遊戯王Wings「神に見放された決闘者」   作:shou9029

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ep95「竜胆」

いつだって思い出してしまうのは、震えて泣いていた母の姿。

 

どうして、自分達だけがこんなにも不幸なのか―

 

そんな思いを常に抱いていた少女の脳裏に焼きついて離れないのは、他人に傷つけられて悲しい顔をしていた母の姿であり…

 

 

 

『…なんでみんな私達をいじめるの?』

 

 

 

…幼いながらに、母に聞いた事がある。どうして、自分達は周囲に嫌われているのか…と。

 

何もしていないのに。誰も傷つけていないのに。周囲の人間は自分達家族に石を投げ、言葉をぶつけ、生きている事すら強い言葉で否定されたこともあった。

 

そう、少女の記憶の中には、誰かに何かをした覚えも無いのに…どうして、何故か、一方的に、周囲に嫌われている自分とその家族が物心付いたころからそこには存在していたのだ。

 

煌びやかな世界とはかけ離れた、ゴミ溜めのような暗い世界に閉じ込められていると言うことにだって疑問を抱ける年齢ではないというのに…

 

それでも、理由も無く傷つけられ続けることに対し。少女は、母がこんなにも悲しい顔をし続けているのかがどうしても気になったのだろう。

 

父を知らず、母と兄と3人で、世界の裏側にひっそりと隠れるようにして…

 

そうやって逃げ隠れするようにしてこれまで生きてきた幼い少女にとっては、理由もわからないのにどうして自分達だけが、そして母がこんなにも周囲から傷つけられるのかがどうしても理解できず…

 

そんな少女へと、母が言った言葉はこう―

 

 

―『…ごめんね…ごめんね…』

 

 

…ただ、それだけ。

 

涙を流しながら、声を震わせながら。

 

優しく抱きしめてくれた母が、こんなにも哀しんでいると言うことに…驚きを感じつつも、同時にとても悲しくなってしまったのを、少女は覚えていて。

 

…そう、その時にようやく幼い少女は気が付いたのだ。

 

涙を流し、崩れ落ちながら自分を抱きしめ震えている母を見たその時に初めて…自分の人生が、『普通』ではなく『異常』なのだという事に―

 

ゴミ溜めのように暗く、汚い社会の裏側の生活。

 

それは物心付いた時からソレしか知らない少女にとっては、ある意味『普通』の事ではあったのだろう。

 

けれども、一度ソレが『異常』なのだという事を理解してしまっては…最早、何故自分達がこんな生活を強いられているのか、そして何故周囲の者達が自分達家族を傷つけるのかが。ソレが、どうしても少女には納得が出来ず…

 

 

そうして…

 

 

暗く汚い社会の隅で、母は死んだ。

 

それがいつ頃のことだったのかすら、まだ暦すら理解していなかった少女の記憶は曖昧で。

 

病気だったのだろう。汚い小屋のような場所で、冬を越せずに野垂れ死ぬようにして…母はある日、事切れてしまっていたのだ。

 

その、なんともあっけない母の最後を見て…最早少女は、涙も出なかったことを良く覚えている。

 

当然、この生活を最初から『異常』だと知っていた兄もそう。母の骸を前に、少女の横に立ちながら、涙も枯れ果てたような濁った目で…

 

 

 

―『見返したる…俺らを馬鹿にした奴等を、全員ぶっ飛ばして…そんで、謝らせてやるんや。』

―『…どうやって?』

―『強ぉなるしかない…デュエルで強ぉなって…【王者】になるんや。俺が…お前を守らなアカンのや…』

―『…そう。』

 

 

 

そう、誓った―

 

 

それは母のような人生を歩みたくはないという、凄惨な人生を生きてきた子ども達が誓った濁った決意。

 

けれども、純粋に力を求めるという…ある意味で最も子どもらしい、頑固なまでの純粋な決意。

 

 

だから、力を磨いた。母が残してくれた、『この名』が受け継いできたというデッキと…この名が受け継いでいかなければならないという『眼』を頼りに、向かってくる敵の全てに牙を剥き。

 

だから、命を繋いだ。母のような、暗く汚い社会の裏側で野垂れ死なないように、何をしてでも少女と兄は生き延びた。

 

 

暗く汚い世界で、誰にも知られずに死ぬのだけは絶対に御免なのだと…ソレも全ては、かつて『名家』とまで呼ばれ繁栄を極めた『この名』を、地の底よりも更に下にまで貶めたある男の所為。

 

 

母が苦しんだ原因。自分達がこんな目に遭っている原因―

 

 

いつしか…

 

 

生きる事に必死になり続けた少女と兄の心には、母の命を奪った原因、自分達が苦しんだ原因となった…

 

もうこの世には居ない元凶たる男への…

 

 

 

それはそれは深い…深い深い、深い深い深い深い深い深い深い深い恨みが宿っていたのだった―

 

 

 

 

 

 

 

―…

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「…はぁ…暇ですねぇ…早く終わらないものですかねぇ、えぇ。」

 

 

 

岩肌に囲まれた、デュエルドームほどの広さを持ったどこかの空間でのこと。

 

そのだだっ広い空間の、中央に造られた台座のようなモノに寄りかかりながら…

 

 

―裏決闘界の融合帝、【紫影】は静かに言葉を漏らしていた。

 

 

それは【決島】を地獄へと変え、【裏決島】と称して学生達を地獄に叩き落した張本人とは思えない…あまりに無気力な態度と姿と、あまりに無意識なる外への興味。

 

 

―自分でこの地獄を作り上げたというのに、この興味の無さは一体何なのか。

 

 

一体、何が目的でこんなことを…先程学生達の前に姿を見せた【紫影】の態度と、今の誰にも見られていない【紫影】の態度は全く別物。

 

それは先ほど学生達に見せていた、恍惚の表情で外道な言動をしていたあの狂人染みた態度が始めから嘘だったかのような…いや、先ほどの態度と今の態度、そのどちらが『嘘』なのかなど、【紫影】本人以外には絶対に誰にも理解出来ないことではあるのだが…

 

 

ともかく…

 

 

外ではいまだ学生達が阿鼻叫喚の地獄を奏でているというのにも関わらず、そしてソレを巻き起こしたのが自分だと言うのにも関わらず。

 

他に誰にも見られていないからか、今の【紫影】の姿と態度は…いつも他人に見せる胡散臭さのみの捻じれた笑みでは断じて無く、外の地獄になど全く興味が無いかのような無気力な表情をしており…

 

 

 

「さて、『七草』で【白鯨】をどれだけ足止めできますかねぇ。もって2時間…いえ、1時間半がいいとこでしょうか。…それまでに間に合えばいいんですけど、えぇ。」

 

 

 

彼から零された言葉は、今この島で起こっている犯罪者達による学生の襲撃など、微塵も重要なコトではないかのようにして何やら別の事を考えている様子にも見える代物。

 

この洞窟のようなだだっ広い空間の中央…何かの儀式に使いそうな造りをした、その台座に力なく寄りかかり…

 

 

 

…【紫影】が今いるのは、『竜巻』吹き荒れる島の、そのさらに『中心』。

 

 

 

外で繰り広げられる喧騒から、どこか隔離されているかのような静けささえ滲み出ている、島の中央に位置する休火山の中腹…

 

いや、中腹などではない。正真正銘、山の胎内と言ったほうが正しいとさえ思える、そこは文字通り山の内部、体内、胎内と言える、岩肌に囲まれた広い空間…

 

 

 

『大空洞』―

 

 

 

しかし、【紫影】が今現在居る『この場所』は紛れも無く、昨日の予選時にイースト校の天城 遊良とデュエリア校のアイナ・アイリーン・アイヴィ・アイオーンが戦った場所ではないか。

 

そう、ほんの少し前に、『ここ』で激しい戦いが行われていたかのような大空洞の岩肌に刻まれた戦いの傷跡は…あまりに真新しく、それでいてあまりに生々しい深い爪痕であるのだ。

 

ソレは紛れも無く、【紫影】が今居るこの『大空洞』が、昨日に遊良とアイナが戦っていた場所と同じ空間であると言う事の証明であり…

 

 

―けれども、高天ヶ原 ルキの『神』の解放を賭けて戦った後、激しい音を立てて崩れ落ちてしまったはずだと言うのに。

 

 

そうだと言うのに、今の『大空洞』の様子は崩落など少しも起こった様子も無い、まるで遊良とアイナが戦っていたときの状態そのまま。

 

まぁ、その真実を知る者などこの場には【紫影】以外に居ないのだから、この場に聞き手が居ない以上は【紫影】とて誰に説明するまでもなく当たり前のように『大空洞』の中で立っているだけなのだろうが。

 

 

…下手なデュエルドームよりも広いと思える空間の、天上に空いた穴から注ぎ込む自然光だけが岩肌の空間で広がり、散り、暗いはずの空洞内を照らしているこの空間。

 

 

ここが【決島】の中であることだけは確かなものの、島のあちこちで掻き鳴らされている犯罪者達の蹂躙の音が、一切聞こえてこないこの異様な空間。

 

そんな『大空洞』の中心で、ただ一人立っている『捻じれた男』の表情は…

 

 

 

「…」

 

 

 

ただただボーっとその場に無気力に立っているだけであり、まるでこの地獄を巻き起こした張本人とは思えぬほど、にその顔からは罪悪感も高揚感も感じられないモノとなっていた。

 

…どこまでも退屈そうに、どこまでも気怠そうに。

 

こんな地獄を作り上げた者が、こんなにも外の地獄に興味を見せないという事など、あってはならないことだと言うのに。

 

まるで、自分には全く関係のない事のようにして…一体何を待っているのか、ただただボーっと台座に寄りかかって暇を持て余しているだけ。

 

 

…時間を持て余し、暇を持て余し。

 

 

何の目的を持ってこの捻じれた男がこんな事をしでかしたのか。それすらも不明瞭なままで、【紫影】はただただ無気力に大空洞の天上を仰いでいるだけであり…

 

 

 

そうして…

 

 

 

一つのあくびを漏らした後に、本当に何もやることがないのか再度【紫影】が虚無に包まれそうになった…

 

 

 

 

 

その時だった―

 

 

 

 

 

「…おやぁ?ようやく最初のお客様ですか。」

「…」

「ふふっ、おめでとうございます。貴方が到着者第1号ですねぇ。さぁ、どうぞこちらへといらしてください、えぇ。」

 

 

 

一転…

 

そう、今まで浮かべていた無気力な雰囲気から一転。

 

『誰か』の気配が大空洞に現れたと察知した瞬間に、表情も言葉も雰囲気も、己の何もかもを即座に一転させて、ようやく普段通りの『捻じれた男』へとその身を変貌させ始めた【紫影】。

 

…それは、この『大空洞』に誰かが近づいてきている気配を察知したからなのか。

 

『大空洞』の外へと繋がる洞窟のような通路へと、徐に声をかけ始め。この『大空洞』に到着した、一人の侵入者を手招きするように…

 

 

 

そして…

 

 

 

【紫影】に声をかけられた者が、狭い洞窟の通路から姿を現した…

 

 

 

そこには―

 

 

 

「…【紫影】…見つけた…本物の…【紫影】…」

 

 

 

大空洞に現れたのは、儚く気怠げな1人の少女であった―

 

それはこの地獄のような【裏決島】では、到底生き残ることなど出来ないとさえ思える程に華奢な体付き。

 

風に揺れる白髪が、彼女の雰囲気をより一層気怠く儚げなモノと変えている…

 

 

 

―決闘学園ウエスト校3年、竜胆 ミズチ

 

 

 

「おやおやぁ?随分と意外な方が1番乗りでいらっしゃいましたねぇ。えぇと…学生さんですか?ふふっ、よくぞここまで1人で来られましたねぇ、それも貴方のような少女が、えぇ。」

「…」

「ふむ…貴方、決勝には出ていませんでしたよね?それなのに、誰よりも早くここまで来られたとは少々驚きました。一体、あれだけの数の敵をどうやって…」

「…隠れるのは得意なの。そうやって、生きてきたから。…でも、流石に数が多かったから、3人と戦ったわ。」

「それでも無傷…ふふっ、いいですねぇいいですねぇ、決勝に出ていないとは言え、中々いい筋してますねぇ貴方。」

 

 

 

誰よりも早くこの大空洞へと辿りついたであろうミズチに対し、どこかミズチを小馬鹿にしているかのような態度と雰囲気でありつつも…

 

それでも、確かに無傷でここまでたどり着いたミズチの事を、多少なりとも認めているかのような言葉を漏らした、裏決闘界の融合帝、【紫影】。

 

…それは【紫影】からしても、まさか大空洞に一番に現れたのが決勝にも出ていなかった少女であったと言うことを意外と思っているからなのか。

 

阿鼻叫喚と化している島の中を、ほとんど見つからずにここへとたどり着いたそのステルス性は言わずもがな。

 

ピンキリとは言え、学生レベルでは到底太刀打ち出来ない実力を持った裏決闘界の者達を…3人も相手にしてもなお傷一つ負わずにここへとたどり着いたというだけでも、この場に一番に現れた少女の力が学生レベルを当に超えたモノとなっていることを、【紫影】もまた理解したのだろう。

