ソードアート・オンライン ~天翔る竜騎士~   作:ふとっちょマックス

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episode3:彷徨いと邂逅

 

 

 

 大概のMMORPGにおいて、《夜間》は危険な時間帯だ。

 

 光源が無ければ(まさ)しく一寸先は闇、真っ暗闇の中を進む事になる。洞窟系・地下系統のダンジョンであれば松明等を手に持っていれば何とかなるが、平原や森ではそうはいかない。

 自身と壁が近い状態が続く前者であれば例えポップしたモンスターと言えど前方や後方と限られる。この場合は遭遇しても冷静に判断出来るが、360度全てがフィールドの上に立ち一つの光源の無い後者だと何時何処でどの方角から襲われるか分かりはしない。(無論索敵スキルがあればそれなりに対処は出来るが)

 

 どちらにせよ、夜間のフィールドをたった一人(ソロ)で進んで行くのは危険な行為――――なのだが、

 

「そんな悠長な事、今は言ってられないっての」

 

 そう、視界の殆どが闇に包まれていると言うのに、俺はそんな事は御構い無く走り続けていた。と言っても其処は独自のVR空間。薄い青い光が足下まで照らしてくれるのが唯一の救いだった。

 シリカの前でカッコ付けて勢い良く出たのは良かったものの………こうも直ぐに村に辿り着けず、森の中を駆け巡る事になろうとは。

 

「全くついてないぜ……せめて場所ぐらい知っとけば良かウボァ!!」

 

 独り言をぼやきながら走っていたのが仇になった……のかもしれない。

 俺は足を思いっ切り木の根元に引っ掛かけ、前のめりに古い"あのゲーム"の奇妙な断末魔を上げながら盛大に倒れた。正直現実(リアル)と同じくらい痛い。

 

「痛つつつ………くそ、やっぱ朝まで待っとけば良かったかも」

 

 心の中は後悔で一杯だった。《はじまりの街》に残って暫く身を固めていれば良かった事や、何も焦らずシリカの隣に居るべきだったのかもと、頭の中に過っては消え逝く後悔の念。

 

 そして最後に過った後悔は、『何も直ぐにこのゲームを始めなければ』と言う後悔。

 

(……いや、それはこの世界に存在する全プレイヤーが持つ"後悔"だ、俺個人の問題じゃない)

 

 俺は立ち上がらずそのままゴロンと地面を寝転がり、空を仰いだ。しかしその視線の先には満天の夜空が広がってはいない。次層の底が見えるだけだ。月や太陽は朝と夕方にしか見えない。

 

 "本当の"現実ではこの先には確かに夜空がある筈だ。だけどそれが無く代わりに空の大半を埋め尽くすのは次の層の底。かと言ってその次の層に上がって空を見上げても同じ景色が広がるだけ。これが99層まで続き、ラストの100層目で漸く大いなる空を拝められるのだろう。

 

 それがこの"現実(ゲーム)"と本当の"現実(リアル)"の相違点の一つ――――。

 

(……行くか)

 

 このまま物思いに耽っていたらきっと、現実の事が走馬灯の如く頭を駆け巡り、心は悲しみと後悔に包まれる………そうなる前に俺は立ち上がり、思考を切り替えて再び走り続けた。

 

 無論その真実から逃げている訳ではない。俺はただ、立ち止まりたくない(・・・・・・・・・)だけなのだ。

 

 家族・友人・日々の生活・学校・行事………今まで俺の"生活"を構成していた物はこのゲームを始めた瞬間と同時に崩れ去り、この世界が俺の新たな"現実"となった。これから構成されていく殆どの要素が、"この世界で生きて行く為"となるだろう。

 

 それを受け止めるか否かは個人の自由だ。HPバーがゼロになる事を恐れ街に籠るも良し、それを受け止めて真正面からこの世界の条理に向かって行くのも良し。自分自身の道は自分自身の選択と力で切り開いていくしかないのだ、この世界では。

 

 そして珪子――――シリカは前者を選び、俺は後者を選んだ。

 後悔していない……と言えば嘘になるが、何時までも同じ場所に立ち止まってまるで自分の殻に閉じ籠る様な行為はしたくなかったのだ。

 だからこそ俺はこうしてフィールドを駆け巡っている。心の奥底に、"死の恐怖"を抱きながら………。

 

