生きる者ならば、誰だって知っている『烈火』の高名。

 

 

女性でありながらも、その身一つで決闘界の頂点に上り詰めた伝説の決闘者。

 

この世界においては、古の時代から続く『獅子原家』の総本山にして…【黒翼】や【白鯨】や『逆鱗』、果ては【白竜】と言った歴戦の者達すら頭が上がらないとされている、決闘界きっての姉御肌の御仁。

 

そんな女性を前にしても、少しも引かぬこの男の精神力が並外れたモノだということなど、最早説明するまでもないこと。

 

 

…そんな男を前にしては、いくら歴戦の『烈火』とは言えども。

 

 

こんな意味のわからぬ状況に放り込まれ、そして島についてまず始めに飛び込んできた光景が孫のピンチだったのだから、いきなりデュエルを挑まれたとしても、相当に混乱してしまうに違いないことだろう。

 

…けれども、ずぶ濡れになっている服を重そうにしつつ。

 

慌てふためくこともなく、獅子原 トウコは息を整えながら…

 

 

 

「スキンヘッドにその顔の傷…それにその雰囲気…なるほどねぇ。アンタ、知ってるよ。ホトケ・ノーザンだろ?『七草(ななくさ)』の…」

「ほう、我々を知っているとは驚いた。」

 

 

 

冷静に―

 

少しも、混乱している様子もなく。

 

今始めて会ったはずの、そして敵であるはずの男の事を…その特徴から所属、果てはコードネームのようなモノまで、ピタリと言い当てた獅子原 トウコ。

 

 

七草(ななくさ)』―

 

 

―それは、デュエル傭兵集団

 

裏の世界で、組織の代デュエルやら違法な賭けデュエル、果ては命を賭けた死のギャンブルや国同士のデュエル戦争でその名を轟かせているという…

 

決して表には出てこない、『極』の頂に位置する7人の恐ろしき猛者達の総称。

 

しかし、あくまでも裏社会の猛者であるために、その存在を知っている表の者は少ないはずなのだが…

 

 

 

「な、ななくさ?ばあちゃん、アイツ誰なんだ?」

「デュエル傭兵集団『七草』…上の方じゃちったぁ名の通った…金でどんな仕事もする、いわゆる裏社会のデュエリストってヤツさ。」

「意外だ、ずいぶんと詳しいのだな。」

「ハッ、アタシも若い頃は色々と危ない橋を渡ったクチだからねぇ。だから未だにアタシの元には、そのあたりの情報も入ってくんのさ。…でも最近じゃめっきり『七草』の噂を聞かなくなってたから、アタシゃてっきり解体されたんだと思ってたんだが…」

「最近は平穏が続いていたのでな。我々も長い休暇を持て余していたのだよ。…そして久々の仕事が舞い込んできたと思えば、裏決闘界の小間使いで子どもを襲えときた。時代も随分変わったモノだ。」

「【紫影】か…なるほどねぇ…ハッ、あの屑ヤローの考えそうな事さよ。『七草』ほどの手練れが雇われたってだけでだいたい理解できた。…あの屑ヤロー、ガキ共使って表裏戦争の再現でもおっぱじめようってのかい。」

 

 

 

そして、絶対にこんなにも迅速に理解出来るはずもないと言うのに、島の雰囲気と『黒幕』の情報だけから。

 

『烈火』と呼ばれし獅子原 トウコは、『何か』を即座に把握した様子を見せ始めたではないか。

 

…その迅速すぎる状況把握能力は、彼女が『過去』にこの事態の黒幕と一悶着あったが故の経験からくる予測なのか…

 

 

 

「…なら、どうせ逃がしちゃくれないんだろ?だったらやることは一つさ!」

「…っ、ば、ばあちゃん、何を…」

「ハッ!決まってんだろ?デュエルで、コイツを倒して押し通るのさ!」

「流石は決闘界の女傑と恐れられたご夫人だ。話が早くて助かる。では…」

 

 

 

目の前に立ちふさがった、常人ならざる雰囲気を醸し出す巨漢のスキンヘッドを前にしても。

 

即座に状況を把握して、少しも恐れることもなく…『烈火』と呼ばれし女傑もまた、孫を背に庇いながらデュエルディスクを構え始めるのか。

 

…お互いに多くは語らない、並外れた『力』を持ったデュエリスト同士。

 

そんな者たちの戦いが、こんな唐突に始まってしまうのは果たして世界にとっては幸か不幸か…

 

しかし、言葉よりも先に手が出るタイプの女傑と…仕事を遂行する傭兵とが出会ってしまったのならば、この戦いは誰に求めることなどできはしないのだ。

 

それ故…

 

 

 

「行くさよ!」

「あぁ…」

 

 

 

 

こんなにも突然に。

 

しかして戦うことでしか我を通せない者同士の…

 

避けられない戦いが…

 

 

 

 

 

―デュエル!!

 

 

 

 

 

今、始まる。

 

 

 

 

 

先攻は『烈火』、獅子原 トウコ。

 

 

 

 

 

「アタシのターン!【炎熱伝導場】を発動!」

 

 

 

―!

 

 

 

デュエルが始まってすぐ。

 

トウコが発動したのは、『烈火』の異名に相応しい…煌々と燃え上がる一枚の、灼熱を放つ魔法カードであった。

 

それは、獅子原 トウコの現役時代に掲げていた彼女のポリシー…

 

怒涛の展開、怒涛の攻め、怒涛の召喚のまさに始まりとなるに相応しい始まりのカードであり…

 

 

 

「アタシはデッキから【ラヴァルのマグマ砲兵】と【ラヴァル炎火山の侍女】を墓地に送る!そして墓地に送られた侍女の効果で、2枚目の侍女を墓地に送り…2体目の効果で3体目の侍女を!そして3体目の侍女の効果で2体目のマグマ砲兵を墓地に送る!」

「一枚の魔法カードで5体のモンスターを墓地に…早いな、流石は『烈火』だ。」

「ハッ!お褒め頂き光栄さね!けど容赦しないさ!続けて魔法カード、【真炎の爆発】発動!墓地から守備力200のモンスター…つまり、5体の『ラヴァル』を特殊召喚するよ!」

 

 

 

―!!!!!

 

 

 

【ラヴァルのマグマ砲兵】レベル4

ATK/1700 DEF/ 200

 

【ラヴァル炎火山の侍女】レベル1

ATK/ 100 DEF/ 200

 

【ラヴァル炎火山の侍女】レベル1

ATK/ 100 DEF/ 200

 

【ラヴァル炎火山の侍女】レベル1

ATK/ 100 DEF/ 200

 

【ラヴァルのマグマ砲兵】レベル4

ATK/1700 DEF/ 200

 

 

 

一瞬…

 

そう、瞬きほどの一瞬で。

 

陽炎と共に、『烈火』の場に姿を現したのは炎の化身たる5体ものモンスター達であった。

 

 

―【ラヴァル】

 

 

それは灼熱の炎が命を持った、火山と共に生きる者達の総称。

 

『烈火』と呼ばれた獅子原 トウコが、プロ時代に好んで扱っていた事はあまりにも有名。そう、弾ける火花のように激しく、流れる溶岩のように熱く…

 

燃え上がる炎をその身と化して、決して消えぬ灯火となりて怒涛の展開を魅せるその激しさは、かつて世界一の攻めと謳われた『烈火』の異名をそのままに。

 

 

…攻めることこそ美学なり。その、唯一無二なる理念と共に。

 

 

燃え上がる女傑、世界最強の攻めと謳われた『烈火』のデュエルが…

 

 

今、始まる―

 

 

 

 

 

「行くよ!レベル4のマグマ砲兵に、レベル1の侍女をチューニング!シンクロ召喚、レベル5!【TG ハイパー・ライブラリアン】!」

 

 

 

【TG ハイパー・ライブラリアン】レベル5

ATK/2400 DEF/1800

 

 

 

「まださ!もう一度レベル4のマグマ砲兵に、レベル1の侍女をチューニング!シンクロ召喚、レベル5!【ラヴァル・ツインスレイヤー】!」

 

 

 

【ラヴァル・ツインスレイヤー】レベル5

ATK/2400 DEF/ 200

 

 

 

連続して現れる、獅子原 トウコのシンクロモンスター達。

 

元シンクロ王者【白鯨】と同時期のプロデュエリストであったために、彼女が【王者】と呼ばれることは無かったものの…

 

それでも彼女もまた、『極』の頂に上り詰めた、この世の歴史に名を刻んだ伝説のデュエリストの1人。

 

当時の【王者】達を、そして【王者】と同格と謳われた『逆鱗』をも差し置いて…『世界一の攻め』と称えられたその実力は、まさに彼女も天上の実力を持った歴戦のデュエリストであることの証明とも言えるだろう。

 

だからこそ、シンクロモンスター2体を呼び出した程度で。『烈火』と呼ばれた女性のデュエルが、終わるはずもなく…

 

 

 

「ライブラリアンの効果で1枚ドロー!続けて速攻魔法、【紅蓮の炎壁】発動!墓地のマグマ砲兵2体を除外し、【ラヴァルトークン】2体をアタシの場に特殊召喚するよ!そのままレベル1の【ラヴァルトークン】に、レベル1の侍女をチューニング!シンクロ召喚、レベル2!【フォーミュラ・シンクロン】!」

 

 

 

【フォーミュラ・シンクロン】レベル2

ATK/ 200 DEF/1500

 

 

 

「まだまだぁ!ライブラリアンとフォーミュラの効果で2枚ドロー!更にレベル1の【ラヴァルトークン】にレベル2のシンクロチューナー、【フォーミュラ・シンクロン】をチューニング!シンクロ召喚、レベル3!【武力の軍奏】!」

「止まらないな…」

「当たり前さ!アタシを誰だと思ってんだい!ライブラリアンの効果で1枚ドローし、【武力の軍奏】の効果も発動!墓地から【フォーミュラ・シンクロン】を、効果を無効にして特殊召喚!」

 

 

 

―!!