 

そして…

 

 

 

「しかし、どうして私がここに居ることを?私の居る場所、ノーヒントなんですけどもねぇ。」

「…山の中に、黒いのが見えたから…」

「ほ?それはどういう…」

「…私には視えるから。そういうのが…」

「はぁ…そうですか…よくわかりませんが……まぁいいでしょう。…さて、私を見つけた貴方には選択肢があります。一つは私と戦うこと。もし私を倒せたら…ふふっ、【裏決島】は、見事あなた方学生達の勝利となります。そしてもう一つは…ここまで来られる力を持った貴方を歓迎いたします。どうでしょう、我々の仲間になりませんか?貴方のような実力を持った子ならば、裏決闘界でも特別な待遇をご用意いたします。力さえあれば、金も命も…何でも、貴女の思うがままに…」

「…いらない。私が望むのは唯一つ…貴方の、死…」

「………」

 

 

 

どこまでもあまりに胡散臭い、【紫影】からの問いかけにミズチが『そう』答えたその瞬間―

 

なんと【紫影】は、先ほどまで抱いていた少女への興味を…凄まじくわかりやすく急転落させて、見るからに面倒くさいと言わんばかりの顔をし始めたではないか。

 

…ソレは、ミズチの放った言葉が【紫影】にとってはあまりに聞き飽きた脅し文句だったためか。

 

先程のテンションから一転。【紫影】は胡散臭い表情から、どこまでも面倒臭いと言わんばかりの表情を醸し出し始め…

 

 

 

「あぁ、貴方、『そっち』の方でしたか…それはそれは、ご苦労様ですねぇ、えぇ。」

「…貴方の所為で私も兄さんも…それに、母さんがどれだけ苦しんだか…だから【紫影】、貴方は、私が殺さないといけないの…私が…」

「はいはい、飽き飽きなんですよねぇ本当に。口を開けば『殺す』、『許さない』、『罪を償え』、『謝罪しろ』…私を恨んでいる者は本当に同じ事ばかり言う。復讐の殺意なんてもう浴び飽きてるんですがねぇ…」

「…」

 

 

 

【紫影】の口から発せられるは、反省の色からは真反対の代物。

 

しかし、明確な敵意をぶつけられ、明確な復讐心からくる殺意を中てられていてもなお…どうしてこの男は全く悪びれる様子もなく、自らの悪行をこれっぽっちも反省する色を見せないのだろうか。

 

…どんな人生を送ってくれば、嬉々として悪行を重ねるこんな男が出来上がるのか。

 

自分へと向けられる他人からの殺意も敵意も、自分には関係ないのだと言わんばかりの無責任な態度を崩さず。

 

まるで、自分の起こした悪行が『悪いことでは無い』かのように振舞い続けるこの男の態度は、どこまでも被害者達を馬鹿にし続ける代物でしかないというのに…

 

ソレ故、誰にも理解出来ないであろう【紫影】のこの悪びれもせず飄々とした態度は、【紫影】への恨みを持つ人間が見ればきっと我を忘れて怒りのままに襲い掛かるに違いなく…

 

 

 

 

 

 

しかし…

 

 

 

 

 

 

 

「まぁいいでしょう、一応聞いてあげますよ。それで、貴方は私に誰を殺されたんですか?家族ですか?友ですか?まぁ貴方の歳ですから、親かそれ以上の…」

 

「…竜胆(りんどう) 蛇蝎(だかつ)。」

 

「ッ!?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

初めて…

 

 

 

 

 

 

そう、この時初めて―

 

興味を無くしたかのような表情から再度一転…

 

まるで、心の底から驚いた様子の表情へと、その顔を再々度変化させた裏決闘界の融合帝、【紫影】。

 

しかし、それは今【紫影】が聞いた、『誰を殺されたのか』という問いに対する答えなどでは断じて無く…

 

 

 

 

 

「貴方…どこでその名を…」

「…私の名前、竜胆 ミズチ…母の名は、ウワバミ。」

「ウワバッ!?………あぁ…ふ…ふふっ…そうですかぁ…そうだったんですかぁ…貴方…いえ、貴女はウワバミの…ふふふ…なるほどなるほど、それはそれは…ふ、ふふっ…でしたら、確かに『貴女だけ』は私を殺してもいい理由を持っていますねぇ…えぇ…」

 

 

 

そしてミズチが、何やら自らの名と、そして何故か『母』の名を【紫影】へと告げると。

 

徐に、【紫影】は不気味に笑いながら『そう』呟き始め…

 

…それは、自らの罪を全く他人事のように吐き捨てていた先程の【紫影】の言葉とは180°方向が向き変わった言葉。

 

そう、他人を殺したと言うのに悪びれもせず、寧ろソレを嬉々として語っていた屑の態度とは正反対…まるで、自らの『罪』を認めているかのような【紫影】の言葉。それが、ウエスト校3年の竜胆 ミズチという少女へと向かって、ゆっくりと吐き出され始めたではないか。

 

…しかし、【紫影】は何故ミズチからの殺意だけを受け止める気になったのだろうか。

 

なにせ、この島にはまだ【紫影】を心から殺したがっている者が他にも居るはずだというのに…

 

…そう、【紫影】はとうの前から感じている。島の中から、自分へと向けられている、巨大な『炎』のような殺意があるということを。

 

いや、感じているというよりは、無視していても感じてしまう程に大きな殺意がこの島の中で更に大きくなり続けていると言った方が正しいだろうか。

 

何せ、徐々にこの『大空洞』へと近づいてきているその『炎』のような殺意。それはよほどの実力を持った者が、よほど大きな恨みを【紫影】へと持っているが故に発せられる文字通り地獄の『炎』のような恨みなのだろう。

 

けれども、徐々にこの大空洞に近づいてきている、『炎』のような強大な殺意を感じていてもなお…

 

そんなモノなど、どうでもいいかのように…そう、目の前の少女以外から向けられている他人からの殺意など、『どうでもいい事』のように言い捨てながら。

 

ミズチから告げられた『名』と、竜胆 ミズチという少女への興味のみを表面上へと浮かび上げつつ…

 

 

 

…【紫影】は、不気味に笑うだけ。

 

 

 

 

 

「いいですねぇ…いいですねぇ、面白いですねぇ!いいでしょう、まさかこんな面白いことが起こるなんてサプライズでしたねぇ。ふふっ、生き返った甲斐がありました…でしたら、尚更貴女の相手をしてさしあげなければ。」

「…容赦はしない…貴方は…私が、殺さないと…」

「えぇ、えぇ、もちろんですとも!貴女にはその権利がある、貴女にはそうしなければならない理由がある!ふふふ…恨めしいでしょうねぇ、憎いでしょうねぇ、この私が…ふふ…ふふふ…」

 

 

 

ミズチと【紫影】、二人の間に交わされる言葉には一体どんな意味が込められているのか。

 

【紫影】に恨みを持つ少女と…少女に殺されるだけの理由を持つ【紫影】。

 

果たして、ソレらがどういった意味を持っているのか。しかし、ギャラリーの居ないこんな『大空洞』では、そんな事を疑問に思えるような無粋な輩は存在すらしておらず…

 

 

こんな、誰も知らない場所で。

 

誰にも、見られていない戦いが…

 

 

 

 

 

―デュエル!!

 

 

 

 

 

 

今、始まる。

 

 

 

先攻は裏決闘界の融合帝、【紫影】。

 

 

 

「私のターン!モンスターをセットしてターンエンドでぇーす!」

 

 

 

 

【紫影】 LP:4000

手札:5→4枚

場:セットモンスター1体

伏せ:なし

 

 

 

デュエルが始まってすぐ。

 

あまりに少ない動作だけで、そのターンを終えた裏決闘界の融合帝、【紫影】。

 

それは、手札が悪かったからこれしか取れる行動が無かった…

 

とう言うことでは断じてないと言う事が、捻じれた【紫影】の不気味な笑みから誰の目にも明らかな程に…あまりに不気味に、ミズチへと向けられる。

 

 

 

「ふふ…さぁーて、チャンスですよぉ?特別大サービス、千載一遇…まーさーに絶好の機会!私は今、手札事故起こしちゃいましたからねぇ。もしここで、貴女が私のLPを削りきれるだけの展開が出来れば…速攻で貴女の勝利が決まります、えぇ!」

「…そう。」

「おや、嬉しくないんですか?こんなチャンス、100年に一度あるかないかの…」

「…私のターン、ドロー。」

 

 

 

しかし…そんな【紫影】を意に介さず。

 

ただただ静かに淡々と、デッキからカードをドローしたミズチ。

 

こんなにも胡散臭い【紫影】の雰囲気と、あまりに不気味な【紫影】の佇まいに対し…怯む事も無い彼女の姿は、あまりにも肝が座った学生らしからぬ立ち姿と言えるだろうか。

 

…ミズチの持つ、【紫影】への恨み。

 

こんな儚く気怠げな少女が持つには、あまりに大きすぎる怨嗟の炎が目に見える程に…

 

そのまま、ミズチは手札から1枚のカードを取ると…

 

 

 

「…【捕食植物オフリス・スコーピオ】召喚。その効果で、手札からモンスター1体捨ててデッキから【捕食植物ダーリング・コブラ】を特殊召喚。」

 

 

 

―!!

 

 

 

【捕食植物オフリス・スコーピオ】レベル3

ATK/1200 DEF/ 800

 

 

【捕食植物ダーリング・コブラ】レベル3

ATK/1000 DEF/1500

 

 

 

「ほぅ、【捕食植物】…なるほどなるほどぉ…これは確かに、ウワバミの娘だと言うのも間違いなさそうですねぇ、えぇ。」

「…ダーリング・コブラの効果発動。デッキから【融合】を手札に加える。…そのまま【融合】を発動。ダーリング・コブラとオフリス・スコーピオを融合。」

 

 

 

ミズチの頭上に現れる、禍つ揺らめく神秘の渦。

 

それは竜胆 ミズチという少女が持つ、『融合』のEx適正によって導かれる特殊なる召喚の特別なエフェクトであり…

 

ミズチの呼び声によって、異なるモンスターが混ざり合いここに現れるは…

 

 

 

「…融合召喚、レベル7、【捕食植物キメラフレシア】。」

 

 

 

―!

 

 

 

【捕食植物キメラフレシア】レベル7

ATK/2500 DEF/2000

 

 

 

現れたのは、凶暴化した毒花の一房。

 

禍々しく蠢くその姿は、まるで牙もつラフレシア。それも意思を持って巨大化した、獲物を貪り喰らう花の化物が、今にも【紫影】へと襲いかからんと滴りを零し…

 

植物であるにも関わらず、意思を持ち獲物を喰らう、紛れも無い捕食者側に立ったモンスターであって。

 

 

 

「まずは一体…さて、どんどん召喚してきてくださぁい?上手く行けば、このターンで私を倒せるかもしれま…」

「…バトル。キメラフレシアでセットモンスターに攻撃。」

「ほ?」

 

 

 

そして―

 

【紫影】の意表を突くかのように、毒花の一房へと攻撃を命じた竜胆 ミズチ。

 

そのまま、キメラフレシアがセットモンスターへとその太い蔓を鞭の如く撓らせ打ち鳴らし…

 

 

 

「セットモンスターは【シャドール・ヘッジホッグ】。リバース効果発動。デッキから【影依融合】を手札に加えまぁす。」

「…カードを1枚伏せてターンエンド。」

 

 

 

竜胆 ミズチ LP:4000

手札:6→3枚

場:【捕食植物キメラフレシア】

伏せ:1枚

 

 

 

そのまま、反転した影の針鼠を意識することもなく…

 

【紫影】へと傷を負わせることもなく、ミズチは今、静かにそのターンを終えたのだった。

 

 

 

「私のターン、ドロー。…貴女、やけに慎重ですが…もしかして、意気込んできた割りには相当恐がってます?まぁ、その気持ちも分からなくもありませんが…貴女のような少女が、1人で私に挑むなんて無謀も無謀ですからねぇ、えぇ。」

「…別に。」

「ふふ、隠さなくても大丈夫ですよぉ?折角の忠告を無視して、私にダメージを与えることなくターンを終えたのがその証拠…更に融合召喚していれば、このターンで貴女は勝てていたと言うのに。」

「…」

 

 

 

すると、ターンが移り変わってすぐに。

 

儚く気怠げなミズチを煽るように、棘のある言葉をミズチへと投げつけた【紫影】。

 

それは、どこまでも竜胆 ミズチという少女を下に見ているという、緩みきった【紫影】の歪んだ気分が口に出ていると言うことなのだがろうが…

 

…しかし、【紫影】の言った通り。

 

【紫影】のセットモンスターは、場に影響を与える事の無い【シャドール・ヘッジホッグ】であったのだから、更に展開していればこのターンに【紫影】のLPを0に、もしくは大ダメージを与えられていたというのに。

 

…恨んでいる人間を前にして慎重になっているのか、それとも復讐心だけが先行して自身の気持ちがついて来ていないのか。

 

