もはや人間ですらない俺はどうすればいいでしょう!   作:アヴェストロ

2 / 10
#2 風邪気味の俺を酷使する気か

 人望薄そうな人間の経営している、会社の動力源となって何十年。

 この会社の社畜に成り下がった俺。

 この数十年。いろんなことがあった……?

 俺がちょーっと寝てる間に、勝手にハッチを開けられコクピットを外されるし。挙句の果てにエネルギー吸収のチューブが最初は肩だけだったのに、今では人でいう鎖骨部と股関節にまでラインが増えちまったよ。

 その癖、ろくに整備もしてくれない。

 あ、でもこの間。あの人望薄そうな人間がどこから流してきたか分からない、MSの腕を俺の左腕にとりつけてくれた。これで俺は晴れて五体満足になりました。

 それは、一応。感謝してる。

 でもねぇ。いくら俺が万能すぎる高出力のエイハブリアクターを2基搭載してるからとはいえ、年中無休でエネルギーを奪われるこっちの身になってほしい。

 

 だが、そこは俺も男だ。それならば、それならばまだ耐えよう(というかMSに性別っていう概念って存在するの?)

 しかぁし! 今の俺には圧倒的に足りないものがある。

 

 

 

 

 

 そう。癒しである。

 

 俺のところに来るのは、黒人の人間と野郎どもばかり。

 女性はおらんのか! ここは! 一人ぐらいはいるだろう! なに、ここはホモのたまり場なの!?

 みんなホモなの!? というか俺の身体を必要以上にいじくらないでほしい。

 いや、割とガチで。

 お店で興味本位で商品に触って、買わずに出ていく店員の気持ちがすごくわかる。

 それならはやく、取り外した俺のコクピット返せ。

 

 たまりにたまる日頃のストレス。

 

 それを一気に吹き飛ばすのが‘癒し’である。

 

 それは犬だったり、猫だったりする。

 でも、実は俺。動物アレルギー持っていたから動物NGなんだよね~(というかMSにアレルギーry)

 

 そして、俺が今! もっとも欲する癒しとは。

 

 そう! 女性による目の保養。女性の澄んだ美しい声。

 

 美しい女性が微笑みながら、自分の名前を呼んでこちらに手を振ってくれる。

 これ以上の癒しがこの世に存在しようか?

 

 その癒しがあるならば、エネルギー源になることも甘んじて耐えよう。

 その癒しがあるならば、勝手に会社のエネルギーチューブを伝って、あっちこっち好きに弄り回さないし。

 

 その癒しがあるならば……このようなストライキは起こさんよ。

 

 

 

 そうです。俺は今。ストライキを起こしてます。

 エイハブリアクターを自閉モードに設定。

 そうすると、半永久的に生み出されるエネルギーも生み出されることはない。

 

 MSになってストライキとか……しかも、たたかう相手が会社とか。どこのドラマでもないぞ。

 

 ガシャン。と扉の開く音を拾った。

 あ。人望薄そうな人間じゃないか。

 それと、黒人みたいな筋肉の人間。

 ……癒しでもなんでもねぇ。

 

「ええーい! なぜ半永久的にエネルギーを生み出す発電装置が故障しただと!? おまけにどこかのコンピューターにハッキングまで許すなど、どういうことだ!」

 

 あ。地団太踏み始めた。

 え? いい年した人間が地団太とか。

 気持ち悪すぎて、かえって目が腐るわ。

 

「どういうことだか。コンピューターのハッキングとかは門外だが。マルバ。MSについては、若いころにちょびっとばかしかじった程度でしなかない俺がどうこう言えるわけじゃねぇが……エイハブリアクターからエネルギーが流れないのは、何かしらの理由があるんじゃねぇのか?」

 

「それがわかれば苦労はせんわ!」

 

 ひっきりなしに地団太を踏み始める人望薄そうな人間をしり目に、黒人の方はまじめに俺のエイハブリアクターについて考えてるよ。

 

 ああ。あんただけだよ。俺の味方は!

