アグニカ・カイエル バエルゼロズ   作:ヨフカシACBZ

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共に生きる喜びさえも 消えてしまう


17話 業火 2

二大首都同時殲滅

 

『地獄の門』開門まで

 

残り66時間13分45秒

 

 

 

幾つもの画面が照らす、薄暗い司令室。

そこは、今も建造中である魔王城『ヴァラスキャルヴ』の最深部。

世界中の混乱と業火を、舐め回すように観察するため、映像としてここに集約しているのだ。

 

それらを眺めるのは、白衣を着た老人。

モーガン・アクティズムである。

 

「アグニカ・カイエルの思想とは、愉悦にあるのかもしれない」

 

眼鏡の縁をそっと直す。

 

「人類存亡のためと豪語しながら、人類が勝てるはずのない相手に立ち向かい、夥しい死者を出した。

人々を地獄の業火に導き、突き落としたのは間違いなくアグニカ・カイエル」

 

無知で無垢な子供達を浚う、ハーメルンの笛吹き男のように。

 

「希望など持たせるから苦しむ。

抵抗するから恐怖が増える。

力をつけるから、力の差に気づいてしまう」

 

モビルアーマーは人類のためを思って、あれほどまでの性能と強大さを持ち合わせているのだ。

圧倒的な力の差で、反抗の意思を自然と起こさせない。

 

粛々と『儀式』を行い、悲願を達成出来ればいい。

 

全人類をガンダムにまで昇華させ、一切の苦痛も絶望もない世界で永遠に生きる。

この素晴らしい悲願が理解できない愚か者達こそ、アグニカ・カイエルとその仲間達だ。

 

「モビルアーマーが人類の敵なのではない。

『死』と『絶望』こそが、人類の共通の敵なのだ。

我々はこの天敵に対し、長年為す術もなかった。

だが『進化』という方法で、この天敵を打破する道筋を得た!!」

 

天啓を得た信徒のように、モーガン博士は両手を広げる。

 

「しかしアグニカ・カイエルはその『進化』を拒んだ。

『死』と『絶望』という敵に対し。

『生』と『希望』という味方の力を借りて、それを打ち破ろうとした」

 

アグニカの愛してやまないもの。

燃えるような生命力と、輝く希望、意思の力。

 

「その『味方』こそが、本当の『敵』だと気付いていない。

『死』を増やし、『絶望』を肥え太らせるための『生』であり『希望』なのだと、考えたこともない」

 

『死』の数は『生』の数である。

『死』はその数を増やすことはないが、『生』はその数を増やし、やがては『死』の数をも増やす。

『生』と『死』は相反するものではない。

行き着く場所は同じなのだ。

 

「『生』は隷属なのだ!!!!

『希望』は屈服なのだ!!!!!

 

ああなんと罪深き利敵行為!!!

悪魔に妻子を売り渡す亭主より、遥かに非道で浅ましき思考だ!!!」

 

この世界に『神』が存在するなら、『死』や『絶望』が存在するはずがない。そんな悪しきものの跳梁跋扈を許すはずはない。

だから、『死』と『絶望』に溢れた世界に神は居ない。

そんな考えを持つ者も多い。

だがそれは間違いだ。

 

『神』とは『死』と『絶望』を乗り越えた先にたどり着くための指標。

崖を飛び越えた先にあるものだ。

『神』とは人名ではなく場所の名前。

『神』が人々に『生』と『希望』を与えてくださるなどという甘い考えは、無知などという言い訳も通用しない。

恐るべき異教、偶像崇拝だ。

 

人類が『生』と『希望』を放棄し、『死』と『絶望』を超越した場所が、『神』。

人類こそが神の領域に至ることができる存在。

 

だからこそ、アグニカ・カイエルという存在は必要不可欠。

 

『神の領域』と全く逆方向に進み続ける『指標』があれば、自ずと『神の領域』の方角も分かるということだ。

 

アグニカ・カイエルの目指す先の逆方向こそが、正解。

神の領域である。

アグニカは『悪』であり『退廃』であり『敗北』への下り坂。

 

『生』と『死』、どちらも捨てきれないから、どちらも支配できない。

その両方に苦しめられることになる。

両方を捨ててこそ、両方を超越できる。

 

「結論だ!!

アグニカ・カイエルの思想とは!!

人類をより長く、深く、多く苦しめるための方法であり、それは魂の求める『愉悦』に他ならない!!

堕落を楽しむという境地!!

まさに悪魔!!悪魔の頭領!!!!」

 

血の一滴も溢さずに搾り取る、吸血鬼。

それこそがアグニカ・カイエル。

血まみれの英雄。

 

「人類堕落カーニバルの主役にして脚本家こそが!!!アグニカ・カイエルの正体なのだ!!!!」

 

狂気という眼鏡を通して見れば、アグニカの黄金に輝く思考すらも、歪みに変わる。

 

その結論に、異議を申し立てる者が居た。

 

 

「違う!!!!!」

 

 

突如、数多の画面が光り輝き、強力な閃光を放つ。

堪らずモーガンは目を覆う。

 

「なんだ!?」

 

まばゆい光に包まれた司令室。

その中に、光が集中し、一人の男の姿を映し出す。

この魔王城のシステムに侵入し、映像機能を操っているのだ。

 

「ハッキングだと!?」

 

モーガンは信じられないという表情。

 

光の男が、その輪郭を明瞭にしていく。

金色の髪を後ろに流し、赤い瞳を力強く見開いている。

黒い制服とマントを着けた姿は貴族然。

その顔は、かの英雄に酷似していた。

 

モーガンは遮光レンズを三枚重ねにして、ようやくその人影を視認できた。

 

「アグ、ニカ?……いや、こいつは」

 

モーガンは困惑する。

アグニカに似た金髪の男は、モーガンをはっきりと見据えて、言い放った。

 

「我が名はソロモン!!!

ソロモン・カルネシエルである!!!

アグニカを愛する者達の長である!!!!!!!!!!」

 

両手を広げ、金色の光がさらに強まる。

部屋中を黄金色に染め、塗り潰す。

 

「貴様らに言いたいことがある!!!!」

 

ーーーーーーーーーー

 

残り66時間05分7.00秒

 

 

ソロモン・カルネシエルは『赤雨旅団』の声明を聞いた。

ギャラルホルンの内部に潜む影に気付いた。

そして、三百年前から生き残った天使の残骸があることを知った。

 

ソロモンはソロモンが思ったことを口にした。

 

「貴様らは間違っている!!!!」

 

奇しくも、クーデリア・藍那・バーンスタインと同じ言葉。

違うのは、言葉を送る相手が、被害者である労働者達ではなく、加害者であるモーガン博士達であることだ。

 

モーガン博士は素早く言い返す。

 

「何も間違ってなどいない」

 

人類は進化する。

人類の叡知である科学は飛躍する。

モーガン博士は火を吹くように反論する。

 

「人類の『進化』を促すことの!どこが間違っている!?

『進化』という『奇跡』を!!

『奇跡』という『科学』を!!

『科学』を操る、我々『科学者』を!!!

どういう了見で間違いなどと!!!」

 

「黙れ!!!!!」

 

大音量の怒声に、モーガンは一歩後ずさる。

ソロモンは利発な顔を憤怒に歪ませ、額には血管が浮き出ている。

 

「貴様らの大義名分にはヘドが出る!!!

訳の分からんことばかり垂れ流しおって!!!!

そんな妄言!!聞きたくもないわ!!!!!」

 

「な、な、な、なん……な」

 

モーガン博士はしばし呆然としていたが、硝子を割るような声で叫び出した。

 

「それは理解の放棄だろう!!!

思考をやめた愚図めが!!!

お前のような狂人に!!人類進化の悲願を!!マステマの悲願を否定されて堪るか!!!」

 

「知ったことか!!!!!!」

 

ソロモンは金の頭髪を乱暴に掻く。

そして、モーガン博士を射抜くように指差した。

 

「貴様らの言う『悲願』……?

そんなものは……

 

他所でやれ!!!!!」

 

狂気の計画を、宇宙の彼方まで蹴り飛ばすような、力強い全否定であった。

 

ソロモンは両方を堂々と広げ、牙を見せて叫ぶ。

 

「人は人のまま人を越える!!

人は人のまま変わらねばならんのだ!!

人を捨てて人を越えるなど論外!!

勘違いも甚だしい!!!

お前達がどれほど高尚な科学の探求者かは知らん。だがな!

 

人類は勝手にやらせてもらう!!!」

 

「ふざ……けるな……」

 

モーガンの三つのレンズに罅が入る。

ブルブルと震える様子は、極寒に震えているかのようだ。

 

「人が自立などできるものか!!

我々が与えるのだ!!!

我々が導くのだ!!!

いつの日か全世界に!!一人残らず配給するのだ!!

『進化』を!!奇跡のような科学を!!

科学のような奇跡を!!!

それを与えるのは人類にあらず!!!

非人類こそが!!!人類を救えるのだ!!!」

 

対称的な二人だった。

光と闇。

実態の無い光でありながら堂々としたソロモン。

実態があるが故に消え入りそうなモーガン。

その主張は交わることのない、別軌道を進む流星。

 

「人は人のままでいい」

 

「駄目だ!!人のままでは駄目だ!進化しなければ!!」

 

「生きていていい」

 

「駄目だ!!生きていては駄目だ!!新しい生命体にならなければ!!」

 

「人は人の歴史を繰り返していい」

 

「駄目だ駄目だ駄目だ!!!

繰り返してはいけない!!

