BIOHAZARD エージェント E   作:あまてら

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 エイダ・ウォンが来ないとシモンズに報告すれば、電話越しからでもわかるくらいに動揺し、とても憤慨していた。現れなかっただけでそこまで取り乱す事なのかと思ったけど。シモンズは"エイダ・ウォン"をそれ程までに信用していたのかもしれない。

 

『私としたことが……。取り乱してすまない、まさか彼女が私の命令を無視するとは思ってもいなくてね。折角の君の初任務が無駄足になってしまった。君にはエイダと合流し、彼女と共にバーキン君を手助けしてほしかったんだが』

 

 わたしの任務、エイダ・ウォンと合流後はシェリーの手助けだったのか。彼女が来なかった理由は知らないけど。まあ、偶然にもシェリーとは会ったし、最後は見送ってる。

 

『今は無事にアメリカに戻る事を祈ろう。君も戻って来るんだ。話がある』

「……わかりました」

 

 シモンズとの通話を終了し、わたしは彼の言う通りにアメリカへと帰国した。帰国後真っ直ぐに施設へと戻ると、先にアメリカにいる筈のシェリーがまだ帰国もしていないと知らせを受けた。しかも音信不通。幾ら待っても現れず、あの青年と共にシェリーは、イドニアから行方不明になってしまった。

 

「大変な事になった」

 

 施設でシモンズと会えば、彼は深刻な顔をして言った。

 

「わたしに話とは?」

「まあ、座りたまえ」

 

 壁にもたれて立っていれば、自分の目の前の置かれたソファに座るようシモンズに促され、わたしはそれに従った。

 

「今回の任務、バーキン君の任務は非常に重要かつ重大な極秘任務だった。君も会っただろ? バーキン君と一緒にいた若い男を」

 

 若い男と聞いてわたしが思い浮かべたのは、左頰に傷のある、目つきの悪い坊主頭の青年だった。どうやらシモンズは彼の事を言っているらしい。

 

「名はジェイク・ミューラー。バーキン君には、彼をこのアメリカへと連れて来てもらう任務を与えた。我々は彼を、どうしても保護しなければならなかったんだ」

 

 シモンズはわたしを見つめて深い溜め息ひとつ。眉尻を下げながら言った。

 

「ジェイク・ミューラーは……、アルバート・ウェスカーの実の息子だ」

 

 鈍器で頭を思いっきり殴られた様な衝撃だった。あの青年──、ジェイクがウェスカーの息子だったなんて。

 言われてから思った。ジェイク・ミューラーの顔はどことなく、"あの男"に似ている気がする。シェリーは知っていたから。だからあの、わたしを気にするような謎の視線を送っていたのか。わたしは意識をそちらへ飛ばしながら、それでもシモンズの話を聞いた。

 

「ウェスカーが珍しい特異体質であるというのは、君も既に知っているだろう。そしてその血を受け継ぐジェイク・ミューラーもまた、奴と同じ特異体質だとわかった。イドニアで確認されたC-ウイルス。彼にはそのウイルスの抗体があるんだ」

 

 昨今のバイオテロの増加、新たなウイルスの存在、珍しい体質のジェイクは悪用されかねない。シモンズは早急に保護しようと急いでいた。しかし、そのジェイクはシェリーと共にイドニアから行方が分からなくなっている。

 事は重大だ──。シモンズは頭を押さえた。

 

「GPSは?」

 

 わたしには万が一の事が考えられ、『何処へ行くにも必ず所持するように』と渡された携帯情報端末にGPS機能が備えられている。本来は身体に埋め込まれる予定だったけど、銃弾と同じく不要だと身体から外へと排出されてしまう為、今は改良中段階。身体に埋め込まないにしても、シェリーや他のエージェントにも任務時にはその機能が付けられている筈だ。

 

「イドニア上空を最後に消えたよ。付近へ捜索隊は出したが、まだ見つかったという知らせは無い」

 

 そんな。イドニアで会ったシェリーの笑顔が過る。

 

「バーキン君の任務が無事に終われば、機を見て君にも伝える予定だった」

 

 一応に気を使ってくれているのだろう。でも、遅かれ早かれだ。避けては通れない。

 

「話は以上だ。見つかれば直ぐにでも知らせる」

 

 その日から数日が過ぎ、年も明けて更に数ヶ月。捜索は続けられていたけど、シェリーとジェイクの行方は依然として見つかってない。あの通りから飛び立って少し、山間の場所からヘリの残骸がいくつか発見された。2人が乗ったヘリもその内の一機。遺体もあったみたいだけど、DNA鑑定の結果は2人のものじゃなかった。

 微かな希望。2人は生きているかもしれない。

 でも、何処へ──。

 見つかったという連絡も無いままに、イドニアで別れてから早半年が経った。

 この半年間、バイオテロ組織として際立っている存在が【ネオアンブレラ】。イドニアを中心とし、ジュアヴォ化した傭兵を使って今もBSAAと交戦状態が続いている。

 わたしのエージェント職の現状といえば、シェリー達が行方不明になってから三ヶ月くらいは政府の施設で訓練三昧だった。専用のGPSも無いまま、わたしまで行方不明になっては……と、シモンズが警戒したらしい。

