アグニカ・カイエル バエルゼロズ   作:ヨフカシACBZ

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欲望は毒林檎


15話 りんご

『ドルト2にて労働デモ発生。町では火災も』

 

テレビの下画面に流れる、コンパクトな字幕。

これから始まる未曾有の大戦禍、地獄のような狂乱の予兆としては、余りにも簡素で、間の抜けた告示だった。

 

その日、地球は日曜日で、アフリカンユニオンは早朝の時間帯だったこともあり、民衆の混乱は無いに等しかった。

それもあってか、アフリカンユニオン代表、『デイビット・クラウチ』の発表も、まだ余裕のある内容だった。

 

「痛ましい事件が発生している。

300年以上の安寧と繁栄を遂げてきた、我がアフリカンユニオンの傘下に相応しくない事件だ。

宇宙という過酷な環境で、それでも日々を懸命に生き抜いていた我らの同胞が、労働法も知らぬ暴徒によって傷を負い、あろうことか、その尊い命を奪われている。

この無意味な流血を止めるため、私はあらゆる努力を惜しまない。

暴徒達との直接交渉だって進んで行おう。

私は平和的解決と、アフリカンユニオン市民の安全を一番に思っている。

そして、我々には秩序の番人たる、ギャラルホルンの加護がある。

アリアンロッド艦隊の庇護の元、この暴動は速やかに鎮圧されるだろう。

後に、アリアンロッド広報部から正式な発表がある。また、ドルトカンパニー会長からも、その心中を語ってもらいたいと思う。

皆の有意義な休日を騒がせた罪は重い。必ず報いを受けるだろう」

 

あくまで宇宙の話。

ドルトカンパニーの問題。

身分の低い労働者、貧乏人、悪人の仕業。

 

この問題はギャラルホルンが解決してくれる。

 

責任の所在と、解決させる者を明確にすることで、民衆の混乱を最小限に留めた。

手慣れたものだ。デイビット・クラウチにとっては日常茶飯事なのだろう。

 

それに、デイビットはアリアンロッド艦隊司令、ラスタル・エリオンと密約を交わしていた。

 

ドルトコロニーにおける暴徒鎮圧。

それにより不満分子の排除と、ギャラルホルンの必要性のアピールを行う。

ドルトコロニーの労働者の命と引き換えに、デイビットはギャラルホルン、ラスタル・エリオンからの後ろ楯を得ることができる。

 

マッチで火をつけて、ポンプで消火する。

長年続いてきた自作自演。その腐敗の一部でしかない。

 

デイビットは何も心配などしていなかった。

昨日まで上手くいっていた。

だから今日も上手くいく。

 

ーーーーーーーーーー

 

それから数時間後

町が動き出した頃、人々が感じた違和感は、『テレビのチャンネルが変わった』という点だった。

唐突に、何の前触れもなく、全てのチャンネルが『その映像』に切り替わえられた。

 

「番組を中断して……」などの事後報告もなく、画面の中央に立った男は、高らかに宣言する。

 

 

『我々は正義と自由の名の元に、歪んだ世界を正すべく立ち上がった者である!!』

 

テレビ、ラジオ、あらゆる情報媒体に耳を傾けていた人々は、一様にポカンとした顔になった。

 

『我々の目的は単純明快!!邪悪な簒奪者達を引きずり下ろし!!腐敗した世界の改変!!そして!全ての労働者達の解放を望んでいます!!』

 

アフリカンユニオンだけではない。

アーブラウ、SAU、オセアニアン連邦。

地球の四大経済圏全てに、この放送は届いていた。 

 

『我々はあなた方『支配者』達を交渉のテーブルにつかせる気など更々ありません!最早対話など不可能!!故に!!あなた方にはまず知って欲しい!!我々の怒りを!!我々の痛みを!!我々の本気というものを!!』

 

人々は、何が何だか分からない、というのが正直な感想だった。

しかし「何かがおこる」という、悪い予感だけはヒリヒリと感じていた。

 

映像が映り変わる。

 

コロニーの外壁を宇宙から撮った映像のようだ。縦長のドルトコロニーの後部には、大型のバーニアが取り付けられていた。

 

宇宙戦艦に装備されるような推進器。これならコロニーですら動かせるだろう。

 

 

『コロニー後方に取り付けた巨大スラスター『大いなる流れ』!!これを全ドルトコロニーに設置させていただきました!!大気圏突入にも耐えられるよう、特殊ジェルでのコーティングと細部の補強も完了しております!』

 

コロニーに推進機をつけた。ジェルでコーティングした。

それは分かった。だが、それがどうしたというんだ?

 

平穏な時代を生きてきた人々には、材料が分かっても、完成品が想像もできない。

レシピがないのだ。

 

「全ドルトコロニーを!!地球に向けて発進させます!!」

 

調理法を教えられても、まだ分からない。

『それ』の知識など、最早誰も覚えていないからだ。

 

号令と共に、巨大スラスターが火を吹く。

 

動いている。この巨大なコロニーが、地球に向かって進んでいるのだ。

 

『地球にお住まいの皆さん!!今から我々は!『コロニー落とし』を実行いたします!!』

 

 

世界中が静まり返った。

コロニー落とし。それは、人類を滅亡の危機に追いやることができる、禁忌の方法だ。

 

 

時間が止まっていたのも一瞬で、弾かれるようにざわめき出す。

『混乱』が全世界を同時に襲った。

 

史上最悪のテロ。

底知れない敵意と憎悪。途方もない規模。

自身の利益と命すら度外視した、狂気の蛮行。

 

地球で暮らしていれば、先ず経験しなかったであろう異常事態。

下手をすれば人類存亡の危機に発展する。

人類をこれほど騒がせる戦乱は、およそ300年前まで遡らなければ見ることができない。

 

『地球に『赤い雨』が降る!!この出来事はいずれ『赤い雨革命』と呼ばれ!労働者達の記憶に刻まれる事となるでしょう!!』

 

『赤い雨革命』

コロニー落とし。

 

ドルトコロニーの男が言っていることは事実なのか。

この映像は本物なのか。

何故チャンネルが変えられないのか。

ドルトカンパニーは、アフリカンユニオンは、ギャラルホルンは何をしているのか。

 

様々な疑問が溢れ、皆が口々に叫び出す。

疑念、不安、嫌悪、恐怖、面倒、虚勢、多種多用な感情が噴き出し、人々のリアクションもまた雑多なものになる。

通信回線はフル活動。情報機関やメディアなどは、少しでも情報を集めようと動き回る。

 

アフリカンユニオンのメディア対策室長『ベリタ・オーシャン』は、ドルトカンパニーに労働者名簿の情報開示を要求。

ドルトカンパニー会長『ババロア・ルア』は投げ渡すようにこれを受諾。

メディア対策室はテロ予告映像を精査し、労働者のリーダーと思われる男の身元を特定した。

 

『赤い雨革命』宣言から15分もしないうちに、画面の男のプロフィールが公開された。

まるで、少しでも早く、新しい情報を伝えることが、自分達の正義と主張するかのように。

 

『ナボナ・ミンゴ』

ドルトコロニーで14歳の頃から働く、50代の男性。

ドルトコロニー出身。両親もスペースノイド。

地球降下履歴は無し。反社会組織との繋がりは、今のところ確認できず。

 

今も尚、画面の向こうで、ドルトカンパニーへの呪詛を唱え続けるナボナ。

穏和な印象を受ける顔写真とは似ても似つかない、変わり果てた姿だ。

 

アフリカンユニオンからの情報をいち早く確認した人々は、

 

「なんでこいつが……?」

 

ナボナが国際テロを引き起こすような人物には見えず、この狂ったような演説をしている姿と結び付かない。

つまり、余計に『混乱』した。

 

インターネット上には「陰謀論」「洗脳されている」「偽者」「政府の情報ミス」「この放送自体が囮」など、様々な憶測が飛び交い、この話題が爆発的に注目を浴びた。

 

また、ドルトカンパニーの自作自演とする声や、ドルトコロニーの労働環境に問題があったとする疑問、さらに違法組織の温床になっていたのではないかという嫌疑までかけられ、ドルトカンパニー会長は顔を赤くしたり青くしたりしていた。

 

アフリカンユニオンのメディア対策室は、電話の応対に忙殺された。

経済部門のトップ達は、『当初の予定』と大分違う展開になったことに、恐怖に近い感情を抱いていた。

 

デイビット代表は、アリアンロッド艦隊に急遽連絡を取った。

通話に出たのは副官のミスティルディンだ。

デイビットは苛立った様子で、指で机を叩いている。

 

「エリオン公にお取り次ぎ願いたい」

 

『ラスタル様は現場で指揮を執られている。話は私が聞こう』

 

このアフリカンユニオン代表であるデイビット・クラウチに、代理人で話をするだと!?

カッと血が上ったデイビットだったが、なんとか呼吸を整える。

 

「……騒ぎが大きくなりすぎです。しかもこんなにも早く」

 

『着地点が同じなら、経過はこちらに任せるという話だったはずでは?』

 

「地球圏全域への反抗声明など!聞いていません!!」

 

『これはギャラルホルンや地球圏に潜む『不満分子』の徹底排除が目的。混乱に乗じて尻尾を出す者がいるなら好都合だ』

 

「それも聞いていましたが、ここまでやるとは……!」

 

ドルトコロニーの労働者達を焚き付け、暴動を誘発し、ギャラルホルンが鎮圧する。

ギャラルホルンの武力が必要であると世界にアピールし、これまで以上の資金援助を求める。

 

だが艦隊クラスの維持費となると莫大な額になる。

アリアンロッド艦隊の必要性を誇示するには、暴徒鎮圧程度では足りない。

 

そこで、コロニー落とし『未遂』事件が発生。

アリアンロッド艦隊がそれを鎮圧する……というのが、事前にデイビットが聞いた大まかな内容だ。

 

その時は、テロの放送を生中継し、地球圏全域に電波ジャックしてまで放送するなど聞いてもいなかった。

 

「この放送は、地球圏の『不満分子』とやらが行っている、という事でいいんですね!?」

 

『そうだ。民衆には『地球に潜り込んだテロリストの協力者』と発表するといい』

 

「放送はいつ終わるのです!?誰が、どう捕まえるのですか!?しっかりとした説明を……」

 

『状況は流動する。逐次指示を出すから、それまで民衆をなだめておけ』

 

そう言うと、一方的に通話は切られた。

しばし放心していたデイビットだが、我に返ると同時に、携帯端末を床に叩きつけた。

 

「ふざけるな!!」

 

たかが治安維持部隊が!!軍隊モドキが!!軍人かぶれが!!貴族気取りが!!

副官風情が!!尉官ごときが!!年下の分際で!!大した実績もキャリアもないくせに!!財力も名声も人脈も!約束された未来も無いような奴が!!

この私に偉そうな口を聞きやがって!!

世界の秩序の万人!?平和の維持!?戦争防止の監視機関!?

そんなもの我々にだってできる!!!

 

不満分子の排除!?

それはギャラルホルンへの不満だろうが!!

我々を巻き込むな!!

役立たずに喰わせる飯はない!!!

 

「ハァ……ハァ……くそっ」

 

心中は穏やかではない。

しかし、ギャラルホルンがアフリカンユニオン、ひいてはデイビットに約束した恩恵も大きい。

ギャラルホルンとの共生、という名の腐敗なくして、経済圏は回らなくなってしまったのだ。

 

アフリカンユニオンの国際的な信用を落としかねない状況にありながら、判断を保留にした。

 

『赤い雨革命』宣言から半時間。

世界は混乱すれども、具体的な行動に出られずにいた。

 

一方、『赤い雨革命』の映像を解析していたメディア対策室は、ナボナの背後に、労働者に腕を押さえられ、無理矢理立たされている女性が居ることに気がついた。

 

「この女を調べろ」

 

ベリタ室長の勘は告げていた。

この金髪の女はドルトコロニーの労働者ではない。

ここに居る以上、なにか秘密があるはず。

 

調べるまでもなく、メディア対策室の一人が言った。

 

「クーデリア・藍那・バーンスタインじゃないですか!?……ほら」

 

携帯端末に映されたプロフィール。

確かに、『革命の乙女』その人であった。

 

「『ノアキスの七月会議』……火星独立家……アーブラウの」

 

一瞬、関連性を探ったベリタ室長だったが、すぐに部下に指示を出す。

 

「デイビット代表とギャラルホルンにデータ送れ!!」

 

ちょうどその頃、放送される映像では、クーデリアが労働者の女性に対し、そのやり方の是非について語っていた。

 

『あなた方は……間違っています』

 

震えた声で、目の前の狂人達を全否定する。

この映像を見ている全ての人間が、彼女の言葉に注目する。

 

だって、言ったのだ。

正面きって、言い放ったのだ。

 

『こんなのは間違っている』と。

 

殺されるかもしれないのに。

 

狂人は首を傾げる。

 

『間違ってなんかいませんよ』

 

薄ら寒さすら感じる、無機質な声。

何一つ疑問を抱いていない、およそ人間味を感じさせない言葉だった。

こいつはもう、人間じゃない。

 

地球全土の人間が、恐怖と、諦めを感じた瞬間、その凛とした声は響いた。 

 

『いいえ!!間違ってる!!』

 

その乙女(ここでようやく気付いた視聴者も多かったのだが、彼女はまだ、子供だ)は立ち上がり、歯を喰いしばって睨みつける。

 

『不当な扱いを受ける労働者達を助けたい!その気持ちは正しい!……なのに!それがどうして、他者を貶めて!傷付けて!!当たり散らして!!

 

周りを不幸にしなければ!幸せになれなかったのですか!?気が晴らされなかったのですか!?こんなに酷い事をしなければ、生きていけないほどだったんですか!?』

 

労働者達の顔が歪む。

 

『だっ……』

 

労働者の女性が、かばんの中身をぶちまけるように声をあげた。

 

『だって!あいつらが!あいつらが悪いんだ!!ずっとずっとずっとずっと!!私達に酷い事をして!!見下して!!助けようともしない!全部、全部持っていっちゃうんだ!!私達には何もないんだ!!そんなのもう我慢できないのお!!』

 

それは、地球人には知りようもない、宇宙に住む者達の胸に抱えた不満。

積もり積もった鬱憤、憎悪、悲哀、怒り。

不条理を嘆く声。

自分はこれだけ不幸で、虐げられてきた。

だから報復する権利がある。

そう主張しているのだ。

 

地球圏の者からすれば寝耳に水だ。

自分達は搾取しているつもりなど無かった。

これが普通だと思っていた。

地球圏の安寧と平穏は、何かの努力や犠牲を払ったものではなく、至極当然のものとしてあるのだと。

 

 

クーデリアも悲痛な表情で叫ぶ。

 

『どうして!?どうしてこんな事になるんですか!?あんなに人を殺して!傷付けて……!あなた方はこんなので、幸せになれるんですか!?』

 

仮に奪われた物を取り返したとして。

正義と自由を勝ち取ったとして。

この先の人生で、心から幸せだと言いきれるのか?

どうして、幸せと憎悪が同居するのか?

こんなにも、矛盾した事になったのか?

 

『っぐ……なっ……なん』

 

労働者の表現が歪む。 

 

『こんな方法は絶望しか生まない!!』

 

憎悪と争いの連鎖を作るだけ。

絶対に終わらない。絶対にたどり着く事なんて出来ない。

 

『こんなものは革命ではありません!!』

 

革命の乙女、クーデリアは凛とした態度で訴えた。

その光景は、まるで伝説の英雄譚のようで。

人々は彼女の気高さに魅了された。

 

全地球人の心を、クーデリアは鷲掴みにしたのだ。

 

『うううううううううううるるるるるるさいいいいいいいいいいい!!!!』

 

『だばれだばれだばれだばれだばれええええええええええええええっっっ!!!』

 

論破され、錯乱した労働者に首を絞められるクーデリア。

 

『ぁぐっ!?……ぅあっ』

 

テロリストに正義を語る女傑から、暴力の前に揉まれる非力な少女に成り果てる。

その落差が人々の心を揺さぶる。

 

いまや、全地球人はテレビの前にかじりついていた。

 

ギャラルホルンは総力を挙げて、この放送を止めようとした。

 

人が絞め殺される光景を生放送するなど、放送事故という生温いものではない。

正義と秩序の元において、絶対に阻止しなければならない。

 

それを嘲笑うかのように、画面の前で、全地球人の前で人は死んだ。

 

思えば不思議だ。

人など地球上でいくらでも死んでいる。

宇宙となれば、もっと陰惨な死に方で溢れている。

なのに、その光景を観衆の目の当たりにすることは憚られている。

ショッキングだから。教育に悪いから。

そもそも見たくないから。

 

労働者の女性が、頭に銃弾を撃ち込まれて倒れ伏す。

続いて閃光手榴弾によって、労働者達が混乱する。

 

状況が次々と変わる。

侍女とおぼしき女性に庇われたクーデリア。

ナボナ・ミンゴによる銃撃を、大男が身を呈して庇い、逆にナボナを撃ち殺す。

テロの首謀者とされていたナボナが突如として死亡したことに、民衆は理解が追い付かない。

 

おそらくクーデリアの仲間なのであろう大男が、先程頭を撃たれた女性に、至近距離から後頭部を撃たれ、倒れ伏す。

飛び散る血潮も、肉片も、包み隠さず放送される。

あまりにショッキングな映像に、視聴者達は吐き気を覚えた。

 

狂笑する労働者の女。

その表情に、人間性は感じられない。

 

『クランク……先生……?』

 

死んだ大男を呆然と見つめる。

四肢は力無く投げ出され、赤い血溜まりを作る大男を見て、その表情が、雨に濡れて溶け落ちるように、崩れていく。

凛とした英雄の雰囲気はもうない。

ただ理不尽と狂気に翻弄され、呆然とするしかない少女に成り下がった。

 

泣き叫ぶクーデリア。

 

民衆はその姿に共感する。

泣いて当然だ。叫んで当然だとも。

 

こんなに酷い状況、正気を保つなんて無理だ。

 

先程までの『強さ』だけでなく、

『弱さ』という意味でも、クーデリアは人々の意識と一体化していた。

 

クーデリアを代表とした、全人類の簡易的な思想統合が、短い間ではあるが完成していた。

 

『ふ ざ け ん じゃ ね え!!!』

 

脳に直接、声が響いた。

若い男、いや、少年の怒声が。

 

テレビを見ていた者達には、静電気のような軽い衝撃だった。

だが衝撃の大きさは関係ない。全く未知の衝撃に対する困惑は大きいのだ。

 

地球の全人類が、意識の空白にある中、ドルトコロニーでは急速な状況の変化があった。

 

唐突に、何の前触れもなく、画面に影がさした。

巨大な鉄の塊が労働者の女性を踏み潰し、血飛沫と肉片が飛び散る。

一瞬、爆発によってビルが崩落したのだと思った。

しかし、カメラが全体像を捉えると、それが「鉄の巨人」であると知る。

 

それがモビルスーツだと理解した者は少ない。

あまりにも禍々しく、歪な見た目は、人智を越えた存在にしか見えなかった。

その鉄の巨人を中心に小さなクレーターができ、周りのものは吹き飛んでいる。

まるで爆心地のようだ。

 

その鉄の巨人は、鳴き声をあげながら、一人の遺体を丁寧に掬いあげる。

先程、クーデリアを庇った大男だ。

 

『クランク二尉!!!!』

 

観衆は困惑する。

クーデリアを庇った者の死を悼むのならば、この鉄の巨人もまた、クーデリアの味方なのだろうか。

現に、クーデリアを殺そうとする労働者達は総崩れだ。

悪魔のような巨人と、理想の英雄像だったクーデリアとが、繋がらない。

 

『クランク二尉……ワタシデス……ワタシデス……

アイン・ダルトンデス……!!』

 

『アイン・ダルトン』と名乗った鉄の巨人は、突如として機関銃を乱射。労働者達の肉体を爆ぜさせ、血と臓物の川を作る。

 

『クランクニィヲコロシタ……!!アノアカイワクセイデイチドイノチヲウバッテオキナガラ……!アロウコトカ!フタタビコノヨニショウカンシタ!!ソシテカレヲシュウグノサラシモノニシタ!!ヒゴウノシヲキョウヨウシタ!!コウケツナセイシンヲケガシタ!!タマシイノソンゲンヲウバッタ!!セイギノトウトサトソンゲンヲシメソウトシタカレノカレノオコナイヲムニシタ!!カレノシンジルセイドウヲリカイシヨウトモシナカッタ!!ソンナグブツトケモノノムレニ、イキテイルシカクナドナイ!!!

クランクニィ!!アナタハ!!ソノコウケツナセイギノシンネンデ!!コノヨニフタタビヨミガエッタ!!ソシテ!タイハイトキョウランニミチタセカイニ!セイギノトウトサトイゲンヲシメソウトシタ……!!アナタノユウシハケッシテワスレマセン!アナタノコトバハケッシテウスレマセン!

ソコデマッテイテクダサイ。クランクニィ……アナタノイシハ……!ワタシガツギマス!!カナラズ!アノアクギャクヒドウナケモノタチニ!セイレンナルタダシキジンドウヲミトメサセマくぅぅぅぅでりああいなばーんすたいんっっっっ!!』

 

鉄の巨人は、人の言語でありながら、人の理解を超越した独創文体で内なる狂気をぶち撒けた後、あろうことかクーデリアに刃を向けた。

 

『オマエガ!!!

ソモソモオマエガ!!!!』

 

圧倒的な力で、巨大さで、革命の乙女に詰め寄る鉄の巨人。

この世のあらゆる悪意、敵意、憎悪を発し、クーデリアという少女を押し潰そうとしている。

 

『オマエガ!!!』

『オマエガ!!!!!』

『オマエガ!!!!!!』

 

全てクーデリアの責任だと言うのだ。

鉄の巨人はその身振りで、声で、犠牲者の数で、クーデリアを苛む。

 

『カクメイナドトイイダサナケレバ!!!!!』

 

違う、そうじゃない。

クーデリアのせいじゃない。彼女は悪くない。

放送を見ていた全員が思った。

彼女は懸命に行動したのだ。その熱意と意思は本物だったはずだ。

なのに何故、こんな結果になってしまったのだろう?

地獄の淵から、『過去』という悪魔が寄り集まって、試練としてクーデリアの前に立ち塞がる。

 

「誰か、この化物を何とかしてくれ」

それが、地球圏総員の懇願だった。

 

『シンデアガナエエエエエエエエエエエエエエエエエ!!!!!』

 

振り上げられた大斧。

ついに『死』が訪れる。

絶望しかない状況。人々は息を呑み、目を見開く。

鈍い鉛色の刃が光ったその時、黄金の流星が斬撃を断ち切った。

 

『ギッ……!?』

 

絶望を豪快に蹴り飛ばす。

 

『ギィ!!!』

 

純白の鎧を身に纏い、天使のような青い翼を広げ、黄金の剣を振るう。

革命の乙女の前に舞い降りたのは、冷たい氷の如き『魔王』だ。

 

まだ誰も名を知らぬ。

 

アグニカ・カイエルとバエルゼロズ。

 

革命の乙女を襲う悪逆な黒い巨人と、彼女を守る純白の騎士。

これほど分かりやすい構図もない。

 

人々は確信する。

この純白の魔王は、人類の味方だ。

 

黒い巨人の手足を一刀両断し、瞬く間に優勢となる純白の騎士。

熱狂する一般人。

そうだ!行け!敵を倒せ!悪を駆逐しろ!!

口々に叫び、がなりたてる。

 

ギャラルホルンの兵士達ですら、最初こそ純白の騎士が『ガンダム・バエル』であることに混乱していた。

何故、あそこにバエルが居るのかと。

しかし、徐々にその疑念も薄れ、今は『自分達の正義の象徴』が悪を打ち負かす様に夢中だ。

 

これほど情報が錯綜し、混乱した状況であるにも関わらず、画面に躍り出た二体の巨人は、人々の心を掴んで離さない。

それほどまでに、モビルスーツという兵器の存在感は大きいもの。

そして、『ガンダム・フレーム』は人々を魅了する。

時に正義の象徴として。時に悪の権化として。

 

盛り上がる一般人やギャラルホルン兵士達とは対照的に、ドルトカンパニー会長『ババロア・ルア』は恐怖していた。

これほどまでの混乱と死者。

予想もしていなかった「革命の乙女」の存在により、この事件が異色を放ち始めた。

事件終息後、単なる「労働者の大規模デモ」ならば、記憶の風化も早かっただろう。

大衆の興味から外れるということは、それだけ「責任追及」のエネルギーが少なくなるということだ。

 

ババロア会長のイメージする、責任追及と大衆意識の関係は、すなわち釘とハンマーだ。

責任追及とは1点を突く鋭い釘のようなもので、それを監査機関というハンマーが上から叩き、肉に深く打ち込むのだ。

 

そのハンマーの力は大衆が注目するほど強く振るわれ、責任を負う者により深い傷をつける。

 

また、責める事柄が多いほど釘の数も増し、より多くの苦痛を味わわされるという寸法だ。

 

当初の予定では、ドルトコロニー全土に労働者のデモが波及し、死者が出るものの、ギャラルホルンが速やかにこれを鎮圧。

ドルトカンパニーを擁護することでアフリカンユニオンの懐の深さをアピールし、ドルトカンパニー会長である自分は、労働者達との労働法改訂に大きく尽力した功労者として崇められる。

 

釘の数を少なくし、ハンマーの力も弱くする。

その算段は万全だったはずだ。

 

しかし『コロニー落とし』という強襲装甲艦のアンカー並みの巨大釘が出現。

細かく分散したとしても、自分を蜂の巣に出来るほどの釘の数となるだろう。

そこに「革命の乙女」が大衆の注目を引き付けたことにより、ハンマーの力は電磁砲クラスにまで強化された。

 

「コロニー落とし」だけならば、まだ「テロリストの戯言」で押し通せたかもしれないのに。

実害が無ければ、記憶の風化は早い。

 

革命の乙女の存在が、妙に大衆を「感情移入」させた。

そこに巨大モビルスーツと純白の魔王の登場、戦闘。

 

状況が二転三転し、先が読めない。

それはつまり、事件終息後のまとめ方が分からないということで、一番重要な「如何に糾弾を回避するか」の立ち回り方が分からない。

 

デイビット代表と仕切りに連絡を取り合っているが、解決の糸口が見つからない。

 

『スケープゴートにされるのではないか』

その不安だけが、彼の心中に渦巻いていた。

 

 

一方、デイビット・クラウチは「クーデリア・藍那・バーンスタイン」が火星のアーブラウ領出身であることに目をつけ、ホットラインを通じてアーブラウ政府に説明を求めた。

アーブラウ代表だった「蒔苗東護ノ介」は贈収賄疑惑でその座を退いており、取り次いだのは時期代表と目される「アンリ・フリュウ」だった。

 

「今すぐあの馬鹿げた演劇を止めろ」

 

開口一番、刺々しい口調でデイビットは言い放った。

アンリ・フリュウは憤怒に顔をひきつらせるも、即座に冷や水を浴びせるように声のトーンを落とす。

 

「そちらの管轄下で起こった事件でしょう。アフリカンユニオンとアリアンロッドの政治手腕、とくと拝見させていただきます」

 

お互い、責任を押し付けられるのは御免だと思っている。

 

「アーブラウ政府から、火星のクリュセ自治区、バーンスタイン家に問いただしていただきたい。彼女の目的は何なのかと」

 

「調査は既に行っています」

 

「三時間以内に公式な発表をして欲しい。でなければ我々が発表する」

 

アフリカンユニオンに都合の良いように、情報改竄や印象操作を行った上で、と言外に含めていた。

これに対し、アンリは強気に言い返す。

 

「アーブラウ政府に根も葉もない悪噂を出すことは、経済的に大きな損害を出します。制裁も考慮すべき問題ですよ」

 

「あの女を地球に呼んだのもアーブラウだろう!」

 

「直接交渉を申し込んだのは、前代表の蒔苗東護ノ介師です。彼は今、アーブラウ代表の席に居ません」

 

責任を前任者に押し付け、解決不能にすることで対応をうやむやにする。

アンリの言っていることは、責任逃れのセオリー通りの内容だ。

理解できるし、自分も同じ手を使う。

それゆえに、同族嫌悪だろうか。

粗を探し、悪態を付きたくなる。

 

「席についていないだけだろう。蒔苗派の議員も多く残っているはずだ。いつでも代表に返り咲ける」

 

「他圏の内政に口出しとは、アフリカンユニオン代表も節操がありませんこと」

 

お互いに、脳の血管が千切れる音が聞こえてきそうだ。

 

「蒔苗本人を引きずり出せ。あとは我々がやる」

 

最初からそう言えば良かった、とデイビットは内心毒づいた。

 

「彼は亡命して、オセアニア連邦に匿われています」

 

まるで他人事のように淡々と説明する。

それがまたデイビットの神経を逆撫でする。

 

「ならオセアニア連邦に引き渡すよう要求しろ!!」

 

「失礼、この回線を迷子センターと勘違いされているようで」

 

「お前らの詰めの甘さが招いた事態だろう!!落ちぶれた老害一人制御できないのか!!」

 

「この騒動事態はそちらの責任でしょう!?あの娘にしたって、事実確認は何一つできていないんだから!」

 

「それを!さっさと!!確認!!しろと!!!言ってるんだ!!!!」

 

デイビットは唾を飛ばして怒鳴り付ける。

その後も責任問題や無理な要求の応酬が続き、これといった結論が出ないまま通話は終わった。

 

応接室に戻ったアンリは、苛立たしげに机を叩く。

 

「ーーーッ゛ェエィ!!!