 

 

 

【武力の軍奏】レベル3

ATK/ 500 DEF/2200

 

【フォーミュラ・シンクロン】レベル2

ATK/ 200 DEF/1500

 

 

 

止まらない、止まれない、燃え上がり続けるトウコのデュエル。

 

初動からして最高速、しかして更に加速し続ける彼女のデュエルは…どこか現シンクロ王者【白竜】、新堂 琥珀の止まらないデュエルにも似た展開とも言えるだろう。

 

何せこの一瞬で自分の場をモンスターで埋め、更に連続的なシンクロ召喚で強固な布陣を即座に揃えるそのスタイルは…

 

まさに現シンクロ王者【白竜】にも通ずる、あまりの加速と激しすぎる展開力のなせる芸当であり…

 

 

…いや、それは大きな間違いか。

 

 

そう、『烈火』のデュエルが【白竜】に似ているのではない。

 

【白竜】のデュエルの方が、『烈火』のスタイルに似ていると言った方が正しいのだから。

 

…何せ、現シンクロ王者【白竜】新堂 琥珀は、決闘学園サウス校の出身者。

 

光る原石であった新堂 琥珀の、その有り余る才能を誰よりも早く見つけ出し…在学中から、『烈火』と呼ばれる獅子原 トウコが直々に鍛え上げ、そうしてその才覚を覚醒させたのが現シンクロ王者【白竜】と呼ばれる新堂 琥珀なのだ。

 

ソレ故、【白竜】の魅せるあの加速し続けるデュエルの基礎は紛れも無く、『烈火』と呼ばれる獅子原 トウコによって築かれたといっても過言ではなく…

 

 

 

「アタシはまだ通常召喚していない!【ラヴァル・ガンナー】を通常召喚!その効果で、デッキトップから5枚を墓地へ送るよ!墓地に送られた【ラヴァル】モンスターは4体!よってガンナーの攻撃力は800ポイントアップし…そのままレベル4の【ラヴァル・ガンナー】に、レベル2の【フォーミュラ・シンクロン】をチューニング!シンクロ召喚、レベル6!【ラヴァルバル・ドラグーン】!」

 

 

 

―!

 

 

 

【ラヴァルバル・ドラグーン】レベル6

ATK/2500 DEF/1200

 

 

 

現れしは、溶岩より生まれし灼熱の翼竜。

 

噴火寸前の火山にも似た、その噴煙の如し叫びを上げて…『七草』と呼ばれし猛者を相手に、喰らいつかんと天を舞う。

 

そして…

 

 

 

「ライブラリアンの効果で1枚ドロー!んでメインフェイズに【ラヴァルバル・ドラグーン】の効果も発動!アタシはデッキから【ラヴァルバーナー】を手札に加え、その後手札から【ラヴァルロード・ジャッジメント】を墓地に送る!そして墓地のラヴァルが3種類以上いる為、手札から【ラヴァルバーナー】を特殊召喚するさよ!レベル5のバーナーに、レベル3の【武力の軍奏】をチューニング!」

 

 

 

まだ、止まらない。

 

…一体、この展開に終わりはあるのか。

 

かつて、ここまで長く連鎖する展開を続けた者などプロの世界にだって存在はしなかった。そう、現シンクロ王者【白竜】がプロの世界に現れるまでは、『烈火』と呼ばれし獅子原 トウコ以外にこれ程の展開の連鎖を見せた者など存在すらしなかったのだ。

 

…歴戦のデュエリストの名に相応しい、燃え上がり続ける『烈火』の展開。

 

かつて『世界一の攻め』と謳われた栄光は、この現代においても燃え盛り続け…

 

 

 

「燃え上がる鉄火よ!戦乱を切り開く刃と共に、仇なす敵を切り倒せぇ!」

 

 

 

溶岩の化身が、その身を5つの燃える星へと変える時。

 

軍歌を奏でし武将が、新たなる戦士をこの地に呼び出すため、光の輪となり天を舞う。

 

今、『烈火』と呼ばれし女傑の、現役時代に最も武功を上げた者の姿が…

 

今、ここに―

 

 

 

 

 

「シンクロ召喚!来な、レベル8!【クリムゾン・ブレーダー】!」

 

 

 

―!

 

 

 

【クリムゾン・ブレーダー】レベル8

ATK/2800 DEF/2600

 

 

 

現れしは、双剣振るいし赤炎の剣士。

 

『烈火』と呼ばれる獅子原 トウコが、好んで扱うモンスターの一体であり…

 

その高い攻撃力による攻撃が通れば、相手の展開を封じてしまう効果を持つという、トウコのデュエルにおけるまさに特攻隊長たるエースの1体。

 

 

 

「ライブラリアンの効果で1枚ドロー!…ハッ、いいカードを引いたさ。【死者蘇生】発動!さっき墓地に送った【ラヴァルロード・ジャッジメント】を特殊召喚するよ!そしてジャッジメントのモンスター効果!1ターンに1度、相手LPに1000のダメージを与える!」

 

 

 

―!

 

 

 

そして…

 

『烈火』の場を最後に埋めるようにして現れた、溶岩の化身たる長が放った炎弾によって。先攻1ターン目だと言うのにも関わらず、LPに傷を負ってしまったホトケ・ノーザン。

 

その小さき炎弾は、まるで『実体化』しているかのように巨漢の体躯にぶつかって…兵装のような装いにぶつかり、焦げた匂いを撒き散らかす。

 

 

 

「ぐっ…」

「…ま、こんなトコかね。アタシはカードを2枚伏せてターンエンド。」

 

 

 

獅子原 トウコ LP:4000

手札:5→3枚

場:【TG ハイパー・ライブラリアン】

【ラヴァル・ツインスレイヤー】

【ラヴァルバル・ドラグーン】

【クリムゾン・ブレーダー】

【ラヴァルロード・ジャッジメント】

伏せ:2枚

 

 

 

そうして…

 

長い長い展開を終え、怒涛の展開をようやく終え。

 

ようやくそのターンを終えた、『烈火』と呼ばれし獅子原 トウコ。

 

…かつて伝説の【王者】達と共に駆け抜けし、歴戦の経験は伊達じゃない。

 

それを、目の前の巨漢へとまざまざと見せ付けるように…

 

先攻1ターン目だというのに、場に4体ものシンクロモンスターと1体の大型モンスターが並んでいるこの状況は、まさに攻めることに美学を見出した獅子原 トウコという女傑のデュエルを、華々しく飾り立てている事に違いないだろう。

 

 

 

 

「私のターン、ドロー。」

 

 

 

しかし、獅子原 トウコの怒涛の攻めを目の当たりにしても。

 

あくまでもどこまでも冷静に、カードをドローしたホトケ・ノーザン。

 

…普通、先攻の1ターン目からこれ程までに激しい展開を目の当たりにし、そして効果ダメージを受けてしまったら次の自分のターンの展開に多少なりとも迷いが生じてもいいはずだと言うのに。

 

けれども、先のダメージなど応えていないかのように。彼のこの落ち着きようは、『烈火』の展開力など取るに足らないと言わんばかりの落ち着きようにも見え…

 

 

 

「『烈火』…世界最強の攻めと言われたからどんなデュエルを行うのかと思えば…随分と不合理なデュエルをするのだな。」

「あ?なんだい、喧嘩売ってんのかい?」

「喧嘩なら当に売っているだろう?こんな状況で勝負を挑んだのだ、お互いに敵同士なのだから。」

「ハッ、それもそうさねぇ。けどアタシのデュエルを不合理だなんて、どんだけ自分に自信があるってのさ。」

「フッ、デュエルとは合理的に進めてこそ勝利へと繋がるのだよ。それを今からお見せしよう。私は【ワイトプリンセス】を召喚!」

 

 

 

―!

 

 

 

【ワイトプリンセス】レベル3

ATK/1600 DEF/ 0

 

 

 

静かに…

 

ホトケ・ノーザンの場に現れたのは、肉片すらその身に残ってはいない、骨のみとなった一族の姫であった―

 

―【ワイト】

 

それは古の時代からこの世界に存在している、効果を持たぬ弱小モンスターの名。そしてその名を冠したモンスター達で構成される、墓場に住まいし骸骨の一族であり…

 

ホトケ・ノーザンの場に現れたのは、その内の一体…骨犬愛でし溺愛を受ける、骸骨族の深層の姫。

 

 

 

「【ワイト】…随分と珍しいカードを使うじゃないさ。」

「これこそが私の合理的なデュエルに相応しいカードだ。【ワイトプリンセス】の効果発動。デッキから【ワイトプリンス】を墓地に送る。そして墓地に送られた【ワイトプリンス】の効果で、更にデッキから【ワイト】と【ワイト夫人】を墓地へ。」

「…ワイトモンスターがこれで3体…」

「いや、4体だ。【ワイトプリンセス】の更なる効果!自身を墓地に送る事で、ターン終了時までフィールドの全てのモンスターの攻守をそのレベルに応じてダウンさせる!」

 

 

 

【TG ハイパー・ライブラリアン】レベル5

ATK/2400→900 DEF/1800→300

 

【ラヴァル・ツインスレイヤー】レベル5

ATK/2400→900 DEF/ 200→0

 

【ラヴァルバル・ドラグーン】レベル6

ATK/2500→700 DEF/1200→0

 

【クリムゾン・ブレーダー】レベル8

ATK/2800→400 DEF/2600→200

 

【ラヴァルロード・ジャッジメント】レベル7

ATK/2700→600 DEF/1800→0

 

 

 

そして…骸骨達の姫が、その身を墓場へと捧げたその瞬間。

 

なんとアレだけの力を誇っていたトウコのシンクロモンスター達が、その力を吸い取られ…みるみるうちに、地面にへたり込んでしまったではないか。

 

…合理的を謳ったわりに、あまりに大胆かつ大味なデュエルの展開。

 

たった1体のモンスターの力で、よもやここまで相手モンスター全てを弱体化してしまうだなんて。ソレを目の当たりにしたトウコからしても、この戦法は少々意表を突かれたに違いなく…

 

 

 

「チィッ!何が合理的なデュエルさ!えらい大胆な手じゃないさよ!」

「フッ、少ない労力で最大の効率を。実に合理的だ。これで、1撃でも喰らえば貴女は終わりなのだから。」

「あ?まだ墓地のワイトは4体、それにキングがまだ出てな…」

「心配御無用。魔法カード、【闇の誘惑】を発動。2枚ドローし、闇属性の【ワイトキング】を除外する。そして手札の【ワイトメア】の効果発動。【ワイトメア】を捨て、除外された【ワイトキング】を特殊召喚!」

 

 

 

―!