人は過去の過ちを二度と再犯してはならない!!!」

 

モーガンは人という存在を、ただただ否定し続ける。

ソロモンは酷く悲しげな、無常さを漂わせる老人のような表情になる。

 

「では、駄目だと誰が決めたのだ?

神か?天使か?化け物か?」

 

「人だ!!人の歴史だ!!

死屍累々と連なる過ちの河!!墓標の山を見れば一目瞭然だろう!?

人はその過去を以て、人に未来がないことを証明する!!!」

 

「貴様らの正しさは、一体誰が証明してくれる?

神か?天使か?化け物か?」

 

「過ちを全て捨てることで証明する。

神が正しさの証という時代は終わった。

人が神となり!自らの正しさを世に知らしめるのだ!!!」

 

人類が嫌いなのだ。

人類のあり方が受け入れられないのだ。

だから、人であることを捨て、非人類を崇めた。

 

「貴様らは間違っている」

 

「何故だ!?何故分からない!?」

 

言葉を交わした上で、その相互理解の不可能さを実感した。

 

「人は人の営みを繰り返す。それは当然のことだ。自然の摂理だ。何百年、何千年と繰り返してきた営みだ!」

 

「『営み』と言ったか!?『過ち』の間違いだろう!?」

 

「いいや、営みだ。命を育むことだ。

朝日とともにあり、風と共にあり、夜と共にあった人類の、それら全てを、我は肯定する」

 

ソロモンの絶対的な肯定。

肯定など受け入れられないモーガンの、否定。

 

「そこに積み上げられた血と泥と汚辱が見えないのか!?」

 

「見えているからこそだ。

人類には、繰り返してきたという実績がある。積み上げてきたものがある。

人類はこのまま生きる。このまま進み続ける。

『繰り返してきた』ということは、正しさの証明となるのだ」

 

「なんだと?」

 

モーガンにとって、盲点と言える指摘だった。

間違いを証明する汚物でしかなかった『人類の歴史』が、正しさを証明する一面も併せ持つと?

 

「逆に貴様らの悲願は、繰り返してきた実績があるのか?

ぽっと出の思い付きが、正しいと言えるデータがあるのか?」

 

モーガンは胸を締め付けながら叫ぶ。

 

「実績は既にある!!!ツインリアクター!!72機のガンダムフレーム!!

そして!!新たなるガンダム!!!

ガンダム・ルキフグスが!!今まさに正義を証明しているではないか!!!!」

 

「それこそ間違いだ。過ちの繰り返しだ」

 

「どこが!!!」

 

ソロモンは、出来の悪い教え子を見るかのような目で、モーガンを見た。

 

「人の弱さから目を背けた。それこそが過ちだ」

 

人の不完全さを超越する第一歩。

弱さから目を背けるという、偉大なる前足が、間違いだった。

 

「人の愚かさ、脆さを否定はしない。

過去の歴史が繰り返した悲惨な流血を無視したりはしない。

だが、だからこそ!

人は人のまま生きていかねばならない!!

人の身で罪を背負ったならば!!人の身のまま贖罪せねばならん!!!

それこそが全人類の使命だ!!!」

 

彼らの犠牲を無駄にしないためにも。

 

彼らと同じ条件のまま、前へ進む。

彼らの犠牲だけが、今と過去の違い。

 

 

ソロモンの人間愛は、甘いものではなかった。

あまりにも厳しい、少しの寄り道も許さない、狂信的なものだった。

 

人のまま神の領域に達する。

 

古今東西、『無理難題』とされてきた使命。

 

その『無理難題』へ『進化』という答えを嬉々として持ってきたモーガン達を、

 

慈愛の笑顔で殴りつけ、

 

それは『甘え』だと諭し、

 

また挑み続けろと激励する。

 

ソロモン・カルネシエルとは。

 

まさに悪魔のような男であった。

 

「人類が自らの可能性を全て引き出す。なるほど素晴らしい理想だ。

だがそれは!!人類が人類の歴史の果てに勝ち取るもの!!!

『生』も『死』も希望も絶望も抱えたまま!!人のままたどり着く場所だ!!!

何もかもをかなぐり捨てて到達など出来るはずがない!!!!」

 

全てを捨ててリセットする。

人類の汚点をやり直す。

そんな都合のいい逃避を、ソロモンは許せない。

 

対してモーガンは、不完全な状態のまま進むことが受け入れられない。

人類の汚点を背負い続けることに耐えられない。

モーガンは白衣を脱ぎ捨てた。

胸元は鉛色の金属と機械が浮き出ていた。

 

「私を見ろ!!この姿を見ろ!!

私の半分は機械だ!!科学の力を借りて、二百年以上も生き永らえた!!

この姿を見て、誰もが私を化け物だと言う!!だがな!!人を人らしく生きさせるのは科学だ!!機械だ!!!

つまり化け物だ!!!

非人間こそが人間を人間たらしめてきた!!

分かるだろう!!科学のない文明が、どれだけ野蛮な生活をすることになるか!

貴様の言う『人間らしさ』とは何だ!?

空調の効いた室内で、音声発信器を横に置き、温かい化学物質を飲む姿が人間か!?

それが無ければ人間じゃないのか!?」

 

「分かるはずだ」

 

文明のレベルが人間性を決めるのではない。

ソロモンは人の在り方について語る。

 

「人間とは『意思の生き物』だ。

自らを認識しているからこそ成り立つ存在だ。

意思があるのなら、たとえ獣のように地を這いつくばろうとも、それは人間だ」

 

「なら、全身が機械になろうとも!リアクターになろうとも同じのはずだ!」

 

「自らの認識が無ければ人間ではない。

弱さも、脆さも、全てを見るから人なのだ。

全てを捨てよと強要するなら、それは支配だ。

機械のような奴らに支配されるなど、まっぴらごめんだ!!!」

 

人類は人類だけの力で立ち上がる。

立ち上がれると信じている。

 

苛烈なまでの『人間信仰』

 

『非人間信仰』の申し子であるモーガンは、ゆっくりと手を下ろした。

 

「理解できんな」

 

「ああ、まったくだ」

 

お互いに分かり合うことは不可能、という結論で合意した。

モーガンは機械のような無機質な声で言う。

 

「では人類の歴史というデータから考えて、『暴力で解決するしかない』という答えになるが?」

 

話し合いで解決しないならば、暴力に訴えるしかない。

ソロモンにも、こうなることは予想できたはずだ。

結局は、暴力と殺し合いに頼るしかない。

人類の『選択肢の少なさ』を憐れに思いながら、モーガンは問うた。

 

「それとも、本気で分かり合える気でいたか?

最初から暴力に訴える前提で、形だけ対話を求めたと?」

 

「いいや」

 

ソロモンは首を振るう。

そして、モーガン・アクティズムを見据えた。

 

「貴様に『決闘』を申し込む」

 

「け……」

 

『決闘』。

厄祭戦と、それより前の時代、戦争が簡単に人類を滅ぼせる文明レベルに達し、大きな衝突と、長引く小競り合いを避けるべく考え出されたのが、お互いの代表者を出し、その決着によって判断をつけるという制度。

先進的になったが故に、過去の制度を模倣するという喜劇。

 

『人間信仰』代表

ソロモン・カルネシエルが、

 

『非人間信仰』代表

モーガン・アクティズムに決闘を申し込んだ。

 

この二人の勝敗によって、人類が掲げる正しき『義』と『是』を決めようと言うのだ。

 

「は、ははは!!

どんな!……どんな権限があって!ハハハハハッ!!!!」

 

モーガンは大笑い。

ソロモンという男に、全人類の思想を左右する権限などあるはずもない。

それを決めるのは人類であり、人類の思考と行動を決めるのは、『暴力』だ。

 

「結局!人の素晴らしさを説く貴様も!暴力に頼るか!ハハハ!!それもそうか!『進化』も『奇跡』も『科学』も無いなら、もう『暴力』しかないか!!ははははははははは!!!」

 

全人類ガンダム化計画を否定したソロモン。

そこにどんな素晴らしい奇跡があるのかと思いきや、暴力しか手札がなかった。

とんだ肩透かしだ。

やはり、『進化』も『奇跡』も『科学』も持ちうるモーガン達の方が、優れているではないか!

 

「武力なき正義は無力であり害悪だ。

暴力とは自分を正当化するための手段」

 

「そうだろう、そうだろうとも。暴力でも無ければ、自分の正しさも証明できないのだろう」

 

モーガンはご機嫌で相槌を打つ。

 

「暴力が無ければ、正義は存在できない」

 

「そうだな」

 

「では暴力を捨てることは、正義か?」

 

「美しい光景ではある。お涙頂戴の脚本だ。だが現実的じゃない。であるならば、悪だ」

 

暴力を捨てることは『悪』

 

「ならば、人類の愚かさを全て捨てるという、貴様らの『悲願』は、『正義』か!?『悪』か!?」

 

「……」

 

全人類が『暴力』という手段を捨て、ガンダムという完全な存在になったとする。

そこにもう暴力は必要ない。

ならばそれは正義なのだろうか。

 

「あのねぇ……」

 

モーガンはポリポリと頭を掻く。

 

「さっきの例えは、暴力を捨てた後、無防備になる未来があるからこそ、悪と断じた訳だよ?

蹂躙されると分かっていながら、自衛手段を捨てるなどとは自殺行為。

自殺は駄目だろう。どこの宗教でも禁止してる。

かといって、暴力が必要ないという状況は、自分以外の全てを滅ぼさなければあり得ない。

核戦争でも起こすかね?

人類滅亡!それは『悪』!子供でも分かる!!

だが!!全人類が完全な生命体になれば、『その後』なんて関係がない!!!そこで話は終わりなんだから!!!

