遊戯王Wings「神に見放された決闘者」 作:shou9029
―『劉玄斎プロはなぜ結婚されないのですか?』
最後にそう質問した記者が居たのは、もう何年前のことだろうか。
それは、今でこそ噂されることの無くなった話題ではあるものの…
―『…あぁ?何だテメェ、喧嘩売ってんのかぁ?』
―『ひっ!?い、いえ!そ、そういうわけじゃ…』
2~30年ほど前に、一時期世間で騒がれていた、『逆鱗』と呼ばれる劉玄斎の家族観に対する、世間の下世話な噂話。
そう、彼が引退して久しい今でこそ、『逆鱗』が独身であるというのは騒がれもしなくなった世界の常識ではある。
けれども、『逆鱗』が現役のプロデュエリストであった頃には…その収入の多さに対し、あまりに『浮いた話』が少ないという事が世間を一時期大いに賑わせていたのだ。
現役時代から数えても、スキャンダルが多すぎて記者が着いていけなかったエクシーズ王者【黒翼】と違い…女性関係で、浮いた話が『全く』と言っていい程出てこなかった歴戦の男、劉玄斎。
収入は膨大、功績は多大…その容姿は確かに世紀末を生きているのではないかと錯覚するほどに巨大なる体躯をしてはいるものの、それでも戦場を匂わせる凛々しさと相まって女性から生理的に嫌われるような風貌などでは断じてなく。
それどころか、古の武将の血を引いているとされているだけあって、寧ろ彼自身の容姿は整っているとさえ言われる部類であるのだから、その巨大な体躯と筋骨粒々な見た目を含めてもなお世間では良い男の部類と言われているほどであり…
そんな彼の野性的であるのに整った外見と、【王者】でないのに【王者】と同格と謳われるほどの業績を考えれば、女性からのアプローチはきっと数え切れないほどあったはずなのだ。
…それでも、彼は『全く』と言っていい程に女性関係を匂わせはしなかった。
特定の女性と関係を噂されれば、女性側のメンツなど意にも介さず高笑いで『全否定』する。
下賎な記者に記事を捏造されれば、冗談ではなく文字通りに記事を書いた記者本人を『捻り潰し』、『叩き潰し』、命が危ぶまれるまで『殴り潰す』。
大手の局に捏造を大々的に報道されれば、その報道した局と責任者を稼いだ金と腕力によって力技で壊しながら、公衆の面々で大々的に謝罪させ責任を取らせる。
暴力行為を法廷に訴えられれば、【王者】に匹敵する収入によって得た金にモノを言わせて訴えてきた側を法外的に返り討ちにする。
そんな、どこからどう見ても『異常』と思えるほどの『純潔』を誇りながら…
『逆鱗』と呼ばれた劉玄斎は、現役時代から引退した今の今まで、『結婚』や『交際』と言った女性問題の全てを、自らを遠ざけているのではないかと思える頻度で全て『否定』してきた。
…スキャンダルが多すぎるエクシーズ王者【黒翼】と違い、『浮いた話』のひとつも無く、引退していった男、劉玄斎。
それは彼の収入、知名度、貢献度、活躍の大きさから考えれば、ある意味異常であるとさえ思える程。
【王者】と同格と謳われた男であるのだから、女性側からは引く手数多であるはずだと言うのに…
…しかし、それでも彼は頑なに所帯を持とうとは絶対にせず。
一時は『男色』だとか『女性が苦手』だとか、『隠し子』や『内縁の妻』が居るとまで憶測が飛び交った事もある。
けれども、そんな噂のどれもが信憑性に欠け…捏造が即『命取り』になることを理解している記者達がどれだけ奮起しても、その真相を解き明かす事はできなかったのだ。
ソレ故、引退する最後まで潔癖を誇った彼だからこそ―
彼がプロを引退して久しい現代においては、最早その話題は盛り上がることすらなく世界の常識とまでなっているのか。
…特定の女性と関係を持たず、彼が生涯『独身』を貫いているというのは、『逆鱗』を良く知るファンにとっては常識中の常識以前の常識とも呼べない常識以下の基礎知識。
だからこそ、その頑なに所帯を持たないことで有名であった『逆鱗』に対し。
今では世界の方が彼に対する憶測をすることを辞め、引退してもなお多大なる影響力を持つその名に対し、好き勝手にモノを言うことを世界の方が諦めたのだ。
世界に勝った…大衆に勝った…
そんな、『潔白』を常に証明し続けていた歴戦の男、劉玄斎。
そんな、結婚すらしていない、特定の女性の影すら見えなかった男、劉玄斎が…
【決島】の中央、『大空洞』…
そこで、裏決闘界の融合帝、【紫影】に頭を踏みつけられながら…
「え…そ…祖父って…」
「おやおや?まだ何も聞いていなかったみたいですねぇ…ふふ、まぁ『Ex適正』の無い子どもが孫だなんて、『逆鱗』だって隠したい事だったんでしょうし、当然でしょうが。」
「あ…」
【紫影】に頭を踏まれ倒れている、デュエリア校学長の『逆鱗』を見て。
決闘学園イースト校2年、天城 遊良の思考は、【紫影】が今先ほど放った言葉によって、何もかもが真っ白の状態になってしまっていた。
…そう、それは【裏決島】の終結を目指して、この『大空洞』へと飛び込んできた天城 遊良へと向かって【紫影】のが放ったある言葉のせい。
【紫影】は言った…遊良の思考を、真っ白にしてしまう衝撃的な言葉を―
―『…天城 遊良、あなたもすぐに、ここで倒れている祖父と同じ目に遭わせてあげますから、えぇ。』
…と。
「な…ば、馬鹿なことを言うな!『逆鱗』が…お、俺の祖父だなんて…そんなこと…あるわけが…」
「ふふっ、本当に何も知らないんですねぇ。けど残念ながら本当の事なんですよねぇ!あ、天涯孤独の貴方にとっては、残念ではなく喜ばしいことですかねぇ?えぇ。」
そう…たった今【紫影】は、倒れて気を失っている劉玄斎を踏みつけながら、そして天城 遊良を嘲笑いながら、彼らを指して信じられるわけもない『関係性』を嬉々として宣言したのだ。
『祖父』…
それは紛れも無く、天城 遊良と『逆鱗』の劉玄斎に、『血の繋がり』があると言う事の照明。
『母方』ではない…紫魔家の血を引くと判明した『母方』の血では絶対にない、エクシーズ召喚の使い手である劉玄斎は紛れも無く『父方』の祖父であると言う事。
そう、荒々しくも優しかった父、天城 竜一の…
けれども、とても遊良には【紫影】が今言った言葉がどうしても信じられない。いや、信じられるわけがない、信じたくとも飲み込めないと言った方が正しいだろうか。
…天涯孤独。
両親も親類もいない、血の繋がりこの世界に1つもないというその孤独。
その、『血の繋がった者』がこの世界に誰1人としていないその孤独感を…遊良は幼い時分から、これまでずっと抱いて生きてきたのだ。
11年前…『5歳』の時に『Ex適正が無い』と宣告され、ソレと同時に行方が分からなくなってしまった自分の両親…父、天城 竜一と、母、天城 スミレ。
その厳しくも優しい、大好きだった両親が自分の前から居なくなったときの寂しさと悲しさと孤独と絶望は…とてもじゃないが、当時5歳だった遊良には抱えきれないほどの感情となりて、幼い遊良をいとも簡単に殺そうとしてきていた。
…だからこそ、今でこそ多少吹っ切れているとは言え。
遊良がこれまで抱いてきた『孤独』という名の感情は、胡散臭い【紫影】の言葉という、信憑性に欠けるこんな些細な事でさえも押さえきれない程に溢れ出してしまうのか。
…しかし、ソレも仕方のない事だろう。
何せ、遊良が両親をなくしたのはまだ『5歳』の時。甘えたい盛りの、精神的にも自立などしていないそんな幼少の頃に両親が居なくなり…
5歳という幼さで世界にたった一人だけ取り残された、血の繋がりを他に知らぬというその『孤独』は、遊良に相当の絶望をずっと与えていたのだから。
それは鷹矢が居たとは言え、ルキが居たとは言え。幼馴染2人が自分の傍にずっと居てくれたとは言え、これまでずっと拭いきれない孤独感を遊良が感じていたことは紛れも無い事実。
信じられない…けれども、信じてしまいたい…いや、信じられるわけがない…けど…だけど…だって―
そんな何気なく呟かれた【紫影】の言葉に、心を強く揺さぶられる天城 遊良。
いくらソレを明かしたのが、胡散臭さが服を着ているような捻じれた男、裏決闘界の融合帝【紫影】の言動とは言えども。いや、ソレが【紫影】という、使えるモノは何でも使うどこまでも『卑怯』な屑であるからこそ―
『逆鱗』が自分の祖父であるというその言葉が、【紫影】の『嘘』である可能性と同時に…自分を動揺させるための本物かもしれないという、その『もしかしたら』という思いも遊良も心の奥底で浮かび上がってしまっていて。
そう、『思ってしまった』のだ…
信じてはいけない、そんなこと遊良にだってわかっている。けれども『理性』とは遠く離れた『本能』…いや、遊良がこれまでずっと押さえてきた『孤独』という感情の前では、こんな事態とは言えとても遊良にはソレを押さえる事など出来はせず。
だからこそ、その時点で【紫影】の思う壺だというコトは遊良だって理解はしていても。それでも遊良の心には、どうしようもない動揺と焦燥が抑える事など出来ずに生み出されてしまっていて。
…もしかしたら、『逆鱗』は『血の繋がった』家族かもしれない。
そんな淡い期待が、【紫影】の放った何気ない言葉によって…天涯孤独という、これまで押さえてきたはずの孤独感と絶望感と共に。
『こんな時』に、遊良の心にまるで洪水のように溢れ出してしまって―
「遊良!惑わされるな!」
しかし…
淀みが生じた遊良へと、活を入れなおすかのように。
混沌渦巻くこの大空洞に、高らかに響き渡ったのは誰にも染まらぬ鷹矢の叫び。
それはこの【裏決島】の元凶である【紫影】を前にして、思わぬ形で動揺させられた相棒を正気に戻す鋭い言葉の厳しい鞭でもあるのか。
…そう、【紫影】の言葉の『真偽』はどうあれ、今この現状においては遊良の感情よりもなお優先するべき事があるのだとして。
この世の誰よりも遊良の傍に居続けた男が、相棒の孤独感を遊良と同じくらいに理解しつつも。今、真っ先にやることを明確にして…
遊良へと向かって、激を飛ばす。
「何を動揺しているのだ!俺達が今やるべき事は一体『何』だ、余計な事に囚われている暇などないのだぞ!」
「鷹矢…」
「理事長から言われたであろう!あの男の言動、行動、その全てが嘘!奴の言葉は、何も信じるなと!」
「で、でも…」
「『でも』も『けど』も無い!アイツが何者だろうと、お前と誰が血が繋がっていようと!そんなこと、今は『どうでもいい』ことではないか!」
「ッ…」
『どうでもいい』…鷹矢のその言葉は、天涯孤独の遊良に対するモノとしてはどこか冷たさすら感じる代物にも聞こえたことだろう。
何せ、血の繋がりを他に知らぬ遊良に対し…父母が居て、祖父が居て、他にも親族が大勢いる立場からの鷹矢の言葉は、ある意味で天涯孤独の遊良へと向ける言葉にしてはどこか真逆の立場からの言葉となってしまうのだから。
…血の繋がった家族の居ない天城 遊良。血の繋がった親族が大勢いる天宮寺 鷹矢。
その立場はまるで真逆。いくら生まれた時から一緒に過ごしている幼馴染同士とは言え、これでは遊良の戦意を削ぐだけの…遊良の心に、ダメージを与えるだけの言葉になるとさえ思えるモノだと言うのに。
「奴の言葉など聞くな!その口から出るモノ、その全てが『嘘』だと割り切ってしまえ!そして真偽は奴を倒してからハッキリさせればいい…だから俺達の、今やるべき事を忘れるな、遊良!」
「…そ、そうだった…あぁ、そうだよな、あんな奴の言う事なんて嘘に決まってる!」
「うむ!奴はお前を動揺させるつもりなのだ!いや、仮に『本当』なのだとしても、今はソレをとやかく言っている暇などない!わからぬことに惑わされるな!奴を倒すこと以外、今は全てどうでもいいことだ!」
…けれども、鷹矢の言葉からはそう言った『余計』な感情の混ざりなど一切感じず。
そう、鷹矢にあるのは、ただただ自分の相棒たる遊良に対し。片割れとして、自分の片翼が折れかけたこの時に異なる精神面からただ支えているという、どこまでも2人で1つの強固な絆、ただそれだけ。
…別に、鷹矢とて【紫影】の言葉に驚かなかったわけではない。
生まれた時から遊良と共にいる鷹矢なのだ。この世界の誰よりも遊良を理解している彼にとっては、遊良と『逆鱗』に血の繋がりがあるかもしれないという【紫影】の言葉は遊良と同じくらいの衝撃を与えられたのだから。
―鷹矢は知っている…いや、一緒に経験している。
遊良の味わってきた苦しみを。遊良が抱いてきた悲しみを。遊良が感じていた寂しさを。
そんな抱えきれない負の感情に苛まれていた遊良を、誰よりも近い場所でルキと共にずっと見てきたのは他ならぬ天宮寺 鷹矢なのだ。
幼少の頃に、自らの命すらも捨てようとしていた遊良を見て、一緒に逝ってやろうと考えていた時期も鷹矢にはあった。
けれども、そんな遊良の弱い部分を…ある意味、遊良以上に知っている天宮寺 鷹矢からすれば…いや、遊良の抱いた負の感情を、遊良本人と同じくらいに理解している他ならぬ天宮寺 鷹矢だからこそ―
遊良と『逆鱗』に血の繋がりがあったという、その【紫影】の言葉に遊良と同じくらいの衝撃を受けつつも。片割れの遊良が動揺させられてしまった今、片割れの自分は動揺するわけにはいかないのだとして。
どこまでも精神的支柱となりえるべく、揺れず曲がらず遊良を支え、諸悪の根源にただ立ち向かうだけ。
「だから思い出せ遊良!俺達の今やるべき事は何だ!奴の話など何も聞かず、耳を貸さず!」
「有無を言わさず…【紫影】を叩き潰す!それだけだ!」
「うむ!」
「はぁ…酷い言われようですねぇ。私、生まれてこの方『嘘』なんてついた覚えがないんですがねぇ、えぇ。」
そして、揺さぶられ、折れかけていた少年が、完全に支えられて立ち直ったその場面を見て。
溜息混じりに、そしてとてもつまらなさそうに。反吐を吐くようにして、そう言葉を漏らした裏決闘界の融合帝、【紫影】。
…ソレが、その吐く言葉が。
その全てが『嘘』だというのに、ソレを自分でわかっていつつも呼吸をするように嘘を吐く彼の思考には…一体全体、『何』が詰まっているのだろうか。
常人では理解出来ないその思考。常人は理解したくもないその思想。
およそ常人と呼べるだけの精神状態では断じてない、このどこまでも捻じれた男は卑怯な手を使うことに何の抵抗も見せようとはせず…
そのまま、【紫影】という性根の腐った下種は。嬉々として、下卑たる言葉を更につらつら述べるだけであり…
「それよりいいんですかぁ?貴方達がこうしている間にもぉ…『赤き竜神』の少女の下には私が忍び込ませた刺客が迫って…」
「俺達を舐めるな、この屑野郎!」
「そんな脅しなど効かん!既にルキの無事は証明されている!」
「…ほ?」
しかし…
今度は完全に立ち直った遊良と、初めから揺さぶられもしかなった鷹矢が。
再度揺さぶりにかかった【紫影】の言葉に、揺さぶられることなく薄汚い下種の言葉を一蹴の後に切って捨てる。
「ルキは今、強い味方が守ってくれている。それに、そこには砺波先生も居る…だから俺達は、なんの迷いも無くお前と戦えるってことだ!舐めるなよ、【紫影】!」
「脅し、陽動、虚言、幻惑!そんなモノに惑わされる俺達ではない!ルキを人質にしようとしても無駄だ!あの理事長が任せろと言って俺達を送り出したのだぞ?貴様の放った刺客程度が、ルキをどうこうできるわけがない!」
「へぇ…」
迷いのない彼らの声から察するに…彼らは本気で高天ヶ原 ルキの無事を信じて…いや、『わかって』いるのだろう。
そう、どこまでも迷いの無い遊良と鷹矢の言葉には、【紫影】の言葉に惑わされそうになっていた先ほどまでの危うさなど既に微塵も感じられず。
ソレはここまで来る間に、彼らの中でルキの安全がこれ以上無いくらいに確立されたが故なのか…
【王者】のレベルを超え、【化物】となった【白鯨】砺波 浜臣があの天空の塔を守っているというその信頼。そしていくら【紫影】が数で攻めようとしたところで、【白鯨】の守りの奥に底抜けに『運』の良い男がルキを守ってくれていると鍛冶上 刀利に教えられたのだから…
これ以上、【紫影】がどれだけ揺さぶりをかけてこようとも。ルキを守ってくれている者達の力を誰よりも知っている遊良と鷹矢からすれば、ルキの安全はもう確保されているようなモノなのだから。
「なぁんだ…騙されやすい子どもかと思えば、意外と『分かってる』じゃないですか。…ま、確かに貴方達のいう通り、忍び込ませた刺客はあっけなく『運』のいい子どもにやられたようなんですよねぇ…だからシンクロ崩れの分家なんて信用ならないんです、えぇ。」
ソレ故、【紫影】もまたこれ以上の精神への揺さぶりは無駄だと理解したのだろう。
…【紫影】の目に映るのは、思ったよりも強い絆と理解で結ばれた青く若い子ども達の姿であり…
そのまま、【紫影】は『塔』への襲撃が失敗に終わっているというのにも関わらず。
宣言した『目的』であるはずのソレすら、まるでどうでもいいことのように捻じれた吐息を漏らしながら…
遊良達ではなく、使えない『駒』への失望を顕にしつつ。どこまでも飄々とした佇まいを変える事無く、戦意を全開にしている若者2人へと向かって気怠そうに言葉を続けるだけ。
「まぁいいでしょう。でしたらさっさとお相手してあげましょうねぇ。けど、面倒なので2人してかかって来てください?どうせ、最初からそのつもりだったんでしょうし。」
「…あぁ、悔しいけど、今の俺達じゃ1人で向かって行ってもお前には勝てない。」
「こんな事態なのだ、俺達のやるべきことは貴様を一刻も早く倒すという事のみ!2対1だが、卑怯な貴様に卑怯と言われる筋合いもないぞ!」
「ふふっ、卑怯も何も…『逆鱗』や『烈火』を相手にするんじゃないんですから、別に2人でかかってきたって構いませんよぉ?それとも、もっとハンデをあげた方がよろしかったですかねぇ。なんなら、手札0からスタートしてあげてもいいんですよぉ、ふふふふふっ。」
吐き出されるは下種の煽り、粘度の高い悪意の言霊。
2対1だというのにも関わらず、大空洞へと吐き出される【紫影】の言葉はどこまでも胸糞の悪い煽りとなりて少年達へと届けられる。
…しかし、そのあからさまに遊良と鷹矢を舐めているような言動は、彼が遊良と鷹矢を軽く見ている証拠でもあるのか。
そう、世界最強の【王者】に匹敵する、裏決闘界の【三帝王】の1人として。いくら2人かがりとはいえ、学生程度では相手にもならないのだと言わんばかりの屑の態度はどこまでもどこまでも遊良と鷹矢を煽るだけであり…
「ふん、そうしてくれるならば大いに助かる。楽にお前を倒せるのだからな。」
「なりふり構ってられない状況なんだ。卑怯者のお前がハンデをくれるっていうならありがたく貰う。」
「…チッ、可愛くないガキですねぇ。もっと憤慨しなさいよ、えぇ。」
けれども、遊良と鷹矢は揺さぶられない。
そう、『もう』揺さぶられない―
皮肉に皮肉を返す遊良と鷹矢の精神は、彼ら2人が揃って【紫影】に対峙しているからこそ立ち向かえる強靭なりし無敵の矛ともなりえると言える代物となりて、【紫影】の捻じれた煽りを真正面から切って捨てる。
…遊良1人ならば、【紫影】の言葉に惑わされた時点で終わっていた。
…鷹矢1人ならば、【紫影】相手に実力が足りずに終わっていた。
しかし、今立っているのは折れてはいない2人のデュエリスト。
そう、彼らは【決闘祭】を優勝した天城 遊良と、【決島】で優勝した天宮寺 鷹矢。その世界中の学生の中でもトップレベルの実力を持った、唯一無二なる2人のデュエリストが2人揃って【紫影】へと立ち向かおうとしているその雰囲気はプロにも劣らぬ圧巻の一言であり…
いくら【紫影】が、【王者】と同等の力を持つとされている、裏決闘界の【三帝王】の1人と言えども。
遊良も鷹矢も、お互いがお互いに一緒に戦うという意思を1つにしているからこそ…その彼ら2人の雰囲気が1つとなった圧力は、歴戦のプロにも負けず劣らずの相当たる『強者』の重圧となりて【紫影】へと向かっているのだから。
…遊良、鷹矢も。この地獄のような【裏決島】の状況が分かっていないほど、馬鹿でもないし無能でもない。
それは、確かに悔しさを感じながらも…今の【紫影】は少なくとも、自分達よりも『格上』だと認めているからこその冷静なる判断能力。
…いくら【紫影】が屑で、小物で、下種で、卑劣な、どうしようもない卑怯な奴なのだとしても。
それでも、この男は紛れも無く『極』の頂に立っている―
ソレが分からぬほど遊良たちは馬鹿ではないし、ソレを理解出来ぬほど鷹矢たちは子どもでもない。だからこそ、例え2対1で戦うしかなかろうとも。遊良も鷹矢も、この地獄の様な【裏決島】を一刻も早く終結させるために…
他人を小馬鹿にし続ける下種。他人を下に見続ける屑。そんな性根の腐った捻じれた男【紫影】に対し、少年達は『もう』下手な怒りを感じることもなく。自分達に出来ることを、ただひたすらに実行するだけであり…
「ゆくぞ【紫影】!貴様を倒して…」
「この馬鹿げた地獄を、今すぐ終わらせてやる!」
…お互いにデュエルディスクを構え始める、【紫影】とイースト校の少年達。果たして、コレが【裏決島】最後のデュエルとなるのだろうか。
ピピッと言う聞きなれない機械音の後に、デュエルディスクがルールを決める…複数人という状況下で、自動的にそのルールを。
…日常ではほとんど見かけないものの、デュエルディスクが判定する自動ルール設定にはまだまだ謎が多い。
そんな中で呈示されたのは『全員が先攻ドロー無し』、『初ターンの攻撃無し』という、多対一においてはあくまでも普通なルール設定であり…
しかし、タッグデュエルと根本的に違うのは、【紫影】の『普通』の場に対し…遊良も鷹矢も、それぞれ自分の『フィールド』と『デッキ』が許されている上で『タッグ』を認められていると言うことだろう。
つまりは、【紫影】の5枚の初期手札と5つのモンスターゾーンと5つの魔法・罠ゾーンと1つのフィールドゾーンとデッキに対し…
遊良と鷹矢は、共有の場と墓地とに合わせて計10枚の初期手札と計10のモンスターゾーンに、計10の魔法・罠ゾーンと計2つのフィールドゾーン・デッキを持っていると言う事。
…ディスクに呈示されているのは紛れも無く、【紫影】vs.『遊良&鷹矢』の文字。
それすなわち、デュエルディスクの自動判定がそれだけ【紫影】と少年達との間に力の差があると判断したということでもあるのだが…
まぁ、10のモンスターゾーンと魔法・罠ゾーンとは言え、流石に1人の領域は5つずつであり、自分が出していないモンスターの攻撃宣言や魔法・罠の効果発動・使用は出来ず、遊良と鷹矢のLPはそれぞれに4000ずつではあるのだが。
…それでも、2vs.1と言うのは単純に考えても2人組に相当の有利が働くはず。
そんな自動ルール判定の結果に何の疑問も抱く暇もなく…2vs.1という変則的なデュエルを前に、遊良も鷹矢もただただ目の前の【紫影】を睨みつけながら、全く怯むことなく立ち向かう。
…デュエルディスクを構え、現れたデッキから手札を引く遊良と鷹矢。
他の学生達の命運もかかっている、この大空洞の重い空気の中…
構えている遊良と鷹矢に応じるように、ニヤニヤとした捻じれた笑いを零す【紫影】もまた同じく手札を引いたかと思うと…
「若い子はイキがいいですねぇ…では…」
この重々しい空気が充満する『大空洞』の中で、ソレはどこまでもハッキリとした宣言となりて―
―デュエル!!!