 専用GPSが完成すると直ぐに体内に埋め込まれた。今のところ排出はされてない。国内で機能を確かめる為に副大統領の表敬訪問に護衛として参加させられたり、他のエージェントと一緒に犯罪組織を壊滅に追い込んだりの簡単(・・)な任務でエージェントの日々を過ごした。

 

『バーキン君の行方は変わらずだ』

 

 この頃特に忙しいシモンズとは通話のみで会う事も無く、指示は全て携帯情報端末へと送られて来る。

 

『捜索隊の数も今は減らさせざる終えなくてね、何としてでもバーキン君やジェイク・ミューラーを見つけなければならないのに。公に出来ないのがとても厄介だ。そこでなんだが、イドニア上空で墜落したヘリから行方のわからない2人の情報が無いかどうか、またイドニアに行って探って来て欲しい』

 

 もしかしたら生きてイドニアにいるかもしれない、と。なんらかの事情で連絡出来ずに留まっているのか、もしくは何者かに連れ去られてしまっているのか。それか最悪の結果、命を落としてしまったのかどうか。シモンズに『僅かな情報でも見つかれば探るように』と指示され、わたしは再びイドニアの地へ足を運んだ。

 

「こちらエヴァ・グレイディ。イドニア共和国に到着した」

『ええ、バッチリ確認したわ』

 

 携帯情報端末の画面に映し出された相手は【FOS(Field Operations Support)】のオペレーター、日系アメリカ人女性のマヤ・カトウ。

 FOSは無線通信で主にDSOのエージェントをサポートしている組織で、その指揮権を持っているのがシモンズ。今回からわたしにはFOSのサポートが改めて付けられる事になり、休暇だとしても関係無く、何処へ行くにもオペレーターに確認してもらわらなければならない。

 因みに彼女はわたしの専属になったようで、公にされていないシェリーやジェイクの状況をシモンズから知らされている1人だ。

 

「今回は前回とは違う方へ行くわ。観光地は避けてなるべく人がいる田舎の方へね」

『オーケー、エヴァ。見守ってる』

 

 マヤが笑顔で通信を切り、わたしは携帯情報端末を左側の胸ポケットにしまう。 服装は前とあまり変えてない。上着をカーキ色の厚手ジャケットにしたくらいだ。今のイドニアは過ごしやすい気候になっているとはいえ、朝晩はとても冷えるらしい。

 そして空港の外へ出る前にトイレに立ち寄る。ベルトに着けている小型のポーチからペン型注射器を取り出し、既に装着済みである青色を自身の首元に当ててcEVAを打つ。大幅な改良はされて無いけど、持ち運びは随分楽になった。

 

「っ……」

 

 小さな痛みが全身を走り、髪の色がブルネットに変わる。その様を鏡で確認したわたしは、一つに結んでいたミディアムヘアの髪を解くと、前回と同じタクシー乗り場に向かう。今回も一台だけしか居なかったけど、運転手は違う中年男性だった。

 

「この2人、見た事は?」

「ねえな」

 

 後部座席に乗り込んで直ぐ、わたしは携帯情報端末でシェリーとジェイクの画像を運転手に見せた。……即答する運転手にあまり期待はしてなかったし、一応に。仮に知ってたらもっと良い反応したのかも。

 

「で、何処へ?」

 

 訛り英語を使う運転手は、インナーリアビューミラー越しにわたしを見て話を切り替える。

 

「紛争区域外の、なるべく人のいそうな村か街へお願い」

 

 運転手は『はいよ』と返し、被っているハンチング帽を直しながら気怠そうに車を発進させた。

 多少の運転の荒さを無視し、車内の窓から外を眺める。晴れ間も無い曇り空、白樺の木々や湖。それらを通り過ぎて暫くすると、中世の街並みの様な古い家屋や建物が見えて来た。前に見た紛争地の建物とは打って変わって、此処には爆撃の後もBSAAや傭兵の姿も無い。

 全意識を外へ向けていれば、携帯情報端末からメールを知らせる着信が鳴って我に返る。

 

「此処で良い」

 

 タクシーから降りた場所は、何処か寂れた雰囲気のある小さな片田舎の街のバス停。日も暮れ始めていたけど、歩いている人の姿はちらほらと視界に入った。

 此処で降りた理由はマヤからのメール。この街は、2人が乗ってたヘリの墜落現場から一番近い街だった。

 

「本当に此処で良いのか? 昼間はそうでもないが夜は治安も良くない。もう夕方だし、少し戻ればまだマシな村が──」

「別に大丈夫」

 

 どうなっても知らねえぞ。親切心を無下にしたわたしに苛立ってか、運転手は窓から顔を出して唾を吐くと、乗って来た車でそのまま走り去って行った。

 わたしはそれを一切気にする事なく意識を他へ。道を歩いていた老人に自ら近寄って声をかける。英語が通じるのかどうかわからなかったけど、意外にも老人とは会話は出来た。

 