『悲願』が達成されれば暴力はいらない!!それが正義!!

暴力がいらなくなるまで進化するのが!『悲願』なんだよ!!!!」

 

荒い息を吐くモーガン。

ソロモンは静かに口を開く。

 

「人間は意思の生き物だ」

 

頑ななまでの、主張。

 

「正しさを証明しようとしなければ、それは意思があるとは言えない。

『暴力』とは拳を振るうだけではない。

闘争だ。己を貫こうとする『意思』だ。

貴様らの言う完全な生命体になって、外部に自らのあり方を証明する必要がなくなった時、それは、人ではなくなるのだ。

『意思のある生き物』ではなくなるのだ!!」

 

「どうでもいいわそんなこと!!!!!!」

 

今度はモーガンが、ソロモンの理論を丸投げした。

理解の放棄が野蛮と断じておきながら、モーガンもまた、決して相容れない相手を拒んだ。

 

「貴様の言うことは虫酸が走る!!

訳の分からないことをグチャグチャグチャグチャ喚きおって!!!

もう、もう……うんざりだ!!!」

 

なんとかしてソロモンを黙らせてやりたい。

『憎悪』の炎が、モーガンの心に宿った。

 

「あぁ……そうか、だからこその『決闘』か」

 

全人類の命運を賭けるなどというのは肩書きだ。

実際は、個人的に気にいらない相手を、徹底的に打ちのめしたいだけなのだ。

 

「それで『暴力』か!

己の正しさを貫くための『暴力』か!

馬鹿が!!『進化』の無い貴様らが!

『奇跡』のない貴様らが!

『科学』のない貴様らが我々に勝てるか!!

『非科学』が『科学』に勝てる訳ないだろう馬鹿があ!!!!!!!!」

 

血走った目で叫び散らすモーガン。

ヒートアップしているモーガンに対し、ソロモンは当初の怒り狂いっぷりが鳴りを潜め、静かな怒りのオーラに満ちていた。

 

「暴力とは正当化の最適格」

 

正しさを、己の意思を貫くために最も適した手段。

 

「アグニカ・カイエルを見ろ。

彼の崇高な思想には、常に死と闘争、血と暴力が着いて回った。

彼は暴力しか使えない。暴力でしか、正義を貫けなかった」

 

ソロモンの放つ輝きが、一層強さを増した。

モーガンはさらに遮光性の高いレンズに差し替える。

 

「『暴力の化身』であるアグニカが、

『正当化の化身』でないはずがない!!」

 

自分は正しいのだと、声を大にして叫ぶ。

誰よりも足掻く。

見ていられないほどに、傷つき、他者を害そうとも。

己の信じる幸福を求め続けた。

世界で一番、『意思』の大きな人物だった。

『意思のある生き物』だった!

 

「アグニカは正当化してくれるのだ!!!人類のあり方を!!!人類の生きざまを!!!」

 

「馬鹿が!!!

『生』と『希望』を讃歌することは!『死』と『絶望』を蔓延させることだと言っただろう!!

奴の言うことは間違いだ!!!」

 

「理解出来ないか!?非人類を至高とする貴様らには分からないか!」

 

「ああ、分からんね!分かりたくもない!!貴様らは何をそんなに固執する!?旧体制に執着する!?

変化を恐れているのか!?未知への恐怖がどうしても勝るか!?

何がそこまで怖いのだ!?」

 

「人類が積み上げてきたものが、全て滅ぼされかけた!

あの時!!あの時代!!厄祭戦で!!!

人類は分かれ道に立たされたのだ!!

その恐怖が分かるか!?

今までの人類のあり方は正しかったのか!!それとも捨てるべきなのか!!」

 

「捨てるべきだった!!!!」

 

「それすら分からなかった!!!」

 

「……は?」

 

「答えなど分かるはずがない。見つかるはずがない。

混乱の極致にいる人類が、そんな選択をできるはずがない。

前に進むだけが人類ではない!!

『立ち止まって』しまったのだ!!!」

 

答えが分からない。

人類を終わらせようとするモビルアーマー。

人類を守り、続けようとする、無力で小さな人間達。

 

「人は人であることを捨てるべきなのか。肉体や精神を放棄するべきなのか。

そんな選択を迫られた時!!

アグニカの肯定が、どれだけ多くの人を救ったか!?

どれほどの安心を得られたか!!?

貴様らには永遠に分かるまい!!!」

 

アグニカ・カイエルは肯定してくれた。

いいと言ってくれたのだ。

人は人のまま生きていいと。

生きるべきなのだと!!

 

人種や思想になど捕らわれず、人が人として競い、戦い続ける世界。

そんな世界を築こうとした。

勝ち取ろうとしたのだ。

 

「余は人間が好きだ。

アグニカは人間が好きだ。

だから余は、アグニカが大好きだ」

 

人間讃歌。

人間の強さと弱さを最大限に振るうアグニカを、ソロモンは愛している。

 

アグニ会とは、人間の素晴らしさを歌う集団なのだ。

 

「他者を、自分を、世界を。

アグニカを否定しなければ生きていけない……

弱い貴様らには分かるまい」

 

モーガンやマステマほど強大な相手を、弱いと言い捨てる根性。

現実が見えていないのか?と問うてみたくなる。

 

「弱者とは人間だ」

 

「確かに人は弱い。だが、その弱さを受け入れる強さを持っている。不完全な、不安定な状態で生き続ける。

人であることに耐えられなかった貴様らとは違う」

 

「フハッ!」

 

モーガンは吹き出した。

人であることに耐えられない。

まさにその通り。

当たり前すぎて、言語化すらしなかった心理だ。

自分の基盤となる価値観のはずなのに、口に出したことはなかった。

 

「弱さを認めない貴様らこそ、最も弱い生き物だ」

 

「ふん。劣等であることにしがみつくとはな。愚かな……

カビの生えた手法にすがる。変革を受け入れようとしない。

度しがたいほどに愚かだ」

 

ある意味、貴重な時間だった。

人類の愚かさを改めて知れた。

どんな言葉で飾りつけようとも、救いようのないものだと理解できた。

 

「あと一つ、言いたいことがある」

 

「ほ?」

 

ソロモンがポツリと呟いた。

モーガンは意外そうに耳を傾けた。もう議論は終わりの雰囲気だったからだ。

そんなモーガンの気の緩みに、冷たい声が、ナイフのように突き刺さった。

 

 

 

「貴様 アグニカを 馬鹿にしたな」

 

 

 

ぶわりと鳥肌が立った。

血が凍り、鉄も萎縮するような声だった。

虚無でありながら、膨大な質量を併せ持つかのような、異形の声色。

 

「貴様はアグニカを愉悦と言った。

貴様、生きていられると思うなよ」

 

ありったけの憎悪を込めて、ソロモンは殺意を表明した。

人が最も怒るのは、名誉を汚された時だと、歴史が雄弁に語っている。

モーガンは渇いた笑いが、ひきつったように零れ出た。

 

「なんだ、散々いい事を言って。

聖人君主の、慈愛の賢者の説法をしておいて、それが理由か!!ここに来た理由か!!

個人的な恨みか!!ハハハハハ!!!」

 

モーガンはその憎悪を受け止めた。

自らを曲げるつもりがないからだ。

 

「受けよう!!受けて立とう!!『決闘』!!!」

 

この先、どこかでまた逢いまみえる。

その時に雌雄を決する。

 

「そんなにアグニカ・カイエルが好きか!」

 

「ああ大好きだ!!愛してる!!!」

 

「私もマステマが好きだ!愛してる!!

つまりこれは、人類信仰と非人類信仰の!

アグニカとマステマの戦争!!

私と貴様は!!その『代理戦争』だ!!」

 

思想と思想は争わない。

思想を崇める者、信じる者達が争うのだ。

この世の全ては代理戦争とも言える。

人類の歴史が丁寧に語ってきたことだ。

 

「そうか。なら貴様だけは余が」

 

「お前だけは私が」

 

見つめ合う二人。

その間には時空も歪むような火花が散る。

 

 

「「この手で直接 殺してやろう」」

 

 

ソロモンとモーガン。

彼らの運命の糸は、相手の首を切る鋭利な切断糸となり、お互いに絡み合った。

 

ーーーーーーーーーー

 

残り65時間51分9.9999秒

 

 

「騒がしいね」

 

カッ、と靴を鳴らして、白いマントの少年が姿を現した。

まるで神父服のような、神聖さすら感じられる服装と、白い髪、白い肌、赤い瞳。

まるで天使のようだ。

 

モーガンも、ソロモンも、そちらに視線を向ける。

 

柔和な笑顔は無垢な少年。

しかしその瞳は妖しい光が宿っていた。

 

「お客さんかな?」

 

おどけたような言い方。

モーガンは深々と頭を下げ、後ろに身を引く。

 

憎悪の天使。

受肉したモビルアーマー。

それが一歩近づくたびに、ソロモンの金髪が逆立ち、目は見開かれていく。

 

『マステマ』が、ソロモンの前に立った。

マステマの顔を見て、ソロモンの表情が険しくなる。

 

「なんだ、その『顔』は」

 

「うん?」

 

マステマはペタペタと頬を触る。

 

「この肉体は、若き日のエイハブ・バーラエナの細胞を元に作られてるからね」

 

「それで、エイハブを気取るつもりか」

 

ソロモンは不快そうに吐き捨てる。

マステマはコロコロと笑う。

 

「エイハブ気取りも何も。肉体はエイハブ。精神もエイハブ。そして、使命すらもエイハブのそれだ」

 