それは、轟く。
先攻は、【紫影】。
「私のターン!モンスターとカードを1枚ずつセットしてターンエンドでぇーす!」
【紫影】 LP:4000
手札:5→3枚
場:セットモンスター1体
伏せ:1枚
デュエルが始まってすぐ…
あまりに少ない行動で、そのターンを終えてしまった裏決闘界の融合帝、【紫影】。
…それは全員が初ターンの攻撃を許されていないとは言え、あまりに少なすぎる高慢な初動。
そう、彼が今相手をしているのは、世界中の決闘学園の学生の中でもトップクラスの実力を持っていると言っても過言ではない学生であると言うのに。
「貴様、随分な自信だな。バトルが出来ないとはいえ、たったソレだけでターンを終えるとは。」
「おや、私のスタイルがお気に召しませんか?ふふっ、心配御無用です。コレが私のヤり方ですので…まぁ、馬鹿正直に展開してしまうと貴方達のターンに荒されてしまいますからねぇ。とりあえず、先攻はこの程度でしょう、えぇ。」
しかし、【紫影】はどこまでもその捻じれた態度を崩すこと無く。あくまでもどこまでも、飄々と気色の悪い捻じれた笑みを浮かべながら、掴み所なくユラユラ佇んでいるだけであり…
…複数人を相手にするというのは、傍から見ているよりもずっと難しい。
だってそうだろう。通常であれば1人にのみ注意していればいいはずの展開も、2人同時に相手をしなければならないこの状況においては片方に集中してしまえばもう片方を止められずに攻められてしまうのだから。
…しかも、今【紫影】が相手にしているのは、取るに足らない有象無象とは訳が違うのだ。
【紫影】が同時に相手をしているのは昨年度の【決闘祭】でも今回の【決島】でもそれぞれが優勝と準優勝を飾った、世界中の学生の中でも最上位と言ってもいい程の実力を持ったイースト校の恐るべき2年生達。
学生とプロを分ける実力の『壁』を超え、プロのトップランカー達が身を置いている『先』の地平に学生の身でありながら辿り着いた…イースト校2年の、天城 遊良と天宮寺 鷹矢であるのだ。
相手にもならない有象無象が相手であれば、確かにこの程度でもどうとでもなる。けれども、今対峙している少年達はこの歳の学生にしてはあまりに恐るべき才能を持った、100年に1人現れるかどうかというその稀有なる才のデュエリスト達。
そんな才覚を備えた伸び盛りの少年達が、揃って対峙しているのだから…1人ずつ相手にするのとはわけが違い、【紫影】とてこの状況は相当のプレッシャーになっているはずだと言うのに…
それに加え、今回のルールは遊良と鷹矢にそれぞれモンスターゾーンと魔法・罠ゾーンが与えられている、【紫影】にはとことん不利なルール。これでは、幾ら【紫影】が決闘界の【王者】達と同じ頂きに位置している裏決闘界の【三帝王】とは言え。
向かってきているプレッシャーは、相当たる代物になっているに違いなく…
「ならば望み通り、がら空きでターンを迎えるがいい!俺のターン、俺は【ブリキンギョ】を召喚し、その効果で【ゴールド・ガジェット】を特殊召喚!そしてゴールドの効果で【シルバー・ガジェット】を!シルバーの効果で【グリーン・ガジェット】を特殊召喚する!来い、ガジェット達!」
―!!!!
【ブリキンギョ】レベル4
ATK/ 800 DEF/2000
【ゴールド・ガジェット】レベル4
ATK/1700 DEF/ 800
【シルバー・ガジェット】レベル4
ATK/1500 DEF/1000
【グリーン・ガジェット】レベル4
ATK/1400 DEF/ 600
それ故、ターンを迎えて迅速に。一瞬の刹那に、実に4体ものモンスターを場に呼び出したイースト校2年、天宮寺 鷹矢。
…それはどんな時でも変わらない、彼お得意のガジェットモンスター達による迅速なるいつもの展開。
そう、いくら【紫影】が得体の知れぬ存在で、そして学生である自分達をとことん舐め腐っているのだとしても。それでも、敵の策略に乗っかってアツくなる事が、果たしてどれだけ危険なのかを本能で理解している鷹矢だからこそ…
相手が油断なら無い相手であろうと、いや祖父と同じ頂きに立っている【紫影】であるが故に。下手に身構えるのではなく、あくまでも自分の力をぶつけるのだと言わんばかりの勢いが形となりて…
「そしてグリーンの効果で、デッキから【レッド・ガジェット】を手札に加える!」
「…ふふっ、ガジェットとは、若い頃の【黒翼】を思い出させますねぇ。果たして祖父のような才が貴方にありますかねぇ、えぇ。」
「俺をジジイと比べるな!俺はゴールドとシルバー、2体のガジェットでオーバーレイ!エクシーズ召喚!ランク4、【ギアギガントX】!更にブリキンギョとグリーンでオーバーレイ!エクシーズ召喚!ランク4、【ギアギガントX】」
―!!
【ギアギガントX】ランク4
ATK/2300 DEF/1500
【ギアギガントX】ランク4
ATK/2300 DEF/1500
現れたるは鋼鉄の機兵。鷹矢のデュエルの始まりを飾る、2体の強き鉄機兵。
…轟く豪腕、唸る体躯。
ソレが、2体…一瞬で並び立った4体ものレベル4モンスター達の展開から間髪入れず、更に2体のエクシーズモンスターを揃えるその速さは彼がこれまで培ってきた崩れぬ強さをありありと見せ付けており…
そのまま鷹矢は、目の前の捻じれた男を見据えながら。
どこまでも舐めた態度を取り続ける、裏決闘界の融合帝【紫影】へと向かって。次に備えながらも油断もなく向かいつつ、威風堂々と吼えるのみ。
「【ギアギガントX】2体の効果発動!オーバーレイユニットを1つずつ使い、デッキから2体目のゴールドとシルバーを手札に加える!」
「同じモンスターを2体…ですがそのモンスターでは、私の場を空ける事は…」
「いいや、これで良いのだ!俺は俺に出来る事を、俺の手が回らぬところは遊良が!それぞれ解決すればいいのだからな!」
「…ほう?」
「続けて【エクシーズ・ギフト】発動!【ギアギガントX】2体のオーバーレイユニットを1つずつ使い2枚ドロー!【アイアンドロー】も発動!2枚ドローだ!」
【紫影】の言葉を遮って、更に猛るは鷹矢の宣言。
…それは良くも悪くもいつもと変わらぬ、先攻における鷹矢のいつもの流れ。
お得意のガジェットモンスター達を駆り、鋼鉄の機兵を呼び出し次に備えるという…【紫影】を前にしてもなお、いつものデュエルと変わらぬ展開を鷹矢は堂々と繰り広げ続けて。
…普通、目の前の相手が油断ならぬ強者であると分かっているのならば、もう少し警戒を強くしていつもと展開を変えるのが人のサガだというのに。
けれども、天宮寺 鷹矢は慄かない―
そう、例え目の前の相手が、祖父と同じ頂を見たほどの相手であったとしても…否、目の前の相手が、恐るべき強者であると理解しているからこそ。
下手に手を変えてジリ貧になるのではなく、己の持てる力をそのままぶつけるだけなのだとして。いつもと何も変わらない不遜なる大胆な自信の下に鷹矢はどこまでもいつも通りの展開と行動を魅せ続け…
しかし…
「よし、魔法カード、【ナイトショット】発動!何か知らんが、貴様のその危なそうな伏せカードを使わせずに破壊する!」
撃ち抜く弾丸、死角からの一発。
自らの宣言の1つを実行すべく、鷹矢が【紫影】の伏せカードへと狙いを定めた…
―その時だった。
「…ま、そう来ると思ってましたが。破壊された【やぶ蛇】の効果発動。Exデッキから融合モンスター、【異星の最終戦士】を特殊召喚します。」
「何!?」
―!
【異星の最終戦士】レベル7
ATK/2350 DEF/2300
突如…
【紫影】の場に現れたのは、破滅した星に1人佇む孤独なる異形の戦士であった―
…それは素材にそれぞれ指定のモンスターを要求する、召喚するのが難しい部類の融合モンスターの一体。
けれども、確かに難しい召喚方法に相応しい重圧を持つ…孤独になったが故に、ソレを全てのデュエリストにも強要してくるという、恐ろしき効果を持った最後の戦士。
「【やぶ蛇】だと…?馬鹿な…」
「さて、【異星の最終戦士】が特殊召喚に成功したので、私のセットモンスターが破壊されます。…破壊されたのは【シャドール・ヘッジホッグ】。その効果により、デッキから【シャドール・ファルコン】を手札に加えさせていただきましょう、えぇ。」
「ぬぅ…」
…迂闊だった。
理事長である【白鯨】砺波 浜臣から、【紫影】は喰えぬ男だと注意を受けていたと言うのに。
あんなにも分かりやすい罠に引っかかり、手を出さなければ害はなかったであろう罠を自ら踏んでしまったなんて…それは鷹矢本人からすれば、屈辱以外の何物でもないことだろう。
…しかし、ソレは言い換えれば、天才の名を欲しいままにしている天宮寺 鷹矢ほどの『嗅覚』を持ったデュエリストであっても、【紫影】の伏せていたカードは嗅ぎ分けられなかったというコト。
そう、プロのトップランカー達が彷徨っている『先』の地平に、学生の身で辿り着いている天宮寺 鷹矢を持ってしても。その鷹矢をいとも簡単に手玉にとってしまった【紫影】の行為は、とてもじゃないが並の強者では到底出来ない攻防であるのだから。
…もしここに他のギャラリーが居たら、今の【紫影】と鷹矢の行動と結果が理解できただろうか。
いや、出来はしない―
きっと、ギャラリーの目には鷹矢があっさりと罠に引っかかってしまったようにしか見えないだろう。
けれども、その結果に至るまでの見えない『攻防』の意味を理解できる者であれば…きっとこの攻防だけで、【紫影】と鷹矢の力の差を嫌でも理解してしまうはず。
撃ち抜かれた【やぶ蛇】も、破壊された【シャドール・ヘッジホッグ】も。それ自体は守りに適したカードとは言えず、2対1という状況下で守りに適さない『2枚だけ』を場に伏せてターンを終えるなんて、常人では考えようともしないはず。
けれども、あまりに堂々とソレだけを伏せてターンを終えるものだから…鷹矢の嗅覚は、【紫影】の罠を『破壊するべき』として嗅ぎ取ってしまったのだろう。
それは鷹矢の嗅覚を逆手に取ってしまうほどに、【紫影】の立っている『場所』は鷹矢が居る『先』の地平よりも更に高いというコトであり…
「ふふっ、こんな分かりやすい手に引っかかってくれてありがとうございます。おかげで適当にExデッキに入れていたモンスターも出すことが出来ました。いやぁ、儲けモノですねぇ、えぇ。」
「ぐっ、貴様ぁ…」
「おやおやぁ?最初の勢いはどうしたのでしょうねぇ?えっと、私の場を…何でしたっけぇ?ふふふっ、貴方が余計な事をした所為で、天城 遊良が不利になってしまいましたねぇ。」
「チィッ!遊良、アレを何とかしろ!俺はカードを2枚伏せてターンエンドだ!」
鷹矢 LP:4000
手札:5→3枚
場:【ギアギガントX】、【ギアギガントX】
伏せ:2枚
そうして…
不快感しか抱かぬ【紫影】の言葉に煽られながら、文字通りやぶを突いて蛇を出してしまった鷹矢が。
【紫影】の捻じれた雰囲気を、無理矢理に引き剥がすように声を荒げつつ…
遊良を不利にしてしまったことに対し、どこか言葉を荒げながら今、そのターンを終え…
「俺のターン!」
すると、相棒がそのターンを終えた瞬間に。
【紫影】の出した、【異星の最終戦士】に怯む事無く…
今度は遊良が弾けるように、勢い良く手札からカードを掲げて。
「魔法カード、【トレード・イン】発動!【デモニック・モーターΩ】を捨てて2枚ドロー!続けて【闇の誘惑】も発動!2枚ドローして【サクリボー】を除外!フィールド魔法、【チキンレース】発動!その効果で、LPを1000払って1枚ドローする!【成金ゴブリン】を発動だ!LPを1000与えて1枚ドロー!」
始めから、最初から。
ターンを迎えたばかりだと言うのに、激しいドローによって初っ端らからギアを上げにかかる遊良。
…全力でデッキを回転させるその姿は、この【決島】においても彼がこれまで幾度と無く見せ付けてきた彼独自の独特のスタイルと言っても過言では無いだろうか。
それはいかなるデュエルにおいても不変。Ex適正が無いというハンデを物ともせず、メインデッキをフル回転させて【紫影】に立ち向かうその姿はまさに進撃を止めぬ激しき雄叫びの様でもあり…
…召喚、特殊召喚を封じている、【異星の最終戦士】を前にしていると言うのに。
全く怯んでも慄いてもいない遊良のドローが、嵐となりて加速する。
「…前から思っていましたが、ずいぶんと見苦しいデュエルですよねぇ。そんなに必死になってドローするなんてなんとまぁ節操のない…まぁ、お気持ちは分かりますが。使えない相方の所為で面倒な事になっているんですから、自分が頑張らないといけないのは心中お察ししま…」
「2枚目の【トレード・イン】を発動!【闇の侯爵ベリアル】を捨てて2枚ドロー!…よし、【禁じられた聖杯】を発動だ!【異星の最終戦士】の効果を無効にする!」
「ほ?」
そして、【紫影】の言葉を遮る様に―
遊良は繰り返したドローによって、金色に輝く神聖な聖杯の力を使い…いとも簡単に、孤独な戦士の力を消し去ってしまったではないか。
…それは彼が好んで扱う、神にその使用を『禁じられた』アイテムの中の一つ。
そう、バトルフェイズを行えない初ターンにおいては、あまりに厄介な効果を内蔵した【異星の最終戦士】の効果に対し。
神々の力すら封印してしまう、その聖なる杯から零れた雫を用いて…まるで何事もなかったかのように、孤独なる星の最後の戦士から召喚を封じる重圧が消し去れられていく―
「何か言ったか【紫影】?…悪いけど、鷹矢が伏せカードを消してくれたおかげでお前にはモンスターを守る魔法も罠も無いことが分かってる。だったら、次は俺がお前の場をがら空きにする番だ…鷹矢が『何とかしろ』って言ったからな、何とかしてやるのが俺の仕事だ。」
「ほう、相方が余計な事をした所為で手間を取らされたというのに、ソレを意に介さないというコトでしょうか?」
「鷹矢を見くびるなよ?この程度の面倒事、いつものコイツの馬鹿さ加減からしたら可愛いモノだからな!」
「うむ。この程度、迷惑にもならな…」
「これで邪魔するモノは何も無い!手札を1枚捨てて装備魔法、【D・D・R】を発動だ!除外されている【サクリボー】を特殊召喚し…特殊召喚成功時に速攻魔法、【地獄の暴走召喚】発動!集え、サクリボー達!」
―!!!
【サクリボー】レベル1
ATK/ 300 DEF/ 200
【サクリボー】レベル1
ATK/ 300 DEF/ 200
【サクリボー】レベル1
ATK/ 300 DEF/ 200
遊良の場に揃いしは、3体の小さき悪魔の毛玉達。
それは遊良のデュエルの要でもある、リリースされてこそその力を発揮するモンスターであり…
【地獄の暴走召喚】を使ったところで、【紫影】の場にいるのが【異星の最終戦士】のみであるこの状況では、更なるモンスターなど出てこないことを遊良もわかっているからこそ。
先の鷹矢と同じように、遊良もまた止まる事無く己のデュエルを貫きながら、その展開を止めることなくどこまでもどこまでも動き続けるのか。
そう、敵はどこまでも卑怯な屑と、【白鯨】である砺波から言われているからこそ。どこまでも油断せず、始めから全開で…ドローを加速し続ける遊良の叫びが、木霊となりて空を裂く。
…【紫影】という、途方も無い高みにいる相手に対し。その重圧を受けながらも、自分達のデッキが果たしてどれほど回転するのかなど、遊良達にだってまだ分からぬこと。
けれども、それでも無理矢理に―
先攻の攻撃は許されてはいないものの、だからと言って【紫影】の場にカードを残したままでターンを渡してやる気など無いのだと言わんばかりに…デッキを回転させ続ける遊良の場に、悪魔の毛玉が3体揃った時点で。遊良もまた、これより更なる展開を始めようとしているのか。
「リリース素材が3体…」
「行くぞ!【サクリボー】3体をリリース!」
轟かせしは進撃の雄叫び。
地の底に近い大空洞から、天へと突き抜ける渡る獣の咆哮。
どこまでも不敵な態度を取り続ける、【紫影】へとその怒りをぶつける様に…ソレは【紫影】の陳腐な妨害を、根底から全て崩しさるために響き渡るのか。
…この地獄を作り出した諸悪の根源、ルキを苦しめた下種の極み。
そんな屑の中の屑を消し飛ばすため、どこまでも遊良は叫ぶのみ。
震える大気、獣の咆哮と共に…
それは、現れる―
「【神獣王バルバロス】!」
―!
【神獣王バルバロス】レベル8
ATK/3000 DEF/1200
大気を震わし、大地を揺らし。
全てを破壊する獣の王の、雄々しき咆哮が大空洞へと轟いて―
それは主たる遊良が抱く、【紫影】への怒りをそのまま具現化したかのような激しき轟き。
そう…獣の王も忘れてはいない。ルキが、遊良が。この大空洞で【紫影】から受けた、その苦痛、憂悶、悲嘆、倒懸を。
だからこそ、獣の王は【紫影】の場に佇む孤独の戦士を見据えながら…
【紫影】の全てを壊さんと、更に轟き吼え猛る。
「まだだ!【サクリボー】3体の効果で3枚ドロー!そしてバルバロスのモンスター効果!3体のリリースでアドバンス召喚した時…相手のカードを、全て破壊する!やれぇ、バルバロス!」
―!
凄まじき衝動が響き渡る。【紫影】の全てを飲み込みながら。
あくまで遊良と鷹矢はタッグであるため、鷹矢の場には何の干渉も起こさずに…獣の王の破壊の衝動は、そのまま【紫影】の場に居た孤独なる星の最後の戦士を、肉片1つ残さずに崩壊させていくのか。
…そうして、飲み込まれていく孤独なる戦士。
そう、伏せカードもモンスターも、【紫影】の場には何もなくなってしまったのだ。
しかし、【紫影】の場ががら空きになってもなお。遊良も鷹矢も、まだまだコレで終わりにはしないのだと言わんばかりの勢いのまま…
「ふむ、確かにコレで私は丸裸になりましたが…バトルが出来ない先攻では、とりあえず貴方に出来るのはコレくら…」
「まだだ、まだこの程度じゃ終わらせない!鷹矢ぁ!」
「うむ!ダメージは与えられないが、ならば貴様が簡単には突破できない場を作り上げ迎え撃つのみ!罠カード、【戦線復帰】を発動!墓地から【ゴールド・ガジェット】を特殊召喚し、その効果で手札から【レッド・ガジェット】を特殊召喚!レッドの効果でイエローを手札に!遊良、使え!」
「おう!【アドバンスドロー】を発動し、バルバロスを墓地に送って2枚ドロー!そして【冥界の宝札】を2枚発動し、【二重召喚】を発動してゴールドとレッド、2体のガジェットをリリース!」
「ほ?」
「レベル8、【クラッキング・ドラゴン】をアドバンス召喚!【冥界の宝札】2枚の効果で4枚ドロー!まだだ、【貪欲な壷】発動!サクリボー3体、バルバロス、デモニック・モーターΩをデッキに戻して2枚ドロー!よし、【死者蘇生】発動!【闇の侯爵ベリアル】を墓地から特殊召喚!」
―!!
【クラッキング・ドラゴン】レベル8
ATK/3000 DEF/ 0
【闇の侯爵ベリアル】レベル8
ATK/2800 DEF/2400
しかし、まだまだ。
止まらないドロー、止まない召喚。遊良の場に現れしは、強大なりし2体の闇。
これで2連続…いや、先の獣の王と合わせると、遊良は実に3連続で大型モンスターを呼び出したというコトになる。それはEx適正が無く、Exデッキを扱えない者とは思えない程のメインデッキの回転とも言え…
獣の王が消えてもなお、遊良の場に現れるは2体もの最上級モンスター達。
…ダメージと弱体化を相手に与える、電子世界の黒き機龍。
…その身で敵の注意を引く、夜を纏いし闇羽の侯爵。
遊良が呼び出したソレら2体は、流石はレベル8の最上級モンスターだけあってその存在感は遥かに高く。
それぞれが高い攻撃力と、【紫影】にプレッシャーを与える効果を持ち合わせ。そのどれも簡単に無視は出来ないであろうモンスター達が、どこまでも【紫影】へと重圧をかけ続ける。
しかし、【紫影】の繰り出した【異星の最終戦士】に怯む事無く、即座にここまでの展開を成しえた遊良の雰囲気は…先ほどまでの、【紫影】に揺さぶられていた遊良とはまるで違う代物とも言えるだろうか。
そう、【紫影】の言葉に心揺さぶられ、手玉に取られようとしていた先ほどまでの遊良であったならば、きっと【異星の最終戦士】を越える事は出来ずに何も行動できる事無くターンを終えるしかなかっただろう。
…それは偏に、デュエルの前に鷹矢に活を入れられたが故の覚醒。
まぁ、鷹矢が【やぶ蛇】を破壊しなければ、【異星の最終戦士】も出て来なかったのは事実ではあるのだが…
それでも、鷹矢をも手玉にとってしまう【紫影】の伏せカードが場に1枚あるのとないのでは、遊良が感じたであろうプレッシャーには天と地との差があったはずなのだ。
…だからこそ、天城 遊良は怯まない。
鷹矢のおかげで気持ちを切り替え、鷹矢が伏せカードを破壊しておいてくれたからこそ。【紫影】の場に邪魔する伏せカードがないと分かっているのならば、後は全力で展開するだけであり…
「そういえば貴方、あの憐造の甥なんでしたっけ?言われてみれば、確かにあの嫌われ者の【紫魔】に良く似て…」
「俺はカードを3枚伏せてターンエンドだ!」
「…聞く耳持ちませんか。」
遊良 LP:4000→3000
手札:5→1枚
場:【クラッキング・ドラゴン】、【闇の侯爵ベリアル】
魔法・罠:【冥界の宝札】2枚、伏せ3枚
フィールド:【チキンレース】
そうして、【紫影】の言葉に聞く耳を持たず。遊良はどこまでも落ち着いたまま、そのターンを今終える。
デュエル前の動揺はどこへやら。鷹矢の言葉によって、気持ちを完全に切り替えた遊良の激しいターンが終わり…
伏せカードが3枚…【冥界の宝札】があるとは言え、初ターンに伏せるには多いとさえ思える罠を、【紫影】へと向かって張り巡らし。
次から始まるであろう【紫影】の攻撃に対し、身構えながらも肩の力が抜けている遊良の今の姿は…先ほどの揺さぶられていた姿とは打って変わって冷静そのモノ。
…ソレはある意味、この歳の少年にしては似つかわしくない、恐るべき精神状況が成せる御業とでも言えるのではないか。
だってそうだろう。先ほど遊良の心に生じた動揺…ソレは普通であれば、こんな短時間で持ち直す事など出来ないレベルの衝撃的事実であったのだから。
…大の大人ですら難しい、自らの出生に関わる衝撃的事実。
その真偽はともかくとして、そんなモノを明かされては例え誰であろうとその心には大きな動揺が生じ続けるはずなのだ。
ソレ故、一度揺さぶられ心が折れかけたというのにも関わらず…そこからいとも簡単に持ち直し、普段通りの調子を取り戻して【紫影】に立ち向かっている遊良の様子は、傍から見ても『異常』の一言。
…なんて恐るべき場慣れと手馴れ、なんて末恐ろしい才覚と胆力。
遊良も鷹矢も、歳が歳なのだからこうしたゴタゴタに巻き込まれてもう少し慌てていてもいいだろうに…特に彼等の相手は、【王者】と同等の立ち位置にいる裏決闘界の【融合帝】。そんな相手が敵なのだから、常人であればもう少し慎重なったり警戒して展開を変えてしまうのが当然の摂理ともいえるはず。
けれども、歴戦の者ですら難しい精神の掌握を、遊良は鷹矢の言葉によって簡単に取り戻し…
次に備え、遊良の展開を補助しつつ攻めに重きを置いた鷹矢と…【紫影】の動きを警戒し、プレッシャーをかけにきた遊良の手は、それぞれ思惑がバラバラなれどあまりに息の合った身構え方。
…それは言ってしまえば、その道のプロ以上の出来栄えと共鳴。
楽しいはずの【祭典】がいきなりこんな『地獄』へと変貌し、そして日常を生きていれば出会うはずも無い犯罪者集団に襲われ続け…それに加えデュエルが『実体化』をきたしているこの状況で、たった17年しか生きていない少年達が『いつもの』調子を崩さずにデュエルを進めているだなんて。
その展開は、彼らが本当に17歳前後の少年なのかと錯覚するほどの強さとなりて…今、まざまざと【紫影】の目へと映し出されていて―
「私のターン、ドロー!…はぁ…さて、どうしましょうかねぇ…」
そんな、2対1とは言え落ち着き払っている少年達を見て…
デッキから1枚ドローしつつ、何やら呼吸をゆっくりと吐き出し始めた裏決闘界の融合帝、【紫影】。
…その捻じれた思考の中では、一体何が考えられているのか。
およそ常人では理解など出来ない、そして決して理解などしたくはないその頭の中。憂いを帯びたその溜め息は、周囲の大気とは決して交わらずに捻じれて霧散していくだけであり…
そのまま、考えが纏ったのか。目の前の少年達を見据えつつ、【紫影】はその口から不敵に捻じれた笑みを再び零しながら…
「まだ様子を見てもいいんですが…ゆっくりデュエルする気が無いみたいですし、でしたらこちらもさっさと決めてあげましょうかねぇ!」
「ッ…来るぞ、鷹矢!」
「うむ!」
「ふふっ、身構えても無駄でぇす!魔法カード、【ブラック・ホール】発動!全てのモンスターを破壊しちゃいまぁす!」
―!