 とその時――――視界に映る、異形な生物の姿。俺は慌てて傍に立つ木の陰に隠れた。

 そっと頭を出してその生物の姿を改めて視認する。大きさは約1mで、一言で容姿を言えば、《蠢き回る植物》だろうか。まるで現実に存在する植物《ウツボカズラ》を髣髴とさせる口を持ち、そこから涎―――恐らく粘液だと思うが―――を垂らしながらウロウロしている。

 

「……漸く猪とかじゃなくて、ファンタジー染みたモンスターとの邂逅だな」

 

 "この様な植物は現実には存在しない。しかし此処には―――この世界(ゲーム)には存在する"。

 俺は本当の"怪物"と初めて出会えた事に意気揚々になりつつも、内心では"死の恐怖"が段々と心の奥底から這い上がって来ていた。

 だけどそうなる前に、()られる前に――――

 

()ってやらァ……!!」

 

 威力も取り柄も無い平凡な両手槍――――《スピア》を背から引き抜き、木の陰から躍り出た。それに気付いた植物は高々に二つのツルを上げる。恐らくあれがヤツの威嚇行為なのだろう。

 

「シュアアアア!!!」

 

 口から大量の涎を撒き散らしながら、植物は咆哮する。しかしその咆哮に耳を傾ける事も無く怖気づく事もなく、ヤツの下へと俺は地を蹴り駆け出していた。

 

「うぉぉぉぉおおおおっっっ!!!」

 

 野獣の如き雄叫びを上げながら、俺は槍の先端を植物目掛けて突き出した。

 

 

 

*

 

 

 

「ふぅ……」

 

 二匹目の《リトルネぺント》を撃破した俺は、安堵の溜息を吐く。眼前には加算経験値が浮かび上がるがそれには目も暮れず、俺は再度周囲を見渡した。

 リトルネペントのカーソルは未だに索敵範囲圏内ギリギリに複数存在している。後数十分もあれば十匹以上は狩れる筈。他のプレイヤーが此処に来る前に片付けなくては――――

 

「――――!」

 

 その思考を途切らせたのは、視界に浮かび上がった一つのカーソル。明らかにリトルネペントとは違うそのカーソルの正体は――――"プレイヤー"のカーソル。

 

「チッ………」

 

 俺は無意識の内に舌打ちしていた。俺はこのまま他人が此処に来る前に可能な限り数を稼ぎ、一刻も早く《花付き》のリトルネペントを撃破する心算だったのだが………まさかこれからと言う所でもう追いつかれたとは。

 だが不可解な事にそのカーソルが動くと同時に、一匹のリトルネペントも動いている。後者の方を先頭に両方のカーソルが一直線上に並び動いているのだ。それも、此方側に。

 

「………?」

 

 木々の向こうで一体何が如何なっているのか理解出来ないが、剣の柄を強く握り締め何が来ても良い様に戦闘態勢を取った。

 そして段々とカーソルが近づき始め、そして先に姿を現したのは――――HPを赤の危険域まで減らしたリトルネベントだった。その背後に、

 

「おおおおおおおっっっ!!!」

 

 リトルネペントの胴体に槍を突き刺したまま、全力疾走しているプレイヤーの姿があった。

 その光景に俺は愕然とするしかなかった。今の俺でさえレベルは一桁。あのリトルネペントにすら及ばないレベルなのだ。下手に行動すれば思わぬ痛手を受け、最悪の場合"死"に至る。

 しかしこの男――――いや、少年は危険なモンスターに対して冷静に判断して闘わず、ゴリ押しで倒そうとしている。レベルもスキルも、きっと俺と大差無い筈だ、なのに………。

 

 そんな俺の考えを余所に、少年は俺を通り過ぎてリトルネペントを突き刺したまま直進して行く。彼と彼に突き刺されたリトルネペントが行く先には――――古びた一本の大木。

 直後、ズゥンと小さく響く音を立てたと共に、彼等は停止した。槍の先端は衝撃によってより一層深々と突き刺さり、リトルネペントのHPもまた減少しゼロになった。

 「ふぃー」と息絶え青く凍り付き爆散したリトルネペントを視認し、溜息を着く少年。

 

「試しに突撃してみたけど………これ危険だな。思い付きで実践するのは危険過ぎるな、うん」

 

 と訳の分からない独り言を呟くと不意に、少年は俺の方向へと顔を向けた。

 俺と同じくらいの身長で金髪の少年。歳は俺と変わらない様だが………防具ははじまりの街で売っていた革鎧と安価の両手槍を携えていた。

 