マステマは両手を広げて宣言する。

白いマントが羽のように揺れて、輝いているかのように見える。

 

「僕こそがエイハブ・バーラエナその人なんだよ」

 

「ちがう」

 

マステマの狂気的な笑顔が固まる。

生まれて始めて、自分がエイハブであることを否定された。

怒りよりも先に、興味が湧いてくる。

 

「どうして?」

 

「貴様は確かにエイハブの一部だ。

だがエイハブの全てではない。

貴様がエイハブに成り代わるなど有り得ない」

 

「全だろうと一だろうと変わらない。どうせ僕らは残骸だ。

けれど、彼の偉大な目的を追いかけている以上、僕らはエイハブだ。

人類の革新を担う、舞台装置だ」

 

「人形が」

 

会話を打ちきり、吐き捨てた。

ソロモンは底冷えするような低い声で言った。

 

「エイハブの真似事だけはよく練習しているではないか。贋作が」

 

「……酷いなぁ」

 

人形、贋作。

まるで本物のエイハブ・バーラエナを知っているかのような口振り。

しかしそれはあり得ない。

彼を知る者は全て死に絶えた。

エイハブを覚えているのは、この世でマステマだけ。

つまりマステマこそが、エイハブの再来を成し遂げられるのだ。

それをマステマは、心の底から名誉なことだと信じていた。

心の宝箱に詰め込んでいた。

だからこそ、ソロモンの中傷にも耐えられた。

 

「貴様に何が分かる。

エイハブの何が分かる。

エイハブの顔で……エイハブが絶対にしないようなことをしやがって!!!!!」

 

マステマにとって、それは的外れもいい所だ。

 

「そりゃあ僕は、『憎悪の天使』な訳ですから」

 

ソロモンはギリリと歯を食い縛る。

 

「そこまで言うなら憎悪の天使よ、お前は一体何を憎む?

何がそんなに憎いんだ?」

 

『憎悪の天使』の憎悪は、どこに向けられているものなのか?

 

マステマは静かに笑みを消し、言葉を纏めるように下を向く。

そして、雨粒が降り出すように言葉を漏らし始めた。

 

『ハッピーエンドが嫌い』

 

『たった一欠片の幸せを抱いて、それが全てだって言って、終わっちゃうんだ。信じられないよ。

だって、彼らはもっともっと、幸せになれるはずなんだから』

 

『たった一つの可能性だけを見て、それが全てだなんて!あり得ないよ!!

人類には無限の可能性があるんだよ!?

それを全て引き出さないうちは、お仕舞いなんて言えないでしょう!?

なのになんで、誇らしげに、幸せそうに、『終わり』だなんて言うんだろう?

終わっちゃうんだろう?

ねえ、人はどうして、消えちゃうんだろう?おかしいと思わない?』

 

「思わない。消えるのも、終わるのも人だ。終わりがあるから、今を生きていられる」

 

『数えきれないほどの『終わり』を見てきた。

どんなに惨めで、絶望の淵で死んでいっても、死んだらそれは、『終わり』になるんだ。

物語の終わりになるんだよ。

終わってしまったら、もうその物語は変えられない。不変のものとなって、伝説になるんだ。

僕にはもう、手の出しようがない』

 

「死んだら伝説になる。誰でも。そして手が出せない存在になる」

 

『そう。天国に行く、ってやつだね。

『死』に対して、人も、僕たちでさえも手が出せない。

だからこそ、『死』を超越した存在になって、無限に幸せな結末を経験しなきゃ、駄目でしょお!?

百の幸せがあるのに、一だけを見て、それが全てだって言うんだよ!?

可哀想だよお!!』

 

「死を憎みつつも、神聖視する……

有限の幸福より、無限の幸福を望む……」

 

『そう!死はズルなんだよ!不完全なんだよ!打ち切りなんだよ!

人類の全てを描写しなきゃ、完結とは言えないでしょう!?

でも!終わってみると、凄く輝いて見えるんだ!

僕には!今まで死んでいった人達が、星のように輝いて見える!!』

 

『それが耐えられない!!!

あんなに綺麗なものを見せられて、僕たちはどうすればいいの?

少しの幸せだけで、あんなに輝く人達を見て、僕はどうすればいい!?』

 

「ただ、見送ればいいだろう」

 

『むかつくんだよね!!!

腹が立つ!!憎いんだよ!!その割りきったような生き方が!!

幸せになりたいなら!とことん幸せになればいいのに!

無限に幸せを感じればいいのに!

方法が無いならまだしも、それはあるって言ってるのに!!!!!』

 

「お前は人を……馬鹿にしているんだな」

 

『何より馬鹿なのが、そのちっぽけな幸せを守るために、無限の幸せを邪魔してくるんだよね!!!

こっちは!!!無償で!!!善意で与えてあげてるのにさあ!!!!

あの女ぁ!!!

『バルバトス・ホープ』に乗ってた女がさあ!!!!!!』

 

マステマはガシガシと頭を掻く。

 

『たかが、仲間、恋人、子供を守るためぇ?子供達の希望になんたらかんたらって理由でぇ、この僕の身体を破壊してくれちゃってさあ!!!

ほんと迷惑なんだよねえ!!!!!

人類の!!!!!

そういう勘違いっていうかさあ!!!!

『希望』とか言い繕って馬鹿をしでかす愚図な所がホントに憎くてさあ!!!!

エルピス・ルナレイスとかいう女が特に憎くてさあ!!!!!』

 

「エル……ピス……」

 

『こんな不完全な世界の、ポロポロ落とした小さな幸せに固執して、それら全てを回収して補完してくれる『悲願』を邪魔する、本末転倒な所が本当に嫌い!!!!

馬鹿が憎いよ!!!!!』

 

「エルピスを殺したのは………………オマエカ」

 

『ガンダムになることが最高の幸せなんだから!!!

それを拒む全てが憎いかな!!僕は!!!』

 

「つまり、貴様も、『永遠』を望んでいるのか」

 

『その通り!!!

永遠に終わらない物語!!!!

それこそが万人が幸福になれる唯一の方法!!!!』

 

「ずっと夢を見続けると?」

 

『そう!!

誰も終わらず、誰も消えず、誰も残されない!!!

物語の全ての可能性を引き出した永遠こそが!!!!人類のたどり着くべき場所なんだ!!!!』

 

「それこそが、今まで無為に散っていった人類への、責任であり、意を汲む行為だと?」

 

『そう!!』

 

「なら貴様は伝説が憎いのか?

より高位の次元に達した物語が憎いと?」

 

『終わることが憎い!!!

終わりに繋がる生も死も希望も絶望も全てが憎い!!!!

つまり人類のあり方、世界の全てが憎いんだよ僕は!!!!!!』

 

「理解できない」

 

『一つの幸せだけを見て『幸せ』だと言いきる、人類の矮小さが憎いと言っているんだよ!!!!!僕は!!!!!!

分かろうね!!!!!頑張って理解しようね!!!!!!頭、あるんでしょう!!?』

 

「人類にありとあらゆる幸福を味あわせる……」

 

『終わることは責任の放棄だ!!!

完結は逃走だ!!!

勝ち逃げするな!!!!!!

 

ニンゲンって生き物はどいつもこいつも!!!

綺麗な思い出のまま消えていく!!!!

止まるな!!!!!

消えるな!!!!!

永遠に描き続けろ!!!!!!』

 

「エイハブは」

 

その名を出されて、マステマは言葉を止める。

 

「人類の最大の幸福を望んでいた。

死者への弔いも。

だからこそ『永遠』への渇望もあった」

 

何も残らないという結末は許されない。

物語のように綺麗ではいられない人類、その不完全さへの怒りも、理解できる。

 

「それと同時に、死への情景もあった。

今、貴様が語ったことと同じ。

終わることこそ最高の在り方だという考え。

『生』を望みながら『死』も望むという矛盾思考」

 

物語を描き続けたいと思う。読み続けたいと思う。

しかし終わらせたいとも思う。読み終えたいとも思う。

 

マステマが憎むのは、ただ一度限りという世界に対して。

その一度きりに生きる人類。

幸せな結末も不幸な結末も。

それら全てを憎むというのだ。

 

「狂っている」

 

『だから、皆で永遠に始まり、続き、終わる存在!!

 

『ガンダム』になろうって言ってるんだよ!!!!!!!!!』

 

ーーーーーーーーーー

 

残り65時間37分0秒

 

「貴様の言うことは何一つ理解できない」

 

ソロモンは僅かな可能性を探していた。

マステマの中に、エイハブの思想が少しでも残っていないかと。

 

「貴様には同情の余地がない。

貴様の全てが間違いだ」

 

だがマステマにそんなものは無かった。

マステマは、完全に意味不明の狂人であった。

 

「貴様のことは誰にも理解できない。

貴様も、誰のことも理解できないだろう。

余の思いも、アグニカの思いも、エイハブの思いも。

何一つ分からずにいるのだろう。

お前は宇宙の闇だ。存在することの無い虚無だ」

 

吐き気がする。

マステマという存在を前にすると、臓物が腐っていきそうだ。

 

「貴様は悪夢だ。

エイハブの残留思念が、一時の狂気が留まって、肥大化した腫瘍だ。

エイハブはそんなこと、死んでも言わない。望まない」

 

エイハブ・バーラエナの、最も醜い部分が抽出され、増幅したかのような存在。

エイハブの血の一滴から、こんな化け物が生まれたなどと、悪夢としか言い様がない。

 

「貴様が、貴様がいるせいで、この世界がどれだけ変わり果てたと思う!?