そして…
突如として現れたのは、強大なりし重量の渦―
憂いを帯びた溜め息から一転。身構えていた遊良と鷹矢を、真正面から嘲笑うかの如く…
―【紫影】の発動した超重力の渦によって、遊良と鷹矢のモンスターが全て破壊されてしまったではないか。
ソレは自分も、相手も…全てのモンスターを破壊する魔法カードとして知られる、強大なりし古代魔法の一枚。
…シンプルに、強い。故に、希少。
現存するカードは想像以上に少ないとされている、高価で希少でレアな代物。唯一汎用化し成功し世に出回っている【死者蘇生】とは違い、【サンダー・ボルト】や【強欲な壷】と同じくあまりに強大すぎる力を持っている所為か、【決闘世界】の取り決めにより量産することは許されてはおらず…
そう、『名家』や『裕福』の象徴とも言われる、その希少なる『古代魔法』の力をありありと見せつけながら。
現存するモノが少ないカードを『持っている』というのも1つのステータス、1つの強さと言われているこの時代において、【紫影】もまた確かに【王者】と同等の力を持った裏決闘界の融合帝と言えるだけのカードを使用し…
身構えていた遊良達の気概を、まるで嘲笑うかのようにして。少年達のモンスターを、いとも簡単に破壊していく―
「ぬぅ!奴め、こんな簡単に!」
「ふふふふふっ!2対1でチマチマやってられませんからねぇ!さぁて、では行きますよぉ!手札からモンスターをセットし魔法カード、【太陽の書】を発動!今伏せた【メタモルポット】を、表側守備表示にしまぁーす!」
―!
【メタモルポット】レベル2
ATK/ 700 DEF/ 600
「【メタモルポット】…だと?」
「ふふっ、リバースモンスターの【メタモルポット】の効果発動!全員、手札を全て捨てて新たに5枚をドローしちゃいますよぉ!2枚捨てて5枚ドロー!」
…更に、続けて。
リバースモンスターをセットしたその刹那、光来する太陽の書物によって、【紫影】の場には怪しげな壷の如きモンスターが現れて。
…その行動は即断即決。
初めから『こう動く』と決めていたかのようなその行動の早さは、遊良と鷹矢の備えなど在って無いようなモノなのだと言わんばかりの雰囲気となりて、更にその怪しさを増していくだけであり…
「そして効果で捨てた2体のシャドールモンスターの効果が発動しまぁす!まずは【シャドール・ファルコン】を、自身の効果で裏守備表示で特殊召喚!そして【シャドール・リザード】の効果で、デッキから【シャドール・ビースト】を墓地に送りまぁす!そしてそしてそしてぇ?今墓地に送ったビーストの効果で1枚ドロー!」
「シャドール…遊良が昔いくつか使っていたが…」
「あぁ…だけど【シャドール】として作られたあのデッキは油断できないぞ。効果が連鎖して、融合モンスターも強力なモノばかりだ。」
「うむ!」
「ふふっ、いいですねぇいいですねぇ、身構えちゃってかわいいですねぇ!ではでは続けて【チキンレース】の効果を発動しまぁす! LPを1000払って1枚ドロー!そして【手札抹殺】を発動!またまた全員、手札を全て捨て捨てた枚数分だけドローしますよぉ?私は6枚捨てて6枚ドロー!そしてお次はドラゴン、ヘッジホッグの効果が発動しまぁす!ヘッジホッグの効果で【シャドール・ハウンド】を手札に加え、ドラゴンの効果で天城 遊良、貴方の伏せカード1枚を破壊しちゃいますからねぇ!」
「くそっ、【デモンズ・チェーン】が!」
「効果が止まらん…」
連鎖する効果、補い合う影の糸。
初動で、たった2体のモンスターが墓地に送られただけだと言うのに…実に3つもの効果が連鎖し繋がり、そしてそこから更に効果が連鎖していくその光景は、端的に表しても『異常』の一言と表せるだろうか。
…元来、融合召喚を得意とするカテゴリーは総じて手札消費が激しいとされてきた。
けれども、その俗説をひっくり返した【シャドール】というデッキの力を、【紫影】はこれでもかと言わんばかりに次々発揮し。リバースしても効果で墓地に送られても、アドバンテージを稼ぐのが特徴的な『シャドール』というカテゴリーを存分に駆使しながら…
手札3枚からスタートしたというのに、実に7枚にまでその手札を増やしつつ…
そのまま、更に動き続けていく―
「まだまだでぇす!装備魔法、【捕食接ぎ木】を発動して墓地から【捕食植物サンデウ・キンジー】を特殊召喚!」
―!
【捕食植物サンデウ・キンジー】レベル2
ATK/ 600 DEF/ 200
そうして…
続けて【紫影】の場に現れたのは、動けぬはずの植物が獣の形を得た生きた植物の一体であった―
しかし…
「【捕食植物】!?」
「な!?貴様が何故そのカードを!」
【紫影】が墓地より繰り出したそのモンスターを見て、思わず驚きの声を上げてしまった遊良と鷹矢。
…しかし、それも当然か。
何せ、遊良と鷹矢は【紫影】が今繰り出したモンスターの事を知っている。
特に、ソレと直接戦った経験のある鷹矢からすれば…
「ソレは竜胆 ミズチのカードのはずだ!何故貴様が持っている!」
そう、鷹矢には、このモンスターによく見覚えがある。
忘れるはずがない…それは【決島】予選の最終デュエルで、自分を最も苦しめた相手、ウエスト校3年の竜胆 ミズチが使ってきたカードなのだから。
…『カテゴリー』として纏ったデッキを組むこと自体が難しいとされているこの時代においても、特に竜胆 ミズチの持つ【捕食植物】というカードは存在が珍しいとされている、誰もが持っているようなカードでは断じてないのだ。
ましてや、その【捕食植物】というデッキの中でも、中核を担うこのモンスターを持っている者など遊良も鷹矢も『竜胆 ミズチ』ただ一人しか思いつかないというのに…
…一体、どうして【紫影】がこのモンスターを持っているのか。
…一体、何故【紫影】がこのモンスターを使っているのか。
そんな、驚きに包まれてしまった遊良と鷹矢へと向かって…
「竜胆 ミズチ………ミズチ?………あ、あぁー!そうそう、ソレですソレ!ミミズじゃなくてミズチでした!いやぁうっかりうっかり!」
「質問に答えろ!何故貴様がそのカードを持っているのだ!」
「えぇー?何で持っているのかですってぇ?…ふふっ、そんなの決まってるじゃないですかぁ…こういうコトですよぉ!」
【紫影】が、徐に瓦礫の中から『何か』を持ち上げた…
そこには―
「ッ!?あ、あれは!」
「竜胆 ミズチ!?【紫影】、貴様一体その女に何をした!」
そう、遊良と鷹矢の目の前…
瓦礫の中から【紫影】が持ち上げたソコに居たのは、紛れも無くウエスト校3年の竜胆 ミズチの姿であったのだ―
…しかし、その姿は『酷い』の一言。
何せ彼女の今の姿は、本当に息があるのかと思える程に傷付きに傷付いた…意識を失い、傷だらけの、あまりに酷い姿であったのだから。
腕は折れ、足は折れ…ダラリと垂れ下がった片腕と、持ち上げられた片腕にはまるで生気と言うモノが無く、額から流れる血が彼女の凄惨さを物語っている、土と血に塗れた痛々しい姿。
辛うじて、生きているというのは分かる。けれども、生傷だらけで痣が出来ている少女の姿は…遊良と鷹矢からしても、見るからに痛々しい状態となりて映し出されていて。
「ふふっ、見てわかりませんかぁ?デュエルで私が勝ったので、返すモノ返してもらった後とりあえず甚振ったに決まってるじゃないですか、えぇ。」
「何を考えているのだ!相手は女だぞ!」
「ふふふっ、自分の所有物をどう扱おうと私の勝手でしょう?【捕食植物】は元々私のカードで、彼女も私の血を分けた実の孫なんですし。」
「孫!?竜胆さんが、お前の!?」
「戯言を…どうせそれも嘘なのだろう!」
「はいはい、どう思おうと自由ですがね。しかしウケますねぇ、私の孫に【黒翼】の孫に『逆鱗』の孫…さっきは『烈火』の孫もいましたっけ。…もうそんな時代なんですねぇ、少々寂しさすら感じますねぇ、えぇ。」
傷付いた少女を乱雑に持ち上げているというのにも関わらず、何やら寂寥を感じている【紫影】の姿は不気味の一言。
…【紫影】の言葉が真実であるのならば、実の孫をこんなにも傷つけておいてどの口が哀愁を語るのか。
傷付いた孫を片手に、星霜を感じている捻じれた男の行動、言動…その全てが遊良達からすれば、どこまでも不気味でどこまでも不快であり…
「まっ、そう言う事で、自分のカードを使わさせて頂いているだけでぇす!サンデウ・キンジーの効果発動、このカードは【融合】魔法無しで融合召喚を行う事が出来ます!私はサンデウ・キンジーと裏守備表示のシャドール・ファルコンを融合!融合召喚!現れなさい、レベル7!【捕食植物キメラフレシア】!」
―!
【捕食植物キメラフレシア】レベル7
ATK/2500 DEF/2000
そうして…
孫を投げ捨てた【紫影】の場に、凶暴化せし毒華の一房が現れる。
…それは紛れも無く、竜胆 ミズチが得意としていた融合モンスターの一体。
その恐ろしさは昨日彼女と戦った鷹矢が最もよく知っており、戦闘では無類の強さを誇る竜胆 ミズチのエースと呼べるモンスター…
…しかし、それだけでは終わらない。
現れた毒花を見て、より一層身構えた少年達へと向かって…【紫影】はまだまだ、止まる様子を見せる事なく…
「ふふっ、身構えちゃって可愛いですねぇ!魔法カード、【融合】発動!手札の【シャドール・ハウンド】と場の【メタモルポット】を融合!融合召喚、レベル10!【エルシャドール・シェキナーガ】!そして【融合回収】を発動でぇす!墓地から【融合】とサンデウ・キンジーを手札に戻し、そのまま再び【融合】発動!場のキメラフレシアと手札のサンデウ・キンジーを融合!融合召喚、レベル8!【捕食植物ドラゴスタペリア】!」
―!!
【エルシャドール・シェキナーガ】レベル10
ATK/2600 DEF/3000
【捕食植物ドラゴスタペリア】レベル8
ATK/2700 DEF/1900
「まだまだ終わりませんよぉ?【龍の鏡】を発動!墓地の【モリンフェン】2体を除外融合し、【始祖竜ワイアーム】を融合召喚!【円融魔術】も発動し、墓地のシャドール・ファルコンとサンデウ・キンジーも除外融合して【エルシャドール・ミドラーシュ】も融合召喚!」
―!!
【始祖竜ワイアーム】レベル9
ATK/2700 DEF/2000
【エルシャドール・ミドラーシュ】レベル5
ATK/2200 DEF/ 800
止まらない融合、終わらない展開…
【紫影】の場に現れるは、4体もの融合モンスターたち。
手札消費が激しいとされている融合召喚において、ここまで融合展開を続けられるというだけでも賞賛に値する怒涛の展開だと言うのに…
「融合モンスターが4体…シャドールだけじゃなくて、それ以外の融合まで使いこなすなんて…」
「…展開が止まらん…がら空きの場からこれ程とは…」
4連続…いや、キメラフレシアの展開から考えると、実に5連続で融合召喚を行っている【紫影】の戦術は…
この男が屑で卑怯で下劣な男だというコトを差し引いても、裏決闘界の融合帝と呼ぶに相応しい力となりて容赦なく遊良達を襲い続ける。
…融合召喚の名家として有名な、HERO使いの『紫魔家』ならばいざ知らず。
場を埋めるほどの連続融合召喚という、ここまでの展開を続けながらもまだまだ余裕しか見せない【紫影】の雰囲気。それは対峙している少年達からすれば、予想していた以上の圧力となりて襲いかかって来ているのか。
「【終わりの始まり】を発動!墓地のシャドール・ハウンド、リザード、ビースト、ヘッジホッグ2体を除外して3枚ドロー!【強欲で貪欲な壷】を発動!デッキを10枚裏側除外して2枚ドローしちゃいまぁす!」
だからこそ、ソレと直に対峙している遊良と鷹矢も、自分達が今現在一体『何』と対峙しているのかをその身を持って思い知られていて。
…尽きない手札、減らない場、【紫影】の場には実に4体もの大型融合モンスター達。
…特殊召喚されたモンスターの効果を無効化し破壊してくる、攻撃力も守備力も高い『攻撃表示』の【エルシャドール・シェキナーガ】。
…捕食カウンターを押し付け、効果を無効化しレベルを1にしてくる『攻撃表示』の【捕食植物ドラゴスタペリア】。
…モンスターの効果を一切受け付けず、効果モンスターとの戦闘では決して破壊されない、あまりに堅い壁と化している『守備表示』の【始祖竜ワイアーム】。
…相手の効果では破壊されず、【異星の最終戦士】のようにこちらの展開を制限してくる、『攻撃表示』の【エルシャドール・ミドラーシュ】。
どれもこれもあれもそれも、一筋縄ではいかない強力な融合モンスターたち。
そんなモノをいとも簡単に場に揃え、その強烈な力を持った融合体を1ターンの間に実に4体も融合召喚した【紫影】の力は…確かに『その名』に恥じぬモノであるとその、融合モンスターたちが自ら証明していることだろう。
そんな、見ているだけでプレッシャーを与えてくるかのような【紫影】の容赦のないデュエルの流れは…高名なプロの試合でも滅多に見られるモノではない、確かなる天上に位置している者の途轍もない圧力と重圧とも言えるだろうか。
…がら空きの場から、手札を増やしながら展開を続ける【紫影】の圧力はどこまでも捻じれた重々しい代物。
それに、墓地にいる【捕食植物キメラフレシア】の効果も、次の鷹矢のターンのスタンバイフェイズにその効果を発動することが決まっているのだから。4体もの融合モンスター達の圧力、それに4連続で行われた融合召喚の圧力は、遊良と鷹矢にどこまでもどこまでも容赦なく襲いかかっているのだ。
すると…
徐に、臨戦態勢に入った【紫影】が。
まるで獲物を見定めた蛇のように、その視線を少年の片方へと向け始めると…
「さて、複数人を相手にするときの心得を教えて上げましょうかねぇ…それは、『弱い方』から片付けるんですよぉ!バトル!【捕食植物ドラゴスタペリア】で、天宮寺 鷹矢に攻撃ぃ!」
吠える…毒々しい色合いをした、命を持った竜の草花が。
その叫びはまさに毒の咆哮。一発でも喰らってしまえば、いくらLPが残るとは言え全身が毒にまみれてしまうのでは無いかという恐怖の叫びが…今、大空洞の上空へと、轟きながら天に舞う。
…【チキンレース】に守られている遊良ではなく、LPが同じ数値の鷹矢から狙うというのはある意味セオリー通り。
けれども、いくらこの攻撃では鷹矢のLPが残るとは言え。
この実体化したデュエルにおいては、一発でもモンスターの攻撃を喰らってしまえば命が危ういことは明白であり、ソレを連撃で喰らってしまえば1人の命など簡単に消し飛んでしまう危険性があるのだ。
…けれども、【紫影】は躊躇しない。
少年に危害を加えることなど、微塵も躊躇わない【紫影】の宣言によって―
命をも奪う危険性のある攻撃が、躊躇いなく鷹矢へと向かって放たれ―
しかし―
「いつまでも…俺を舐めるなぁ!墓地より【超電磁タートル】の効果発動!バトルフェイズを終了する!」
―!
…巨大なりし竜の草華が、その口から死の毒咆を解き放たんとするその直前に。
鷹矢の墓地から、一体の機械仕掛けの亀が飛び出し…毒の竜の草花の咆哮を、電磁の力で掻き消したのだ―
反発し、相殺する…その有り余る斥力で。
そう、【捕食植物ドラゴスタペリア】が、鷹矢に直接攻撃を行うまさに寸前…焦ったような声と共に、鷹矢と【紫影】の間に機械仕掛けの亀が割って入り、【紫影】からの攻撃の手を電磁力で弾き返してしまったのだ。
それは鷹矢が、【メタモルポット】か【手札抹殺】で墓地に容易していた守りの手。
転んでもタダでは起きないことに定評のある鷹矢が仕込んでおいたその手によって、どこまでも舐めてかかってきた【紫影】の意を真正面から弾き返し…
…しかし、攻撃を止めたというのに。呼吸を少々乱し、焦りと共にどこか苦々しげに【紫影】を睨みつけている鷹矢。
…まぁ、鷹矢の焦りも当たり前と言えば当たり前なのか。
何せこの紫魔のデュエルは、実体化している恐ろしきデュエル。その攻撃の1つをとっても、実体化したモンスターの攻撃はいくらLPが残るとは言え…
…一撃を喰らえば、下手をすれば死んでしまう可能性だってあるのだから。
だからこそ、竜の草花の毒の咆哮など喰らってしまえば、いくら鷹矢とて悶え苦しみ毒殺されてしまう危険性があった。ソレ故、どうにか【紫影】の攻撃を食い止めたとは言えども。
鷹矢の額には、隠しようのない冷や汗が浮かび上がってきている様子であって。
「おや…まっ、流石にこのくらいは備えていますか。その伏せカードが役に立たないモノだとはわかっていましたが…一応あの【黒翼】の孫なんですし、このくらいやってもらわないと、私も張り合いがないというモノですからねぇ、えぇ。」
「…貴様、俺をどこまで舐めれば気が済むのだ。」
「えぇ、えぇ、舐めたくもなります。自分だけ守りを固めた天城 遊良と違って、貴方の方は伏せカード1枚しかないんですから。それに、その1枚ではこれだけの攻撃を止められない…あ、もしかして、天城 遊良に守ってもらう気満々でしたぁ?」
「…む?」
「ふふっ!でしたら残念でしたねぇ!彼の伏せカードの感じからプンプン匂いますよぉ?貴方を守るカードなんて伏せられてありませんって!彼も薄情ですよねぇ、流石はあの自己中な紫魔 憐造の甥です!自分だけが助かればいい!それ以外はしーらないってって事ですもんねぇ!」
「…」
「ま、あの憎たらしい紫魔 憐造の甥なら当たり前ですが…ふふっ、人間性が露わになってきますねぇ、えぇ!」
また、たった1枚のカードに攻撃を全て止められたというのにも関わらず…【紫影】はどこまでも飄々と言葉を捻じらせ、歪んだ態度を崩さないまま。
…その滲み出る余裕の態度は、たかが学生2匹など相手にもならないと言っているかのような不遜なる佇まい。
それはまるで、攻撃を止められることなど折込済みだったかのように。そのまま、少年達のLPを減らす事が出来なかったというのに…
【紫影】はただただ淡々と、自らのターンを終えるだけであり…
「では【大欲な壷】を発動し、リザード、ヘッジホッグ、ビーストをデッキに戻して1枚ドロー。私はカードを2枚伏せてターンエンドです。」
【紫影】 LP:5000→4000
手札:4→2枚
場:【エルシャドール・シェキナーガ】
【捕食植物ドラゴスタペリア】
【始祖竜ワイアーム】
【エルシャドール・ミドラーシュ】
伏せ:2枚
そうして―
あれほど融合したというのに、あれほど激しく動いたというのに―
手札も、場も、伏せカードも、何もかもに『余裕』を見せつけながらそのターンを終えた裏決闘界の融合帝、【紫影】。
なんて…なんて規格外のデュエル。
プロのトップランカー達が位置しているとされる『先』の地平に、学生の身でありながら至った2人を同時に相手取っているというのにも関わらず。
手札消費の激しいはずの融合召喚を、あれほど激しく行ったと言うのに。それでも【紫影】の手札は尽きず、その場にはどれもが一筋縄どころか『強敵』とさえ言える融合モンスターが4体も勢揃いしてしまっており…
…そして、ソレを更に重々しく見せ付けるのは【紫影】の場の伏せカードに残った手札。
これだけの現状を見れば、【紫影】の素の実力が並外れたモノであると言う事など遊良と鷹矢からすれば一目瞭然。
あれほどの展開をしてもなお、伏せカードを伏せる余裕に手札を残す余裕さえも【紫影】は見せ付けてきているのだから…
そんな光景を目の当たりにしてしまっては、果たして遊良と鷹矢は一体どれほどのプレッシャーを感じさせられているというのだろう。
「ぐっ…俺のターン、ドロー!」
「ふふふっ!このスタンバイフェイズに墓地のキメラフレシアの効果発動でぇす!デッキから【影依融合】を手札に加えちゃいますよぉ?さぁて、貴方達にこの場が突破できますかねぇ、えぇ!」
だからこそ、ここぞとばかりに【紫影】は煽る。
この歳からは考えられない程の死線を潜り抜けてきた少年達に、そのどれよりも重い死線を見せ付けるかのように。【紫影】の捻じれた口からは、苛立ちしか感じないであろう腐った言葉と捻じれた声質が発せられ…
…まぁ、とは言え。ある意味【紫影】がこれほど余裕を見せ付けているのも、当然と言えば当然なのか。
そう、何せこの屑は腐っても表の【王者】と同等の力を持っているとされる、世界の猛者達から恐れられた裏決闘界の【融合帝】。
…どれだけ言動が小物でも、どれだけ行動が下種あっても、どれだけ思想が屑であっても。
それでも…あろうことかこの屑は、途轍もなく『強い』のだから。
…それは、並のデュエリストでは立ち向かえないほどに捻じれたオーラ。
…それは、『壁』を超えた程度の強者では相手にもならない才覚。
…それは、『先』の地平に踏み入っている猛者でも手玉に取られてしまう程の力量。
…それは、『極』の頂きに君臨している者であっても苦戦してしまう程の実力。
(ぬぅ…墓地の【ブレイクスルー・スキル】1枚ではあの場を突破できん…ドラゴスタペリア…効果を無効にするだけではなくレベルを1にしてくるとなると…あと1体、少なくともあと1体の効果を無効にしなければ…)
鷹矢の苦言がその証拠、【紫影】の場にいる4体もの融合モンスター達が証明している。
いくら【紫影】が屑で下種で、どうしようもなく生きる価値などない最低最悪の犯罪者であっても…それでもこの屑は、決闘者の頂点とも呼べる立ち位置に紛れも無く立ってしまっているのだ…と。
鷹矢が心の苦言を漏らすのも当然。融合モンスター達の内の一体…【捕食植物ドラゴスタペリア】の厄介さを、鷹矢も昨日その身に染みて思い知っているからこそ。
ただ攻撃力が高いだけのモンスターなどでは断じてない、その強力な融合モンスターたちの圧力。そして【紫影】の持つ純粋な『力』の部分が、想像していた異常に少年達に重く重くのしかかってきており…
それでも―
いや、だからこそ―
「怯むな鷹矢!罠カード、【迷い風】発動!ミドラーシュの効果を無効にし、元々の攻撃力を半分にする!」
「ほ?」
「これで良いんだろ?思う存分やれ!」
「でかした遊良!必ずやってくれると思っていたぞ!俺は墓地から【ブレイクスルー・スキル】を除外し効果発動!ドラゴスタペリアの効果を無効にする!そして【ブリキンギョ】を召喚し、その効果で【グリーン・ガジェット】を特殊召喚!」
―!!