なんっ……なのよっ!!!次から次へとっ!!!」

 

「髪型」が乱れるのにも気が回らない。

怒りに任せて罵り合った直後のため、神経が高ぶり、背骨が揺れ、肺が痺れた。

 

「蒔苗め……」

 

とんでもないものを呼び寄せてくれたものだと独り言ちる。

コロニー落とし騒動の有名人など、とても手に負えない鬼札だ。

いっそ蒔苗のように、現状を強引に変えたい人間からすればチャンスなのかもしれないが、現状を維持したいアンリ側は堪ったものではない。

 

アンリはテーブルにつき、携帯端末で「イズナリオ・ファリド」に連絡を取った。

彼はアンリ・フリュウと繋がりを持ち、彼女の後ろ盾となることで、アーブラウの実権をも握ろうという野心家だった。

そのイズナリオは、アンリが予想していた通りの言葉で答える。

 

『案ずるな』

 

渋い落ち着いた声が聞こえる。

だが、その声には多少の焦りが感じられた。

幾つも聞きたいことがあるし、今後の足並みを揃えなければならない。綿密に話し合いをしたいところ。

アンリは携帯端末に食いつくように問いただす。

 

「この騒動は一体……」

 

『統制局の書いたシナリオだ。直に収まる。コロニー落としなどという妄言、実現するはずがなかろう』

 

「しかし、クーデリアと蒔苗の関係から、アーブラウにも糾弾が……」

 

『蒔苗はミレニアム島から出られはしない。クーデリアという革命家の娘も、確保と処罰はアリアンロッドが受け持つはずだ』

 

「今回の騒動、ギャラルホルンはどう動くのです?アフリカンユニオンは、とっくに国際的信用を失うボーダーラインを越えているように思うのだけれど」

 

『テロリストが地球侵攻を宣言している以上、アフリカンユニオンからの介入であろうとも止まらぬ。今ごろ、エリオン公とデイビット代表は計画の修正を余儀無くされているだろう』

 

「ギャラルホルンもクーデリアを糸口に、アーブラウに責任追及をしてくる可能性は……」

 

『そもそも、クーデリアが火星から出る前に止められなかったのは、ギャラルホルン火星支部の落ち度だ。そして火星支部の汚職を調査したのは、他でもないマクギリス』

 

マクギリス・ファリド。

イズナリオの養子であり、政略結婚の駒。

 

『今や火星支部は、マクギリスに首根っこを掴まれているも同然。私の口添えがあれば、如何様にも操れる。

アーブラウを責めれば、必然的に火星支部が責められるが……』

 

それはつまり、イズナリオと対立することにも繋がる。

 

『エリオン公がそんな悪手を打つはずがない』

 

イズナリオと協力関係になって改めて感じたのだが、彼は外敵に対して幾重にも防衛網を張り巡らせている。

切り崩すには相当の労力が必要だろう。

殻の硬さは内側の脆さを表していそうなものだが、少なくとも今のところは順調だ。

 

イズナリオは深刻そうに言い漏らす。

 

『問題は宇宙よりも、地球圏全土に放送を流している者だろうな』

 

今も尚、この放送は続いている。

人が死ぬリアルな映像を長時間、一切加工もカットも無しに垂れ流し続けているのだ。

 

「すべての経済圏に……?一体、誰が……」

 

『今、ギャラルホルンが血眼になって探しているが、特定できていない。

探すフリをしながら、放送に手を貸している間者が多数いるのだ。

……腐敗、ここに極まれりだな』

 

「貴方がそれを言いますか?」

 

呆れたように溜め息を吐くアンリ。

 

『ドルトコロニーの宙域がどれほど荒れようと、我々には関係のない話だ。

聖域たる地球圏には、地球外縁軌道統制統合艦隊が陣を張っている。情報ならそこから得るのが手堅い』

 

アンリは、イズナリオ・ファリドが地球外縁軌道統制統合艦隊の司令官である、カルタ・イシューの後見人であることを思い出した。

 

『都合良くアリアンロッドから協力要請があってな。信頼できる者を援軍として潜り込ませている。現場の情報収集にも問題は無い』

 

イズナリオはマクギリスを援軍として向かわせ、アリアンロッド艦隊の行動を監視させている。

 

磐石なのだ。イズナリオの情報収集のためのネットワークは。

しかし、イズナリオにはどこか焦りと疲れを感じる。

 

「そちらで何か問題でも?」

 

『……いや、案ずるな。こちらも騒がしくなっていて、対応に追われている』

 

「大変なのは分かりますが、今後のためにも、一度じっくり話し合いを……」

 

『まだ結論を出すには早い。市民に動揺させないように努めるのだ。

アーブラウ所有のコロニー群にもな』

 

それだけ言うと、イズナリオは通信を切ってしまった。

こちらの不安に、欠片も興味を示してくれない。共感してくれない。

建設的な議論などなかった。

平穏で変化の無い状況を望むアンリにとって、この状況も、この状況で自分に気を回さない者達も、嫌悪の対象でしかなかった。

苛立たしげに爪を噛む。

 

「これだから、男は……」

 

ーーーーーーーーーー

 

 

場所は変わり、ギャラルホルン地球支部の司令官室。

イズナリオは溜め息と共に、椅子に深く腰掛ける。

 

「これだから、女という生き物は……」

 

不安になると、しきりに「本当に大丈夫なのか」と聞いてくる。

それが煩わしくて仕方が無い。

そんなブヨブヨした肌触りの繋がりなど願い下げだ。

 

言葉を交わさずとも、お互いに通じあっている。

そういった関係を、イズナリオは至高の絆だと常々思っていた。

 

我が息子、マクギリスとの関係のように。

 

フッと少し柔らかい笑顔になるイズナリオ。

 

イズナリオ・ファリドは現在、ギャラルホルン地球支部司令官として、ドルトコロニーの騒動の対応に追われていた。

特にアンリにも言ったように、地球全土に放送を流している者の捜索と、もう一つ。

 

 

『ガンダム・バエル』の真偽について。

 

主にギャラルホルン兵士達に動揺が走っている。

ギャラルホルンの象徴。

アグニカ・カイエルの魂が宿るとされる伝説の機体。

その機体を操ることができれば、ギャラルホルンの全ての権力を意のままにできる。

角笛の旗の下に集った者ならば、その魔王に服従しなければならないのだ。

 

つまり、あの映像のバエルが本物なら、ギャラルホルンはこぞって集合し、その機体のパイロットに従うべきなのだ。

 

世界を一変できる存在。

 

その強大すぎる存在が、多くの者の心を揺り動かす。

イズナリオへの影響といえば、具体的には「あのバエルは本物なのか」という質問が殺到すること。

 

純粋なバエルへの畏敬、権力が転覆することへの恐怖、様々な感情を抱いて、イズナリオへ詰め寄ってくる。

 

「私が知るか」というのが素直な感想だが、イズナリオとて七星の英雄の末裔。

『ガンダム・バエル』への畏敬と知識は持ち合わせている。

 

だからこそ、ここウィーンゴールヴの地下、『バエル宮殿』に、本物のバエルが安置されていると証明しなければならない。

 

これがまた面倒な作業で、バエル宮殿に立ち入るにはセブンスターズの家紋を背負った者、あるいはその許可が必要で、大勢の兵士を雪崩れ込ませるのは避けねばならない。

後世に、「聖域を土足で汚した不届きもの」と呼ばれたくはない。

 

ならばある程度立場のある者を数人招き入れ、バエルが正常に安置されていたことを証明してもらえばいいのだが、その人選も慎重にしなければ、選ばれなかった者に不満が残るし、選ばれた者は選ばれた者で、「バエルがバエル宮殿にある」という「当たり前」のことを喧伝して回らねばならず、見様によっては「間抜け」と言われかねない。

かと言って選ばれた名誉を捨てる訳にもいかず、結局は不満が残る。

 

式典でも使われる、ウィーンゴールヴの広い甲板にバエルを置くという案もあったが、正式な式典ならともかく、宇宙の揉め事に触発されて姿を現したとなれば、バエルの存在価値が下がるという声も一定数あり、あまり現実的ではない。

 

そもそも、偽者が現れただけで浮き足立っていては、ギャラルホルンの権威が失墜してしまう。

 

ここでバエル自体が動き、この戦乱を斬り伏せてくれるというのなら、新たな伝説として脚色しようもあるのだが……

 

バエルは『何故か』動かせない。起動もしない。

 

だからこそ動かせた者には権力が……と堂々巡りに嵌まり、一度思考を切り替えるイズナリオ。

 

 

そもそも、クーデリアを火星から逃してしまったのは、『鉄華団』なる組織の妨害があったからなのだが、そこであの『バエルもどき』がモビルスーツ部隊を壊滅まで追い込み、戦艦を二隻奪うという滅茶苦茶な被害を与えたせいだ。

 

マクギリスから報告を受けた時は目と耳を疑った。

その時の映像では、装甲のほとんどが剥がれており、フレームが剥き出しであった。

武器である黄金剣も片方が折れていた。

皆が知る『完成されたバエル』ではなかったのだ。

だからこそ『他ガンダム・フレーム』による偽装という推測を立てることができた。

 

見た目の立派さとは、それほどに重要視されるものだ。

 

今ドルトコロニーにいるバエルは、装甲も整備された『完成されたバエル』だ。

しかも、革命の乙女を守り、悪の兵器と戦うという『ヒロイック』な舞台演出が、その威光を高めている。

 

 

あのドルトコロニーのバエルがギャラルホルン最高権力ならば、最早イズナリオ一人の判断で対応できる範疇を越えている。

ギャラルホルン地球支部司令官としてもそうだし、ファリド家当主としてもそうだ。

 

「セブンスターズ会議……か」

 

七星の名家を集結させ、意思の疎通と対応策を固めなければ、ギャラルホルンという組織そのものが破綻しかねない。

 

しかし、この混乱した状況で、重要な役職についた各家の当主が全員揃うことなどできるだろうか?

 

地球外縁軌道統制統合艦隊の司令官であるカルタ・イシューは、まさに地球に向かってくる脅威の排除という本来の役職に立ち返っているし、

アリアンロッド艦隊の司令官ラスタル・エリオンも大忙し。

アリアンロッド第二艦隊艦長の『イオク・クジャン』は月面基地で待機中。

 

ギャラルホルン兵站部門を総括する『ガルス・ボードウィン』は、その人徳で兵士達の混乱を押さえてくれている。

 

ギャラルホルン医療部門を総括する『エレク・ファルク』は、世界情勢の混乱が即座に影響を与える部門であるため大忙し。

 

ギャラルホルン海中防衛艦隊艦長『ネモ・バクラザン』は、海底都市『アトランティス』への避難を望む民衆の対応に追われていた。

 

 

やはり『バエル問題』に即座に対応できる立場にあるのは、イズナリオ・ファリドただ一人。

自分がどういった対応をするかで、後続の者達も態度を変えるだろう。

世界中から注目されている。

誇張表現でも何でもなく、「ファリド公がこう言ってたから」「ファリド公があんな対応だったから」と言い訳して、それぞれ好き勝手な行動を始めるはずだ。

 

「先例」というプレッシャーは、重い。

ほんの僅かな判断ミス、軽率な行動が、世界全体に大きな影響を及ぼし、最終的に自分に還ってくる。

 

机の上に手を組み、そこに顎を乗せる。

 

「エリオン公……」

 

この『バエル問題』は、ラスタル・エリオンによって仕組まれたものではないか?

そんな疑念すら浮かんでくる。

元々、ドルトコロニーの労働デモも、統制局による自作自演だったはずだ。

そこにラスタルが味付けを加えたのだとしたら。

 

バエルの真偽を明確にすらできず、地球の混乱を治めることに失敗したイズナリオ、その権威を失墜させるための布石。

 

クーデリアという娘を目立たせたのも、火星支部の支配権を剥奪し、アーブラウのアンリ・フリュウとの癒着を暴露させることで多方面から責め立てるため……

 

「馬鹿な!!」

 

机を叩く。

 

「終わるぞ!ギャラルホルンそのものが……!」

 

ラスタルが自らギャラルホルンの権威を失墜させるなどあり得ない。

イズナリオの腐敗を暴露すれば、それはギャラルホルン全体の不利益になり、結局はラスタル自身にも不利益を被るはずだ。

 

「いや、まさか……」

 

ハッとした顔になるイズナリオ。

ラスタルがギャラルホルンの改革、大幅な組織改編を企てているとしたら。

 

そのために、自分以外のセブンスターズ家門を排除しようとしている……?

 

最悪の予想が出来上がってしまう。

 

「だが、これは使えるかもしれぬ」

 

この混乱がラスタル・エリオンによる自作自演と発覚すれば、間違いなくエリオン家の再起は不可能。

一切の明るい未来は無い。

 

「力に溺れ、あるべき姿を見失った愚か者」

 

ラスタルを陥れるとしたら、その筋書きで御膳立てしてやればいい。

 

あの二体目のバエルすら、ラスタルが用意した『偽の錦の御旗』と喧伝してやればいいのだ。

 

その瞬間、『ギャラルホルンの理念を支配欲のままに利用した裏切り者』として糾弾できる。

 

ーーーーーーーーーー

 

映像は宇宙に移り、アリアンロッド第三艦隊によるドルトコロニー攻略戦。

 

労働者が使うのは作業用モビルスーツが最高戦力だと思っていた。

そんな観衆の予想をはるかに上回り、ドルト側に涌き出る、見たこともない兵器。

 

三百年前、『プルーマ』と呼ばれた無人兵器の群れ。

生理的嫌悪感を覚える外観に、その圧倒的物量。

 

砲台で武装した黒い巨人、『デモングレイズ』

 

何もない宇宙空間に突如として現れる巨大デブリ。

『転送装置』の存在。

 

思わぬ苦戦を強いられる第三艦隊を見て、不安を募らせる民衆達。

それと反比例するように、『英雄機』への注目度は飛躍的に増していく。

 

拳を叩き込み、黒い巨人を倒した白き魔王。

一撃で全ての不利と不条理を吹き飛ばした。

その爽快感たるや、英雄願望と合わさり、最早麻薬のようだ。

 

圧倒的な力によって悪を打ちのめし、混乱を治める。

厄祭戦を知らない者達が見ても、その強大さはよく分かる。

 

問題は、ギャラルホルンから何の説明もないこと。

民衆は答えを欲した。

ちゃんと言って欲しい。

あれは味方だと。我々と共に、地球の平和を守護する高潔な正義の力だと。

 

アリアンロッド第三艦隊を苦戦させていたデモングレイズを瞬く間に壊滅させた『魔王』。

 

その後、姿を消し、一基だけ突出したドルト2の前に瞬間移動する。

やはり、この瞬間移動は現実のものなのか。

映像を細工しているのか。

見ている分には、判別ができない。

 

『魔王』の前に立ち塞がる、魔王と同じ骨格、相貌を持つ悪魔達。

七体の悪魔が、『魔王』と激戦を繰り広げる。

数の上で見れば、『魔王』が圧倒的に不利だ。

 

ここにアリアンロッド第一艦隊による『ダインスレイヴ』の一斉掃射が加わり、混沌とする戦況。

 

一方、着実に地球に接近するドルト2。

地球圏最終防衛ラインに位置する『地球外縁軌道統制統合艦隊』は、各セブンスターズ家からの増援もあり、

戦艦15隻

駆逐艦25隻

巡洋艦20隻

特務艦17隻

クルーザー、その他艦船 53隻

 

合計100隻以上の大規模艦隊に膨れ上がっていた。

 

それらをチェスの盤面のように等間隔に、様式美の如く配置している陣形は、なるほど確かに統制の取れた精鋭部隊に見える。

 

地球外縁軌道統制統合艦隊の広報部が、地球圏に対して声明を出した。

艦隊の司令官である『カルタ・イシュー』が直々に、カメラの前に立つ。

その威風堂々とした態度に、民衆は口を閉ざした。

 

「悪辣な「力」が迫りつつある。

奴等は『大いなる流れ』などと誇称していた。

自分達を「力」そのものであると共通認識させることで、不安や矛盾を打ち消しているのだろう。

 

愚かにも程がある。

 

我々人類は、巨大な苦難を数多く乗り越えてきた。

「力」の流れがあるのなら、それに真っ向から立ち向かう、勇気と知恵があるのだ。

我々はそのために、常から準備を続けてきた!

我々はせせらぎと共に流れ流される木の葉ではない!!

 

この状況を覆すに充分な戦力が、ここにはある!!!

セブンスターズ、イシュー家の名において宣言する!

 

コロニー落としを止める!!

 

奴らに思い知らせてやるのだ!!

地球に侵攻することが何を意味するのか!

地球を守護する者達が、どれほどの覚悟と力量を併せ持っているのか!!

 

我々は剣を取る!!

そして勝利と祝福の加護の元、剣を鞘に収めるだろう!!

 

青き清浄なる我らが母星に栄光あれ!!!」

 

歓声が上がった。

主に地球外縁軌道統制統合艦隊から。

イシュー家所有戦艦『ラタトクス』の中は、勇ましい主君を褒め称え、祝福する雄叫びに満ちていた。

 

一方、民衆は突如として熱く語った麿眉の女性、その勢いと力強さに押され、やや引いていた。

しかし、「これだけ言うのだから大丈夫なのだろう」という漠然とした安心感はあった。

それほどまでに、カルタの演説のインパクトは強かったし、それがある程度の混乱収縮に繋がった。

流動するパニックの人々の渦を、少しだけゆっくりにした。

地球圏の人々は皆、無条件に「信じてみよう」と思えるぐらいには、理性が残っていた。

 

『責任は私が取ります』と言ってくれる人物が現れたのだ。

ほっと胸を撫で下ろし、思考を放棄してしまうのは、人の性とも言える。

困難から目を逸らしたい。

少しでも楽な方へ流れてしまいたい。

進んで余計な心配をしたくないし、そんなことに労力を費やしたくない。

 

アリアンロッド広報部部長『アダマス・カルナス』は確信した。

 

(ここだ)

 

タイミングとしては今が最高の瞬間。

自分に与えられた、ある意味最も重要な任務を果たすべき瞬間。

 

『カルタ・イシューをスケープゴートにする』という最大最難関の任務を。

 

すぐさま地球圏に公式発表。

 

「『イシュー家』の名を出されては、我々も差し出がましい真似は出来ません」

 

あくまでカルタの顔を立てるというスタンス。

紳士的な態度を崩さない。

そっと……

 

「かの艦隊の実力、疑いようもありませぬ。未だコロニーは我らの管轄内ではありますが、作戦行動の混乱を回避するという意味でも、対応を一任し……」

 

そっと、

静かに、

自然な風に、

 

『コロニー落とし阻止失敗』というジョーカー、猛毒の鬼札を、カルタの手に送り込んだ。

 

美女に毒林檎を渡す、老婆の魔女のように。

 

『責任』という爆弾

これを最後まで持っていた者が、死ぬのだ。

 

ーーーーーーーーーー

 

ナボナ・ミンゴの後継者を名乗るサヴァラン・カヌーレによる煽動。

コロニーから脱出したいのならギャラルホルン関係者の公開処刑に参加しろという脅迫。

 

アリアンロッド諜報部、リール・ヒロポンはコロニー内のテレビ局を一人で占拠。

姿が見えなくなったクーデリア・藍那・バーンスタインの出頭を要求。

その数十分後、テレビ局に現れたクーデリアを見て、地球圏の人々は驚愕した。

 

来たのか。

何故逃げなかった。

殺されると分かっているだろう。

 

丁度この時、各経済圏の代表や政府高官らが地下シェルターに避難したことへの反感が蔓延しており、逃げずに危険地帯のど真ん中に現れたクーデリアの姿は、より一層高潔なものに見えた。

愚直さも含めて、彼女は人々の求める『英雄像』に合致していたのだ。

 

リールが声を荒らげる。

 

「説明しろ!お前は何か知っているはずだ!全部!全て話せ!最初からだ!お前の全て!!お前の革命とやらも!コロニー落としも!バエルも!アグニカ・カイエルも!!!

 

最初から包み隠さず話せ!!」

 

クーデリアとは誰なのか?

何故ここに居る?

どこから、なんのために来た?

何を知っている? 

 

地球圏の人々が求めるのは、説明。

『答え』などどうでもいい。

重要なのは『過程』であり、『説明してくれる人物』こそが必要とされる。

 

思わず手を伸ばしてしまうほど、求めて止まない禁断の果実。

人々の欲する『りんご』は、クーデリアの『声』だった。

 

「私は、地球と火星の歪んだ関係を正そうと、革命を志しました」

 

クーデリアは自分の今までを語り始めた。

 

「劣悪な環境で酷使される、同年代の子供達の痛みを知りたい。そう思い、彼ら『鉄華団』に、地球までの護送を依頼しました」

 

『鉄華団』の名前が、瞬時に地球圏へと浸透していく。

『鉄華団』はクーデリアを守る少年騎士団。

正義の味方。

欲を知らない一種の清らかさと、手探りで進む未熟さも、好意的に受け止められる。

 

「元はCGSという組織で、大人達に捨て駒のように扱われていた彼ら。それを救ったのは、アグニカ・カイエルという少年でした」

 

「アグ……ニカ」

 

ギャラルホルンの兵士で、その名を知らぬ者はいない。

厄祭戦を終息へ導き、人類滅亡を阻止した伝説の英雄。

 

やはり、やはりそうか。

 

あの機体、ガンダム・バエルに乗っているのは

 

アグニカ・カイエル!!!

 

ギャラルホルン内のざわめきはピークに達していた。

英雄の再来。

300年前のアグニカ・カイエル本人なのか、その名を借りる別物なのかは分からない。

だが、どちらにせよ、それは運命的で、劇的で、奇跡的なものに思えた。

 

勿論、彼女の話を嘘だと思う者もいた。

その中には、これが自作自演のマッチポンプではないと疑う者もいた。

 

イズナリオ・ファンドもその一人である。

何者かによって描かれたシナリオ。

ギャラルホルンの支配体制を一気に覆す、革命の筋書きだと。

 

イズナリオは確信した。

彼が手に入れた情報を、彼の中に芽生えた猜疑心が繋ぎ合わせた。

 

 

『ラスタル・エリオンによる自作自演』

 

 

「奴はもう………」

 

イズナリオの目には、決意の炎が宿っていた。

 

(私が正さねばなるまいーーー)

 

 

「私は火星で二度、ギャラルホルンから襲撃を受けました。鉄華団の皆さん、ガンダム・バルバトス、そして、アグニカのガンダム・バエルゼロズの力を借りて、それを乗り切りました」

 

「ま、待て!!バエル……『ゼロズ』!?それはバエルとは違うのか!?」

 

リールが別のモニターを指差す。

そこには、七体のガンダムと死闘を繰り広げるバエルゼロズの姿が映っていた。

 

「あの機体の名は『バエルゼロズ』。乗っているのはアグニカ・カイエルです」

 

(ゼロズ、ゼロズ、ゼロズ。

 

バエル ゼロズ

 

バエルゼロズ!!!!)

 

ギャラルホルン兵達は、心の中で何度も復唱する。

これから世界を変える者の名だ。

根拠は無いが、そうだと確信した。

自分達は今、歴史が変わる瞬間にいるのだ。

 

「アグニカを名乗る少年!彼はどこから来た!?何が目的だ!?何故ギャラルホルンに刃を向けた!?何故お前達と共に戦う!!」

 

リールが尚も問い詰める。

 

「私も彼の多くは知りません。しかし、彼が鉄華団の生き方に共鳴し、その道を『力』によって切り開こうとしてくれた。それだけは事実です」

 

「彼はギャラルホルンについて、何と言っていた!?」

 

「因縁がある、と聞いたことがあります」

 

「じゃあバエルは!?バエルゼロズはどこにあった!?」

 

「分かりません」

 

「…………」

 

歯噛みするリール。

クーデリアはおそらく嘘をついていない。

本当に知らないのだろう。

 

アグニカ・カイエルとバエルゼロズについて、クーデリアですら詳しくは知らない。

だが、アグニカとバエルゼロズが彼女の味方であるなら問題はない。

クーデリアは人類の味方で、正義なのだから。

芋づる式に、アグニカとバエルゼロズも正義の使者だと結論付けられる。

 

「……それで、火星から出た後は?」

 

沸き上がる疑問を飲み込み、リールは話の先を促す。

立証する術のないアグニカの素性より、目の前のクーデリアの言葉を優先させる。

人々にとっても、そちらの方がありがたい。

アグニカは凄い人で正義の味方。

自分達を助けてくれる。

それ以上の情報は、取り合えず今はいらない。

それよりも、この凛とした少女の話が聞きたい。

 

「鉄華団はテイワズと盃を交わし、再び地球へと向かいました。そこで私達は、ブルワーズという海賊に襲われました。

 

その時起こったことは、常識では考えられないものばかりでした。何もない宇宙空間から、敵の船が突如として現れたのです。まるで瞬間移動のように」

 

『瞬間移動』

 

物質が突如として現れる現象。

アリアンロッドとコロニー側との戦闘で、幾度となく見られた。

さらに、あのバエルゼロズも突如としてコロニーに現れ、そして瞬間移動している。

 

「船だけではありません。モビルスーツ、さらに巨大なデブリまでもが」

 

クーデリアが言うのだから、実在するのだろうか。

人々はまだ半信半疑で聞いていた。

 

「その後、鉄華団の船の中にいた私は、眩しい光に包まれたかと思うと、次の瞬間にはドルトコロニーの内部にいました。

 

気がつけば労働者達のデモの中心。彼らは、私が武器を配り、革命を呼び掛けたのだと言っていました。しかし、私はそのようなことはしていない!彼らは何者かに煽動されたのです!」

 

クーデリアは巻き込まれただけ。

労働者達のテロには加わっていない。

やはり労働者達は悪で、クーデリアとバエルゼロズは正義なのだ。

 

「彼らは!度重なる搾取!重圧の中で不満を抱えていました!その歪みを正そうと行動を起こした!しかし!その手段が!破壊と殺戮に頼りきったものだった!

憎悪を行動力の源にしてしまった!それでは!たとえその行動にどれほどの理由があったとしても!どれほど辛い目にあったとしても!勝ち取った未来に!幸せと言えるものがあるのですか!?」

 

幸せを勝ち取る。

地球圏の人々にとって、これは聞き慣れない価値観だった。

幸せになるなんて、当然のことだ。

幸せになるのは当然の権利だ。

 

ーーーだが、そんな当たり前に思われた権利も、奪い合わなければならない人達がいる。

その被害者達が、こうして武力に訴えかけてきた。

 

幸せを、他者から奪ってでも手に入れる。

そんなギラギラした感情を見たことがない。

まるで肉を奪い合う獣のようだ。

けれど、それこそ、なんの飾り気もなく、

 

『生きている』と言えるのかもしれない。

 

けどそれじゃあ駄目だ。

獣のままでは駄目なんだ。

 

クーデリアが言っているのは、獣と人との境界線。

正義、知性、理論、精神。

境界線にどんな名前をつけるかも含めて、その線引きを誤るなと言っている。

一度立場を決めたのなら、そこから動くなと言っている。

 

獣なら人語を喋るな。

人なら地を這うな。

 

人が、人として真っ当な幸せを得たいのならば、人としての道を踏み間違うなと言っている。

 

(綺麗事だーーー)

 

そう思う者もたくさん居る。

だが、こうも思う。

 

 

 

綺麗事でも聞かされなければ、目が覚めなかったんじゃないのか?