まぁ、いくらミズチが学生レベルを超えている力を持っているとは言え、そしていくらその見た目から感情を読み取ることが出来ないとは言え…

 

彼女もまだ18歳という、うら若き少女であるのだから、【裏決島】という惨状を巻き起こした張本人を前に、多少なりとも恐れを感じていたとしてもソレはある意味当然とも言えるのだが…

 

 

 

「…無駄。どうせこのターン、ダメージは通らなかったから。」

「ほ?」

 

 

 

けれども…

 

どこまでも苛立ちを覚えそうな、【紫影】の言葉をその耳に入れても。

 

ミズチはどこまでも冷静なまま…

 

 

 

「…貴方、手札に【バトルフェーダー】を持ってる。だから、ダイレクトアタックしても無駄。」

「随分な自信ですねぇ。何故そこまで言い切れ…」

「…私には『視える』って言った。言葉の通り…貴方は、『この意味』をわかってるはず。」

「…」

 

 

 

裏決闘界の融合帝を前にしてもなお、恐れも無くそう断言するミズチの言葉。

 

それはミズチの『眼』に、常人では視えないモノが見えているが故の自信なのか…

 

…果たして、竜胆 ミズチには『何』が見えているのか。

 

そんなこと、見えざるモノを見通す『眼』を持った竜胆 ミズチ自身にしかわかりえぬことではあるのだろうが…

 

しかし、ミズチの持つその『眼』に対して『何か』を知っている風な【紫影】が、その捻じれた口を閉ざした様子から考えれば。彼女の言ったことが、紛れも無い本当のことなのだという事は誰の目にも明らかであると言えるだろう。

 

…そう、普通であればありえない。見えないはずの相手の手札を、カード名ごと断言することなど。

 

そして、これまでの竜胆 ミズチにもこんな芸当など出来なかったはずではあるのだが…

 

しかし、ソレを疑わせぬ異様な重圧を放ち始めている今の彼女。そう、もしきっかけがあったとすれば。昨日の【決島】の予選の時、イースト校2年の天宮寺 鷹矢とのデュエルが彼女にとっての分岐点だったのだろう。

 

その証拠に、彼女の『眼』が昨日ほどとは行かぬまでも、少々大きめに見開かれ始め異様に光りつつ…

 

 

 

「何を言っているんですかねぇさっきから。貴女の言ってることはよく理解できませんねぇ、えぇ。」

「…苛立たせようとしても無駄。貴方の命を取るまで、私は油断しない。」

「…はぁ、可愛げがありませんねぇ。少しくらい右往左往してくれた方が可愛げを感じますのに。…まぁいいでしょう、魔法カード、【影依融合】発動。デッキから【シャドール・リザード】と【ペロペロケルペロス】を融合。融合召喚、レベル10!【エルシャドール・シェキナーガ】!」

 

 

 

―!

 

 

 

【エルシャドール・シェキナーガ】レベル10

ATK/2600 DEF/3000

 

 

 

それでも、そんなミズチからの殺気を躱すかの様に。

 

【紫影】の場に現れたのは、巨大なる要塞に縛り付けられた巨大なる操り人形のモンスターであった。

 

 

―【シャドール】

 

 

それは影に囚われた者達の魂が反転し、操り人形へと姿を変えてしまったモンスター達の総称。

 

多種族達を影へと引きずり込み、深淵の融合にて混ざり合い…

 

闇を齎す影の如き、混沌なりし力を持ちて。世界の終焉を呼び覚まさんと、不気味に漂い光を覆う。

 

 

 

「さぁて、行きますよぉ?墓地に送った【シャドール・リザード】の効果発動!デッキから【シャドール・ドラゴン】を墓地に送りまぁす!そして【シャドール・ドラゴン】の効果も発動!貴女の伏せカードを1枚、破壊しちゃいまーす!」

「…破壊される前に罠カード、【捕食計画】発動。デッキから【捕食植物コーディセップス】を墓地に送って、【エルシャドール・シェキナーガ】とキメラフレシアに捕食カウンターを置く。」

「ふふっ、でしたら続けて魔法カード、【融合】発動!手札の【シャドール・ビースト】と【バトルフェーダー】を融合!」

「…【バトルフェーダー】を?」

「どうせバレてるのなら使わせてくれないでしょうから、持っていても意味ないですからねぇ。さぁ、現れなさい!融合召喚、レベル5!【エルシャドール・ミドラーシュ】!」

 

 

 

―!

 

 

 

【エルシャドール・ミドラーシュ】レベル5

ATK/2200 DEF/ 800

 

 

 

―更に、続けて。

 

【紫影】の場に現れたのは、少女の姿を模したような…奇怪な竜の背に立った、影の操り人形の1体。

 

まるで世界の終焉を呼んでいるかのようなその姿は、見る者全てに恐怖を与え…

 

 

 

「【シャドール・ビースト】の効果で1枚ドロー!…ふふっ、【エルシャドール・ミドラーシュ】が居る限り、お互いに1度しかモンスターを特殊召喚出来ません。そしてミドラーシュは効果では破壊されない…更に更にシェキナーガは、相手がモンスター効果を発動したらソレを無効にして破壊できる!これでキメラフレシアは効果を使えませんねぇ…貴女のような華奢な少女が、この実体化したデュエルにどれだけ耐えられますかねぇ、えぇ。」

「…」

「では行くとしましょう!【ドーピング】をミドラーシュに装備してバトルフェイズ!ミドラーシュで、キメラフレシアに攻撃ぃ!」

 

 

 

―!

 

 

 

「…ッ!」

 

 

 

ミズチ LP:4000→3500

 

 

 

襲い来るは500のダメージ。しかして大きな針が刺さったような、鋭い痛みがミズチを貫く。

 

そう、影に囚われし人形から放たれた、紫の閃光がキメラフレシアを一瞬の内に貫き消し去ったのだ。

 

そしてミズチへと襲い掛かる、ソリッド・ヴィジョンではない実体化した本物の衝撃の余波。

 

…それは、たかだか500のダメージとは言え。

 

リアル・ダメージルールの時とは比べ物にならない程に痛みを増した、この実体化したデュエルの衝撃は容赦なくダメージを受けた者へと襲いかかり…

 

…そのまま、間髪入れずに。

 

続けて、影の人形要塞がその砲門を開き始める。

 

 

 

「…このくらい…」

「ほう、この程度ではまだ声を上げませんか…しかしコレではどうでしょう!【エルシャドール・シェキナーガ】でダイレクトアタック!」

「…させない、直接攻撃宣言時、手札から【捕食植物セラセニアント】の効果発動。セラセニアントを守備表示で特殊召喚。」

 

 

 

【捕食植物セラセニアント】レベル1

ATK/ 100 DEF/ 600

 

 

 

しかし…

 

ミズチとて、ただでやられるつもりは更々無く。

 

影の人形要塞から、紫の砲撃が放たれる前に…身を守らんと自身の場に特殊召喚せしは、小さき緑の草たる葉蟻、しかして毒持つ捕食の草花であった。

 

…それは、いくら【紫影】の操るシャドールモンスターが強力であろうとも。

 

そして自らが傷付く事すらもいとわず、この微塵も怯まぬミズチの立ち姿はどこまでも冷たい目線で【紫影】の命だけに狙いをすましているのか。

 

…破壊されれば手札を増やせ、あわよくば【エルシャドール・シェキナーガ】も道連れにでき…場に残れば、次のターンに融合召喚の素材にも出来るこのカード。

 

そう、己が駆る、捕食植物モンスターの力を最大限に発揮せんと。ミズチはどこまでも静かに、どこまでも冷静に…

 

 

 

「ま、いいでしょう。素材を残してターンを終える方が面倒な事になりそうですし…シェキナーガの攻撃続行!セラセニアントを攻撃!」

「…ダメージ計算後、セラセニアントの効果発動。【エルシャドール・シェキナーガ】を破壊…そして破壊されたセラセニアントの効果で、デッキから【捕食生成】を手札に加える。」

「はいはい、構いませんよ。ですが私もシェキナーガの効果で、墓地から【影依融合】を手札に戻しまぁす!私はモンスターを裏守備表示でセット、カードを1枚伏せてターンエンドです。」

 

 

 

【紫影】 LP:4000

手札:6→1枚

場:【エルシャドール・ミドラーシュ】

【セットモンスター】

魔法・罠:【ドーピング】、伏せ1枚

 

 

 

そうして…

 

【エルシャドール・シェキナーガ】を、微塵も守る素振りを見せず。

 

自軍を破壊されたことを気にも留めることなく、ミズチの抵抗をニタニタした捻じれた笑みで見下しつつ…【紫影】は再び、そのターンを終えた。

 

 

 

「…私のターン、ドロー!墓地のキメラフレシアの効果発動!デッキから【再融合】を手札に加える!そのまま装備魔法、【再融合】発動!LPを800払って、墓地からキメラフレシアを特殊召喚!」

 

 

 

―!

 

 

 

【捕食植物キメラフレシア】レベル7

ATK/2500 DEF/2000

 

ミズチ LP:3500→2700

 

 

 

そして、ターンが移り変わってすぐに。

 

再び、凶暴化せし毒花の一房を地中から呼び出した竜胆 ミズチ。

 

…しかし、それは少々大きな代償。

 

そう、いくら自らLPを減らす行為には痛みを伴わないとはいえ、どんどんと開いていく【紫影】とのLPの差は…

 

そのままミズチの求める【紫影】への勝利への距離が文字通り遠のいていくことにもなるというのに。

 

 

 

「ほう、自らLPを減らすとはいい度胸ですねぇ…」

「…もう【バトルフェーダー】はない、なら攻め方を変える。キメラフレシアの効果発動。【エルシャドール・ミドラーシュ】を除外!」

「罠発動、【堕ち影の蠢き】!デッキから【シャドール・リザード】を墓地へ送り、セットモンスターを表側守備表示にしまぁす!」

「…だけどミドラーシュは除外される!」

「えぇ、えぇ、良いですとも。リバースした【シャドール・ファルコン】と、墓地に送られた【シャドール・リザード】の効果発動。まずはリザードの効果でデッキから【シャドール・ハウンド】を墓地に送り、ファルコンの効果で【シャドール・ビースト】を墓地から裏側守備表示で特殊召喚!更に更にぃ、リザードの効果で墓地に送られたハウンドの効果も発動!キメラフレシアを守備表示にしちゃいますよぉ!」

「…」

 

 

一つ一つの行動が、連鎖となりて繋がる【紫影】のシャドールモンスター達。

 

シンクロやエクシーズと比べて、アドバンテージを失いやすい融合召喚を補うかのように、行動すればするだけ効果が連鎖するこの展開は…

 

まさに相手の心を揺さぶる術に長けた【紫影】らしい、どこまでも捻じれた行動とも言えるだろう。

 

 

裏決闘界の融合帝―

 

 

その称号は飾りではない。

 

怒りを煽る言動と、恐怖を煽る捻じれた佇まい。あまりに不気味なその雰囲気は、誰だって相手をしたくないとさえ思わせる異様な気持ち悪さを相手へと与え続けており…

 

そしてそれ以上に、純粋なる『力』によって裏世界の者達をひれ伏せ続けていた【紫影】の実力とカリスマ性は、死んだとされてから30年以上経った現在においても、相当たる力の象徴となりて発揮され続けるのか。

 

…じりじりと開いていく【紫影】との差。

 

それはまるで、一介の学生が裏決闘界の融合帝へと1人で挑んできたことへの罰を、【紫影】自らが与えているかのようでもあり…

 

 

 

それでも…

 

 

 

「…装備魔法、【捕食接ぎ木】発動!墓地から【捕食植物サンデウ・キンジー】を守備表示で特殊召喚!」

「サンデウ・キンジー…あぁ、最初のオフリス・スコーピオですか。抜け目がありませんねぇ、えぇ。」

「…サンデウ・キンジーの効果発動。【融合】なしで融合召喚できるから、私はキメラフレシアとサンデウ・キンジーを融合!融合召喚…レベル8!【捕食植物ドラゴスタペリア】!」

 

 

 

―!

 

 

 

【捕食植物ドラゴスタペリア】レベル8

ATK/2700 DEF/1900

 

 

 

ミズチとて、止まるつもりはないのだと言わんばかりに。

 

大空洞に反響するようにして現れたのは、竜を模した毒花の一声…蠢く竜花、飛び立つ蛇華。毒の霧にて生育せし、怪しく蠢く竜の草花。

 

 

…そう、たとえ相手が、表の【王者】に匹敵する裏世界の帝王なのだとしても。

 

 

そして【エルシャドール・ミドラーシュ】や、【紫影】のシャドールモンスター達の多彩な効果のうねりによって、思うようにデュエルが進められずとも…

 

自らが抱える、燃え上がるような復讐心によって怯むことなく。【紫影】への強い恨みから、毒の竜花が叫びを上げる。

 

 

 

「…まだ。墓地の【捕食計画】の効果発動。融合召喚に成功したから、【捕食計画】を除外して裏側表示の【シャドール・ビースト】を破壊する。」

「ですがビーストの効果発動!デッキから1枚ドローしちゃいまぁす!」

「…構わない!バトル、ドラゴスタペリアで、【シャドール・ファルコン】に攻撃!」

 

 

 

―!

