ソードアート・オンライン ~天翔る竜騎士~   作:ふとっちょマックス

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episode4:闇夜の森(前編)

 

 

 

 ―――さぁってと、どれに振り分けるとするかなぁ~♪

 

 青猪(フレンジー・ボア)食虫植物もどき(リトルネペント)を数十体程撃破した所で漸くレベルが上昇―――と言ってもたったの1レベルだが―――した事に歓喜し、俺は逸る気持ちを押さえながら早速メインメニュー・ウィンドウを眼前に映し出した。

 普通のRPGではキャラのレベルが上昇すると、同時にステータスも上昇する。がしかしMMORPGの殆どがレベル上昇の際に《ステータスアップポイント》が与えられる。そして与えられたポイントの行先はプレイヤー自身が判断し決断しなければならないのだ。このシステムだとプレイヤーは自分好みのキャラを創造出来る。例えば"パワー重視"なキャラを作りたいのであれば筋力を中心に振り分ければ良いし、"スピード重視"であれば敏捷力に振り分け続けて行けば良い。尤も俺の場合は片方のステータスだけを上げると言う極端な方法は好まない為、両方のステータスをなるべく均等に上げて行く事を以前のMMORPGから心掛けている。

 幸い今現在振り分けられるステータスは《筋力》と《敏捷力》しかない。だが俺が良く購読しているゲーム情報誌によって得た情報によれば、このSAOには戦闘系・生産系のスキルがそれはもう大量にあるらしい。今は悩む必要は無いが、近い未来の俺はきっとどのステータスにポイントを振り分けるか悩んで一人唸り続けるだろう。

 この先どんなスキルがあるのだろうか、と心中で呟きながら俺は与えられた3のポイントを筋力に2、敏捷力に1に振り分けた。

 

 とその瞬間――――パンパン、と何かを叩く様な音が突如として響き渡る。

 

「ッ………!!」

「ん?」

 

 即座に反応したのはキリトの方だった。一瞬にして大きく後退し、警戒の為剣の柄に手を掛けている。それに対し俺はその彼の行動で何かあったと漸く気付き、恐る恐る背後を振り返った。

 

 ―――人型モンスターだろうか? それとも………

 

 様々な思案が頭の中を過る最中、眼前に映し出されたのはモンスターでは無く――――"人間"だった。

 しかもNPCではない。俺やキリトと同じ、"プレイヤー"だ。

 

 剣を抜いてはおらず、身体の前に二つの手を合わせたまま硬直する"少年"。ポカンと口を開けている所から察するに、先程の音に即座に対応したキリトの反応に驚いているのだろう。

 俺とほぼ変わらぬ身長で防具は《はじまりの街》では見なかった革鎧。しかし武器はキリトと変わらずスモールソードの様だが………キリトの話によれば、この森の付近にある村にはスモールソードよりも威力の高い《ブロンズソード》が売っているらしい。何故それを買わなかったんだと問うと彼は冷静に、『威力はあっても、耐久度が低いからな』と当然の様に返していた。

 もし彼がそれを知っており、尚且つ付近の村の存在を知っていたのであればきっと彼もまた――――《元βテスター》なのかもしれない。迷って此処に辿り着いた俺とは違う、特別な人間の内の一人。

 

 暫くの間三人の間には沈黙が支配していたが、キリトが警戒を解いたのか腕を下した。それと同時に硬直していた少年が俺達に頭を下げて来た。

 

「ご、ごめん………脅かしたみたいで。最初に声を掛けるべきだったよ」

「………。いや、俺こそごめん。反応が大袈裟過ぎた」

「俺は別に気にしてないぜ。ちょっとは驚いたけどな」

 

 もじもじと俺と出会った時と同じ様にキリトは応じると、両手をコートのポケットに突っ込み視線を逸らした。至って普通の顔立ちをしている少年は俺達の返答にほっとしたのか笑顔を浮かべる。

 

「と、取り敢えず、レベルアップおめでとう。二人共随分と早いね」

 

 賞賛の言葉を贈られた事に対し、俺は微笑を浮かべる。たった一レベル上昇しただけでも人から褒められるのは、やはり嬉しいものだ。

 