 

 

 

【ワイトキング】レベル1

ATK/ ?→5000 DEF/ 0

 

 

 

続けて―

 

地の底より蘇るようにして這い上がってきたのは、文字通りの地位を持った骸骨の王であった。

 

―その攻撃力、実に5000

 

…そう、これぞ【ワイト】というデッキにおけるエースであり切り札。

 

その力は単純にして明解。墓地に骸骨達が眠っていればいるほどその力を上昇させるという…まさに武骨たる武勇を誇る、王の中の王にして亡者の長であり…

 

 

 

「…おいおい、こんな簡単に攻撃力5000とは…」

「少ない手数で最大の攻撃を。実に合理的だ。労力は少ない方がいい。大量展開などせずとも、勝負を決める一撃を用意すれば自ずと勝利は見えてくる。」

「ハッ、アタシとは真逆のデュエルさねぇ。もっと豪快にデッキを回したくはならないのかい?例えば【隣の芝刈り】なんか使って…」

「フッ、ランダム性に身を委ねるなど実に不合理だ。必要な時に、必要な攻撃力を、必要なタイミングで用意する。それが合理的と言うモノ。不合理を排除し、合理性を突き詰める…つまるところ、デュエルとはそういうことだろう?」

「アンタ…随分とつまんなそうなデュエルしてるじゃないさ。デュエルってのは何が起こるかわからない、何をするかわからないから面白いってのに。」

「平行線だな。こんな状況でなければ、貴女とはとことん語り合ってみたいモノだが…あいにく、今はお互いの理念を語り合っている場合ではないのでな。では行こう、バトルだ!【ワイトキング】で【ラヴァルロード・ジャッジメント】を攻撃!」

 

 

 

そして、即座に。

 

すかさずバトルフェイズへと入ったホトケ・ノーザンが、骸骨の王へと攻撃を命じて。

 

攻撃力が2700から、600にまで成り下がってしまった溶岩族の長へと…攻撃力5000もの骸骨の王がその力を増しながら迫り来るこの勢いは、迫り来るのが本当にレベル1のモンスターなのかと疑いたくなるほどの恐ろしさを醸し出しているに違いない。

 

…そう、このままでは、最初の彼の宣言の通りに。成す術なく、『烈火』が一撃の下に粉砕されてしまうではないか。

 

 

 

「そう簡単にやられるかぁ!罠発動、【パワー・ウォール】!デッキからカードを9枚墓地に送り、このダメージを0にする!」

 

 

 

…けれども、『烈火』とてそう簡単にやられるはずもなく。

 

『烈火』のデッキから、実に9枚ものカードが勢い良く墓地へと送られていくのと同時に…なんと【ラヴァルロード・ジャッジメント】とトウコの間には、見えそうで見えない波動の壁が作られていく。

 

そして、ぶつかる…骸骨の王の武骨なる拳。

 

ソレが無慈悲にも溶岩族の長を粉砕してしまったものの、そのバトルにより生じたダメージは、【パワー・ウォール】によってトウコへと届く事はなく霧散していき…

 

 

 

「流石は『烈火』、守りも大胆な手を取るのだな。」

「ハッ、また不合理なデュエルだって言いたいのかい?けど勝負を決める一撃つったって、その一撃を止められちゃどうしようも無いだろうが。だからアタシは全力で展開してんのさ。」

「なるほど、一理ある。…私はカード2枚伏せ、エンドフェイズに貴女のモンスターの攻撃力は元に戻る。ターンエンドだ。」

 

 

 

ホトケ・ノーザン LP:3000

手札:6→2枚

場:【ワイトキング】

伏せ:2枚

 

 

 

淡々と…そう、どこまでもあまりに淡々と。

 

ただただ仕事を遂行せんとする兵士の面持ちで、鋭すぎる攻撃をしかけてきた『七草』の一葉、ホトケ・ノーザン。

 

…デュエル傭兵の名も伊達ではなく。

 

そう、歴戦の猛者である『烈火』を相手に、一撃で勝負を決めかねない攻撃を仕掛けてきたその大胆勝つ合理的な精神力は…

 

並大抵の者が実行できるような戦法ではないと言うのにも関わらず、ソレをいとも簡単に押し通してきた彼のデュエルの流れはまさに無駄を省いた仕事人の流儀とも言えるだろう。

 

 

 

「アタシのターン、ドロー!」

 

 

 

そんな、初撃から一筋縄ではいかない攻撃を仕掛けてきたスキンヘッドの巨漢を前に…

 

 

 

(【ワイトキング】単騎…やっかいさね、確かにアタシに喧嘩売ってきただけはある。)

 

 

 

ホトケ・ノーザンに、ギリギリ聞こえない程度に舌打ちを奏で。

 

獅子原 トウコの心の中では、先の一撃で目の前の敵がどれだけ危ない相手なのかを嫌でも理解してしまって…

 

 

そう…合理性を謳うホトケ・ノーザンのデュエルは、淡々と進んでいるように見えるものの、実に重々しい圧を放っているのだ。

 

 

…戦闘破壊されても自己蘇生効果を持った骸骨の王を、単騎で構えてきたという事はそれだけ守りの手も少なくて済むということ。

 

何せ、あれだけ高い攻撃力を持った【ワイトキング】を戦闘破壊することは困難であり…効果破壊しようとも、エースの単騎待ちであれば必要最低限の札で事足りるのだ。

 

下手に大量のカードを使って、相手を封じ込める必要もない。全てを託せるエースを、少ないカードで守りきれば防御すら事足りる。ソレ故、付与された効果破壊耐性をリセットする為に戦闘破壊する…と言った手順すら、あの高い攻撃力の前では無意味であり…

 

戦闘破壊は厳しく、効果破壊も困難…

 

となると、取れる手は…

 

 

 

「まいったね…単騎対決は苦手だってのに…」

「何か言ったかな?フッ、まさか『烈火』ともあろう御仁が畏れを成したとは言うま…」

「ハッ!心配ご無用さ、行くよ!速攻魔法、【紅蓮の炎壁】発動!墓地の【ラヴァルロード・ジャッジメント】を除外し、【ラヴァルトークン】1体を自分フィールドに特殊召喚!そして【武力の軍奏】でシンクロ召喚した【クリムゾン・ブレーダー】はチューナーになってる!アタシはレベル1の【ラヴァルトークン】に、レベル8の【クリムゾン・ブレーダー】をチューニング!シンクロ召喚、レベル9!【灼銀の機竜(ドラッグ・オン・ヴァーミリオン)】!」

 

 

 

―!

 

 

 

灼銀の機竜(ドラッグ・オン・ヴァーミリオン)】レベル9

ATK/2700 DEF/1800

 

 

 

爆発音にも似ているであろう、獅子原 トウコの叫びと共に。彼女の場に現れたのは、灼熱を撃ち出す竜の戦車であった。

 

…それは『烈火』の異名に相応しい、赫炎の如き燃え上がる装甲。

 

そう、ターンの始めからシンクロ召喚を決めて来たと言うことは、彼女の中でどう攻めるかが確定したという事。

 

先のターンに、アレだけ激しいシンクロ展開を魅せたというのにも関わらず…まるで衰える気配のない『烈火』の叫びが…

 

炎の揺らめきのように、更に燃え上がる―

 

 

 

「早速動いてきたか…」

「ライブラリアンの効果で1枚ドロー!そんでもって【灼銀の機竜】のモンスター効果!墓地のチューナーモンスター、【ラヴァル炎火山の侍女】を除外して【ワイトキング】を破壊するよ!」

「無駄だ!罠カード、【ディメンジョン・ガーディアン】発動!【ワイトキング】に戦闘および効果破壊耐性を与える!」

「やっぱりか!だったら速攻魔法、【大欲な壷】発動!除外されている【ラヴァル炎火山の侍女】と、【ラヴァルのマグマ砲兵】2体をデッキに戻して1枚ドロー!そして2枚目の【真炎の爆発】発動!墓地から【ラヴァル炎火山の侍女】を特殊召喚!レベル6の【ラヴァルバル・ドラグーン】に、レベル1の侍女をチューニング!シンクロ召喚、レベル7!シンクロチューナー、【シューティング・ライザー・ドラゴン】!」

 

 

 

―!