 

 

 

地球圏の人々は、知らず知らずの内に、勝ち取りたいものもない、無欲な馬鹿になり下がっていた。

現状だけを見て、世界は正常だと思い込んでいた。

地球の外を、知ろうともしなかった。

 

無知であることにすら、無自覚だったのだ。

だが今は違う。

 

知りたい。

もっと情報が欲しい。

知識があれば、敵を知り、味方を知り、自分のあるべき姿を知れる。勝ち取るべき幸せも分かる。

 

クーデリアという正義を知りたい。

労働者達という悪を知りたい。

 

人々にとって、クーデリアの言葉は『りんご』だ。

情報という名の禁断の果実。

それ以外は何でも与えられる楽園で、その果実だけは食べてはいけないと、誰に教わるでもなく教えられていた教訓。

口にすれば死に至ると。

神に背くことになると。

つまりは破滅することになると、何故か知っている麗しの果実。

 

それに人々は手を伸ばした!

ああなんて甘美な!眩しいほど赤く、瑞々しい、穢れなき童女の頬のような丸みを帯びた神聖な果実!!

欲しい!!それが欲しい!!

その甘さで舌を震わせたい!

その果実で喉を潤したい!!

 

掴みたい!手に入れたい!!

 

 

人々は情報という『りんご』を求めた。

情報を与えてくれるもの、『説明してくれる者』を求めた。

説明するのは、既存の組織や集団では駄目だ。

実態のない者を受け入れる気にはなれない。

逃げるような者では駄目だ。隠れるような者では駄目だ。

火中にあり、火の粉を恐れず、視線を揺らすこともなく、ただ真っ直ぐに前を見つめ、人々に言葉をかける存在。

絵本に出てくるような英雄でなければ駄目だ。

 

人々は『強い言葉』を望んだ。

はっきりと断言されるのが好きだからだ。

 

強い言葉を口に出来るのは、

 

当然だが『強い個人』だ。

 

強い指導者を欲した。

強い個人が脅威を廃し、世界を正しい方向に導いてくれることを望んだ。

混乱を最小限に留め、最短で解決してくれそうなのは、やはり強い個人のカリスマだ。

人々とて、混乱は嫌なのだ。一致団結したいのだ。

このコロニー落としを、クーデリア・藍那・バーンスタインという新たな希望と、アグニカ・カイエルという古くからある希望に、劇的に解決してもらうことを望んだ。

 

 

巨大なダムが崩壊する直前

大きな土砂崩れが起こる瞬間

 

その前触れは小さく、静かなものであるらしい。

 

300年間、積み上げられてきた偽りの平和、その見上げるような山。

二度とあの大戦を起こさぬよう、海底の泥のように静かに、ゆっくりと、少しずつ重しをしてきた砂塵の山が。

 

ほんの少し。僅か数ミリほどではあったが、

確実に………

 

 

 

 

ずれた。

 

 

 

『厄祭戦』時代の風が吹こうとしている。

その大気の流れは出来ている。

 

前に進もうと決意したクーデリアの言葉は、世界を、過去の地獄の時代へと誘おうとしていた。

彼女の高潔な精神が、世界が、『厄祭戦』へとねじ曲げられていく。歪められていく。

 

後世に『第二次厄祭戦』と呼ばれるようになる大惨禍と大混乱。

後に残された、確認できる最も古い記録となるのが、このクーデリア・藍那・バーンスタインによるスピーチである。

 

「私は地球への旅で、鉄華団の少年兵達を見てきました。彼らの人生は戦いばかりで、戦いにこそ活路がある、そんな生き方でした」

 

「私が見たのは、そんな彼らの『強さ』でした。生きるため、未来を勝ち取るための『活力』を、一人一人に感じていたのです」

 

「鉄華団とギャラルホルン、海賊との戦いは、『生きる活力』と、『それを奪う者』の戦いだと、私は考えています」

 

「人は本来、生きる活力に満ちた存在のはずです!しかし、それを奪い、歪ませる存在が、この世界には満ち溢れているのです!」

 

「私が見てきたもの……その中で」

 

「『憎悪』という感情。これが呪いのようにこびりつき、私達を離さない」

 

「虐げられた記憶を、憎悪に転化した労働者を見ました」

 

「上官を喪った悲しみを、他者に押し付け、記憶の捏造に終始した怪物を見ました」

 

「彼らにも!輝かしい未来があったはずなのです!」

 

「それを歪めているのが!『憎悪』なのです!

 

『憎悪』はどうして生まれるのか!?

 

それは!人々から『生きる活力』を奪おうとするから!

 

彼らの、本来持つべき権利を、自由を、簡単に切り捨ててしまうから!」

 

「経済的に弱者だから!もっと搾取しても許されると!?

軍事的に弱者だから!もっと弾圧しても問題はないと!?

死者だから、誰も覚えていないと!?

子供だから!無知だから!家柄も資産もないから!

 

そんな理由で!『未来』を奪い続けた先に、一体何があるのですか!?」

 

「奪われた者達は、最早憎悪しか生み出さない異形の怪物に成り果ててしまう!

 

そして、その憎悪につけこみ、破壊と殺戮を起こし、世界を混沌とさせようと目論む者がいる!

 

その結果が、今、地球を襲っているコロニー落としの正体です!!」

 

「知らないことは、知ろうとしなければ理解できません。でなければ、理解不能の痛みとして、貴方達を襲うでしょう。

 

私も、あまりにも無知だった。

 

虐げられた人々の痛み、苦悩。そして、それを利用する悪意ある者」

 

サヴァランが大口を開けて反論する。

 

「じゃあお前の言う革命って何だ!?お前の考える世界って何だ!?それで、お前のやりたいことって何なんだ!?」

 

クーデリアは真っ直ぐに答える。

その答えはもう、彼女の中にあるのだから。

 

「私の考える革命とは、人々が、『誇れる人生を歩む未来』を作ることです!」

 

「私の考える誇れる人生とは、私を家族だと言ってくれた人に、真っ直ぐ顔を向けて……」

 

 

 

「「ただいま」と言えることです!」

 

 

己の中に恥じ入ることが無いか。

家族の顔を、真っ直ぐ見えるのか。

その通りだ。親兄弟に、子孫に、「ただいま」と言えないような人生が、正しいものであるはずがない。

その正しい未来を勝ち取ることこそが、人のあるべき姿だ!!

 

「私の考える今の世界は、誰も彼も、大切な人に、笑顔で応えられるように出来ていない!そういう風に歪まされているのです!

 

『誇れる選択』ができない!!

 

未来を真っ直ぐ見つめられない!!

 

それが、私の考える、この世界の実情です!」

 

「だから私は!!私の声が届く距離まで!言い続けます!!」

 

「誇れる選択を!!

 

あなた方の、輝かしい未来を!!

 

どうか歪ませないで!!歪められないで!!

 

そこから立ち上がる力が、人にはあるはずなのです!!」

 

「それが!!私の革命です!!!」

 

クーデリアは、その全てを出しきった。

 

ーーーーーーーーーー

 

地球外縁軌道統制統合艦隊が、ドルト2を押し返し、その動きを停止させた光景が映し出される。

この瞬間、地球外縁軌道統制統合艦隊報道局は、跳ね上がるように腕を振るい、叫んだ。

 

「角笛の名の元に、『赤い雨』は防がれた!!

カルタ様万歳!!!」

 

「「「「「「カルタ様ぁぁぁぁぁぁ!!!ばんざああああああああい!!!!!」」」」」」

 

ギャラルホルンの勝利。

地球の危機は去った。

大々的に公表するギャラルホルンや各経済圏首脳陣。

その情報が民衆にまで浸透するのを待ってから、満を辞して『それ』は現れた。

 

高速で飛来した槍、刀剣が、艦隊を突き刺し、爆破していく。

地球外縁軌道統制統合艦隊を襲ったのは、雨のように降り注ぐ数百の武器。

 

その発信源は、六枚の羽を大きく広げた、純白の鎧を着た巨人だった。

遠近感が狂うような巨体。全長100メートルはあるだろう。

二つの目、鋭い眼光が赤く輝く。

その機体の周囲には、空間の歪みが無数に発生し、そこから武器が高速で射出される。

 

強大な力と数を誇った地球外縁軌道統制統合艦隊が、次々と墜とされ、壊滅していく。

信じられない光景だ。

 

神々しさすら感じられた。

人智を越えた見た目と現象。

それ故に人々は思ってしまう。

「これは神の裁きなのか?」

 

安易に想像できてしまう、『人類滅亡』

地球壊滅という、世界の終末。

 

『神々の黄昏』だ。

 

ならば何故、ラグナロクの到来を告げる角笛は、その音を響かせてくれなかったのか!?

 

我々を守ってくれなかったのか!?

 

六枚羽の白い巨人は、地球の最終防衛ラインである艦隊を壊滅させた後、ドルト2に軽く触れる。

するとコロニー表面がコーティングされていく。

巨人が手を押すと、コロニー全体が動き始め、また地球への進行を開始する。

 

最初から希望がないことを絶望とは言わない。

助かる見込みがあると思わせ、実際に一度救っておきながら、そこから地べたに叩き落とす。

望みを絶やすのだ。

 

温かさが急激に冷める不快感。

この落差こそが『絶望』である。

 

善戦虚しく、1対7という戦力差に押され、徐々に劣勢に立たされるバエルゼロズ。

やがてコロニーの外壁に叩き付けられ、ビームシールドで圧殺されそうになる。

 

誰もが、この理不尽な状況を嘆いた。

 

しかし、この絶望を覆す、一転攻勢の光。

ビームシールドを蹴り飛ばし、バエルゼロズが再び動き出した。

 

バエルゼロズの覚醒。

その機体は青く輝いていた。

心臓部からキラキラと輝く粒子を放ち、両肩から余剰熱の炎、スラスターウィングから青い推進炎が噴き出す。

 

まるで六枚の翼だ。

 

炎の六枚翼を羽ばたかせ、バエルゼロズは空間を圧縮したかのように飛ぶ。

 

激戦の末、七体の悪魔全てを破壊したバエルゼロズ。

最後のとどめを刺す瞬間だけは、どこか悲しげで、寂しげで、それでいて救われたような、愛しさすら感じられる殺し方だった。

バエルゼロズにとって、あの悪魔達は、近しい者達だったのかもしれない。

 

その戦いも終わり。

七体目の悪魔に剣を振り下ろそうとした瞬間、一つの閃光が画面を横切った。

 

その光はバエルゼロズではなく、七体目の悪魔を撃ち抜き、爆散させ、粉々に砕いてしまった。

 

一瞬の沈黙の後、バエルゼロズは狂ったように飛翔した。

まるで全身が火だるまになったのだと幻視するほど。

憤怒と憎悪。宇宙空間を揺らす雄叫びと共に、バエルゼロズは巨大な悪魔に襲い掛かる。

 

地球人、そしてギャラルホルンにとって、あの六枚羽の巨人、『ガンダム・ルキフグス』は悪の権化だ。

赤い雨革命に貢献し、人類滅亡に王手をかけた絶望の化身。

 

対して、バエルは常に「正義」であり続けた。

この最悪の状況に抗い、打開しようと死に物狂いで戦う。

あの希望の象徴であった『ガンダム・バエル』が突撃する。

既に満身創痍でありながら、片翼から青い光を放出し、流星のように飛んでいく。

 

バエルならば。

あの機体なら、ルキフグスを倒してくれる。

赤い雨を止めてくれる。

そんな漠然とした期待が、人々の心にはあった。

 

ルキフグスが空間をねじ曲げ、高速で武器を射出する。

滝のように襲い来る刀剣を斬り落とし、速度を緩めることもなく、ただ真っ直ぐに飛ぶバエル。

その執念に、人々は圧倒される。

 

やがて瞬間移動で六枚羽の巨人に急接近。

 

勝てる!

あの黒いグレイズや、七体の悪魔を打ち倒したバエルなら、きっと勝てる!!

 

その無根拠で淡い希望は、ルキフグスの巨大黄金剣で打ち砕かれた。

バエルソードが折れ、バエルがグラリとよろめく。

 

黄金の大剣を叩きつけられ、地球へと落とされるバエル。

 

地球を、ギャラルホルンを、例えようのない深い『絶望』が襲う。

 

バエルで駄目だった。

ならもうどうしようもないじゃないか。

 

ドルトコロニーと共に、赤い雨の一粒となって墜ちていく英雄を見て、人々は涙した。

 

ーーーーーーーーーー

 

いよいよコロニー落としが現実のものとなってきた。

問題は「どこに落ちるのか」、「どこが危険なのか」。

つまり、自分達はどこに逃げればいいのか。

 

各経済圏の学会が、コロニー落下地点の予測を行うが、そもそも与えられるデータ(ドルトコロニーの速度、距離、物量、落下角度、耐久値、構造、耐熱ジェルの精度など)が丸っきりバラバラで根拠がなく、確実な予測など不可能だった。

それゆえ様々なケースの予測が浮かんでは消え、その一部を政府が真に受けて公表。

それを各メディアが千差万別な味付けをして報道することで情報が錯綜。

枝分かれした数多の情報を元に、あらゆる組織が違った対応、行動方針を打ち立てる。

そして民衆が個別の反応、行動をすることによって『混乱』が生じ、世界は正に混沌と化していた。

 

SAU領内、北アメリカ大陸では混乱が顕著だった。

 

空にうっすらと、コロニーの外観が見え始めたのだ。

視覚効果というのは凄まじい。

肉眼で確認される巨大な構造物。

あれが空から落ちてくる。

 

死ぬこと事態が怖いのではない。

そんな決定的なものには抗い様が無い。

人々を不安にするのは、この「自由な時間」だ。

時間の猶予。何かできることがある。

そんな選択の自由が、人々に「生きるために行動せねば」と暗示をかけ、催促する。

 

SAU、北アメリカ大陸では、ほぼ全ての州で、人々は『避難』という行動に出た。

目的地の多くは『核シェルター』である。

核爆弾による戦争勃発にも耐えられる構造のもの。

ギャラルホルンによる緊急放送が、町の喧騒にさらなる音声を浴びせかける。

 

「市民の皆さんは屋内に避難してください。自宅にいる方はそのまま。外にいる方は、近くの公共施設に避難し、決して外に出ないでください。

皆様の安全と秩序は、我々ギャラルホルンが責任を持ってお守りします。

建物内の責任者は、避難した人の数、指名を確認し、報告してください。

特に怪我している方や体調が優れない方、妊娠している方、ご年配の方、身体の不自由な方などを優先的に対応してください。

食料と水、燃料などの備蓄量を確認してください。

情報を迅速に受信し、伝えられる環境を作ってください。

避難が必要な地区には、ギャラルホルンが指揮を取りますので、指示に従ってください。避難勧告があった地区にいる方は、速やかに行動してください。

避難場所は十分な食料、水、燃料、ベッドがあります。

定員数も余裕がありますので、どうか落ち着いて行動してください。

皆様の身の安全が最優先です。

各人が自己の生存権を行使することを推奨いたします。しかし、あくまで人道に則った範囲でお願いします」

 

一応、ギャラルホルンSAU支部には、緊急時の避難経路、避難者受け入れ施設の許容量、その輸送ルートが決められていた。

しかし悲しいかな、それらは平和が続いた時代において、ほぼ形骸化し、人々の『混乱』を考慮に入れていない、小綺麗なだけの理想論となっていた。

 

市民のID管理により、誰がいつどこにいるのか、基本的な数と動向はデータ登録されている。

この地区をまるごとこの施設に送る。

そんなパズルゲームのようなシミュレーションが、『コロニー落とし』などという超弩級の災厄の混乱に対応できるはずがない。

人は自ら考え、思い、勘違いし、焦り、苛立ち、空回りする生き物なのだ。

不合理と非効率の塊である人間という存在を、チェスの駒のように操作することなど出来はしない。

 

ギャラルホルンの指示を無視し、民衆は波のように動き回る。

命令を無視されるのが何より嫌いな貴族出身の高官は、人々の混乱を、「自分を軽んじている」と勘違いし、憎悪を抱くにまで至った。

 

(こんな愚鈍な者どもを、はたして助ける価値などあるのだろうかーーー?)

 

命令を無視されるのは頭に来る。

そもそも、自分の声が届かないというのは、無力感を植え付けられるようで、悲しい気持ちになる。

混乱とは悲しい。

 

女の金切り声は耳触りだ。苛々させられる。

男の怒号は耳を覆いたくなる。恐怖を感じる。

子供の泣き声は耳が痛い。黙らせてやりたくなる。

老人の助けを求める声は耳に残る。誰かなんとかしろ。

 

町外れにある、厄祭戦時代に作られた大型シェルターに民衆が押し寄せた。

シェルターに続く長い道は、荷物や家族を乗せた車輌で溢れている。

クラクションや怒声が響き渡る。

道路の横を、徒歩でシェルターに向かおうとする数多くの人々が列を作り、道路の端をバイクや自転車がすり抜けていく。

 

想定されていた人数、物の数、搬入速度をはるかに越えていた。

ギャラルホルン兵やSAU政府のシェルター管理責任者はパニック状態。

何よりも、シェルターの入り口でこれほど揉めるとは考えてもいなかった。

「とにかくシェルターに入る」という手段が目的に取って変わり、後先考えない暴力的な行進の音頭を取る。

多くの民衆は、車でシェルターに入りさえすれば、あとは快適なスイートルームに転送されるとでも思っていたようで、シェルター内の駐車場は車で溢れ、前にも後ろにも動かせない哀れな状態になっていた。

 

非常時にも関わらず、受けた損害や怪我の危機感だけは正常に存在する。

車の玉突き事故は、最大で45コンボを叩き出し、このシェルターだけでも300件が確認された。

現在SAU領内では事故件数五万件を越えているだろう。

その度に起こる口論、喧騒、責任追求、責任逃れ、傷害、殺人。

事故が起こる度に列は乱れ、止まり、身悶えするように煽動する。

絶え間ない騒音と悪意ある言葉、砂塵、焦燥が毛布のように人々をくるみ、苦しめる。

 

シェルターの収容数には限界がある。

だがそれ以上に、政府やギャラルホルンの処理能力の限界の方が早く訪れた。

 

秩序を守るギャラルホルン兵士達ですら、その行動や指示が定まっておらず、民衆のさらなる混乱を誘発した。

面白いのは、この混乱の渦中にいる誰もが、『自分は混乱を収束しようと努力している』と心から信じていることだ。

その行動一つ一つが、混乱全体を構成するピースなのだと誰も気付かない。

 

一番最初に『不幸な事故』が起こったのは、ニューヨーク郊外にある古い核シェルター跡だ。

避難先となった核シェルター跡には先客が居た。

住民IDを持たない難民、孤児、犯罪者。

ギャラルホルンはこの施設に居を構えた先住民の存在を知らなかった。

実地調査すら何年もしていなかったという杜撰さだ。

 

ギャラルホルンが彼らの存在を知った時には、すでに避難してきた何千何万という人々が列を成していた。

当然、今更引き返すことなど出来はしない。

先住民グループが退去を求められ、それを拒否。

痺れを切らしたギャラルホルン兵士が武力に訴えようとしたところ、先住民グループが発砲したことにより本格的な銃撃戦が勃発。

両陣営に多数の死傷者を出し、避難民にまで被害が出るという最悪の結果に。

先住民グループがシェルター内に隠れ、ゲリラ戦の様相を見せたことにより避難民の不満は爆発。

ギャラルホルンへの糾弾もあったが、先住民グループへの弾圧が強かった。

 

先住民グループの生存者への集団暴行が起こる。

この私刑をギャラルホルンは黙認。

怒りの矛先を先住民グループに向けることで、一時的に不満のガス抜きと責任回避ができる。

 

シェルターへの避難を諦め、引き返そうとする列の先頭集団と、騒ぎの原因を知らず、とにかくシェルターに入ろうとする後続集団が交錯し、押し合いになる。

 

そこでまた不和が生じ、喧騒、暴行、事故、殺人へと繋がる。

 

シェルターだけに人が集まった訳ではない。

避難場所として病院、体育館、公民館、公園、広場などに人が密集し、

地下街、地下駐車場、地下通路、地下発電所、地下格納庫などにもぞくぞくと人が集まった。

 

政府存続計画が発動され、SAU代表『ドナルド・ポーカー』はワシントンにある超深度核シェルターに避難した。

これはアーブラウ暫定代表『アンリ・フリュウ』や、

アフリカンユニオン代表『デイビット・クラウチ』、

オセアニアン連邦代表『スィーリ・メッレーナ・シソーファツゲン』も同様に各地のシェルターに避難した。

 

真っ先に逃げ出すことが民衆への好印象にはならないと理解しつつも、指導者の身に何かあった場合、さらなる混乱が予想される。

 

経済圏代表に続き、政府高官、町の代表者達、政府関係者、企業の重鎮達、資産家、それらの家族が、飛行機や鉄道を優先して使用でき、早々と安全地帯へと身を隠した。

身分が高い者から順に、優先して収容される。

一通り身分がある者を収容したなら、その後は早い者勝ちだ。

 

他者を押し退けることで、自身が助かる見込みが生まれる。そんな疑心暗鬼が作り出した混乱と無秩序を、もはやギャラルホルンの兵士と通常兵器では治めきれず、検問の設置も不完全で、人の波を止められない。

 

ニューヨークで起こった『不幸な事故』を知った各ギャラルホルン兵士達は、異様なまでに神経質になり、人を疑い、殺気だってすらいた。

SAU シカゴの防衛を担当していたギャラルホルン、その代表者は、この暴徒の無秩序を瞬時に治める方法として、モビルスーツの使用に踏み切った。

彼は家柄だけで要職を得た人物であり、自分の命令がどのような被害を出すのか、十分な思慮を行っていなかった。

 

街から離れた基地に配備された二機のグレイズを呼び寄せ、避難民の列の前方と後方に配備するよう指示。

本人はこれで、武力によって混乱を抑えこめると共に、ギャラルホルンの威光を分かりやすく示すことが出来ると思っていた。

 

いざ配備を開始すると、モビルスーツが列にある程度近づいた途端、一般車輌が全て機能停止。

モビルスーツに搭載されたエイハブリアクターから発せられる、エイハブウェーブと呼ばれる電磁嵐の影響で、電子機器が軒並み機能を停止したのだ。

 

これに対する民衆の怒りは凄まじかった。

 

民衆にとって「車」とは、移動手段である以上に「安全地帯」なのである。

車内は他者や外部と隔絶された、自分達だけの空間。

座ったままという楽な体勢で超距離の移動ができ、荷物を多く詰め込めて、暖房も効き、ラジオで情報収集もできる。

 

それが全部パーになった時のストレスは尋常ではない。

今まで約束されていた機能が全て使えなくなると、人は多大なストレスを受けるのだ。

 

ただでさえシェルター避難で殺気立っていた民衆。

モビルスーツ投入は火に油を注ぎ、爆発させてしまったのだ。

 

抗議の人だかりができ、ギャラルホルンの兵士達を飲み込む勢いだ。

グレイズの足元にまで人の波は押し寄せ、車を直せ、シェルターに入れろと抗議する。

ギャラルホルンシカゴ地区代表者は唖然とし、グレイズは人だかりを踏み潰さず移動することが出来ず、その場に突っ立ったままになる。

 

どうしようもない状態だ。

この場で一番悪いのは、モビルスーツ投入を命じたシカゴ地区代表者ではなく、その命令を止められなかった部下達と言えるだろう。

しかし、この混乱した状況では皆がパニックになり、何が正解なのか分からなくなってしまうのだ。

 

ーーーーーーーーーー

 

死が確定した。

コロニー落としを阻止できる者は、もういない。

あれだけの質量物が落下すれば、地球は甚大な被害を被るだろう。

 

青い地球に引き寄せられるコロニー、その外壁が、大気と接触したことによって赤く熱される映像を、人々は食い入るように見つめていた。

 

これが、赤い雨………

 

しかし、その禍々しい赤い光とは別に、緑色の優しい光がコロニーを包み始めた。

 

最初は小さな光だったものが、どんどん勢いを増し、ついにはコロニーを覆い尽くす。

 

一際大きな光を放ち、コロニーは跡形もなく消滅してしまった。

 

呆然とテレビを眺める人々。

 

消えた。コロニーほどの質量物が、突如として消えた。

信じられない。

だが、この現象をなんと呼ぶかと言えば………

 

「奇跡だ………」

 

誰かが呟いた。その呟きは全世界に伝播していく。

 

奇跡、神の奇跡。

アグニカ・カイエルの奇跡。

 

あまりにも現実離れした超常現象に、人々は思考を放棄した。

 

この奇跡を説明するという無理難題を、誰もが忌避したのだ。

ただ呆然と見つめるだけ。

自分の中に、この現象に対する『答え』はない。

 

『説明する人物』が必要になる。

人々を、世界を納得させる答えを持つ者を。

 

それが見つかるまでは、『説明する責任』という重い鉄球が転がり続ける。

これに潰されて、きっと大勢が死ぬ。

 

 

凄惨な責任の押し付け合いが始まるのだ。

 

ーーーーーーーーーー

 

 

ドルトコロニーの外壁は、コロニーが大気圏に突入する前に破壊されて分離しており、コロニーとは別の速度と進路で地球に落下した。

地球外縁軌道統制統合艦隊による砲撃の結果だ。

 

アグニカ・カイエルが実現させた奇跡、『コロニーの転送』は、コロニー内のエイハブリアクターを感知することで、コロニーの位置を把握し、それを転送させた。

 

だがコロニーから外れ、エイハブリアクターから距離を取った外壁の存在を、アグニカは感知できなかった。

ただの鉄の塊に『魂』は無い。

魂が無いのであれば、あの状況でアグニカは感知する余裕がなかった。

 

つまり、外壁の落下は

 

アグニカの奇跡の 効 果 範 囲 外。

 

 

剥がれた外壁は20以上の破片となったが、その中で一番大きかったのは直径1キロメートルもある鉄の塊で、やや縦に長いひし形状の外観で大気圏に突入した。

 

小さな破片と一緒に落ちる様は正に魚群の長。

 

秒速20キロ近くという尋常ではない速度で大気圏に突入。

破片の前面にある大気は、急激に圧縮、加熱され、数千度の超高熱となり、赤い光を放つ。

破片もこの圧力を受けて、かなり減速する。

地表から見ると、明るく輝く火球として認識される。

それが雨のように降り注ぐのだ。

 

本来、大気圏という地球の結界に突入すれば、超高熱になることで気化し、燃え尽きる。

 

破片が受ける圧力も、全体で均等という訳ではない。

前面にかかる圧力と、横側、後ろ側の圧力には違いがあり、その圧力の差が「引き裂く」ような、見えない手でぐちゃぐちゃにしてしまうような形で襲いかかり、前後の圧力差がその破片の強度を越えると、バラバラに砕けて小さくなる。

 

しかしドルトコロニーの外壁は、赤い雨革命のために耐熱ジェルを塗りたくられており、材質も超硬質な鉄を使用しているため、ほとんど形を保ったまま落下していった。

 

赤い雨粒達は、思い思いの場所に滑り落ちてゆく。

 

カジノで有名な「眠らない街」ラスベガス。

きらびやかな装飾で舗装された町並みは、抗いようの無い『死』に対して恐怖するように、ガタガタと震えていた。

 

落下する外壁が発する衝撃波が、進行方向に頭を向けた蝶の羽のように広がる。

空気を揺らす音。近くでジェット機が発進準備をしているのかと錯覚する。

これが机の上の食器からビルの支柱、地盤すら揺らしているのだ。

 

人々が見たのは赤い雨ではない。

雲が大津波のように空を流れる神秘的な光景だ。

水蒸気の衣を突き破り、灼熱の鉄塊がその姿を現す。

 

人々は歩みを止め、眩しさに顔をしかませながら上を見る。

ある者は車を下り、ある者は家の窓から、ある者は建物の屋上で。

ただ呆然と立ち止まり、見つめることしかできない。

 

どこか現実味を失った感覚。

余裕があるのも一瞬で、すぐに嵐のような暴風、瞼を貫くような眩しさが人々を襲う。

 

ラスベガスに落下した外壁。

その全貌は

縦30メートル、横10メートル、厚さ5メートルの鉄の塊であり、

重量はおよそ一万トン。

 

風でガラスは砕け散り、人々は枯れ葉の如く吹き飛ばされる。

 

建物を小麦粉の塊のように砕き、吹き飛ばし、外壁はラスベガスの町の地面に突き刺さる。

ドンッ、ここ一番大きな衝撃と揺れ。

地面に衝突すると、外壁の持っていた落下エネルギーは一気に解放される。

外壁は瞬時に熱くなり、衝突がおきた地点は数万度の高温と高圧状態になる。

外壁は溶けて蒸発し、外部に向かって勢いよく飛び散る。

まるで爆弾のような現象をおこすのだ。

 

ラスベガスの町は一瞬で消し飛んだ。

 