「それ程でもない……ってね。まぁこれまでお互い、結構ネベント狩ってたし。なぁキリト」

「あ、あぁ……。けどそれを言うなら、そっちも早いんだな。迷って此処に来たコイツとは違う誰かが此処に来るのは、まだ数時間後だと思ってた」

「いや、僕の方も一番乗りだと思ってたよ。此処の道、結構分かり辛いから」

 

 キリトに"迷って此処に来たコイツ"と言われるのは無性に腹が立つが、実際事実であり、他人が目の前に居るこの場で言い争う気にもならない。

 だがそれよりもやはり、眼前に立つ少年も《元βテスター》だった事は間違いなさそうだ。分かり辛いこの森の迷路を容易く看破した部分や、《ブロンズソード》ではなく初期武器のスモールソードを選択している部分からその真実を察する事が出来る。

 

「君も受けているんだろう? 《森の秘薬》クエ」

 

 少年の言葉にキリトは首をゆっくりと縦に振る。

 これも先程、リトルネペント狩りをしていた時にキリトから聞いた話だが、キリトはこの《森の秘薬》と呼ばれるクエを受けているそうだ。そのクエの詳細な内容は教えてくれなかったが、キーアイテムである《リトルネペントの胚珠》を手に入れて依頼主に届けるのが目的。その為に《花つき》のリトルネペントをポップさせるべく、俺とキリトは先程までノーマルの方のリトルネペントを狩り続けていたのだ。

 

「あれは片手剣使いにとっての必須クエだからね。報酬の《アーニルブレード》は三層の迷宮区まで使える」

「……それゃ凄いな。最初の第一層でも、そんな強力な片手剣が手に入るのか」

「まぁな。けど、見た目がイマイチなのが難点だが」

 

 キリトの言葉の真意を知っているのか、少年は明るく笑い声を出した。実物を見ていないのだが、二人の脳裏にはその《アーニルブレード》の姿が浮かび上がっているのだろう。

 俺がどんな形状・色をしているのだろうと想像していた時、再び少年は口を開いた。

 

「―――折角だから、クエ、協力してやらない?」

 

 開いた言葉は俺がキリトに持ち掛けた言葉とほぼ同じ言葉。だが彼は俺とは違う。片手剣使いであり、ちゃんとクエの内容も知っている。逆に俺はキリトのリトルネペント狩りを手伝っているだけの存在。

 チラっとキリトは視線を俺に向ける。俺にとってその視線は『如何する?』と俺に問い掛けて来ている様にしか思えなかった。俺はその視線に対しニッと笑うと、彼の代わりに口を開いた。

 

「なぁ、それってパーティーを組もうって事なのか?」

「いや、別にパーティーを組みたい訳じゃないんだ。此処までやっていたのは君達二人なんだから、一つ目のキーアイテムは勿論譲る。そのまま狩り続ければ直ぐに二体目が出ると思うから、その時まで付き合ってくれたら良いんだけど………」

「―――だそうだ。如何する? キリト」

「あ……あぁ、分かった。それなら、構わない……」

 

 歯切れ悪く答えるが、キリトは承諾してくれた。

 その言葉を聞いた少年は直ぐに笑顔を浮かべ、まず俺の方へ右手を差し伸べて来た。

 

「有難う。じゃあ、暫く宜しく。僕は《コペル》」

「あぁ、宜しく。俺は《カイン》」

 

 俺は差し伸べられた手に快く応じ、即座に左手を出して固く握手した。

 続けて少年―――コペルはキリトの方にも手を差し伸べる。最初は戸惑った様子を垣間見せたキリトだったが、直ぐに左手を出した。

 

「……よろしく。俺は《キリト》」

「キリト………。あれ、どっかで聞き覚えが………」

 

 元βテスターであるコペルは、彼と同じく元βテスターである《キリト》の名を微かにだが知っている様だ。俺にとっては別に気にしない事だが、キリトにとってはそれが不味いと思ったのだろう。即座に出していた手を引っ込み視線を右方向へと移す。その方向に居るのは約三体ほど動いているリトルネペントのカーソル。

 

「きっと人違いだよ。さぁ、さっさと狩り尽くそうぜ。他のプレイヤーが来る前に、《胚珠》を入手しないと」

「う………うん。そうだね。頑張ろうか」

「うっし! んじゃまた、ガンガン狩るとするか!!」

 