 

 

 

そうして…

 

竜が如き草花の、毒の咆哮が大空洞に轟いて―

 

しかし、その毒の咆哮は【紫影】に届く事はなく…【紫影】の場にて身を守っていた、守備表示の【シャドール・ファルコン】にぶつかり…

 

 

 

「…ふふっ、残念でしたねぇ、また私にダメージを与えられなくて。」

「…まだ、いい。その時じゃないから…」

「強情ですねぇ。まっ、自分だけLP減ってきているのでは慎重になるのも当たり前でしょうが。しかし貴女、意気込んできた割にはイマイチですねぇ…最初の勢いはどこへ行ったんでしょう。私を殺すとかなんとか息巻いていませんでしたっけぇ?期待はずれもいいとこですねぇ、あぁ恥ずかしい恥ずかしい。」

 

 

 

ミズチからの攻撃を受けてもなお、忌々しいその捻じれた口を閉じることなく。煽りを含んだ捻じれた言葉を、ただただ放り続ける捻じれた男、【紫影】

 

…一体、どうしてこの男は相手を苛立たせるような言葉を選んで、わざと相手を煽ろうとしてくるのか。

 

まさに性根が腐っているとしか思えない、下種で下品な人間の屑。流石はかつてそう言われ続けて来たことだけはある、とことん低俗なりし裏の人種であり…

 

…戦う相手への敬意などない。対戦相手への礼儀などない。

 

こんな不愉快な戦いを、デュエルと呼んでもいいのだろうか。【紫影】の言動、行動、その全ては、ただただ相手をイラつかせ不愉快にさせるだけ。どこまでも捻じれた、あまりに無作法な代物ではないか。

 

 

 

しかし…

 

 

 

「…まだデュエルは終わってない。」

「えぇ、えぇ、わかりますよぉ?貴女、さっきからどこか余力を残してターンを終えていますものねぇ。待っているんでしょう?私に牙が届く時を…私に隙が出来るのを。ま、そんなモノありませんが、えぇ。」

「…」

 

 

 

そんな中でも、【紫影】の放った言には一概に斬って捨てられない部分も確かにあるのか。

 

そう、ミズチが、いくら攻撃を仕掛けているとは言え…

 

ここまでのミズチのデュエルの流れは、攻めていると言うよりもどこか守りに身を置いているかのような、デュエルが始まる前に放っていた怨嗟の強さとは裏腹に、少々その攻撃は抑え気味となっているのだから。

 

それは、【王者】に匹敵する裏決闘界の融合帝を相手に、防戦一方になっている…

 

というわけでは断じてないものの、その姿はまるで『何か』を待っているかのような態度にも見える立ち振る舞いであり…

 

 

 

「…カードを2枚伏せてターンエンド。」

 

 

 

ミズチ LP:3500→2700

手札:3→1枚

場:【捕食植物ドラゴスタペリア】

伏せ:2枚

 

 

 

【紫影】の言葉が本当ならば、一体ミズチは『何』を待っているのか。

 

己の持つ見通す『眼』で、【紫影】のデュエルを見極めつつ。いやらしく攻め立ててくる【紫影】からの攻撃を、LPを減らしながらも綱渡りのようなデュエルで守りながら…

 

ミズチは今、再び自らのターンを終えた。

 

 

 

「私のターン、ドロー!」

「…このスタンバイフェイズにキメラフレシアの効果発動!デッキから【プレデター・プライム・フュージョン】を手札に加える!」

「ふふ、頑張りますねぇ…では行きますよぉ?魔法カード、【終わりの始まり】を発動!墓地のリザード2体、ビースト、ドラゴン、ハウンド、計5体の『シャドール』を除外して3枚ドロー!そして再び【影依融合】発動!」

 

 

 

けれども、【紫影】もミズチの狙いなど意に介さず。

 

終焉を呼ぶ漆黒の魔法カードによって、早々に手札を補充したかと思うと…

 

先のターンと同様に、デッキからの融合を行えるその『影』なる融合魔法によって。再び【紫影】の場に、歪んだ神秘の渦が渦巻き始めて。

 

 

 

「デッキから【シャドール・リザード】と【ライトロード・ライデン】を墓地に送り融合!来なさい、レベル8!【エルシャドール・ネフィリム】!」

 

 

 

―!

 

 

 

【エルシャドール・ネフィリム】レベル8

ATK/2800 DEF/2500

 

 

 

現れたのは、影の糸にて吊り上げられし…無表情なる無機質な人形、神をも落とす巨大なる無情。

 

…それは先のターンに【紫影】が呼び出していた、【エルシャドール・シェキナーガ】の上部に縛り付けられていた巨大なる操り人形の本体。

 

ソレが、今度はその身にて降臨し…その、圧倒的なる『無』の重圧にて、どこまでもどこまでもミズチを攻める。

 

 

 

「融合召喚成功時にネフィリムの効果発動!そして素材となったリザードの効果も発動しちゃいまぁす!」

「…させない!ドラゴスタペリアの効果発動!ネフィリムに捕食カウンターを乗せて、発動した効果を無効に!」

「しかしリザードの効果は発動しますねぇ!デッキから【シャドール・ファルコン】を墓地に送り、続いてファルコンの効果で自身を墓地から裏守備表示で特殊召喚!そして【シャドール・ドラゴン】を通常召喚でぇーす!」

 

 

 

―!

 

 

 

【シャドール・ドラゴン】レベル4

ATK/1900 DEF/ 0

 

 

 

そして止まらない。

 

連鎖する影の効果の数々、増え続ける【紫影】の影のモンスター。

 

シンクロやエクシーズと比べ、多用すればアドバンテージを失いやすい融合召喚をすればするほど…

 

【シャドール】の効果は連鎖していき、それはそのまま【紫影】の勢いとなりてミズチを無情に襲い続けるのか。

 

ソレを、どうにか『眼』で見極めつつ的確に抵抗を見せるミズチではあるものの…

 

 

 

「さて、また【エルシャドール・ミドラーシュ】で封じてもいいんですが…それでは面白くありませんよねぇ?…匂いますよぉ?貴女、先程からずっと『待っている』ようですし…」

「…」

「ふふ、図星ですか。…まぁいいでしょう、では見せてあげましょうかねぇ!【紫影】と呼ばれる、この私の『名』を!行きますよぉ、【融合回収】を発動し、【融合】と【バトルフェーダー】を手札に戻す!そして魔法カード、【融合】発動!場のドラゴンとファルコン…2体の闇属性モンスターを融・合!」

 

 

 

【紫影】もまた、ミズチの待っている『狙い』を既に感じ取っているのか、先程まで行っていた融合召喚とはどこか雰囲気を画しながら。

 

ミズチの狙いに気付いてもなお、しかしあえてソレに乗っかるようにして…

 

【紫影】の捻じれた宣言が大空洞へと木霊し始めたではないか―

 

 

 

 

 

そして―

 

 

 

 

 

「禍つ紫影の揺らめきよ、世界の全てを包み込めぇ!」

 

 

 

 

 

叫ばれしは狂言、木霊せしは凶声。

 

それは禍々しく凶暴な、そしてあまりに捻じれた歪なるオーラ。

 

昨日も、この『大空洞』に召喚された存在。しかして昨日の少女が呼び出したモノとは、圧倒的にその存在感が違う存在を、【紫影】は今まさに呼び出さんとしているのか。

 

歪み捻じれる神秘の渦より、禍々しく呼び出されし【紫影】の『名』が…

 

 

 

 

 

今、ここに―

 

 

 

 

 

「融合召喚!現れなさい、レベル8!【スターヴ・ヴェノム・フュージョン・ドラゴン】!」

 

 

 

 

 

―!

 

 

 

 

 

【スターヴ・ヴェノム・フュージョン・ドラゴン】レベル8

ATK/2800 DEF/2000

 

 

 

 

 

…それは、あまりに禍々しき姿であった。

 

毒々しさが牙を剥き、飢餓の咆哮が大気を千切り…

 

虚空にも似た虚ろな目で、視界に映ったモノ全てを喰らいつくさんと…見た者全てに恐怖を生じさせる、意思を持った飢餓そのモノ。

 

その異色で異端なる異質な異様は、毒々しくも艶かしく蠢く畏怖そのモノであって。

 

 

…そう、これが、このモンスターこそが。狂気に染まった捻じれた男、【紫影】の『名』そのモノ。

 

 

対戦相手の本能へと、直接訴えかけるかのような紫毒の狂気と奇怪な咆哮。この、あまりに歪で異質なる畏怖を駄々漏れにしている、この捻じれた蠢きを魅せる毒の竜こそ…

 

かつて世界が畏れた、世界がその存在を抹消した【紫影】と呼ばれた存在そのモノなのだ。

 

決して相対してはならない狂気を放つ、捻じれた男と『同じ雰囲気』。そんなモノを駄々漏れにしている、出会ってはならない毒そのモノであり…

 

 

 

「…スターヴ・ヴェノム…これが、【紫影】の…」

「ふふっ!私がこの子を出すのを待っていたんでしょう?墓地に送られた【シャドール・ドラゴン】と、融合召喚に成功したスターヴ・ヴェノムの効果発動!ドラゴンの効果で伏せカードを1枚破壊し、スターヴ・ヴェノムの攻撃力をドラゴスタペリアの攻撃力分アップしますよぉ!?」

「…ッ!破壊される前に速攻魔法、【捕食生成】発動!手札の【プレデター・プライム・フュージョン】を見せて、スターヴ・ヴェノムに捕食カウンターを乗せる!そしてスターヴ・ヴェノムの発動した効果を無効に!」

「いいですねぇいいですねぇ!ですが効果は無効となりますが、攻撃力は2体とも充分!ではバトルです!まずはネフィリムで、【捕食植物ドラゴスタペリア】に攻撃ぃ!」

 

 

 

―!

 

 

 

「…くぅっ…」

 

 

 

ミズチ LP:2700→2600

 

 

先ず始めに襲い掛かったのは、無慈悲なる無表情の無機質なる人形。

 

いくらドラゴスタペリアの効果によって、発動した効果が無効となってはいても…

 

攻撃力はミズチの場のドラゴスタペリアを、たった100とはいえ超えているのだから、その衝撃の余波が実体化した衝撃となりて、華奢な体躯をした竜胆 ミズチへと襲い掛かって。

 

 

 

「…墓地の【捕食生成】を除外して、戦闘破壊の身代わりに…」

「おや、まだ耐えますか…健気ですねぇ。ですがまだ終わりませぇん!スターヴ・ヴェノムでドラゴスタペリアに攻撃、デッドリー・フレア!」

 

 

 

―!

 

 

 

「…うあっ!?」

 

 

 

ミズチ LP:2600→2500

 

 

 

そして続けて襲い来るは、【紫影】なりしスターヴ・ヴェノムの、火よりも熱い毒咆の響き。

 

…たった、200のダメージ。

 

しかし昨日のリアル・ダメージルールのモノとは比べ物にならない重い衝撃が、2重となりてミズチを襲うその痛みは…

 

果たして、一人LPを減らし続けるミズチに、どれだけの痛みを与え続けているのか。

 

もしもミズチが、【捕食生成】を使用してダメージを200に抑えていなかったとしたら…きっとミズチは、スターヴ・ヴェノムのダイレクトアタックをその身に受けていたことだろう。

 

…それは、2800という額面上の数値で片付けられる状況ではない。

 

 

これは、実体化したデュエル―

 

 

スターヴ・ヴェノムが放った毒の炎をその身に喰らえば、いくらLPが残っても良くて意識不明…いや、確実に死んでしまうのではないかとさえ思える威力を、まざまざとミズチへと見せ付けてきたのだ。

 

 

…【紫影】の名、スターヴ・ヴェノム。

 

 

【紫影】の邪念が、そのまま形となったかのような禍々しきそのうねりは…【エルシャドール・ネフィリム】から受けたダメージよりも、さらに重いモノとなりてミズチを襲った。

 

そう、【紫影】の歪なる捻じれた雰囲気が、そのまま形を得たかのようなこの紫毒の竜は…どこまでもミズチへと牙を剥き、まるで【紫影】という男その物のような光の無い目で竜胆 ミズチを見下し続けていて―

 

ソレ故…

 

直撃ではなかったにしろ、ダメージを与えられた所為か、あまりに強い憎しみの視線で、スターヴ・ヴェノムを睨みつける竜胆 ミズチ。

 

それは、【紫影】の名が出てくるのを彼女は『待っていた』ということでもあり…そして、それ以上に強い憎しみを【紫影】と【紫影】の名に抱いているということでもあって。

 

 

 

「ふふ、そんなに見つめられると照れますねぇ。【強欲で貪欲な壷】を発動。デッキを10枚裏側除外し2枚ドロー。…カードを3枚伏せてターンエンドです。」

 

 

 