人は砂粒、車は小石、コンクリートは剥がれた塗装のように飛んでいく。

大勢の人間が『押し潰されて』死ぬ。

町には人間より柔らかいものの方が少ない。

飛来したものに当たって死に、挟まれて死に、のし掛かられて死に、圧縮されて死に、突起物に引き裂かれて死に、土砂に埋もれて死ぬ。

外壁落下の瞬間を見た人々は、その反対側へと必死の逃走を図るが、悲しいかな、人の身でこの天災から逃げるには遅すぎる。

彼らの行動は何一つ実を結ばず、その場に座り込んだ場合と全く変わらない結果、つまり『死』というゴールで再会を果たすことになる。

 

地盤はビスケットのように割れ、粉塵と爆炎はホットケーキのように膨らむ。

爆音は70キロメートル先まで届いた。

 

粉々になった外壁と、掘り返された大量の土砂が10キロメートル四方に飛び散る。

 

その土砂の重さは合わせて約3万トンにも及び、砂漠の街を灰塵に埋め戻す。

一粒の赤い雨は那由多の砂粒の雨を呼んだ。

 

この町にいる以上、この町を構成していた土、鉄、血の土砂降りからは逃れられない。

 

ラスベガスの町があった場所には直径100メートルの大穴、クレーターが開き、灼熱が周囲を煌々と照らす。

高熱になった赤い土が、牙の間からシューシューと息を漏らす悪魔のような音を立て、水蒸気や土煙で周辺の視界は埋め尽くされる。

『地獄の釜』と呼ぶに相応しい状況だった。

 

衝突地点から半径50キロメートル範囲内のガラスは全て割れ、散弾となって人々を襲った。

 

有名カジノを筆頭にした賭博施設、ショッピングモール、通り、噴水、観光客を抱え込む高層ビルのホテル。

さらには半端な構造と深度の地下シェルター。

そこに居た人々は何が起こったかも理解できないまま即死した。

外壁衝突による高熱で蒸発した者、衝撃波で破壊された建物と運命を共にした者、飛来物により命を落とした者。衝撃波で地面や壁に叩きつけられた者。

ラスベガスの町と、その周囲に住んでいた者達。

 

合計で27万人が死亡。

 

熱波で全身に重度の火傷を負った者や、火球を見たことで目を痛め、視力を失った者、眼球にダメージを負った者は数十万人に及び、大小合わせた怪我人の数など到底計り知れない。

 

ラスベガスの近くにある人口密集地、アリゾナ州のフェニックスにも同サイズの二つの外壁が落ち、太陽の谷と呼ばれた大都市を赤い雨が血と土砂で水浸しにした。

 

フェニックスはSAU最大のエレクトロニクス産業地帯であり、電気機器の製造販売会社が軒を連ねていた。

さらにギャラルホルンが保有する軍産複合企業も存在し、エイハブリアクター整備場やモビルスーツ製造工場まで存在していた。

町中でエイハブリアクターを使うために、エイハブウェーブを遮断する『ハーフメタル』を惜しみ無く使った地下施設が主流となっており、この町の地下には電力供給用も合わせて120基ものエイハブリアクターが存在していた。

 

それらが町の崩壊と地盤の崩落に伴い、施設ごと四方に吹き飛ばされる。

無駄に頑丈なモビルスーツは、その原型を保ったまま宙を舞い、数キロから数十キロ先へと落下する。

エイハブリアクター単体も、物理的には破壊不可能という謎の耐久性によって、たとえ隕石が直撃しようが完全な破壊は不可能。

 

衝撃と共にフェニックスの町の外へと飛ばされる。

 

解放されたエイハブリアクター、その幾つかは稼働し続けており、電子機器を使用不能にするエイハブウェーブを放出する。

これにより無線による連絡手段を広範囲に渡って妨害。

ただでさえ電力供給施設破壊によって停電し、まともな連絡手段がない周辺の町にとって、これは致命的な孤立となる。

 

フェニックスが壊滅したことにより、SAU全体の電力供給の三割が途絶える。

 

『世界の頭脳』を自負する優秀な研究者達を始め、活発な町に生きる全ての命とその営みが鉄と血のミキサーにかけられ、神の晩餐へと捧げられる。

フェニックスは13万人以上が死亡。

あるいは地下施設に生きたまま埋もれている。

救助の見込みなどない、暗くて深い地の底に………

 

二次的な被害だが、飛ばされたエイハブリアクターが運悪く空港の近くに落下。

避難のための航空機が全て機器異常により発進不可能となり、さらに飛び立っていた便と着陸しようとしていた便が不時着、あるいは墜落し、乗客4000人が死亡。

自家用ジェットなどで避難を図った企業の社長などが犠牲になることもあった。

 

 

SAUとアーブラウの国境には、違法移住者などの侵入を防ぐため、ギャラルホルンによる国境警備隊が配備されていた。

コロニー落下地点がSAUと確定する前から、パニックになった民衆が国境を越えようと検問に詰め寄り、人だかりができた。

当然ギャラルホルンも対処し切れず、まともに越境できた人間は少ない。

密輸はいつの時代も旨味のあるビジネスであり、混乱に乗じてSAU・アーブラウ間の国境を越えようとする反社会組織の人間は数知れない。

邪魔なギャラルホルンの検問さえ無くなれば。

 

そんな邪念が引き寄せたのか、

ミシガン州、デトロイト区に外壁の一つが落下。さらにバトルクリーク市にも小さな外壁が一つ落ちた。

80階建ての高層ビルを突き破り、SAU有数の自動車製造地帯だったデトロイト区を壊滅させた。

デトロイトからウィンザーへ渡る川底トンネルや貨物船目的で雪崩れ込んだ民衆を含め、およそ70万人の命が消し飛んだ。

 

アメリカ西岸部に四つの外壁が落ち、そのうち一つはカリフォルニア州サンフランシスコ湾、エンジェル島に直撃した。

観光客ごと島をまるまる消し飛ばし、その衝撃で大津波が発生。

海上に居た船をつまみ喰いしながら、近くのアルカトラズ島を舐め回す。

 

残りの三つも海に落ち、大きな津波を巻き起こしてカリフォルニア州の沿岸部を襲った。

既存の消波ブロックや防波堤では歯が立たず、横に滑るように流れ来る濁った水の流れは、整頓された町の横っ腹を突き飛ばすように進み、あらゆるものを破壊して押し流す。

 

地球という星は大陸より海の方が比率が多いので、コロニー落下地点も海上である可能性が高いというのは、ある程度知れ渡っていた情報であったため、西岸部は比較的に避難が進んでおり、死者はたったの5万人。

300万人が溺れ死ぬ可能性もあったのだから、この地区の指導者やギャラルホルン兵士は頑張った方だと言える。

 

その他の人口密集地には、ジャズ発祥の地であるニューオーリンズ近郊にも落ちた。

その日は人気バンドグループ『ホワイトライトニング』のコンサートがあり、大型会場には大勢の観客で賑わっていた。

 

赤い雨革命によるテロ発生のため、ライヴ中止と避難勧告を叫ぶギャラルホルンに対し、熱狂的なホワイトライトニングのファン達が真っ向から抗議。

会場から動こうとせず、ギャラルホルン兵士と揉み合いになる事件が発生。

この事件の映像が配信されたことで、一部のコロニー墜落を信じていない者や、訳合って避難できない者、終末を受け入れるべきだという宗教団体、あるいは騒ぎたいだけの馬鹿者達がデモを起こし、混乱をさらに助長した。

ホワイトライトニングのメンバーは演奏時間を早めてライヴを強行。

 

その結果41万人を道連れに轟音の中へと消えた。

最期まで楽器を離さなかった映像はファン達にとって至高のお宝映像となり、この映像を隠蔽、拡散防止しようとするギャラルホルンと幾度となく衝突することになる。

 

さらにディズニー映画で知られるフロリダ州 オーランドで23万人、星を越えて有名なジュースメーカー本社があるアトランタで8万人が死亡。

 

人工密集地以外にも落ち、合計およそ5万人が人知れず死んでいた。

 

ーーーーーーーーーー

 

赤い雨革命によってSAUが大規模な被害を被り、他の四大経済圏の代表者達は恐れおののいた。

自分達の地区に落ちなかったのだから、ほっと胸を撫で下ろすべきだろうと思う。

安心して地下シェルターから出るべきだ。

 

しかし出られないし安心できない。

 

最悪の想定が脳裏をよぎるからだ。

SAU代表のドナルド・ポーカーが、このテロをアフリカンユニオンによる『攻撃』と判断し、報復に乗り出すかもしれないのだ。

 

具体的に言えば、核兵器の使用。

 

この世界には、大戦が起こらぬよう、世界秩序の番人たるギャラルホルンが存在し、世界大戦以上の戦乱が起こるような兵器は、全てギャラルホルンが回収、管理している。

だから安心していい……と言い切れないのが問題なのだ。

 

今のギャラルホルンの腐敗ぶりは目を覆うものがある。

ギャラルホルンのSAU支部の者、あるいはSAUに本家を置くセブンスターズ、エリオン家がドナルド・ポーカーと癒着している可能性は十分にある。

そして、口喧しいドナルド・ポーカーを黙らせるため、核兵器の所有を秘密裏に許しているという最悪のケースも考えられるのだ。

ドナルド・ポーカーの自尊心、虚栄心を満たすため、『核は持ってて嬉しいコレクション』という軽い感覚で売り渡していたとしたら。

抑止力などという、今となっては曖昧な理論にすがり、自分を納得させていたとしたら。

 

そして、赤い雨革命という多大なストレスにパニックを起こしたドナルドが、核兵器の使用に踏み出すかもしれない。

 

SAU・アフリカンユニオン間の全面核戦争。

 

冗談ではない。

世界は今、自分達を滅ぼす大戦争勃発の瀬戸際に立たされている。

そのキーを回すのはSAUの他にあり得ない。

 

予測不能な状況になった時、とにかく情報を集めたいとするのが人情だ。

SAUの被害状況、ドナルド・ポーカーの安否、その判断と行動、エリオン家の動向。

これらは絶対に必要な情報だ。

 

生きるために、何かを口にしなければならないように、当然の摂理として、代表者達は部下に指示を出す。

使えるものは全て使い、動かせるものは全て動かす。

 

ーーーーーーーーーー

 

エリオン家の歴史は畜産との歩みと言える。

エリオンと名を変える前、厄祭戦以前から脈々と続くエリオン家の系譜。

ミズーリ州カンザスシティは古くから畜産の中心地と呼ばれ、肉牛の町として有名だった。

カウボーイの少年から始まったエリオン家は、畜産のノウハウを積み重ね、ついにカンザスシティで一番のブランドという名誉を手にする。

カンザスシティはあまり治安がいいとは言えず、武装して治安維持組織としての顔も持っており、エリオン家は「肉と銃の家」と畏敬の念を持って呼ばれていた。

 

エリオン家総本山は広大な土地と屋敷を誇るが、やはり一番の自慢は地下にある大型シェルターである。

その構造は小さなコロニーとでも呼ぶべきもので、エイハブリアクターをエネルギー源として、外壁は地中にありながらナノラミネートコートと同じ装甲を採用(もともとナノラミネートコートはシェルター用に作られた重厚装甲)。

一万人が三十年間生活できる物資、食料、水、設備が整っており、娯楽施設や図書館なども配備している。

 

コロニー墜落を早々と予見していたラスタル・エリオンは、自身と縁の深い者や権力者達を招き入れていた。

エリオン家の血縁者は早々とここに退避。

SAU代表『ドナルド・ポーカー』の姪、『カトリーナ』もここに避難している。

ラスタルに任せれば安心だと太鼓判を押されたのだ。

ミズーリ州の代表者達も便乗し、エリオン家の資金力と磐石さを染々と感じ

 

『ガンダム・ルキフグス』はモビルスーツ形態とモビルアーマー形態の二つに変形できる。

人型のモビルスーツの状態から、頭部を胸に収納し、四肢を畳み、六枚の羽で全身を覆う。

見た目は巨大な輸送機のようだ。

簡単に言えば体育座りなのだが、この状態の防御力はビームシールドと合間って、単独での大気圏突破をも可能とした。

 

バエルゼロズを地球に叩き落とした後、それを追うかのようにルキフグス自身も地球に降下。

大粒の林檎のように赤く、丸い光の塊はSAUへと流れ星のように落下し、

 

 

エリオン家総本山に直撃した。

 

 

直径80メートル、重量400トンはあろうかという巨体が超高速で落下。

そのエネルギーは核爆弾数千発の威力と同等で、その衝撃だけで、少なくともSAUを滅ぼすことすら可能だろう。

 

だがルキフグスはシールドファンネルを展開し、ビームシールドの結界を形成。

余剰エネルギーを、ただ『エリオン家総本山のシェルターがあった場所に集中する』ことに使い、周囲への被害を最小限に留めた。

横に広がる衝撃を、縦に誘導した、というのが正しいだろう。

 

先ほど説明した、エリオン家ご自慢の地下シェルターの防御力などでは、とても防ぎきれない。

もうグチャグチャだ。

 

ラスタル・エリオンの血縁者は全員、一瞬で蒸発、消滅した。

最早この世に存在した痕跡さえない。

エリオン家の生き残りは、ラスタルだけになってしまった。

 

直径2キロ、深さ800メートルのクレーターを形成する。

地球を覆うほどの土砂が舞い散るが、ビームシールドがその全てを遮断することで、地球寒冷化は防がれる。

 

 

全てが人智を越えていた。

 

ーーーーーーーーーー

 

 

アグニカが『転送装置』の存在を知って、真っ先に連想したのが四大天使ウリエル戦だ。

あまり過去への後悔を好む性格ではないが、『転送装置』を戦略的に使えたとしたら、やはりあの戦いでこそ真価を発揮したのではと思ってしまう。

 

宇宙戦に『戦闘中行方不明』は付き物だ。

だがウリエル戦での行方不明者の数は群を抜いていた。

 

ウリエルの最終兵装『銀河鉄道』

 

もともとは惑星間輸送を目的とした大型貨物船の一種で、主に人間を乗せて地球圏の宇宙ステーションから発着する民間の通行手段として運用される予定だった。

 

宇宙の闇夜を、目に見えないレールに乗って走る銀河鉄道の姿は、人々にとって夢のような時代の到来を実感させた。

 

銀河鉄道が開発された頃は、まだモビルアーマーの暴走は起こっておらず、無人探索機として宇宙の探索と開拓を目的とし、大型スラスターによる超高速移動が研究されていた。

 

『思考型モビルアーマー』の立案する作戦は、流石に機械が考えそうなことばかりで、過剰なまでの効率主義と、ガチガチの理論武装によって産み出される。

そのため人間が結論だけ見ると笑ってしまうようなものも多く、追い詰められたウリエルの『銀河鉄道』の運用方法もまた、アグニカとその仲間達の渇いた笑いを誘発した。

 

その戦法とは

 

『銀河の彼方までふっ飛ばす』

 

脳筋としか言い様がない力技の強行策。

具体的には超高速で発進する大型ファンネルと化した『銀河鉄道』をモビルスーツや艦艇に体当たりさせ、そのまま人類に回収不可能な宙域にまで飛んでいかせるというもの。

おそらく当時最高出力のスラスター『アタランテ』、それによってただ真っ直ぐ進む質量体を、モビルスーツのスラスター出力では止めきれなかったし、一度ぶつかられるとアームで固定され、死の旅路へと強制参加させられる。

 

『銀河鉄道』を量産していたウリエルは、この戦法によってガンダム・フレーム7機と艦艇30隻を回収不可能な地点へ飛ばし、事実上戦死にしてしまった。

 

 

あの時、『転送装置』があれば。

たとえどれだけ離れても、どんな速度だろうと先回りし、回収することが出来ただろう。

 

みすみす大勢の仲間を、「ただ死を待つだけ」の状態で浮遊させる悔しさ、探知はできるのに速度の問題で回収不可能という歯痒さ。

あんな思いはしなくて済んだだろう。

 

 

 

アグニカはそっと目を開ける。

 

優しい緑色の光に包まれた空間。

どこまでも広く、凪のように静かで、不思議な力に満たされた空間に、アグニカは浮遊していた。

 

(ここが……『力の世界』)

 

マステマの話を信じるならば、かつてエイハブ・バーラエナも迷い混んだ、世界を構成する重要な空間。

 

前方に大きな鉄の建造物。

地球に落下しようとしていたコロニー、ドルト2だ。

ドルト2の中に、クーデリア、三日月、フミタンの魂を感じ取る。

 

ここ数時間、緊張と激情で張り積めていたアグニカの心が、一気に緩む。

 

(ーーーーーよかった)

 

今にも泣き出してしまいそうな、安堵の表情を浮かべる。

正直、イサリビから転送されて現在に至るまで、アグニカの許容範囲すら越えた事柄ばかりだった。

アグニカの知らない知識、技術、計画、敵、そして変わり果てた味方、最愛の女性の真意、自分の限界とその破壊。

アグニカだって、一杯一杯だったのだ。

 

後ろを振り返ると、バエルゼロズが浮遊していた。

 

改めて見ると、本当にボロボロだ。

修理より作り直した方が早いのではないかと思うほど。

 

「それでも、俺についてきてくれた」

 

エイハブリアクターの中にいるスヴァハ・オーム、そして鉄のフレームであるバエルゼロズ。

 

「ありがとう……な」

 

沸き出た気持ちは、純粋な感謝の念だった。

アグニカは前に浮遊し、ドルト2内部へと入る。

 

コロニー内にいた人間は、全員意識を失い、その場に浮遊していた。

近づき、触れてみると、微かに呼吸をしている。

命の暖かさを感じる。

どうやら昏睡状態のようなものらしい。

 

ちょっと強めに頬を叩いてみたが、全く目を覚ます様子がない。

 

「『ここ』にいる人間は……意識を保てないってことか?」

 

『力の世界』に自力で辿り着ける人間はいないのかもしれない。

誰かに連れてこられたとしても、昏睡状態に陥ってしまうのだろうか。

あるいは、ニュータイプの素養がある人間ならば、意識を保てるのだろうか。

 

クーデリア達がいる場所へとたどり着く。

 

 

三人も他の人間同様、意識を失って浮遊していた。

アグニカはフミタンに駆け寄り、その身体を抱き寄せる。

頬に手を当てると、確かな命の暖かさを感じる。

彼女は、生きてる。

 

「ぅ………ぁ、はっ」

 

アグニカの呼吸が乱れる。

視界が揺れ霞み、鼓動は早鐘のように脈打ち、思考は掻き乱される。

その場に膝をつく。

 

フミタンを力一杯抱き締めた。

いとおしい感触、匂い、暖かさ。

アグニカの傷だらけの青白い頬に、赤みが甦った。

玉のような大粒の涙が、ひび割れた目から零れ落ちる。

 

「うぅ………ううう、ぅうぅーーーー………」

 

嗚咽を漏らし、アグニカは内側から溢れ出る熱を、噛み締めるように泣いた。

 

(生きてるーーー)

 

地獄のような戦闘が続いたアグニカ。

自身の価値観を覆すような体験を、短期間で味わったアグニカは、この命の暖かさに、心が潤っていくのを感じた。

 

「いきて くれてるーーー」

 

荒縄を絞るような、力加減もできていない抱き締め方。フミタンの意識があれば、苦しいと苦笑しただろう。

アグニカはパッと手を離し、クーデリア、三日月も抱き込み、三人まとめてその暖かさを抱き締めた。

 

(生きてる!

生きてる!!

生きてる!!!

 

生きてるんだ!!!!)

 

初めて、アグニカの努力が報われた気がした。

実を結んだ気がした。

 

この枯れ果て、ひび割れ、薄暗い絶望の世界で、果実など育つはずがない。

アグニカの蒔いた希望の種は、芽を出す前に枯れたか、喰われたか、その芽を邪悪に歪められていた。

 

そんな世界で唯一、アグニカが救い出した命がある。

守りたいと願って、本当に守りきった命があるーーー!!!

 

「ありがとう………!」

 

(ありがとう!ありがとう!!ありがとう!!!)

 

アグニカは感謝の念を叫びながら、救われたように涙を流し続けた。

 

 

この世界が混乱の時代を迎えたのは、間違いなくアグニカのせいだ。

 

アグニカ・カイエルと

バエルゼロズのせいだ。

 

彼らがこの世界に現れなければ、少なくともドルトコロニーでこれほどまでの争乱は起こらなかった。

マステマが表舞台に姿を現すことはなかった。

これほどの死と混乱と絶望を掘り起こしたのは、間違いなくアグニカの存在が原因だ。

 

クーデリア達だって、ここまでボロボロにはならなかっただろう。

 

世界の歪みの中心、その元凶が、振り回した相手であるクーデリア、三日月、フミタンに対して、救い、救われたことに安堵し、感謝し、涙する。

 

これほど筋違いなことがあるだろうか?

 

喜劇としか表現できないアグニカの存在、その行動、感情、結末。

 

 

きっと、この世界の誰も理解しないだろう。

でも、それでいいのだ。

 

「生きていてくれて………ありがとう」

 

アグニカは心の底から、純粋な笑顔を見せた。

 

 

(俺はーーーー『しあわせ』だ)

 

 

それだけがアグニカの救いだった。

 

ーーーーーーーーーー

 

いつまでそうしていただろう。

自分の気持ちに余裕ができて、落ち着いてきた頃。

ふと、この世界の外部に意識を向けてみた。

この世界にフミタン達を避難させたのはいいが、元の世界に帰れるのか?という疑問が沸いたからだ。

 

そこで、底冷えするような不快感が脳を直撃する。

 

『死』だ。死の洪水だ。死者の魂が河になって暴れ、濁流を作り出している。

その苦痛と怨念の余波を感知したアグニカは、血液を全て嘔吐してしまいたい衝動に駆られる。

 

『力の世界』に居て良かった。

これほどの『死』を受け入れたら、おそらくアグニカは吐いていた。

 

アグニカは死者の魂を、自身の魂の一部として融合させられる。

食べてしまうのだ。

だが地球におこった大量の死、溢れんばかりの魂を、アグニカは喰いきれるだろうか。

一つ一つは林檎のように軽い口当たりで、ぺろりと食べてしまえる量だとしても。

考えなしに食べ続ければ、いつか腹が裂けて死んでしまう。

 

制御しなくては。

この魂に対する特殊な力を。

 

「なんでだ……?」

 

アグニカを襲うのは大量の疑問符。

自分は、コロニー落としを阻止したはずだ。

なのに、百万人単位で死者が出ている。

これは一体なんだ?

 

「なん………で」

 

理由なんて決まっている。

ドルト2以外にも、地球に降り注いだものはあったのだ。

例えばガンダム・ルキフグスが何かしたとか。

転送装置で新しいコロニーを持ってきたとか。

 

『足りなかった』

 

スヴァハの笑い声が聞こえるようだ。

 

アグニカの起こした奇跡、コロニーを丸々転移させる超常現象。

それは確かに素晴らしい、凄い出来事だ。

 

だがそれだけだ。

 

全然、全く、足りない。

この程度では、世界は救えない。

 

 

「ああ………そうかい。そうか分かったよ」

 

三人をゆっくりと寝かせて、アグニカは立ち上がった。

 

地球だけではない。

ドルト1から6にかけて、大量虐殺が行われていた。

コロニー一つ分の命を救った所で、それ以上の死者は救えない。

 

「ああ分かったよ!!!!

やるよ!!!!

やりゃあいいんだろ!?」

 

安堵の時間から一転、憤怒の表情になるアグニカ。

アグニカは動く。アグニカは自分の救いたい者を救う。

 

10人救えなかったけど一人は救えた。

なら救われた一人の命は無意味なのか?

救われなかった10人の無念を背負わなくてはいけないのか?

 

そんなはずはない。

 

どれだけ手から零れ落ちようと、アグニカは行動をやめないだろう。

彼の心が折れることはないだろう。

 

アグニカはまた、バエルゼロズへと飛び乗り、空間を転移する淡い光に包まれた。

 

ーーーーーーーーーー

 

 

ドルト2を除く、ドルトコロニー五機は安定軌道上に戻され、コロニー内の暴動も一応の鎮圧が完了した。

アリアンロッド艦隊による迅速な行動。

だがそれも、今となってはほとんど意味を成さない。

 

ドルト2は、あと一歩で地球に落下するはずだったのだ。

暴徒に遅れを取り、地球を危機に晒したギャラルホルンに、最早威厳など無いに等しい。

責任を地球外縁軌道統制統合艦隊に押し付けたとしても、果たしてアリアンロッドにどれほど権威が残されているだろうか。

 

それでも、まだ混乱が残っているコロニー内を、懸命に走り回るアリアンロッドの兵士達。

彼らとて、ギャラルホルンの理念を胸に抱いた者達だ。

あのバエルゼロズの戦いを見て、自分達にできる役割を果たそうと、戦い続けているのだ。

 

そんな兵士達の眼前に、巨大な剣が生えてきた。

モビルスーツ用の巨大な剣が、轟音と共に、樹木のように地面から姿を現したのだ。

ここはコロニーの内部。つまり、この剣はコロニーの外壁を貫通してきたということになる。

 

リンゴのパイを切り分けるように、不気味なほど鮮やかにコンクリートの地面を切り抜く。

異質なまでの切れ味。

丸く切り抜かれた地面は、吸い込まれるように陥没し、暗闇に消えていった。

 

その瞬間、コロニー内の空気がその穴に向かって流れ落ちていく。

 

信じがたいことだが、あの剣は、強固なコロニーの外壁を切り裂き、内部に無理矢理侵入してきたのだ。

 

周囲にあった建物、車輌、人々が吸い込まれていく。

無情な宇宙に放り出される前に、一切合切の区別無く、それらは切り裂かれていった。

 

全身が剣でできたモビルスーツに。

ジュリエッタ・ジュリスの成れの果てに。

 

穴から空気の流れに逆らうように、ゆっくりと浮上してくる怪物がいた。

全身が赤い機体。熟れた林檎を思わせる、甘い香りを纏った『赤』だ。

 

『ラスタル様のために!!!』

 

無垢な少女のような声で、ジュリエッタは殺戮と破壊を始める。

彼女が開けた穴はブラックホールのように全てを飲み込む。

地獄へ誘う悪魔のようだ。

その御前には、罪人を処罰し、その魂さえも切り裂いてしまう地獄の神官。

 

その機体の名は『バルバロイ』

まるで意味の分からない言葉を喋る、蛮族の名前だった。

 

右腕、左腕、右足、左足、頭部、上半身のコクピット、下半身

その七つに分裂可能で、それぞれにエイハブリアクターが搭載されている。

化物みたいな機体だ。

 

グレイズ二機が穴を塞ごうと接近する。ジュリエッタの機体を排除するため、銃口を構える。

その瞬間、穴から鬼灯の群れが飛び出してきた。

赤い光に包まれたそれらは、『ピーコックファンネル』と呼ばれる、四大天使の羽。

世界を簡単に滅ぼせる兵器だ。

 

その数156機。

三百年前のおよそ十分の一にまで数を減らしてしまったが、その禍々しさは微塵も衰えていない。

 

一機ずつが意思を持ったように激しく動き回り、グレイズ二機を串刺し、メッタ刺しにする。まるで肉に群がるピラニアのようだ。

ズタズタにされたグレイズが地面に落下するよりも早く、穴から距離のある居住区、人が密集している場所に飛んで行く『ピーコックファンネル』。

怯える民衆を突き刺し、焼き、押し潰していく。

あらゆるものを爆煙と血飛沫に変えていく塗り絵のゲーム。

 

それはもうこの世のものとは思えない殺戮ショーで、阿鼻叫喚の嵐、酷い殺生、無惨な死骸、吐き気を催すような無慈悲の波、死の河、悪辣という言葉すら生温い凄惨な光景であり、地獄という一つの完成された作品であった。

 

タクトを振るうのはジュリエッタ・ジュリス。

かつて、正義の名の元に、敬愛すべき人物のために心身を捧げた少女は、今は幻想に心を囚われ、凶行、悪行の限りを尽くしていた。

 

 

ドルト1に住まう住民、ギャラルホルンの兵士など、この場に居た19万5387人を殺害。その命を手にかけ、未来を奪う。

 

もしも人間殺害数のランキングブックが発行されれば、個人順位の上位陣に早くも食い込むことだろう。

 

だがまだまだジュリエッタは止まらない。

ドルト1を落としたのと同じ手順で、ドルト3、ドルト4、ドルト5、ドルト6を鏖殺して回る。

12万7016人、 8万3501人、 9万744人、 13万22人、11万7001人を立て続けに殺して回った。

 

悪魔だ。常人なら到底、精神を保っていられない、大量殺戮という重大なストレスに晒されながら、ジュリエッタは笑っていた。

 

ーーーーーーーーーー

 