この美しい世界に、どれだけ傷をつければ気が済むのだ!?」

 

マステマがこの世界を歪めている。

諸悪の根源。

 

「貴様は、存在してはいけない生き物だ」

 

ソロモンは、他者に対して、これほどまでに冷たい気持ちになったのは、初めての経験だった。

 

「貴様は、してはいけないことをした。

皆が貴様を見ているぞ。

踏みつけ、操り、滅ぼしたと思っている者達は、貴様をずっと見ているぞ。

誰も貴様を許さない。

貴様が死ぬまで、貴様を見ているぞ」

 

マステマが餌食にしてきた者達の怒りは。

その因果は、マステマにそのまま返ってくる。

 

「アグニカの目を通して、彼らは貴様を見ているぞ。

その瞳から幾億の目が貴様を見ている。

それを貴様も知るだろう。死ぬ寸前に見るだろう」

 

アグニカ・カイエルが、溜まりに溜まった因果を、マステマに押し流す河となるだろう。

 

「魂のない貴様を見て確信した」

 

マステマの笑顔が消える。

マステマの中には、エイハブの魂はないのだ。

つまり、マステマはエイハブではない。

 

 

「エイハブの魂は、『ルシファー』の中にある」

 

 

モビルアーマーの頭領。

天使の王、『ルシファー』

かつてアグニカ・カイエルとバエルゼロズと戦い、相討ちになった存在。

 

「貴様らはまだ、『ルシファー』を見つけられていないんだろう」

 

マステマの顔に、数えきれないほどの亀裂が走った。

人間の姿を維持できないほどの、憎悪。

静かにソロモンの言葉を聞いていたマステマは、真っ黒な瞳と口で、笑顔を作った。

 

「下らん御託をありがとう。

僕も予言しておくよ」

 

不吉さを凝縮したような笑顔だった。

 

「僕が滅びることはない。

君たちが勝つことはない。

希望が残ることはない。

人類は皆、その不完全さを捨て、ガンダムになることを望む。

君は死ぬ。

アグニカは永遠に不完全なままさ迷い続ける。

僕は絶対に止まらないし、誰も僕を止められない。

誰も僕を見ていない。僕は命乞いなんてしない。考え直したりしない。後悔なんてある訳ない」

 

絶望の終末を予言した。

第二次厄祭戦が始まった以上、人類の終末は決定したようなものだからだ。

 

ソロモンの姿が薄れていく。

画面の光が弱くなり、輪郭が揺れていく。

 

「死ねマステマ。

貴様は死なねばならん。必ず人類が貴様を倒す。

死ねマステマ、ただただ死ね。

貴様は憐れだ。だが許されない。

アグニカ・カイエルの思想が、必ず貴様を打ち滅ぼす。

死ぬ以外に他はない。死ね。欠片も残らず死ね」

 

膨大な殺意を、息継ぎも無しに羅列する。

その姿が消える瞬間、ソロモンは断言した。

 

「貴様らの悲願が達成されることは」

 

マステマの赤い目が、ソロモンを見据える。

 

「ない」

 

 

ソロモンの幻影は、跡形もなく消え去った。

 

ーーーーーーーーーー

 

残り65時間12分26秒

 

 

「うっ…………はぁ!!」

 

ソロモンは背中の阿頼耶識による接続を解いた。

汗が吹き出す。

意識をデータ化し、マステマの本拠地に幻影を送り、接触してみたはいいものの、余りにも理解を越えた狂気があるだけだった。

 

「あんな、あんなものが存在しているとは……くそ、余はなにを、気楽に眠っていた……?」

 

ソロモンは金髪をくしゃくしゃとかきむしる。

 

「……アグにゃんに会いたい…………」

 

子供がぐずるような声を出す。

次の瞬間、ソロモンは自らの衣服をバラバラに破り捨てた。

 

「アグにゃああああああああああああああああああああああん!!!!!!!」

 

一瞬で全裸になったソロモン。

その局部は黄金の光を放っている。

 

 

「アグにゃあああああああ!!!!!

余はここだああああああああああ!!!!

迎えに来てくれえええええええ!!!

余はあああああああ!!!そのおおおおおおおおおおお!!!

 

シュッと消えて バッと出てくるやつううううううう!!!!

それが出来んのだああああああああああああああああああああああ!!!!!!!」

 

ソロモンは魂の感知範囲が狭い。

さらに、アグニカのように『転送装置』は使えない。

ただ叫ぶことしか出来なかった。

 

 

「アグにゃあああああああああああああああああああああん!!!!」

 

 

ソロモンの叫びは、空の彼方へと溶けていった。

 

ーーーーーーーーーー

 

残り65時間10分5.34秒

 

「……ん?」

 

アグニカは後ろを振り返る。

 

「誰か、何か言ったか……?」

 

「いや?」

 

オルガは疑問符を浮かべている。

アグニカも、どこかで聞いたことのある声が聞こえた気がしたが、おそらく空耳だろうと思い、前に向き直る。

 

「おぶぶぶばぶばぶ」

 

片手で頬を掴まれた少女。

癖のある長い黒髪は、野良犬に見えなくもない。

竜殺しの大剣の名を持つ、アスカロン傭兵団のガンダムパイロット。

乗機はガンダム・バエルの次に完成した機体。

ガンダム・アガレス。

黒い磁力の特殊兵装。

 

「俺ぁ男だぞ」

 

アグニカに抱き着き、胸がないなどと叫んだ少女。

整った顔も、頬を掴まれたせいで口をすぼめたような表情になっている。

アグニカは牙を見せて吠える。

 

「おっぱいなんざある訳ねぇだろ!!!」

 

「そんなに怒らなくても……」

 

ビスケットが慌てて仲介に入る。

 

パッと手を離した瞬間、その少女は向日葵のような笑顔になった。

 

「わたしエウロパ!エウロパ・アスカロン!!16歳!!」

 

にぱーッという効果音すら聞こえてきそうな笑顔だ。

 

「アグニカ・カイエル。45歳」

 

「嘘だろ」

 

オルガの素早い突っ込みが入る。

 

「生年月日は三百年前」

 

「ハハハ、面白い冗談です。ですが数字を偽るのはよろしくない」

 

時計をいくつも所持した男、チクタクが朗らかに笑い飛ばす。

 

「実際、我々の『ボス』と貴方の顔は、まさに瓜二つ。生き別れの双子か何かで?」

 

「俺に兄弟も姉妹もいない」

 

「そうですか。なら他人の空似でしょう」

 

「えー、絶対双子でしょー!?匂いが一緒だもん!!」

 

エウロパの髪をわしゃわしゃと撫でながら、アグニカはチクタクを見据える。

 

「悪いが『ルシファー』は後回しだ。300年も音沙汰無しなんだから、急がなくてもいいだろ?」

 

「ええ、ですが、是非貴方に見てもらいたいものがありまして」

 

「あん?」

 

アグニカにとって、『ルシファー』よりも優先したいものなどあるだろうか?

そのルシファーすら過去の遺物で、現代の驚異に対処することが優先と言った。

それでも尚見てもらいたいとするならば?

 

「『ベルゼブブ』の残骸を所持しています」

 

「『ベルゼブブ』だと……!?」

 

地獄の三大支配者

皇帝『ルシファー』

君主『ベルゼブブ』

大公爵『アスタロト』

 

モビルアーマーの最高指導者は『ルシファー』だった。

だが、同じレベルの権限と能力を持つ『ベルゼブブ』と『アスタロト』は、厄祭戦時代には存在しなかった。

 

「確認されたのは『ルシファー』だけだ。『ベルゼブブ』と『アスタロト』は、結局最後まで出てこなかった。

作られていないのかと思ったが……残骸だと?」

 

「ええ、製造され、そして破壊された痕がありました」

 

「ふむ……」

 

製造されていたことにも驚いたのに、それが破壊されていたとなると、謎は深まるばかりである。

 

常識で考えれば、中途半端な所まで製造し、実戦投入は間に合わず、人間に奪われる可能性を恐れて破壊した、という流れが順当だが……

 

アグニカは思考を切り替える。

 

「ベルゼブブも気になるが、今は地球が先だ」

 

チクタクはニコリと笑う。

 

「これでベルゼブブに釣られるようなら、交渉は無しにしろと、ボスから言われておりました」

 

「ハッ!いい性格してるぜ、そいつ」

 

「まさに」

 

ハハハ、と笑い合う。

 

「別れると面倒だから、お前らも一緒に来てもらうぞ」

 

「勿論です。転送装置の実体験、楽しみでなりません」

 

アスカロン傭兵団のメンバーも、アグニカに同行する。

ビスケットが確認を取る。

 

「じゃあ、アスカロン傭兵団と、アグニカは協力関係になるってこと?」

 

「ああ。そうだな?」

 

アグニカはチクタクに視線を向ける。

 

「ええ。地球の『混乱』解決に、アスカロンの力を最大限貸し出しましょう」

 

ギャラルホルンでも経済圏でもテイワズでも海賊組織でもない、傭兵組織からの助力。

戦力が欲しいアグニカにとっては天恵の雨だ。

 

「そりゃありがたいが、目的は何だ?誰が得する?」

 

「ボスは、貴方に恩を売りたいと」

 

シンプルな答えだった。

アグニカ・カイエルに恩を売り、ゆくゆくは味方に引き込む算段らしい。

アグニカの常套手段でもある。

 

「アグニカ・カイエルと、あなた方、『鉄華団』」

 

オルガとビスケットに、にこりと微笑みかける。

 

「そしてこの場にいない、クーデリア・藍那・バーンスタイン。彼女を仲間に引き入れたいのだと」

 