 

 だが起こしてしまったストライキを止めるに至らず。

 

 さて、この半永久的に生み出されるエネルギーを使って何して遊ぼうかなー?

 

 

 

 

 

 一時間後……

 

 

 

 エイハブリアクターのエネルギーを使ってのテトリスはさすがにもうあきたな。

 説明しよう。エイハブリアクターのテトリス、略してハブリスはエイハブ粒子でランダム構成されたブロックが疑似重力によって落ちてきて、ラインを作ると消えるという。テトリスとさほど差異はない。

 

 それでもやはり飽きるものは飽きる。

 他に刺激的なことは……。

 

 そうだ。この会社のコンピューターのシステムに干渉することができたんだ。

 それを利用して……。

 

 こうすれば、少しは気がまぎれるどころか。ワンちゃんあれば……女性の声が聞こえる!

 

 ぐふふふ。うまくいったときの笑いが止まらねぇ。

 

 

 

 

 

 俺は、意識をMSのメインシステムに干渉。

 そしてそのメインシステムから、エネルギーラインを通じて館内のマイク、および集音機のラインをMSに繋げる……よし。できた。

 

 題して『壁に耳あり』だ。

 

 無駄なことに、エネルギーを使ったと思うだろ?

 だが、俺にとっては癒しがないとは死活問題だ。

 生きてる野郎どもは、ナニをあーしてこーしてストレス発散できるだろうが、今の俺にはそれができねぇんだよ!(というかMSにry)

 

 うーん……使っている機材がひどいせいか。それとも俺の身体自体が骨董品レベルで古いから今の最新機器についていけないのか。

 

 ――――音割れがひどい。

 

 もはやノイズのレベル。

 なんでだろう? ここまでひどいとは思っていなかったぞ。

 うーん。まるで音が籠って逆に割れてるような……。

 

 

 …………そうか。

 今の俺。エイハブリアクターを自閉モードに設定してるからだ。

 いつもは流されるエネルギーが今は俺の身体に蓄積されまくってるから、音が割るのではないだろうか?

 ……とりあえず、ほんの一瞬。自閉モード解除してみるか。

 

 ポチ

 

『駄目だよ、三日月! そんな火星ヤシばっかり食べてると体壊すわよ? あれ? 電気がもど――――』

 

 プツン

 

 すぐさま自閉モードに戻しました。

 ななななな! なんだってぇぇぇえええええ!

 今まで面倒だったからやらなかったハッキングをすれば、実はすぐそこに癒しが存在していただと!?

 いや、でも待てよ。今の声は少し幼かったな……カテゴリーはそう。

 

 ロリ系統。

 

 残念だが、俺はロリ系統の毛はない……。

 ないのだが…………。

 

 ポチ

 

『あ、またついた。最近、停電が続いているそうだけど、三日月は大丈夫なの?』

 

『そうらしいね。なんでもエイハブリアクターが壊れたとか言ってるけど。それよりもアトラ。新しい火星やしくれる? もうそろそろ切れそうだから』

 

 ぷつん

 

 野郎の声が聴きたくて戻したわけではない。

 …………。

 アトラちゃんか……一度でいいから見てみたいな……。

 

 

 ……はっ! お、俺は決してロリコンではないぞ! 絶対に!

 それに、今やめるのは俺のプライドが許さない。

 でも、最後にもう一回だけ……。

 

 

 ぽち。

 

『また、ついたよ。ねぇ、三日月。さっきからおかしいよね? この電気。どうして今日に限ってこうなの? エイハブリアクターっていうのが壊れたなら、私が直しちゃう! ……なんてね、冗談よ! だから真に受けないでね!』

 

 AAaaaaaaa!

 

 もういいよ! 俺はもう、自分のプライドを捨てる!

 はい、ストライキやめます!

 もう好きなだけエネルギーもらってけ!