【紫影】 LP:4000

手札:3→1枚

場:【エルシャドール・ネフィリム】

【スターヴ・ヴェノム・フュージョン・ドラゴン】

伏せ:3枚

 

 

 

そうして…

 

どこまでもミズチを舐めた態度で、しかし重厚にその場を整えて。

 

再度、油断だらけの口調のままでそのターンを終えた【紫影】。

 

普通であれば、デュエルの最中に油断を態度に表してターンを終えることはただの命取りであるはずだというのに…

 

けれども、そんな油断をあえて見せ付ける【紫影】の態度は、どこまでもどこまでも竜胆 ミズチという少女を舐め腐っているということでもあるのだろう。

 

…まぁ、ソレも当然か。

 

何せ、デュエルの流れは完全に【紫影】のモノ。ミズチとて、なんとか耐えてはいるものの…それでも、ジワジワと広がるLPの差が、【紫影】とミズチの距離を文字通り広げているのだ。

 

そう、いくらミズチが、ギリギリで【紫影】の攻撃を耐えているとは言え。

 

ミズチの取っている手は、全てが最小限かつ最低限であり…守り主体であったとはいえ、一つ間違えれば直撃を食らってしまうような攻防を、最初のターンからミズチはずっと続けているのだから、裏決闘界の融合帝である【紫影】からすればこのデュエルは遊び半分で群がる羽虫を手で払っているにも等しいとさえ感じているのか。

 

ミズチと【紫影】の差は広がるばかり。だからこそ、【紫影】はどこまでもミズチを見下した態度のままで…

 

 

 

「しかし、よくこんなギリギリの手でここまで耐えますねぇ。まるで綱渡りを見ているようです、えぇ。」

「…見えてたから…貴方の手札…どんな展開をするのかも…その光景が…」

「ほう?」

 

 

 

それでも憎むべき【紫影】に、こんな態度を取られてもなお。

 

ミズチはまだまだ戦意を捨てず、傷付きながらもデュエルディスクを構える腕に力を込め続けるのみ。

 

…そう、元より決闘界の【王者】と同じ力を持つとされる、裏決闘界の【三帝王】を前に。

 

ミズチとて、無傷だとか快勝だとか、そういった自分に有利すぎる結末などそもそもからして想定してなどはいない。

 

…いや、今の彼女の実力では、勝てる見込みすら見つけられていないのかもしれない。

 

けれども、ミズチは【紫影】への恨みも戦意も捨てないまま…そう、【紫影】へと抱いている深い深い恨みを胸に、ただただ【紫影】の命を狙う蛇の牙を研ぎ澄まし続けているのだ。

 

…プロデュエリストの兄を持つとは言え、一介の学生でしかない彼女がここまで【紫影】と戦えているのも、偏に彼女の持つその『眼』によるモノが大きいのでは無いか。

 

そう、彼女の持つ、全てを見通すと伝えられるその『眼』。この【決島】で更なる覚醒を見せたその『眼』を頼りに、裏決闘界の融合帝を前にしても必死になって喰らい続ける。

 

 

 

「…貴方が伏せたのは【デモンズ・チェーン】が2枚と【瞬間融合】!この『眼』があるから、私はまだ戦え…」

「ご大層な自信ですねぇ。貴女、その『眼』が何なのか知ってるんですかぁ?その、得体の知れない、不気味な『眼』のことを…」

「…知ってる癖に…この『眼』は竜胆が受け継いできた力…いつかくる『日』のために…未来のために、竜胆が受け継いでいく世界を救う為の…」

「…ぷっ、ぷぷぷぷぷぅ!もういいですよぉそんな力説しなくても!笑わせないでくださいよぉ!」

 

 

 

しかし…ミズチが放った言葉に対し。

 

嘲笑というにもおこがましい、下品な捻じれた笑いが大空洞へと響き渡った―

 

それはミズチの零した、『竜胆』が受け継ぎ続けているという役目の伝承に対し…

 

『竜胆』のことを何故かよく知っている風の【紫影】が、根底から嘲笑っている笑いとなりてミズチの耳へと届けられたということではあるのだが…

 

 

 

「ぷぷぷぅ!そんな『眼』に世界がどうとか未来がこうとか、そーんなご大層な役目なんてあるわけ無いじゃないですかぁ!本当に何も知らないんですねぇ、えぇ。」

「…何を…」

「ま、どうせ分家筋に、名家と呼ばれていた頃の間違った伝承でも吹き込まれたんでしょう。…健気ですねぇ、そんな『眼』にそこまでの夢を持つだなんて。ま、そもそも貴女のような少女では、その『眼』の力を最大限に引き出す事など出来ないでしょうが。」

「…うるさい!…貴方に何がわかるの?元はと言えば、貴方の所為で竜胆の『名』が…」

「ふふふふふ!結構結構実に結構!膨れ上がった力を勘違いしている家なんて、潰し甲斐がありますからねぇ、えぇ!」

 

 

 

しかし、一体どうして【紫影】がここまで『竜胆』の名についてミズチへと一方的に語れるのか。

 

裏決闘界の融合帝…彼への恨みを持つ者は、世界中にいまだ数多く存在しているというのに。命を命とも思わぬ屑の中の屑である【紫影】が、唯一自分への復讐の権利を持つと認めたのは…何を隠そう竜胆 ミズチただ一人。

 

そんな、かつて世界中から嫌われた、現代ではその存在その物が無かったことにされている男が。

 

今こうして、1人の儚く気怠げな少女に殺意を向けられているという光景だけでも異常であると言うのに。

 

それでも、こんなにも強い殺意の中でも。【紫影】の纏う雰囲気は、どこか子ども相手に手抜きをしているような態度のままで…

 

 

 

「…私は諦めない…貴方を殺して、竜胆の罪を清算して…兄さんと一緒に、竜胆の『名』を復興してみせる!」

「こんな糞のような名前によくもまぁそこまで…それに貴女とは初対面なのに、よくもまぁここまで私に恨みを抱けますねぇ。」

「…ッ…とぼけないで…貴方にはわかってるはず…私が、貴方を憎む理由を…」

「…」

 

 

 

果たして、竜胆 ミズチをここまで突き動かす深い恨みとは一体『何』なのか。

 

現在高等部3年の竜胆 ミズチが生まれるより、ずっと前に死んだとされて…今この時まで、表社会から完全に抹消されていたはずの【紫影】へと抱くは、決して消えぬ怨みの炎。

 

【紫影】からの嘲笑によって、ミズチの脳裏にはかねてから抱いていた【紫影】への恨みが更に強くなり続けるのみであり…

 

それと同時に、ミズチの脳裏には【紫影】への恨みを抱くに到ったきっかけが、無意識に浮かび上がり始め…

 

 

 

 

 

 

―…

 

 

 

 

 

 

 

母がこの世を去った後も、少女は兄と共に必死に生きた。

 

暗く汚い世界の裏側から、煌びやかな表の世界に飛び出す為に…母の墓前…いや、墓などない、乱雑に埋めた母の骸が埋まっている場所の前で、自分達だけは絶対にこんな死に方などしないと誓いを立てて。

 

そう、生きる術など知らない少女と兄は、それでも死を待つだけの社会の裏側から、その身一つで逃げ出したのだ。

 

…当てなどない、金などない、頼りなどない子どもだけで。

 

それは長らく裏社会の隅に隠れ住んでいた幼い兄妹からすれば、一体どれだけの心細さに襲い掛かられたことだろう。

 

…何せ、法と秩序が闊歩する表社会。戸籍も何もない幼い兄弟に対し、世界は決して優しく手を差し伸べてくれるわけもないのだ。

 

だからこそ、幼い子どもだった少女と兄が社会の裏側から表側に出て生きていくには、それはそれは大変な目にあった事だろう。

 

まぁ、戸籍や金といった懸念よりも、少女達にとって最大の懸念であった『元凶』は表社会の歴史では既に『無かった事』にされていたため…

 

『元凶』がこの世界から居なくなって20年以上経っていた事もあり、少女達の『名』に対して過剰に反応する者は表の社会にはかなり少なくなっていたのだが。

 

 

…それでも、少女と兄の『名』を聞いただけで、過剰に反応する輩は表社会にはまだ居た。

 

 

当たり前だ。

 

いくら『元凶』が、20年以上も前に表社会の歴史から完全に抹消されて、人々の間から完璧に存在を消されていたとは言え。それでも、『元凶』に個人的な深い深い怨みを持った人間は、この世界にまだまだ数多く存在していたのだから。

 

何せ、世界最悪の大犯罪者。犠牲者の人数など、わかっているだけでも1000人をゆうに超えており…

 

夫を殺された者。妻を殺された者。子どもを殺された者。親を殺された者。兄弟を殺された者。姉妹を殺された者。友を殺された者。心を殺された者。

 

そうした『元凶』に直接的な怨みを持った人間が、世界にはまだまだ数多く生きているのだ。

 

だからこそ、『元凶』に深い怨みを持つ者達が、突如表社会に現れた『元凶』と同じ名を持つ少女と兄に対し…どんな行動に出たのかなど、最早言葉にする必要すらないだろう。

 

そう、今までどこかに隠れていた、『元凶』と同じ名前を持った幼い兄妹。そんな憤りをぶつける恰好の『的』に対し、怨みを持つ者達がどんな『行動』を取ったのかなど…

 

だからこそ…今まで社会の裏側に隠れ住んでいた幼い兄妹が、表の社会で生きていくことは本当に大変な事だったのだ。

 

奇跡的に決闘市に居た分家筋…とうの昔に自分達の『名』を捨てた者の一人が、これまた奇跡的に本家筋である少女と兄を発見し、そして奇跡的に保護してくれるような善人であったからこそ…どうにか少女と兄はその命を繋ぐことを許されたのだが、それでも少女と兄は表社会へと出てきていやと言うほど思い知ったのだ。

 

そう、いくら保護してくれた親類のおかげで、法と秩序に乗っ取り表社会で生きることを許されたとはいえ…

 

…自分達の持つ『名』が、表社会にどれだけの傷跡を残しているのかという事を。

 

…自分達がその『名』を持っている限り、幸せになってはいけないという事を。

 

…自分達がその『名』を持ってしまったが故に、表社会に生きる同年代たちとは根本からして背負う罪が異なっているのだという事を。

 

 

そう、決闘学園に通いながらも、少女と兄は常に表社会に生きる者達との『差』を常々感じさせられ続けた。

 

…特に、『紫魔』の名を持つ者達との『差』。

 

元は同じ融合召喚の名家だったはず。しかし『紫魔』は成功し『自分達の名』はこんな扱いを受ける羽目に…

 

だからこそ、表社会で生きている学友達と、裏から這い出てきた汚い自分達を比べるたびに…少女と兄は、常に『怨み』を思い出し続け…

 

 

 

―『竜胆(りんどう) 蛇蝎(だかつ)…この名前を、絶対忘れたらアカンで。』

―『…りんどう だかつ…』

―『そうや…全部…全部全部コイツが悪いんや!俺らがこんな目にあっとんのも、みんなが『名前』を捨てる羽目になったんも…母ちゃんが死んだんも全部…コイツの所為や…』

―『…誰なの?その人…』

―『母ちゃんの父親…俺等のじいさんらしいけど…けど、けどや!こんな奴、家族やない!いっぱい人殺して、俺らをこんな目にあわせとる奴なんか!』

―『…りんどう だかつ…お母さんを殺した…私達を苦しめる原因…』

―『そうや!絶対に許さへん!コイツは…自分だけ先に死んで逃げた…ただの屑や!』

―『…りんどう…だかつ…ぜったいに…ゆるさない…』

 

 

 

どこで得たのか、何故知りえたのか。

 

兄が、常々憎しみを込めた声でそう教えてくれたその『名』が、少女はずっと忘れられない。

 

時が流れ、更に『元凶』への怨みを持つ者が少なくなってきても…成長と共に兄が強くなり、世間に注目されて自分達の『名』が許されかけてきても…

 

 

それでも、ずっと少女と兄の心には…

 

 

絶対に許してはいけないその名前が、刻まれていて―

 

 

 

 

 

―…

 

 

 

 

 

「…絶対に許さない…絶対に!私のターン、ドロー!墓地のコーディセップスの効果発動!コーディセップスを除外して、墓地からセラセニアントとサンデウ・キンジーを特殊召喚!」

 

 

 

―!!

 

 

 

【捕食植物セラセニアント】レベル1

ATK/ 100 DEF/ 600

 

【捕食植物サンデウ・キンジー】レベル2

ATK/ 600 DEF/ 200

 

 

 

「…サンデウ・キンジーがいる限り、捕食カウンターの乗ったモンスターは全て闇属性にできる!」

「知ってますよぉ?ソレ、元々私が使っていたデッキですし。」

「…けど今は私のデッキ!続けてサンデウ・キンジーの効果発動!サンデウ・キンジーは融合魔法なしで融合できるから、私はサンデウ・キンジーと闇属性にしたネフィリムを…」

「永続罠、【デモンズ・チェーン】発動。サンデウ・キンジーの効果を無効に。」

「…ソレも視えてた!【再融合】発動、LPを800払って、墓地から【捕食植物キメラフレシア】を特殊召喚!」

 

 

 

―!