【ブリキンギョ】レベル4
ATK/ 800 DEF/2000
【グリーン・ガジェット】レベル4
ATK/1400 DEF/ 600
そう、【紫影】の力が予想以上の代物であったという、この状況だからこそ―
ソレがどうしたと言わんばかりに、少年達の声が弾け飛ぶ。
鷹矢がターンを向かえてすぐに、弾けるようにして1枚のカードを発動した遊良の罠と…ソレに連なるようにして、すぐさま動き始めた鷹矢の叫びが大空洞へと木霊し始め…
…それは先ほどの、突然の【ブラック・ホール】のお返しなのだと言わんばかりの少年達の反逆の雄叫び。
鷹矢が欲しいタイミングで、鷹矢の欲しかった効果を炸裂させた遊良によって。そしてソレに連なった鷹矢の叫びによって、【紫影】の全てのモンスターに効果は及ばないもののそれでも鷹矢の展開を邪魔するであろう2体の大型モンスターが―
やや強引なるも、その力を無くしていく―
「おや…二人ともそんなカードを仕込んでいたとは…」
「貴様は先ほど、遊良を『薄情』や『自己中』と言ったな!だがソレは断じて違う!俺達は、自分の身くらい自分で守れる!」
「あぁ!だからお前が何を企もうと、俺達は全力で叩くだけ…俺が伏せたのは、攻撃が出来る2ターン目から全力でお前を叩くためのカードだ!」
「うむ!あえて貴様に好きに動かせたのも、手の内を読ませないため!下手に妨害しては、先回りして削られてしまうからな…貴様を倒す為、攻める事に全力を注ぐ!俺達のやることはただソレだけだ!ゆくぞ、グリーンの効果でレッドを手札に加える!どうする【紫影】、シェキナーガで無効にするか!?」
「…いいえ、まだしません。」
「だろうな!そのまま俺はレベル4のブリキンギョとグリーンでオーバーレイ!エクシーズ召喚、ランク4!【鳥銃士 カステル】!」
―!
【鳥銃士 カステル】ランク4
ATK/2000 DEF/1500
「…なるほど、カステル…効果を使わせに来ますか。全く、ガキらしくない手を取りますねぇ、えぇ。」
「カステルの効果発動!オーバーレイユニットを2つ使い、【エルシャドール・シェキナーガ】をExデッキに戻す!」
「はいはい、こうして欲しいんでしょう?その効果にチェーンして、シェキナーガの効果発動!カステルの効果を無効にして破壊します!その後、手札から【シャドール・ビースト】を捨て、その効果で1枚ドロー!」
「だがこれで、貴様のモンスター達はことごとく木偶の坊となった!これで邪魔するモノは何もない!リバースカードオープン、罠カード、【エクシーズ・リボーン】!墓地より【ギアギガントX】を特殊召喚し、このカードをオーバーレイユニットにする!そのまま【ギアギガントX】の効果発動!オーバーレイユニットを1つ使い、デッキから【ゴールド・ガジェット】を手札に加える!」
跳ねるように弾ける鷹矢の声は、厄介な枷から解き放たれた証。
連続して現れる鷹矢のモンスター達は、強大な融合モンスターたちを前にしてもなお慄かない奮いを見せつけながら場に現れては勇み立ち…
…鷹矢は前のターンに、【ブレイクスルー・スキル】を墓地に送っていた。けれども用意できていたのはその1枚だけであり、ソレでミドラーシュの効果を無効にしたとしても残るシェキナーガやドラゴスタペリアの厚い壁を突破することは鷹矢を持ってしても困難であった。
…もしブリキンギョをドラゴスタペリアで止められていたら。もしギアギガントXをシェキナーガで止められていたら。
鷹矢の展開はそこで終わっていて、このターン鷹矢は何をする事も出来ずにただただ無駄にターンを終えるしかなかった。
けれども、ソレを察した遊良が発動した罠によって―
展開を阻む厄介な敵が3体から1体に減ったことは、鷹矢にとってはどれだけ動きやすくなるというのだろう。
…これで、厄介なモンスターはいなくなった。
そのまま鷹矢は、鳥かごから解き放たれ大空に舞う鳥のように―
止まらずに、動き続ける―
「【二重召喚】を発動し、【ゴールド・ガジェット】を通常召喚!その効果で手札からレッドを特殊召喚しイエローを手札に!更に【貪欲な壷】を発動!墓地のゴールド・シルバー・グリーン・レッド・イエロー、5体のガジェットをデッキに戻して2枚ドロー!…うむ!【モンスター・スロット】を発動!レベル4のレッドを選択し、墓地のブリキンギョを除外し1枚ドロー!…俺がドローしたのは、レベル4の【無限起動ロックアンカー】!そのままロックアンカーを特殊召喚!」
「…ッ、流石は【黒翼】の孫…激しいですねぇ、全く可愛げが無い…」
「ロックアンカーの効果発動!手札から【イエロー・ガジェット】を特殊召喚しグリーン手札に!」
場を埋める鷹矢のモンスター達。がら空きの場から、一瞬の攻防で場に揃ったのは実に5体ものモンスター。
その激しい展開は、まるで先ほどの【紫影】の展開に対する意趣返しなのだと言わんばかりの激しさとなりて…鷹矢の決意が乗り移ったかのように、デッキとカードが驚くほどに噛み合い弾け轟くのか。
…これで、鷹矢の場にはレベル4のモンスターが4体。
ランク4のエクシーズモンスターを多用する鷹矢の、怒涛なりしその展開。それはまるで、レベル4のモンスターを揃えることなど、この世のどんな事よりも簡単なのだと言わんばかりに…
「俺はレベル4のゴールドとイエローでオーバーレイ!」
放つは轟き、猛るは剛毅。大空洞に響きしは、天をも揺るがす鷹矢の叫び。
遊良のサポートを受けて、展開に何の制限も無くなった鷹矢の叫びが…混沌渦巻く大空洞に、木霊となりて空を裂く。
今、エクシーズ名家、天宮寺一族…その筆頭である祖父、王者【黒翼】に倣うかのように。
鷹矢は、その手を天に掲げ―
「天音に羽ばたく黒翼よ、神威を貫く牙となれ!」
世界に轟くその口上。祖父より受け継ぎしそのカード。
それはレベル4を多用する、鷹矢のデュエルのまさに『切り札』と呼べる存在であり…
覇道を突き進む己のデュエルの、『砦』となるべく存在をここに呼び出すために。天を劈く鷹矢の叫びが、大空洞を揺るがした時…
ソレは果て無き頂から、因縁の屑の前に立ちはだかるのか。
「エクシーズ召喚!来い、ランク4!」
かつて世界の頂点を見た、祖父の名の象徴とも言える大いなる力が…
今、ここに―
「【ダーク・リベリオン・エクシーズ・ドラゴン】!」
―!
【ダーク・リベリオン・エクシーズ・ドラゴン】ランク4
ATK/2500 DEF/2000
天に羽ばたく雄雄しき翼と、神をも切り裂く鋭き牙が大空洞へと輝いて。
その佇まいはまさに王者の風格。これまでの歴戦を感じさせながら、その竜は天宮寺 鷹矢の場で荒々しく吼えるのみ。
正真正銘歴戦の牙竜。天に轟く咆哮を、目の前の屑へと轟かせ…
強大なりし融合モンスターたちに慄くこと無く、蘇った強敵に対し【黒翼】の叫びが木霊する。
「現れましたか【黒翼】…全く、孫程度が彼の『名』をよくもまぁここまで自在に出せるものです。」
「ゴチャゴチャ抜かすな!ダーク・リベリオンの効果発動!オーバーレイユニットを2つ使い、ドラゴスタペリアの攻撃力をダーク・リベリオンに加える!喰らい尽くせ、紫電吸雷!」
【ダーク・リベリオン・エクシーズ・ドラゴン】ランク4
ATK/2500→3850
【捕食植物ドラゴスタペリア】レベル8
ATK/2700→1350
そして…牙竜が、その黒翼を開く時。
弾けるようにして広がる紫電が、瞬く間に竜の草花を掴み上げたかと思うと…
その毒気など意に介さず、みるみる内のその力を【黒翼】が吸い取っていくではないか―
…これこそが【黒翼】の真骨頂。いかなる敵であろうとも、真正面から断ち切って見せるその勢いはまさに世界一のエクシーズ使いの竜に相応しき佇まいと立ち振る舞い。
かつて世界の頂点を見た、今でも世界の頂点に飛ぶ、その存在感を大に現し…
そして、ソレに満足すること無く。更に鷹矢は、動き始める―
「まだ終わらん!レベル4のロックアンカーとレッドでオーバーレイ!エクシーズ召喚、ランク4!【ダイガスタ・エメラル】!」
「まだ止まりませんか…」
「当たり前だ!【ダイガスタ・エメラル】の効果発動!オーバーレイユニットを1つ使い、墓地のゴールド・シルバー・グリーン、3体のガジェットをデッキに戻し1枚ドロー!…うむ!【死者蘇生】を発動!墓地より蘇れ、レベル8!【The big SATURN】!」
―!
【The big SATURN】レベル8
ATK/2800 DEF/2200
まだ、終わらない。
蘇りたるは宙の一球、鷹矢が得た更なる力。
それは岩盤よりも硬きモノ、黄金よりも重きモノ。
崩れぬ地殻をその身に纏い、陸地すら生み出す大地の化身。
空と対峙し、天を撃ち抜き、宙をも落とすまさに『土の星』。
それは幾重にも積み重なった星の荒ぶりを、一体のモンスターに押しとどめているようであって。
「…ほぅ、プラネット…大型モンスターを揃え、一気に叩きに来るつもりですかねぇ…ふふっ、ではそろそろ来ますか?」
「まだ終わらんと言ったはずだ!遊良ぁ!」
「おう!罠発動、【戦線復帰】!墓地から【クラッキング・ドラゴン】を守備表示で特殊召喚!…鷹矢、使え!」
「うむ!俺は闇属性レベル8のSATURNとクラッキング・ドラゴンで…オーバレイネットワークを構築!」
「ほ?」
そう、まだ終わらない―
間髪入れず、【紫影】の言葉を遮るように…続けて遊良が、カードの発動を宣言したと思ったその刹那。
鷹矢のターンだと言うのに、突如として遊良の場に黒き電子龍が蘇ったかと思うと。これまた間髪入れずに、続けて鷹矢が先ほどの遊良と同じように―
自らのEx適性による宣言を、今ここに連続して解き放ち始めたのだ。
…オーバーレイネットワークを、構築。
それはおよそこの世界のモノではない、異界のエクシーズ召喚の為の宣言。
そんな、この世界においては天宮寺 鷹矢にのみ許されたその宣言を高らかに放ち…
鷹矢のデッキでは揃え難い、『闇属性・レベル8』のモンスターの召喚条件を声高々に叫びながら。
遊良とのコンビネーションによって、まるで【決島】の決勝の再現のようにしてソレはこの大空洞に響き渡り…
「来い、『No.22』!腐り果てるは血肉の恩讐!決して鎮まらぬ怒りを持って…楯突く全てを捻り潰せぇ!」
脳裏に浮かび上がった次なる『数字』と、心に浮かぶイメージをExデッキにて眠る『白紙』に焼付け。
この世界に現れるはずのないソレは、再びこの世にその姿を変えて現れようとしているのか。
混沌渦巻くこの大空洞で、この世界のモノではない存在が…今再び、その姿を根底から変貌させながら―
「エクシーズ召喚!来い、ランク8!」
それは、現れる―
「【No.22 不乱健】!」
―!
【No.22 不乱健】ランク8
ATK/4500 DEF/1000
現れたるは腐りし巨漢、継ぎ接ぎだらけの筋骨隆々。
纏いしフードの前面に、『No.』の証である数字『22』の記録を刻み込んだ…
誰の手によって造られたのか、その存在自体が不気味さを表しているであろう、見た目通りのフランケンシュタイン。
…見た目どおりの凄まじきパワー。そして相手を圧倒してしまう厳かな存在感。
そんな、決して生者たりえぬ存在が…
常識外れのパワーを持って、鷹矢の前に聳え立つ。
「これは少々驚きですねぇ…いえ本当に。貴方達、ちょっとコンビネーション良すぎじゃありませんか?」
そんな、連続して現れた鷹矢のモンスター達を前に…【紫影】は徐に、ポツリと言葉を漏らし始めて。
それは1vs.2だと言うのに、まるで強者との『1対1』をしているかのような錯覚を【紫影】が覚えたからなのだろうか。
…そう、遊良と鷹矢の息の合い過ぎているコンビネーションは、対峙している【紫影】からしても心から驚愕に値する代物であったのだろう。
それは血の繋がった者よりも息が合っているのではないかと思えるような、あまりに見事なコンビネーション。お互いがお互いの展開をサポートし、1人が思い切り展開し…
痒いところにもう1人が率先して手を届かせ、一人では手の届かない場所にも二人ならば届くのだと言わんばかりのそのデュエルは、とてもじゃないが『先』の地平に位置している1人が到達できる場所を大いに越えて積み重なっているのだから。
なんて恐るべき子ども達―
きっと、この光景を有識者が見れば誰だってそう感想を抱いてしまうことだろう。
…何せ、いくら2人がかりだとは言え。
所詮は高等部2年に過ぎない程度の、こんな年端もいかない少年達が歴戦のデュエリストにも匹敵する戦意を纏いながら…歴戦のタッグデュエリスト達も真っ青になるであろう展開を、いとも簡単に続けているこの光景はまさに異常な光景、異質な展開、畏怖すら感じる異次元の同調。
…先のターンからもそう。
このデュエルにおける遊良と鷹矢の息の合いようは、双子の歴戦のタッグデュエリストですら醸し出せない、文字通り『一体化』しているような見事なコンビネーションなのだから。
複雑怪奇な複数人用のルールを、打ち合わせも作戦会議もましてやデュエルの最中に声を掛け合ってもいない少年達がよもやこの歳でこんなにも簡単に適応し。こんなにも凄まじい『同調』を見せつけてくるだなんて、まさしく【紫影】からしても予想外のことであったのか。
そんな、『他人同士』であるにも関わらず…
この世の誰よりも『一体化』しているであろう今の少年達のデュエルは、まさに【紫影】の予測の上にあるということであり―
「…確かに、これではヒル・ブラザーズなど相手にならないはずです。練習させなくても良かったですかねぇ…今の貴方達、タッグデュエルなら今すぐにでも世界一になれそうですねぇ、えぇ。」
「敵の世辞など聞く耳持たん。冗談ならば尚更だ。」
「喋るな屑野郎。不快なだけだ。」
「…酷い言われようですねぇ。冗談では無く、これでも本気で驚いているんですが…貴方達、どこでそんなコンビネーションを?」
「ふん、遊良がどう動くかなど考えるまでもない。」
「鷹矢の考えそうな事なんて、考えなくてもわかるだけだ。」
すると、そんな【紫影】の問いに対し。
聞く耳を持たないというスタイルを崩さないまま、彼等にとっては当たり前の常識以前の呼吸と同義のその返答を、【紫影】へと向かって素早く返した遊良と鷹矢。
そう…遊良も鷹矢も、別に互いに合わせようとしているのではない。
何も特別な事をしてはいない―
遊良も、鷹矢も、お互いに『合わせる』だとかそんなコトを考えるまでもなく。
やろうと思って合わせているのではなく、ただただ自分がやりたい様に勝手に動き、その結果として自分の行動が必然的に2人にとっての最善手となっているだけなのだ。
…先のターンに鷹矢がリリース素材に使わせた【ガジェット】だって、彼がいつも使っているモンスター。
…今の展開の為に遊良が使わせた【クラッキング・ドラゴン】だって、今のデッキになってから遊良が好んで使っている最上級大型モンスター。
デッキを変えているわけでもない、サポート用のカードでデッキを調整したわけでもない。
お互いがお互いの『いつもの展開』を繰り返しながら、ソレがお互いのデッキにとっての最適解になるのだという…遊良と鷹矢にとっての、これは最早当たり前と言える展開であるのだ。
そう…何せ彼らは生まれてからこれまで、ずっと共に過ごして来た間柄。
下手をすれば、実の家族よりも過ごしている時間は長いのだし…実際にこの17年の歳月をお互いの親よりも近い距離で過ごし続けてきたのだから、これまで幾千のデュエルを戦ってきた経験と幾万のデュエルを行ってきたその共感、更にはこれまでの日常生活から感じ取れる微細な動きが、彼等にとっては次なる行動の予測となっているという、ただそれだけのこと。
先ほど行われた決勝で、対峙しているのとはまた別…
『対決』が『共闘』に変わったというだけで、こんなにもこの二人はお互いがお互いを当然のように支えあえる。それは単純にデッキが二つ、場が倍、墓地が倍、手札が倍になったのとはワケが違う。
遊良と鷹矢の息が、『合っている』のは最早ただの当たり前。デュエルの呼吸を合わせる事など、どんなことよりも簡単に違いないのだろう。
その、タッグデュエルのスペシャリストを謳っていた本物の双子デュエリストすらも凌駕する、遊良と鷹矢のコンビネーション。相手に合わせようとしているのではなく、自分が勝手に『こう動こう』と思ったその動きが、相手側にとっての最善となっているというその暴挙。
『 1 』+『 1 』は『 2 』ではない…遊良の『 1 』と鷹矢の『 1 』が、それぞれ相乗効果を生みその力を10にも100にも膨れ上がらせているのだ。
そんな、好き勝手に動いた結果で『息が合っている』だけという、他の誰にも真似出来ない芸当をいとも簡単に行うこの2人はまさに…
タッグデュエルの理想形とも言える、比類なきコンビネーション。生まれた時から共に居る遊良と鷹矢だからこそ出来る、今の彼等の怒涛の展開は見るからに学生の枠組みから大きく外れていて―
「ですが惜しいですねぇ。【黒翼】の孫…天宮寺 鷹矢、貴方のデュエルはどこまでも惜しい、惜しすぎます。」
「む?」
しかし…
そんな学生離れしたコンビネーションを見せた、天城 遊良と天宮寺 鷹矢へと向かって。
いや、正確にはその片割れである天宮寺 鷹矢の事を名指しして、徐にその捻じれた口を開き始めた裏決闘界の融合帝、【紫影】。
その言葉は、彼等コンビネーションを目の当たりにしたばかりだと言うのにも関わらず…どこか残念そうな、それでいて勿体無いと言わんばかりの声質となりて、憎たらしげに鷹矢へと届けられているではないか。
『惜しい』…一体、【紫影】は何を思って鷹矢へとそんな言葉を吐いたのだろう。
何せ【紫影】が『惜しい』と言い放ったのは、まさかのEx適正の無い天城 遊良ではなく…
あろうことか、王者【黒翼】の孫として幼き頃から数々の大会でその名を轟かせてきた、天才の名を欲しいままにしてきた天宮寺 鷹矢であったのだから。
…その実力の高さは折り紙つきで、去年の【決闘祭】や今年の【決島】でも輝かしい成績を刻んできた鷹矢のデュエル。
そんな、およそ生半可な者では太刀打ちできないほどに洗練されている鷹矢のデュエルを名指しして、あろうことか【紫影】はそのデュエルを『惜しい』とまで言い放ち…
「…どういうことだ。俺のデュエルを『惜しい』などと…」
けれども、ソレが有象無象の他人ではなく、屑なるも天上の実力を持ってしまっている【紫影】から放たれたということが…どこか鷹矢の琴線に、触れるモノがあったのだろうか。
…屑の戯言には聞く耳を持ってはいけないと、理事長である砺波 浜臣からアレだけキツく言われていたにも関わらず。
疑問系にて【紫影】に聞き返してしまった鷹矢の言葉に、【紫影】はニタリと気持ちの悪い捻じれた笑みを浮かべながら…
そのまま、言葉を止めることなく、再び、鷹矢へと向かって言葉を続け…
「いえいえ、どうにもこうにも、思った事をそのまま口に出させていただいただけですよぉ?惜しい…貴方のデュエルが、本当に惜しいくらいに無様に行われているなぁと…そう、思いましてねぇ、えぇ。」
「それは俺の実力が貴様の想像よりも低いと言う事か?舐められたモノだ、言っておくが俺の実力はこんなモノでは…」
「あぁ、違います違います。逆ですよ逆…甘い、甘すぎます。貴方、どうしてそんなに手を『抜いて』いるんですか?天城 遊良に合わせようとして、そんなに軟弱な手を取って…」
「む?」
【紫影】の放ったその言葉…
それは鷹矢の実力を『低い』と思って放たれた言葉ではなかった。
そう、【紫影】が『惜しい』と言ったのは、鷹矢の実力が想像よりも低いという意味ではなく…
…これまでの鷹矢の出した手が、その実力に見合わない甘い手ばかりであった事に対して。
まぁ、鷹矢のデュエルを見て『手を抜いている』、『甘い』、『軟弱』と感じたのは、あくまでも【紫影】が抱いた感想ではあるのだが…
それでも、今の遊良や鷹矢では到達出来ないであろう『極』の頂きに位置している、裏決闘界の融合帝【紫影】からすれば。
【決島】の予選や決勝の天宮寺 鷹矢のデュエルを見てきたが故に、鷹矢のデュエルに常人とは違った感想を抱いたとしても、ソレはある意味当然といえば当然で…
「ふふ、貴方のデュエルを見ればわかります。貴方…今までも、今も、わざと手を抜いてデュエルしてきたんでしょう?相手に合わせ、相棒の低いレベルに合わせ…【決闘祭】も【決島】も、自分の退屈を紛らわせるために天城 遊良に合わせて手を抜いて…そうしないと、デュエルと言うモノがとてつもなくつまらなくなってしまいますからねぇ…」
「…何?」
「見ていましたよぉ?予選のデュエルも、天城 遊良との決勝も…そして、【地の破王】とのデュエルも!ふふっ!予選のデュエルで、雑魚相手に苦戦する場面がいくつもありましたねぇ…天城 遊良とのデュエルでは、まるで互角を装い中継を盛り上げてくれていましたねぇ!そして何よりも【地の破王】とのデュエル!予選で苦戦する程度の実力で!天城 遊良と拮抗するレベルの実力で!そう、その程度の実力で、【地の破王】に勝つことなど出来ないと言うのに!それでも貴方は勝った!地上を破壊し尽すと言われる【地の破王】に、正々堂々と勝ってしまった!ソレがどういう意味かわかりますかぁ!?」
興奮気味に喋る【紫影】の、その言葉が大空洞へと木霊する。
…ソレは遊良と鷹矢からすれば、意味など理解できるはずもない世界の真理と歴史の刻み。
そう、一度死んで蘇ったと豪語する【紫影】にしか理解出来ていないであろう、『王』とソレにまつわるルールの話であり…
一体、【紫影】は何を知っていて言葉を放ち続けているのか。けれども確実に言えることは唯一つ…遊良と鷹矢の間の絆を、鋭く引き裂きにかかっているであろう【紫影】の言葉は、どこまでも無情な指摘となりて2人の少年へと向かっていると言うことだけ。
「未だ未熟な『王』とは言え、世界に選ばれた『王』にモブ程度が勝つなどありえない!ありえるとしたら、未熟な『王』よりも成熟した歴戦の者か…はたまたモブ以外か…」
「さっきから『惜しい』だとか『手を抜く』だとか『王』だとかモブだとか…貴様は何を言っているのだ?」
「ふふっ!気付いていないとはまた性質が悪い!いいえ、ソレとも低レベルな相棒には隠しておきたいことなのでしょうか?…ふふふっ、貴方、自分でも分かっているんでしょう?自分の才能がありすぎて、実力も精神力も何もかもが有象無象とは違うというコトが!退屈ですよねぇ?退屈ですよねぇ!?レベルの低い者達とのデュエルは!だからわざと『手を抜いて』拮抗させ、デュエルを少しでも楽しもうとしているんでしょう?本当は『地の破王』にも匹敵する力を、弱すぎる相棒には隠しておきたいんでしょう?えぇ! 」
「…」
裏決闘界の融合帝…表の【王者】と同等の力を持っているとされている、裏社会の決闘界の帝王の目には、王者【黒翼】の孫のデュエルが一体どのようにして映っているというのだろう。
およそ常人では理解など出来ないであろう、理解したくもないであろうその思考から導き出されたその言葉はどこまでもどこまでも捻じれに捻じれ…
そう、予選での鷹矢のデュエル…【決島】の参加者達のレベルが高いこともあったのだろうが、そのデュエルは接戦が多かった。