 

 

 もうしばらく社畜になりそうです。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 俺のストライキは3日で終わったのであった。

 

 

 * * *

 

 

 

 

 

 そして現在、大絶賛社畜業にいそしんでおります。

 じゃんじゃん持っていかれるエネルギー。

 そんな中でやっている集音機を用いての『壁に耳あり』で声を聴く生活(盗聴じゃないゾ!)

 そんな中で聞こえてくるのは 聞きたくもない野郎の汚い罵声。

 俺のSAN値、そろそろ吹っ切れるんじゃないかと心配する日々。

 いつも俺の格納庫にさぼりに来る、やたら前髪の一部がまとまっている野郎と常々クールな野郎がもはや常連と化していたりする。

 

 なんでも、ここは年中あったかいそうだ。

 

 俺はストーブじゃありません!

 

 そんな中でも俺の心の支えとなりつつあるのが、たまーに聞こえるアトラちゃんの声である。

 

 ああ。今までロリを否定してきた自分を殴りたい……。

 まさかここまでロリな声の子が、俺の支えになっているとは。

 

 

 こうして俺は今日、運命に出会う。

 

 

 

 

 

 

「おいタカキ、聞いたかよ。オルガさんたち参番組がお嬢様(・・・)の護衛の任務に就いたんだって」

 

 ぴく

 

「ああ。なんでも火星独立運動に携わっている人とだけは聞いているけど……俺も詳しくは知らないんだ。ライドは何か知ってるの?」

 

「いや、俺も全然。でも、ユージーンさんが言うにはかなりの美人らしいぞ」

 

 !!!!!!!

 

 ついに来たか! 清楚系のお嬢様!

 俺はこの時を待っていた。

 アトラちゃんの他の癒しを!

 

 ―――――――アトラちゃんの癒しボイスもいいけれど、たまには他の物も味見したくなる。

 それが、MSってもんだろ(錯乱)

 

 あーどんな人かなぁー! あってみたいなぁー!

 俺のコクピットに乗せたいなぁ!

 

 ……はっ! 思考がど変態系MS化してきた。

 それでもいいから、そのお嬢様――――――――ピーピーピー!

 

 あーなんだ? このアラート。

 ついでに言うならなんか上でドンパチ始まったよ。

 こんな時間にまた演習か?

 暇人ここに極まる。だな。(特大ブーメラン)

 それにしても、今まで何べんも演習やってるけど、今のようにこんなにアラートが鳴るのは初めてだ。

 前例のないことに疑問を覚える。

 今までこんなことはなかっ……エ、エイハブリアクターの反応?

 どういうことだ? ここらで稼働しているエイハブリアクターは俺のだけのはず……。

 俺みたいに自閉モードになるか、もとから起動していなかったか。

 

 あるいは、俺以外の他のMSによる強襲か。

 

 俺はすぐさまメインシステムを介して会社のコンピューターにアクセスする。

 火星独立運動で検索……。

 でた。彼女か。

 何々。火星の独立自治都市「クリュセ」の代表首相、ノーマン・バーンスタインの娘。そんでもって火星独立のために戦う若き少女。革命の乙女。

 クーデリア・藍那・バーンスタイン。

 

 なるほど、彼女がさっきのガキどもが言ってたお嬢様か。

 

 ……なんとも見目麗しい姿じゃろうか。

 というか溢れるカリスマ性と金色髪は某騎士王をほうふつとさせるものがある。

 

 なるほど……彼女は狙われる身となっているわけか。

 独立運動で調べると出てきたのが、つまるところの地球連邦軍的な存在であるギャラルホルン。

 今のギャラルホルンは、腐敗の一途をたどっているらしい。

 そのギャラルホルンがMSを投入してまでも、お嬢様を狙う理由……。

 

 どうにもきな臭い話だな……。

 

 ま、俺には関係ないか。

 革命? そんなもの知りません。

 だって俺の身体、人間じゃないし。MSだし。

 

 と思いながらいる、といつもの黒人が数人のガキどもを引き連れてきて、いきなり俺のコクピットを開けはじめたよ!