 

 

 

【シューティング・ライザー・ドラゴン】レベル7

ATK/2100 DEF/1700

 

 

 

「…シューティング・ライザー?それは確か【白竜】の…」

「アタシには出来の良い教え子が居るモンでねぇ!あの馬鹿から無理矢理…じゃなかった、ご厚意を貰ったのさ!シューティング・ライザーの効果発動!デッキから【紅蓮地帯を飛ぶ鷹】を墓地に送り、シューティング・ライザーのレベルを1つ下げる!そしてライブラリアンの効果で1枚ドローし…【ラヴァル炎火山の侍女】を通常召喚!そのままレベル5のライブラリアンとツインスレイヤーに、レベル1の侍女をチューニング!」

「レベルの合計が11…これは…」

 

 

 

そして、先のターンと同様に…

 

 

いいや、先のターン以上に。

 

 

激しく燃える『烈火』のデュエルは、まるで常識という名のブレーキが壊れているのではないかと思ってしまうほどに…どこまでも加速を続けたまま、少しも止まる気配を見せず。

 

…そのまま、『烈火』の宣言のままに。

 

3体ものモンスター達が、その身を炎へと変え始め…

 

 

 

 

 

「烈火!舞い上がりて宙をも焦がす!燃える星々を喰らい尽くせぇ!」

 

 

 

響き渡るは歴戦の叫び。世界に轟くその口上。

 

それはかつて世界の頂点を争い、この世の最も高い場所から世界を見続けてきたモンスターを呼び出すために叫ばれる、誇り高き女の咆哮。

 

そう、悠久の時を経て、『烈火』と呼ばれしデュエリストの最も愛したモンスターが…

 

燃え盛る女傑と恐れられた武人の、切り札たるモンスターが…

 

 

 

 

 

今、ここに―

 

 

 

 

 

「シンクロ召喚!来な、レベル11!【星態龍】!」

 

 

 

 

 

―!

 

 

 

 

 

そして…

 

宙が、震えた―

 

それは形容でも何でもなく、確かに目に飛び込んできた現実の光景。

 

そう、曇天に広がる雲が散り、空の更に向こうから現れたのは…光輝くと太陽と、見間違う程に燃え盛った一体の龍。

 

…それは歴戦を戦い抜いた強者の姿。数多の敵を打ち崩してきた巨大なる姿。

 

宙をも焦がす星々を模した、煌々と燃え盛る巨大なる龍の姿であって。

 

 

 

 

 

【星態龍】レベル11

ATK/3200 DEF/2800

 

 

 

 

かつて、このモンスターを最初にエースとしていた男がいた。

 

獅子原 烈火―黄金世代と称されたプロの若手の中でも、時期【王者】筆頭と呼ばれたその男の活躍はそれはそれは凄まじいモノであったのだが…

 

若くしてその命を落としてしまったが為に、その男の活躍の記憶などもうこの世界の人々の記憶にはほとんど残ってはおらず。

 

…けれども、その男が生きた証を決して絶やさぬように。

 

自らを『烈火』とした、煌々たる星の龍の威光と…燃え盛る女傑の手によって、その『名』は今なお消えずに燃え上がる。

 

 

 

「これが『烈火』と呼ばれしモンスターか。なるほど、確かに相当たる圧力を放つ…しかし戦闘破壊も効果破壊も出来ぬ【ワイトキング】を前にどう動いてくるか…他のシンクロモンスターで除外でも狙うか、それとも次のターンに備えて守りを固めるつもりか。まぁ、まずは【ディメンジョン・ガーディアン】をどうにかするのが定石だがな。」

「ハッ!誰がンなコトするもんかい!アンタが【ワイトキング】に自信を持ってるってんなら…アタシは意地でも、ソイツを真正面から、バトルでブチ破ってやるだけさ!」

「…実に不合理な答えだ。」

 

 

 

すると…猛るように問いに答えた、獅子原 トウコの言葉を聞いて。

 

『七草』の一葉、ホトケ・ノーザンはどこか呆れ気味に更にその言葉を返してしまったではないか。

 

…しかし、それも当然か。

 

何せ戦闘破壊も駄目、効果破壊も駄目という、骸骨の王の高い攻撃力を前にして。それでも『烈火』は、真正面からバトルで打ち破ってみせると、そう宣言をしたのだから。

 

…それは『七草』と恐れられしデュエル傭兵の男からすれば、あまりに馬鹿げた女の妄言にも聞こえたことだろう。

 

『歴戦』に名を連ねた者らしからぬ、あまりに強情なその一本主義。確かに燃え盛る女傑と恐れられた『烈火』の、あまりに激しい攻めの凄まじさは賞賛に値するモノではあるのだが…

 

こんなデュエルを続けていては、裏世界の猛者には通用しない事は必至だというのに。

 

 

 

「ならば次のターンで私の勝ちだ。いかに名高い『烈火』と言えど、私の相手にはならなかっ…」

「なんだい、もう勝った気でいるのかい!傭兵だ何だって名乗ってても、『七草』ってのは随分と甘い連中の集まりみたいさねぇ!」

「…負け惜しみか?」

「誰が負け惜しみなんて言うもんかよ!生憎、生粋の負けず嫌いなタチでねぇ…さぁ、とくと味わいな、アタシのデュエルを!【貪欲な壷】発動!墓地の【炎熱刀プロミネンス】、【紅蓮地帯を飛ぶ鷹】、【灼熱工の巨匠カエン】、【ラヴァルの炎車回し】、【クリムゾン・ブレーダー】を戻して2枚ドロー!…よし!3枚目の【真炎の爆発】を発動ぉ!墓地からラヴァル・ランスロッドとツインスレイヤーを特殊召喚するよ!そのままレベル5のツインスレイヤーに、レベル6となったシューティング・ライザーをチューニング!シンクロ召喚、レベル11!【星態龍】!」

 

 

 

【星態龍】レベル11

ATK/3200 DEF/2800

 

 

 

「…2体目だと?」

「まだまだぁ!手札から【ラヴァル・コアトル】を特殊召喚し…レベル9の【灼銀の機竜】に、レベル2のコアトルをチューニング!」

「…これは…」

 

 

 

しかし、そんな『七草』の一葉の言葉を遮るように。

 

決して止まらぬ勢いのまま、『烈火』たる獅子原 トウコはその炎圧を更に増し続ける。

 

…三度空へと舞い上がりしは、合計『11』のレベルの同調。

 

そう、それだけ不合理だと言われようとも。己のデュエルを貫き続ける『烈火』の叫びが、どこまでも消えぬ灯火を燃やしながら…

 

 

 

 

「烈火!舞い上がりて宙をも焦がす!燃える星々を喰らい尽くせぇ!シンクロ召喚、レベル11!【星態龍】!」

 

 

 

―!

 

 

 

【星態龍】レベル11

ATK/3200 DEF/2800

 

 

 

 

普通であればありえない。レベル11という、最上級にも数えられるシンクロモンスターが3体も場に揃うことなど。

 

…それは『烈火』と呼ばれし女傑の、恐るべき展開力が成せる御業とも呼べるだろうか。

 

その攻撃力、実に3200―

 

そう、3200もの攻撃力を持ったシンクロモンスターが、3体も場に勢揃いしたのだ。1体だけでも他の追随を許さぬほどの体躯を誇る星の龍が、既にトウコの場には3体。

 

空を覆うのではないかと思える程に、巨大に燃える星の龍たち。そんな、生半可なデュエリストでは揃えることすら困難な完成された場に…星々の龍が、燃える咆哮を轟かせていて。

 

 

 

「【星態龍】の3体連続シンクロ召喚だと?…フッ、噂通りの馬鹿げた展開力だ。だが合理的には程遠い。いくら『烈火』を3体並べたとはいえ、【ワイトキング】の攻撃力には届かない…攻撃力が中途半端に高いだけの、実に不合理なモンスターだ。」

「…アンタ、友達居なそうさねぇ。不合理不合理って…デュエルってモンを心から楽しめた事、一度でもあるのかい?」

「無論、あるとも。私にも友は居る…5年前にデュエリアの地で戦った、ダ・イーザ使いのとある少年…戦いの中で理解しあえた、私のかけがえのない唯一の友だ。」

「あ?ダ・イーザ使いのって…ハッ、唯一の友がガキだってのか。」

「フッ、歳の差など気にならない程に理解し合えたのだよ。ホムラ少年の『ダ・イーザ』と私の『ワイトキング』のぶつかり合いは…私も、年甲斐もなく熱くなれたものだ。」

「ッ、焔………ダ・イーザ使いの、焔…ねぇ。まさか、ここでその名を聞かされるとは。」

 

 

 

そして…どこか感慨深げに言葉を漏らした、ホトケ・ノーザンの言葉を聞いて。

 

心の底から意を突かれたかのように、不自然に息を零した獅子原 トウコ。

 

それは今のデュエル傭兵の漏らした名が、彼女にとってあまりに意外すぎる名前だったことの証明とも言えるだろうか。

 

…いや、トウコだけではない。

 

祖母の背に守られるようにして、今までこのデュエルを安全圏から眺めていたサウス校1年の獅子原 炎馬も…

 

『七草』の零したその名を聞いて、あまりに驚いている顔を見せているではないか。

 

 

 

「ば、ばあちゃん…ダ・イーザ使いのホムラって…も、もしかして…」

「悪いね炎馬、今はそれ所じゃないさよ!それよりアンタ…随分アタシと【星態龍】を舐めてるみたいだけど…それならその体に教えてやるさ!アンタが中途半端だって言い放った【星態龍】の攻撃力をねぇ!魔法カード、【シンクロ・ギフト】発動!【星態龍】1体の攻撃力を0にして、【ラヴァル・ランスロッド】の攻撃力を【星態龍】の攻撃力分…つまり、3200アップする!」

 

 

 

【ラヴァル・ランスロッド】レベル6

ATK/2100→5300

 

 

 

けれども、今はデュエルの最中。

 

この切羽詰った状況においては、戦意以外の感情に囚われてしまう事がどれだけ危険なのかを知り尽くしている獅子原 トウコだからこそ…

 