…そう、全て『ギリギリ』での勝利なのだ。
【決島】に出場している猛者を相手に、鷹矢は観客達を盛り上がらせるようにギリギリの勝利をいくつも収めてきた。
また、その傾向は【決島】だけではない。去年の【決闘祭】でもその傾向は証明されており、去年の【決闘祭】の2回戦の紫魔 ヒイラギとのデュエルや準決勝の十文字 哲とのデュエル…
紆余曲折あったとはいえ、自ら死地に飛び込んでいるかのようなデュエルを、鷹矢が時折見せているという現実もまた事実。ソレすなわち、確かに【紫影】の言う通り鷹矢が本来の実力を隠し、どこかギリギリの勝負を演出していると疑われても仕方がないと言え…
そして、ソレを【紫影】に『確定』付けたのは何を隠そう…天空闘技場で午前に行われた、天宮寺 鷹矢の『あるデュエル』。
そう、ソレは紛れも無く、『地の破王』と呼ばれるデュエリア校の鍛冶上 刀利とのあのデュエルでの出来事なのだ。
圧倒的な力を見せ付けてきた鍛冶上 刀利に。一時は鷹矢を降しかけた鍛冶上 刀利に。鷹矢は前代未聞の『ランク0』という謎の力を使い、窮地からギリギリで逆転勝利を収めた。
…【決島】の他のデュエルで、『ギリギリ』の勝負をしていた鷹矢が、だ。
『地の破王』と呼ばれる鍛冶上 刀利に勝った男が、他の学生に『ギリギリ』の勝負をすることこそが強烈なる違和感。つまり鷹矢のコレまでのデュエルは、確かに【紫影】のいう通り…
『ギリギリ』の勝負を演出するための、わざとらしい手抜きとも言え―
「貴様…」
しかし…
まるで的確にさえ思える、【紫影】のソレを聞いてもなお―
「なにを言っているのだ?まるで意味がわからんぞ。」
「…ほ?」
はぐらかすように…ではない。
誤魔化すように…でもない。
ただただ本気の本気の本気で、【紫影】の言葉の意味が『わかっていない』かのように…
頭に幾つも疑問符を浮かべながら、首を傾げてそう呟いたイースト校2年、天宮寺 鷹矢。
的確にさえ思えた【紫影】の言葉を聞いてもなお、鷹矢には全くピンと来ていない…そう、演技だとか図星だとか、そう言った雰囲気が天宮寺 鷹矢からは全く感じられないのだ。
…それすなわち、【紫影】が興奮気味に口走った言葉など、鷹矢には心当たりなど全く持って無いというコト。
多少でも図星の事があれば、ソレは微細な表情の変化などによって無意識にも表面に出てくるはずだと言うのに。
そんなモノを微塵も感じさせることなく、そのまま鷹矢はどこまでも【紫影】の言葉を『理解できず』に…
続けて、口を開くだけ。
「俺の実力は俺と遊良が最もよく理解している。大体、俺にそんな隠された実力があるのならば何故俺は【決闘祭】でも【決島】でもそれ以外でも遊良に苦戦しなければならぬのだ、なぁ遊良。」
「あぁ。お前が鷹矢の『何』を感じ取ったのかは知らないけど、この馬鹿が『手を抜く』なんて器用なマネ出来るわけないだろ。もしコイツが俺より遥かに強いんだったら…いつだって、容赦なく叩き潰してくるに決まってる。」
「うむ。遊良とのデュエルは毎回毎回苦労していると言うのに、手を抜けるはずないだろうが。他の奴ともそうだ。手強い奴らばかりだった【決島】で、手を抜けたデュエルなど1つもなかったというのに。お前の言っていることはよく理解できん。」
「おや…そうですか…それはまた、解釈違いしてしまいましたかねぇ…」
【紫影】が話術を繰り出してきても、天宮寺 鷹矢は揺らがない。
そう、遊良とのデュエルも、【決島】でのデュエルも。例えその全てが『ギリギリ』であったとしても、1つ1つのデュエルにおいて鷹矢が紛れも無く『必死』になって勝利を掴もうとしているその感情に、嘘偽りは何一つないのだ。
…他人からどう思われようとも、ソレらはあくまでもデュエルの『結果』。
いかに他人がとやかく考察を述べようとも、その時に鷹矢が何を考えどう動いたのかはあくまでも鷹矢自身の問題。その場、その時、その瞬間に鷹矢が何を考えどうカードを使い、いかにデッキが応えたのかなど…『その場面』の鷹矢にしか、わからないことなのだから。
そして、唯我独尊を地で行く鷹矢の思考・感情・行動を、この世の誰よりも理解しているのはきっと【紫影】ではなく…
生まれた時から隣に居る、紛れも無い『天城 遊良』自身に違いないのだ。
幼馴染は伊達じゃない。実に17年にも亘る人生を、大半どころか『全て』において共に過ごしてきた天城 遊良と天宮寺 鷹矢。
その、生まれた時から共に過ごした、決して揺るがぬ間柄の二人にとっては…血の繋がった親よりも、お互いの事がお互いよりも理解出来てしまっているのは先ず間違いなく。
だからこそ、どれだけ【紫影】が二人を揺さぶろうとも。
そして、どれだけ二人の絆を壊そうと試みても…
「調子に乗るなよ【紫影】。俺と鷹矢を仲違いさせたいんだろうけど、お前の下手な話術なんて俺達には通用しない。」
「うむ。俺のことを最も理解しているのは貴様ではない、遊良だ。貴様程度が何を言おうと、そんなモノなど見当違いにすぎん。」
「ふむ…」
【紫影】の陳腐な考察など、鷹矢自身と鷹矢のことをこの世の誰よりも理解しているであろう遊良からすれば。
嘲笑にも値する、何も知らない部外者の戯言と言えるのであって―
「少しも動揺してくれないとはますます厄介ですねぇ…仲違いもすれ違いもしないとは、これだから穢れを知らない子どもは入り込む余地がない…」
「余計な時間稼ぎなど見苦しいぞ!屑め、これで終わりだ!【チキンレース】の効果発動! LPを1000払って【チキンレース】を破壊する!そしてバトル!まずは『No.22』で…」
…だからこそ、これ以上【紫影】の戯言になど耳を貸すつもりなどないのだと言わんばかりに。
引き込まれかけた【紫影】のペースから、再度流れを引き寄せるべく…鷹矢は呼び出しし『No.』に、高らかに攻撃を命じようとしているのか。
走る…腐乱した巨大なる孤独な益荒男が。
まだ主が攻撃対象を選んでいないにも関わらず、【紫影】へと向かって走るフランケンシュタインの姿はホラーの一言であり―
無言の巨漢がシリアルキラーにも似た勢いを持ってして、奪われかけたデュエルの流れを一瞬で自分の下へと引き戻すその勢いは、まさに大地を揺らす巨漢の足取り。
…猛る腐乱の巨大なる剛腕、巨木すらなぎ倒す恐るべき腕撃。
ドシドシと鈍い音を立てて、本能のままに『No.22』が【紫影】の融合モンスターの1体へと襲い掛からんとした…
その時だった―
「仕方ありませんねぇ!バトルフェイズに入ったこの瞬間!速攻魔法、【超融合】発動でぇす!」
―!
突如…
いきなりの鷹矢の攻撃の出だしを、更に上から切り裂くように。
【紫影】の捻じれた宣言によって、屑の場には突然1枚の速攻魔法が光り輝き始めたかと思うと―
「ッ!?アレはアイナって奴が使ってた…」
「ソレがどうした!そんなモノ『No.22』の効果で…」
「無駄無駄無駄無駄でぇす!【超融合】の発動には、一切のカード効果の発動が封じられます、えぇ!」
「チェーン封じだと!」
「ふふっ!そして折角なので、そこのデカい『No.』を頂いちゃいましょうかねぇ!手札を1枚捨て【超融合】の効果発動!場のミドラーシュと…天宮寺 鷹矢の場の、『No.22』を超・融・合!」
何と、突如現れた凄まじき勢いの神秘の渦に、鷹矢の『No.』が吸い込まれていくではないか―
…抵抗も空しく、反撃することも出来ず。
鷹矢のターンだと言うのにも関わらず、『融合召喚』を宣言し始める【紫影】。それは昨日、この大空洞でアイナ・アイリーン・アイヴィー・アイオーンが使用していた、『相手』のモンスターをも融合素材にしてしまう恐るべき融合魔法であり…
融合を超えた融合、その名の通りの『超融合』。
相手の抵抗の一切を禁じ、何者にも止められることなく轟く魔力の奔流は、とてもじゃないが常人が操る融合の魔力の域を軽々と超えていて。
そして―
「禍つ紫影の揺らめきよ、世界の全てを包み込めぇ!」
叫ばれしは狂言、木霊せしは凶声。
禍々しくも凶暴な、あまりに捻じれた歪なるオーラ。
歪み捻じれる神秘の渦より、【紫影】は自らの『名』を禍々しく叫びながら…
「融合召喚!現れなさい、レベル8!」
ソレは、明確な『悪意』を持ってして…
ここに、現れる―
「【スターヴ・ヴェノム・フュージョン・ドラゴン】!」
―!
【スターヴ・ヴェノム・フュージョン・ドラゴン】レベル8
ATK/2800 DEF/2000
神秘の渦より現れたるは、『歪み』と『捻じれ』そのモノであった。
…それは深紫の体を蠢めかせた、あまりに禍々しき紫影の毒竜。
毒々しさが牙を剥き、飢餓の咆哮が大気を千切り…
その異色で異端なる異質な異様は、毒々しくも艶かしく蠢く畏怖そのモノ。
虚空にも似た虚ろな目で、視界に映ったモノ全てを喰らいつくすその姿は…まさに見た者全てに恐怖を与える、意思を持った飢餓の化身と言える存在。
昨日…遊良は、その目でしかと見た。
この、恐怖を駄々漏れにして蠢く紫影の竜を。狂気に染まった捻じれた男、【紫影】の『名』そのモノと呼べるモンスターの事を。
…対戦相手の本能へと、直接訴えかけるかのような紫毒の狂気と奇怪な咆哮。
歪で異質なる畏怖を駄々漏れにしている、捻じれた蠢きを魅せる毒の竜…その不気味な飢餓の咆哮を、遊良は確かに昨日この大空洞で体験しており…
「ッ!?現れたか!鷹矢、油断するなよ!」
「う、うむ…コイツが【紫影】の…」
「ふふっ、では行きますよぉ!融合素材になったミドラーシュの効果で、コストで捨てた【影依融合】を手札に戻し…スターヴ・ヴェノムの効果も発動!【黒翼】の攻撃力を、スターヴ・ヴェノムの攻撃力に加えまぁす!」
【スターヴ・ヴェノム・フュージョン・ドラゴン】レベル8
ATK/2800→6650
そして…猛る。
【紫影】の飢餓の毒竜が、その咆哮を大空洞へと反響させた時。仇敵とも言える黒翼牙竜へと目掛けて、その虚ろな視線を突き刺すように怪しく輝かせ始めたのだ。
そして、まるでその力をそっくりそのままコピーするかのように…
鷹矢のターンだと言うのに、スターヴ・ヴェノムがその力を上昇させていく―
「攻撃力6650だと!?」
「…ッ、だけどスターヴ・ヴェノムの融合召喚成功時に、墓地の【迷い風】を俺の場にセットする!」
「ですがソレはこのターン使えませぇん!さっき使っちゃいましたもんねぇ?伏せたターンには使えませんもんねぇ?」
相手モンスターを無理矢理素材にしてしまうという、見るからに危険な力を持ったカードを惜しみなく見せつけながら…どこまでも怪しく蠢く竜を従えて、捻じれた笑み浮かべる裏決闘界の融合帝、【紫影】。
その飄々とした態度は、『No.22』と【黒翼】の攻撃により【紫影】のLPを0にする算段をしていた鷹矢の思考を嘲笑っているかのよう。
そう、攻撃力4500の『No.22』を融合素材にし、ソレ以上の攻撃力を持ったモンスターを呼び出すというその暴挙は、まさに理不尽が服を着て歩いているような【紫影】の性格がデュエルにも現れているかのようではないか。
…【紫影】の名その物である、飢餓の化身たるスターヴ・ヴェノム。
【黒翼】と同じく召喚法の名を関しているとは言え、その存在感はまるで真逆の禍々しき代物であり…
ソレが自力を更に超える力を見せ付けてきているこの状況は、とてもじゃないが常人には耐えられないであろう異質な重圧が漂っている。
「さぁて、どうしますかぁ?ふふっ、流石に【黒翼】1体ではこの場をどうにかする事など出来はしないでしょう?えぇ。」
「くっ…」
「ぬぅ…」
これだけ攻めているというのに。
これだけ力をぶつけているというのに。
2対1のアドバンテージを得てもなお、手玉に取られているかのような錯覚を少年達が覚えてしまうのも無理はない。
どれだけ場を固めても簡単に壊され、攻撃をしかけようとも飄々と交わされ…
屑で下種な立ち振る舞いの裏に隠された、その本質たる力の高さが徐々に浮き彫りになって行くこの展開はまさに…少年達と【紫影】との間に、これだけの地力の『差』があるということなのだから。
けれど…
それでも―
「だから俺を舐めるなと言っているのだ!速攻魔法、【ドロー・マッスル】発動!【ダイガスタ・エメラル】を対象に取り1枚ドローする!」
「ふふふっ、防御用のカードで苦し紛れのドローなど恐くもなんともな…」
「うむ!速攻魔法、【コンセントレイト】発動!ダーク・リベリオンの攻撃力を、その守備力分アップさせる!」
「なっ!?【コンセントレイト】!?」
【ダーク・リベリオン】ランク4
ATK/3850→5850
止まらぬ轟き、終わらぬ連撃。
どれだけ【紫影】が場を乱そうとも、それでも怯まぬ鷹矢の叫びが、木霊となりて空を裂く。
…舐められたままでいられるか。調子に乗らせていられるか。
ソレは手段を問わない攻撃への専念、なりふり構わない勝利への執念。他人に見下されることを、何よりも嫌う鷹矢だからこそ―
その怒りはすでに限界を超えているのだと言わんばかりに、ただひたすらに勝利を目指す鷹矢の足掻きがデッキからそのカードを引かせたのか。
「慢心していたな!貴様は俺を舐めすぎた…【超融合】の発動時に、俺はまだ攻撃宣言を完了していない!」
「こ、攻撃力5850ですと!?」
「これで終わりだ!バトル続行!ダーク・リベリオンよ、ドラゴスタペリアを断ち切れぇ!」
天高く舞う【黒翼】が、その力を更に上昇させていく。
それはまるで噴火の如し、沸き上がる苛立ちの最たる叫び。
…鷹矢は決して慄かない。
そう、彼にとっては、祖父以外に慄いている暇などないのだ。
ソレ故、【紫影】がどれだけ舐めた態度を取ろうとも…例えソレが、【紫影】の慢心からくる綻びような僅かな『隙』であったとしても…
それでも小さな勝利への糸口を、決して見逃さぬ鷹の目が光り。飢餓の毒竜には未だ及ばないとは言え、それでも【紫影】のLPを0にするには充分過ぎる力を得た牙竜が勝利を掴む為、手段を問わない咆哮を響き渡らせるとき…
それは、屑を葬る一筋の閃光となりて―
ここに、轟く―
「斬魔黒刃、ニルヴァー…ストライィィィィクッ!」
―!
「っ…ぎょひいいいいいいいい!」
爆ぜる…
漆黒の牙竜に貫かれた、毒持つ竜の草花が。
…ソレはとても小さな油断、【紫影】に怯まぬ少年の奮起。
モンスターが爆散するその光景は、攻撃に邪魔が入らなかった何よりの証拠。その爆風は、実体化した4500のダメージとなりて瞬く間に【紫影】へと襲いかかり…
「殺ったか!?」
「うむ!間違いない!」
手応えアリ…
攻撃を仕掛けた鷹矢だからこそ理解できた。今の攻撃で、【紫影】を確実に『殺った』という…その、確信を。
そう…【紫影】がどれだけ話術で乱してこようと、屑がどれだけ地力の差を見せ付けてこようと、奴がどれだけ飄々と攻撃を躱してこようとも。
それでも遊良とのコンビネーションによって、そして真正面から小細工なしに上昇させた『力』によって…逃れられない一撃を、今確かに【紫影】に与えたのだと、そう鷹矢は確信めいたモノを掴み取ったのだ。
…その勝利は、【紫影】の醸しだす不気味な重圧を少年達が一蹴し続けたが故の代物。
真正面から、小細工なしに。突如現れ、意味深に蠢いていた【紫影】の『名』など相手にする気もなく…
僅かなに生じた勝利への隙間を、強い意思によって無理矢理にこじ開け。これまで培った力を存分に注ぎ、そうして今の攻撃で【紫影】を倒したのだと鷹矢はこれまでの経験から理解出来た。
…【紫影】は、攻撃宣言字に伏せカードを発動させる素振りを見せなかった。それすなわち、今の攻撃に対し【紫影】には取れる手がなかったというコト。
それは【白鯨】から、【紫影】が必ず手札に隠し持っているであろう【バトル・フェーダー】には注意しろとキツく言われていたからこそ…
ずっと狙っていた、相手モンスターへの一撃でLPを0にするという狙い。
ソレをここぞという場面で爆発させることに成功した鷹矢の心には、この攻撃にて【紫影】を倒したという確信が沸々と湧き上がってきていて―
しかし…
モンスターの爆発によって生じた土煙が、漂いながら段々と晴れてきた…
そこには―
「なぁんて、まだ終わってませんがねぇ、えぇ。」
【紫影】 LP:4000→1750
「なっ!?」
「何故だ!何故LPが残っているのだ!」
LPが一撃で0になる、4500ものダメージが発生したはずだというのにも関わらず。
未だLPを残しつつ、どこまでも不快な捻じれた顔を崩さずにそこに佇んでいた裏決闘界の融合帝、【紫影】。
…飄々と佇んでいるその姿はまるで、少しの焦りもなかったかのよう。
それは奇襲にも似た鷹矢の攻撃、LPを完全に0にする先の一撃を向けられてもなお防ぐ手段を隠していたという何よりの証明。
そして、土煙が完全に晴れた【紫影】の場には…
奇怪な格好をした、1体の羽虫の姿が。
【スモーク・モスキート】レベル1
ATK/ 0 DEF/ 0
「ダメージ計算時、【スモーク・モスキート】の効果を発動しました。私へのダメージは半分となり、バトルフェイズは強制的に終了となります。」
「スモーク…モスキート?」
「【バトル・フェーダー】ではない…貴様、そんなモノを隠し持っていたのか…」
「ふふっ、勝ったと思いましたぁ?一瞬だけですが良い夢見られましたかぁ?まったく、どうして私とデュエルする人達は皆【バトル・フェーダー】を警戒するんでしょうねぇ。ま、大方【白鯨】の入れ知恵でしょうが…でしたら1つ教えてあげましょうかねぇ。私のデッキ、【バトル・フェーダー】入っていないんですよねぇ、えぇ。」
「ぬぅ…」
予想に反し、想定と違う。
LPを0には出来なかったとは言え、それでも遊良とのコンビネーションによって『極』の頂きに位置している者にダメージを喰らわせた今の鷹矢の一撃は、決して小さくはない確かな手傷であると言うのに…
それでも、確実に『殺った』という確信を難なく躱され…今のダメージすら想定の範囲内であったと言わんばかりの【紫影】の態度は、揺ぎ無い強者にのみ醸しだすことが許される孤高の余裕ではないか。
そんな敵に、どこか手玉に取られているかのような感覚を覚えてしまったイースト校2年の天宮寺 鷹矢。
二人がかりでもなお遠い、『極』の頂きというその場所に位置している目の前の敵に対し…鷹矢は、今改めて『極』の頂きに位置している者の底知れぬ力をひしひしと感じているのか。
「…チィ!俺はカードを2枚伏せてターンエンドだ!このエンドフェイズに、ダーク・リベリオンの攻撃力は3850に戻る!」
鷹矢 LP:4000→3000
手札:6→1枚
場:【ギアギガントX】
【ダーク・リベリオン・エクシーズ・ドラゴン】
【ダイガスタ・エメラル】
伏せ:2枚
目の前の敵は、これまでの相手、これまでの敵、これまでの壁とは大きく異なる『力』と『悪意』を持った恐るべき障害。
その、生まれて初めて対峙する『本物の敵』の雰囲気は…果たして、経験の少ない少年達にどのような感情を与えているのだろう。
…本物の『死』がすぐ傍まで迫っているという緊迫。
…隠す気のない『悪意』が次々に襲い掛るという圧迫。
…『極』の頂きの圧倒的な実力差を見せ付けられるという切迫。
そんな、普通の少年であれば決して味わうことのない非日常的な状況の中で彼らはデュエルをしているのだ。
これでは、いくらこの歳で死線を潜り抜けてきた経験のある遊良と鷹矢とは言え…
初めて対峙する『本物の敵』の前には、少なからず重圧を感じてしまっているはずであり…
「すまん遊良、倒しきれなかった!任せたぞ!」
「あぁ!任せろ!俺のターン、ドロー!」
「はぁ…元気ですねぇ。全く、折れる気配すらない…」
しかし、それでもなお折れない少年達を見て。
徐に、感嘆と呆れを含んだ吐息を1つ、その捻じれた口から漏らした裏決闘界の融合帝、【紫影】。
…その溜息に隠された本心は、一体何を感じているが故のモノなのか。
4体も揃えていた強大な融合モンスターたちが、1体増えたとは言え3体もこのターンで消されてしまったこの状況を…果たして、【紫影】はどう読み取るのだろう。
あれだけ力の差を見せつけ、あれだけ心を揺さぶろうと試みたというのに。全く怯む事無く向かってくる少年達の姿は、これまで数多の人間を絶望させてきた【紫影】からすれば少々予想外の出来事でもあったのか。
裏決闘界の融合帝…表の【王者】と同等の力を持つと言われている屑の目には、依頼主からの『前情報』があったとは言え、手を取り合った少年達の力が普段の彼らよりも数倍高まっている事が映像で見るよりもハッキリと映りこんでいることは先ず間違い無く…
「…少々予想外なんですよねぇ。まさかタッグを組んだらココまでヤるとは…予定よりLP削られてしまいましたし…」
【紫影】から零れる呆れの溜息、しかし『余裕』ではない小さな呟き。
確実に『殺り』に来ていた鷹矢の攻撃を難なく躱し、ダメージを最小限に抑えつつターンを終えさせたとは言えども…
少年達には見せない、聞こえさせない声で漏らすその言葉は、誰も知る事のできないであろう紛れも無い【紫影】の本音。
少年達には聞こえない声で、しかし言葉にせずにはいられないかの様な声で…ポツリと言葉を漏らす【紫影】の佇まいは、今の攻撃で半分以上のLPを削られてしまったことに対し少々驚きを感じているかのよう。
…そう、【紫影】の予定では、こんなにLPを削られるはずではなかったのだろう。
1人1人は取るに足らない、『先』の地平で足掻いているだけの幼い子ども。そんな者達がタッグを組めば、ここまで力を相乗させてくる今の状況は【紫影】からしても相当予定を狂わせられているに違いなく。
ソレ故、いくらダメージを負う事は最初から想定済みだったとは言え。そして2vs.1で戦う事を、最初から予定していたとは言えども…
…Ex適正を持たない少年の魅せる進撃が、【王者】の孫の少年の進む覇道が。
決して交わらないと思われた、その二つの人生が組み合わさった時。まさか自分の想像を超える程の力となり得るだなんて、【紫影】からしても想定外であり予想外であったのだから。
…力を『抑え』られていても、もう少し余裕の予定であった。
そうだと言うのに、よもや人間では無くなった自分がこんな少年達のタッグに流れを奪われかけているだなんて。こんな状況、『依頼主』たちが聞いたら、それこそ小馬鹿にしながら笑ってくることだろう。
それに、きっと次の天城 遊良のターンにも彼らは想定外のコンビネーションを見せてくるに違いない。
そうなると、いくら裏決闘界の融合帝たる身分であろうとも2対1という状況とが合わさって、少年達に圧されてしまうことは明白であり…
その光景が、容易に想像できる【紫影】だからこそ…
「やはりキーは天宮寺 鷹矢…貴方が厄介な存在でしたねぇ…こうなったら予定より早いですが…」
何やら不敵な笑みを浮かべる【紫影】が、そのネットリとした蛇のような視線をターンを迎えた遊良ではなく…
ターンを終えたばかりの鷹矢へと、徐に向けたかと思うと。
「流石に、そろそろキツくなってきましたし…」
遊良が、ターンを進めるその直前にゆっくりと…
そう、ゆっくりと…
【紫影】が、怪しくその手を持ち上げ…
「いくぞ!【テラ・フォーミング】はつど…」
「…おっと。」
―パチィンッ!