「成る程、地球を救ったら熨斗つけて返してやるよ」

 

「ボスも喜びます」

 

いわば投資のようなもの。

アグニカ・カイエルが勝利し、アスカロン傭兵団に利益をもたらすという可能性に資財を投じた。

 

パンッと、手を叩くアグニカ。

 

「先ずはアーブラウ、蒔苗とクーデリアを会わせる所からだ」

 

移動に時間を使わないというのは本当に便利だ。

話がまとまった瞬間に、次の場面に進めるから『暗躍』には持ってこい。

 

アグニカが手を前に掲げる。

オルガ、ビスケット、チクタク、エウロパ、そしてガンダム・アガレス。

砂煙と共に、それらがまるで陽炎のように消えていった。

 

 

ーーーーーーーーーー

 

転送装置の技術は、ある物体から一部だけを選んで転送するという高度な技法も存在する。

たとえば人間の体内から心臓だけを転送し、殺害することもできるだろう。

その技術に必要なのは『選択』である。

人体を透かして見て、心臓だけを認識し、指定する必要がある。

 

アグニカ・カイエルはコロニー落としにて、魂のない『外壁』を認識できなかった失敗から、物質への認識能力も必要だと教訓を得た。

 

その第一歩が、水だ。

 

アグニカは太平洋の海水を大量に転送。

その中から、不純物を全て取り除き、水だけを転送する。

海水濾過装置のようなことをやってのけた。

 

得られたのは大量の純粋な水。

 

これを、外壁落下による大火災が起こっている場所の上空から流す。

 

消火活動に転用する。

 

水を転送する『穴』を限り無く小さく、大量に分けて放出することにより、霧のように散布していく。

燃え上がった灰塵と混ざり合い、すぐに雲となり、雨粒となる。

『人工降雨』と同じ原理だ。

 

ただ転送装置による『雲の種まき』は、従来の方法と違って限界がない。

雲が育ち、充分な降水量となるまで、何度でも、いくらでも水を散布することができるのだ。

 

大火災が発生している、

カリフォルニア州西岸部とラスベガス

アリゾナ州フェネクス

ミズーリ州カンザスシティ

ミシガン州デトロイト

ジョージア州アトランタ

フロリダ州一帯

ルイジアナ州ニューオーリンズ

 

これらに同時に雨を降らせた。

 

有り体に言えば、『奇跡』だ。

 

無理矢理説明するなら、

爆発による灰塵と水蒸気の混合による局地的な降雨、それらの同時発生。

 

この『奇跡』を我が物にしようとしたSAU代表、ドナルド・ポーカー氏は、エリオン家総本山にて死亡した姪、カトリーナの名を取り、

 

『カトリーナの慈雨』と命名した。

 

彼女の嘆きと涙が雨粒となり、SAU全土を癒したというのだ。

 

『赤雨革命』の業火が自経済圏を炙り続けている、というよりは自尊心を回復できる。

この名称は概ね受け入れられた。

 

炎と煙、血と灰塵。

赤と黒が塗り潰していたSAU北米大陸を、透明な雨が洗い、灰色の光景が広がる。

 

しかし、これで『業火』が鎮火された訳ではない。

むしろここからが、人類を焼き尽くす焼却の業火の始まり。

 

ーーーーーーーーーー

 

コロニー落としが発動する前。

 

元アーブラウ代表、蒔苗東護ノ介

その秘書、工藤は、すでに何度目かも分からない説得に挑んでいた。

 

「蒔苗先生、どうか避難を」

 

「んんー、いや。ワシはここに残るよ」

 

白く、独特の曲がりかたをした髭が特徴的な老人、蒔苗。

グラスに注いだ酒を、くいっと軽く飲み干す。

 

「もしコロニー落としが実現すれば、この島は津波に呑まれます!」

 

「津波か。それは怖いのお」

 

蒔苗は今、ミレニアム島という小さな島に隠れて暮らしている。

贈収賄疑惑でアーブラウを追われ、あわや牢獄に収監されるところだったのを、慌てて逃げ出してきたのだ。

 

しかしこの島は海のド真ん中。

コロニー落としが実現すれば、高津波に呑まれて地図から消えることも有り得る。

 

「船では間に合いません。飛行機を手配しますので……」

 

「飛行機は勘弁してくれ。ワシはあれが好かん」

 

蒔苗は飛行機酔いが酷く、一時間ほどの移動でも悲鳴をあげる。

 

「では『海中都市アトランタ』への避難を……」

 

「竜宮城か!はぁー海鮮料理は楽しみではあるがな。しかし移民で一杯ではないのか?」

 

煙に巻くような言い方は、いつもの蒔苗の姿なのだが、今回はどうも、自棄になっているように見える。

 

「なんとか先生の席は開けさせますので」

 

「いらん。こんな老いぼれよりも、他の者を救ってやれ」

 

「しかし!先生は代えが効きません!」

 

「ホッホッホ」

 

蒔苗ほどの経験と人脈を洩った政治家は他にいない。

アーブラウにとって必要不可欠な存在だ。

命に値段はつけたくないが、それでも、蒔苗は助けるべき貴重な人材。

 

「慕ってくれるのは嬉しいがな」

 

他者を押し退けてまで助かった政治家など、誰も信じてはくれないだろう。

しかし、その事実を工藤に伝えたとして、彼の蒔苗を救いたいと思う気持ちは本物。主張は平行線となるだろう。

 

「ワシの別荘なども解放しろ。病院代わりでも倉庫代わりでも好きに使え」

 

「は、そのように手配します」

 

自分が助かるとは明言しないが、自分が助かるために犠牲になるであろう人々のために私財を投じる。

先回りして用意させることで、この場から動くつもりのない蒔苗は返答を避けた。

 

忙しく電話を繋ぐ工藤に、蒔苗はぽつりと問いかけた。

 

「最近、気に入らないことはあるか?」

 

「は……?」

 

工藤は困惑した様子だ。

 

「ワシはのぉ……自分のものにならないのなら、捨ててしまって構わんと思う」

 

「は?」

 

それは、蒔苗が隠してきた、暗い感情。

掌握欲求と、それが叶わなかった時の、落胆と破壊衝動。

 

「アーブラウも、この地球も。ワシの思う通りにならんのなら、別に未練も愛着もないわ。好きにせい。ワシはもう知らん」

 

「……」

 

「滅びるというのなら結構じゃ」

 

「そんな……」

 

工藤は青い絶望の表情を浮かべる。

蒔苗がアーブラウを見捨てるなどと、考えたこともなかったのだ。

 

蒔苗は手をひらひらと振るう。

 

「今はそうは思わん。

じゃが稀に……たまーにじゃがな。そういう気分になることがある。

なにもかもどうでも良くなる」

 

「はあ……」

 

「お主はそんな気分になることは?」

 

「い、いえ……自分は」

 

「そうかそうか。なら良い」

 

さらに酒を煽る蒔苗。

工藤は、蒔苗の言葉の真意を探るように、じっと考え込む。

 

蒔苗の現状は、政治家としてかなり追い詰められている。

詰みに近い状況。

この現状を、強引にでも変えてしまいたいというのが、蒔苗の望む所だろう。

そのための手札が、クーデリア・藍那・バーンスタインなのだ。

 

「……では、コロニー落としが実現してもいいと?」

 

「あの娘が居なければ、そうだったかもしれんな」

 

クーデリアが蒔苗を表舞台へと連れ出してくれなければ、政治家として起死回生は為し得ない。

コロニー落としという爆薬すら、現状を変えたい蒔苗にとっては好機となりえる。

 

「状況は絶望的。だが逆転の「芽」は残っておる。

あの娘がワシの元へたどり着いてくれれば……」

 

「クーデリア・藍那・バーンスタインはコロニー内に捕まっています。天地がひっくり返らぬ限りは……」

 

「ホッホッホ!お主も洒落が言えるようになってきたのお!」

 

「は……」

 

そう。現在、クーデリアはドルトコロニー内で労働者達に捕まっている。

あの場から瞬時に移動でもできない限り、彼女が生き残る方法は無い。

 

ーーーーーーーーーー

 

しばし沈黙が流れる。

二人とも、何をするでもなく、ぼんやりと飛行機の窓を眺めている。

窓の外に海が広がる。

その窓には二人の顔が反射して写っているのだが、蒔苗と工藤、どちらでもない、少年の顔が浮かび上がった。

理解が追い付かず、ただじっと見つめる蒔苗と工藤。

 

窓から黒髪の少年が、ゆっくりと生えてきた。

 

「ぎ……ぎゃあああああああああ!!!」

 

「ホ……ほぉ!?おは、ほ、ほおおおぉお!!??」

 

絶叫する工藤。

蒔苗は呂律が回らず、舌が絡まったような悲鳴をあげる。

ドボドボとグラスから溢れる酒。

工藤は驚きの余り身体が痙攣する。

 

「こんにちは」

 

ひきつった悲鳴をあげる二人。

横に身体を伸ばして窓から出現する様は黒い竜のようにも見える。

黒髪の少年は蒔苗に近寄り、顔の横に手を叩きつけた。

壁ドンならぬ椅子ドンである。

 

「お前が蒔苗東護ノ介だな。俺はアグニカ・カイエル」

 

「う……ううお、ほ…………」

 

元々酔っていた所に、妖怪のような現れ方をしたアグニカ。

蒔苗は限界を迎える。

さっと身を引くアグニカ。

 

「うぼろろろろろろろろろろ!!!!」

 

蒔苗は吐いた。

主に酒の水っぽい半透明なゲロを盛大にぶちまけた。

 

「あららら」

 