 きゃー! 俺の大事なところなのにー。

 

 ズズン……

 

 重い音が格納庫に響く。

 そしてエイハブリアクターの反応がどんどん大きくなってきている。

 近づいてきてるなぁー。

 やめてよ。俺、こんなところで死にたくないんですけど。

 

「おやっさん! これ何に使うの!?」

 

 おい、たしにかに俺はここで最高機密として扱われてきたがそこまで驚くか? 普通。

 

「ヤマギ、そいつの説明は後だ! とりあえず、こいつを再起動させる! ったく、こっちはモビルワーカー専門だぞ。しかし、やらねぇとだめだ」

 

 ……

 

「死にたくなかったら早く手を動かせ!」

 

「「「「はい!」」」」

 

 ………

 

 なにしてんの?

 再起動、やろうと思えばすぐできますよ。

 でもなんで、自分の身が危険になることを、承知で行かないといけないんだよ。

 そもそもパイロットいないじゃん?

 いや、例えパイロットが来たとしても俺は動く気ないよ?

 だってなんで好き好んで戦場に行かないといけないんだよ。

 ろくに整備もせず、さんざんエネルギーとしてこき使ってきたんだ。

 俺に動けだと?

 

 人間でいえば、今の俺は腹減ってて、風邪気味状態だぞ?

 万全な状態でない俺に、武器持って戦えとか。アニメとか漫画ならだいたい大丈夫かもしれないけど、無理無理。

 だってざっと300年ほどニートみたいな生活してたんだよ?

 厳しいにもほどがある。

 ついでに体がだるくて仕方がない。

 

 

 あーだるい。

 

 

 

 

 

 

 

 * * *

 

 

 

 

 

 

 一方、地上ではギャラルホルンのMS。3機いるグレイズのうち1機がCGSのモビルワーカーを踏みつぶしたりして蹂躙している。

 CGSのモビルワーカーに乗っているのは全員、少年兵たちだ。

 その少年兵たちは必死にMS相手に食い下がるが、如何せん大きさ、火力、機動力、どちらをとってもMSには敵わない。

 それでも少年たちはあきらめない。

 生きることに必死なのだ。

 生きてこそ意味がある。死んだらそこで終わりということを、彼らはよく知っているからだ。

 

 CGS側のモビルワーカーはグレイズ1機に一方的に蹂躙されていく。

 

「足を止めるなぁ! 常に動き続けろ!」

 

 参番組隊長のオルガ・イツカは少年兵の全員に鼓舞する。

 彼にはとっておきの秘策がある。

 それまでの時間を稼げればいいのだ。

 だから、彼は指揮を執る。

 前線に立ち、指示を出していく。

 

「無理はするな! ミカが戻って来るまで少し時間が稼げれば良いんだ! そしたらよ、このクソッタレな状況に、一発かましてやれるんだ! だからそれまで……なに!? へそまげて動かねぇだと!? MSにへそなんてあんのか!?」

 

 通信機を片手で抑えながら、叫ぶ。

 

「ちぃ! 予定が狂った! みんな! 撤退だ! 俺らが殿を務める! 負傷者を優先的に下げさせろ!」

 

 今の絶望的な状況でも、今を把握し常に指示を出し続ける。

 

「くそがぁ! ユージン! とりあえず今は時間を稼ぐんだ!」

 

「ンなこと言ったって……お、オルガ! なんか、こっち見てる!」

 

 オルガの乗るモビルワーカーを操縦しているのは、同じ参番組のユージン・セブンスタークだ。

 

『貴様が、指揮をしているのか?』

 

 グレイズのフェイスが開き、その中からモノアイをのぞかせる。

 

「ヒィ! 死ぬ死ぬ、死ぬ~~!!!!」

 

「死なねえ!! 死んでたまるか!! このままじゃ・・・」

 