「人が集まる場所? 此処じゃあ、あの店だけだよ」

 

 老人が嫌そうに話すのは、この街で一番栄えているであろう一角にある、とある一軒の酒場だった。

 

「お嬢さん、アンタあそこへ入る気かい? やめときな、ろくでもない連中が行くとこだからね」

「それでも行かなきゃいけないの。ありがとう」

 

 止める老人にお礼をして、わたしはその酒場へと早速向かう事にした。

 酒場なんて入るのはいつ振りだろうか。緊張はしなかったけど、入る前から店の雰囲気があまりよろしくないと感じる。酒場のドアを開けて中に入れば、テーブル席やカウンターにいるガラの悪そうな連中が、わたしを値踏みする様な視線を向けてきた。

 

「いらっしゃい。珍しいわね、女性のひとり客は」

 

 カウンター席に腰を下ろせば、カウンターの内側にいる壮年の女性が英語で話しかけて来た。働いてるのは1人しか見当たらないし、彼女はこの店の店主なのかもしれない。

 

「どこから? まさか観光にでも来たの? 観光地なら他にもあるでしょ?」

「……アメリカよ。観光じゃないし、人を捜してるの」

「人捜し?」

 

 わたしは携帯情報端末を目の前に取り出し、画像を彼女に見せた。

 

「半年程前からこの街の近くで行方不明なの。女性はアメリカ人。名前はシェリー、男の方はジェイクという名前よ」

 

 女店主は画像の2人をよく見ていたけど、反応も薄く、全く知らない様子だった。

 

「この街は狭いからね、新しいのが来たら話にも上がるし直ぐにわかるの。それに店に来てたなら絶対覚えてるし。悪いけど、見た事無いわ」

「そう……」

「そうだ、待って」

 

 知り合いだとかいう外国人と商売している情報通が、『たまたまうちの店の客として居いるから』と紹介されるも、相手も同じく覚えが無いと言う。2人を見せた時の動揺も感じられなかったし、敢えて嘘を付いている様にも見えなかったので、女店主や情報通が言うように、2人はこの街には来ていないようだ。

 墜落現場から一番近い街だから、もしかしたらという期待もわたしの中であったんだけどね。

 

「ねえ、もう夜になるけど宿は決めた?」

 

 意識を戻して女店主に向き直る。

 

「まだよ」

「なら良い宿があるのよ。ほらあそこに座ってる人、あの人がその宿の店主でね」

 

 この酒場は新しい客に色々と紹介してくシステムなのだろうか。……まあ良い。どうせ適当に探す予定だったし。

 

「俺はベドジフってんだ。言葉通じてる? 直ぐに部屋に入るなら案内するよ」

「ええ、通じてるわ。オーケイ」

 

 肥満体型の中年男性が酒場の女店主に軽くウィンクするのを横目に酒場から出ようとすれば、女店主は何かを思い出したかのようにわたしを呼び止めた。

 

「あ、ちょっと待って!」

「何? チップが足らないとか、まだ誰かを紹介する気?」

 

 女店主へ振り向いて溜め息混じりに問えば、彼女は『違うそうじゃなくて』と首を左右に振った。

 

「捜してる2人とは違うんだけど、同じ半年か五ヶ月くらい前だったかしら? この街の人間じゃないのがふらっと現れてね」

 

 ピンと来たらしいベドジフがわたしの隣で『ああ、野良犬!』と、女店主より声を大きくして先に言う。

 

「そうそう、"野良犬"」

 

 この2人の言う"野良犬"って一体何。

 

「最近じゃ外国から人が来るなんて、滅多に無いしさ、もしかしたらソイツが知ってたりするかも知れないって思ったのよ」

「……関係ないと思うけど」

 

 女店主の言う"野良犬"とは、本人が名前を覚えて無いらしくて周りからそう呼ばれてる呼称だった。この街の言葉は喋らずに英語を使い、体格も良くて喧嘩か強いと言うので、もしかしたらBSAAのヘリに乗ってた隊員が生き延びてこの街に偶然流れ着いたのでは……なんて一瞬頭の中で過ぎったけど、まさかそんな筈は無いだろう。

 

 ──シェリー達とは無関係よ。

 

 酒場から出てベドジフの案内で宿に向かう途中、わたしは道の端でふと足を止める。

 

 ──何で。

 

 この街の"野良犬"の話を聞かされたわたしは、不思議とその相手の事が気になってしまった。

 関係無いと自分は思っているのに、何故なんだろうか。

 まあ良い。気になるなら実際この目で確かめてみたら良いんだ。そうすればこの『気になる』というのもスッキリする筈だ。

 

「どうした?」

「別に、何も」

 

 考えるのは明日にしよう。わたしは止めていた足を前に進め、先を歩くベドジフに付いて行った。

 

 

 

 

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