アグニカは困ったように頬を掻いた。

続いてクーデリアがその場に現れる。

彼女の目に飛び込んできたのは、腰を曲げて嘔吐する蒔苗の姿である。

 

「ま、蒔苗氏!?」

 

慌てて背中を擦るクーデリア。

 

「お、おおお……クーデリア・藍那・バーンスタイン……ワシももう、あの世へ逝くのかのぉ……」

 

「しっかりしてください!」

 

懸命に介護するクーデリア。

次に出てきたオルガとビスケットは、この惨状を見て困惑した。

 

「えぇ……」

 

「おいおい、こりゃあ……」

 

泡を吹いて気絶する助手、背中を丸めて嘔吐する老人。

はたしてどちらがアーブラウの代表なのか。

これが分からない。

 

遅れて転送されてきたチクタク、エウロパも困惑する。

 

「えー、うわっ、あのじいちゃん吐いてるー!大丈夫?」

 

「水を持ってきてあげましょう」

 

未だにクーデリアに背を擦られている蒔苗。なんとか顔をあげ、アグニカを見る。

直立するアグニカの顔は影になり、まるで浮遊する影そのもの。

弱った老人を見下ろしながら、魔王のようにアグニカは言う。

 

 

「世界が欲しくないか?」

 

 

魔王アグニカ名物、世界征服の勧誘である。

 

ーーーーーーーーーー

 

残り64時間50分72秒

 

間をおいて、蒔苗と工藤は正気を取り戻した。

今は席に座り、クーデリアと蒔苗が顔を合わせている。

 

「迎えが来たのかと思ったわ」

 

「それは正しい」

 

アグニカが軽い冗談を言う。

 

飛行機のスイートルーム内には新たな来客

クーデリア・藍那・バーンスタイン。

オルガ・イツカ

ビスケット・グリフォン

タービンズからのお目付け役、メリビット・ステープルトン。

 

少し離れた席に、エウロパとチクタク。

 

そしてアグニカ・カイエル。

 

「改めましてこんにちは。アグニカ・カイエルです」

 

牙を見せてニコリと笑う少年は、完全に魔の者であった。

クーデリアも挨拶する。

 

「こうして直接お会いするのは初めてですね。蒔苗氏」

 

「うぅむ。来てくれると信じておったよ」

 

蒔苗は虚勢を張る。

クーデリアが生きているとは思っていなかったからだ。

あれほどの大騒ぎに巻き込まれて生きている。

そして、何も無い場所から突如として現れる魔術。

『転送装置』は本物だと認めざるを得ない。

得体が知れない存在を相手に、表面上は余裕を見せていた。

視線を横に向ける。

 

「お前さんらが、噂の『鉄華団』か」

 

「この二人に比べりゃ、有名ってほどでもないでしょ」

 

オルガは謙虚に答える。

クーデリアと、バエルゼロズで暴れ回ったアグニカに比べれば、今回の騒動で鉄華団が為した事は少ない。

 

「フフ。じゃが、その二人を抱えこんどるのは鉄華団じゃ。否応なしに名は広まるものよ」

 

「その通り。鉄華団はこれからどんどん大きくなる」

 

アグニカは自信たっぷりに言い放つ。

他者への多大な信頼はアグニカの性格である。

 

「さて、蒔苗氏とクーデリア。二人を引き合わせたのは……」

 

アグニカはクーデリアに視線を向ける。

話の主導を彼女に任せるという目配せだ。

 

「火星ハーフメタルの規制緩和について、お話させていただきたいと思います」

 

「うん、そうじゃったそうじゃった。それなんだがな?」

 

蒔苗から見て、アグニカは怪物だ。

そんな怪物相手に、自分には権力がないですなどと漏らせば、簡単に喉を裂かれるかもしれない。

並々ならぬ覚悟をしつつ、蒔苗は口を開く。

 

「今は無理だ」

 

「聞いてるよ。代表の座を退いたってな」

 

「ほお、耳が早い」

 

少し意外に思った。

コロニー落としの騒動に巻き込まれたクーデリア達が、蒔苗の現状を知る余裕などあったのかということ。

 

「このまま終わる気はないのでしょう?」

 

「勿論。だが、お前さんらの話を聞かせてもらおうか。あの転送装置とかいう妖術も含めてな」

 

蒔苗の状況については、粗方理解している様子。

ならば、蒔苗の方がクーデリア達の状況を知りたい。

 

アグニカとクーデリアは目を合わせ、頷く。

語りたいように語るべき。

鉄華団の全員と話し合ったことを、今度は『他人』である蒔苗にも語る。

 

「私は……」

 

クーデリアはここまでの道筋を語った。

アグニカは要所要所で解説と追加情報を入れる。

 

膨大な情報と冒険譚。

 

「ふむぅ……とんでもない目にあったのお、お嬢さん」

 

「私の命があるのも、鉄華団の皆さんと、アグニカのおかげです。

そして……クランク先生が、身を呈して守ってくれたから……」

 

クランク・ゼントはクーデリアを銃弾から庇い、死亡した。

鉄華団やアグニカの表情に影が射す。

髭をさすりながら、蒔苗はそれを静かに見つめた。

 

「もう隠居してはどうじゃな?まだ続けるとなると、危険は増すばかりじゃが……」

 

「私はもう、立ち止まる訳にはいかないのです」

 

クーデリアは瞳に強い覚悟を秘めていた。

例え巻き込まれ、仕立てあげられたのだとしても、人々に希望を指し示す責任がある。

蒔苗は頷く。

 

「ホホ、なかなか肝っ魂の据わった娘じゃわい。

どれほどの死線を乗り越えれば、その歳で、そんな目ができるのか……

いやはや、ワシは伝説の偉人を見とるのかもしれんのお」

 

少し大袈裟に表現してみたが、何も違和感がないことに驚く。

アグニカがニコリと笑う。

 

「ま、デカイこと言ったから、ちゃんと行動しなきゃってことだ。

クーデリアの思いきりの良さと行動力は保証しますよ」

 

この混乱の中を、確固たる意思を持って行動できる人材は、確かに心強い。

 

(鬼札足り得るか……この娘、そして、アグニカ・カイエルという妖怪。

『転送装置』とやら。この目で見ても尚、眉唾ものだが……)

 

蒔苗の心中を察したか、アグニカが口を開く。

 

「『転送装置』はエイハブ粒子が引き起こす現象です。理論が分かれば誰でも使える、量産可能な代物」

 

「ほお」

 

既存技術の新しい使い方。

エイハブ・リアクターに秘められた技術こそが、転送装置。

 

「何の間違いか、それをテロリスト達が独占してる」

 

「ふむぅ……」

 

エイハブ・リアクターの技術を独占しているのはギャラルホルンだ。

ギャラルホルンより先に、エイハブ・リアクターの新手法を見つけたというのは、少し考え辛い。

もっと自然な答えとしては、

 

「ギャラルホルンから漏れたのか」

 

「その認識で合ってます」

 

アグニカは詳しく語った。

ギャラルホルン内部に巣食う、マステマという人外の存在。

それが転送装置の技術を、テロリスト達に横流ししたこと。

 

アグニカが転送装置の力を使えるのは、脳からエイハブ粒子を精製する量が、常人より遥かに多いことが直接的な理由だ。

バエルゼロズのリアクター内にいるスヴァハ・オームと対話したことにより、その使い方をマスターした。

 

アグニカはそのマステマから転送装置の技術を奪ったという説明でカバーする。

リアクター内に世界があることについては、説明が長くなるので話していない。

 

「その技術をアーブラウに降ろします。喉から手が出るほど欲しいでしょう?」

 

魔王から直々に、転送装置の叡智を分け与えると言われたのだ。

蒔苗の心は揺れ動いた。

 

「第三勢力というのは、いつの時代も旨味がある」

 

「ふむぅ……」

 

蒔苗の脳内は高速で回転していた。

 

余りにも巨大な利益。

一口で人を廃人と化す神酒。

 

飲み干してみたいではないか。

 

「ギャラルホルンよりも先に『転送装置』を使いこなしてみせる、か。

そうなれば実に痛快だわい」

 

ギャラルホルンに頼らない独自の軍事力。

これほど魅力的な提案はない。

 

近年のギャラルホルンの利益重視主義は目に余る。

平和を守ってくれる代わりに金を払っていたのだが、その莫大な金額を投資するほどの争乱はない。

つまりタダ飯喰らいと変わらない。

 

それならば自国で防衛軍を作り、運用した方が安上がりだ。

 

『値段が安い』というのは、国家クラスの視点でも魅力的に映るものだ。

 

そんな思惑が蔓延る中で、今回のコロニー外壁落下。

この大惨事を防げなかったギャラルホルンに、存在する意味はあるのか?

ギャラルホルンは己の存在意義を示すため、ドルトコロニーのテロリスト達を血眼になって討伐しようとするだろう。

この戦いの正否は、ギャラルホルンにとって死活問題。

 

(ふむぅ……)

 

第三勢力という可能性を耳にしたことで、物事の見方に変化があった。

 

生存競争に必死なギャラルホルン

損得勘定のないイカレたテロリスト集団

 

そのどちらかに付かねばならない現状を、どちらでもない安全圏からのらりくらりと回避できる。

 

「どこにも所属しない」という中立主義は、ギャラルホルン側が許さないだろう。

ならばいっそ、自国の防衛を優先する第三勢力として名乗りをあげてしまえば。

 

安上がりで済むのではないか?