 情けない声を上げながら、蛇行を繰り返しグレイズの攻撃をかわし続け、全速力で逃走するオルガとユージンのモビルワーカー。

 グレイズは脚部のスラスターを噴かし、彼らのモビルワーカーを追う。

 そして、オルガにまた一つの通信が入る。

 この通信は……。

 今入った通信に笑みを浮かべるオルガ。

 

 そして、彼の乗るモビルワーカーを破壊せんとバトルアックスを振りかざしたときだ。

 

「こんな所じゃ……終われねえ! だろ! ミカぁああ!」

 

 オルガの魂の叫びと同時に、オルガノ前の地面から轟音とともに土煙が舞う。

 

 その土煙の中からは、地獄の底から舞い戻ってきた悪魔の如く。白いMSがギャラルホルンのグレイズに、向かって装備していたメイスを力任せに叩きつけた。

 左肩から叩きつけられ倒れるグレイズ。

 あの大質量のメイスでコクピットを潰したことを確認した白いMSは、ゆっくりとメイスを引き抜く。

 

 

 

 無骨で荒々しい、厄災戦時のままの姿の白いMS。

 悪魔の名を冠するMSは今。

 300年の時を経て今。火星の大地に立つ。

 

 

 

 

 

 

 

 時間はさかのぼること1時間程前。

 

 

 

 

 

 

 

 あー。どんどん応急処置されてくー。

 いやだー。戦場になんぞ行きたくねぇ!

 あ、そこの片目隠れてる君! そこのコクピットのケーブルの配線ちっがう! 

 俺の大事なところだから、頼むよ!

 そんなことを心配してる俺をしり目に黒人に指示されて、動く少年に届くはずもなく……。

 はぁ……、と溜息をついているとモビルワーカーのエレベーターから白いモビルワーカーが降りてきた。

 

「おやっさーん。きたよー」

 

「おう、待ってたぞ」

 

 すでに天井のハッチを開け、モビルワーカーから体を乗り出している少年。

 

「おやっさん。あれ、どうするの?」

 

 俺を指さしながら訪ねるガキをしり目に、黒人はモビルワーカーの操縦部を取り外し始めた。

 

「ああ。こいつは昔マルバが見つけて転売用に秘蔵していたんだ。コクピット周りは使わねぇから取り外されたんだがな」

 

 そういって黒人はモビルワーカーのシートにある阿頼耶識システムのインターフェースを取り外していく。

 

「モビルワーカーのシステムで動くの?」

 

「ああ。阿頼耶識で動かすっていう根本があっているから動く。阿頼耶識(こいつぁ)は本来MS用に開発されたからな」

 

 座席をクレーンで固定しゆっくりと持ち上げる。

 シートを見送るガキに黒人は、真剣な顔で話す。

 

「いいか、三日月。MSの情報量はMWの比じゃねぇ。下手すればお前の脳も……」

 

「いいよ。そんなの。元々、大して使ってなかったし」

 

「お前なぁ……」

 

 ガキの言葉にあきれる黒人。

 

 

 

 

 

 そして、時はついに来てしまった。

 

 

 

 

 ガシャン。

 

 

 ついにシートが俺のコクピットに固定された。

 ……まじかよ。

 

 そしてさきほどのガキが阿頼耶識を接続した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 お、男となんてつながりたくねぇええええええええ!

 

 

 

 

 

 

「よし、再起動させるぞ」

 

 黒人は再起動のボタンを押す。

 

 

 

 ……シーン……

 

 

「あれ? どうしてだ?」

 

 黒人は何度も再起動のボタンを押すが、再起動しない。

 

「なんでだ!? 俺のコクピットの取り付け方が間違ってたのか!? それとも途中で怪しい回路でも切っちまったか!?」

 

 いやいや、違うよ。

 俺が再起動させていないだけだよ。

 電源のON/OFFの権利はどうやら俺持ちらしいからな。

 いくら外部で、電源を入れようがすかさず電源を切れば動くはずがないだろう?

