行方   作:T a O

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 第二話です、宜しくお願いします。


No,2 予定

 

 この世界には、"アンク"と呼ばれる生者たちの世界の他に、"エポスタ"と"サブテラ"という二つの世界が存在する。

 

 エポスタはいわゆる「あの世」のことで、案内人(ガイド)や転生を待つ一般霊の住む世界だ。

 一般霊がこの世界に入れば二度とアンクには戻れないが、変わりにニヒルから襲われる心配はなくなる。

 

 アンクとエポスタを行き来できるのは、二年以上の訓練を受けた案内人たちだ。そして三つ目の世界であるサブテラへ足を踏み入れることができるのは、案内人の中でも一握りのエリートのみ。

 

 そのサブテラには、転生の権利を剥奪された魂魄が、アンクで行った罪を償う為、業火の中に幽閉されている。

 

 簡単に言えば、サブテラとは地獄のようなものだ。

 

 この三つ目の世界については、組織において大将以上の階級を持つ者にしか詳細な情報が公開されていない。

 それより下の者には「重罪人の魂魄を幽閉する場所」という曖昧にぼかした説明がされてある。

 

 だがほとんどの案内人は、サブテラについては知る必要のないことだと考えているらしい。

 

 ホログラムの資料を閉じたジルヴィアは荷物をデスクの端に置き、先月買い換えた新しい椅子に腰かけた。

 目の前には、先程まで通話をしていた部下のユリウス・オットーが紙の資料を手に姿勢正しく立っている。

 

 彼の軍人らしい精悍な顔が歪むのはとても珍しい。

 そしてどうやら、今回の上層部からの爆撃はどんな女性の誘惑も跳ね返す鉄壁のポーカーフェイスでも防げなかったらしい。

 

 「…どういうことですか」

 

 小さくシワを寄せた自分の眉根を物珍しそうに見上げる上司に、ユリウスは鋭い視線を向け続ける。

 対する女上司は感情の読み取れないカラリとした表情で、やはりユリウスの眉根を見ている。

 

 その顔は、平時に比べそこはかとなく楽しそうだ。

 

 「説明してください」

 「ちょっとニゲルまで行ってくる」

 

 それは説明じゃない、と不快感を露にしかけたユリウスだが、鍛え上げた強靭な自制心がすんでのところでそれを食い止めた。

 ユリウスは言葉を軽んじない。よく考えて慎重に言葉を選ぶ彼の発言力は、その実直な性格も相まって、部署内でも比較的強い。だからこそ、ジルヴィアは誰よりも早く彼を捕まえて部下に引き入れたのだ。

 

 ただ、考えすぎるあまり、発言の機会を逃すこともあるのがたまに傷なのだが。

 

 そしてジルヴィアはそれを利用し、何か言いたいらしいがなかなか言い出さない部下が口を開く前に、デスクに内蔵されたタブレットを起動させる。

 彼女の指が何度かキーを叩き、ホログラムで"指令書"の写しを見せた。

 

 「文句ならこの差出人に言ってちょうだいな」

 

 そこにあったのは、一案内人が挑むにはあまりにも強大すぎる要塞。

 

 ヴォルフガング・アーレルスマイアー元帥。

 組織の最高権力者の名の下に、ジルヴィア・イェルザレム中尉へ直々に命令が下ったのだ。

 

 さすがのユリウスも、これには目を丸くして驚愕を示した。

 通常ならあり得ないことだ。元帥から直接の命を受けとるのは大将のみ。その命令が下ったということは、もはや出世が決まったも同然。

 

 ジルヴィアはタブレットの表示を切り替え、これからの大まかな予定を組み立てた一覧をユリウスの端末へ送る。

 

 「出発は一ヶ月後。それまでに私の仕事を誰かに引き継がせなきゃいけないんだけど…」

 「一ヶ月…!?それは早すぎませんか」

 

 ユリウスの言うとおり、通常の長期任務ならば三ヶ月ほどの猶予を設ける。その三分の一の期間で準備を終わらせろと言うのは、あまりにも無茶な要求だ。

 

 だがしかし、今回ばかりは「できない」と言うわけにはいかない。何せ、その指令を出したのは絶対の権力者なのだから。

 

 そんな無理難題を受け、どうしたものかと険しい顔で予定表を見るユリウスを眺めながら、ジルヴィアは呑気にも頬杖をついて微笑む。

 

 「ま、大丈夫でしょう…期待してるよ、ユリウス・オットー中尉(・・)?」

 

 ジルヴィアのその言葉に、ユリウスの顔からシワが消えた。

 信じがたいことがいくつも降ってくると、さすがの鉄仮面卿も実に多彩な表情を見せるらしい。予期しないことが、彼から普段の冷静さを少しずつ削り取っているのがありありとわかる。

 

 「は…」

 「私の後釜は君にしておいたから。頼んだよ中尉」

 

 ジルヴィアはタブレットの電源を落とすと、未だに事態を処理しきれていないユリウスの肩を軽く叩いて執務室から出た。

 そのドアが閉まる音で我に帰ったユリウスが、数秒遅れて執務室から飛び出してジルヴィアの後を追う。

 

 「待ってください中尉!私には…」

 「適任だよオットー。軍曹(今の階級)で君の実力が発揮できていないのはみんな知ってる」

 「しかし」

 

 尚も背後で言い募るユリウスに、ジルヴィアは廊下で足を止め向き直った。

 珍しいグリーンの瞳が、ユリウスのコバルトブルーを少し下の位置から射抜く。連日の任務による疲れで薄く濁ったエメラルドが優美に細められ、意地の悪い上官が笑った。

 

 「私の目が節穴だとでも言いたいのかな?」

 

 ジルヴィアの言葉に、息を詰まらせたユリウスの喉がぐっと下がる。

 押し黙った部下へいっそう笑みを深くして、ジルヴィアは唐突に、割りと強めのローキックをユリウスの大腿へ食らわせた。

 

 「っ!?」

 

 歴戦の猛者による蹴りをまともに喰らったユリウスの顔は、残念ながらジルヴィアが期待したほどは歪まなかった。

 それに多少片眉をひそめたジルヴィアだったが、すぐさま口角を上げて彼の顔を覗き込む。

 

 意外なことに、その瞳には私情が孕まれている。

 

 「自分の部下を昇進させられるんだ。珍しく浮き足立ってるんだよ…こっちの気も汲んでくれる?」

 

 あまりにも正直な感想に、ユリウスは思わず片手で顔を覆った。

 

 




 世界観の説明回。

 未だに主人公の口調が定まらない…。
 自分の主人公に女性口調で喋らせるの苦手なんです…_(._.)_
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