その光景を見て、一体何億人の人間が嘔吐しただろう。

「一度に嘔吐した人間の数」という条件でなら、今この瞬間は、世界の記録を塗り替えたのだと言える。

 

童子組の輸送船「鬼武者」の中で、額に角を生やした黒髪の少女、星熊祥子もまた、盛大に胃の中の未消化物を撒き散らした。

胸の内のドロドロを、全て吐き出したかった。

 

ドルトコロニーには、童子組の支部もあった。

そこで治療を受けていた、彼女と同じ「角」を持つ子供達が、無惨にも斬り殺される映像を見てしまった。

目を閉じても、あの絶望の表情で死んでいった『家族』の顔が、離れない。

 

「る」

 

へたりこんでいた星熊は、拳の皮が裂けるまで握り締める。

 

「おるるるる、るっろろりれやる、ひっ!ひひひっ!!」

 

歯をカチカチと噛み鳴らし、焦点の合わない目で、虚ろな笑みを浮かべる。

髪を振り乱し、モニターに頭突き。角を深々と突き刺し、破壊する。

血が滴るまま、鬼女のような憤怒の表情で、星熊は叫んだ。

 

 

「ぶっっっっ 殺 し て や るるるるるるるるるるるるるるるるるるるるるるるる!!!!!」

 

ーーーーーーーーーー

 

 

呆然とするオルガの耳に、虎熊の悲痛な声が飛び込んできた。

 

『星熊が行っちまった!!』

 

星熊祥子は、金熊の制止を振り払い、モビルスーツ『星熊童子』に乗り込み、モビルスーツデッキから飛び出した。

さらに鬼武者に配備されていた『クタン参型』を、枝から林檎を引きちぎるように奪い、そのまま急加速、ドルトコロニーへと先行してしまった。

 

「あそこはまだ、あの化物がいんだろ!?」

 

星熊の目的は明瞭だ。

剣のモビルスーツに復讐する。

家族の仇を討ちに行ったのだ。

 

『くそっ!俺もすぐに出る!あいつを連れ戻さないと……』

 

「こっちからも人を出す。足の早い奴を」

 

クタン三型の数に限りがある以上、長距離先行ができるモビルスーツを出すしかない。

 

タービンズのラフタが駆る『百里』、ダンジ・エイレイの『シュヴァルベ・グレイズ』が選ばれた。

 

「俺も行く」

 

モビルスーツデッキから通信が入る。

右目に眼帯をつけた大柄な男

昭弘・アルトランドだ。

 

「ちょ、待ってください!その身体じゃあ………」

 

ヤマギが止めに入るが、昭弘の意思は固い。

 

「大丈夫だ、足手まといにはならない。それに、機体は整備してくれてるんだろ?」

 

「そうですけど……でも!」

 

ブルワーズから押収したモビルスーツ

その中の一つ、ガンダムグシオン。

 

これを童子組の船で予備パーツを繋ぎ合わせることで、短期間での修理、改良が完了していた。

 

「童子組には借りがある。グシオンもそうだし、この目のこともな………」

 

体内爆弾で爆殺された昌弘。

その骨が昭弘を襲い、右目を潰してしまった。

昌弘の骨は右目を食い破り、脳にまで押し込まれていた。

手術で取り出したは良いものの、脳内出血が止められない状態だった。

そのため童子組で使われている『義眼』を埋め込み、傷口を塞いだ。

 

「痛むんだよ」

 

「えっ………」

 

昭弘は右目を押さえる。

 

「寝てても、飯を食ってても、トレーニングをしてても………昌弘を救えなかったって気持ちが、俺の中で大きくなっていくんだ」

 

この無力感は、戦場に出る以外で晴れることは無い。

 

「昌弘が………俺の頭の中で、ずっと訴えてくるんだよ」

 

忘れるな。

立ち止まるな。

力を持て。行動しろ。家族を守れ。

 

二度としくじるな

 

「そんなこと………」

 

「だから、俺は戦いたい。戦わなきゃいけねえんだ………団長」

 

オルガに直接懇願する昭弘。

 

「頼む………俺を行かせてくれ!!」

 

ブリッジに居た者は全員、オルガの顔を見る。

ビスケットが口を開いたが、それよりも先に、オルガは決断した。

 

「分かった。けど絶対に無茶はするな」

 

昭弘の出撃許可を。

 

「恩に着る。団長」

 

昭弘は深く頭を下げた。

 

通信を聞いていたラフタは、哀愁漂う表情をして、目をそらした。

 

昭弘の背後には、クリームカーキ色に塗装され直したグシオンがいた。

異常なまでの重装甲は取り外され、延長フレームも解除。骨格は本来のガンダムフレームの姿に戻った。

 

ブルワーズのクダル・カデルの阿頼耶識データから、厄祭戦時代と同等、あるいはそれ以上に魔改造された阿頼耶識の技術を手に入れた。

そこに童子組の角と同じ、『義眼』から脳内電流を機体に送ることで、

 

阿頼耶識三本と同等の力を手に入れた。

 

昭弘の右目に埋め込まれた昌弘の骨

それを今も胸ポケットに入れている。

 

この幻の痛みを忘れないため

家族を守るための『力』

 

ガンダム・グシオンファントムペイン

 

ーーーーーーーーーー

 

 

アフリカンユニオン、ドイツにある地下シェルターに、セブンスターズの家系、ファルク家当主『エレク・ファルク』とその家族が避難していた。

 

コロニーの外壁がSAUに落下したとの情報を聞き、シェルター内の長い通路を小走りで進む。

 

肥満体型で、肌の皮をたるませながら、油汗をかいて歩いていく。

 

目指す先は、妻である『リナリー・ファルク』の個室だ。

部屋の数が限られたシェルターであるにも関わらず、無理を言って作らせた個室。

バンッと扉を開く。

 

「リナリー!」

 

直後、エレクの顔に林檎のパイケーキが飛んできた。

べしゃり、と顔面にケーキを叩き付けられたエレク。

 

「ノックも出来ないのかい!この礼儀知らずが!!」

 

野太い、ドスの効いた声が響く。

 

「………」

 

エレクは無言で、顔のパイケーキを床に落とす。

 

「あたしをこんな狭い部屋に閉じ込めて、あんた恥ずかしくないのかい!?

妻に不自由な思いをさせて!!不甲斐ない亭主だよ全く!!」

 

好き勝手に吠える女性。

その姿はまんまると太っており、肌は内側の肉でピッチリと張りつめている。

身体の大きさだけならばエレクよりも巨大という肥満体型。

その身体にきらびやかな宝石のアクセサリーを飾り付け、見る者を圧倒するかのようだ。

大きな椅子に深く腰掛け、机の上のお菓子をむっしゃむっしゃと頬張る。

歳は六十を過ぎたが、甘いものに目がない。

 

エレク・ファルクの妻、

リナリー・ファルクがそこに居た。

 

「SAUにコロニーの外壁が落ちた」

 

「ふぅん、それがどうしたんだい?」

 

興味が無さそうに呟くリナリー。

 

「物凄い数の人間が死んで、世界中がパニックだ」

 

「結構なことじゃないか」

 

あっけらかんと言い放つ。

 

「ファルク家は医療で成長してきた家系だろう?世間が荒れれば、怪我人病人わんさかだ。絶好のビジネスチャンス到来さね。万々歳だろう笑えよアンタも。ええ?」

 

バリバリとクッキーを噛み砕く音。

 

「私はこれから、今後の方針を立てなきゃならないから外に出る。

君はそのままここに居てくれ」

 

はあ?そんなの当たり前だろう?何を言ってるんだいこの馬鹿は?

という目でこちらを見てくるリナリー。

 

妻に逆らうことは出来ない。

エレクは内心溜め息を吐く。

昔はこんなのじゃなかった。

華奢で、可憐で、儚げで……

大人しく、夫を立て、清楚な女性だったのだ。

腰のサイズなど、今のリナリーの腕ほどしかなかったというのに………

 

いつからこうなってしまったのか。

 

妻に背を向け、部屋を去ろうとするエレク。

 

「ちょいと待ちな」

 

そこにリナリーから声がかかる。

 

「『イズン』と『果樹園』は無事なんだろうね」

 

「あ、ああ。勿論。傷一つないよ」

 

「絶対に目を離すんじゃあないよ。あれはうちの命綱なんだからね」

 

医療用ナノマシンベッド。

その最高峰である超高性能ナノマシン、

通称『黄金の林檎』

これは人体に細胞レベル、遺伝子レベルで働きかけることができるナノマシンで、別名『不老の果実』である。

これさえあれば全身の細胞を良質にケアすることができ、老化すら止めてしまう代物。

圏外圏では子供がバタバタ死んでいるのに、地球圏の金持ちは百歳を越えてもピンピンしていられる。

その理由の一つが『黄金の林檎』なのだ。

 

黄金の林檎というナノマシンを管理する研究者の女性が『イズン・アップルツリーマン』。

彼女の研究施設であり、黄金の林檎の生産施設が『果樹園』と呼ばれている。

 

「あの脳内お花畑を果樹園に縛り付けとくんだよ。あの娘しか、黄金の林檎を作れないんだからね」

 

「分かってる。分かってるよ」

 

「それと、この騒動で助ける面子は、もうリストアップしたのかい?」

 

「い、いや……まだ」

 

ハァ、と大きな溜め息を吐くリナリー。

 

「しょうがないね。あたしがやっとくよ」

 

「い、いや、それは………」

 

リナリーに任せると、節操もなく金持ちや権力者から救い、見返りを求めようとする。

あまり良い心証を与えない。

 

「私がやる仕事で…」

 

「いいから早くしろお!!!!」

 

「ぅひっ!わ、わかった!そうする!」

 

エレクは逃げるように部屋を去っていった。

 

ーーーーーーーーーー

 

ガンダム・キマリスと

ガンダム・アスモデウス・ベンジェンスは母艦の近くの宙域に浮かびながら、地球軌道上で起こった奇跡を眺めていた。

 

「すば………らしい………………」

 

マクギリスは内側から溢れ出す激情に、身体の芯から震えていた。

 

限界なんて、無い。

 

アグニカ・カイエルの引き起こした奇跡。

この世界のルールなど、紙切れのように引き裂いてみせた、あの偉業。

アグニカは常に、マクギリスの価値観を塗り替えてくれる。

 

「世界を変える力………」

 

厄祭戦時代の風。

吹き抜けるような心地よい感覚に、マクギリスはうっとりと目を閉じた。

 

「感じるかガエリオ………分かるだろう?」

 

混乱と衝撃。

死と絶望、鉄と血の大惨禍。

時代の移り変わり。その瞬間を自分達は見ている。

 

「変わる。変わるぞ、何もかも!この退屈な世界が、あるべき姿を取り戻すのだ!!!」

 

決して乗り遅れるな。

風に乗れ、自分の感覚に従え。

 

「皆が目を覚ますぞ。

己の持つ牙の使い方も知らず………ただうずくまるだけだった獣達が、一斉に野に放たれる!!

皆がアグニカの背を追うだろう!

だが遅い!遅すぎる!!

アグニカは進み続ける!眠っていた間に離された距離は、もう縮まることはないだろう!

だが俺たちはどうだ!?

俺たちは既に目が覚めている!

走ることができる!!

遅れるな!!走れ!!追いすがるのだ!!

 

アグニカ・カイエルの元へ行くぞ!!!

そのための努力を怠るな!!

 

ガエリオ!!!」

 

通信モニターを通して、マクギリスの爛々と光る目がガエリオを見る。

 

「お前も来い!!」

 

ーーーーーーーーーー

 

 

地球圏を襲ったコロニー落とし、バエルゼロズという伝説の機体、アグニカ・カイエルの再来、クーデリアの演説、カルタ・イシューの安否、そして、コロニーが消失するという超常現象。

 

これらに心を動かされなかったと言えば嘘になる。

しかし、どこか他人事のように感じた。

 

それより強い関心が、その男の目に向けられていたからだ。

 

「お前も来い!!」

 

その一言だけで、全てが報われた気になってしまうのは、ガエリオ・ボードウィンという男のコンプレックス故だろう。

 

「ああ………

ああ、行く!俺も行く!!」

 

アグニカ・カイエルの奇跡に感化された訳ではない。

アグニカに突き動かされたマクギリスの言葉に、ガエリオの心は引き寄せられたのだ。

 

マクギリス・ファリドが、その全てを話すと言った。

 

いつからか、心に仮面をつけ、本性を隠すようになったマクギリス。

その本当の気持ちを、自分にだけはさらけ出してくれていると思っていた。

しかし最近になって、自分はマクギリスに認められているのかと不安になることが多かった。

決定的なのは「グレイズ・アイン」との会話。

 

拠り所が空虚な、実行力を持たぬガエリオの正義感。

最愛の親友から、本当に友だと思われているのか。

本当は眼中に無いのではないか。

不安というものは一秒ごとに大きくなる。

 

そんな矢先に、マクギリスは、自分にだけに………

そう、ガエリオにだけ、自身の心情を明かすと言ったのだ。

 

それは、自分を認めてくれたってことじゃないかーーー?

手を差し伸べてくれたってことだろう?

 

期待というものは一秒ごとに膨らみ、ガエリオを内側から圧迫する。

 

 

一旦ファリド家のハーフビーク級戦艦『フェンリル』に戻ると言われ、じれったい思いをし続けていた。

自分も無理を言って『フェンリル』に着艦し、中破したキマリスから降りる。

 

マクギリスはモビルスーツデッキを見下ろせる、上部の手すりに寄りかかっていた。

ガエリオも浮遊して、その横に並ぶ。

 

「アグニカを追うなんて言うから、てっきり大気圏降下でもするのかと思った」

 

「ああ」

 

「………」

 

「………」

 

沈黙が流れる。

あれだけ気が急いていたのに、いざマクギリスを前にすると、どう言っていいのか分からない。

 

忙しそうに飛び回る整備士達を目で追いながら、顔をあっちに向けたりこっちに向けたり、落ち着かない。完全に挙動不審だ。

 

いよいよ我慢できなくなって、口を開こうとした瞬間、マクギリスの声が鼓膜に届く。

 

「俺はモンターク商会会長の隠し子だ」

 

ポツリ、ポツリと言葉を落としていく。

それを一つも聞き漏らすまいと、ガエリオは全神経を集中させた。

マクギリスの独白は、もう始まっているのだ。

 

「父親に捨てられ、スラム街で生き延びた。残飯をかじりながら……」

 

スラム街で暮らしていた。

マクギリスがそういった出自であることを、ぼんやりとは理解していた。

初めてマクギリスを見た時、最初に浮かんだ印象は「ばっちい」だったくらいだ。

 

「男娼として売られた俺は、我が父上、イズナリオ・ファリドに買われた」

 

我が父上、という言い方に皮肉っぽさを感じる。

いつものマクギリスの言い回しだ。

だが、「だんしょう」って何だ……?

まさか、男娼のこと………

 

「毎晩のように繰り返される汚辱。俺の心は泥沼に沈むように、ゆっくりと死んでいった」

 

「は………?」

 

なんだ?

今何て言ったーーー?

 

マクギリスの言葉が、靄がかかったように、正確に捉えることができない。

 

「自ら命を絶とうと思った」

 

「待ってくれ!!」

 

思わず、マクギリスの言葉を遮る。

イズナリオがマクギリスを、男娼として買った!?

跡を継がせるためじゃないのか!?

血縁関係が無いという噂は散々聞いていた。

だが引き取った目的は想像もしていなかった。

ガエリオの脳には、子供を引き取る理由など、「我が子として育てる」以外に思い付かなかったからだ。

ーーーまだ子供だったマクギリスを、自分の欲望の捌け口にしていた!?

 

イズナリオと面会するマクギリスは、どこか目が死んでいたし、仲も良くはないと思っていた。

だが、そんな理由があるなんて知らなかった!

イズナリオの顔を思いだし、ゾッと背筋を悪寒が走る。

あの男……あの男は………

 

「とどめてくれたのは、一冊の本だった」

 

どこから取り出したのか、マクギリスの手には一冊の本があった。

 

『アグニカ・カイエルの人生』

 

ギャラルホルンなら誰でも知っている、伝説の英雄アグニカ・カイエル。

 

「俺は知ったのさ。

あるがままの自分を貫き、望むまま衝動に従い、戦う。

これこそ人間のあるべき姿。

『力』こそが、この世を変える唯一の方法。

『暴力』こそ、自分を守る最大最良の方法だと………!」

 

マクギリスの内側から、湯気が立っているのだと錯覚した。

迸る活力、精神力に圧倒される。

 

「俺は、『マステマ』という存在に出会った。

厄祭戦時代の、血塗られた天使の残骸。

『思考型モビルアーマー』」

 

「モビル……アーマー………?」

 

話が飛躍しすぎて、今どこを飛んでいるのか分からなくなる。

何故、そこでモビルアーマーが出てくる。

そんな巨大な兵器が、お前の人生のどこに割り込むスキを見つけた?

 

「人の姿をしていたよ。白い、天使のような姿をな。

俺は彼に協力させ、本当の父親であるモンタークを殺した」

 

「ころ………」

 

なんで………?

 

「俺は変わるのが怖かった。

孤独と憎悪こそが、俺を確立させてくれる感情だった。

それは俺を鉄のように固めた。

そうでもしないと、俺は………」

 

マクギリスは初めて、弱気な態度を見せた。

あのマクギリスが。

消え入りそうな表情をしたのだ!

 

「何者でも、なくなってしまう……気がした」

 

マクギリスにもあったのだ。

自己を見失う時期が。弱さが。曖昧さが。

 

その事実を知れた喜びは、ガエリオを童心に帰した。

 

(ーーー俺もだ!!俺もそうなんだ!!

自分がちゃんと存在できているのか、認められているのか不安だった!

ふと後ろを振り返ると、何も、俺を証明してくれるものが無い気がした!!

俺は、何かに一生懸命になったことなんて無かった!

お前のこと以外は!!

そうだ!!俺は、お前に認められたい!!

それだけに心血を注いできた!!

それだけを望んでここまで来た!!)

 

「俺も……俺もだマクギリス」

 

弱さを見せてくれた。

これで俺たちは、本当に分かり合える!!

 

「不安だった………お前に、認められない俺なんて、もうどこにも居場所はない。

本当に友と呼べるのは、お前だけだ………マクギリス」

 

マクギリスの言っていることは、半分も分からなかった。

けれど、全部吐き出してくれた。

 

「知らなくて、すまない………俺が馬鹿だった。気づいてやれなくて………目が節穴だった。

けど、これからは………」

 

ガエリオは一歩、マクギリスに近づく。

今まで踏み出せなかった一歩だ。

怖くて、自信がなかった小さな一歩だ。

 

「お前を理解してやれる………!」

 

マクギリスを理解せずに、階段を踏み外して転げ落ちるような未来もあったかもしれない。

 

「変わらず………ずっと、友として………」

 

けど今は違う!

ガエリオとマクギリスは、分かり合える!!

 

マクギリスは言葉を続ける。

 

「だから、それ以外の感情は、邪魔だった」

 

ガエリオの動きが止まる。

喉元に刃物を突きつけられたような、冷たい感覚。

ごくりと唾を飲み込む。

 

マクギリスは射抜くような視線で、ガエリオを覗き込む。

 

「俺はお前を、殺すつもりでいたよ」

 

「はぇ………………?」

 

ガエリオは喉から情けない声が漏れる。

おもちゃを取り上げられた子供のように、ただ呆然と、身体を投げ出すように突っ立っていた。

 

「『友情』『愛情』『信頼』

それらは俺を救い出してくれたかもしれない、暖かな感情だった。

だが、ひとたびそれを受け入れてしまえば、俺は俺ではなくなってしまう。

俺じゃなくなった時、俺は、一体どうなってしまうのか………?

俺はそれが怖くて、投げ出そうとした」

 

「………………え?………え?…え?」

 

頭の中で言葉がグルグルと回る。

マクギリスの言葉を一語一句漏らさぬよう、脳を最大限動かしていた結果、必要な情報と不必要な情報の整理がつかず、完全にオーバーヒートした。

 

目がじわりと霞む。

涙が出てきた。その事実に情けなくなって、恥ずかしくなって、さらに涙が溢れてくる。

 

「そうでもしないと、前に進めない気がしたんだ。

だから、捨てる。

利用する。最大限利用して、見捨てる。

自分以外は、全て捨て駒。

そう思うことで強くなれた」

 

自分や、カルタの命を……

アルミリアも、父親のガルスも、全てを利用しようと………

 

「お前達を殺すことで、道を一本に限定しようと思った。後戻りできなくなれば、そこから先は、目を瞑ってでも走り続ければいい」

 

所詮自分は、マクギリスにとって、その程度の存在でしかなかった。

 

「うっ………」

 

胸から沸き出る不快感に、ガエリオは口を押さえる。

 

「うぼえっ!!!!うぉっ………おごおえ!!!」

 

吐瀉物を撒き散らす。

足元が汚れても、マクギリスは表情一つ変えなかった。

 

「ぇおぁ………ぇ゛えっ………お゛え゛え゛え゛え゛」

 

内臓がひっくり返ったような不快感。

喉が酸で焼かれるように痛い。

鼻の奥にツンと刺激が走った。

 

「ちがう……」

 

ガエリオは心が折れそうだった。

何一つ、マクギリスの言っていることが理解できないのだ。

だから、今の自分に、マクギリスへの明確な答えを示すことは出来そうにない。

 

しかし、それでも。

 

「ちがう、ちがう、ちがうちがうちがうちがううううううう!!!!!」

 

マクギリスにではなく、自分に言っているのかもしれない。

 

「ちがうううううううう!!

ちがうだろおぉぉおおおぉぉぉぉぉお!!!!」

 

違う、こんなのは夢だ。悪夢だ。何かの間違いだ。

 

「おまぇ、おまっ………ハァ、おま」

 

マクギリスが自分を利用して、捨てて、殺そうとしていたなんて。

俺だけじゃない。カルタも、ガルスも、アルミリアも、ギャラルホルンそのものまで………

 

「お前はぁぁぁぁーーーーー」

 

だからこそ、これだけは伝えなくては。

 

マクギリスの胸ぐらを掴み、大声で叫ぶ。

 

「お前は間違ってる!!!」

 

違う道があることを、伝えなくてはならない。

 

「そうだな、間違ってる」

 

「えっ………」

 

あっさりと、マクギリスは自身の破綻を認める。

少し、マクギリスを掴む手が緩んだ。

 

「負けたっていいんだ」

 

マクギリスは遠い場所を見つめる。

おそらく、あのバエルゼロズとアグニカ・カイエルを姿を幻視している。

 

「どんなに変わり果てたっていい。

最後に勝てば、それが本当の勝利だ。

結果だけではない。過程すら楽しみ、糧とする。

そこに真の人間性がある」

 

「は………はは、ぁはっ、………ははははっ」

 

力が抜けていく。

 

「ああ………

あぁああぁーーーー、

あーーーーーあぁあああ、っは、

はああああーーーーーーーーーー」

 

空っぽの笑い声のような、不気味な声をあげて、ガエリオは泣く。涙を滝のように流す。

鼻水も涎も垂れ流しだ。

 

マクギリスを掴んでいた手は、今やすがり付くような体勢になっていた。

ずるずると体勢を崩し、膝を付く。

 

「なあ…分からない………俺にはどうしても分からない………

分かるように言ってくれないか?

なあ………

なあーーーーーーー、分かるように言ってくれよおおお………

なあぁぁぁぁぁぁぁぁあ………

俺にはお前が分からない………

分からないんだよぉぉぉぉぉぉーーーーー………

ああ、はは………

ははははは………

 

はは………分からなくなってしまったよ………」

 

惨めな懇願。

恥も外聞も無く、ただ諦めの悪い子供のようにしゃくりあげる。

友の醜態を見ても、マクギリスは何も言わない。

マクギリスは姿勢を崩さない。

 

「あの光を見たか?ガエリオ。あの輝きを」

 

「あの頃は、いつも三人で………あの頃は、俺の中で、輝いてるよ」

 

「俺は、純粋な力のみが輝きを放つ世界を作りたかった」

 

「ずっと、俺たちは一緒だって………純粋に、思ってたよ」

 

「だが、俺の思っていた輝きなど、狭い世界に縛られた、つまらないものだった」

 

「でも、それは妄想で………本物じゃなかった。俺はそれに、縛られてて」

 

「アグニカ・カイエルには限界なんて無かった!!」

 

「なんで、俺たちじゃなくて、アグニカに………アグニカなんかに救われるんだよ………!?なんで、俺に本心を見せてくれなかったんだよ!!」

 

「純粋な力とは!!無限の可能性を見せてくれる!!」

 

「『力』ってなんなんだよ!?

お前の言う『強さ』って何なんだよ!?

お前にとって俺は何なんだよ!!!!」

 

「俺にとってアグニカ・カイエルは!!」

 

「アグニカアグニカうるさいんだよ!!!

俺たち、ここから始まるんじゃないのか!?なあ!?お互いの全部を出し合って、本当に分かり合えるんじゃなかったのかよ!!??」

 

「『始まり』なのだ!!新しい世界への扉なのだ!!」

 

「新しい世界ってなんだよ!?

今までの………俺たちはどうなるんだよ!?

なあ!!

俺も!!カルタも!!!

妹だって!!お前になら、安心して任せられると………」

 

そこでマクギリスは言葉を止め、ガエリオの肩に手を置いた。

 

「それについては心配いらない」

 

「えっ………?」

 

「アルミリアの幸せは、俺が保証しよう」

 

「幸せ………幸せってお前………」

 

先程のクーデリア・藍那・バーンスタインの演説が、脳裏に甦る。

 

『そんな手段で勝ち取った未来が、本当に幸せと言えるのか?』

 

『家族にちゃんと「ただいま」と言えるのか?』

 

ガエリオとカルタを殺して、道を塞いで、嘘で塗り固めた、破滅が確定している未来。

その付添人にアルミリアを選んだ………?

 

「そんなの………偽りの幸せだッ………!!」

 

そこで初めて、マクギリスが困惑したような表情になる。

小首を傾げて、ガエリオに問う。

 

 

「幸せに、本物と偽りがあるのか?」

 

ガラガラと、何かが崩れる音がした。

ガエリオの中の、マクギリスという人物を思い描く要素。積み木のような何かが。

 

膝に死ぬほど力を込めて、人生で一番根性を入れて、立ち上がる。

 

歯を喰い縛り、全身に力を込めて、姿勢を正す。

 

「うおああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ!!!!!!!!」

 

マクギリスの頬を、全力で殴りつけた。

マクギリスは後ろに倒れる。

あの余裕綽々とした表情が、拳によって歪む所を初めて見た。

 

右の拳が痛い。

足がガクガクと震える。

 

「そんなことも 分からないのか!!!!」

 

ガエリオの咆哮は、モビルスーツデッキに響き渡った。

何事かと皆が集まってくる。

 

涙が滝のように流れる。

ガエリオはマクギリスに近付き、その胸ぐらを掴み上げる。

 

 

「オレを見ろ!!!」

 

力ずくで、自分と視線を合わさせる。

 

「お前のッ……話を………聞いてると!」

 

マクギリスは口から血を垂らしながら、黙って聞いている。

 

「俺に………全部俺に押し付けてるだけじゃないか!!」

 

マクギリスがガエリオを殺すのは、何も邪魔になるという理由だけではない。

 

「自分が持て余した感情を………俺に肩代わりさせて………そのまま自分だけ、身軽になって前に進むだと!?」

 

『友情』『愛情』『信頼』

それがマクギリスを腐らせる感情だった。

だから捨てた。

 

『ガエリオとカルタに押し付ける』という形でだ。

 

感情は自分の中にある。

だから、その感情を捨てたいというのなら、二人の想い出と共に沈めるしかない。

二人に感情を背負わせて、殺すことで、自分の中の感情も殺すことができる。

 

一種の自己暗示に近い。

 

「冗談じゃない!!!

俺はお前の荷物持ちじゃない!!!

俺はお前の………思い出なんかじゃない!!!」

 

荷物持ち。その言葉に、自嘲に近い笑みが溢れる。

 

「ふはっ………そうだよ!!分かってる!!

俺とお前が並べば、必ずお前が前に出る!俺はその後ろに立ってるだけだ!!」

 

マクギリスの隣にいる人。

マクギリスのオマケ。添え物。

 

「横じゃない……後ろにいる………

そんなの分かってる!!

けど 『下』にいたつもりなんて無かったんだぞ!!!!!」

 

マクギリスと同じ目線で世界を見ていると、本気で思っていたんだ。

 

「お前、どうしてそんなに馬鹿なんだ………?俺よりずっと頭がいいのに、なんで………」

 

ガエリオよりずっと才能がある。

頭脳、体力、センス、ルックス。

そして、決して努力を怠らない向上心。

俺はそんなお前を、本気で尊敬していたっていうのにーーー!!!