 

 

 

【捕食植物キメラフレシア】レベル7

ATK/2500 DEF/2000

 

ミズチ LP:2500→1700

 

 

 

弾けるように、燃え上がるように。

 

先程までの消極的な展開から一転、ここが待ち望んだ正念場なのだと言わんばかりの勢いで…復讐の炎が燃え上がるように、怒涛の展開を続ける竜胆 ミズチ。

 

…血走る『眼』で【紫影】を見据え、突き上げる怨みで【紫影】を貫き。

 

この場、この時、ターンを待っていたのだという雰囲気で…機は熟したとして、持てる力を振るい続ける。

 

 

 

「懲りませんねぇ、LPを減らしてまたキメラフレシアとは…」

「…キメラフレシアの効果発動!レベル1になってる【エルシャドール・ネフィリム】を除が…」

「2枚目の【デモンズ・チェーン】発動です。キメラフレシアの効果を無効に。」

 

 

 

しかし、そんなミズチに対して。【紫影】はあくまでも飄々と、ミズチの展開を止めつつ嘲笑を交えるばかり。

 

【紫影】の行う妨害が、いくら先程ミズチが宣言していたカードばかりだとは言え…

 

それでも確実にミズチの手は止められ続けているのだから、ミズチとて【紫影】の整えられたこの場に対し、これだけ妨害されれば戦局は依然として苦しいままであり…

 

 

 

「…けど、これで【デモンズ・チェーン】はなくなった。後は、止めるモノは何も無い。」

「ですが貴女も、これ以上何が出来るんでしょうねぇ?…知ってるんですよぉ、貴女の【捕食植物】では、もうこれ以上この場をどうにか出来る融合モンスターなど出せはしないと。」

「…何を根拠に…」

「ぷぷっ!根拠って言われましても、そもそもそのデッキ、元々は私のデッキでしたし!私がスターヴ・ヴェノムを持っている限り、貴女のデッキには『切り札』と呼べるモンスターなんて存在しないんでしょう?えぇ!」

「…」

 

 

 

そう、ミズチが【紫影】の手を、その『眼』で見通していたように。

 

【紫影】もまた、ミズチのデッキを何故か知り尽くしている様子を先程から零し続けているのだ。

 

…ミズチを完全に舐めていたのも、対峙しているのが見知ったデッキであったが故の余裕であったのか。

 

ここまで効果の応酬を続けたミズチに対し、【紫影】はどこまでも嘲笑ったままで…

 

 

 

「よくここまで足掻いたと褒めてあげましょう!さぁ、大人しくターンエンドを宣言なさ…」

「…速攻魔法、【プレデター・プライム・フュージョン】発動!私はセラセニアントとサンデウ・キンジー、そしてキメラフレシアで融合!」

「ッ!?」

 

 

 

しかし…

 

【紫影】に、どれだけコケにされようとも。

 

それでも、決して怨嗟を捨てないミズチの叫びが、大空洞に木霊する。

 

それはミズチのデッキを知り尽くしていると豪語した、【紫影】の結論を真正面からブチ破る蛟が如き激しい叫び。

 

…今、【紫影】の油断の隙をこじ開け。

 

どこまでも濃い殺意の元、ミズチの叫びが―

 

 

 

「さ、3体融合!?な、何ですかそのモンスターは!そんなモンスター、そのデッキには居ないはず…」

「…これが…貴方を倒すために目覚めた、私の力!禍つ紫影を食い破り…世界の果てで狂い咲け!融合召喚!」

 

 

 

 

 

ここに、轟く―

 

 

 

 

「レベル9、【捕食植物トリフィオヴェルトゥム】!」

 

 

 

 

 

―!

 

 

 

 

 

【捕食植物トリフィオヴェルトゥム】レベル9

ATK/3000 DEF/3000

 

 

 

禍々しい―

 

それはあまりに禍々しい姿をした、奇怪にうねる三つの茎を持つ…怪しく蠢く毒の草でありつつも、辺り一面に毒の涎を撒き散らす、飢えた牙持つ毒の華竜であった。

 

…地に根を張る植物だというのに、意思を持って動き獲物を喰らう文字通りの捕食者。

 

その虚ろな目は本当に見えているのか。双翼に怪しく咲く禍々しい花は、草でありつつ竜であるというその異形をその身一つで体現している…

 

まさに異質なる雰囲気に塗れた、畏怖すら感じる異端なる重圧。

 

 

 

「な、なんなのですかそのモンスターは!?そんなモンスター、私が使っていたときにはいなかったはず…」

 

 

 

初めて…

 

そう、今までミズチを見下し続けていた【紫影】が、この時初めて――意表を突かれたかのように、焦りと共に正真正銘驚きの声をその口から上げたのだ。

 

…それは【紫影】からしても、ミズチが召喚したモンスターが本当に想定外だったからこそ零された言葉であったのか。

 

ミズチの私怨を取り込んで生まれた、歪に蠢く三叉の華竜。それはまるで、【紫影】への強い怨みを持った竜胆 ミズチという少女の、歪んだ復讐心が具現化したかのような禍々しさであり…

 

その圧倒的捕食者足り得る存在が、【紫影】へと向かって強大なるプレッシャーを放っているその姿。

 

また、【紫影】へとぶつけられている、激しいまでのプレッシャーを放っているのは三叉の毒花のみならず…

 

 

 

「ッ!?そ、その『眼』は…」

 

 

 

そう、【紫影】の視線の先にいる竜胆 ミズチの目が、先程までの儚く気怠げなモノから一転…

 

限界を超えてもなお大きく見開かれた、獲物を見据えて血走った…細く鋭く縮瞳した、常人ならざる異形の眼へと変貌を遂げているではないか―

 

『眼』の周囲には、眼を囲うように浮き出た血管が模様を作っており…縦に細く長く伸びたその瞳孔は、まるで本物の蛇の眼のよう―

 

 

それはまるで、悪魔宿りし異形の眼。

 

 

おそよ人間の目ではないソレが、竜胆 ミズチという少女の目から飛び出さんとしているのだ。

 

そして、何よりも異常なのは…大空洞には風など吹いていないにも関わらず、ミズチの白く美しい前髪が彼女のオーラに触れて、怪しく独りでに揺らいでいると言うこと。

 

一体、彼女の身には何が起こっているのか。

 

まさに異形、まさに異質。竜胆 ミズチの身に、まさに人知を超えた悪魔が宿る。

 

 

 

「その『眼』は…あ、貴女本当にウワバミの…だ、だから私のデッキに私の知らないカードが!」

「…言ったはず、今は私のデッキだって!セラセニアントの効果で、デッキから【捕食接ぎ木】を手札に加える!そして装備魔法、【捕食接ぎ木】を発動して…墓地から、【捕食植物ドラゴスタペリア】を守備表示で特殊召喚!」

 

 

 

竜胆の名を持つ者が、来るべき日へと向けて次世代へと受け継ぎ続けているという、人知を超えたその異形の『眼』。

 

果たして、ミズチの持つその『眼』とは一体何なのか。

 

その正体も、その本質も…そして、一体どうして竜胆がその『眼』を受け継ぎ続けているのかという、その理由を知る者はもうこの現代においては存在しておらず…

 

けれど、今この瞬間において。ミズチからすれば、この『眼』の正体が『何』なのかなど些細なことなのだと言わんばかりに…ただただ純粋に、【紫影】への怨みを果たすのみなのか。

 

…そう、ミズチの目的は唯一つ。【紫影】の命を、自らの手で刈り取る事。

 

その為に、蠢く竜華が今再びミズチの場へと蘇って―

 

 

 

「…し、しかしどうして【プレデター・プライム・フュージョン】でスターヴ・ヴェノムを素材にしなかったのですか!?スターヴ・ヴェノムを片付け、再びキメラフレシアを特殊召喚していれば!貴女はキメラフレシアの効果でネフィリムを除去でき、そのままキメラフレシアとトリフィオヴェルトゥムによる私へのダイレクトアタックで勝負は決まっていたはず!」

「…私、忘れてない。貴方、【バトルフェーダー】を手札に戻してる…だから、ダイレクトアタックじゃ貴方に勝てない。」

「ッ!?」

「…それにダイレクトアタックじゃ意味がない…スターヴ・ヴェノム…【竜胆】から【紫影】に成り下がったその子を倒して、貴方を倒さないと意味がないの!トリフィオヴェルトゥムのモンスター効果!捕食カウンターの乗っているモンスターの攻撃力を全て、トリフィオヴェルトゥムの攻撃力に加える!」

 

 

 

【捕食植物トリフィオヴェルトゥム】レベル9

ATK/3000→8600

 

 

 

巨大化せしは竜の雄叫び、狂い咲きしうねりの轟き。

 

先程までの消極的な、守り主体のギリギリのデュエルから一転…

 

始めから、最初から。この瞬間を待っていた、この瞬間を見据えていたようにも見えるミズチの宣言によって、三叉の毒華がみるみる巨大化していくではないか。

 

…その攻撃力、実に8600。

 

それはどれだけLP差を広げられても、どれだけ直接攻撃に対する妨害を用意されても。それでも、【紫影】を倒す事を決して諦めなかったミズチの怨念を取り込んだように…

 

三叉の毒華もまた、その牙を更に飢えさせ滴らせるのみ。

 

 

 

「攻撃力8600!?ま、まさかそんな効果を!?で、ですが私にはまだ【瞬間融合】がある!いくら貴方が何かをしようとも、これで【エルシャドール・ミドラーシュ】を守備表示で出せば私へのダメージは…」

「…無駄。視えてるから…貴方のExデッキには、もう【エルシャドール・ミドラーシュ】は無いって。だから、もう出せるモンスターなんて貴方には無い。」

「ッ!?ふ、ふふ、何を根拠に…まま、まるでここまでの展開が全て貴女の想像通りだとでも言いたげな…」

「…言ったはず、全部視えてたって!だからここまで耐えただけ…そして、もう耐える必要もない!…これで終わり!【捕食植物トリフィオヴェルトゥム】で、【スターヴ・ヴェノム・フュージョン・ドラゴン】に攻撃!」

 

 

 

迷いのない攻撃宣言が、大空洞へと木霊する。

 

そう、先程までとは根本からして違う、戦意と殺意に塗れたミズチの叫びが、満を持して大空洞へと響き渡って―

 

 

ずっと、ミズチは待っていた…

 

 

例えダメージを受けてでも、例えギリギリの攻防が続いても…それでも、【紫影】を一撃で殺せるタイミングを、竜胆 ミズチはずっと待っていた。

 

それが、【紫影】の油断からくる最初で最後のチャンスであっても。

 

それでも、油断していた【紫影】の喉元に…無慈悲に牙を突きたてられる今この時が、ミズチにとっては最大で最高のチャンス。

 

息の根を止めるほどの実体化した、【王者】に匹敵するといわれている相手に…自分の毒の牙が届くその時を、ミズチはずっと待っていた。

 

 

そう、ミズチは掴み取った―

 

 

元々、一族の象徴であったはずの【竜胆】の蛇竜。しかし犯罪者の所為で、裏決闘界の融合帝、【紫影】の『名』と成り下がってしまった【スターヴ・ヴェノム・フュージョン・ドラゴン】…

 

 

その、あまりに忌々しいソレを…

 

 

【紫影】ごと、消し飛ばすその瞬間を―

 

 

 

 

 

 

 

それは、今―

 

 

 

 

 

 

 

 

「…狂生の…プレデター・レイ!」

 

 

 

 

―!