 三人とも静かに頷き合い、俺とキリトとコペルの三人組は付近に存在していたリトルネペント向かって、猛然と駆け出した。

 

 

 

 

 たった一人プレイヤーが増えただけなのに、リトルネペント狩りのスピードは二人の時以上に加速した。元βテスターであり、リトルネペントの挙動・攻撃パターンを知り尽くしているコペルとキリトが居れば当然の事なのだろうと感じてしまうが。

 コペルが最初にネベントのタゲを取り、俺とキリトが弱点部位を全力で攻める連携パターンが何時の間にか生まれ、三人で続々と現れるネベントの群れを着実に撃破して行く。

 

 狩り自体は何ら無駄なく進行して行くが、"普通の"会話は全く行われなかった。

 誰かが口を開いてもそれはアイテムの話やクエストの概要等。誰一人として、この"現実"の話をしなかった。あの茅場の言葉をコペルやキリトも耳にし、"此処で死ねば現実の自分も死ぬ"事に疑問を持っている筈だ。なのに何故、俺達はそれを口にしないのか………。

 

 思考しながらリトルネペント向けて駆ける俺の脳裏に浮かぶ答えは、"現実逃避"の四文字。

 

 こうして闘い続けレベルを上げたり、《花つき》のリトルネペントが早くポップしないかと思考する全てが、現実逃避の一つ。HPバーがゼロになった瞬間にナーヴギアから発せられる電磁波によって脳が焼かれる終末に、俺達は目を逸らしているのだ。その終わりを紛らわすかの様に、その終わりから逃げる様にただ只管に、眼前に敷かれたレールの上を俺達は走り続けている。脱線したら最後、俺達を待つのは――――"死"。

 

 はじまりの街に残ったプレイヤーが通るレールの殆どは安全で安心出来る道。その場に踏み止まれば決して脱線する事は無く、時の流れに身を任せるだけで済む。

 しかし――――しかし、俺達はそれの真逆のレールを走り続けている。何時脱線するか分からない道を、恐れる事無く歩み続けている。眼前に映る死神(モンスター)に対し槍を突き出し撃破しようとする俺は、本当の《死》から目を逸らして闘い続けている。

 ………いや、これは今だけの話ではない。きっと将来、この世界で俺は常にこの道を歩み続けて行くのだろう。何時来るか分からない、死の"脱線"に恐れを抱きながら。

 

 思考の波が一段落した時、眼前に映っていたキリトのアバターの姿が一瞬、ほんの一瞬だけ止まった。スタンになった訳でもなく、ぴたりと身体が硬直したのだ。その時の状態はリトルネペントに対し剣を振り上げている状態。俺は即座に、動きを停止した彼に襲い掛かるネベントに対し、両手槍単発剣技《スラスト》を発動させ、茎の部分を貫いた。途端にネベントの身体はポリゴンへと姿を変え、破砕音と共に爆散する。

 

「どうしたよ、キリト。動きが止まってたぞ」

「………あぁ、少し考え事してたんだ」

「おいおい余裕だな、そう言うのは余裕がある時にやってくれよ」

 

 バツが悪そうに俯くキリトに対し、俺は苦笑の表情を浮かべる。

 丁度その時、俺とキリトの背後で再びポリゴンの破砕音が響く。もう一匹のネベントをコペルが撃破したのだろう。俺とキリトが振り返ると、ふぅと疲労の溜息を吐くコペルの姿が其処にあった。

 

「………出ないね」

「全くだな。ったく、何時になったら出るのやら」

 

 既に俺とキリト、そしてコペルがリトルネペント狩りを始めて既に一時間は過ぎている。もう百体以上は倒したと言うのに、《花つき》は一向に姿を現さない。それに加え三人ともかなり疲労の色が見える。武器の耐久力の関係もある為、これ以上戦闘を続けるのは肉体的にも武器的にも厳しい。

 

「さっすがはレアモンスター、って訳だな。MMORPGだけに当て嵌まる訳じゃないけど、もしかしたら知らぬ間に物欲センサーが働いてるのかも」

「それが本当なのかどうか知らないが……多分βの時の出現率が多少変更されているのかもしれないな。レアのドロップレートとかは、正式サービスで修正されるのはMMOじゃ良くある話だし」