 ついでにいうならスラスターのガスもほとんどないし。

 

「え、エネルギーが足りないとかですか!?」

 

「エイハブリアクターは基本的に半永久的に、エネルギーを生み出すんだよ! エネルギー切れなんて基本的にないんだよ!」

 

 テトリスならぬ、ハブリスをやるレベルで余ってます。

 

「もしかして、ずっと長い間放置されっぱなしだったから怒ってるのかも……」

 

「んなわけ……」

 

 That's right!

 

 そして、当初の目論見がはずれたからか格納庫は大混乱。

 そんな中、少しふくよかなガキが格納庫に一人の少女(・・)を連れて走ってきた。

 

 ああ……。

 

「おやっさん! どうしたの!? 上はもう持たないって!」

 

「ンなこと言ってもなぁ! こいつがへそを曲げて動こうとしないんだよ!」

 

「な、なんだってー!」

 

 ふくよかなガキは首を横に振りながら慌てて通信機を取り出し、誰かと連絡を取る。

 

「まずいよオルガ! 頼みの綱のMSが動かないんだよ! 戦線を維持できずにこのままじゃ全滅も……」

 

 ああ……。

 

「あ、あの! 私に何かできることはないでしょうか!?」

 

 よく響く、凛とした透き通った声だった。

 

「……今は何もねぇよ。お嬢さんの演説で動かしてくれよ」

 

 黒人が冗談半分でいうと、少女は――――。

 まっすぐ、俺に向き合いながら語り始める。

 

「お願いします! 今、うえで若き少年兵が自らの命をとして、戦っているんです! 私のために、命を懸けて、名前も知らない子たちが死んでいく。そんな世界を私はもう見たくないんです! もう……あなたしかいないんです! だから……」

 

 その顔には涙が浮かんでいた。

 

「だからお願いします! 動いてください!」

 

 ―――――――フィーン!――――――

 

「ええええええええ!? 本当に動いたぁああああ!」

 

 となりのガキがひっくりかえらんばかりに驚く。

 MSになってはや300年……こんなまっすぐに俺のことを見てくれたのは、君が初めてだ(建前)

 

 

 いよっしゃー! 力わいてきたぁぁあああああああ! 『もう、あなたしかいないんです!』そう言われたら働くしかないでしょ! 

 やってやろうじゃん! MSがなんのその! 負けられねぇぞこんちくしょう!

 

 

 

 

 

 

 * * *

 

 

 

 

 

 ドクン!

 

 再起動したことにより、さきほどMSとリンクしたガキに、流れ込む大量の情報の海に体が反り返る。

 そして鼻から一筋の血が垂れる。

 おお、マジか。

 嫌味にかなりの情報量を送ったのに、体反り返って鼻血だけで済んでる。

 

 

 

 メインシステムで驚きながらいると、初めての客がやってきた。

 

「ん? ここは?」

 

 さっき阿頼耶識をつないだガキだ。

 俺が用意したのはあくまで道だけ。

 このシステムにたどり着くには、不可能なレベルの深度のところにメインシステムは存在する。

 ……阿頼耶識システムによってMSとの深度が深くなると、俺のところまでたどり着くのか。

 だが、1度の阿頼耶識の手術では到底たどり着けないと、システムが結論づけている。

 ということは、こいつは少なくとも2回は手術を受けていることになる。

 いや、2回でもここまで来れるか分からない深さだ。

 ……底が知れんな。

 

『俺がお前をここに呼んだのさ。そしてここはMSの中……所謂、阿頼耶識における無意識の空間だ』

 

「ふーん。であんた誰? それとモヤモヤして姿が見えないんだけど」

 

『え? マジで? ……あ、俺の銘な。俺の銘は―――――』

 

 

 俺の名前なんてとっくの昔に忘れちまった。

 それならMS(こいつ)の銘を借り受けよう。

 

 

 

 

 

『バルバトス。ただのバルバトスだ。で、お前は?』

 

「名乗る意味あるの?」

 

『少なくとも名乗るのが、礼儀ってもんだろ』

 

「……三日月・オーガス」

 

 ふむ、三日月ねぇ……。

 無駄にかっこいいな、おい。

 普通にガキって呼ぶのも、あれだな。ここまで来たんだし……そうだな。

 ミー助でいいだろ(適当)

 

『さて、ここまではただの茶番だ。ここからは本気の本気、マジのことだ』

 

「さっさと終わらせて。早くいかないとみんなが死ぬ」

 

『……では問う。お前は、悪魔と相乗りする勇気はあるか?』

 

 俺は三日月・オーガスに手を差し伸べる。

 

「いいよ」

 

 即答かよ。

 少しためらわないと面白みがないだろ!