…と、細く捻じれたその指を打ち鳴らした―
その刹那―
―ドォン!
…という、一瞬の爆発音が鳴り響き―
そして―
「ぐぁぁぁぁぁぁあ!」
崩れ落ちてきた、巨大なる岩の数々が…
『鷹矢』を、飲み込んでしまった―
「…え?」
唖然…
その、あまりに突然の光景に…
何が起こったのかわからずに、思わず言葉を失い固まってしまったイースト校2年、天城 遊良。
しかし、それもそのはず。
一瞬。たった一瞬の出来事。
たった今ターンを終えた鷹矢に連なり、これより自分が動き始めようとしていたその瞬間に…
『落石』が、鷹矢を飲み込んでしまうだなんて…
一体、誰が想像できたと言うのか―
「…あ…え…?」
だからこそ、目の前の光景が遊良には飲み込めない。あまりに突然の出来事に、遊良の思考が停止する。
思わず零された、遊良の間の抜けた吐息が物語っている…
今、何が起こったのか…遊良にも、わからなかったのだ…と。
だってそうだろう。一体誰が予想など出来るものか。これから更に勢いに乗ろうと、ターンを迎えたことによりカードを発動しようとしたその刹那…
爆発音のようなモノが少年達の頭上から鳴り響いたかと思うと、岩が崩れ落ちてきて鷹矢を押し潰してしまうなんて―
「あ…た、鷹矢ぁぁぁぁぁぁぁぁぁあ!おい!返事しろ!鷹矢ぁ」
「ふふふっ…相棒、つぶれちゃいましたねぇ?」
「ッ!?」
「ふふふっ、貴方達がいけないんですよぉ?私の想定以上のデュエルをするなんて、予定外も甚だしいったらありゃしません。全く、ホント手間をかけさせてくれるガキ共ですよねぇ。ま、これで少しは静かにデュエル出来ると言うモノですが、えぇ。」
「な…これ…お前が…?」
そして…
今の【紫影】の口ぶりから、遊良は嫌でも理解してしまう―
この、鷹矢を押し潰してしまった突然の落石は…紛れも無く、【紫影】が巻き起こしたのだ…と。
爆薬でも仕込んでいたのか、それとも他に仕掛けを施していたのか。どうやったのかはわからないものの、鷹矢を飲み込んでしまったこの『落石』はこの屑が『狙って』やったことだけは間違いようのない事実であり…
…信じられない、信じたくない、信じられるわけがない、信じたくも無い。
この世界における絶対の取り決めである『デュエル』の最中に、こんな卑怯な手を使ってくる屑が存在していることに。
【白鯨】から散々口うるさく聞かされていた、【紫影】の屑さ加減の『真実』を目の当たりにして、遊良の体が一瞬で沸騰しかけるくらいに熱くなる。
…なんて卑怯な奴…少しでも状況が危なくなれば、迷い無く無粋な手を取ってくるなんて―
…なんて卑劣な奴…天上の実力を持っている癖に、学生に押されたからと言ってデュエリストの風上にも置けない策を弄してくるだなんて―
…なんて屑…いけしゃあしゃあと、鷹矢を岩で押し潰すだなんて―
この世の何よりも優先される『デュエル』という行為に、こんなにも無粋で屑な邪魔を用いてくる信じる事の出来ない屑の中の屑。そんなプライドの欠片もない【紫影】への怒りが遊良の中で湧き上がる。
そしてソレ以上に、目の前で鷹矢を傷つけられたその怒りが遊良の中で煮えたぎり始め―
そうして…
「さぁて、後はゆっくりと残りを片付けるだけ…」
「…ェ…」
「ほ?」
昨日の『ルキ』に続いて…
自分にとって、この世の何よりも『大切なモノ』のひとつを目の前で傷つけられた遊良が…
俯きながら、一瞬肩を震わせた…
その瞬間―
「テメェェェェェェェェェェェェェェェェェェェェェェェェェェェェェェェェェェェェェェェェェェェェェェェェェェェェェェェェェェェェェェェェェェェェェェェェェェェェェェェェェェェェェェェェェェェェェェェェェェェェェェェェェェェェェェェェェェェェェェェェェェェェェェェェェェェェェェェェェェェェェェェェェェェェェェェェェェェェェェェェェェェェェェェェェェェェェェェェェェェェェェェェェェェェェェェェェェェェェェェェェェェェェェェェェェェェェェェェェェェェェェェェェェェェェェェェェェェェェェェェェェェェェェェェェェェェェェェェェェェェエッ!」
―!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!
瞬間―
そう、【紫影】の言葉を耳にした、その一瞬の刹那の後に…土煙漂う大空洞に、大気の全てが振動するほどの『音』が轟いた。
怒号…それは紛れも無い遊良の怒号。
耳を劈く咆哮が、山ごと揺らしているかの如く。ありえない声量から放たれた、大気を揺らす遊良の『怒号』が突如として遊良の体から轟き始め…
大空洞の中で反響しているとはいえ、およそ人間に出せるとは思えない程の声の振動が大気を揺らしながら。
その口ぶりから、鷹矢をわざと岩で潰した【紫影】に対し…
―地を震わせて、響き渡る。
「ざけんなクソ野郎ォォォォォォォォォォォォォォオッ!」
「ふふっ、うるさいうるさい…本当にキレ方が祖父そっくりですねぇ。はてさて、ではどうしますか?まだ戦いますか?それともここでデュエルを放棄して、相棒を岩の中から掘り起こしますかぁ?今ならまだ助かるかもしれませんが…ま、そうなれば貴方はいい的。相棒の無念も、師からの命令もこなせず…私に撃ち抜かれて、無駄死にするだけですが。」
「ッ!?」
「さて、もう一度聞きます。貴方はどうしますか?相棒を殺され、祖父を傷つけられ…それでも貴方はまだ戦いま…」
「黙れぇぇぇぇぇえ!何が『相棒を殺され』だ!鷹矢が…あの馬鹿がこんな簡単に死ぬわけねぇだろうがぁ!【テラ・フォーミング】発動ぉ!」
―!
叫ぶ…
喉が裂け血を吹こうとも。
この屑にだけは負けられない、この屑だけは許してはいけない。
その感情が遊良を飲み込み、そうして叫ばれるは【紫影】の言葉を真っ向から打ち返す轟きと化して大空洞に響き渡るのか。
…そう、許せるわけがない。
すぐにでも鷹矢の元へと駆け寄りたいという衝動を超える、遊良の中に湧き上がる【紫影】への怒り。
それは今にも本能的に【紫影】を殺してしまいたいと湧き上がる、押さえられない果てしない憤怒。
これまで散々揺さぶられ、そして大切なモノを傷つけられ…
それでもなお平然としているこの屑の中の屑のことを…
遊良が、許せるわけも無い―
「【チキンレース】を加えてそのまま発動!LPを1000払って1枚ドロー!」
「ほう、相棒の命よりも師からの令を取りますか。ふふっ、流石は憐造の甥…やはり薄情者ですねぇ。」
「黙れって言ってんだろうがぁぁぁぁぁあ!テメェをさっさと倒して鷹矢を助ける!アイツが勝手に死ぬわけねぇんだよぉ!3枚目の【トレード・イン】発動!【モザイク・マンティコア】を捨てて2枚ドローッ!」
そんな、無理矢理に叫ぶ遊良の声は…どこか目の前の現実を認めないようにしているかのような、悲痛な叫びにも聞こえる必死な声でもあったことだろう。
隣の惨状…いくら『あの鷹矢』とは言え、重さ数トンはあるであろう巨大なる落石の数々に押し潰されてしまった現状を見ては―
…そんな最悪の結末を、絶対に考えないようにして。
それは心の支えでもあった鷹矢の姿が消えてしまい、ここぞとばかりに話術を仕掛けてくる【紫影】の声に決して耳を貸さないように。
この世の誰よりも鷹矢を知っている遊良だからこそ、あの鷹矢がこんなところで『最悪』な状況になっているわけがないと言い聞かせながら…
湧き上がる殺意と燃え上がる怒りで、必死になって遊良は叫ぶ。
けれども―
「それに何が『祖父を傷つけられ』だ!お前の嘘なんて聞く耳持つわけねぇだ…」
「天城 イノリ…」
「ッ!?」
「えぇ、えぇ!もちろん聞き覚えがありますよねぇ!貴方の祖母…父の母親の名ですし!」
「それがどうした!そんなこと、調べれば誰だって分かることだろ!お前がその名前を知っているからって…」
「私、会った事あるんですよねぇ。イノリさん本人に。」
「なっ!?」
揺さぶられる…
揺さぶられて、しまう―
遊良がどうすれば耳を貸すのかを、遊良がどうすれば揺さぶられてしまうのかを。昨日を含めたこれまでの戦いで、ソレを解析しきっている【紫影】の言葉が無慈悲に遊良の心を揺さぶってしまう。
天城 遊良が最も心揺さぶられる話題…そう、『血縁』の話題を嬉々として持ち出しつつ。
心の支え、話術を邪魔する精神的支柱でもある、血縁に関しては『部外者』とも言える天宮寺 鷹矢を除外し…
遊良の心を折ることに、愉悦を感じているかの如く。【紫影】は今こそ好奇と言わんばかりに、遊良を更に揺さぶりにかかって。
「こう見えて私、元々は『表』のプロで【白鯨】や『逆鱗』は同期なんですよねぇ。当然、若い頃の『逆鱗』とも交流がありまして…ふふっ、しかし懐かしいですねぇ、あの『逆鱗』が天津間…いいえ、天城 イノリにデレデレしているときの顔と言ったらもう傑作で傑作で…」
「うるせぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇえッ!」
―!
しかし…それでもなお遊良は思い切り叫ぶのか。
…喉を引き裂き、無理矢理に叫び。
【紫影】の心を揺さぶる言葉を、圧倒的声量にて思い切り掻き消し…
「さっきからごちゃごちゃうるせぇんだよ屑野郎ぉぉぉぉぉお!魔法カード、【闇の誘惑】発動ぉ!2枚ドローして【ネクロ・ガードナー】を除外ぃ!」
「ふふっ、揺れた心を無理矢理奮わせましたか…流石に同じ手には引っかかってはくれませんねぇ…ま、悪手ですが、えぇ。」
「手札を1枚捨て、魔法カード【ワン・フォー・ワン】発動ッ!デッキから【サクリボー】を特殊召喚し…特殊召喚成功時に速攻魔法、【地獄の暴走召喚】発ど…」
「ですがさせませぇん!カウンター罠、【見切りの極意】発動!」
「【見切りの極意】!?」
「何を驚いているのですか?馬鹿の1つ覚えのように【地獄の暴走召喚】ばかり使うからですよぉ。【地獄の暴走召喚】は無効でぇす!ふふっ、ワンパターンな戦術など簡単に対策でき…」
「ッ!それがどうしたぁ!【貪欲な壷】発動!ベリアル、サクリボー、イービル・ソーン、マンティコア、NEPTUNEをデッキに戻して2枚ドロー!そして【イービル・ソーン】を通常召喚!【思い出のブランコ】も発動!墓地から【鉄鋼装甲虫】を守備表示で特殊召喚!」
「おや…ま、アレだけドローしているのでやはり止まりませんか。ふふ、天城 遊良…もっと怒りなさい。その怒りこそが貴方を強くするのです…」
「行くぞ!【成金ゴブリン】を発動!LPを1000与えて1枚ドローッ!リバースカード、【迷い風】も発動!【始祖竜ワイアーム】の効果を無効に!そしてバトルフェイズだ!速攻魔法、【ライバル・アライバル】発動ぉ!【サクリボー】、【イービル・ソーン】、【鉄鋼装甲虫】をリリィィィスッ!」
叫ぶは衝動、轟くは怒号。
【紫影】の不敵な声すらも届かぬ、燃え上がる遊良の怒りの咆哮。
それは目の前の屑を、絶対に消し飛ばしてやるというただその一点のみに集約された…これまでで最も強い怒りが見せる、全てを破壊せしめる獣の雄叫び。
…絶対に許せるわけがない。絶対に許してはいけない。
鷹矢とルキを傷つけた、この屑の中の屑のことを…
決して逃さず、己の手で消し飛ばしてやるという怒りによって、その手に掲げられしカードには、更に強い怒りを纏い―
奮える大気、獣の咆哮と共に…
それは、現れる―
「レベル8、【神獣王バルバロス】をアドバンス召喚ッ!」
―!
【神獣王バルバロス】レベル8
ATK/3000 DEF/1200
現れしは進撃の轟き、全てを無に帰す破壊の雄叫び。
主の怒りと同じ怒りを抱いている獣の王もまた、目の前の屑を己の手で屠らんとして怒り猛り叫び…
そして―
「【冥界の宝札】2枚と【サクリボー】の効果で5枚ドローッ!そして【神獣王バルバロス】のモンスター効果ぁ!3体リリースでアドバンス召喚した時…相手のカードを全部破壊する!やれ!バルバロスゥ!」
―!
獣の王が怒りのままに、その槍を地面へと突き刺した時。
凄まじき衝撃が波となりて、大地を砕きながら【紫影】の場の全てへと襲いかかり始めたではないか。
…全てを、破壊する…抵抗するモノの、全てを飲み込んで。
怪しく蠢く【紫影】の竜も、強固な耐性を持っていた原初の竜も、巨大なる人形要塞も小さき虫も。
何もかもを飲み込み、砕き、壊し、粉砕し、破壊していくその光景は、まさに遊良の怒りが具現化したかのようでもあって。
「…スターヴ・ヴェノムの効果で破壊できるのは特殊召喚されたモンスターだけ…なるほど、シェキナーガもそうですが、アドバンス召喚主体の貴方には色々と『通用しにくい』ですねぇ、えぇ。」
「これで終わりだ屑野郎ぉ!バトルだ!【神獣王バルバロス】でダイレクトアタック!」
そうして…遊良の怒りの咆哮が、大空洞を響かせ揺らす。
破壊された【紫影】のスターヴ・ヴェノムが、苦し紛れに鷹矢の場のモンスター達をその毒で道連れにしてしまったものの…
アドバンス召喚…つまり特殊召喚されていない獣の王はその存在感を失わせずに、飢餓の毒を消し飛ばすのみ。
―だからこそ、猛る。
【紫影】にトドメを刺す攻撃を、獣の王に叫び命じ。
その宣言は咆哮となりて、ビリビリと大気を振動させながら今まさに獣の王が大空洞を駆け始めるのか。
コイツはルキを傷つけた…目の前で鷹矢を傷つけた。
その、絶対に許せるわけがない怒りが遊良の中で更に強く燃え上がり―
「天柱の崩壊!ディナイアー・ブレイ…」
LP残り2750の【紫影】へと、命をも奪う螺旋の一撃を遊良が放たんとした…
その時だった―
「ま、無駄なんですけどねぇ。直接攻撃宣言時、手札から【バトル・フェーダー】の効果発動です。」
「なっ!?」
―!
【バトル・フェーダー】レベル1
ATK/ 0 DEF/ 0
瞬間…
獣の王の螺旋の槍を、弾き返しながら現れたのは…
無機質な黒き体色をした、鈴をぶら下げた小さき悪魔のモンスターであった。
それはがら空きで攻撃された時にこそ真価を発揮する、最上の守りの一手にも数えられるモンスターの1種であり…
しかし…そのモンスターが現れたことで、更に心臓が大きく跳ねる感触を覚えてしまった天城 遊良。
…それもそのはず。先ほど鷹矢の攻撃を、【スモーク・モスキート】で防いだ時に【紫影】は言っていた…
―『私のデッキ、【バトル・フェーダー】入っていないんですよねぇ、えぇ。』
…と。
だからこそこの攻撃を邪魔されることはないのだとして遊良は攻撃を仕掛けたのだし、もしまた【紫影】が【スモーク・モスキート】を使ってきたとしても直接攻撃自体は成功しているのだとして…そのまま、怒りのままに【紫影】を刺し殺してしまうつもりが遊良にはあった。
…だからこそ、焦る。
ここで、ここへきて…
【バトル・フェーダー】によって、攻撃を無傷のままに止められたことに―
「ふふっ、攻撃を無効にし、【バトル・フェーダー】を特殊召喚してバトルフェイズを終了します。」
「テメェッ!【バトル・フェーダー】はさっきデッキに入れてないって…」
「え?あぁ…ふふふっ、もしかして私の言ったこと信じてたんですかぁ?敵のいうコトを素直に信じるなんてお馬鹿さんですねぇふふふふふっ!」
「…ッ!?」
しかし…
そんな遊良を、どこまでも小馬鹿にしたように―
捻じれた声を吐き出す【紫影】の態度は、遊良の焦りを更に焦がしにかかるのか。
迂闊だった、早計だった―
どうして、あんな屑の言葉を真に受けてしまったのか―
天空闘技場を出発する前に、【白鯨】から散々『奴は必ず【バトル・フェーダー】を持っている』という注意を言われていたにも関わらず…
【紫影】の戯言を真に受けてしまい、まんまと屑の術中に嵌ってしまったなんて、遊良からすれば一体どれほどの屈辱であると言うのだろう。
弄ばれた屈辱が遊良を襲う。燃え盛る怒りが更に煮え滾り、どこまでも嘘の塊である【紫影】への嫌悪と憎悪が遊良の中で更に大きくなっていく…
しかし…それと同時に浮かび上がるのは、【紫影】にまんまと弄ばれた自分の弱さ。
警戒していたはずなのに。注意していたはずなのに…何故【紫影】の言葉を真に受けてしまったのか。信じるつもりなどなかったのに…いや、そもそも信じているつもりもなかったというのに、それでも、『無意識』を意図的に誘導されるだなんて、一体どれだけ心に隙間があったというのか。
そんな弱さが浮き彫りになる度に、遊良の心には腸が煮えくり返る感触が浮かんでは燃え上がる。
攻撃する前に、もう少しドローを加速していてもよかった。そう、【抹殺の指名者】で【バトル・フェーダー】を封じ込める算段だって、ココに来る前に鷹矢と打ち合わせていたはずなのに…
怒りに任せた攻撃と、鷹矢を失った精神的ダメージが緒を引いて、アツくなりすぎた所為でこのターンに【紫影】を仕留めきれなかったことが、怒り狂っていた遊良に今更になって途轍もなく重く圧し掛かってきてしまって。
「くそっ!カードを3枚伏せてターンエンドだ!」
遊良LP:3000→2000
手札:5→2枚
場:【神獣王バルバロス】
魔法・罠:【冥界の宝札】、【冥界の宝札】、伏せ3枚
フィールド:【チキンレース】
届かない…これだけやっても、届かない。
それはまるで、掌の上で遊ばれているかのような薄気味の悪い奇妙な感覚。
ここまでの攻防も全て見透かされていたとさえ思える【紫影】のデュエルの、その一つ一つの所作がどこまでも遊良の体に纏わりつく。怒りは決して収まらないとは言え、それでも今の攻撃を難なく躱した【紫影】の余裕が遊良にはどこまでも気持ちが悪く…
…この後やってくる【紫影】のターンを考えると、後1枚は伏せカードをセットしておきたかった。
そんな考えを浮かばせながら、自分の手札を見据える遊良。
…手札はまだあるとは言え、ソレも場に出せなければ意味が無い。そう、【冥界の宝札】は確かに遊良のデッキにとっての大きなエンジンではあるものの、永続魔法であるが故に魔法・罠ゾーンを圧迫し、現状遊良が伏せられる伏せカードは最大で3枚まで。
並の相手であれば、3枚の伏せカードだって多大なる威力を持つとは言え…
今対峙しているのは並の相手などでは断じてないからこそ、万全を期したはずなのに纏わりついてくるこの気持ちの悪い雰囲気が、どこまでも遊良の焦燥を駆り立ててくる。
…そして、遊良の不安は伏せカードだけではない。
場に揃えたモンスターは、攻撃力3000の獣の王のみ。一撃にて【紫影】のLPを0に出来る攻撃を仕掛けたとは言え、逆に言えば、遊良の場に居るモンスターはそのたったの1体だけと言う事。
…それはEx適正を持たない遊良にとっては、大型モンスターを場に揃えるのだってソレ相応の対価が要るという事でもあるのだろう。
それゆえ、今の自分に出せる万全を期したはずなのに…それでも焦りを感じてしまうのは、一体どうしてなのだろうか。
いかに攻撃力3000の大型モンスターを場に呼び出しているとは言え、湧き上がる怒りとは裏腹にどこか焦りすら感じてしまっている今の遊良の感情は…
怒りと焦り、憎悪と嫌悪…鷹矢が居た場所に積み重なる『岩』を視界に入れるたびに暴発しそうになる怒りが、同等の焦りと交わりどうにかギリギリ理性を保てているだけのようではないか。
「私のターン、ドロー!」
しかし、そんな遊良の感情の流転を、嬉々として見下し弄びながら。
遊良からの殺意など何処吹く風で、飄々とその捻じれた姿を見せつけながらカードをドローした裏決闘界の融合帝、【紫影】。
…溢れ出る余裕。まるで、既にこのデュエルの終着が【紫影】には視えているかのよう。
遊良の怒りをヒラりと躱し、遊良の守りをニタニタと小馬鹿にしながら…
なおも高いところから、今ゆっくりと動き出す。
「さて…ではそろそろ終局としましょうかねぇ。魔法カード、【終わりの始まり】を発動。墓地のシャドール・ドラゴン、ビースト、おまけにミドラーシュとスモーク・モスキート、そして【捕食植物セラセニアント】を除外し3枚ドロー!そして手札を1枚捨て速攻魔法、【ツインツイスター】を発動。貴方の伏せカード2枚を破壊します!」
「ッ!?」
巻き起こる双頭の竜巻が遊良を襲う。
…それは【紫影】の攻撃に備えて、硬く身構えていた遊良を果てしない『上』から摘み上げて小馬鹿にするが如く。
3枚の伏せカードが、なんの牽制にもなっていない。そのまま、なんともあっけなく…遊良が伏せていた守りのカード、【攻撃の無敵化】と【光の護封霊剣】が破壊されていく―
「続けて【召喚師アレイスター】を召喚!その効果で、デッキから【召喚魔術】を手札に…」
「アレイスター!?ソイツは確か【召喚獣】!くそっ、させるか!永続罠、【デモンズ・チェーン】発動!アレイスターの効果を無効に!」
また、続けざまに動く【紫影】の場に現れたのは、杖を構えし孤高の魔術師であった。
【召喚獣】という、異界の強大な獣を呼び出すとして知られているその主核の魔術師の事は…
遊良も知識として知っており、それ故にアレイスターの効果を通すわけにはいかないのだとして、即座に止めんと反射的に動きを見せるのか。
…魔術師を止める悪魔の鎖。遊良が好んで使うその永続罠の力によって、縛られ地に伏す召魔の主。
そう、アレイスターの効果を許してしまえば、更に強大な融合モンスターが現れてしまうことは必至。
ソレを遊良が懸念する事は至極最もであり、【チキンレース】の効果を含めても【紫影】の残りの手札を考えると、これ以上の展開からこのターンの決着はまだ着かないと…状況からして、そう遊良が踏んだとしてもソレは何ら可笑しなことではない事だろう。
しかし…
(なんだ…この嫌な感じ…あの屑…まだ何か隠して…)
溢れでる冷や汗が止まらない。遊良の危険を知らせるセンサーが、更に激しく震え上がる。
…アレイスターは止めた。それは確実に止めるべくして止めなければならない最良の一手だったはず。
そう、それは残り1枚の【紫影】の手札から出せるモノには、限りがあると踏んだ遊良の思考が導き出した反射の一手であり…
残り1枚の手札が何かはわからない。だからこそ現状でアレイスターを止めていなければ更に状況が悪化してしまうことを懸念することは、『そのレベル』に達しているデュエリストならば当然の如くたどり着く思考ともいえるはずのだ。
だからこそ、残った守りの最後の一手…悪魔の鎖をアレイスターへと向けた事への正当性を信じたい遊良が、大きくなり続ける焦りの鼓動を無理矢理に押さえつけながら必死になって視線を外さず。
けれども…
そんな、必死になっている遊良へと向かって…
「健気ですねぇ。精神的支柱を失ってもまだ勝機を見出そうと頑張っているんですから。」
「だ、誰が諦めるもんか!お前をブッ殺すまで、絶対に諦め…」
「ですが貴方の伏せカードはこれで0、場には何の効果も持たないただのモンスターが1体…この程度で生き残れると思えるなんて、なんてお気楽な頭をしているんでしょうねぇ。魔法カード、【龍の鏡】発動!」
「【龍の鏡】!?」
「ふふっ!貴方程度の実力でこのターンを生き残れるわけないでしょう?墓地からキメラフレシアとドラゴスタペリアを除外融合!」
やはり【紫影】は止まらない。
先ほども使った融合魔法…別次元へと繋がる鏡を用い、【紫影】の場に浮かび上がるは竜の陰影。
そう、アレイスターはあくまでも、遊良に【デモンズ・チェーン】を使わせるための捨ての一手。アレイスターを止めておかないと、更に状況が悪化するということを遊良へと見せつけ…
先ほども使った、1枚で『融合召喚』を行えるその魔法をありありと掲げながら…
「禍つ紫影の揺らめきよぉ!この世の全てを包み込みぃ…数多の命で腹を満たせぇ!」
自らの『名』を呼び出す先ほどの宣言よりも、なお凶悪なオーラをその身に纏い。
竜の陰影が渦巻く神秘の渦へと、2体の捕食植物を捧げ…
それは、現れる―
「融合召喚!現れなさい、レベル10!【グリーディー・ヴェノム・フュージョン・ドラゴン】!」
―!
