nightmare
人は、運命を避けようとしてとった道で、しばしば運命にであう。
ラ・フォンテーヌ[ジャン・ド・ラ・フォンテーヌ]
『寓話』
***
瞼を開けば、深い闇が瞳に張り付く。
光なんて何処にも無い。
深い、深い、闇しかない。
──此処は何処なの?
S.T.A.R.S.にいた頃のわたしが、暗闇の中で息を切らして流れる汗を拭い、何も見えない前を向いて必死に走っている。他には誰の姿もない、わたしひとりだけだ。
「ダイアナ」
後方からわたしを呼ぶ声。走り続けた脚は反応し、その場に立ち止まってしまった。
──この声は。
振り向いた先にいたのは、S.T.A.R.S.の隊長
トレードマークのような黒いサングラス。唇は閉じられて笑みは無く、わたしの名前を呼んだ以外、一言もウェスカーは喋りはしない。顔を此方へと向けて、ゆっくりと歩み寄って来た。
──恐い。
動物的本能だろう。様々な恐怖が全身を包む。わたしはウェスカーに脅威を感じ、膝を震わして息を飲み込んだ。
「ダイアナ!」
今度は前方からクリスの声が。──瞬間、膝の震えが止まった。向けば、またはっきりと姿だけは確認出来た。クリス以外にジルと、それにS.T.A.R.S.のみんなも。……全員、とても穏やかな表情を浮かべ、楽しそうに笑い合いながらわたしの名を呼んでいる。
「クリス!」
「ダイアナ、先に行くぞ!」
わたしに合図を送ると、みんなは前を向いて先へと進み出してしまった。
「待って! みんな待って、今行くから!」
おいて行かれない様に追いかけようとしたわたしの足が動かない。何で──。
地面に目を移動させると、植物の蔦とは違う、黒い触手の様なものが両足に巻き付いていたのだ。
「……ひっ」
まるで蛇が獲物を絞め殺すかの如く、触手は足から上へと這い上がりながら絡み付いて来る。抵抗してもその力は強く、動く度にわたしをきつく締め付けた。
「く……、は、うっ!」
それが首元にまで絡まった時、ウェスカーが高笑いをしながら目の前に移動して来た。よく見ればウェスカーの両腕が黒く染まっていて、その黒い部分が蚯蚓の様にうねうねと蠢いている。
わたしの身体に絡み付く
「はっ、はな……しっ!」
苦しさにもがくわたしを見つめ、不気味な赤い眼をしたウェスカーが嘲笑う。
「っ……うぅ!」
視界が完全に闇に染まると、遂には呼吸も出来なくなった。
「何も恐れることはない」
ウェスカーのこもった声に全身が包まれれば、わたしの意識はそこで、電源を落とした様にぷつりと切れてしまった。