「おっと、見苦しい所見せて悪かったな。俺、結構思い付きで無茶な事ばっかする性分でさ」

「あ、あぁ……」

 

 俺に対して警戒も驚愕もせずにニカッと笑い気さくに話し掛けて来た少年に対し、俺は剣を鞘に収め空になった両手をコートに手を入れる。

 

 この時の俺は知る由も無かっただろう。

 俺とこの少年――――《カイン》が大切な"友達"になる事を、背を預ける"戦友"になる事を、この時からずっと、現実と仮想空間(ゲーム)の両方で長い付き合いになる事を。

 俺はまだ、知る事は無かった。

 

 

 

 

*

 

 

 

 ―――やっぱ、近くに村があるんだな……。

 

 俺は眼前に佇む黒髪の少年を視認して心中で呟く。やはり《はじまりの街》で予想していた事は的中した。

 少年の背中に装着されているのは片手剣の鞘。彼の手に携える剣から察するにあれは初期武器の《スモールソード》の様だが、防具面では《はじまりの街》の防具屋では見掛けなかったコートを着用している。恐らく近くの村で購入したに違いない。

 

 眼前に立つ少年が浮かべていた表情(かお)は、呆気に取られたかの様であった。……無理も無いだろう、あの植物を突き刺したまま直進して来て、現れたのだから。

 このまま沈黙し続けるとこの場の空気が一層重くなるだろうから、取り敢えず俺はニカッと笑い、声を掛けた。

 

「―――おっと、見苦しい所見せて悪かったな。俺、結構思い付きで無茶な事ばっかする性分でさ」

「あ、あぁ……」

 

 少年は俺に対して警戒を解いたのか、片手剣を鞘に納めると両手をコートのポケットに突っこんで俺から視線を逸らす。

 しかし改めて少年の顔を見つめると………何だか女の子みたいな顔だな、と思ってしまった。モジモジと動く所もなんか女の子っぽい。

「………」と物思いに耽っていると、少年の視線が此方の方へ向けられた。

 

「え、えーと、如何したんだ?」

「あ、あぁいや………此処に来るのが早いなと思ってさ。他の誰かが此処に来るのは数時間後だろうと踏んでたんだが」

「あー………まぁ、な。けど最初から此処が目的地だった訳じゃないぜ? 早くレベル上げたり装備を充実させたいと思って、《はじまりの街》から行く先決めずに飛び出した結果――――」

「………迷って、それで偶然此処に辿り着いたと?」

「そー言う事。ホント俺って、馬鹿だよねぇ」

 

 嘘はついていない。俺はこの付近に存在するであろう村には寄ってないし、そもそも最初から此処に辿り着くのが目的だった訳ではない。ただ単に、"走り回って迷った挙句"此処に辿り着いた。ただそれだけなのだ。

 

 しかし俺が来る以前に先に居た彼はきっと、《βテスター》なのだろう。

 正式サービスが始まったのはこの日、十一月六日だ。しかしその三か月前に、抽選によって選ばれた千人の人間が俺達に先立ってこのゲームをプレイしている。それ即ち、稼働試験―――βテストなのだ。

 申し込みは数十万以上にも及んだと聞いている。ナーヴギアを持っていなかった俺は応募しなかったが、購入したゲーム雑誌では見事βテスターとなった人のインタビュー記事が掲載されているのを覚えている。

 

 今俺の眼前に立つ少年も同じ筈。俺よりも先にこのゲームをプレイし、経験と知識と技術を得ているに違いない。

 ダンジョンの構造、武器屋・防具屋等の焦点の品揃え、クエストの発生条件・場所・人物、モンスターのポップ場所・弱点………まるで全ての情報を網羅している攻略本の様に様々な知識が、彼の頭の中に幾つも存在するのだろう。

 だからこそその知識を動力源として、誰よりも先に街を飛び出し、誰よりも先に此処へ辿り着いた――――そう考えるのが妥当だ。

 

「何だ、そうだったのか。俺はてっきり、俺と同じ元βテスターなのかと思ってたよ」

「ははは。生憎、宝くじに当選する程の強運は持ち合わせて無いんでね。精々、割った卵の中から黄身が二つ出てくるのが数回続く程の運しかないよ」

「………それはそれで強運だろ」

 