 

 

 

 

 

巨大な毒の双翼に生えし、二つの毒華から解き放たれるは禍々しくも輝く閃光。

 

今、復讐の怨嗟を纏った魔閃光が、【紫影】へと向けて解き放たれたのだ―

 

 

 

…もう、【紫影】に成す術などない。

 

 

 

ソレを『眼』で見抜いているミズチの目には、今まさに閃光に貫かれる【紫影】の姿がはっきりと映り―

 

 

 

 

 

 

 

 

 

そう、映っていたのだが―

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「…なぁんてねぇ!速攻魔法、【超融合】発動!」

「…え!?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

―否…

 

 

断じて、否―

 

 

貫かれてなどいない。ミズチの目に映ったはずの、閃光に貫かれた【紫影】の幻影が、【紫影】の捻じれた声と消えていく。

 

そして、ソレと同時に…そう、ミズチの叫びを遮るように、再度どこまでも底抜けに不気味な【紫影】の嘲笑が、再び大空洞へと響き渡った次の瞬間。

 

【紫影】の場には、彼に残っていた最後の伏せカード…ミズチの『眼』には、発動も出来ないブラフであったはずの【瞬間融合】に見えていた伏せカードが…

 

あまりに禍々しい光と共に、怪しく光り輝き始めたではないか―

 

 

 

「ふふふふふぅっ!勝ったと思いました?勝てたと思っちゃいましたぁ?ざぁんねぇん!そんなワケないじゃないですかぁ!」

「…【瞬間融合】じゃない!?な、何なのその融合魔法…そんなカード、見たことな…」

「ふふっ、私の手を全て見通し、私の知らないカードを自力で生み出したその執念はご立派ですが…すみませんねぇ、そもそも私には『その眼』は効かないんですよねぇ、えぇ!」

「…な…」

「っていうかダメでしょう?『前任者』に同じ力で挑んでくるなんて。だからわざと見間違えさせることも出来たんですが…さぁて、私は手札を1枚捨て、闇属性のスターヴ・ヴェノムに貴女の場の『捕食植物』モンスター、トリフィオヴェルトゥムを超・融・合!」

 

 

 

大空洞の上空に、【融合】魔法とは比べモノにならない程のエネルギーを持った神秘の大渦が現れる。

 

…そして、その神秘の大渦の荒れ狂う轟きに誘われるようにして。

 

【紫影】の場のスターヴ・ヴェノムと、ミズチの場のトリフィオヴェルトゥムが吸い込まれていくと同時に―

 

 

 

 

 

 

 

 

「流石は私の『孫』ですねぇ!私をサポートしてくれるとは感謝の極みです、えぇ!」

「…ッ!」

「さぁて…行きますよぉ!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

【紫影】の纏う雰囲気が、禍々しく…今よりも更に禍々しく…

 

 

 

 

 

 

変わる―

 

 

 

 

 

 

『禍つ紫影の揺らめきよ!この世の全てを包み込みぃ…数多の命で腹を満たせぇ!ユウゴウショウカァン!来なさい、レベル10!【グリーディー・ヴェノム・フュージョン・ドラゴン】!』

 

 

 

 

 

 

 

 

―!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

…轟いたのは、飢えを通り越した飢餓の咆哮だった。

 

どれだけ食しても収まらぬ、どれだけ貪っても満たされぬ…轟いたのは、そんな叫び。

 

捻じれたうねりを纏いし【紫影】が、自我を持った毒の華すらも喰らい尽くし…【融合】を超えた【超融合】によって、毒牙の竜の体が更に巨大と化して生まれ変わったその姿。

 

…その翼はまるで開いた花弁。美しさの中に存在する、毒と言う名の畏れを纏い。

 

生きとし生ける者全ての命を、根元から喰らい付くさんとしている、暴食なりし飢えた牙。

 

それはまるで、【紫影】という男の抱える『闇』が、ここに具現化したような存在とも言えるのであって。

 

 

 

【グリーディー・ヴェノム・フュージョン・ドラゴン】レベル10

ATK/3300 DEF/2500

 

 

 

「…グリーディー・ヴェノム…な、なに、ソレ…そんなモンスター、私が『視た』中には…」

負不(ふふ)っ、だから言ったでしょう?貴女の『眼』など、私相手には役に立たないと…しかし…いやぁ、生き返った甲斐がありました!まさか私に孫が居たとは!ウワバミ…私の娘が、また子ども産んでいたとは驚きましたねぇ!だってあんな失敗作、どこかで野垂れ死ぬのがオチだと思ってましたから!あ、野垂れ死んだんでしたっけぇ!?ちょーウケますねぇ!負不腑訃怖(ふふふふふ)ぅ!』

「…ッ!?」

 

 

 

そして…

 

ついに【紫影】の口から放たれたのは、目の前の少女との関係性を【紫影】自らが認めた言葉であった。

 

 

しかしソレは、感動の再開などでは断じてない―

 

 

そう、【紫影】の口から飛び出たソレは、あろうことかミズチの母親を…自らの娘をよもや『失敗作』と罵り、そして娘の命を軽視している、親としての愛情の欠片もない下種な言葉であったのだから。

 

『失敗作』…自分の娘に対し、その言い捨ては何なのか。

 

どこまでもふざけた、性根の腐った【紫影】の言葉。ソレを聞いてしまった竜胆 ミズチが、瞬間的に湧き上がる怒りによってその『眼』を更に大きく見開きながら…

 

 

 

「…ふざけないで!お母さんが死んだのも、元はと言えば貴方の…」

『えぇそうですよぉ!全部ぜぇーんぶ私のせぇーい!貴女の母が死んだのも?貴女が地獄を見たのも?そう、全部ぜぇーんぶ私のせぇーい!ま、その時私死んだことになってましたし、私には関係ないんですけどねぇ、えぇ!』

「…関係ないって…全部貴方の所為なのに…ッ、血の繋がりなんていらなかった!貴方みたいな、犯罪者との繋がりなんて!」

訃怖(ふふ)っ!いいですねぇいいですねぇ!孫からの心地よい恨み、血の繋がった者からの怨嗟とはかくも心地よい!あぁ!なーんて気持ちの良い怨嗟なのでしょうねぇ!…えぇっと…そういえば貴女、なんて名前でしたっけぇ!?ミミズでしたっけぇ?浮腐婦膚斑(ふふふふふ)ぅ!』

「…ッ…」

 

 

 

けれども、【紫影】もまた自らの思想が腐っていることを大いに自覚していてもなお。

 

どこまでもふざけた態度を崩さず、下賎なる言葉を吐き続けるのみ。

 

…竜胆 ミズチからしても、世界最大の犯罪者とまで言われた男が血の繋がった祖父であったという事実など抹消したい繋がりに違いないというのに。

 

それでも、【紫影】はそんなミズチの気持ちを最初から理解しつつも彼女を馬鹿にし続け…そして自らの娘、ミズチの母に対しても下卑な言葉を投げ捨てた。

 

果たして…一体どんな性根をしていれば自分の娘や孫にそんな言葉が吐けるのか。

 

娘をけなし、孫を馬鹿にし…自らに課せられた大罪を、嘲笑いながら一蹴するその腐った性根。

 

 

それは、いくら血の繋がりを持っているといミズチからしても理解できない…

 

 

いや、理解できるはずもなく、それ以上に理解したくもない、正真正銘『屑』の中の『屑』。

 

 

狂っている…

 

 

話が、通じない―

 

 

 

「…ぼ、墓地のトリフィオヴェルトゥムの効果発動…捕食カウンターの乗ったネフィリムがいるから、トリフィオヴェルトゥムを守備表示で特殊召喚…ドラゴスタペリアの効果で、グリーディー・ヴェノムに捕食カウンターを乗せて…タ、ターン、エンド…」

 

 

 

ミズチ LP:2500→1700

手札:3→1枚

場:【捕食植物ドラゴスタペリア】

【捕食植物トリフィオヴェルトゥム】

伏せ:1枚

 

 

 

突如として更に禍々しく変化した【紫影】の雰囲気の前には、あれほど殺気立っていたミズチも気後れしてしまうしかないのか。

 

…まるで、人外のモノへとその雰囲気を変貌させた【紫影】。

 

発せられているのは人間の『言葉』ではなく、頭に直接響いてくるような気持ちの悪い嫌な『音』。

 

そんな、得体の知れぬ恐怖を駄々漏れにし始めた【紫影】に対し…

 

竜胆 ミズチが、形容し難い恐怖を感じ始めたとしても。それは本能的に、仕方のないことであり…

 

 

 

『私のターン、ドロー! ほらほらぁ、視えますかぁミミズちゃーん?私がドローした、たった1枚の私の手札が何なのか!』

「…【融合】…」

『ぶー!大はっずれー!婦負っ、所詮貴女の『眼』はその程度だってことです…さぁて、お涙頂戴、感動の対面を果たした『孫』に、もう一つ教育を施してあげましょうねぇ!墓地のカードを7枚除外し、【妖精伝姫-シラユキ】の効果発動!シラユキを墓地から特殊召喚しまぁす!』

「…シ、シラユキ!?」

 

 

 

【妖精伝姫-シラユキ】レベル4

ATK/1850 DEF/1000

 

 

 

しかし、そんなミズチを更に馬鹿にしながら。

 

【紫影】が発動を宣言したのは、心の捻じれた男には全く持って似つかわしくない、おとぎの国の姫の一体であった。

 

しかし、ミズチの記憶が確かならば…

 

 

 

 

 

「…シラユキって…そ、そんなカードいつ墓地に…だって、シラユキを墓地に送るタイミングなんてなかったはず…」

 

 

 

 

 

そう、この【妖精伝姫-シラユキ】は、【紫影】の墓地には存在しないはずのカードなのだ。

 

…【紫影】の墓地に送られたカードを、ミズチは全て把握している。

 

それはデュエルが始まってからずっと、【紫影】のカードを血眼になって見続けてきたミズチだからこその記。

 

ミズチの記憶によれば、このデュエルに記録では【紫影】が融合召喚の素材以外で、非公開情報のカードを墓地に送るタイミングなどたった1度だけだったはず。

 

 

 

―『…なぁんてねぇ!速攻魔法、【超融合】発動!』

 

 

 

そう、【超融合】…

 

ミズチには【瞬間融合】に見えていたソレを【紫影】が発動した時、間違いなく【紫影】は手札から1枚のカードを墓地へと捨てた―

 

シラユキを捨てるタイミングがあるとすれば、その1度だけであり…

 

 

しかし…よくよく考えればそれも可笑しな話か。

 

 

何せミズチの『眼』には、【紫影】の手札が全て視えていたのだ。いくら【紫影】が能動的に非公開情報のカードを墓地に送れたタイミングは、【超融合】の時のそのたった1度だけだったとは言え…

 

あの時の【紫影】の手札にあったコストは、ミズチの『眼』によれば確実に【バトルフェーダー】だけだったのだから、【紫影】の墓地に【妖精伝姫-シラユキ】が存在しているという現実は、ミズチからすれば相当にありえないコトであるはず。

 

 

 

 

 

 

けれども、そんな混乱に陥ったミズチへと向かって…

 

 

 

 

 

『おや、面白いことを言いますねぇ。シラユキを墓地に送ったタイミングぅ?そんなの、ネフィリムを出したときの【影依融合】に決まってるじゃないですかぁ!貴女の目の前で、あんなにも堂々とデッキから素材にしたと言うのに。』

「…嘘!だ、だって素材は【ライトロード・ライデン】のはず…」

 

 

 

【紫影】の口から発せられたのは、あまりに信じられない言葉であった。

 

何せ、【紫影】が【エルシャドール・ネフィリム】を融合召喚した時。彼は間違い無く、デッキから【ライトロード・ライデン】を素材にしていたはずなのだ。

 

…それはミズチも自分の『眼』で見ていた。間違い無く自分の耳で宣言を聞いていた。

 

だからこそソレはありえない。故にミズチには、【紫影】の言葉が何も信じられず…一体、目の前の男は何を言っているのか、と。

 

 

 

しかし…

 

 

 

『だから言ったじゃないですかぁ。『眼』に頼りすぎですよぉって。』

「…ッ!?」

 

 

 

【紫影】がそう告げたその瞬間―

 

 

 

―『そして再び【影依融合】発動!デッキから【シャドール・リザード】と【ライトロード・ライデン】を墓地に送り融合!来なさい、レベル8!【エルシャドール・ネフィリム】!』

 

 

 

 

ミズチの脳裏には、【エルシャドール・ネフィリム】を融合召喚するときの光景がフラッシュバックのように思い出され…

 

ソレと同時に、その時の光景がガラスを割ったように割れ始めたかと思うと。

 

 

 

ザザッ…ザザッ…と。

 

 

 

TVの砂嵐のようなモノが流れ込んでくる―

 

 

 

―『そして再び【影依融合】発動!デッキから【シャドール・リザード】と【ライトロード・ライデ…』

 

 

 

 

 

―ザザッ、ザザッ…と。

 

 

 

 

 

『そして再び【影依融合】発動!デッキから【シャドール・リザード】と【ライトロー…シラユキ】を…』

 

 

 

 

 

―ザザッ、ザザッと―

 

 

 

 

 

 

崩れ、落ちる―

 

 

 

 

 

 

 

―『そして再び【影依融合】発動!デッキから【シャドール・リザード】と【妖精伝姫―シラユキ】を墓地に送り融合!来なさい、レベル8!【エルシャドール・ネフィリム】!』

 

 

 

―!