再度孫をその背に隠し、今一度戦いへとその意識を戻し始める。

 

…発動されしは、シンクロモンスターの力を自軍へと分け与える譲渡の魔法。

 

 

力の集約、炎圧の収束―

 

 

【星態龍】の誇る、素の攻撃力3200という凄まじい数値が炎となりて溶岩族の槍使いへと与えられ…

 

 

 

「ほう、攻撃力5300…」

「まだまだぁ!2枚目の【貪欲な壷】を発動!墓地のヴァーミリオン、ツインスレイヤー、侍女3体を戻して2枚ドロー!…よし、来たよ!2枚目の【シンクロ・ギフト】発動!2体目の【星態龍】の攻撃力を0にして、【ラヴァル・ランスロッド】の攻撃力を更に3200アップさ!」

「これで攻撃力8500…しかし、伏せカードを全く気にしないとはな。」

「ハッ!どうせまた【ワイトキング】を守るカードなんだろ?だったらンな逃げ腰の伏せカードなんかもうどうでもいいさよ!…アタシは逃げに回るなんて真っ平御免さ。モンスターが正面衝突でぶつかり合うことこそデュエルの真髄に決まってるからねぇ!」

「不合理な…貴方こそ攻撃力上昇しか仕掛けてこないが、相手を弱体化させる手などは考えないのか?」

「おうとも!誰がンな事するもんかよ!敵の全力を、真正面から意地でも超えてやるのがアタシのデュエル!敵が攻撃力を上げるなら…アタシは意地でもその上を行ってやるだけさ!」

「ふむ、やはり不合理な答えだが…これは…」

「そうさ!これで【ワイトキング】の攻撃力とアンタの残りLPは超えた!そんでアンタの【ワイトキング】は戦闘破壊されず、出来たとしても蘇るが…そんならアンタがさっきやったように、『一撃』で敵をブッ飛ばせば済む話!ランスロッドの攻撃でアンタは終わりなのさ!バトル!【ラヴァル・ランスロッド】で、【ワイトキング】を攻撃ぃ!」

 

 

 

敵の場に伏せられた、最後の伏せカードには目もくれず。

 

これまでのデュエルの流れから、ホトケ・ノーザンが『除去』や『カウンター』と言った一般的な手よりも…

 

【ワイトキング】を守りきる手を重視すると見抜いた『烈火』だからこその、怒涛の展開が火を噴き続けて。

 

―攻めることこそ美学なり。

 

いかなる逆境も、攻めなければ覆せないことをその身で体現してきた女傑の叫び。その咆哮が炎となりて、更に激しく燃え上がるのか。

 

そのまま…

 

…下手に守ることを良しとせず、あくまでも攻めきることを己の主義に。

 

意地でも美学を貫く女傑の、あまりに強情な炎が化身となりて…2体の『烈火』より力を授与された溶岩の槍士が、骸骨の王へと襲いかかり…

 

 

 

 

 

しかし…

 

 

 

 

 

「だが攻撃力対決は私に分がある!攻撃宣言時に罠カード、【アームズ・コール】発動!」

 

 

 

迫り来る溶岩の槍士の猛りを邪魔するように。

 

ホトケ・ノーザンが発動を宣言したのは、【ワイトキング】を守るためのカードではなく…『装備魔法』をデッキから呼び出すという、一風変わった罠カードであった。

 

…いや、このカードもある意味では、【ワイトキング】を守るためのカードとなり得るのか。

 

何せこれは、デッキから『装備魔法』を直接自分のモンスターに装備できるという、使いどころが難しい罠カードではあるのだが…

 

 

 

「なっ、【アームズ・コール】だって!?」

「私が妨害に重きを置かないことを見抜いた目は流石だが…状況に応じた装備魔法を発動できるこのカードこそ我が合理的デュエルの要!私がデッキから手札に加える装備魔法は、【孤毒の剣】だ!」

 

 

 

自分の好きなタイミングで、デッキに眠る『任意の装備魔法』を装着できるというその合理性の名の元に。

 

この状況に最も適したと傭兵が判断したのは、他者を寄せ付けぬ『毒』を発する孤高なる一本の剣であり…

 

 

 

「ッ、そ、ソイツは!」

「いくら『烈火』と言えど、私に攻撃力で勝負を仕掛けるなど笑止千万!【アームズ・コール】の効果により、手札に加えた【孤毒の剣】を【ワイトキング】に装備!そしてダメージステップだ!【ワイトキング】の攻撃力はダメージ計算時に…元々の『倍』となる!」

 

 

 

【ワイトキング】レベル1

ATK/5000→10000 DEF/ 0→0

 

 

 

「攻撃力1万だって!?」

「返り討ちだ、【ワイトキング】!ナイトメア・ゴッドフィスト!」

 

 

 

―!

 

 

 

「ぐあぁぁぁぁぁぁぁあ!」

 

 

 

獅子原 トウコ LP:4000→2500

 

 

 

骸骨の王の武骨なる拳骨が、巨大化した溶岩族の突撃槍を思い切りぶん殴る―

 

…その攻撃力、実に10000。

 

そう、【ワイトキング】の上昇した攻撃力は『元々の攻撃力』扱い…【孤毒の剣】の効果によって、倍まで膨れ上がった攻撃力の凄まじさをそのまま骨の拳へと乗せて。

 

そのまま殴り飛ばされた【ラヴァル・ランスロッド】は、欠片も残さずに塵となって粉砕されてしまったではないか。

 

 

 

 

 

また、それだけではなく―

 

 

 

 

 

 

「がっ…あ…くっ…な、なんだこりゃ…」

「ッ、ばあちゃん!」

 

 

 

【ラヴァル・ランスロッド】が粉砕され、その衝撃がダメージとなりて獅子原 トウコを襲うのか。

 

それはまるで、実際に骸骨の王に殴られたかのような打撃の衝撃であり…

 

―いや、実際に『そう』なのだ。

 

そう、この竜巻に囲まれた島で行われているデュエルは、全て実体化しているデュエル。

 

それは【裏決島】が始まる前に【紫影】が宣言した通りの、無慈悲なるも躱すことのできない絶対の決まりであり…

 

しかし、あらかじめ【紫影】に説明という名の一方的な宣言を受けていた学生達と違って、突然島に現れていきなり戦いに巻き込まれた獅子原 トウコからすれば。

 

突如として実体化したダメージが襲い掛かってきたその衝撃は、実際の数値よりも更に鋭いモノだったに違いなく…

 

 

 

「ばあちゃん!だ、大丈夫か!?」

「ぐっ…さ、騒ぐんじゃないさよ…これっぽっち、屁でもないさね…」

「なるほど、アレだけの実体化したダメージを受けても倒れぬか。流石は女傑と呼ばれていただけのことはある。」

「ッ…女はねぇ、男より痛みに強いのさ…それより…実体化したダメージだって?」

「今頃気付いたのか?この島で行われるデュエルは全て実体化している…ダメージも、それ相応のモノとなって襲いかかるのだよ。」

「…」

 

 

 

ソレ故…実体化した1500ものダメージと相まって。

 

先ほどまでの昂ぶりが、一瞬の陽炎だったかのように…爆炎にも似た先ほどまでの『烈火』の戦意が、どこか鎮火されたかのようにその勢いを落とし始めてしまったではないか。

 

…そう、強がっていても、意図せずして襲い掛かってきた殴打にも似た衝撃は常人に耐え切れるモノではないのだ。

 

たかが1500のダメージとは言え、相当の衝撃が体の内部を襲ったのだろう。少々青白くなっているトウコの顔がソレを物語っており…粗くなった呼吸が、見るからに内蔵へのダメージを表しているのだから。

 

 

 

「いくら『烈火』とて、攻撃力1万のモンスターなど早々お目にかかれるモノではないだろう?」

「…ハッ!その程度の攻撃力なんざ、夏休みに嫌ってほど見てきたよ…【強欲で貪欲な壷】を発動…デッキを10枚裏側除外し2枚ドロー…チッ、【サイクロン】発動、【孤毒の剣】を破壊する…」

「フッ、一手遅かったな。」

「ぐっ…ア、アタシはカードを1枚伏せて…エンドフェイズに【星態龍】達の攻撃力は元に戻る…ターンエンドさ。」

 

 

 

獅子原 トウコ LP:4000→2500

手札:4→0枚

場:【星態龍】

【星態龍】

【星態龍】

伏せ:2枚

 

 

 

強がってはいるものの、見るからにダメージを負っている様子の獅子原 トウコ。

 

確かに夏休みに、天城 遊良とともに鍛えてやったイースト校の高天ヶ原 ルキのおかげか、高い攻撃力のモンスターの攻撃は『烈火』とて見慣れてはいるとは言え。

 

それでもその攻撃力を1万まで上昇させた骸骨の王が、実体化してぶつかってくる経験など『烈火』をもってしても皆無だったのだろう。

 

いや、そんな非現実的な経験など、例え歴戦の『烈火』でなくとも体験した者の方が少ないことなのだが…

 

ともかく、手札を使いきるまで展開をし、そうして作り上げた決定打をこうも簡単に返され…あまつさえ迎撃によってダメージまで受けてしまった『烈火』の心内は、果たしてどれだけの焦燥に塗れてしまっているというのか。

 

 

 

「私のターン、ドロー!」

 

 

 

しかし、そんな『烈火』を意に介さず。

 

ただただ淡々とドローを行い、デュエル傭兵の増えた手札が更に『烈火』へとプレッシャーを与えてくるばかりであり…

 

 

 