「そうかもしれないね……。如何しようか? 武器も結構消耗してるし、三人ともレベルはそれなりに上がったし、一度村に戻るのも手かなと――――」

 

 とコペルが言い掛けた時、俺達から数十m程離れた大木に、一つ集束し始める赤い光。

 四角のポリゴンブロックが幾つも生まれ、それ等が組み合わせって一つの形を形成し始める。俺やキリト達の見慣れた光景の一つ――――モンスターが湧出(ポップ)する際の一連の光景だ。

 

「「「………」」」

 

 三人はその場に立ち尽くし、ただ黙ってその光景を眺め続ける。また普通のリトルネペントだろうと予想していたが――――現れたモンスターは、その予想を悉く打ち破る事になる。

 大まかなリトルネペントの姿を形成させていたポリゴンブロックは徐々に繊細な姿となって行く。無数のツルが蠢かせながら動き始めるリトルネペント。汚らしい涎を獲物を捕らえ喰らう捕食器から垂らしている姿は、何度見ても好きにはなれない。

 だが、その口の上にある物体が存在した。闇夜の森では一際目立つ"紅"の色をした何か。毒々しい紅の光を放つそれの正体は――――《花》だった。

 

(わお……噂をすれば何とやら。標的のご登場じゃねぇの)

 

 間違いない。あれが《花つき》だ。その真実は、元βテスターである二人の表情から容易に察する事が出来た。キリトとコペルが求める《リトルネペントの胚珠》を持つ唯一の個体、《花つき》のリトルネペントが、俺達の視線の向こうに存在している。

 行動は素早かった。まるで獲物を見つけた鷹が空中から地面向けて急降下するかの如く、俺達はそれぞれの得物を握り締めると共に躍り掛かろうとするが―――――

 

 だがその行動を、キリトが制止させた。突然身体を急停止させ彼の左に居たコペルに対し左手を挙げ、右に居た俺に対しては剣で止めて来た。

 当然疑問の表情が俺とコペルに浮かぶが、キリトは冷静に左手の人差し指で段々と遠退いて行く《花つき》の背後を指す。しかしその場所には何もなく如何言う事だと詰め寄ろうとした時――――俺にも見えた(・・・)。ゆらゆらと口の上に大きな物体を動かしているリトルネペントが。

 

 それがもし、二匹目の《花つき》であれば二人は大いに歓喜しただろう。唯でさえ湧出率の低い《花つき》が二体同時にポップするれば、大いに時間を短縮出来楽出来たからだ。

 だが現実はそう甘くない。口の上に物体があっても、それが《花》であれば意味が無いのだ。

 そのリトルネペントの口の上にあるのは――――《実》だ。限界まで膨らませた風船の如く膨れ上がっているその《実》を攻撃すれば、一瞬にして実は破裂し独特な臭いを解き放つ。その臭い自体は俺達に何かのステータス異常を与える事は無いが、エリア中のネベントが集結し襲い掛かってくると言う――――キリトはそう、先程俺にレクチャーしてくれた。

 

 俺達が協力すれば《実》を破裂させる事無く《花つき》を撃破する事も出来なくは無いだろう。だがそれは大きな博打と同義。もし《花つき》との戦闘中に《実つき》が参戦(リンク)した場合、無暗に攻撃する事は不可能だ。

 

「……どうする……」

 

 苦悩した様に呟いたのは俺では無く、キリトの方だった。真っ直ぐに一対となって佇む《花つき》と《実つき》の二つの個体に視線を向け、苦虫を噛み潰した様な表情を浮かべている。

 此処で立ち止まっていては標的が遠ざかってしまう。そう危惧した俺は打開策を考えようと持ち掛けようとした時、黙り続けていたコペルが不意に口を開いた。

 

「―――行こう。僕が《実つき》のタゲを取る。その間にキリトとカインは《花つき》を倒してくれ」

 

 言葉だけを告げて俺達の返答を聞く事無く、コペルは駆け出した。

 残されたキリトと俺は視線を合わせ、俺がしっかりと頷く。

 

「………解った」「……頼んだぜ、コペル」

 