 

『その魂を、俺に売り渡すことになってもか?』

 

「俺の命はオルガにもらった。だから俺の命はオルガのために使わないといけない――――――今がその時だ」

 

 嗚呼。なんて目をしてやがる。

 この目は揺るぎない『決意』を固めている目だ。

 

『―――――――いいだろう。契約成立だ』

 

 300年ぶりに俺の口角が僅かに上がった。

 

 

 

 

 * * *

 

 

 

 

「おい、三日月! 大丈夫か!?」

 

「あ、ああ……大丈夫」

 

「こいつの名前はえーっと……ガンダムフレームタイプ、ばる、ばろ、ん?」

 

 表示された名前に戸惑う黒人。

 おい、俺の名前ぐらい読めてほしい。

 

「バルバトス。こいつの名前。バルバトスみたい。それよりも早く。急ごう」

 

「そうか――――ヤマギ! テストアップだ! それと、すぐそこにあるメイスを装備だ!」

 

「はい!」

 

 返事をしたのは片目の隠れていたガキ。

 

「ヤマギ、3番から出すよ!」

 

「え? でもあそこは出口が塞がれていて……」

 

「あそこが一番戦場から近い!」

 

 彼らの話が話が聞こえる。

 俺は重い腰をゆっくりと上げる。

 

「……網膜投影、スタート」

 

 阿頼耶識システムでリンクした俺は、パイロットの音声認識によりメインカメラの視界を、パイロットと共有する。

 ……視界の共有とか、ここまで来たら笑えるわ。

 翡翠のツインアイが光をともす。

 

 ――――――メインシステム再起動を確認。

 ――――――動力部、関節部、ともに異常なし。

 ――――――阿頼耶識システムとパイロットとのビスを固定

 ――――――武装を確認。高硬度レアアロイメイスを採用。

 ――――――過去戦闘データをサルベージ。

 ――――――近接戦闘モードに設定完了。

 ――――――全システム、異常なし。

 

 俺はパイロットの操縦に従い、ゆっくりと金棒(メイス)を手にした。

 

『いつでもいけるぞ。ミー助』

 

「ああ。ガンダムバルバトス。三日月・オーガスでるよ」

 

『3』と書かれている扉を派手にぶち壊し、数十年ぶりに外へ出る。

 目の前に俺と同じ大きさの人型の機械。MSがバトルアックスを振りかざしている。

 

『だらっしゃぁぁああああああああ!』

 

「うるさい」

 

 渾身の叫び(遮られた)とともに大質量メイスを叩きつける!

 メイスの攻撃をまともに受け地に倒れふした。MSは動かなくなった。

 

 人間の価値観なんぞ、300年もMSやっていれば錆びついて機能していない。

 だからこそ言えることがある。

 

『俺の数少ない癒しを……奪うんじゃねぇ!』

 

 コクピットがつぶれていることを確認すると、ゆっくりとメイスを引き抜く。

 

 

 蘇る。厄災戦を終結させた72機のうちの1機が。

 

 

 1人は、ある少年の道を切り開くために。

 1機は、自らの癒しのために。

 

 

 この世に悪魔が再び芽吹いた瞬間であった。




感想、お気に入り登録、をありがとうございます。
励みになります。

今回はバルバトスさん、命名回でした。

何かおかしな描写などがあればご報告をいただければ嬉しいです。

次回 #3 え? また俺、置いてきぼり?

あいつ、邪魔だな
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。