「さて、後は私の持てる最上の一撃で【星態龍】葬り去るのみ。ソレが『烈火』たる貴女への礼儀だ。」

「…アンタこそ、アタシの伏せカードを無視すんのかい?」

「フッ、破壊をトリガーとする罠の可能性もあるのだ。ならば伏せカードの除去に重きを置くよりよりも、【ワイトキング】を除去から守った方が合理的だとは思わないか?…まぁ、展開力に振り切った貴女のことだ。どうにか【孤毒の剣】を破壊したとは言え、【ディメンジョン・ガーディアン】を破壊できなかったことと、私との相性と貴女のデッキタイプから考えても…この場に見合った守りの手など、もう用意できてはいないのだろう?」

「ぐっ…」

「図星か。ならばこれでデュエルは終わりとなる。【おろかな埋葬】を発動。デッキから【ワイトプリンス】を墓地へ送り、その効果で最後の【ワイト】と【ワイト夫人】を墓地へと送る!」

 

 

 

【ワイトキング】レベル1

ATK/5000→8000

 

 

 

更に墓地へと送られし、骸骨族の王子によって。

 

骸骨の王の攻撃力が、更に上昇の一途を辿り始める。

 

…レベル1のモンスターが、ここまでの攻撃力を誇ることなど、普通に考えればあってはならないこと。

 

けれども、そんな常識に囚われぬ者だけが辿り着ける境地によって…

 

実にその攻撃力をデュエリスト2人分の命の数値までパワーアップさせた骸骨の王が、その骨身を鋼鉄よりも更に硬いモノへと造り変えていくではないか―

 

 

 

「攻撃力8000…」

「先ほどのターン、貴女は【星態龍】を3体も出す必要は無かった。だが自らの力を過信し、驕り、無駄に派手な展開をした所為で貴女の手札は0でデッキは残り僅か…しかし裏腹に、私の【ワイトキング】は破壊耐性を備え攻撃力は合理的に8000…勝負あったな。」

「ッ…」

 

 

 

見くびっていた―

 

今の『烈火』の表情は、勢いで戦いを受けたものの裏社会の猛者の力を見誤っていた自分を、今更になって後悔しているかのよう。

 

…垂れる冷や汗、引いていく血の気。

 

まさか、意気揚々と受けた戦いで負けるのか―

 

己のプライドと、背に隠した孫の安否と…己の無力と、夫の仇と。そんな入り混じった感情が、焦りとなりて『烈火』の表情へと出てきており…

 

 

 

「やはりデュエルは合理的な者が勝者となるのだ。…では改めて名乗ろう。私は『七草』が一葉、ホトケ・ノーザン。覚えておきたまえ、貴方を倒す男の名だ!バトル!【ワイトキング】で【星態龍】を攻撃!」

 

 

 

迫り来る骸骨の拳―

 

それは実にデュエリスト2人分の命を消し飛ばすほどの轟きを纏いて、歴戦の『烈火』へと襲い掛かるのか。

 

躱せない、逃げられない、避けられない…

 

決して逃れられぬ一撃が、悪夢の如し威力を纏いて【星態龍】へと襲いかかり…

 

 

 

そして―

 

 

 

 

 

「『烈火』よ、砕け散れ!ナイトメア・ゴッドフィスト!」

 

 

 

 

 

 

 

その、迫る威圧を前に―

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「…ありがとうよ、真正面からぶつかってきてくれて。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『烈火』はそう、呟いた。

 

 

 

 

 

 

 

「罠カード、【反転世界(リバーサル・ワールド)】発動!」

 

 

 

―!

 

 

 

一瞬…

 

そう、瞬きよりも短い一瞬の後に。

 

『烈火』の場に発動されたのは、たった1枚の罠カードであった―

 

それは攻守を上げるとかダメージを軽減させるだとか、そういった類のカードでは談じてない。

 

攻撃力と守備力を入れ替えるという…あまりに使いどころが難しい、そしてあまりにトリッキーな罠カードなのだが―

 

 

 

 

 

「何!?リ、【反転世界】だと!?」

「そうさ!【反転世界】の効果により、全ての攻守は逆転するよ!」

 

 

 

【ワイトキング】レベル1

ATK/8000→0 DEF/ 0→8000

 

【星態龍】レベル11

ATK/3200→2800 DEF/2800→3200

 

【星態龍】レベル11

ATK/3200→2800 DEF/2800→3200

 

【星態龍】レベル11

ATK/3200→2800 DEF/2800→3200

 

 

 

しかし、今この状況においては。

 

ソレはトリッキーで使い所が難しいどころか、この状況にこそピッタリと当てはまるカードとさえ思える程の輝きを放っているではないか。

 

反転せし世界のうねり…その不快感すら覚える歪みが、一瞬で全てのモンスターの攻守を入れて変えてしまう。

 

すると、このカードを発動した『烈火』へと。『七草』の一葉、ホトケ・ノーザンが焦燥と共に言葉を漏らす。

 

 

 

「馬鹿なッ!れ、『烈火』よ!相手の攻撃力を、正々堂々真正面から意地でも超えるのが貴女のデュエルではなかったのか!?」

「ハッ!言ったっけかねぇンなこと!」

「なっ!?」

「綺麗に引っかかってくれてありがとよ!何せ『七草』クラスを相手にするには、こんな引っ掛けも必要だからねぇ!おかげでアンタは馬鹿正直に正面から向かって来た…デュエルに美学を持った奴ほど、決着を美しく仕上げたいモンだからね!」

「ぐっ…」

 

 

 

けれども、そんなホトケ・ノーザンを意に介さず。

 

悪びれもなく、罪悪感もなく、してやったりの表情で…

 

先ほどまでの『焦り』の表情はどこへやら。今の『烈火』の顔は、文字通り悪戯が成功した子どものように晴れやかに澄み渡っているではないか。

 

あれだけ拘っていた真正面からのぶつかり合いを、こうも簡単に捨て去って。トリッキーな攻防へと、戦いのステージを変化させた獅子原 トウコの轟きが…

 

先ほどよりも更に強い戦意となりて、モンスター達を飲み込んでいく。

 

 

 

 

 

…そう。

 

 

 

 

 

何も『烈火』は、単純なる『攻撃力』のみの突貫で歴戦に名を連ねたのではない。

 

『攻めることこそ美学なり』―

 

その理念は、単純な攻撃力のぶつかり合いにあらず。

 

複雑な攻防の果て、重なり合う効果の向こう…そんな、幾重にもぶつかり合った応酬を超えてもなお相手に競り勝ち、そして生き残るのが『烈火』の掲げる美学。

 

…単純な『攻撃力』のぶつかり合いによる、正面衝突のデュエルだけでは歴戦に名を連ねることは出来ない。

 

―瞬間的な爆発力ならば、エクシーズ王者【黒翼】がいる。

 

―永遠に終わらぬ激震ならば、王者と同格の『逆鱗』がいる。

 

―知略に長けた先見ならば、元シンクロ王者【白鯨】がいる。

 

けれども、そんな歴戦のデュエリスト達を差し置いてもなお獅子原 トウコが『世界最強の攻め』と謳われているのは、何が起こっても、そして相手がどれだけ千差万別の戦術を取ってきても、最後の最後に彼女が競り勝ってきたからに他ならないのだ。

 

…長きに亘るプロの世界の戦いにおいて、千差万別の戦術のその全てに競り勝ってきたなど【王者】にだって不可能な事。

 

それでも、複雑怪奇な一つの攻防において『烈火』が遅れを取ることなどありえない。だからこそ【王者】やソレと『同格』の者達を持ってしても、彼女には頭が上がらないと言われており…

 

…それは恐ろしいまでの女の度胸と、決して躱せぬ女の直感。

 

勝てば官軍、『本当の強さ』…ソレが何なのかを、獅子原 トウコは知っている。きっとデュエルという争いにおいて、『何』が正々堂々で何が正義なのかをこの世で最も知り尽くしているのは、この獅子原 トウコという女性なのではないか。

 

 

 

「ダメージと迎撃で戦意を削がれてしまったのではないのか!?た、確かに勝負を諦めた顔を…」

「ハッ!誰が諦めるモンかよ!覚えておきなぁ…女ってのは、生まれついての役者なのさ!」

 

 

 

そう、もし先のターンに、トウコが【星態龍】の展開を3体ではなく2体に留め、次のターンへの準備や守りの手を増やしていたら。ホトケ・ノーザンは、絶対にここまで『烈火』への警戒を緩めることはなかったことだろう。

 

…それは大きすぎる注意の穴。しかして絶対に気付く事など出来ないであろう、巧妙に隠された演技の罠。

 

攻撃力対決に拘ったのも。不合理で無駄だと言い放たれた展開をやめなかったのも。伏せカードを無視して攻撃をしかけたのも…

 

全てはホトケ・ノーザンという、自分の美学を持ったデュエリストに、この一撃を喰らわせるため。

 

 

…その為には、注意を逸らす番外戦術や視線誘導さえもいとわない。

 

 

それは『勝利』という、デュエルにおける唯一つの正義に向かう為に。どこまでも貪欲に『攻め』続ける彼女の強さは、単純なるぶつかり合いには収まりきらないほどに千差万別かつ縦横無尽となり得るのであり…

 

 

ソレ故…

 

 

いかなる状況からでも、『勝利』へと向かって攻め立て続ける彼女のことを、世界はこう呼び恐れているのだ。

 

 

 

 

 

王座を燃やす女武人、燃え上がる戦いの鬼…

 

 

 

 

 

決闘学園サウス校理事長、天下に轟く燃え盛る女傑―

 

 

 

 

 

『烈火』―

 

 

 

 

獅子原 トウコ―

 

 

 

 

 

「ッ、だがまだ私のLPは…」

「いいや、これで終わりさよ!ダメージステップ開始時にリバースカードオープン!速攻魔法、【イージーチューニング】発動!墓地のシューティング・ライザーを除外し、【星態龍】の攻撃力を…2100アップする!」

 

 

 

―!