【グリーディー・ヴェノム・フュージョン・ドラゴン】レベル10
ATK/3300 DEF/2500
…轟いたのは、飢えを通り越した飢餓の咆哮だった。
どれだけ食しても収まらぬ、どれだけ貪っても満たされぬ…轟いたのは、飢饉とも思えるそんな叫び。
交わる2つの毒の草花が、捻じれたうねりを纏いし紫影の竜によく似た姿となりて…【龍の鏡】という、竜の幻影を呼ぶその鏡の魔力によって生じたのは、生まれ変わったそ異形の姿。
…その翼はまるで開いた花弁。美しさの中に存在する、毒と言う名の畏れを纏い。
生きとし生ける者全ての命を、根元から喰らい付くさんとしている…飢餓すら通り越した、まさに飢饉と言える暴食の牙と言えるのであって。
【グリーディー・ヴェノム・フュージョン・ドラゴン】レベル10
ATK/3300 DEF/2500
「グリーディー…ヴェノム…」
「ふふっ、グリーディー・ヴェノムの効果発動でぇす!このターン…【神獣王バルバロス】の攻撃力を0にする!」
「なっ!?」
【神獣王バルバロス】レベル8
ATK/3000→0
そして…
怪しき花弁から放たれし、飢饉の毒が獣の王へと襲い掛かる。
それは生きている者ならば決して逃れられぬであろう、無理矢理に飢餓を与える病的なまでの毒の雨。
問答無用。いかなる相手でさえも…例え神であろうとその力を文字通りの『0』にしてしまうその力によって…
神をも貫く槍を持った獣の王までもが、飢えに耐え切れず槍を落としてしまったではないか―
「な…こんな…簡単に…」
「これで終わりだと言ったでしょう?貴方程度の力で、まだ抵抗できると思っているなんて…ふふっ、脆い、脆い、脆いですねぇ。相棒を失ったことで簡単に壊れてしまうなんてどれだけ脆い心なんでしょう…だから、貴方は負けるんです、えぇ。」
どうしようもない虚無が遊良を襲う。【紫影】の言葉がどこまでも遊良に纏わりついて、その膝を折ろうと迫り来る。
…どうしてこんなにも簡単に全力を超えてくる。
…どうしてこんなにも力の差がある。
今の遊良の心に襲い掛かるは、認めたくないのに目視せざるを得ないこの現実と現状の悲嘆な光景。
守りの手を当然のように蹴散らされ、妨害すらも奴の想定の内…抵抗することすら許されないという力の差に、その自分の弱さにどうしようもない絶望が怒りを超えて遊良の心を圧し折りにかかる。
…鷹矢のように、墓地に攻撃を防ぐ何かを用意できていればまだ違っていた。
そう、遊良は先ほどの【闇の誘惑】で、墓地にて真価を発揮する【ネクロ・ガードナー】を除外してしまった。
それは遊良自身が熱くなりすぎていたことも原因のひとつ。先のターンで、【紫影】を確実に殺すという猛りの元に動いた結果が、今こうして悪手となって遊良へと圧し掛かってしまっているのだ。
…その場、その時、その瞬間に、デッキがどんな動きをするのかは誰にも分からない。
だからこそ、今ココで遊良の墓地に守りの手が無いこともまた1つのデュエルの流れでもあるのだが…
「さて、もう防ぐ手立てなど無いんでしょう?では折角ですし、【チキンレース】の効果を発動しLPを1000払って1枚ドローしておきましょうかねぇ。…ではバトル!グリーディー・ヴェノムで、【神獣王バルバロス】に攻撃ぃ!」
「ぐっ…くっそぉぉぉお!」
けれど、今更どれだけ悔やんでも遊良にはもう手が残されてはいない。
大空洞へと浮かび上がる飢饉の竜の飛翔を、ただただ見ていることしか出来ない遊良が零すその慟哭もまた…
どうしようも出来ない勝負の流れの、無慈悲なる決着の行方を告げる宣言となりて…
「蠱毒のぉ…デッドリー・フィアンマー!」
ここに、轟く―
その時だった―
「ぬぉぉぉお!【和睦の使者】発動っ!」
―!
突如…
最後の攻撃が解き放たれた、まさに一瞬のその刹那。
飢饉の竜が放った炎砲が、突如として『見えない壁』へとぶつかってしまったのだ。
…霧散、爆散、四散する毒の炎。
そう、遊良がもう駄目だと思ってしまったその時に、突如として弾けた『ある声』が紛れもなく遊良のことを守ったのだ。
…この声を、聞き間違えるはずがない。その声を、聞き逃すわけがない。
そして、遊良が反射的に…
『ある声』が聞こえた方…紛れもなく『岩』が積み重なっている自身の隣へと視線をやった…
『そこ』には―
「ッ!た、鷹矢ぁ!」
それは、あまりに奇妙な光景だった。
…見間違えるはずもない、見誤るはずもない。
そう、『その顔』を、遊良が間違うはずも無いのだ。何せ、『そこ』に居たのは紛れも無く…
重さ数トンはあろう巨大なる岩の数々に押し潰されているというのに、岩々の隙間から這い出るようにして『顔』とデュエルディスクを装着した『左腕』だけを外へと出した…
紛れもない、『鷹矢』の姿があったのだから―
「天宮寺 鷹矢!貴方まだ生きていたのですか!?」
「当たり前だ!ぐっ…こ、こんな『軽石』で!俺を殺せると思ったかぁ!遊良がまだ戦っておるのに!お、俺が先に倒れてなるものかぁ!」
鷹矢が『岩』に潰されているのは間違えようのない現実の光景。
しかしその岩を『軽石』と言い放ったように、鷹矢は岩に挟まれてはいても完全に『押し潰されて』はいないよう。
まぁ、それでもやはり岩に潰されているだけあって、どこか苦しげな呼吸が醸し出されてはいるものの…
それでも、【紫影】の策略によって死んだと思われた鷹矢が。今この瞬間に遊良を守り現れ、飢饉の毒竜の炎砲を完全に遮断し始めたのも間違いようのない確かな現実であり…
「【和睦の使者】の効果により、バルバロスは破壊されず遊良へのダメージは0になる!」
「…し、信じられません、なんて生命力なんですか!…あ、そ、それより天宮寺 鷹矢!貴方は先ほど、『自分の身は自分で守る』と言ったはず!今になって天城 遊良を守るなんて、ずいぶんと虫のいい…」
「なにを言う!岩の中で聞こえていたぞ…先ほど貴様が言っていたはずだ!敵の言う事を、素直に信じる馬鹿がどこにいると!」
「ッ!?」
それは一種の意趣返し。【紫影】の下賎な行いに対する、これ以上ないくらいの鷹矢の仕返し。
…因果応報、自業自得。
【紫影】の尊大な行いを、そっくりそのまま返すかの如く…岩に挟まれ動けない中でも、強気な態度を崩さないイースト校2年、天宮寺 鷹矢。
だからこそ、これで勝負が着くと思われたギリギリの状況においても…また遊良のLPは0を刻まずにいて、【紫影】の攻撃を防ぎながらその命を後へと繋いでいて。
「随分と舐めた真似をしてくれたな!もう許さん、貴様を完全に倒すまで、倒れてなどやらんぞ!」
「くっ…無様な恰好の癖になんて強気な…一体どうして生きて…」
「普段から鍛えているからな!当然だ!」
「な…」
「ッ…やっぱり、あのくらいでお前が死ぬわけないよな!最初からそうだと思ってたんだよ!」
「ふん、遊良の癖に、俺を心配するなど片腹痛いわ!この程度の『軽石』で、俺が死ぬわけがない!」
「なんだよ、鷹矢の癖に、折角心配してやったのに失礼な奴だな!」
だからこそ、鷹矢がいつもの様な軽口を叩いた事に対し、遊良もまた当然のようにいつもの返しを放つのか。
…しかし、岩に押し潰されたはずの鷹矢が一体どうして本当に生きているのだろう。
岩に挟まれている所為か多少苦しげではあるものの、数トンはあろう岩々の山に押し潰されている割には鷹矢の姿はあまりに健常であり…
それは鷹矢が言った、『軽石』という言葉が鍵なのかもしれない。けれども、この緊迫し続けている状況においては、そのことについて深く探求する暇など遊良にも鷹矢にも存在しておらず。
「仕方ありません…【強欲で貪欲な壷】を発動、デッキを10枚裏側除外し2枚ドロー!…私はカードを2枚伏せてターンエンドです!」
【紫影】 LP:2750→1750
手札:2→0枚
場:【グリーディー・ヴェノム・フュージョン・ドラゴン】
【バトル・フェーダー】
【召喚師アレイスター】
伏せ:2枚
また、ここで鷹矢が蘇り遊良を救ったことは…【紫影】にとっても、本当に計算外のことだったのだろう。
飄々としていた態度から一転。その、とても演技には見えない焦りを微かに表情に浮かべながら…
今再び、【紫影】はそのターンを終えるしかなく。
「ですが天宮寺 鷹矢!動けないデュエリストにターンは回ってきません!ドローも出来ないその身では、貴方のターンはスキップされてしまいますねぇ、えぇ!」
「ぬぅ…」
…とは言え。
遊良と鷹矢側からしても、鷹矢が復活したとは言え状況が一転したとは言いがたく。
そう、なにせ今の鷹矢の姿は、『頭』と『左腕』だけを解放させただけで…残る右腕及び他の全身は、まだ岩の山の下にあって挟まれたままであるのだから。
強がって見せているとはいえ、今もなお必死に身を捩る鷹矢の姿からわかる通り。彼もどうにか頭と左腕だけを岩から抜け出すことには成功したものの、完全に岩から抜け出すのにはまだまだ時間がいる様子。
まぁ、あの状況でもどうにか顔と左腕を抜け出させられたからこそ、鷹矢もあの瞬間に遊良をギリギリ救うことが出来たのだが…
それでも、デッキからカードをドローすることが出来ないこの状況では。いくら鷹矢が死んでいなかったとは言え、状況は変わっていないのとも言えるのだろう。
…動けず、ドローできず、何も出来ない天宮寺 鷹矢。
こんな状況のままでは、【紫影】の言った通りデュエルディスクが自動で鷹矢のターンをスキップしてしまうのもある意味当然とも言えば当然で…
「だが、今度こそ貴様のターンは回ってこん!ゆけ遊良!」
「あぁ!俺のターン、ドロー!」
「おっとぉ!スタンバイフェイズに速攻魔法、【瞬間融合】発動です!アレイスターとバトル・フェーダーで融合!融合召喚、レベル4!【召喚獣カリギュラ】!」
―!
【召喚獣カリギュラ】レベル4
ATK/1000 DEF/1800
それ故、これ以上少年達に好きにさせるわけにはいかないのだと言わんばかりに。
即座に行動を起こしつつ、想定外と予想外が一緒になって起こるこのデュエルを、ここへきて本気で終わらせに向かっている様子を見せ始める裏決闘界の融合帝、【紫影】。
…守備表示で現れしは、闇属性の異界の悪魔。
最初に呼び出した【異星の最終戦士】同様、前に呼び出した【エルシャドール・ミドラーシュ】同様…
相手の行動を制限するモンスターを呼び出しつつ、次の自分のターンに確実に消し飛ばすため。どこまでも、少年達の邪魔をし始める。
それでも…
「カリギュラが場にいる限り、1ターンに1度しかモンスター効果を発動できず攻撃も1体でしか行えません!」
「ぬぅ…奴め、まだこんな手を…」
「問題ない!【マジック・プランター】発動!【デモンズ・チェーン】を墓地に送り2枚ドロー!」
未だいやらしい手を魅せる【紫影】を前に、それでも天城 遊良は止まらない。
…先ほどまでの、追い詰められていた表情はどこへやら。
鷹矢の無事がわかったその瞬間に、重く圧し掛かっていたモノを全て忘れ去ったかのように…
そう、嵐のようにドローし始める遊良の姿は、例えるならば籠から飛び出た鳥のよう。
まるで追い詰められてなどいないかのようにドローを行い、生き返ったように遊良はドローを重ね始め…
「…わかりやすいですねぇ。相棒が生きていて息を吹き返すとは…」
「何とでも言え!鷹矢が無事だったんだ…だったら後はお前を倒すだけだ、覚悟しろ【紫影】!」
「…ですがグリーディー・ヴェノムとカリギュラを前に何をしようと?」
「力で叩く!それだけだ!【黙する死者】発動!墓地から【鉄鋼装甲虫】を守備表示で特殊召喚し…俺はバルバロスと鉄鋼装甲虫をリリースッ!」
羽ばたきを取り戻した遊良の叫びは、迷いの感じられない晴れやかな轟き。
アレだけ湧き上がっていた重い怒りと、アレだけ込みあがっていた強い焦りが鷹矢の無事という現実によって、両方同時に解消されたからこそ遊良もまた吹っ切れたのか。
…もう、惑わされる事は無い。
余計な焦りが消え、視野が狭くなる怒りが冷め。【紫影】がどんな妨害を企もうと、純粋なる『力』で吹き飛ばせばいいことを遊良も『昨日』この大空洞で実行したからこそ。
【紫影】が崩した空洞の上…空が見えるほどに開いた穴を視界に入れ、今再びこの大空洞で手に入れた新たな『力』を…
ここに、呼び出す―
「来い、レベル10!【The tyrant NEPTUNE】!」
―!
遥かな空から降ってきたのは、流星なりし宙の星。
それは深海よりも深きモノ、海嘯よりも豪きモノ。
荒ぶる激浪をその身に纏い、四海すら凌駕する海闊の化身。
空を映し、天を彩り、宙すら飲み込むまさに『海の星』。
それはたゆたう星の荒ぶりを、一体のモンスターに押しとどめているようであって。
【The tyrant NEPTUNE】レベル10
ATK/ 0→5800 DEF/ 0→2700
飢饉の毒竜の唸りを切り裂く、鋭き牙と鎌を構え。
そう、これが、これこそが―
昨日…ルキを救うため、遊良が己を超えたことで従えた純粋なりし『力』の象徴。
実力の『壁』を超え、その『先』の地平へと足を踏み入れた事によって押さえつけた…この星ならざる外の宙の、人知を超えた『力』のカード。
「NEPTUNEの攻守増強は永続効果で発動する効果じゃない!そしてNEPTUNEの更なる効果が発動するけど、この攻撃でお前を倒せばいいだけだ!」
「プラネットを呼び出しましたか…ふふっ、この攻撃で倒せれば…ですけどねぇ!」
「むっ!あの男、まだ何か隠しているぞ!油断するな、遊良!」
「あぁ、まだ油断はしない!それで散々痛い目に遭わされてきたんだ…トドメを刺すその時まで、もう絶対に油断なんてするもんか!NEPTUNEの効果が発動し、墓地のバルバロスと同名となり同じ効果を得る!そして【冥界の宝札】2枚の効果で4枚ドロー!…よし、【サイクロン】発動だ!【紫影】の伏せカードを破壊ぃ!」
また、プラネットの召喚にて見えた勝機に甘える事無く。
【紫影】の残る伏せカードにも視線を伸ばし、確実にソレを破壊しにかかる天城 遊良。
…鷹矢が埋もれたままだったら、きっとこれ以上冷静にはなかっただろう。ドローと同時に攻撃を仕掛け、そしてまた【紫影】に返り討ちにされていたのではないか。
それに、もしまたここで【紫影】が【やぶ蛇】のようなカードを使ってきたとしても…自ら出した【召喚獣カリギュラ】の制約がある以上、ここで下手な行動など【紫影】にだって出来ないはず。
だからこそ、攻める…
ここが勝機、ここが転機。【紫影】の予想を超えられる、最初で最後の最大の好機。
この流れを、決して逃さぬように。これ以上デュエルが長引いては、決して【紫影】には勝てないことを理解している遊良の旋風が大空洞を疾り抜け―
しかし…
「チッ、素直にバトルフェイズに入っていればいいものを!罠カード、【誤爆】発動!グリーディー・ヴェノムを破壊します!」
「なっ、【誤爆】!?」
「自分のモンスターを破壊するだと!?」
―!
遊良の予想に反して。
【紫影】が叫んだ事によって巻き起こったのは、予想もしていなかった光景であった。
…それは、爆発。
しかも、ただの爆発ではない。
この爆発は紛れも無く、遊良や鷹矢の場で起こった爆発ではなく【紫影】自身の場に起こった代物。
そう、【紫影】の場にて怪しく蠢いていた、飢饉の毒竜がその身を【紫影】自身によって大爆発させられたのだ―
…けれども、一体どうして【紫影】は自らのモンスターを破壊したのか。
あのモンスターは攻撃力3300という破格の数値と恐るべき効果を持った、正真正銘【紫影】最大の切り札であったはず。あのままではいくら伏せカードが破壊されるとは言え、寧ろ攻撃力5800のNEPTUNEのダイレクトアタックを喰らうよりは破壊などしない方がまだマシであったはずだと言うのに。
NEPTUNEの攻撃を喰らってもLPが0になるとはいえ、最後に伏せていた伏せカードが何故に相手ではなく自らのモンスターをただただ破壊するだけの罠カードであったのか。
すると、爆発に気を取られている少年達へと向かって…
続けて、【紫影】はその口から捻じれた言葉を放ち―
「ふふっ、そして破壊されたこの瞬間、グリーディー・ヴェノムの効果が発動しまぁす!全てのモンスターを…破壊しちゃいますよぉ!」
―!