 補足された言葉に俺は「確かにな」と再びニカッと笑う。

 だがそれを最後に会話が途切れてしまう。何か話題をと考えるがβテスターの彼が興味を示す様な話題なんかとても見つからない。しかし不思議なことに、俺は自然に言葉を放っていた。

 

「な、なぁ。ちょっと言いにくいんだけど………着いて行っても良いかな?」

「え………?」

 

 しまった、と俺は不意に出てしまった言葉を何の躊躇いも無く出してしまったことを後悔してしまう。ほんの数分前に出会ったばかりの人間がパーティーを組もうと持ち掛けるのは余りにもおかしい。案の定、彼はポカンとした表情を上げている。

 俺は慌てて次の言葉を頭の中で模索する。

 

「い、いやさ、こんな夜時に森の中に居るって事は何かのクエでもしてんのかなーと思ってさ。あの植物倒してたみたいだったし」

「……確かにクエやってるけど、一人用だぞ」

「あー………それってもしかして、キーアイテム取得系?」

「あぁ。さっきの植物―――《リトルネペント》からドロップする《リトルネペントの胚珠》を手に入れなくちゃならない。けどノーマルからは絶対にドロップしない。ドロップするのは口の上に花を咲かせたヤツのみ。まぁ、出現確率は……ざっと1%って所だろ」

「成程……だったら尚更だ。エリア内のノーマルのリトルネペントを狩り続けば、いつか必ずその花の付いたヤツがポップする。一人よりも二人の方が効率は良くなる筈だぜ」

 

 《確率ポップ》。数あるMMORPGの中で広く流通している、ポップ条件の一つ。殆どのレアモンスターがポップする条件は大抵これだ。

 彼が受けているクエはどうやら"指定されたモンスターからドロップするアイテムを取得しクエスト依頼主に届ける"内容の様だ。その上指定されたモンスターはポップ率1%のレアモンスター。目当てのモンスターを簡単に出現させたいのであれば、そのエリア内のモンスターを虱潰しに撃破しポップ確率を上げる方法が最も効率が良い。恐らくこの少年もその方法を取っているのだろう。

 問いに対し少年は直ぐには返答しなかった。何か戸惑っているのか、或いは俺を警戒しているのか………まぁこの提案自体、少し強引過ぎたと自分でも感じていたが。

 「別にパーティーを組もうって訳じゃないんだ。ただ一緒に行きたいだけなんだ」付け加えて、俺は言葉を続ける。

 

「俺は単にレベルを上げたいだけさ。でも一人じゃ心細いから元βテスターであるアンタと行動したいんだ。その代わりに俺はアンタのクエストを手伝う。《花つき》が出て胚珠をドロップしたらアンタの物。二人でノーマルを狩り続ければ俺とアンタのレベルは上がり、運が良ければ《花つき》と遭遇し胚珠をゲット出来る。一石二鳥、悪くは無いと思うんだが………駄目か?」

「………」

 

 やはり直ぐには返答は返って来ない。やはり、こんな上手い話を持ち掛けた事に警戒しているのかもしれない。MMORPGでは"都合の良い話の裏には、大抵裏がある"のが常識。このSAOも例外では無い筈。彼の様な元βテスターが警戒するのも、当たり前なのかもしれない。

 俺は疑いを晴らさなくてはと決断し、決して疾しい事は考えていないと告げようとした瞬間、

 

「……分かった」

「―――へ? 良いの……か? ホントに、良いのか?」

「あぁ………パーティーじゃないなら、俺はそれで……」

「そうか……有難う」

 

 パーティーでなくとも、一緒に行動してくれる事を決断してくれたのは、心の底から嬉しかった。移動中にこのSAOの事についての情報を貰えるかもしれない。自分勝手で自己中心的な考え方だが、始まってしまったこの世界(SAO)の中で元βテスターの様に迅速に行動する為には、知識や情報・ノウハウを彼から得なければならない。

 俺はニカッと笑うと共に右手を差し出した。

 

「《カイン》だ。ホント、俺の我儘聞いてくれてサンキューな」

「あぁ、宜しく。俺は……《キリト》」

 

 静かに握手した直後、直ぐに少年―――キリトの視線は九時の方向に向けられる。俺も反射的にその方向を見ると、ゆっくり動き回る二つのカーソルが点在していた。恐らくあれは、リトルネペントだ。

 

「おっと、早速標的発見だなキリト」

「あれはノーマルだよ。さぁ、他のプレイヤーが来る前に《花つき》を倒して胚珠を出さないとな」

「了解! んじゃ、ガンガン行きますか!!」

 