 

 

 

【星態龍】レベル11

ATK/2800→4900

 

 

 

逆立つ―

 

トウコの赤みがかった、短く切りそろえられた茶色い髪が。

 

炎の如く―日の光に反射し、まるで本物の炎のように揺らめき立ち始めるトウコの髪。

 

それはまるで炎髪…

 

獅子原の血を持つ猛者が本気を出した時にのみ見られるその現象は、まさに古の時代から受け継がれし獅子原家の盟約が成せる、まさしく獣の血が成せる御業であって。

 

 

 

「攻撃力4900!?」

「アタシの名前を覚えておきなぁ…獅子原 トウコ!アンタを倒す女の名さ!やれ【星態龍】!【ワイトキング】を迎撃ぃ!」

 

 

 

 

もしもトウコが、先のターンまでに戦術を切り替えて攻め方を変えてしまっていたら。

 

きっとホトケ・ノーザンは、より一掃警戒心をより強め…その後にトウコが仕掛けてくるであろう、逆転への一撃を最大限に警戒してしまっていたことだろう。

 

何せホトケ・ノーザンの謳う合理的なデュエルは、相手の出方に合わせてその動きを柔軟に変化させる事が出来るのだ。先ほど彼が発動した【アームズ・コール】だってそう。トウコの動きに合わせ、【孤毒の剣】ではなく状況に応じた『装備魔法』を装着させることだって、彼は出来たのだから。

 

…しかしソレは、あくまでも対応出来る手を揃えていた場合の話。

 

そう、『七草』の一葉であるホトケ・ノーザンが、『烈火』のデュエルをプロの時代まで全て遡って調べ上げてきていたら。今この場における、獅子原 トウコというデュエリストの行った戦法に、少なからず違和感を抱けたことに違いないと言うのに…

 

攻撃力の対決にこだわり、意地でも相手モンスターの攻撃力を『正攻法』のみで超えようとしている…その、あまりの不自然さを。

 

…しかし、ホトケ・ノーザンはソレを知らなかった。

 

彼が知っていたのは、世界に名を馳せる『烈火』というそのビッグネームと、『烈火』と呼ばれる【星態龍】の印象のみ。そう、獅子原 トウコという、歴戦のデュエリストのその深い内面までは調べる時間もなかったのだ。

 

獅子原 トウコの掲げる『攻め』の真髄を、ホトケ・ノーザンは知らなかった…

 

ソレ故…トウコの出方を見誤り、己の美学に乗っ取り勢い余って攻撃を仕掛けてしまった今の彼には…もう、この状況で取れる手立てなど微塵も残されてはおらず。

 

 

 

ただ、それだけのこと―

 

 

 

 

だから、こそ―

 

 

 

 

 

「蹴散らせぇ!星痕のぉ…グランド・ノヴァァァァァァア!」

 

 

 

 

 

―!

 

 

 

 

 

「ぐぉぉぉぉぉぉぉぉお!」

 

 

 

 

ホトケ・ノーザン LP:3000→0

 

 

 

―ピー…

 

 

 

煌々と燃える星々の龍の、惑星すら消し飛ばす紅の炎弾―

 

それが攻撃力8000から一気に0へと転落してしまった骸骨の王を、一撃の下に消し飛ばすのか。

 

それは【ワイトキング】のみならず、主であるホトケ・ノーザンをも飲み込む巨大なる爆炎となりて…

 

無機質な機械音と共に、この海岸に鳴り響くのだった―

 

 

 

 

 

 

 

―…

 

 

 

 

 

 

 

「アンタがデュエルに美学を持った男で助かったよ。…なりふり構わない奴だったら、アタシももっと手を焼いただろうからね。」

「ぐっ…」

 

 

 

デュエルが終わった直後―

 

爆炎が消え、焦げた大地に横たわる『七草』の巨漢へと向かって…

 

『烈火』は静かに声をかけたものの、その言葉は賛辞というよりは『甘さ』を見せたデュエル傭兵に戒めを与えているかのような声となりて、『七草』の一葉、ホトケ・ノーザンへと届けられていた。

 

…傭兵らしく、防炎加工の施された兵装を着込んでいたのだろう。

 

【星態龍】の一撃により、大地が焦げ周囲の木々がなぎ倒されていたものの…意識を保ち、未だ起き上がろうとする意思を見せるのは、デュエル傭兵の名に恥じぬタフさとも言えるだろうか。

 

…しかし、全力の一撃に凄まじいカウンターを喰らった衝撃は計り知れず。

 

焦げた地面に手を突き、混濁しかける意識の中でふらつきながら上半身をどうにか持ち上げるホトケ・ノーザンの姿は、見るからに痛々しい敗者の姿にも見え…

 

しかし、そんな敗者を意に介さず。

 

更に『烈火』は、慈悲無く言葉を続ける。

 

 

 

「…一つ教えろ。あと何人の『七草』がこの島に居る?『七草』が、1人だけ雇われたってこともないだろうからねぇ。」

「…3人。」

「さんっ…チッ、面倒さね…犯罪者だけでもガキ共には荷が重いってのに、その上『七草』があと3人も居るとは…」

 

 

 

ホトケ・ノーザンから聞き出したその情報に、思わず苦い表情を見せる獅子原 トウコ。

 

とは言え、それも当然であり…

 

最後の攻防において、壮絶なカウンターによって『七草』を倒したとは言えども。

 

歴戦のデュエリストである『烈火』を持ってしても、今の勝利は簡単に手に入ったものではなく…触れれば終わりという骸骨の王のプレッシャーの中で、ギリギリの攻防を凌いで掴み取ったモノだったのだから。

 

…『七草』と呼ばれる、7人のデュエル傭兵たち。

 

その力の一端は凄まじいの一言であり、ここに倒れているホトケ・ノーザン1人を例に出しても、およそ学生レベルや生半可なプロでは立ち向かうことすら許されずに、成す術なく蹴散らされてしまうだけ。

 

…己の美学を貫きながら、これほどまでに危険なデュエルを仕掛けてくる尋常ではない力の持ち主。

 

『烈火』が勝てたのは、ただ相性が良かっただけ…いや、相性など決して良くはなかったが、『烈火』の誘導が上手くはまって最後の最後の攻防で獅子原 トウコがギリギリで競り勝っただけ。

 

ソレを履き違えるほど、獅子原 トウコという女傑は事態を甘くは見ておらず…

 

ソレ故、こんなレベルの裏社会の猛者が最低でもこの島にまだ3人も残っているという事態は、歴戦のデュエリストたる『烈火』を持ってしても危機的状況だということを感じずにはいられないのか。

 

そんな『烈火』は、騒ぎを聞きつけた新たな敵が群がってくる前に。孫を連れ、この場を立ち去ろうとしてホトケ・ノーザンへと背を向け始め…

 

 

 

「…」

 

 

 

…しかし、一体何を思ったのか。

 

『烈火』はこの場を立ち去る前に、再度『七草』の一葉へと振り向いた。

 

 

 

「…あぁそうだ、もう一つ…アンタ、子供達を何人襲った?」

「…1人も…私の目的は、たった1人の少年だけだ…それ以外を襲うのは…私の主義ではない…」

「ハッ、そうかい。…随分と甘いんだねぇ『七草』ってのは。」

「…フッ…私だけ…だがな…」

「まっ、いいだろ。アンタの真っ直ぐなデュエルに免じて…アンタのその主義、一応信じてやるよ。…だから一個教えてやる。デュエルの最中にアンタが言ってた、ダ・イーザ使いの『ホムラ少年』って子のことだがねぇ…それ、煉獄園 焔のことだろう?」

「ッ!?ぐっ…あ、あぁ、そうだ…我が友、ホムラ少年…た、確かに煉獄園家の嫡子だが…な、なぜ貴女がソレを…」

「ソレ、アタシの孫さよ。」

「なっ!?」

 

 

 

…獅子原 トウコの放った言葉が、あまりに衝撃的であったのか。

 

失いかけたその意識を、驚きと共に鮮明なモノへと蘇らせた『七草』の1人、ホトケ・ノーザン。

 

 

…それも当然か。

 

 

何せ、たった今『烈火』が孫と言った少年の持つ『名字』は、この世界に生きる者ならば知っていて当然…いや、知っていなければならない程に恐れ多い『名字』であったのだから。

 

それは、先ほどのデュエルの最中にホトケ・ノーザンが零した、年の離れた『友』の名でもあり…

 

 

煉獄園 焔―

 

 

この世界における三大貴族のうちの一つ。『白桜院』、『天津間』に並ぶ…『煉獄園』の名前を持った、相当たる地位を確約された少年の名。

 

三大貴族…それはこの世界の支配者的階級に位置する、上位の血筋の名の一つ。

 

政界、財界、決闘界…多岐に渡るこの世界の本筋において、その特権を思うがままにしている、雲の上に住む上流階級の者達の総称。

 

その三大貴族においても、特にその名が世界中に幅広く知られている『煉獄園家』の、その嫡子を『烈火』は今確かに『孫』と、そう言い放ったのだ。

 

 

…普通であれば、三大貴族の血筋を持った人間と親類ということなど、恐れ多くて言葉にすることすら憚られること。

 

 

まぁ、歴史にその名を刻んだプロデュエリストである『烈火』においては、三大貴族など恐るるに足らずと言ったところなのだが…

 

 

 

「煉獄園家に嫁に行った、アタシの一番下の娘の子どもさ。…アタシの…15人の孫の1人。」

「な………フッ、ハハ…世界は狭いな…しかし…納得した…彼が『烈火』の孫だったとは…道理で、あの歳でアレだけの才覚を見せたわけだ…か、彼は、今どこに…私は、彼と戦いたくてこの仕事を…」