 

 

 

「…ッ!?あっ…ぐ…」

 

 

 

瞬間的に、耐え難い頭痛がミズチを襲う。

 

それは針を直接脳に刺したかのような鋭い痛み。頭の中で何かが崩れ落ちたかのような耐え難い痛み。

 

一瞬だけであったために、何とか消えかけた意識を繋ぎ続けることは出来たものの…

 

しかし、自分の目ではなく『眼』で見ていた光景が、記憶ごと崩れ落ちたその感覚は…自分の視ていたモノが、【紫影】の言った通り『偽物』であったという感覚を、ミズチの本能的な部分に理解させてしまったのか。

 

 

ミズチの記憶と光景が、今…完全に崩れ落ちた―

 

 

あの時聞こえた宣言は、確かに【ライトロード・ライデン】だった。けれども、しかし実際にデッキから墓地に送られていたのは【妖精伝姫-シラユキ】であり…

 

そう、どうやったのか、【紫影】はミズチの『眼』に、現実とは異なる光景を視せており…謎の力を持った『眼』は、ミズチの視覚以外の感覚も掌握していたのか、『眼』に視えていた光景が、そのまま耳も騙していた。

 

つまりは…ミズチが視ていたその光景も、その宣言も。視えていたモノ、聞こえていたモノ、全てが幻まやかしまほろば。

 

それは、きっと『眼』を持つミズチにしか通用しない手なのだろうが…しかし、視えていた光景と、異なる現実が【紫影】の場にて繰り広げられるその違和感の奔流は、記憶の混同となりて頭痛となりてミズチの頭に襲いかかり…

 

 

 

『負訃っ、『眼』になど頼らず、自分の目で見てデュエルをしていればもう少し早く気付けたのですがねぇ…本当、期待はずれです。幻魔眼の見せているモノが、この世の現実なワケないじゃないですか。』

「…あっ…くぁっ…ぁ…」

 

 

 

 

 

痛い…痛い痛い痛い―

 

 

 

『眼』による力の奔流と、【紫影】に与えられた力の阻害がぶつかりあって、ソレが頭痛となりてミズチの身体に還元され続ける。

 

…それは想像を絶する痛み。

 

痛みには慣れているはずの竜胆 ミズチが、思わず膝を突いて倒れこんでしまいそうなほどに襲いくるその痛みは…果たして、どれほどの苦痛となってミズチを襲っているのか―

 

 

視えない…

 

 

全てを見通すはずの、『眼』が―

 

自分が視ていたモノは、自分が見通していたのではなく…【紫影】が見せていた、ありもしない幻影だったとでも言うのか。

 

…そんな焦りがミズチを襲う。頭痛が直接ミズチを襲う。

 

見えていたはずのモノが、視えていなかったというその事実は、己の眼に誇りを持っていたミズチには相当の絶望を与えながらミズチの『眼』から光を奪い…

 

何も、見えなくなっていく―

 

 

 

「…うぐっ…ぁ…はぁ…はぁ…」

『ほう、『眼』を引っ込めましたか…一応、自分の意思で操れるレベルではあるようですねぇ…でも良い勉強になったでしょう?そんな悪魔の眼に頼りすぎていると、本当に見たいモノが見えなくなってしまいますよ、と。…さぁて…では行きますよぉ!?シラユキの効果発動ぉ!ドラゴスタペリアを裏守備表示にしちゃいまぁす!』

「…ド、ドラゴスタペリアの効果発動!シラユキに捕食カウンターを…」

『いいですねぇその諦めの悪さ!耐え難い苦痛を堪えてまで、最後まで私への復讐心を捨てないその心!セラセニアントを手札に構えた、意地汚く生き残ろうとする生への執着!まさに穢れた竜胆の血に相応しい態度ですねぇ!ですがこれでドラゴスタペリアはもう効果を使えなぁい!イコール貴女はもう何もできなぁい!ということはもう貴女はコレで終わりでぇーす!』

「…ば、馬鹿に、しないで…まだ、私のLPは…」

『いいえ、馬鹿にしまぁす!魔法カード、【守備封じ】発動!』

「…ッ!?しゅ、守備ふう…」

 

 

 

またもや、ミズチの予想…いや、視えていたモノとは異なったカードを発動する【紫影】。

 

先ほど、ミズチの『眼』には確かに【融合】をドローした【紫影】が視えていたというのに…

 

シラユキだけではなく、ドローカードすら欺いていたというのか。…いや、もしかしたら、始めから自分の視ていたモノ、今見ているモノすらも『本当』の光景なのだろうか。

 

 

そんな恐怖が、今になってミズチへと更に襲いかかり―

 

 

ソレを嘲笑うかのように、【紫影】が発動したのはこのデュエルが高速化した時代において、あまり使われなくなった前時代的なカード。

 

そう、最初から馬鹿にされ続け、自分の縋る力をコケにされて。そしてこの佳境において、【守備封じ】というあまりに単純な前時代的なカードによってその勝敗を決定付けられる屈辱は…

 

果たして、【紫影】にこれまで馬鹿にされ続けたミズチに、どれだけの屈辱を与えるというのか。

 

 

 

 

『負腑腐っ、コレも『視えなかった』んでしょう?いかがでしょう、こんな前時代的なカードで敗北する気分は!手札に持っているセラセニアントも、使えなければ意味なんてありませんねぇ、えぇ!』

「…う…あ…ぁ…」

『苦しいですか?痛いですかぁ?…さて、愚かな『孫』に、一つ大事なコトを教えてあげましょうねぇ!貴女、私がスターヴ・ヴェノムを出すのを待っていたのもいいですけど…殺したいほど憎む相手を前に、手段を選ぶ余裕なんてないんですよぉ?トリフィオヴェルトゥムを攻撃表示に変更し、更に墓地から【ブレイクスルー・スキル】を除外して効果を発動!ドラゴスタペリアの効果を無効にぃ!』

「…ッ、ブレイク…スルー…そ、それも…」

『えぇ、何時墓地に送ったカードなんでしょうねぇ!もしかしたら、さっきの罠も【デモンズ・チェーン】じゃなかったりして!浮賦っ、なーんて…それでは続けてグリーディー・ヴェノムの効果も発動!トリフィオヴェルトゥムの効果を無効にし…その攻撃力を0にする!』

 

 

 

【捕食植物トリフィオヴェルトゥム】レベル9

ATK/9100→0

 

 

 

けれども、しかし、あろうことか―

 

 

そう、こんな性根の腐った人間の屑が、あろうことか『強い』のだ。

 

 

卑怯な手や、小癪な手を自ら好んで使用しようとするその捻じれ腐った心の裏に、幾重にも積み重なっている相手を超えうる確実な手。

 

そのカード選び一つ一つをとっても、ミズチの守りを確実に超えられる手筈をこうも確実に揃えきっていたという事実は、紛れも無く揺ぎ無い現実。

 

それは例え、【紫影】がどれだけ汚い手を取ってきても…いや、本当は『何もしていなかった』のだとしても…

 

そう、【エルシャドール・シェキナーガ】をいとも簡単に破壊させたり、【エルシャドール・ミドラーシュ】を微塵も守る気がなかったり、ミズチの手を止める素振りをほとんど見せなかったり…

 

そういった、【紫影】のこれまでのプレイングの雑さを見ても。【紫影】がミズチに対し、どこまでも手を抜いていたのは一目瞭然といえるだろう。

 

しかし、それでも…それでもこの勝敗が、最初から決していたかのように。ミズチの全てを嘲笑いながらも着けられる、このデュエルの正式な決着はあまりにレベルの違う力の証明となっていることは間違い。

 

…そう、全くもって本気ではない【紫影】の、このふざけた態度の裏に隠されているのは根本的な『力』の部分。

 

卑怯な手とか、小癪な手を取ることもいとわず。しかし根本的な『力』の部分すらも紛れも無い実力を持っているからこそ、下種で小物であるはずの【紫影】が、屑であり続けながらも裏決闘界の帝王とまで呼ばれているのだ。

 

犯罪者達すらも『力』で黙らせる、汚い手段の裏に確立された自身の実力。

 

それは紛れも無く、この世界最悪の犯罪者と呼ばれている男も、根本的な『力』の部分は間違い無く世界最高峰の力を持ってしまっていると言うことであり…

 

だからこそ、今では表の歴史からその存在を抹消されてはいても。30年以上も昔において、この男は表と裏でこう称えられ、そしてこう蔑まれていて―

 

 

 

かつて栄華を誇った融合名家、『竜胆家』の本家当主。

 

しかし大虐殺を犯し表社会を追放された、生まれついての屑の中の屑。

 

 

 

性根の腐った捻じれた男、世界最悪の大犯罪者。

 

 

 

 

 

 

裏決闘界融合帝…

 

 

 

 

 

 

 

 

【紫影】―

 

 

 

 

 

竜胆(りんどう) 蛇蝎(だかつ)

 

 

 

 

 

「…ッ!許さない…【紫影】!絶対に貴方を許さな…」

『孫に許してもらわなくて結構でぇす!バトル!グリーディー・ヴェノムで、トリフィオヴェルトゥムに攻撃ぃ!蠱毒のぉ…デッドリー・フィアンマー!』

 

 

 

 

 

―!

 

 

 

 

 

「…ッ、あぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁあ!」

 

 

 

ミズチ LP:1700→0

 

 

 

―ピー…

 

 

 

迸る毒の怨火を纏いて、少女を飲み込む狂った咆哮。

 

その凄まじき激轟は、このだだっぴろい大空洞の内部に酷く反響し…それに伴う無機質な機械音は、実体化したデュエルにおいても無慈悲にデュエルの勝敗を告げてしまうのか。

 

毒炎に飲み込まれ、背後に強く吹き飛ばされ…そして数度地面にバウンドし、力なくうつぶせに倒れこんでしまっている竜胆 ミズチ。

 

その姿はあまりにも痛々しく、そして死んでしまったのかと思える程に―

 

 

 

 

 

「あっはっはっはっは!確かに貴女が地獄を見たのは私の所為でしょうねぇ!けど、その時私死んでましたから、私に関係ありませんよねぇ!あーおかしい!必死に復讐に来たのに、おじいちゃんに遊んでもらっただけになっちゃいましたねぇ、えぇ!」

「…あぐ…っ…」

「おや、まだ息がありましたか…ふふっ、どうですかぁ?恨んで憾んで怨んでいた相手に、勝てそうだったのに負けた気分は。復讐にこだわり、みすみすチャンスを棒に振った気分は…おじいちゃんに遊んでもらった気分はどうですかぁ?ねぇねぇミミズちゃぁん、ねぇねぇ!」

 

 

 

いや、どうにかミズチも死んではいない。

 

けれども、それでもミズチの命の灯火は今にも消えてしまいそうなほどに…彼女がひどく傷付いているのが、傍からみてもおおいに分かることだろう。

 

しかし、そんなミズチに対する【紫影】の言葉は、決して再開を果たした血縁者に対する者の言葉では断じてないことに違いなく…

 

 

 

「…許…さない…【紫影】…絶対、に…」

「ふふ、そこまで悪態をつけるなら大したモノです。流石は私の血を引く者ですねぇ、ゴキブリ並みにしぶといしぶとい…ま、貴女程度がそのデッキで、『切り札』足り得るカードを自分で創造するなんて少々意外でしたが…それにしても残念でしたねぇ。こんなに手を抜いてあげたというのに、まさか私の血縁ともあろう者がこんなに弱いとは。もっと他に戦い様はあったはずでしょう?」

「…ぅ…」

「おや、流石に限界でしたか…では、一思いに楽にしてあげましょうかねぇ。私に敗けた者には『死』を…ソレが、私の決めた【裏決島】のルールです、えぇ。」

 

 

 

…狂っている。血の繋がった者に、ここまで嬉々としながら危害を加えられるなんて。

 

一体、【紫影】という男の精神状態はどうなっているのか。他人の命を奪う事に、何の抵抗も持たないどころか…寧ろ、命を奪うことに快楽を得るという異常な精神を持った、この男の心の中は。

 

まぁ、そんなモノ、誰であろうと理解できるはずもなく…それ以上に、理解など絶対にしたくはないだろうが。

 

そうして…

 

 

 

「ふふ、流石の私も、自分の孫を手にかけたことはありませんからねぇ。初体験はいつ味わっても面白いです、えぇ。」

 

 

 

あまりに狂いながら。どこまでも壊れながら。

 

 

今、ゆっくりと。【紫影】が、ミズチの首に…

 

 

そう、自らの孫の首に手をかけようとした…

 

 

 

 

 

 

その時だった―

 

 

 

 

 

「しえいぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃっ!」

 

 

 

―!

 

 

 

轟く咆哮、響く爆音。

 

突如大空洞に響き渡った、大地を揺らす燃え上がる叫び。

 

…そう、今にもミズチの首を絞めようとしていた【紫影】へと向かって、どこからか爆発音にも似たその声が大空洞の中に投げ込まれたのだ。

 

まるで、至近距離に雷でも落ちたか、ダイナマイトでも爆発したのではと錯覚するほどのその轟咆。

 

その、あまりの恩讐を孕んだ声と共に、突如大空洞へと現れたのは―

 

 

 

「…騒がしいですねぇ。次は一体誰ですか?」

「見つけたよ…この屑野郎がぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁあ!」

 

 

 

叫ばれるは怒り狂った、野生の獣と同じ咆哮。

 

この世界において、こんな怒りの野獣のオーラを醸し出せる人物など、世界中探したってたった1人だけしか該当しないに違いない事だろう。

 

 

そう、この場に現れたのは紛れもない…

 

 

王座を燃やす女武人、燃え上がる戦いの鬼…決闘学園サウス校理事長、天下に轟く燃え盛る女傑―

 

 

 

『烈火』、獅子原 トウコ―

 

 

 

「…誰ですか貴女?私、ババアの知り合いなんて居ないんですけど、えぇ。」

「とぼけてんじゃないさよ!ここで逢ったが100年目…骨も残さず、ぶっ殺ぉぉぉぉぉぉおす!」

 

 

 

戦いの余韻が充満する大空洞に…

 

 

 

 

 

『烈火』の叫びが、轟いたのだった―

 

 

 

 

 

 

―…

 

 

 

 

 

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