 

輝かしいはずの未来を、過去のために、

 

「ドブに捨てるような真似しやがって!!!」

 

そこまでして手に入れたものが、『力』だと?『可能性』だと?

 

「自分の荷物も持てないくせに、何が『力』だっ……!何が可能性だ!!限界が無いだ!!寝言は寝て言え!!!」

 

そんなもの、本当に望んだ『力』じゃないだろ!!

 

「お前、荷物を持ったとこがないから………!

持ち方も分からないんだろう……!!」

 

ガエリオの中の、正直な心は叫んでいた。

言え、言え!ここで言え!!言ってしまえ!!

 

「だから………」

 

ここで言わなきゃ、ずっと言えないままだぞ!

 

「だから………

だから………」

 

マクギリスとこんなに近くにいられるのは、今だけかもしれないんだぞ!!

 

「俺が………………」

 

早くしろ!!!

ここで言え!!!

 

「俺が一緒に持ってやる!!」

 

瞬間、世界が塗り変わった。

 

「俺だけに持たせるなんて、絶対に御免だ!

自分で持て!!

持てないなら………俺に頼め!!」

 

言えた。伝えることができた。

ガエリオは全てを吐き出した。

 

マクギリスの手を引っ張って、起き上がらせる。

 

「ちゃんと、俺に、言え」

 

ガエリオはマクギリスが分からない。

だが、この分からないという気持ちを、マクギリスに押し付けようとは思わない。

これは俺の気持ちだ。

俺の持ち物だ。俺が持つ。

けれど、これはとても重くて、一人では持ちきれそうにない。

 

ならば、マクギリスにも持ってもらう。

 

そうだ、なぜ俺は、マクギリスにそこまで気を使っていた?

負い目を感じていた?一歩引いていたんだ?

マクギリスの荷物持ちばかりさせられてきた。

使い走り根性が身についてしまったのだ。

全部、ぜんぶぜんぶマクギリスが悪い。

 

だから、これからはマクギリスにも、重い荷物を持ってもらうぞ。

 

「分かった」

 

憑き物が落ちたような、どこか軽やかな表情で、マクギリスは立ち上がり、姿勢を正す。

 

「お前の言う通りだ、ガエリオ」

 

自分の荷物も持てないで、何が『力』だろう。

そんな空っぽの人間が、アグニカに追い付けるはずがない。

 

「これからは、俺も持つさ」

 

「いいご身分だよ、ほんとに………」

 

涙をごしごしと拭い、いつもの軽口を叩く。

周りの人間達も、二人の雰囲気が穏やかになったことに安堵する。

 

「これからは………一緒に」

 

突如、非常アラートが艦内に鳴り響く。

一気に緊張感を増す整備士達。

 

『アリアンロッド第一艦隊が、所属不明のモビルスーツに襲撃され、甚大な被害が出ています!本艦に救援要請が出ています!!』

 

マクギリスは近くの通話機から、艦長に繋ぐ。

 

「敵の数は?」

 

『一体です!情報ではモビルアーマーとの合体機だと………』

 

「俺達も出る」

 

通話を切り、ガエリオと真っ直ぐ向き合う。

 

「ガエリオ」

 

マクギリスは、ガエリオに撃ち殺されることも覚悟していた。

殺すつもりだと言ったのだ。

ならば、自分も殺される気でいなければ、対等ではない。

 

「俺はお前を、殺すかもしれないんだぞ」

 

「もう無理だ」

 

ガエリオはマクギリスの言葉を、ばっさりと切り捨てる。

 

「俺がお前に殺されるとしたら、俺が、お前が俺を殺す気でいると知らない時だ。

だが今はもう、知ってる。

知っているなら、そのつもりでお前の隣に立つ。

不意打ちも騙し討ちも効かない。

真っ向から戦えば、俺はお前に負けるとは思っていない。

これっぽっちもだ」

 

自らを鼓舞するような言い方。

マクギリスを挑発するような言い方。

 

これは宣誓でもあった。

 

 

『どんなに形が変わろうと、俺はお前を追いかけ、その隣に立つ。

お前に俺という存在を認めさせる』

 

「ふっ………はははははっ!」

 

「おい、笑うなマクギリ…ふはっ………

俺は真剣、っ、ははははっ」

 

二人は、腹を抱えて笑い出した。

 

「「ハハハハハハハっ!!!!ハハハハハハハハハハハハハハハハッ!!!!!」」

 

 

この壊れてしまったような感覚が、何より気楽で、嬉しかった。

 

ーーーーーーーーーー

 

 

宇宙空間を、ゆったりと浮遊するバルバロイ。

『無人』と化したコロニー群をうっとりと見つめている。

 

百万に届くほどの人間を殺し尽くしたジュリエッタ

 

 

画面上に警告が表示される。

培養液に満たされたコクピットで、ジュリエッタはチラリと視線を向ける。

 

高速で接近してくるモビルスーツが一体。

そのエイハブウェーブの反応から、機体の特定が瞬時に行われる。

 

「あはっ」

 

悪の権化である鉄華団、それに味方する愚かな欠陥品集団「童子組」のモビルスーツだ。

 

ドス黒い赤のカラーリング。

頭部は鋭い眼光と牙が特徴的で、正に鬼のようだ。

岩のように武骨な装甲に身を包む。

その腹の中には、憎悪に心を焼いた鬼女が一人。

 

「かたき……みんなのかたき……」

 

うわ言を繰り返す星熊。

額の赤い角からは、バチバチと火花が散っていた。

 

『ラスタル様の障害……この世界に必要のないもの……』

 

お互いがお互いの姿を視認し、叫ぶ。

 

 

『「殺す」』

 

 

星熊童子と切り離されたクタン参型は、搭載していた誘導ミサイルをありったけ発射する。

まるで鴉が羽を広げたかのようだ。

クタン参型自体は速度を保ったままジュリエッタに直進。

 

四肢と胴体に分離したバルバロイは、全身が意思を持った剣のように、クタン参型を斬り刻む。

爆発するクタン参型。

誘導ミサイルすらも斬り落とし、爆炎が周囲を埋め尽くす。

その業火を突っ切って急接近し、星熊は棍棒を振りかぶる。

 

『鬼神化率100%』

 

脊髄からモビルスーツに神経を繋ぐ阿頼耶識システムとは違い、脳に直接埋め込み、脳内電流を増幅させ、直接機体に命令を下すシステムなのが『鬼人式』であり、その理論上最高精度が『鬼神化率100%』である。

 

星熊童子のバックパックから、大量の小型ミサイルがばらまかれる。

 

敵がパーツごとに分離して飛行することは分かっている。

小型ミサイルに対応させている間に、自分は最短で決着をつける。

狙うは心臓。つまり、敵機のコクピットだ。

 

フルパワーで棍棒を振るうも、胴体パーツはするりと身を引き、回避する。

その瞬間、星熊は散弾銃を腰から抜き、至近距離でぶっぱなした。

胴体パーツの装甲に被弾する音。

広範囲攻撃を食らい、動きがぶれるジュリエッタ。

理想はスラスターを破壊することだったが、星熊は躊躇無く棍棒を横にスイングする。

ジュリエッタは回避するのではなく、重なった刃のような装甲を逆立たせ、星熊に直進。

棍棒は胴体パーツをかすめ、装甲の一部を破損させた。

ジュリエッタの攻撃は星熊童子の右肩の装甲を、武装の小型ガトリングごと斬り飛ばす。

すれ違い様に、星熊は車輪のように回転し、球技のように胴体パーツを蹴り飛ばす。

手応えはあった。

胴体パーツの刃はいくらか破損し、傷がついている。

パイロットにも有効打を与えたはずだ。

 

追撃に、左肩の小型ガトリングで射撃。

体勢を立て直す暇など与えるものか。

 

星熊の背後からバルバロイの右腕が襲いかかる。

星熊の尾てい骨にあたる部分から、刃のついた尻尾が飛び出す。

『破軍星』と呼ばれるワイヤーソードが星熊の背中を守る。

 

再び小型ミサイルを乱射、ここで全弾使い切る。

胴体パーツを背後から包み込み、逃げ場を無くす。

接近戦に持ち込んだ。

今度こそ逃がさない!

 

大振りな攻撃は当たらない。

棍棒を短く持ち、柄頭でガラスを割るように突く。

星熊の鋭い打突を、下方に飛翔して回避するジュリエッタ。

星熊の足裏が見える位置に逃げ込む。

人型のモビルスーツにとって、死角となる箇所はどうしてもある。

散弾銃を足元に発射。

ジュリエッタは距離を取ることで集弾率を減らし、ダメージを軽減する。

 

モビルスーツの宇宙戦において、射撃武器の有用性の一つは『死角のカバー』と言えるだろう。

極論、上も下もない無重力空間において、人の形をした兵器には稼働上の制限が多い。

今のように、高速の小型機が死角に回り込んできた時、対応することが難しい。

そういう状況では「とりあえず撃つ」に限る。

「射撃武器」と考えるから弱そうに感じるのだ。

「超高速で直進する鉄の塊」と思えばいい。

簡易的なファンネルとでも呼ぶべきか。

その有用性、頼もしさが分かるはずだ。

射撃武器は心強い仲間。

 

仲間が作ってくれたチャンスを、スラスターを全開にして活かす。

三度距離を詰めた星熊。

しかし、バルバロイの右腕、左腕、右足、左足、頭部が投擲された剣のように襲いかかった。

棍棒で一撃、「破軍星」で一撃を防御するも、星熊のバックパックに刃を突き立てられ爆発、右足を切り落とされ、頭部の左半分を吹き飛ばされた。

 

「じゃあああああああああああ

まぁあああああああああああああああ

をぉををををををををををを!!!!」

 

回転して棍棒を振るい、バルバロイの四肢を払い除ける。

 

「するなああああああああああああああ!!!!!!」

 

嵐のように剣の群れを叩き飛ばした。

執拗にバルバロイのコクピットを狙う星熊。

棍棒の打突はわずかに届かず、胴体パーツは風に吹かれたように流れていく。

星熊は諦めない。追いすがり、食らい付き、逃がさない。

打突、打突、打突。

正確無比な攻撃を、針の穴を通すように回避するジュリエッタ。

星熊の執念と攻撃の精密さ

ジュリエッタの反応速度

どちらも人間の領域を越えていた。

 

虎熊が通信で叫ぶ。

 

「駄目だ星熊………戻れ!!」

 

星熊から返事はない。

 

「一人で戦うな!!!!!!」

 

バルバロイの四肢が飛来。

ついに星熊の右腕を切り落とした。

切断面から火花が散る。

右腕がついた棍棒は、虚しく宙を薙いだ。

左腕で散弾銃を構えるも、照準が合わぬうちに銃身を切り落とされ、爆発。

体当たりするように直進する。

左足が切り落とされるのも気にしない。

バルバロイの右腕が星熊のコクピットを狙う。

切られた左足を掴み、バルバロイの右腕に叩きつけた。

あと少し、あと少しで届く。

 

「破軍星」が棍棒を巻き取り、再びこの手に引き寄せる。

その破軍星も根本から切り落とされるが、構わない。

奴を殺すことが出来れば!!

 

バルバロイの四肢はターゲットを変えた。

星熊本体ではなく、武器である棍棒へ。

後退するジュリエッタは、星熊祥子の心を折ることに執着したのだ。

 

ズタズタにされ、傷だらけになる棍棒。

それでも、攻撃は届くーーー!!

今度こそ命中する。

そう確信して突き出した棍棒が、真っ二つに切り裂かれた。

次いで、左腕を肩口から切断され、最後の腕も、小型ガトリングも失う。

 

四肢を失い、達磨にされた星熊。

そこにジュリエッタが直々に止めを刺す。

刃を逆立たせ、飛来する胴体パーツ。

 

星熊童子の頭部が割れ、大きく口を開く。

飛び込んできた胴体パーツを、その顎で喰い止めた。

 

捕まえた(ふははへは)

 

遂に捕らえた!!

星熊の奥の手、頭部の補食機能。

鋭い牙で噛み潰す!

メキメキと胴体パーツが軋む音がする。

星熊祥子は全神経を顎パーツに集中させた。

 

私は(あはひは) お前を(おはへほ) 捕まえた(ふははへは)

 

このまま噛み潰して、殺す!!!!

 

 

星熊童子の後頭部を、内側からいくつもの刃が貫いた。

ジュリエッタは胴体パーツの刃を解放し、強制パージしたのだ。

その勢いは凄まじく、星熊童子の頭蓋骨を奇怪なオブジェにした。

りんごに鉛筆を突き立てたような、生命に対する冒涜さえ感じる。

串刺しにされた星熊は機能を停止。

星熊もだらりと身体を倒した。

 

角の力を使いすぎた。頭が割れるように痛い。鼓動に合わせて脳みそが膨張しているみたいだ。

目から血涙が流れ、粘膜の弱い鼻からはドロドロと血が溢れる。

喰い縛った歯は欠け、操縦桿を握り締め続けた腕と指は、もう少しも力が入らない。

内臓は痛み、かすれた肺はヒューヒューと木枯らしのようなか細い息を吐く。

負けた。

虚ろな目には何も映っていない。

復讐の失敗。燃える溶岩が冷え固まった、動かない身体。

底の無い虚無感だけが胸にあった。

 

星熊の顎から逃れたジュリエッタ。

バルバロイの四肢が星熊を嵐のように切り裂く。

風に吹かれた枯れ葉のように、成す術無く蹂躙される星熊。

 

「がぁッ…………ぐっ!!」

 

ジュリエッタの嘲笑。

星熊には怒る気力さえない。

 

「死にたくない……」

 

死なせたくない、殺してやる、

最後は死にたくない。

 

ありきたりな、戦場に生きる者の、感情の推移だった。

 

合体したバルバロイ。

人型に戻ったジュリエッタは、右腕を伸ばし、剣を高らかにかざす。

 

『ラスタル様のために!!!』

 

全ては正義のため!ラスタル様のため!!

楯突く者は全て排除!!

ジュリエッタ・ジュリスはその尖兵!

振り下ろされる剣であればいい!!

これほどシンプルで、心踊る生き方はない!

 

(死にたくない……)

 

視界がかすみ、絶望の中に意識が閉じていく星熊。

 

狂気の刃が、星熊に斬りかかった。

 

 

ーーーーーーーーーー

 

刃と刃がぶつかる音で、星熊はハッと意識を取り戻した。

星熊とバルバロイの間に、『魔王』は突如として現れた。

 

どれだけボロボロになっても分かる。

その後ろ姿に感じる、絶大な安心感。

 

アグニカ・カイエル バエルゼロズだ。

 

『なにっ……!?』

 

ジュリエッタは狼狽する。

バエルゼロズがここに現れるはずがない。

そもそもアグニカが生きているはずがない。

何故、このタイミングで、自分の邪魔を……

 

『ラスタル様の邪魔を!!!!』

 

「うるせえ!!!」

 

 

バエルゼロズは、折れて刃が半分になったバエルソードを振るい、バルバロイを押し飛ばした。

バルバロイは勢いをそのままに、四肢と胴体を分離。

高速で変則的な軌道で、全包囲からバエルゼロズに襲いかかる。

 

空間が歪み、バエルゼロズと星熊童子が消える。

 

『消えた……!?』

 

アグニカとバエルゼロズは、別世界を中継することで「瞬間移動」を実現したのだ。

 

「アグ……ニカ」

 

「すまん、遅くなった」

 

アグニカも、地獄のような戦場を生き抜いた後なのだ。

バエルゼロズがこんなに傷つき、破壊されても、星熊を助けに来てくれた。

 

それなのに自分は、怒りと憎悪に身を任せ、一人で突っ走った挙げ句、負けた。

一体何をしているんだ。

自責の念が胸を埋め尽くし、涙が溢れる。

 

「よく頑張ったな」

 

モニターに映るのは、娘の健気な頑張りを誉める、父親のような笑顔だった。

 

血塗れで、肌はズタズタに切り裂かれて、赤黒い肉が見える。

アグニカの肉体に与えられたダメージがどれほどのものか、最早外見からでは一端しか計り知れない。

 

それでも星熊は、頭を撫でられたような感覚がした。

アグニカほど、人間の激情を肯定する者も居ないかもしれない。

殺意も憎悪も、復讐も無意味な特攻も。

人間の生きざまと言って、肯定してくれる。

笑って見送ってくれる。

 

「少し休んでろ」

 

星熊童子を「力の世界」に転送する。

無防備な状態で、この場に置いておくよりは安全なはずだ。

 

バエルゼロズはバルバロイと相対する。

 

 

『なんなのですか貴方は!?何故邪魔をするのです!?何故存在するのです!?

私は!!ラスタル様のために!邪魔物を切り捨てていただけなのに!!』

 

「さっきからラスタル様ラスタル様って連呼してんなぁ」

 

『当たり前でしょう!?私はラスタル様の剣!!全てはラスタル様のために!!』

 

「この惨状はラスタル・エリオンの指示なのか?

そのひでぇ『有り様』は?

ラスタル様に見繕ってもらったのか?」

 

『あなたも!!ラスタル様の正義を理解しようとしない!!何故なのです!?一体どうして!?』

 

「おい糞ガキ」

 

底冷えするような声に、ジュリエッタは押し黙る。

 

「質問してんのは俺だ。

答えてもらうぞ。

お前を「そんな」にしたのはマステマか?

ラスタル・エリオンとマステマは繋がっているのか?」

 

『マステマ様………』

 

「本当に、ラスタルがこんなこと望んだのかよ」

 

『ラス………タル………様』

 

ジュリエッタは一瞬、視界にノイズが走る。

自分が思っているラスタル様と、アグニカが言っているラスタル様は、ちがう。

 

あれ、じゃあ、ラスタル様ってどっちだっけ。

ラスタル様って、どれが本物だっけ………?

 

「言っておくがお前が死んだって構わない。俺は、『魂』から記憶を吸い取ることができるんだ」

 

『は?』

 

「別に信じなくていい」

 

バエルゼロズは折れた剣を構える。

 

「殺してでも奪い取る」

 

 

冷や汗と鳥肌がブワッと溢れる。

生存本能からか、ジュリエッタは大声で叫んでいた。

 

『ファンネル!!!』

 

 

高速で雪崩れ込んできたのは、ビームシールドを纏った100機以上の無人遠隔兵器

『ピーコック・ファンネル』

 

四大天使ミカエルの残した殲滅兵器だ。

 

「おお」

 

アグニカが目を見開く。

 

 

あー、

あー、

あー、

あー、

はいはいはいはい………」

 

コクコクと合点がいった風に頷き、突如として叫んだ。

 

 

「ひっっっっさし振りだなこの野郎!!!!!

まぁぁぁぁあだ動きやがるのかポンコツがあ!!!!!!」

 

それは純粋な殺意。

機械の天使に対する圧倒的な憎悪だった。

 

 

「ぶっ殺してやるよ!!!」

 

 

バエルソードはビームを拡散する特殊合金から作られている。

ピーコック・ファンネルのビームシールドを突き破れるのは、バエルソードと同じ近接武器のみ。

 

瞬く間に十機のピーコック・ファンネルを破壊するバエルゼロズ。

スラスターウィングも破損しているため、機動力は瞬間移動を繰り返すことで補う。

 

ジュリエッタとピーコック・ファンネルは縦横無尽に動き回る。

バエルゼロズが姿を現した瞬間、魚の群が一斉に襲いかかるように、渦を巻いて斬撃が飛び交う。

 

(これは まやかし……)

 

ジュリエッタは静かに、心を研ぎ澄ます。

アグニカはピーコック・ファンネルの破壊に執着しているように見えて、その実、ジュリエッタ本人の殺害を狙っている。

『敵の最も強い部分』を狙うのがアグニカだ。

ここではピーコック・ファンネルがそれに当たる。

しかし、彼の中でいつ上下関係が変化してもおかしくない。

ジュリエッタに矛先を切り替える瞬間が、必ずやってくる。

 

その時がやってきた。

空間が歪み、バエルゼロズが目の前に現れた。

バエルソードを問答無用で突き出してくる。

 

ここだ!!

 

ジュリエッタは四肢を分離することなく、右腕でバエルゼロズを攻撃。

 

バエルソードはバルバロイのコクピットを突き刺し、バルバロイの右腕は、バエルゼロズの首筋に深く突き刺さった。

 

結果は相討ち。

しかし、パイロットが無傷のアグニカの方に軍配が上がる。通常ならば。

 

刃がお互いを突き刺す直前、バルバロイのコクピットから、ジュリエッタはその身体を宇宙空間に投げ出していた。

 

バエルソードは、中身の無いコクピットを貫通しただけだ。

ピーコック・ファンネルに運ばれてきた、新しいコクピット

バルバロイは予備パーツがいくつも用意されており、胴体パーツ、そしてコクピットでさえもデリバリー可能なのだ。

 

ジュリエッタは新しいコクピットに乗り込み、何事もなかったかのようにバルバロイは動き出す。

その間、バエルゼロズは身動き一つしなかった。

 

バルバロイが稼働再開した後も、なんら反応を示さない。

バエルゼロズに突き刺した剣を、乱暴に引き抜く。

血管が破けたように、オイルが勢い良く吹き出す。

 

さらに剣を突き刺し、バエルゼロズの首をもぎ取った。

刃の先に魔王の首を刺し、大勢に見えるように掲げる。

 

『今ここに!!アリアンロッド艦隊司令、ラスタル・エリオンの威光のもとに!!

バエルは討ち取られた!!!!』

 

ピーコック・ファンネルが、ガチャガチャと不快な異音を立てる。

それが軍勢の雄叫びのように、宇宙に響き渡った。

 

無惨に晒されるバエルゼロズの生首。

力無く浮遊する胴体。

 

ジュリエッタは人生最高の幸せを感じていた。

ラスタル様の邪魔をする愚か者を討ち滅ぼした!

ラスタル様の正義を、世に知らしめた!

 

脳髄から下腹部まで、痺れるような甘い快感が流れて弾けた。絶頂だ。

 

もう自分に勝てる者などいない。

自分こそが最強。

強くありたいと望むジュリエッタ、ラスタルの役に立ちたいと望むジュリエッタ。

全ての望みが叶えられた今、彼女の意識は現実には向いていなかった。

 

ジュリエッタを取り囲んでいたピーコック・ファンネルの群れが、突如として、消えた。

一斉に、何の前触れもなく、霧のように消滅してしまったのだ。

不気味な静寂が広がる。

 

『……は?』

 

「かえせ」

 

 

あり得ない光景に目を奪われ、すぐ隣から聞こえた声に反応することも出来なかった。

 

「くび かえせ バカ野郎!!!!」

 

天地がひっくり返るような衝撃。

ジュリエッタは彗星に激突したのかと錯覚した。

後方に吹き飛ばされるバルバロイ。

強烈な力の流れに対処しきれず、咄嗟に四肢を分離した。

ダメージを頭部に肩代わりさせることで、パイロットであるジュリエッタの負担を軽減した。

 

ピタリと止まったバルバロイ。

ジュリエッタは大きく仰け反り、一拍おいて吐血した。

 

『げえっっっっほ!!!ぐぇぼ!!ごぼ、ごほっごほぐぼぼぼぼっぼえあごごごごごっごごご!!!』

 

ドス黒い、粘性を持った血の塊が浮遊する。

体内を不規則な血の流れが掻き乱す。

四肢がなく、脳と内臓だけのジュリエッタにとって、血液の不調は魂の不調だ。

チカチカと光る視界、ぼやけた意識に、首がガクンガクンと揺れる。

 

『あ゛あ゛ぁーーーーー、ああ゛、あ、あ

゛~~~~~~~~~あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛………………

aaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaa………………………………………………………………………………』

 

歪な電子音が口から零れ出る。

バルバロイの情報処理機能によって、少しずつ現状を把握していた。

 

彼女の中では死んだものになっていたバエルゼロズは、突如として動きだし、拳を振り上げ、バルバロイの頭部を殴り付けたのだ。

 

バエルゼロズは拳を振り抜いた状態から立ち直り、浮遊していた首を掴む。

その姿はまるでデュラハンの伝承のようだ。

 

『なんで………なんでぇぇぇ………?』

 

ジュリエッタは納得がいかない。

自分は勝っていた。なのに、ピーコック・ファンネルは消滅し、バエルゼロズは生きていて、自分は大ダメージを負った。

 

「飛ばしたんだ。あの糞ピーコック・ファンネルを」

 

『はえ?』

 

「瞬間移動。お前らだって使ってるだろ。

それで、ピーコック・ファンネルを、太陽系の外まで飛ばしてやったんだよ」

 

『………はああ?』

 

「けど、お前の手足は転送できなかった。

どうやら、エイハブリアクターが搭載されていて、しかもこっちのエイハブ粒子と適合させなきゃ言うことを聞かないらしい」

 

『そんな………そんなこと!!!』

 

ずるい!!狡い手だ!そんなの聞いてない!!

こんなことが認められるはずがない!

こんなことが許されるはずがない!

 

ジュリエッタは涙ながらに叫ぶ。

 

『こんなことが許されると思ってるんですか!!??』

 

「わりぃな」

 

アグニカは晴れやかな、救われたような笑顔で言った。

 

 

 

「スヴァハに許してもらったんだ」

 

 

 

呆然とするジュリエッタ。

 

『だれ…………がはっ!?』

 

バルバロイを射撃が襲う。

 

「アグニカ………!?」

 

クタン参型と分離し、虎熊童子がここにたどり着いた。

 

「虎熊か」

 

「アグニカ!一体、これは…どうなってるんだ!?星熊は!?」

 

「悪いが説明は後だ」

 

バルバロイの四肢が襲いかかる。

バエルゼロズと虎熊童子が転送され、バルバロイの背後に距離を取って姿を表す。

 

「う…おお!?」

 

虎熊が驚きの声をあげる。

無理もない。初めて体験する瞬間移動だ。

アグニカですら混乱したのに、虎熊に瞬時に理解を求めるのは酷というもの。

 

「星熊は無事だ。あいつをぶち殺す。コクピットに星熊を送るぞ」

 

そういうと、虎熊童子のコクピット内に星熊が転送された。

 

「うおああああ!!??」

 

「ひゃっ!?虎兄!?なんで!?」

 

「いや………そりゃ、こっちの台詞だろ!!」

 

目の前に妹が転送されたことに、冷静な虎熊も半狂乱になる。

 

続いて、ダンジの乗るシュヴァルベ・グレイズ、ラフタの乗る百里が到着。

さらに昭弘が乗るガンダム・グシオンも到着した。

 

「アグニカ!?」

 

「アグニカさん!星熊さんは!?」

 

「アグニカ!?どうなってるんだ!?」

 

三人とも、状況が全く掴めない。

 

「ラフタ、ダンジ、昭弘。

悪いが説明してる暇が無い」

 

名前を呼ばれてギクリとする三人。

この威圧感と状況の読めない雰囲気は、確かにアグニカ・カイエルのものだと実感する。

 

「星熊は無事だ。

けどあいつを殺さないと追いかけてくる」

 

アグニカの言う通り。

コロニーの住人を皆殺しにするような奴だ。

ただで逃がしてもらえるはずがない。

 

「虎熊、この中で一番強いのはお前だ。

お前を主軸に、連携して奴を殺そう」

 

「わ…分かった」

 

「もうすぐ『増援』が来る。それまで時間を稼げればいい」

 

「増援………?誰だ?」

 

昭弘が怪訝な顔をする。

イサリビから送られたメンバーはこれで全員だ。

他に味方になってくれる者がいるのだろうか?