 互いに握手していた手を握り拳に変え互いに合わせた後、俺とキリトは二体のリトルネペントを標的にし、駆け始めた。

 

 

 

 

 

 最初は、俺と大差無く此処へとたどり着いたカインが俺と同じ―――元βテスターだと思っていた。しかしカインはただ迷って来ただけで、βテストを受けていない普通のプレイヤーだったのだ。何の情報も無く走り続け道が分かり難い此処に辿り着いたのは、強運による恩恵なのかもしれない。

 

 あの時カインが持ち掛けて来た提案に対し、俺は直ぐに返答は出来なかった。

 あの初めての友達を――――クラインをはじまりの街で見捨てて此処へ辿り着いた俺に、彼と共に行動する資格などあるのだろうかと思い至ったのだ。

 しかしカインは俺の考えを読み取っていたのか、俺とパーティーを組もうとした訳ではなくただ単に、俺と共にリトルネペント狩りをしたいと言って来たのだ。

 ソロでは一体の孤立しているモンスターにしか相手に出来ないが、二人もいれば同時に二体のモンスターと闘える。孤立しているモンスターを探す時間も減り一回の戦闘で倒せるモンスターの数も増える。《花つき》が現れる確率もまた、上昇する筈。

 最初は彼が何か悪巧みをしているのかとも考えたが、彼が時折見せたあの"笑顔"は如何しても"演技"には見えない――――俺は知らずに、そう悟っていた。だからこそ彼と共にリトルネペントを狩りをしようと思い立ったのかもしれない………。

 

 元βテスターではないと言うのに、彼は戦闘馴れしている部分があった。恐らくかつてこのSAOと似たMMORPGをプレイしていたのだろう。

 リトルネペントのツタによる攻撃や緑色の腐蝕液も紙一重で避け、弱点部位のウツボ部分と茎の接合部分に槍を突き刺しては後退すると言うヒット&アウェイを行っていた。そして俺はカインが後退した直後に接近し、再び弱点部位を猛攻撃して撃破する行動を取っていた。気付けば自然にそれらの一連の行動が一つの連携パターンとなり、大した被弾も無くリトルネペントを次々に撃破していく。

 

 しかしカインと出会って共にリトルネペント狩りを始めて約三十分が経ったが、未だに《花つき》は姿を現さない。通算十二匹目となるリトルネペントを倒しても尚、だ。

 とその時、俺の耳に軽快でこの森のとは不釣り合いなファンファーレのBGMが響く。それと共に金色のライトエフェクトが身体全体を包み込んだ。

 カインの方に視線を向けると、彼もまた俺と同じく身体全体をライトエフェクトが包んでいる。どうやら俺達二人は同タイミングで、初のレベル上げを成し遂げた様だ。

 

「漸くレベルアップか………一上げるのにこれだけ狩らなきゃいけないとは、先が辛そうだぜ」

「MMORPGで数体のモンスターを倒しただけでレベルが上がるなんて、得られる経験値が膨大でない限り有り得ないさ。それはそうと、おめでとうカイン」

「ん……あぁ、アリガトな。それにそっちこそ初のレベル上昇、おめでとう」

 

 ニカッと笑うと共に言葉を放つカインに真面目に答えるのが恥ずかしくなった俺は視線を逸らし、紛らわす様に剣を納めてそさくさとメインメニュー・ウィンドウ眼前に出した。レベルアップと共に加算されたステータスアップポイントを振ろうとした瞬間――――

 

 不意にパンパンと、まるで手を叩いた様な音が響いた。

 

「ッ………!!」

「ん?」

 

 反射的に俺はその場から大きく飛び退き、剣の柄に手を掛けた。だがカインは呆けた声を出すだけで動く事はせず、音が放たれた方向に視線を向けるだけだった。

 背後の警戒を怠っていた自分を呪うと共に、未だステータス・ウィンドウを触り続けるカインに後退しろと警告の言葉を放とうした時に――――気付いた。

 

 俺の視線の先に存在するのはモンスターでは無く、"人"である事に。

 

 それはNPCではない。俺とカインと同じ、"プレイヤー"であった。




カインが話中に使った突撃ですが、勿論ソードスキルでは無い為、ダメージは低いです。
カインは『良く無茶をやらかし、思い付きで行動する事が多々ある』ヤツと思ってください^^;
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