「…死んだよ。」

「………は?」

「4年前にね。…事故、だそうだ。『アタシでさえ』それ以上は知らされてない…ソレがどういう意味か、理解できないわけじゃないだろう?」

「な…ば、馬鹿な!私と戦った1年後じゃないか!そんな…馬鹿な…」

 

 

 

続けられた『烈火』の言葉が、あまりに衝撃的だったのか。

 

確かに耳にいれつつも、ホトケ・ノーザンの表情は信じがたい事実を聞いたかのように…みるみるうちに、その表情が焦燥に包まれていくではないか。

 

 

 

「第一、あの子が生きてたらとっくに高等部卒業してる歳さ。【決島】に出てくるわけないだろう?」

「…おかしいと…思っていたんだ…アオト少年もテツ少年もプロになっていたのに…トーリ少年とアイナ嬢はまだ学生…プロになっていなかったから…もしかしたら彼も【決島】に出るのではないかと…だから、私は…」

 

 

 

…それは、本気でショックを受けているかのような面持ち。

 

ポツリ…ポツリと…言葉を漏らす巨漢の意識は、衝撃により覚醒したにも関わらず再度ドロ沼の中に沈みかけていくのか。

 

三大貴族の少年と、裏社会のデュエル傭兵が『友』であったという事だけでも信じがたい言葉ではあるのだが…

 

けれども、裏世界の男がこれ程のショックを受けているというその不自然なりし現実は…彼が、確かにその煉獄園 焔という少年と友であったという証明でもあるのだろう。

 

…限界ギリギリの意識の中で零される言葉には、嘘はつけない。

 

ソレを、長い人生の経験から知っている獅子原 トウコだからこそ。自分の孫の1人と友人であったと言う裏社会のデュエル傭兵の言葉も、一応は信じるに値する言葉として聞き入れているのだろうか。

 

そんな、悲観的な現実を突きつけられたであろう『七草』の一葉、ホトケ・ノーザンへと向かって…

 

『烈火』は続けて、どこか呆れたように…

 

 

 

「はぁ…大の男が仕方ないねぇ…その情けない姿に免じて、もう一個教えてやるよ。」

「な、なにを…」

「…アタシも、孫の死を『事故』で片付けられたことに納得出来てなくてね。小龍を締め上げ…じゃなかった、劉玄斎学長の手を借りて調べたんだが…あの子は…孫はね、命を賭けたデュエルで仲間を救ったんだとさ。…そのおかげで、今も生きてるガキ共がいる。孫1人の犠牲で…大勢のガキ共が、ね。」

「命を賭け…………は、はは…そ、そう…か……仲間を救うために…はは…勇気に溢れた…優しい…実に彼らしい、最期だ…そうか…実に、合理的な…」

「ハッ、随分あの子の事を知ってるみたいだねぇアンタ。孫のことを…よく、わかってくれてるじゃないか。」

「…当たり、前だ…任務とは言え、僅かの間、教鞭を取っていたのだ…そうか…我が友は、もう…」

 

 

 

そう言って…デュエルで受けたダメージのせいか。

 

焦げた地面に横たわったまま、ホトケ・ノーザンはその意識を…

 

静かに、手放したのだった―

 

 

 

そして―

 

 

 

「…ばあちゃん、今の話って本当なのか?焔兄ちゃんが死んだのって…事故じゃなくて、命を賭けてって…」

「炎馬、今言ったこと全部忘れな。焔のことはアンタには関係無…」

「ばあちゃん!」

 

 

 

いつどこから敵が現れるか分からないというのに、いてもたってもいられないと言わんばかりに。

 

徐に、祖母へと向かってその若すぎる声を張り上げてしまった獅子原 炎馬。

 

…当然だ。

 

何せ名字が違うとは言え、身分が違うとは言え。獅子原家と深い繋がりを持った、『焔』という一人の少年の『死』は今なお獅子原家の人間にも大きなダメージを与えているのだから。

 

獅子原の…『烈火』の血を受け継いだ、才能溢れる愛すべき従兄弟…

 

身分の違いなど気にすることもなく、家族のように…いや、実際に家族として、短い人生を親族達と共に過ごして来た少年、『煉獄園 焔』。

 

それは偏に、三大貴族すら敬意を払う歴戦のデュエリスト、『烈火』たる獅子原 トウコの持つ威光の大きさもあったのだが…

 

それでも、そんな従兄弟である彼とは炎馬も歳が近かったというだけあって、そして姉と同い年であったと言うこともあって、これまで特に近い場所で過ごす機会が多かったのだ。

 

そんな愛すべき従兄弟の死は…まだ幼かった炎馬にとっても相当にショックを受けた出来事だった。

 

だからこそ、今まで知りもしなかった従兄弟の死の真相を、突然知ってしまった炎馬からすれば。祖母から『忘れろ』と言われたところで、『はいそうですか』と納得できるはずもなく。

 

 

 

「…わかったわかった。アンタがもっと大人になったらちゃんと教えてやるさよ。だから…他の親族には言うんじゃないよ?…特に、煉獄園の方にはね。」

「…約束だぞ。俺だって焔兄ちゃんが死んだの、未だにショック受けてんだから。俺だけじゃない。姉ちゃんも、親族みんなも…今も、引きずってる。」

「あぁ、アタシもさ…けど、今はそんなコトでグダグダしてる場合じゃないってことも…わかっておくれ。」

「…うん。」

 

 

 

…それはここでは語られぬ、過去にあった別の誰かの物語にて語られる出来事。

 

現代よりももっと前…過去にデュエリアで起きた『事変』に関連した、闇に隠された非現実的なる確かな現実。

 

…しかし、今この場で起こっている『事態』においては、ソレは本筋から外れた話になってしまうために。

 

『烈火』もまた、これ以上は話をするつもりのない事を孫へと伝え。そして、今成すべき事をハッキリさせるために…

 

 

 

「さて…炎馬!何があったのか説明しな!」

「あ、う、うん…【紫影】って奴が…」

 

 

 

この、あまりの危機的状況を素早く把握するために。

 

渦中にいた孫へと、この状況を説明させるのだった。

 

 

 

「【裏決島】…なるほどねぇ。【紫影】…あの屑ヤローが…またこんな悪さするとは…」

「あれ、そういえば…ばあちゃん、島の外に居たんじゃなかったっけ。どうやって来たんだ?」

「ハッ、泳いできたに決まってんだろ?」

「およっ!?は?え、だって、あの竜巻が…」

「あぁ、とりあえず竜巻に突っ込んでから考えようとも思ったんだけどね。でも急にディスクが光ったと思ったら、【星態龍】が飛び出してきて竜巻突き破ったのさ。…今思えば、島に近づいたから実体化したんだねぇアレは。結果オーライって奴さねぇ、ハッハッハ。」

「…め、めちゃくちゃだ…なんでそんな危ないこと…」

「あ?ンなモンお前たちを助けるために決まってるさよ。」

「…」

 

 

 

にわかには信じがたい、けれども信じなければ説明も出来ない事を、さも当然の様にして言い放ってくる獅子原 トウコ。

 

先ほどの『炎髪』のせいか、全身ずぶ濡れになっていたはずのトウコの体は、既に水滴の一滴すらも残ってはおらず…

 

…しかし、祖母が口より手が先に出るほどの短気だと言う事は、孫である炎馬も知っていたとは言え。

 

島の外がどうなっているのかなど知らない炎馬からしても、祖母のあまりに危険かつ短絡的な直情行動は一歩間違えれば自ら命を捨ててしまう行動となっていたのだから…

 

そんな危ない行動を後先考えずに取った祖母に対し、思わず苦い顔を零した炎馬の表情もまた、祖母の身を案ずる孫の顔と言えるのだが。

 

…まぁ、あそこでトウコが助けに来てくれなかったら、炎馬は今頃犯罪者デュエリスト達に負けて攫われていたのだから。一概に、祖母のとった危険かつ短絡的な直情行動は孫とて一方的に咎める事など出来はしないのだが。

 

ともかく…

 

 

 

「ばあちゃん、なんでそんなに落ち着いていられるんだ?俺、まだよく分からなくて恐いってのに…」

「ハッ、充分驚いてるよ。けど慌てふためくのを後に取っておいてるだけさ。今は…ソレどころじゃないからねぇ。」

「後に取ってるって…意味わかんねーよ…」

「それより大体理解したよ。行くよ炎馬、ついておいで!」

「え、行くってどこにだよ!」

「決まってんだろ?【紫影】のとこさ!頭を叩けば終わるんなら…アタシが、ヤツを倒すだけさ!」

 

 

 

迅速かつ的確に。

 

今この島で起こっていることを即座に飲み込んだ『烈火』の、そのあまりに早い状況適応が行動を起こそうとして…

 

未だ混乱が続いているであろう孫を他所に、トウコは島の内部へと踏み入ろうとその足を前へと進め始めたではないか。

 

…【裏決島】、実体化したデュエル、人知を超えた竜巻の壁に、裏決闘界の刺客とその黒幕である【紫影】。

 

普通、こんな意味のわからない事が連続している状況に突然放り込まれれば…頭が理解することを拒んでしまうことは必至であり、常人であればこの状況を一片たりとも理解することなど出来ないはずだというのに。

 

それでも歴戦の経験か、はたまた人生の引き出しか…または、その両方を持ってして『烈火』は孫への説明も後に、海岸を背にして森の中へと踏み入っていくのみであり…

 

 

 

そして―

 

 

 

「あの屑野郎は…アタシが、この手で…」

 

 

 

歩みを続ける祖母の口から零された、その聞いた事もないあまりに冷たい声に…

 

 

 

炎馬は、一抹の恐怖を感じるのだった―

 

 

 

 

 

 

―…

 

 

 

 

 

 

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