 

剣のようなモビルスーツ、バルバロイは痙攣を止め、ゆっくりと活動を再開した。

空気が変わったのが分かる。

この場にいる全員が、表情を険しくした。

 

「虎熊とダンジ、昭弘とラフタがペアを組め。絶対に離れるな」

 

「「「「了解」」」」

 

バルバロイが高速で近づいてくる。

迎え撃つのは虎熊童子。

巨大な鉄球、モーニングスターを振り回し、バルバロイに投擲。

四肢と上半身、下半身に分裂して回避する。

 

「ひっ、バラバラに………!?」

 

ダンジがひきつった声を出す。

 

「ダンジくん!射撃で奴を牽制してくれ!鉄球じゃ当たらない!!」

 

「は、はい!!」

 

鈍器であるモーニングスターは命中すれば強力だが、小さなパーツに分かれるバルバロイには当てにくい。

 

虎熊童子のコクピットに同席する星熊は、静かに目を閉じた。

 

「虎兄、後ろは私が見る。

あいつは死角に回り込んでくるから」

 

童子組の角の特徴として、複数のパイロットにより情報処理の役割を分担できる点がある。

星熊が死角となる後方や下部に目を光らせ、虎熊は前方だけを見て攻撃に専念する。

 

両肩のガトリング砲でバルバロイの四肢を狙うが、宇宙を滑空する剣は射線をすり抜けていく。

 

ラフタ・フランクランドの搭乗する『百里』は、後方の大型バックパックにより高い機動力を誇る。

デブリ帯での戦闘も想定されているため、方向転換が効きやすく小回りが効く。

 

バルバロイの四肢が高速で襲いかかろうとも、持ち前の機動力で回避することができた。

しかしこちらの射撃も当たらない。

的が小さく、速すぎるのが問題だ。

 

百里はクルクルと回転し、グシオンファントムペインの周りを衛星のように飛び回っていた。

 

『ギギギ………ワダジバ、ラズダルザバノゲン………ラズダル』

 

ジュリエッタは攻撃が当たらないことに苛立ったのか、百里からグシオンに目標を変えた。

 

昭弘はグシオンファントムペインに搭載された、頭部の高感度センサーによって、より生身に近い距離感を体得していた。

さらに、昭弘には新しい技能があった。

 

『義眼』でバルバロイの右腕の動きを捉える。

昭弘の眼には、その動きがスローモーションのように見えた。

彼の脳内では、時間の流れ方が違うのだ。

 

死ぬ直前、周りの景色がゆっくり見える現象がある。

脳の情報処理速度が限界まで高められたが故の奇跡。

そんな死ぬ間際の人体の神秘を、意図的に発現する能力。

 

昌弘が死ぬ瞬間、あの感覚を思い出せばいい。

昭弘にとって、それは簡単なことだった。

 

ホースから水が飛び出すように鼻血が噴き出す。

 

グシオンファントムペインはライフルで射撃。

バルバロイの右腕に命中させる。

 

あの星熊ですら、至近距離からの散弾銃でようやく当てられたものを、昭弘は初弾で当てた。

 

アグニカは「ほぉ」と感心する。

 

次いでグシオンの側面から襲い掛かったバルバロイの左足を、旧グシオンの装甲を流用した大型シールドで防御。

圧倒的な切れ味に、シールドに傷跡がつくものの、斬撃を防いだ。

 

勢いを殺された左足に、昭弘は至近距離から発砲。

数発が命中し、火花が散る。

 

バランスを崩した左足の後方に、バエルゼロズが瞬間移動してきた。

思い切り腕を振り下ろし、折れたバエルソードで叩き切る。

 

バルバロイの左足は粉々に砕け、機能を停止した。

 

『グギギギギギ………』

 

口から血の泡を吹くジュリエッタ。

 

一方、バエルゼロズの片腕も、ダラリと宙に浮かんだ。

 

「ちっ………流石に限界か」

 

連戦が祟り、バエルゼロズのフレームが完全に壊れた。

瞬間移動の能力は使えるが、戦闘では貢献できそうにない。

 

最早コクピットとリインリアクターに、ボロボロの腕と羽がついているスクラップだ。

 

(皆を転送して援護するか………?

いや、いきなり転送して場所が変わったら混乱する。その隙をつかれて殺されるだけだ。

即座に戦法に組み込むのは無理だな)

 

攻撃手段を失った今、バエルゼロズにバルバロイを倒す術はない。

この場を切り抜けるには、他の方法を考えねばならない。

 

(確か、コロニーには………)

 

アグニカは感覚を研ぎ澄ます。

 

虎熊はモーニングスターを振り回し、盾とすることで、攻防一体の鈍器の結界を作り出した。

 

ダンジはシュヴァルベ・グレイズの機動力で被弾を避けているものの、攻撃する精神的余裕はない。

この五人の中では一番未熟だ。

ジュリエッタもそれを分かってか、右腕、左腕、下半身パーツで三方向から襲い掛かる。

 

「くっ………!!」

 

シュヴァルベ・グレイズは全身にバーニアが搭載されており、それが一基でも壊れると目に見えて機動力が下がる。

万全の体勢で無ければポテンシャルを発揮できないのだ。

 

だから一撃でも攻撃を喰らえば終わる。

 

極度の緊張から、ダンジの動きも硬い。

 

「ダンジくん!!」

 

虎熊童子がガトリング砲で援護するも、バルバロイに動きを読まれ、背後から剣が迫る。

攻撃が当たる瞬間に、アグニカはシュヴァルベ・グレイズを転送し、大きく後方へ飛ばした。

 

「えっ………!?え、えええ!?」

 

「後ろに飛ばしただけだ。落ち着け」

 

混乱するダンジ。

アグニカも説明だけで落ち着かせられるとは思っていない。実際に経験して、慣れてもらうしかない。

一方、孤立した虎熊に斬撃が集中する。

モーニングスターを振り回して防御するが、ジュリエッタの狙いは鉄球と柄を繋ぐ鎖の部分だった。

チェーンが破壊され、鉄球が浮遊する。

これではモーニングスターとしての真価を発揮できない。

 

「ぐっ!!!」

 

呻き声をあげる虎熊。

しかしバルバロイの四肢に、遠距離からの射撃が命中した。

 

雨霰と撃ちこまれる弾丸に、ジュリエッタは堪らず後退する。

 

『テキ………マタ、ラスタルサマノジャマニナルヤツガ………』

 

虎熊や昭弘達も、その方向をハッと見つめる。

そこには、ギャラルホルンのセブンスターズの象徴たる機体が二体。

 

マクギリス・ファリドが搭乗する

『ガンダム・アスモデウスベンジェンス』

 

ガエリオ・ボードウィンが搭乗する

『ガンダム・キマリス』

 

アスモデウスはライフルを、キマリスは大型ガトリング砲を構える。

 

「アグニカ!!!!」

 

マクギリスが大声で叫ぶ。

 

「マクギリス。よく来てくれた」

 

アグニカの素直な歓迎の言葉に、マクギリスが胸の内側から「生きてて良かった」という気持ちが溢れ出す。

 

「マクギリス・ファリド、そしてガエリオ・ボードウィン。

あなた方に加勢します」

 

マクギリスが堂々と宣言する。

 

「ちょっと待て、俺達はあの機体を倒すだけだ。お前ら宇宙ネズミと組むつもりは………」

 

「来るぞ!!!」

 

マクギリスの言葉で、回避行動を取るキマリス。

 

バルバロイの四肢は虎熊達を襲いつつ、新手であるマクギリス達にも襲いかかった。

 

昭弘達も突然のギャラルホルンの介入で動揺している。

 

「誰だ………?あいつら」

 

「アグニカの知り合い?」

 

昭弘とラフタの問いに、アグニカはニヤリと笑う。

 

「味方だ。赤いのがガンダム・アスモデウス。青いのがガンダム・キマリス。

こっちを攻撃はしてこないから安心しろ。」

 

「ガンダム………」

 

昭弘が少し興味深そうに二機を見る。

 

「ギャラルホルンが来たなら、今のうちに逃げた方が………」

 

ダンジが撤退を提案するも、アグニカは首を横に振る。

 

「いや、あいつらが加勢してくれれば、あのバラバラ女も殺しきれる」

 

バラバラ女て……と虎熊が呟く。

 

「ここでケリをつける。そうじゃなきゃ筋が通らない」

 

星熊がグッと拳を握り締める。

星熊の復讐心を察したのか、皆も静かに頷く。

グシオンと百里、虎熊童子とシュヴァルベ・グレイズが二方向に飛び立つ。

 

「まっさかギャラルホルンと手を組むなんてねー」

 

急展開の連続で感覚が麻痺したのか、ラフタが笑いながら言う。

 

「ダーリンに言ったら絶対びっくりするよ」

 

「元気だな………」

 

昭弘が呆れたように呟く。

 

マクギリスはアスモデウスベンジェンスの八本腕を展開。

八本の黄金剣を巧みに操り、バルバロイの四肢と激しい斬り合いを演じる。

緋色の火花が幾重にも散り、金属の衝突音が鳴り響く。

 

キマリスは片腕を破損し、主兵装である大槍『グングニル』が破壊されたため、グングニルほどの大きさがあるガトリング砲『アンフィスバエナ』をメイン武器に携えてきた。

このガトリング砲は後方に槍が取り付けられており、持ち手を変えることで近接武器と射撃武器を切り換えられる。

 

グレイズ・アインとの戦闘でダメージが残っているため、今回はマクギリスを後方支援する構えだ。

 

キマリスの機動力でバルバロイの斬撃を避けつつ、大きく移動して射角を自在に変えられるのが強みだ。

 

アスモデウスが味方からの誤射も気にしない質であるため、マクギリスを気遣う必要はあまり無い。

ただ敵を落とすことだけを考える。

 

アスモデウスが阿修羅のように多腕で剣を振り回し、キマリスが弾丸を雨のようにばらまく。

 

バルバロイの四肢も被弾率が徐々に上がり、虎熊達の射撃で連続ヒットも狙えるようになってきた。

 

ガエリオはモニターに映った機体を目にして、大人げなく叫ぶ。

 

「ああーーーーーーーっ!!!!!」

 

そこにあったのは紫色のシュヴァルベ・グレイズ。

ガエリオの元 愛機だ。

 

「俺のシュヴァルベ!!!」

 

「えええええ!!?」

 

通信モニターに映った、怒りの形相を浮かべる青髪の男に、ダンジは怯えきっていた。

 

「こんの宇宙ネズミが!!!俺の機体を返せえええええ!!!」

 

「だ、誰ですかあーー!?」

 

そこにガエリオの護衛任務についていた、ボードウィン家の特殊部隊『ジークフリート』隊長、シグルスが割って入る。

 

「ぼっちゃま、いつまでも昔のことを引きずるのは女々しいですぞ」

 

「うるさい!!お前ら宇宙ネズミが乗っていること自体が気に入らないんだ!!降りろ!!!」

 

滅茶苦茶なことを言いつつも、バルバロイの斬撃を回避する。

 

シグルスの『グラニ・グレイズ』が参戦。

さらに『ジークフリート』のシュヴァルベ・グレイズ三体と、支援用グレイズ八体が合流。

これによりアグニカ側は18体のモビルスーツが居ることになる。

 

形勢は逆転した。

支援用グレイズ八体の一斉射撃が炸裂し、バルバロイの四肢は大きく後退。

シュヴァルベ・グレイズ三体は流星のように大きく移動し、側面から射撃して確実に狙いを定める。

アスモデウスは前面に出て近接戦闘を仕掛ける。

キマリスはその援護。

 

精密射撃に特化したグシオンファントムペインも、キマリスの横から援護射撃。

 

ガエリオはチラリとグシオンを見るも、フンと鼻を鳴らす。

 

「おい宇宙ネズミ。マクギリスに当てたら承知しないぞ」

 

「ああ………?誰だアンタ」

 

昭弘が困った顔をする。

 

虎熊童子も近接戦闘を狙うが、高速移動して回避し続けるバルバロイを、なかなか捉えることができない。

 

この場にいる全員が感じていた。

 

(((殺しきれない)))

 

戦況は有利に進んでいる。

数の利を活かした連続攻撃も効いているし、お互いにカバーし合って相手の攻撃を防いでいる。

バルバロイは今や防戦一方。

 

しかし、肝心の『とどめ』を刺す要員がいない。

 

マクギリスは自身に足りないものを強く実感した。

アスモデウスベンジェンスの八本腕を自在に操るためには、制御プログラムでは追い付かない。

もっと生身に近い、限界を取り払った『力』

 

阿頼耶識が必要だ。

 

虎熊新も焦っていた。

自分の機体の武装では、バルバロイに有効打を与えることができない。

特にモーニングスターの鎖を破壊されたのは痛い。

ただ鉄球を投げるだけでは確実性に欠ける。

 

このままジリジリと弾薬とガスを削られ、集中力を欠いた所に攻撃を受ければ、一体ずつ狩られる。

 

強者が一人でも落ちれば、形勢は逆転する。

 

マクギリスと虎熊、このどちらかが殺られれば一気に不利になるだろう。

昭弘やラフタ、シグルスも焦燥している。

 

「どうする!?このままじゃ仕留めきれないぞ!」

 

ガエリオが苛立たしげに叫ぶ。

 

「ギャラルホルンに応援を呼んだらどうだ!?」

 

虎熊が通信で問い掛ける。

 

「『スレイプニル』と『フェンリル』に応援を要請しますかな?」

 

シグルスがガエリオとマクギリスに問う。

 

「いや、艦隊はあの機体と相性が悪い。

母艦をやられればそれこそ終わりだ」

 

マクギリスが冷静に答える。

そこにラフタが質問する。

 

「アリアンロッド艦隊からモビルスーツ借りたら?」

 

「すでに奴が第一艦隊を襲撃している」

 

「ええー!?」

 

これ以上の増援は望めない。

 

「これだけの人数で殺しきれねえか………」

 

昭弘がギリリと操縦幹を握り締める。

強さを求めた初陣が、こうも結果の出ないものになるとは。

 

そこにアグニカの声が届く。

 

『全員、俺の言う通りに動いてくれ』

 

「了解した」

 

「いやいや待てマクギリス!

こいつが誰なのかも分からないんだぞ!そんな奴の言うことなんて………」

 

「ガエリオ、説明は後だ。とにかく今は力を合わせるんだ」

 

「………ぐむ」

 

言うことを聞け、ではなく、力を合わせるという言い方に、ガエリオは嬉しさを感じてしまう。

 

「アグニカ、奴を倒す方法があるのか!?」

 

バルバロイの斬撃を回避しながら、虎熊は叫ぶ。

 

「ある。信じられないかもしれないが、俺は物体を『転送』させられる。

『あれ』を転送させれば奴の動きを止められる」

 

「あれ………?」

 

この場にいる全員に、座標データが送られる。

赤い円で囲まれたゾーンがあり、その近くにバルバロイを誘導。

マクギリス達はこの赤いゾーンの周囲に待機する。

虎熊童子だけは、赤い円とバルバロイとの間に配置する。

 

「これだけでいいのか!?」

 

ガエリオは思わず声を荒らげる。

 

「いいとも。これで奴を殺せる」

 

「一体何を転送すれば、あいつを殺せるってんだよ!?」

 

昭弘はまだ半信半疑である。

 

「『あれ』は紛いなりにも、地球まで届く量があったんだ」

 

アグニカは全神経を集中する。

ピーコック・ファンネルを転送した時もそうだが、大規模な転送には多大な集中力を必要とする。

その間何もできないのが弱点だ。

 

マクギリスの説得もあり、ガエリオと『ジークフリート』のメンバーも従う。

 

 

ーーーーーーーーーー

 

『ゲギャギャギャギャギャ!!ゲギャギャギャギャギャギャギャギャギャ!!!!』

 

ジュリエッタは最早人の言葉を喋っておらず、白眼を剥きながら手当たり次第に攻撃を繰り返していた。

 

ラスタル様の敵!!

ラスタル様の障害!!

 

潰しても潰しても沸いて出てくる!!

害虫のような浅ましい存在!!!!

 

敵の動きが変わった。

よく分からないが、私の前に大きく広がる陣形になっている。

 

敵の意図など知るか。

私はただ、敵を切り裂くだけだ。

 

そう、私はラスタル様の剣なのだから。

 

ーーー本当に?

 

ズキリと、脳裏に鈍い痛み。

 

あのアグニカ・カイエルの言った言葉が、傷となってジュリエッタを苛む。

 

ーーー本当に、ラスタルがこんなこと望んだのかよ

 

黙れ!!!!

黙れ黙れ黙れ黙れ黙れ黙れ黙れ黙れ黙れ黙れ黙れ黙れ黙れ黙れ黙れ黙れ黙れ黙れ黙れ黙れ黙れ黙れ黙れ黙れ黙れ黙れ!!!!

 

気にしなくていい!!

考えなくていい!!!!

 

私はただ、切り裂けばいいのだ!!

 

そう気持ちを持ち直したジュリエッタの眼前に、大きな光が広がった。

 

その緑色の暖かな光はすぐに収まった。

そして、何も無かったはずの空間に、『それ』は現れた。

 

 

『巨大な推進剤タンク』が転送される。

 

数は5つ。

 

ドルト1、3、4、5、6に取り付けられた『大いなる流れ』、その内部の水素ガス。

本来装甲板の中に詰められているはずのタンクは、白い腹を見せている。

その横っ腹に、昭弘達の射撃による集中砲火。

 

容易くタンクに穴が開き、引火、大爆発を起こす。

青い炎が燃え上がり、凄まじい衝撃が風のように襲いかかった。

 

堪らず吹き飛ばされるジュリエッタ。

上も下も分からない。暴風に揉みくちゃにされ、その進路に身を委ねるしかない。

 

直後、大きな岩盤に叩きつけられる。

疑問符。

近くに叩きつけられるような壁があっただろうか?

ドルトコロニーとは反対方向だし、艦艇は近付いていない。デブリも無かったはず………

 

ジュリエッタは知らないが、アグニカが転送させたのはドルトコロニーの盾として使われていた巨大デブリ。

これを、ジュリエッタを磔にする十字架に選んだ。

 

風圧で身動きが取れない。

 

「うぎぎぎぎぎぎぎ………」

 

大の字になって、デブリに押さえつけられているジュリエッタ。

青い光の輝きはまだ消えない。

彼女の目に、小さな影が映る。

その影が徐々に近づき、輪郭がはっきりと見えるようになってきた。

 

モビルスーツ。

あの鬼のような機体、虎熊童子だ。

 

虎熊童子のコクピットの中には、ジュリエッタに憎悪を燃やす星熊祥子と、虎熊新がいる。

二人は角の力で思考を一体化させ、機体にさらなる力と滑らかさを与えていた。

 

「「うおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!!!!!!!!!!」」

 

二人の魂の叫び。

虎熊童子はモーニングスターを振り抜き、ぶん投げた。

 

『大いなる流れ』のガス爆発を利用した、勢いのついた攻撃。

ジュリエッタに回避する手段はない。

 

「くっ………!!!」

 

 

スラスターを全開にして、なんとかコクピットの手前で、全身の刃を分離させ、盾とした。

モーニングスターと、バルバロイの剣がぶつかる。

 

『バキンッ』

 

渇いた破砕音が重なり、バルバロイの剣は、四肢は、全て折れた。

驚愕に目を見開くジュリエッタ。

 

 

怒りのモーニングスターが、狂気の機体のコクピットに叩き付けられた。

 

 




マルコシアス「ひれ伏せモブども!!」

ラウム「どうした急に」

マルコシアス「いいかよく聞け!!
これからの鉄血のオルフェンズを引っ張っていく主役機!!
それはあああああああああ!!!!

この俺だあああああああああああああああああああああああああああ!!!!!!!!!!!!!!!」

バラム「うるせえ」

フュルフュール「あーやっぱウルズハントの主役機ってマルコシアスなのか」

マルコシアス「ばーーーか!!そんなのPVの起動シーン見れば分かることだろうが!!」

レラジェ「しかし新作はスマホアプリかぁ。確かにガンダム・フレームは課金ゲーに向いてるかもなあ」

アミー「手持ちパーティーがバエルだけとかいう糞手札は草バエますよwww」

マルコシアス「あああああああああああああああ!!!!来たかあああああああ!!!来ちゃったかああああああああ!!!
ついに時代がこの俺に追い付いてきちゃったかあああああああああああああ!!!」

デカラビア「ちらっと調べたら、「ウルズ」ってのは北欧神話に出てくる運命の女神の一人らしいな」

バラム「名前の意味は「運命」「宿命」「死」………えっなにそれはぁ(不穏)」

ラウム「ウルズハント……運命を狩る?タイトルの意味……コレガワカラナイ」

マルコシアス「ウィスタリオくぅぅぅぅぅん!!!これから俺たち一心同体!!二人で頑張っていこうねえええええええええええええ!!!!金星観光地にするって夢ええ!!応援するからあああああああああああああああああああああああ!!!!!!!」

フュルフュール「しっかし、自分が出したオリジナルガンダムが本編の主役機と被るってのもなかなかレアなケースだな」

アミー「PVだと滅茶苦茶かっこいい端白星だけど、バエルゼロズの方は両手両足に顎がついてるだけの駄犬ガンダムだもんねー」

レラジェ「ま、そのギャップも二次創作の楽しみの一つってことだな」



お ま た せ

いやーちょっと油断したら3ヶ月経ってましたよーほんとにもう、時間の流れがちょっとおかしいよ。どうなってるんだこの世界は。

前半はドルトコロニー騒乱の総集編。
コロニー内の映像が全国のお茶の間に強制放送される。
ナボナさんのサイコパス電波宣言により『赤い雨革命』のコロニー落とし作戦が伝えられ、世界は大パニック。

混乱する人々の声を副音声にしたDVD特典。

ドルトコロニーの所属するアフリカンユニオン。
その代表者はオリジナルキャラクター
『デイビット・クラウチ』

モデルはイギリスの俳優のデイヴィット・テナント。
『ドクター・フー』のドクター役としてはデイヴィットさんが一番好きですね。
表情が豊かなのがグッド。
一番人生楽しんでそう。

デイビット・クラウチは顔が良くてスピーチもハキハキしているので国民からの支持も厚い。しかし裏でやるべきことはきっちりやっている。
怒ると言葉を区切って叫ぶ。
怒ると!!言葉を!!区切って!!叫ぶ!!

ドルトコロニーでの労働者の粛清作戦にオッケーを出したのもこの人。
原作同様、アリアンロッドに恩を売るつもりだったが、コロニー落としという予想を遥かに越えた事件が起こり、その対応に追われることとなる。

ドルトカンパニー会長
『ババロア・ルア』

ドルトコロニー編で一番気の毒な人。
ドルト関係者だけあって洋菓子の名前。
ただの労働者デモ鎮圧作戦のはずが、地球規模の大規模テロ事件が発生。
どう考えても責任を押し付けられるスケープゴート役。槍玉にあげられる未来しか見えない。

この世界のお偉いさんの例に漏れず、汚職や賄賂など汚いことをやりまくってたけどそんなの可愛いレベル。

ババロア「私はただ!下級種族から利益を搾取して、労せず甘い汁をすすっていただけだ!
無能どもに生産的な仕事をさせるために、どれだけの準備と労力が必要だと思う!?
あの怠け者達を強制的に出社させるシステム!それを作り上げたのが私なんだ!
利益をゴミどもからドルトカンパニーへ!ドルトからアフリカンユニオンへ!そこからギャラルホルンへ!そして地球圏の平和と秩序の維持のために還元される!
世界を安定させているのは私だ!私なのだよ!!
表彰されこそすれ、責任追及などもっての他!論外!!論外なのだよ!!!!」


クーデリアが真っ向から、労働者達の歪んだ正義を否定。
その凛とした態度を見て、地球圏の人々は心を打たれる。

やはり、人は劇的なものに惹かれるのでしょうか。
あるいはマステマの脚本通り、クーデリアに人々の関心が集まるよう誘導されていたのかもしれない。


ここで全世界にアグニカの声が届く。
ニュータイプ特有の、電流が走るような感覚。

直後に毎度お騒がせアイン・ダルトンくん登場。
彼の台詞は、彼の狂いっぷりを知らない一般人からすれば完全に意味不明だよなぁ、ということで、より読みづらいカタカナ表示に変更してみました。

鉄の巨人に殺されそうになる革命の乙女。
やはり正義の使者には敵が多いか。

そこに颯爽と登場我らがバエルゼロズ。

バエルゼロズVSグレイズ・アイン

人々にとって正義VS悪。
非常にシンプルで分かりやすい。
やっぱり視覚効果って大事ですね。
白くて神々しいバエルゼロズと、黒くて禍々しいグレイズ・アインでは、どちらが悪役なのか一目瞭然。

乙女の危機に駆け付ける騎士というのは、古今東西人気があるシチュエーション。
人々にもバエルゼロズ=正義の騎士と認知される。良かった良かった。

盛り上がる民衆とは裏腹に、アフリカンユニオンのデイビット代表は電話で秘密の相談。

今回の事件の(一応の)黒幕であるアリアンロッド艦隊総司令、ラスタル・エリオンにお電話。
しかし出たのは副官のミスティルディン。

当初の『コロニー落とし未遂』計画と違った展開になったことに、説明を求めるデイビット代表だったが、ミスティルディンから冷たく突っ返されてしまう。
組織間の情報共有が全然できてない。
それもそのはず、アリアンロッドですら『地球圏への一斉生放送』なんて完全に想定外。
ここまで事態が大きくなると隠滅は不可能。

ラスタルの『リスクに目を瞑ってでもリターンを重視する』考え方と、

デイビットの『リスクを最小限に抑えて最大のリターンを得る』考え方で食い違いが発生。

デイビットの考えるリスク
『国際的な信用を失う』
その致命傷となるボーダーラインは
コロニー落としが『阻止』されること。

『必ず解決する』ことが絶対の条件で、それをこの世界で最高戦力を持つアリアンロッド艦隊のラスタルが「大丈夫」と言うのだから、なんとか理性を保っていられる状態。

これが何かの間違いでコロニー落としが実現しちゃったらもう大変。
信用とか利益とかの次元を越え、地球に壊滅的な被害を及ぼした極悪人達という、末代まで続く汚名を着せられることに。
それだけは絶対に阻止したい。

デイビット「だから頼むよラスタルさん、ギャラルホルンさん!
地球の平和………いや、そんなことはどうでもいいか。
私の利益と名声は!貴方達の働きにかかってるんだからね!!
大丈夫だよね!?信じてるから!!!」

経済圏の信用と名誉を守るには、このコロニー落とし事件に関しては『被害者』であることを主張していかなくてはいけない。

コロニー内の演説で人々の心を射抜いたクーデリアを味方に引き込もうと画策するかもしれない。
クーデリアの身柄を寄越せとアーブラウに恫喝する未来もあり得る。

仲良しホットラインでアーブラウに電話。
ヅラオバサン・アンリ・フリュウと対話。

清々しいまでの責任の押し付け合い、無理難題の吹っ掛け合い、罵詈雑言のわめき合い。
似た者同士の同族嫌悪って、端から見ると面白いよね。
尻尾を喰い合う蛇みたいな。
無限に楽しめるエンターテインメント。


怒ったアンリさんは我らがホモ、ショタ喰い鬼畜おじさんイズナリオ・ファリドに電話。

第一声が『案ずるな』

速水奨さんボイスは偉大だね。
脳内再生余裕でした。

イズナリオ「常に余裕を持って優雅たれ」

イズナリオ「あまり強い言葉を使うなよ………弱く見えるぞ?」

声だけ出演だと凄く強そうだし有能そう。

実際バエルゼロズでのイズナリオ様も、マクギリスを通じて火星支部の首根っこ掴んでたり地球外縁軌道統制統合艦隊のカルタ様を操れたりアーブラウに手を回してたりと、なかなかに勢力を拡大していた。
自身も地球支部司令官という重要なポストに着いている。
何より、今回のコロニー落とし編で責任追及が回ってくる順番が(他の人に比べて)低いというのが、彼の安定と磐石さを示していますね。

ただバエルゼロズが暴れたことによる二次災害というか当然の疑問というか、

『バエル』と『バエルゼロズ』は違うのか

ウィーンゴールヴの地下にある『バエルの祭壇』にあるはずのバエルが、宇宙で戦ってるんだが?とギャラルホルンの皆さんが小首を傾げる。

これはバエルゼロズワールドでトップクラスの矛盾設定なので、それをイズナリオ様に押し付けてしまったことは申し訳ないと思っている。
本来、こういった矛盾点は全てマステマに押し付けるはずなのですが………

ヨフカシ「ほんとうにー申し訳ない」

なんとかイズナリオ様の責任を回避すべく、ヨフカシが彼に送った怪電波。

ピロロロロリン!(ニュータイプ的閃き)

イズナリオ「これラスタルのせいじゃね!?」

そうそう!それでいいんだよ!
今はラスタル様に苦しんでもらおうキャンペーン春の大感謝祭!
都合が悪いことはぜーんぶ!あの肉おじのせいにしちゃおうねえ!!!!

ヨフカシ(まさかこの私が、イズナリオ救済のために知恵を搾ることになるとは………)

ま、二次創作を書いてりゃこういうこともあるさ!
紆余曲折を楽しもうじゃないか!

という訳でイズナリオの心中に芽生え、根付いた疑惑の種。
これがどんどん大きく成長し、最終的には『打倒エリオン公』にまで発展。
原作では見られなかったイズナリオ様VSラスタル様という腐敗政治のベテラン同士による対決。
これは熱い展開だぜ!(どこが?)