 同タイミングで率先して動き出したコペルに、俺達は答えた。

 コペルが上手く《実つき》の方を相手してくれれば、その間に俺達が《花つき》を撃破出来る。尤も、"上手く行けば"の話だが――――。

 最悪の結果を否定し、俺とキリトはコペルの後を追った。まず接近するコペルを《花つき》が察知し、涎を垂らしながら咆哮する。だがコペルはそれに怯む事無く右へ迂回し、《実つき》の方へと駆ける。

 無視されても尚《花つき》はコペルを標的(ターゲット)としている。徐々に近づく、俺達の存在も気付かずに。

 初手はキリトだった。右手に握り締めた片手剣を振り上げ、彼の存在に気付いていなかったネベントの茎の部分に直撃させる。不意打ちを食らったネベントのHPバーは当然減少し、同時にネベントはキリトの存在に気づき威嚇行為である二本のツルを高々と掲げた。この時点でネベントのターゲットはコペルからキリトへと変わった。

 

 《花つき》と言っても、攻撃方法はノーマルの方と何ら変わりは無い様だ。繰り出されるツタの猛攻を、キリトは回避したり弾いたりして直撃を免れる。そして反撃の一撃を与えた直ぐにバックステップ、後方に待機していた俺が、怯むネベントに全力の突きを繰り出す。

 既にヤツのHPは黄色の域まで達している。この一撃で、ヤツは地に伏せる。自分自身に喝を入れ、俺はこのネベント狩りに最も多用し続け来た単発突き《スラスト》を放つ。ギュインと耳に響く効果音と目に見える漆黒の黒い線が虚空に刻まれると共に、槍の先端が茎を貫いた。

 

 ノーマルとは違った断末魔を上げ、地面に落ちるネベントの捕食器。涎を撒き散らしながらごろりと転がり、東部に存在していた花がはらりと散る。その花から一つの球状の物体が転がって来る。それは地面に落としてバウンドするボールの如く何度も地面を跳ねて、横に佇んでいたキリトの足元で停止した。

 直後にネベントはポリゴンの塊と化し爆砕。キリトは足下に転がっている球状の物体を拾い上げる。あれこそがキリトとコペルが求めるキーアイテム――――《リトルネペントの胚珠》なのだろう。俺はもっと、小さい物だと思っていたが………。

 だがこれで終わった訳ではない。俺達よりも離れた場所でただ一人、《実つき》のタゲを取り続け闘っているコペルが居る。援護に行かなくては彼の身が危ない。

 

「キリト! 早くコペルの所へ!」

「あぁ、分かってる!」

 

 キリトに声を掛けると共に、俺はコペルの方へ視線を向けた。《実つき》の攻撃を剣と円盾(バックラー)であしらい続けるコペルの姿が視界に映る。βテストの時から防御が上手かったのか、此方に顔を向けている。

 だがその表情に苦痛の色は見えない。攻撃を繰り出すネベントに対して余裕なのか如何かは分からないが………彼の"視線"だけは、普通じゃなかった。

 その視線はきっと俺だけじゃなくキリトにも向けられている。必死で闘う俺達を哀れむかの様な視線は、知らずに俺の心を震わせた。

 

 ―――コペル………まさか、お前………!

 

 最悪の予想が頭を過った瞬間と、コペルがネベントから繰り出されたツルを円盾で弾いた瞬間は重なった。そして彼の言葉から静かに発せられる、たった一言の言葉。

 

「――――ごめん、キリト、カイン」

 

 告げた瞬間、彼は再び視線をネベントへ向けた。そして剣を大きく振り上げた。刀身が薄い蒼に包まれた所から察するにあれは―――ソードスキル。しかも振り下ろす先には、決して攻撃してはならぬ《実》。

 

「いや……だめだろ、それ……」

「やめろ……やめろよ、コペル………!」

 

 キリトの言葉と共に、俺も動き出した彼を止めようと声を上げる。

 だが彼は動きを止めない。地面を蹴って繰り出すソードスキルを、ネベントの口の上にある《実》に、大打撃を与えた。

 

 ―――パァァァン!

 

 突如、虚空に響く巨大風船が割れた様な音。それと共に実から放たれる、薄い緑色の煙。

 それと俺は知る。これが事故では無く意図的に引き起こした事であり、同時に、短い時の中で共に闘い続けて来た一人の少年が、俺達を裏切った(・・・・)のだと。

 

 

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