巻き起こるは更なる爆発、続けて連なる真なる爆破。
…自分も、相手も。
文字通り、転んでもただでは起きない【紫影】の放った、『全て』を破壊する大爆発によって…
なんと、勝機をつかみかけた遊良達の最後のモンスター、【The tyrant NEPTUNE】までもが飢饉の毒竜の爆発に巻き込まれ無惨にも弾け飛んでしまったではないか―
「ぐっ…ぜ、全体破壊…」
「奴め…ま、まだこんな真似を…」
「苦労して出したプラネットも破壊されちゃいましたねぇ!残念でしたねぇ!」
「…ぬぅ…だ、だが、これで貴様も自ら丸裸になった!今のカード、貴様にとっても諸刃の剣だったようだな!」
「ふぅ…岩に挟まっている癖に喚かないでくださいよ。グリーディー・ヴェノムの更なる効果!墓地のワイアームを除外して、自身を特殊召喚しちゃいます!グリーディー・ヴェノムを守備表示で特殊召喚!」
「なっ!?」
「なんだと!?」
【グリーディー・ヴェノム・フュージョン・ドラゴン】レベル10
ATK/3300 DEF/2500
「残念でしたねぇ!グリーディー・ヴェノムは何度だって蘇る!討たれる度に、全てを道連れにしてねぇ!ふふふふふっ!残念でしたねぇ、えぇ!」
そして…それだけでは、終わらない。
どこまでも往生際悪く、どこまでも纏わりつくように…今再び、【紫影】の場にて蘇る最大最凶の飢饉の毒竜。
…しかも、今度は『守備表示』で。
これでは、モンスターへの攻撃によって【紫影】のLPを0にすることは出来ない。
しかもそれだけではない…【紫影】の言う事が真実であるならば、もう一度あの飢饉の毒竜を破壊すればまた全体破壊に復活が繰り返されてしまうのだ。
いや、仮にソレが嘘だったとしても…そもそも切り札の1枚たるNEPTUNEが破壊されてしまったこの現状では、守備力が2500もあるグリーディー・ヴェノムの戦闘破壊すらも一からプランを立て直さなければならず…
「何度でも復活するモンスターだと…?」
「アイツ、まだそんな力が…くそっ…」
「貴方達が何をやっても無駄だというのはそう言う事です!やっと力の差を理解しましたかぁ?全く、手間取らせてくれる子ども達ですねぇ!」
「くっ…」
「ぬぅ…」
その、初めて対峙するモンスターを前に。
絶望的な状況が遊良達へと圧し掛かり、その所為で遊良の手が止まり鷹矢の威勢が止まってしまったのは、とてもじゃないが仕方のないことなのか。
…攻撃しても追撃できず、返しのターンにまた蘇ったグリーディー・ヴェノムに攻撃されてしまう。
…かといって、グリーディー・ヴェノムを放っておく事もできない。
…このままターンを渡せば、がら空きのまま攻撃されてしまう。
…守備で凌ぐ事も、きっと奴は許してはくれない。
破壊しても駄目、場に残しても駄目。バウンスや除外と言った手も最早残っていないという、そんな状況下に挟み込まれてしまった遊良と鷹矢の手が止まり…無残にも、呼吸の音だけが大空洞に漏れ出して。
そして…
そんな、静まり返ってしまった少年達へと向かって―
「天城 遊良!貴方はもう召喚権を使いきった!これまでの傾向から【二重召喚】はデッキに1枚のみで、お得意の【地獄の暴走召喚】も決勝戦で使った【帝王の烈旋】も【手札抹殺】の時に墓地に送られているのは確認済みです!聖杯でモンスター効果を無効にしても、墓地で発動するグリーディー・ヴェノムの効果は止められない…そして残りのデッキ枚数から、これ以上のリリースを用意するのは困難…ふふっ!ふふふっ!万策尽きたとはこの事ですよねぇ?ねぇねぇ!万策尽きちゃってますねぇ!えぇ!」
捲くし立てるようにそう荒立てた【紫影】の言葉は、ようやく沈黙した少年達に下種らしい嬉々を感じているかのよう。
大の大人が少年達に対し、勝ち誇ったように煽り立てるなんてとてもじゃないが褒められたモノではないと言うのに…
(…全く、本当に嫌な『制約』ですねぇ…毎回ギリギリとは本当に嫌になります、えぇ…)
それでも、逸る言葉とは裏腹に。
その心の内に、焦りや逸りとはまったく違った別の感情を抱いている【紫影】の中には…少年達とのデュエルの流れ、展開に対する、また別の思考を分けて進めている様子。
まぁ、逸ったように声を荒げる【紫影】の本心…その心の内、本当の感情など【紫影】本人にしかわからないことなのは確かではあるのだが…
ともかく…
「何が【黒翼】の孫ですか!何が【白鯨】の弟子ですか!何が【紫魔】の甥ですか!何が『逆鱗』の孫ですか!貴方達のような子どもが、私に勝とうなんて100年早いんですよ!子どもの癖に大人に楯突くんじゃありません!表裏戦争の時もそうです…大人に楯突く生意気な子どもはどこまでも余計なことをする!だから子どもは嫌いなんです!えぇ!」
「ぐ…奴め…これだけの力をまだ持っていたとは…」
「ふふっ、ようやく理解しましたかぁ?貴方達はこれ以上何も出来ない!これ以上どうしようも出来ない!20年も生きていない子どもが生意気なんですよぉ!」
「ぬぅ…」
何やら焦燥を前面に押し出している【紫影】の口から、殺気立った言葉が更に荒げられる。
それは、そう言わずにはいられないかのようなある種の必死さを含んでいたようにも思える、デュエルの佳境の様な叫びとも感じられるだろうか。
…何が【紫影】をここまで荒立てるのか。何が【紫影】をここまで逸らせるのか。
ソレが【紫影】の本心なのかどうかはともかく、今この大空洞で少年達へと見せている【紫影】の態度は…少なくとも、【王者】に匹敵する裏決闘界の【三帝王】と呼ばれるような人物の立ち振る舞いと余裕と言った、ソレ相応のモノを全くと言っていい程感じられず。
…紛れもなくここが佳境、間違いなくここが終盤。
けれども最後の最後、佳境も佳境へと来て。天上の力、『極』の頂に位置している【紫影】にここまで全力で立ち向かってきた遊良と鷹矢も…
そろそろ限界が近いのか、最期に聳え立った【紫影】の切り札に隠せない疲弊を見せ始めていて。
「ま、【黒翼】や【白鯨】を師に持つ貴方達なら理解出来ますよねぇ…【王者】に匹敵する力を持つとされる、裏決闘界の【三帝王】の力!ソレがどれ程のモノなのか!ようやく理解してくれましたよねぇ!【黒翼】の孫なら理解できましたよねぇ?【白鯨】の弟子なら理解してくれましたよねぇ?私と!貴方達の!埋めようの無い力の差を!えぇ!」
煽る…
ここぞとばかりに、【紫影】は煽る。
成す術なく佇んでしまった少年達に、あまりに見苦しい叫びをこれでもかと声を荒げて。
自分よりも相当歳の低い少年達に勝ち誇る男の姿はあまりに醜く。
けれども、ソレに鷹矢が言い返せないのは…目の前の屑が、その言動を帳消しにするほどのデュエルをありありと見せ付けてきているが故なのだろう。
…力の差があるとは言え、イースト校のトップ2を相手に2対1で優位に立つ。
どれだけ言動が下卑ていても、どれだけ行動が下種であっても、どれだけ態度が屑であっても。
それでもデュエルというこの世の何よりも重要視される行いに対して、今最も『勝利』に近い場所にいる【紫影】は、確かに少年達よりも優位な立ち位置に居る事は先ず間違いないことなのだから。
勝者こそ正義…
ソレは古の時代から変わらない、絶対で不変の『決闘』のルール。
まぁ、今こうして鷹矢が岩に埋もれ、無慈悲にターンをスキップされてしまったのはデュエル外での【紫影】のあまりに醜い行動の所為であったことはこの際ともかくとして…
それでも、目の前の性根の腐った人間の屑を、真っ向から否定したいのならばその屑に真正面から『勝つ』しか方法がないということを、岩に埋もれている鷹矢も理解しているからこそ。
どれだけ卑劣な行動を取り、どれだけ下賎な言動を【紫影】が繰り返してきても…今この終盤の状況においては、追い詰められているが故にソレ以上を言い返すことが出来ず…
しかし―
そんな、勝ち誇っている【紫影】に対し。
「…そうか…今わかった…」
静かに…
そう、静かに、何やら1つの疑問が解消したかのような表情を見せたイースト校2年、天城 遊良。
「何であのカードが俺の下に来たのか…このタイミングで、何で俺のデッキに入ったのか…ずっとわからなかったけど、お前を見ていてやっとわかった…」
その言葉は、およそ【紫影】の煽りを混ぜた勝ち誇りなど全くもって効いていないかのような、落ち着き払った悟りのようにも感じられたことだろう。
この状況下に置かれても、逆に取り戻したその落ち着き。それは【紫影】の煽りを聞いて、逆に何か理解した事があったかのような腑に落ちている表情でもあり…
…一体、遊良は何に気付いたのだろう。
攻めても駄目、守っても駄目という、進むも戻るも地獄な絶体絶命の状況下、この切羽詰った状況で…天啓のように遊良の脳裏に浮かび上がったのは、一体どんな事なのか。
そのまま、【紫影】に対し言い返せなくなっている相棒を横目に。
1つ…
呼吸を1つ、大きく吐いた遊良が。今再び、『理解』した答えと共にその口を開き…
「…それは、お前を倒す為だったんだ!『もう一度』、今ここで、お前を倒す!その為に!」
「はぁ?頭でも狂いましたぁ!?私を倒す…ぷぷぷー!貴方の力でそんなこと出来るわけがな…」
「あぁ、『俺の力』じゃ無理だった!だからわかったんだよ…今ここで、お前を倒す為に必要なモノが何なのか!この瞬間の為に、『あのカード』は俺のデッキに来てくれたんだって!」
「ッ…は、はぁ!?そんなモノ、貴方のデッキにありましたっけぇ!?」
「とぼけるなよ【紫影】!砺波先生から聞いたぞ…お前に『勝った』、1人のデュエリストの事を!」
「ッ!?」
そう…
追い詰められたこの状況、切羽詰ったこの戦況、最後の最後のこの場面だからこそ遊良は気が付いたのだ。
この絶望的な状況下においても…いや、この絶望的な状況下だからこそ『希望』と成り得るモノの存在に。
…全ての事には意味がある。
『あのカード』が、一体どうしてこの祭典の『あのタイミング』で自分のデッキに入ったのか。『あのカード』が、一体どうして自分の言う事を聞いてくれるのか。
その、今まで特に気にしていなかった事や、今まで何となくで理解していた事に対し…
その全てが、今まさに遊良の中で完全に繋がったのだ。
全ての事には意味がある…ここで、ここへきて。その意味を完全に理解した遊良の思考は、追い詰められているとは思えない程に晴れ晴れとしていて―
「そ、それがどうしたと言うのです!先ほども言ったはずですよ、貴方の残りのデッキでは、もう『リリース素材』の用意など出来はしないと!それに私にはわかっている!今の貴方の手札に、『あのカード』が無いと言う事を!」
「あぁ!だから…今、引くんだ!【カップ・オブ・エース】発動!」
―!
故に…
今こそ遊良は動き出す。
遊良の発動した魔法…それは【決島】決勝第1試合の後に、リョウ・サエグサとトレードしていたカードの1枚。
『2枚』ものドローを得られるものの、絶対ではなく不確定な確立によってドローする者が決まるという…
ハイリスクハイリターンを地で行くような、デュエリアの『ギャンブラー』が好んで扱うドローカード。
…しかし、いくら手札に必要なカードが2枚も足りなかったからとは言え。
普通、勝機が見えたこの状況下での最後のドローを、『運』に任せることなど誰にだって抵抗があるはずだと言うのに…
そう、それはデュエリアの『ギャンブラー』、リョウ・サエグサほどの『天運』があればこそドローに繋がるリスキーなカード。
彼のような『天運』など、遊良は持っていないと言うのに。『極』の頂きに位置している者に、そんなリスキーな勝負を挑むなんてとてもじゃないが危ない選択とも言え…
それでも―
「ギャンブルカード…ぷぷっ!無駄無駄無駄でぇす!学生の貴方程度の力で、私にギャンブルカードで勝負を挑むですってぇ!?残念でしたねぇ、もう展開は見えていますよぉ!その効果で貴方がドローすることは叶わない、2枚ドローするのは私のほ…」
「否!ドローするのは貴様ではない!」
「ほ?」
【紫影】の笑いを引き裂くように、今度は鷹矢が高らかに叫ぶ。
…先ほどまでの、追い詰められていた雰囲気から一転。
遊良が『何か』を悟ったその瞬間に、遊良の目指しているモノが『何』なのかを鷹矢も瞬時に理解したのか。その声はいつもの威風堂々とした、決して慄かないいつもの鷹矢の声に戻っていたことだろう。
…自信満々、傲岸不遜。
岩に挟まれ身動きは取れずとも、相棒の『何か』を誰よりも早く深く理解した鷹矢だからこそ。
天に舞う、『運命』を決める黄金のコインの軌跡を追いながら…既に勝利を確信している【紫影】の言葉など、真っ向から否定するのみ。
「確かに貴様の地力は俺達の遥か彼方にあるのだろう…だが!しかし!それでも!」
そう、鷹矢は知っている。
…確かにコレが単純なる『運』の勝負であったならば、間違いなく軍配は【紫影】に向いていた。
何せ、奴がいくら屑の中の屑であっても。それでも目の前の相手は、【王者】にも匹敵する『極』の頂きに位置した裏決闘界の融合帝であり…
それ故、いくら『格下』の者が一発逆転を狙い『運』の勝負を挑もうとも。勝負の行方は天命によって決められているかのように、『運』ではなく『力』によって強者がソレを無理矢理引っ張ってしまうと言う事を、幼き頃より祖父である【黒翼】の戦いを見てきた鷹矢は重々承知していて。
…だからこそ、『極』の頂きに位置している者に『運』の勝負を挑みたいのならば、リョウ・サエグサのような『天運』が必要不可欠ということも鷹矢は知っている。
アレほど勝利の女神に愛された男ならば確かに『運』によって勝負は出来る。しかしソレ以外の者は勝負すら出来ないのだから。
しかし…
それはあくまで、『運』での勝負に限っての事。
そう、既に鷹矢は気付いている。これは『天運』を持っている男との『運』の勝負などでは断じてない。決まるべくして決まる『ドロー』の勝負なのだ、と。
ギャンブルの処理などただの通過点。遊良の見据える勝利への『運命』は…いや、この絶体絶命の『運命』を真正面から切り裂くためには、この【カップ・オブ・エース】で確実に遊良は『2枚』をドローしなければならない。
それ故に、ギャンブルになど躓いてはいられない。その先に見据える『2枚』のドローで、必要なカードをドロー出来るかどうかという、遊良にとっては『いつもの勝負』を、自らにデッキに仕掛けたのだから。
だからこそ―
遊良は『運』には頼らない。ソレはEx適正が無く、世界の全てからその存在を否定されてきた遊良だからこそ磨いてきた、誰にも負けない遊良だけの武器の証。
あの『天運』を持っている、このカードの本来の持ち主があくまでもギャンブルとしての勝負を仕掛けてくるのとはわけが違う。存在を否定され、デュエルを否定され、生きる事すらも否定され続けてきた遊良は『運』になんて頼らない。
頼るのではなく、遊良は『誇る』。自らの運命を切り裂き、存在を否定され続けてもこれまで突き進んできた遊良だからこそ…
例え相手が誰であろうと…そう、例え【王者】であろうとも。
1枚のドローに命運がかかる状況であっても、頼るのではなく文字通り『命』を乗せてカードをドローしてきた遊良が。他のギャンブルカードと違い、どちらが『ドロー』するのかを競うこのカードの勝敗において…
そう、『ドロー』で…
「遊良にドローで勝てると思うなぁ!」
遊良が、負けるはずがない―
出た、マークは―
「マークは太陽!コインは表!俺はデッキから2枚ドローする!」
「なぁっ!?」
驚く【紫影】とは裏腹に、ギャンブルの成功に喜びもしていない天城 遊良。
それは、ここで自分がドローすることを初めから知っていたかのような当然の如し流れる所作であり…
流れるように、当然のように。遊良は自らのデッキに指をかけ、この後に控える更なるドローに、更に力を込め始める。
「で、ですがそのドローで『アレ』が引けるかどうかなんて…」
「否!引けるかどうかではない!今!ここで!絶対に!引くのだ!」
「ッ…ですが言ったはずです!もう彼にリリースを用意する力は残っていない!それに、そもそもドローできなければここで終…」
「ふん!そんなことで遊良が臆すると思うな!その程度のプレッシャーなど、遊良にとってはいつものことだからな!」
…ここで引けなければ負ける。
それは間違えようの無い確かな現実。
しかし、鷹矢の言った通り『そんな重圧』など遊良にとっては『いつもの』ことなのだ。
Ex適正が無く、メインデッキのみで戦うという事を決めた幼少の時から…
これが、このスタイルが自分にとっての生きる道、自分が生き延びる道であるのだとして磨いてきた、遊良の確立した遊良の形、遊良のデュエル。
デッキにかける指の力を、決して緩めることをせず。ここまで、『ドロー』という力を磨いてきたからこそ、絶望的な状況下であろうとも―
「引け、遊良ぁ!」
「おう!2枚…ドローッ!」
天城 遊良は迷わない。
カードを、ドローすることに―
引いた、カードは―
「よし!俺は墓地のバルバロスとクラッキングを除外ぃ!」
ドローした中の一枚を、高らかに天に掲げながら。そのまま更に叫ぶように、高らかにそう宣言し始めたイースト校2年、天城 遊良。
そして遊良の宣言により、墓地にて眠っていた獣の王と機電の黒竜がその身を現世から消し始め…
―否
現世から消え始めたのではない。
眠りについた獣の王が、再び高らかに吼える時。機電の竜はその身を散開させ、そのまま2体のモンスターはその姿を重ね始めたのだ。
…それは融合召喚ではない。シンクロ召喚でもない。エクシーズ召喚でもない。
それは単なる特殊召喚のエフェクト。しかし更なる力を求めた遊良が、昨日にこの大空洞にて手に入れた…
「来い、レベル8!【獣神機王バルバロスUr】!」
―!
【獣神機王バルバロスUr】レベル8
ATK/3800 DEF/1200
現れたのは、機電の鎧をその身に纏いし神をも打ち抜く獣の王。
…『海の星』と同様に、実力の『壁』を超えた『先』の地平へと遊良が至るための結論として導き出した…これもまた、遊良の純粋なりし『力』のカード。
召喚権を使わずに出せる、実に攻撃力3800の相応たる『力』。立ち塞がるモノを、純粋なる『力』で粉砕せんとする、遊良の欲する『力』の象徴そのモノであり…
しかし…
いくら『力』があったとしても。
今この状況においては、ダメージを与えられずその他に効果を持たない【獣神機王バルバロスUr】が逆転へと繋がる切り札かと聞かれれば、誰だって少なからず疑問を感じるに違いないのだが…
「ふ、ふふっ!い、今更そんなモノを呼び出しても意味など無…」
「意味ならある!遊良が命を賭けて戦っているのだ…俺だけが、このまま動けないままでいいはずがない!動け、俺の右腕よ!【紫影】を倒す道筋に…遊良の道を切り開けぇ!ぬぉぉぉお!罠発動、【戦線復帰】ぃ!」
「馬鹿な!手札と右腕が埋まっていては、行動なんて出来ないはずじゃ…」
「『出来ない』ではない!『やる』のだ!うぉぉぉぉお!」
けれども、コレが終わりではないからこそ。
現れた獣の王に連なるように、更に鷹矢が雄叫びを上げる。
いくら『軽石』と言い放ったとは言え、ソコから動けていない以上は鷹矢を押し潰しているこの岩々も相応の重さを持っているはず。
…けれども、ソレを承知で。
雄叫びを上げ、力任せに無理矢理に。遊良の描く道筋を、鷹矢もまた共に描くために…
岩の中から、無理矢理『右腕』を鷹矢は引き抜き。引き抜いた手が岩で裂け、擦り、切り、潰れても…
そう、自らの血に塗れてもなお―
「墓地より【ゴールド・ガジェット】を特殊召喚し、その効果で手札から【グリーン・ガジェット】を特殊召喚!レッドを手札にぃ!」
―!!
【ゴールド・ガジェット】レベル4
ATK/1700 DEF/ 800
【グリーン・ガジェット】レベル4
ATK/1400 DEF/ 600
それでも痛みを放り投げ、宣言したカードによってガジェット達が蘇る。
そして―
「これで『3体』だ!遊良、使え!」
「おう!俺は3体のモンスターをリリース!」
叫ばれるは迷いの無い、天に轟く咆哮の宣言。
召喚権は既に使っていて、Exデッキを使えない遊良は【二重召喚】と言ったカードを使わなければそもそも大型モンスターを召喚することすら出来ないと言うのにも関わらず…
遊良の放ったリリースという宣言、その宣言に導かれる様にして。
機電の鎧の獣の王と、金と緑のガジェット達の、その身に纏うは渦ではなく―
「運命を切り裂く英雄よ!」
叫ぶ…
その血に刻まれた、自分の『運命』を知り―
「青き誓いをその身に刻み…」
猛る…
この地に来て培った、自分の『力』を信じ―
「天を喰らいし覇者となれぇ!来い、レベル8!」
今、悠久の時を経て。
怨敵と再び対峙した、この深遠の大空洞に…
天を揺るがす叫びによって、ソレは天より降りる威光と共に遥か彼方より現れるのか。
かつて世界の頂点にいた、かつて【紫影】を葬った天上の存在が…
今、羽ばたく―
「【D‐HERO Bloo-D】!」
―!
その時…
天が、震えた―
現れしは鮮血の羽ばたき、降臨せしは飢えの滴り。
血霧と共に降臨し、剥き出しの牙を刃へと変え…混沌渦巻く天より出でしは、竜頭を纏いし運命の英雄。
纏いし竜の咆哮で、双翼を広げ地に降りることなく空に佇み。下界を見下ろすその瞳は、一体何を映しているのか。
【D-HERO Bloo-D】レベル8
ATK/1900 DEF/ 600
それは怨敵である飢饉の竜に対峙しても、決して慄かない英雄の姿。
遥か昔、世界が鬼才の戦いに熱狂していた頃…
運命を貫く英雄と、運命を引き千切る英雄と共に、3体の【紫魔】の象徴として世界中が見惚れていたという…
世界で最も有名な、『D』の英雄の最たるエース。
「ぐ…Bloo-D!忌々しい憐造の力ぁ!貴方はどうしてまた私の邪魔をするんですか!天城 遊良、私と彼の因縁を知っていてこのカードを出すなど、貴方本当にいい度胸して…」
「うるせぇぇぇぇぇえ!俺は紫魔 憐造じゃない…だから、お前と【紫魔】との因縁なんて知るもんかぁぁぁぁぁあ!Bloo-Dの効果発動ぉ!グリーディー・ヴェノムを…喰らい尽くせぇ!」
そして…羽ばたく。
運命を切り裂く英雄が、【王者】たる重圧で飢饉の竜を抑え込みながら。
…ここで【紫影】に立ち向かうために、遊良にはこのカードがどうしても必要不可欠だった。
そう、遊良は理解する。【決島】が始まる直前に、このカードが自分のデッキに入ったその意味を…このカードが、自分に従い召喚出来るわけを…まだまだ未熟な自分に、どうしてこのカードは付き従ってくれるのか。
…それは【紫影】を倒す、まさに今『この時』のため―
破壊してはいけない飢饉の毒竜を、破壊せずにどうにかしてしまうという、このBloo-Dこそ遊良にとっての最適解。
他に手が残されていない遊良の手に、最後の最後に舞い降りた、正真正銘英雄のカード。
かつての表裏戦争で、【紫影】に打ち勝ったという前融合王者【紫魔】、紫魔 憐造…その血を分けた、甥という立ち位置である遊良だからこそ勝ち取る事が出来た、これまでの戦いのこれは軌跡であり…
きっと、奇跡のような巡り合いだったのではないだろうか。昨年度の決闘市の『異変』で知った、忌むべき血の繋がりが今こうして【紫影】から遊良を守っているだなんて。
…こんな光景、昨年度の遊良からすれば絶対に想像すら出来なかったはず。
しかし…その血の持つ意味が、遊良にとっては決して『良いモノ』ではなかったとしても。
それでも、今こうして助けられているというその事実こそが…奇跡のような巡り合わせの、紛れもない遊良の軌跡。
…相手の力を0にしてしまう飢饉の竜のその毒を、【王者】たる英雄がその重圧で丸ごと全て押し潰し。
運命を切り裂く英雄は、そのまま天高く飛び上がったかと思うと…全てを喰らう竜の腕を構えつつ、一直線に飢饉の竜へと向かい急降下を始める。
…怪しくうねる毒の竜にも、全く退かずに立ち向かう運命の英雄。それはまさしく英雄と呼ぶに相応しい立ち回りであり…
…『破壊』ではない。これは『捕食』。
そのまま、飢饉の竜をその毒ごと骨も残さず喰らい尽くし。
怪物を倒した英雄は、その力を自らの力へと変え始め―
【D-HERO Bloo-D】レベル8
ATK/1900→3350
そんな中で…
「ぐ…ぐぐぐぅ…ど、どこまでも生意気な…」
どこまでも…どこまでも往生際悪く。
本当にもう手が無いのか、何やら【紫影】が捻じれた体を静かに奮わせ始めたではないか。
…まだ、何かよからぬことを企んでいるのか。
少年たちを前に、どこまでも往生際悪く足掻こうとするその姿は…
とてもじゃないが、いい大人が見せるにはあまりに醜い姿だと言うのに…
「【紫影】よ、覚悟しろ!これで貴様も終わりだ!」
「行くぞ!LPを1000払って【チキンレース】を破壊しバトルだ!【D-HERO Bloo-D】で…」
「させるわけないでしょう!もう一度、今度は貴方達2人とも岩で潰してさしあげ…」
そして…
最後の決着に繋がるその瞬間―
遊良の攻撃宣言に割って入るように、叫び声をあげながら再び【紫影】がその細長く捻じれた指を打ち鳴らそうとした…
その時だった―
「いつまでも…つまんねぇ事してんじゃねぇ屑野郎ぉぉぉぉぉぉお!」
―!
轟く…
【紫影】が指を打ち鳴らす直前の、その一瞬の刹那の前に―
何と【紫影】の背後、【紫影】の足元から。突如として『何か』が飛び上がり、徐に【紫影】へと殴りかかったのだ。
…轟く爆音、響く轟咆。
そう、遊良と鷹矢と、気を失っている竜胆 ミズチと【紫影】の他に…この大空洞には、確かに『もう一人』の人間が居た―
それはどれだけ傷つけられようとも、どれだけ痛めつけられようとも決して死なない規格外の生命力。
間違えるはずも無い…何を隠そう、【紫影】の背後で起き上がったのは他でもない―
「『逆鱗』!?あ、貴方まだ動け…」
「ったりめぇだろうがぁ!いい加減…吹っ飛びやがれぇぇぇえ!」
―!
「ふぐぅっ!?」
不意をついて起き上がった『逆鱗』が、その丸太の様な腕に渾身の力を全て込め。力の限り思い切り、【紫影】の腹を殴り飛ばす。
…それはジェット機のような綺麗なアッパー、天にも昇る龍の拳。
まるで天を翔ける龍が如し、閃く突きが天を割る。
…そして、虚を衝かれたからか。
下から思い切り殴り飛ばされた【紫影】は、今度こそ『逆鱗』の渾身の一撃を避けることは叶わず。人間1人など簡単に粉砕できそうなほどに爆裂した、その規格外のアッパーをまともに喰らい天を舞い…
…竜巻のように回転し、思い切り上空に殴り飛ばされたかと思うと。
もう一度その指を打ち鳴らすことは叶わず、一瞬の大ダメージよって空中でその自由を失っていて―
「今だぁ!やれぇ、遊良ぁ!」
「ッ!?」
そうして…
反射的に叫ばれた、劉玄斎の叫びに呼応するように。
最後の卑怯な手を、渾身の力で打ち破られた【紫影】へと…
そう、殴り飛ばされ空を舞う、丸腰となった【紫影】へと―
「いっけぇぇぇぇぇぇぇぇえ!Bloo-Dで、【紫影】にダイレクトアタック!」
ソレは、轟く―
「鮮血の…ブラッディ・フィニィィィィィィィィィシュッ!」
―!
鮮血を固めし槍雨が、無限となりて【紫影】を貫く。
その勢いは豪雨を超え、凄まじき勢いと化して大空洞の岩肌を貫いてもなお止まらぬ威力となりて…
「ぎょぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇえっ!」
そのまま、大空洞を貫く血の槍雨が外界まで到達し。
血霧の槍雨の嵐に飲み込まれた『何か』が、この上ない汚い悲鳴を大空洞へと残響させたかと思うと―
【紫影】 LP:1750→0
―ピー…
千切れ飛んだ【紫影】の腕と、その場に落ちたデュエルディスクによる無機質な機械音が。
今度こそ、ソレが『本物』の【紫影】の悲鳴だということを知らせながら…
紛れも無く、デュエルの終着をここに知らせていた―
―…
次回、遊戯王Wings
ep99「裏側の真実」