知らない間に敵が増えてるラスタル様にはご愁傷さまと言う他ありませぬwwwwww


そうこうしている内にグレイズ・アイン撃破。
アリアンロッド第三艦隊を苦しめたデモン・グレイズを排除し、ドルト2へと飛ぶバエルゼロズ。
そこに始祖セブンスターズの亡霊と存在しないはずのガンダムフレーム達が登場。

ガンダムフレーム相手に一対七という絶望的な状況で戦うバエルゼロズ。
やっぱり英雄機には苦境、逆境が似合うぜ!

ここでのポイントはやっぱり『転送装置』かな。
民衆にとって、どこか現実味がなかった転送装置の存在を、実際にバエルゼロズが使ってみせたことで、「あるのかもしれない」程度には認知させる。

そして地球外縁軌道統制統合艦隊の防衛ラインにスポットが当たる。

原作一期にて、艦隊の配置までキッチリしていたカルタ様の部隊。
100隻の船を『ザ・様式美』って感じに嬉々として準備させてそう。
それなりに画面映えする。強そう。

カルタ様は対外活動とかしなさそうですが、いざとなったら激励の演説とかしてくれそう。
普段から部下の士気を高めているので、演説自体は上手そうだよなーと思っていました。
なので本作では地球圏全土に向けて、「お前らは私が守ってやるから安心しとけよ」と胸を張って宣言。

おお、確かに頼もしい。
これはカルタ様ー!ってなるのも分かる。
でも………

悲しいけどこれ、バエルゼロズなのよねぇ………

一度希望を持たせた存在に、民衆というものは容赦無いよ。
期待に応えれば「もっと」
応えられなければ「裏切り者」と言うのが民衆だから………

そんな存在の舌先に躍り出るカルタ様、高潔だけど愚直というか、あまり長生きできそうにない。

そこに死神をパスするアリアンロッド艦隊広報部、アダマス・カルナス。
彼は原作で、火星に逃げた鉄華団がテレビつけたら「マクギリスと鉄華団潰すわ」と言っていた人。

戦いの後のことまで考えるラスタルは知将。はっきり分かんだね。


そしてクーデリアによる鉄華団の足跡の説明。

ヨフカシとしては本話で一番重要だと思っているシーン

『全世界にアグニカ・カイエルとバエルゼロズの名が知れ渡る』

こ れ は デ カ イ


バエルゼロズをかっこよく描く
アグニカが活躍するためならストーリー改竄や世界観の崩壊すら厭わない

当初の目的が実り、たどり着いた確かな答えだと実感しております。

この作品のタイトルを、シンプルに『アグニカ・カイエル バエルゼロズ』にして良かったなーと思える瞬間でもある。
よくやったぞ昔の私。偉い。君は偉い。


クーデリアの演説。
「誇れる選択を」
原作一期の最後辺りで行う内容ですが、ここにクーデリアの思う革命の形を添えることで、さらに熱情が伝わりやすくなったのではと思っています。

もうね、地球圏の人々を魅了しっぱなしだよね、クーデリアさんは。

まあこんな非常事態だからっていうのもあるけど、それでもクーデリアのカリスマ性は本物。
クーデリア・藍那・バーンスタインという下地があってこそ書けた内容なので、改めてサンライズさんに賞賛の言葉を贈らせていただきたい。

『愉悦』!!!!!!


カルタ様の力でコロニー落とし阻止。
カルタ様あああああ!!!万歳!!!!!

かーらーのーーーー???


ガンダム☆ルキフグス登場

艦隊は軽く全滅し、コロニーも再発進。
まあこれは仕方が無いと思うよ。
ルキフグスなんて世界観無視した化け物、誰だって止められないよ。
初見で対応できっこねーだろあんなもん………

厄祭戦時代のアグニカ艦隊ですら相当の手傷を負わされたものと思われる。

だから気を落とさないでカルタ様!
泣かないで!悔やまないで!自分を責めないで!

まあ責任はきっちり貴女のものなんですけどね!!!(鬼畜スマイル)

自分を責めてる暇なんかねーぞ!分かってんのかオラッ!!!(豹変)


人々にとっての『強そうな艦隊』が敗北。
そこにバエルゼロズの暴走、ルキフグスへの敗北が見せつけられ、期待の絶頂から絶望のドン底へ真っ逆さま。

ここで地球圏の『混乱』っぷりが描かれる。

正直ここはさらっと描写するだけのつもりだったのですが、やけに筆が乗ってカリカリ書きまくってました(笑)

久しぶりに登場した星熊祥子。
ドルトコロニーには童子組の支部があると9話で言っていた気がする。
コロニー落としが宣言された時も「そこには私の家族が!」って叫んでましたね。
その家族が切り裂かれて死亡する映像を見せつけられ、嘔吐。

怒りと殺意のままに単身出撃。
初登場の時も単身出撃してたなこの子………まるで成長していない………

この作品を書いていて思ったのですが、一人で戦ってもロクなことが無い。
どんなに強くても一人でできることには限界があるし、いいことなんてほとんど無い。
本気で仇を討ちたいならもっと大勢で向かった方がいいに決まってる。

万が一、負けた時のリカバリーが効かないからね。
この「失敗した場合」のリスクを考えないのが若さか………
認めたくないものだな…自分自身の、若さ故の過ちというものを………


即座に虎熊、ラフタ、ダンジ、昭弘が追いかける。


オリジナルキャラクター
『リナリー・ファルク』

あの肉の皮ブルブルおじさんの妻。
脂肪の塊みたいな巨漢(女)
モデルはワンピースに登場するビッグマム。
強そう。

彼女の口から語られる『イズン・アップルツリーマン』の存在。

イズンとは北欧神話に登場する女神。
北欧神話でりんごと言ったらこの人。
神々の老化を止める不老の奇跡、『黄金の林檎』を管理する重要ポストにいる人。
女神フレイヤに並ぶ、美しい女神だったとされる。

ロキがやらかしたことによって巨人族スィアチに黄金の林檎ごと誘拐されてしまう。
黄金の林檎が無くなったことで、神々の老化が止められなくなってしまった。
指定暴力団『北欧会』アースガルド組はガチギレ。
ロキに「殺すぞ」と脅迫し、イズンを連れ戻す旅に向かわせる(自分達で助けにはいかないのか………)。

ちなみに巨人スィアチの娘にスカジがいる
(スカジはカルタ様の父上を裏切って爆殺(未遂)した人)

原作でも阿頼耶識やナノマシンベッドなど、ナノマシンが重要なテクノロジーの一つではありましたが、詳しく描かれることはありませんでしたね。

そんなナノマシンの権威である研究者に登場してもらうことに。

コロニー落としを阻止するのではなく、落ちた後で大儲けするために知恵をしぼるリナリーさんは知将。はっきりわかんだね。

実際、『復興ビジネス』は儲かる。
その中でも医療は絶対に必要となる部門なので、そこを独占しているファルク家は地味に最強なんじゃなかろうか………

敵に回したら風邪薬すら売ってくれなくなりそう。

ドラッグの流通?
うーんどうだろう。軍事とドラッグは切っては離せないものだけど、仮にも地球圏の名家が違法薬物に手を出すにはリスクが高いかなー。
やるとすれば圏外圏に下部組織を密かに建設して利益を吸い取り、資金洗浄して圏外圏での実行力強化の糧にしてそう。

夢が広がりますね(^ω^)

実際に復興ビジネスは現地がドタバタしているので資金の流れを分かりにくくするのも容易。疑惑付きの資金も出所を隠して運用することが可能になる。
そういう意味ではコロニー落としは千載一遇のチャンス。



今回の見せ場の一つ
マクギリスとガエリオの対話。

マクギリスにとってアグニカ・ショックは新世界の始まりを告げる鐘の音。
ガエリオはガエリオで、マクギリスに認められたという事実に狂喜乱舞し、他のことが目に入らない。

語られるマクギリスの過去。
終始呆然とするしかないガエリオ。
そして嘔吐。

腹を殴られたり重力に振り回されたことによる『動』のゲボではなく、精神的なショックから来る『静』のゲボ。

この両方を経験したのはバエルゼロズでガエリオが初めてだね。
おめでとうガエリオ。

君の嘔吐なしでバエルゼロズは成り立たなかったと思う。
君が居たから………
ほんとうに、ありがとう。

本性を現したマクギリス、突きつけられる殺意、理解不能の怪物。
心が砕け散って、情けなく泣き出すシーンは書いてて最高に気持ち良かったです。

そんな彼の覚醒は、原作にもあった「本物の幸せ」に対する話。

「マクギリスと自分が見ているものが違う」という事実に悲しみ、無力感ばかり噛み締めていたガエリオでしたが、ここで初めて、その事実に「怒り」を爆発させます。

そしてまさかのグーパン。
原作ではオルガ団長が使っていた技
多くの命を預かる者のみが放てる『団長パンチ』
ガエリオがこれを放つまでに成長するとは………
書いた本人である作者が一番驚いています。


そして二人の着地点は
『人生の邪魔になる重石も、二人でなら持って行ける』というもの。

これは原作でバエルを起動したマクギリスにガエリオが言い放った

『お前がどんなに投げ掛けられても受け入れようとせず、否定するもの。それら全てを背負い、この場で仮面を外したお前を全否定してみせる』

ガエリオはマクギリスにとって邪魔な感情を押し付けられた。
その押し付けられたものを全て背負い、再び旧友の前に立ち塞がる………
こうして見るとなかなか熱い展開ですね。

ガエリオは押し付けられたものを捨てることなく、ちゃんと大事に取っておく辺り、まだまだマクギリスのこと好きなんだなーとか、未練たらったらだなーと微笑ましい気持ちにさせてくれます。

しかし本作では一方的に押し付けられることを拒否。
お互いに邪魔になる感情を押し付け合い、共に持っていこうと宣言。

よく言ったカカロッ………ガエリオ!!!

それでこそ王道主人公!!!
バエルゼロズの正統派主人公はクーデリアのつもりでしたが、ガエリオの名もそこに連ねる必要がありそうですな!!

一言で表すならズブッズブの共依存。
どちらかが壊れれば片方も壊れる危ない関係。
破綻したら間違いなく殺し合いになる不安定な絆ですが、それでも、より深く結び付いたことは間違いない。

世界が混乱すればするほど安定していくマクギリス。そしてガエリオ。

これから先も分岐点は数多くあるだろうけど、今この瞬間だけを見れば

『和解ルート』


や っ た ぜ

さてさて、気になる『奇跡に対する人々の反応』ですが、これが意外とドライ。
「奇跡だ!」と叫び回るのを期待していたのですがそうはならず、ただ唖然とするばかり。

つまりバエルゼロズにおいて、人々のリアクションは

『思考放棄』


簡単に言えば「な に あ れ」

まあこれが当然の反応かなあ………
この世界にとって、初めて見る「本物の奇跡」な訳だから………

そこから生まれる「説明を求める」という集合意思。
恐いぞ、民衆は。
生半可な説明や小手先の情報操作では満足しないぞ。
なだめても収まらないぞ。
口ごもれば怒るぞ。
黙れば怒鳴るぞ。
一度でも謝れば終わりだぞ、生きてることすら謝罪させられるぞ。

「知りたい」という気持ちに罪は無いのですが、それが欲望になれば自他を腐らせる毒にもなりうる。

クーデリアもこれから大変だぜ。
過剰なまでに『正義』『高潔』『希望』というイメージを定着させてしまったことで、民衆から無条件に救済を求められる。

凄く期待されている。
その期待にクーデリアは応えられるのか?

そんなこと出来るはずがない。

何故なら人々の「期待」とは『奇跡』であり、口を開けば食べ物が飛んできて、座ればソファーベッドが飛んできて、目を向ければ綺麗なものだけが視界に飛び込んでくる『際限の無い欲望』だから。

政府や社会にこんな馬鹿げたことは望まない。
しかし、奇跡を体現した革命の乙女になら、どんな絵空事だって叶えてもらえそうに感じる。
だから求める。

次の『奇跡』を!
新しい『奇跡』を!
都合のいい『奇跡』を!

『奇跡』が『利益』に移り変わるのはいつかな。

クーデリアはこれから「自分にできること」と「人々が求めること」のギャップに苦しんで、苦しんで苦しんで苦しんで苦しんで苦しんで苦しんで苦しんで苦しんで苦しんで苦しんで苦しんで苦しんでのたうち回ってもらうよ!!!!

でも今更「そんなこと出来ません」なんて言ったら民衆は何て言うと思う!?

『魔女』だよ!!!!!

「革命の乙女は魔女だった」って言うよ!!!!!

魔女狩りが始まるよ!!!!!!

この「クーデリアは悪くないのにクーデリアが全部悪いみたいになってる」ってシチュエーションが好き。大好き。
魂が求める愉悦。
私の前世、あるいはもっと昔の、起源と呼べる時空から続く螺旋のような繰り返しなのかも。

クーデリアは一生懸命頑張ったのにね。
あの細い身体に不安と恐怖を敷き詰めて、それでも真っ直ぐ立って声を届けたっていうのにね。
なんでこうなっちゃうんだろうね。
自分で書いてて不思議に思うくらい歪んじゃってるけど、バエルゼロズは救いが無い話だからね。仕方ないね。

その絶望的に救いようが無い世界を暴力で切り開くのが

アグニカ・カイエルだから!!!!!


奇跡を起こした次の回で『奇跡なんて起こさなきゃ良かった』って言わせるのがこの世界で、
この世界で最高に輝くのがアグニカ・カイエルで、
アグニカを輝かせるのがバエルゼロズという作品だから!!!!


ともかく、『理想』と『現実』のすり合わせが今後の課題となってきそうですね。


さてさて、コロニーが転送されたことで、地球は無傷でこの騒動を生き延びた………

イズナリオ「いつから『地球圏の死者ゼロ名』だと錯覚していた?」

ヨフカシ「なん………だと………」

完全に阻止はできてませんでした。

コロニーの外壁が剥がれ落ち、コロニーよりも先に地球圏に落下。

主にSAUの北アメリカ大陸に降り注ぐ。

その結果

2 0 0 万 人 が 死 亡



えっなにそれはぁ………(絶望)

逝きすぎぃ!!

どうしてアクシズ・ショッククラスの奇跡を起こしてなお200万人が死ぬの………

アムロ・レイを越えるニュータイプ能力を発揮してそれでも

『まだ足りない』

と嘲笑うのがバエルゼロズなんだよなぁ………

コトコト煮込んだ愉悦スープ、ようやく味が出てきたと自負しております(^ω^)

『ラスタル様に絶望してもらおうキャンペーン』第3段

『実家にガンダムが降ってくる』

大気圏降下してきたルキフグス(体育座り)が実家に直撃して大爆発(ルキフグスは無傷)。

たとえコロニーが落ちても大丈夫なように、大切な人や役に立つ人を避難させていた地下シェルターが丸ごと崩壊。

ラスタル様の家族は原作では語られなかったので、二次創作では弄り甲斐がある設定なのですが、バエルゼロズでは

『居たけど全部死んだ』

という形で消化させていただきます。
省エネってやつだね。エコなんだよ。

正直ラスタル様に娘とか居たらジュリエッタと絡ませて楽しめたかなーとも思ったのですが、まあ、全て灰塵の中に消えたということで………

それより私は苦しむラスタル様の顔が見たいよ!
ねえ今どんな気持ち!?
自分はダメージを負わずに利益だけを拾う作戦で、ずっと入念に準備してたしコロニー落とし失敗の責任だってカルタ様に押し付けられたのに、一番損害受けてるのは自分だって状況ねえ今どんな気持ち!?

もうエリオン家はラスタル様しか野子ってないよ!
だから貴方が死んだらエリオン家断絶だよ!そうならないように頑張ってね!


ウリエルの最終兵器『銀河鉄道』

Q.四大天使ウリエルの武装って太陽槍『ブリューナク』じゃなかったっけ?

A.『ブリューナク』だけではアグニカ艦隊に勝てないと判断したウリエルが、ガブリエルに手伝ってもらって魔改造したのが『銀河鉄道』。つまり奥の手。

『ブリューナク』でガンダムフレーム5体をスクラップにして、『銀河鉄道』でガンダム7機を行方不明にするという地獄のような被害に。

今思うと、この行方不明にしたガンダムは、後々回収して手駒に加えるつもりだったのかもしれませんね。
実際にマステマがそれをやってます。

『銀河鉄道』のスラスターの名前が『アタランテ』。
アタランテはギリシア神話に登場する女狩人。

アタランテは山に捨てられ、狩人として立派に育った。
容姿は美しく要領も良く、また純潔を堅く守っていたため、多くの男が求婚する。
(アタランテは昔悲しい失恋経験があるので、結婚に乗り気ではなかった)

アタランテは自分とかけっこして勝った者に嫁ぐと宣言。
男どもは「余裕だろそんなん」と舐めきっていたが、アタランテは当時最速の脚を持っていた。
一瞬で追い抜かれた男達は、アタランテに弓矢で全員射殺された。

この話を聞いたヒッポメネースという青年は、一人の女のために命を賭けることを馬鹿馬鹿しく思い、「あ ほ く さ」と言い捨てる。
しかしアタランテの美貌を見て一目惚れ。前言を撤回する。

普通にかけっこしても勝てるはずがないので、愛とセッッックス!!!(やめないか!)の女神アフロディーテ(アダ名はアフロ)に土下座。

ヒッポメネース「助けてオナシャス!なんでも島村!」

アタランテに春が来てもいい頃だと考えていたアフロディーテは、この青年に黄金の林檎を手渡す。

かけっこの際、ヒッポメネースは黄金の林檎を後ろに投げ、それにアタランテが気を取られている隙にゴールイン。
めでたく二人は結婚。よかったよかった。

紅茶といい緑茶といいAUOといい、当たらんてといい、私はアーチャーが好きなのだろうか………?無意識に贔屓して作品に取り入れている気さえする。



『力の世界』にコロニーを転移させたアグニカ。
スヴァハとの対話を終え、一つの奇跡を成し遂げた達成感を胸に、フミタン、クーデリア、三日月の元へ駆け寄る。

フミタンを抱き締めて涙を流すアグニカ。

最愛の仲間、始祖セブンスターズ
心の支えである、スヴァハ・オーム
アグニカの原点とも言える、ディヤウス・カイエル

アグニカが愛した者達は総じて悲惨な末路を辿っているため、現世で愛したフミタンが生きていることに、心の底から安堵するアグニカ。

なんか最近のアグニカ泣いてばっかだな。
もっと笑ってよ。
笑って
笑えよ

笑えって!!
今が人生で一番幸せですって笑えオラッ!!!!


『力の世界』から現実世界の様子を探ると、なんか200万人死んでるという完全に予想外の展開。
ブチギレつつも再び戦うことを決意したアグニカ。
先ずは手近な、大量殺戮中のジュリエッタの元へとジャンプ。


コロニーの外壁を切り裂いて内部に侵入するジュリエッタ。
ここは映画『ナラティブ』のネオジオングがコロニーに大穴開けて登場するシーンを参考にしてます。

ピーコック・ファンネルを従え、ドルトコロニーの住人を虐殺していくジュリエッタ。

合計で74万3671人を殺害。

だから逝きすぎぃ!!!!

ジュリエッタが(殺人)経験人数70万人以上の(命を奪うことへの抵抗が)軽い女になってしまった………

サテライトキャノンとかジェネシスとか大量破壊兵器は数多く存在したけど、ファンネルがあったとはいえ単機でここまで人を殺したガンダムキャラはいないのではなかろうか………


ドルト1から6という、もう地球に向かってすらいないコロニーを毒牙にかけるジュリエッタ。
曰く「こんなコロニーの生存者がいたらラスタル様の悪評を垂れ流すだけだから」だそうな。
ちなみにコロニー内の大虐殺は地上波でお茶の間に流れてます。

『ラスタル様のために!』はもう知らない人の方が少ないから、ラスタル様の風評被害がとてつもないことに。

原作では「労働環境が見直された」としか語られなかったドルト1から6のその後。
ストーリーからフェードアウトした脇役設定にもスポットを当てるヨフカシは脚本家の鑑(自画自賛)。

本話の後半は設定の在庫処分でしたね。
命の大安売り、ギミックのバーゲンセール。


ジュリエッタの剣のようなモビルスーツ
名前は『バルバロイ』

バルバロイとは「バルバロス」の複数形。
バルバロスとは『訳が分からない言葉を話す者』を意味する侮蔑の言葉。

ギリシア人にとって、異民族の言葉は聞き取り辛く、「バルバルバルバル」と言っているようにしか聞こえず、こう呼ばれるようになったのだとか。

もはや別人になってしまったジュリエッタ。
レギンレイズジュリアのような大義も気品もない変わり果てた今の姿にはぴったりかな、ということでバルバロイと名付けました。
複数形なのは四肢が分離するため。

まあね、ジュリエッタも悪い奴じゃないんだけどね。
麻酔無し四肢切断の拷問で精神崩壊からの洗脳という悪辣コンボで堕ちちゃった幸薄ヒロインだから………

この「ジュリエッタは悪くないのに全部ジュリエッタが(ついでにラスタル様も)悪い」みたいになってるのホント好き。

仮に四肢が無いことと脊髄に異物を埋め込まれた身体に気持ちの折り合いをつけ、ラスタル様の幻影を取り払ったとしても、
アリアンロッド第一艦隊を襲撃したことや一般市民を大量虐殺した事実は変えられない。
一生背負い続けるしかない重い十字架。

原作みたいに「正義とは」「強さとは」なんて悠長な悩みごとする時間なんて無いよ!!
自身の理想と、血にまみれた現状とのギャップに苦しみまくっていってね!
その可愛い顔を苦悩に歪めていってね!!!

………ま、生きてれば、の話だけどね………




読者様「前回も前々回も 誰も吐いてねえじゃねーか!バエルゼロズ読むの止めるわ!!」

ヨフカシ「ひええ!ま、待ってください!今回は通常の三倍吐かせますから!」

読者様「ならええわ」

ヨフカシ(ほっ………)

という訳で地球人全員に吐かす。
あるいは吐き気を催させるためにジュリエッタに無双してもらった次第でございます。

星熊VSジュリエッタ。

バエルゼロズ史上初となる女性パイロット同士の戦い。
これは熱い展開だぜ!!

クタン参型を盛大に囮にした突撃、ミサイルで四肢を分断する戦法、コクピットだけを執拗に狙う執念など、星熊の本気の殺意が光る激しい戦い。
かなりの自信作でございます。
やっぱり戦闘に花を添えるのは殺意と憎悪!人間の激情だよね!!

敵の攻撃を噛んで止めて、「私はお前を捕まえた」って完全にアーカード様じゃねーか(歓喜)
バエルゼロズでは再現できないシーンを成し遂げてくれた星熊童子には祝杯をあげよう。
まあバラバラにされて大破しちゃったけど(笑)

そこに登場、我らがバエルゼロズ!!
もうボロッボロだけどね!

この状況でまだ戦うのかよと自分でも突っ込みを入れたくなる。

四大天使の残骸とアグニカの再会も熱い展開。
散々仲間を殺してくれた怨敵であり、完全に葬ったはずのミカエルの羽。
怒髪天のアグニカさん。

ビームシールドを貫通できるバエルソードで、ファンネルの後ろに瞬間移動して腕を振り下ろすのを繰り返すモグラ叩きみたいな戦い方。

そしてジュリエッタとの刺し違え。

ジュリエッタはコクピットごと脱出するという、身体の小ささを利用したコアファイター戦法で即死を回避。
バエルゼロズの首に剣を突き刺すという快挙。
そしてバエルゼロズの首をもぎ取り、高らかに掲げます。

『バエルは討ち取られた!!』

バエル 撃ち取っちゃ 駄目でしょおおおおおおおおおおおおお!?

なに考えてるのこの子はあああああああああああああああああああああ!!!???

原作ではマクギリスが反逆者だったから良かったものの(しかも船の中だったため、バエルが中破して乗り捨てられているのを見た者は少ないと思われる)、この世界では(一応)英雄機なんだよおおおおおおおおおおおお!!!??

その奇跡の英雄機を撃ち取ったってアンタ………
悪魔の所業じゃないのおおおおおおおお!!!!!

これに『ラスタル様のために』のキャッチフレーズが加わることによってラスタル様は世相とギャラルホルンの両方を敵に回す未来もあり得る。
あれ………控えめに言ってラスタル様、詰んで………詰んでない?

ラスタル様もヤバイけど、バエルゼロズもダメージが過多。
もうやめて!バエルゼロズのライフはゼロよ!

『運命』というものは、演劇の脚本のようなもので、「こういうことが起こる」と決められているんじゃないかと思います。
だから先送りにしてもいずれは振りかかってくる。
ならばこちらで脚本を再現し、その未来を肩代わりするのはどうだろう!?
と思ったのでバルバトスと三日月を救うため、バエルゼロズに首ぎっちょんの身代わりになって貰いました(笑)


バエルを討ち取り、エクスタシーに浸っていたジュリエッタちゃん。
しかし背後から妖怪首返せの魔の手が。
ノーガードの所に必殺バエルパンチを喰らうジュリエッタ。

ダメージを頭部パーツに肩代わりさせることで即死を免れる。

馬鹿な!?バエルパンチで死なないだと!?

宇宙の 法則が 乱れる!

転送装置の使い方
『敵の武装を強制ワープさせる』
これによってピーコック・ファンネルの群れを銀河の彼方へ飛んでいってもらう。

このチートパワーにジュリエッタは激怒。

「こんなチート行為が許されるんですか!?」

そこでアグニカの言い放った台詞がこちら

『スヴァハに許してもらったんだ』

ノロケか!!!
正妻の言葉に救われたアグニカは周りの言葉など気にしない。
アグスヴァ御馳走様でしたホントに!!

ここで虎熊達が到着。
マクギリス、ガエリオ達も加わり、ジュリエッタを倒すために共闘することとなる。

かつての敵と成り行きで共闘する展開最高に熱い。好き。

「勘違いするなよ!」とか「今回だけだ!」とか「それよりも奴を倒さねば!」っていう会話は短いながらも持ち味を活かせるので書いてて最高に楽しいシーンでもありました。

一番好きなのはキマリスとグシオンの共闘シーン。
原作ではバルバトスと組んでキマリスをフルボッコにしていたが、こうやって肩を並べる未来もあったんだなぁと感慨深い思いです。

あと自分の愛機に乗っているダンジに食ってかかるガエリオも好き。
この辺は初期の間の抜けたガエリオって感じがして好きです。

しっかし、ジュリエッタとバルバロイ。

虎熊、ラフタ、ダンジ、昭弘、マクギリス、ガエリオ、シグルス、ジークフリートの三人、モブ兵士八人

ガンダムフレーム三機を含む合計18機で囲んで殺しきれないという

正 真 正 銘 の バ ケ モ ノ


バエルゼロズ史上トップクラスの強敵だったと言えるでしょう。


そして余った設定の使い回し、ドルトコロニーの推進器から水素ガス貯蔵タンクを転送させ、それを爆破させることで衝撃波を生み出す。

ドルトコロニーの盾となっていた巨大にデブリに押さえつけた所を加速させた鈍器で叩き潰すという鬼畜コンボで、なんとかジュリエッタを倒すことに成功。

今回は設定というリンゴを握り潰して果汁ジュースを作るような話でしたね。

アグニカが地味に瞬間移動の使い方に知恵を搾っていた回でもありました。

「敵の背後に転移して攻撃」にも「タイミングと狙い所を予測されていればカウンター可能」という弱点が発見され、なかなかレベルが高い戦いだったのでは、と思います。

「敵を太陽系の外に転移させて餓死させる」という方法も、エイハブリアクターが搭載されていないものに限るなど、色々と制約がある模様。

やはり一番は「ステージ環境を変化させて勝機を見出だす」

これですね。
この使い方が一番好きです。

戦場に好きなアイテムを呼び出したり消したりできる。
これを上手く使えば、アグニカ陣営の大きな力となるでしょう。


まとめ終了!!

なっっっっげえ!!!
ながすぎぃ!!
本文だけで7万文字とか書いてあったけど見なかったことにしよう。

素直に前後編に分ければ良かったじゃん………
コロニー墜落の前と後とかでさぁ

なぜ人は過ちを繰り返すのか………コレガワカラナイ

まあええわ(思考放棄)

これからも時間が開いても生きてるし書いてるから心配しないでね!
わたし不死身だから!


さてさて、奇跡を起こしても死と混乱は避けられなかった世界。
奇跡と英雄を目にした人々は、その再来を望む。
死と混乱を目にした人々は、その謝罪と損害補填を望む。

燃え上がる人々の狂気は、やがて身を滅ぼす大火となって世界を焦土に変える。
世界規模の混乱と戦争!!!!
次回もどんどん人は死ぬ!!どうぞお楽しみに!!!!


自ら育てた闇に呑まれ人は滅ぶ!!!!

火の如き人の業!!!!


次回『業火』

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