 

「ワシとて政治家じゃ。アーブラウの繁栄が一番大事じゃとも」

 

ホホホ、と笑う蒔苗。

 

「じゃがな、他の経済圏が燃えるのを、ただ見とるというのもな……目覚めが悪いわ」

 

「蒔苗氏……」

 

クーデリアはほっとしたような顔をする。

 

(良かった……やはり蒔苗氏は、他人を見捨てるような人ではない)

 

狂気と混乱に触れすぎて、蒔苗のように義理堅い権力者の存在が貴重に見える。

 

「先ずは」

 

アグニカがずいっと前に出る。

 

「一番にアーブラウの利益。

これが確保され、安定してから、他の経済圏を救う。方針はそれでいいですね?」

 

「うむ!そうしてくれ」

 

アグニカの予想は的中した。

蒔苗とて政治家。自陣営の利益が最優先。

クーデリアがアーブラウだけを贔屓すると宣言するならば、諸手をあげて喜ぶだろうと。

 

「で、アーブラウ側からお主達に差し出すものは何じゃ?とても釣り合うものがあるとは思えんが」

 

正直な感想だった。

転送装置というテクノロジーを与える代わりに、アーブラウは何を支払うのか?

 

「圏外圏への弾圧を抑制してもらいたいのです」

 

クーデリアは礼儀正しく頼みこむ姿勢を崩さない。

 

「今回のコロニー落としで、圏外圏への心証は最悪のものになりました」

 

「うむ。そうじゃろうて」

 

「私は、ドルトコロニーの人々が、どれだけ酷使されてきたか、その一片を目の当たりにしました。

テロに走ってしまった彼らの真意を、悪と断ずることはしたくない」

 

「……」

 

胸に手を当て、必死に語るクーデリアの言葉は、蒔苗の心の奥にまで届いた。

 

「火星や他のコロニーも同じです。苦しみを抱えてきた人々が、一部の凶行によって悪と見られるのは避けたい!

何も知らず、何も見ないまま戦争になることは、絶対にあってはならない!」

 

「分かった。クーデリア・藍那・バーンスタイン。

お主の気持ちはよく分かった」

 

蒔苗は深く頷いた。

 

「圏外圏と地球圏の全面戦争。それを避けるために、身を粉にして働けばいいのじゃな」

 

「蒔苗氏……!ありがとうございます!

どうか、どうかよろしくお願いします!!」

 

感極まったクーデリアは、立ち上がり、深く頭を下げた。

 

蒔苗東護ノ助が、戦争を止めることに同意してくれた。

これは、今まで暗雲の中を進んでいた鉄華団、そしてクーデリアにとっては、快晴の光に似たものであった。

アグニカは冷静に順番を決める。

 

「地球のアーブラウ市民が先だ。

じゃなきゃ支持が得られない。

自国の安全を疎かにして、人道も何もないからな」

 

アーブラウの利益を最優先。

それは、最速で他人を助けるために必要な行動。

溺れながら溺れる者を救うことはできない。

 

「では、どうやって蒔苗氏を当選させるかについてですが……」

 

アグニカが現実的な手段についての話に入る。

代表指名選挙は来月だが、この混乱の中で、そんな悠長なことは言っていられないだろう。

 

「アーブラウに限らず、経済圏は『戦時内閣』へと移行すると思われますが」

 

「うむ。万が一ギャラルホルンから『戦争』が宣言された場合、それに適した政府体制に変わる手筈じゃ」

 

「かつての敵すら自軍に引き込み、戦争による変化の対処に専念。

この三百年振りの戦時内閣、必ず重い責任がのし掛かる」

 

いかにリスクを避けるかを主眼として生きてきた政治家達にとって、この大役は荷が重いはず。

蒔苗はアグニカの言わんとすることを理解した。

 

「誰もやりたがらない役職に、すっぽりとはまりこめば良いのじゃな?」

 

「その通り」

 

蒔苗とて、戦時内閣による混乱に乗じ、政界へ復帰することは考えた。

しかし、余りにもリスクが大きい上、手札がまるで足りなかったため却下した。

 

だが今はどうだろう。

『転送装置』の技術提供。

革命の乙女クーデリアとの接触。

バエルゼロズとアグニカ・カイエル。

 

鬼札が揃いに揃っていく。

 

これならば、生け贄としか言い様のない代表の座に居ながら、世界をコントロールできる!!

 

「嫌われ者のワシにはお似合いの役回りじゃわい」

 

安全が確保されているのなら、一番乗りは最高の利益を得られる。

 

「ワシは影の功労者と洒落こむ訳か。ホホホホホ!ロマンチックでいいわい!

経済圏を救い、圏外圏も救う。どちらもやらねばならんのが、英雄の辛い所じゃの」

 

「英雄は一側面しか救いを与えない。

全てを救えるなら、英雄を越えていますよ。

貴方も、クーデリアも」

 

アグニカは眩しそうに二人を見つめる。

 

「蒔苗派からの支持はいいとして、問題はアンリ・フリュウからの支持だな」

 

アンリが出張って代表の座に着くと言い出せば、蒔苗の当選は確実とは言えない。

クーデリアは問いかける。

 

「蒔苗氏は、アンリ氏についてどう見ていますか?」

 

「進んで面倒事に首は突っ込まんじゃろうな。勝てる見込みがなければ、引き際は良い」

 

蒔苗にとっての『勝機』がクーデリアとアグニカだとすれば、アンリ・フリュウにとっての『勝機』とは。

 

「ギャラルホルンの『ルキフグス討伐作戦』に全権を委ねられたのは『イズナリオ・ファリド』。

そのファリド公と繋がりがあるのがアンリ・フリュウ」

 

セブンスターズの一席、ファリド家当主との繋がりがある。

この後ろ盾を利用し、戦時内閣の代表という大役を演じきる自信があるなら、彼女の攻略は難しいだろう。

 

アグニカはチラリとクーデリアを見る。

クーデリアがどんな質問をするのか見ているのだ。

 

「他の経済圏代表との関係は?」

 

「悪い、と言いたいが……普通じゃろう。特に変な噂は聞かん」

 

アグニカが満面の笑みで補足を入れる。

 

「いや、仲良しこよしとはいかないでしょう。

SAUからは難民が押し寄せ、救援要請の嵐。

アフリカンユニオンにはコロニー落としの責任追求をせねばならない。

厳しい態度で挑まねば、人民から怠慢だと叩かれることになる」

 

常に怒った顔でいるのは疲れる。

アンリ自身が責任を背負う上に、他者の責任も漏れ無く追求せねばならない。

忙殺されることは必須だ。

 

「如何に他経済圏との摩擦を減らすか。この点、アンリは上手くやれると思いますか?」

 

「……いや、どこかでやらかすじゃろう」

 

アンリの傲慢さと神経質さは、要らぬ衝突を生むだろう。

 

「蒔苗氏なら上手くやれますか?」

 

アグニカが問うのは、アンリと良好な関係を維持しつつ、他経済圏代表とも一定の親密さを保持できるかということ。

つまり、内外との利益の調節。

そして、表と裏の使い分けができるかということ。

 

「浮気ならいくらでもできる自信があるわい。

虚実使い分けるのは得意中の得意よ」

 

「大変結構」

 

八方美人こそ堅実な生き方である。

 

「ならギャラルホルンとの繋がりはアンリに任せ、他経済圏や自国民との繋がりは蒔苗氏に、と分担できる」

 

好きな人とだけ付き合う。

役割分担で組織が上手く回るという、非常に稀有なケースとなるだろう。

まさに理想的な政府体制。

 

「アンリがアーブラウの限界を設定し、その範囲の中で蒔苗氏が動く。

これならアンリの支配下、という構図になるから、奴も安心でしょう」

 

「うむ。ワシが力を持つことを極端に怖がるじゃろうからな。それがよいじゃろう」

 

力を持ちすぎれば恐怖される。

アンリは蒔苗を排除するために、贈収賄疑惑までふっかけてきたのだ。

 

「従順な態度を崩さなければいいんじゃな」

 

「ええ、表向きは。

それと、市民に対してアンリをやたら褒めちぎるというか、印象が良くなることを伝えてください」

 

アンリ・フリュウという人間は、貶す言葉や軽んじる態度には敏感に反応し、即座に反撃するが、逆に好意的な言葉や、敬意を表する態度には、黙して受け入れる人間のように思う。

簡単に言えば、褒められることに慣れていない。

照れて黙りこくってしまうはずだ。

 

アンリの小言を、市民からの称賛で掻き消す。

「黙れ」と怒鳴る以外で相手を黙らせる方法こそ、政治家が模索する戦い方だ。

 

「評判か。なるほどのう。

ワシなら他圏に見境無く救助要請ができる。内部からすれば恥知らずじゃが、市民からすれば爽快じゃろうて」

 

「アンリはその点、政界での評判には過敏に反応しそうですが、民衆からの印象などいくらでも操作できると思っている」

 

アンリが政界での発言力と市民からの支持率、どちらを優先するか。

おそらく政界を選ぶと蒔苗は推察する。

 

「少し傲慢な娘での」

 

「ご存じなのですか?」

 

クーデリアは思わず聞き返す。

まるで旧知の仲のような口振りだったからだ。

 

「あやつが乳飲み子の時から知っておるよ」

 

「では、長いお付き合いなのですね」

 

「まあの」

 

意外な情報だった。

蒔苗はアンリ・フリュウを幼少期から知っている。

つまり、政治家になる前のアンリを知っているのだ。

クーデリアはその話をもう少し聞きたいと思ったが、アグニカは本題を進める。

 

「政界からのバッシングを引き受けてくれるとなれば、アンリとしても好都合なはず」

 

手当たり次第に動き回ることは恥だという風潮は、どこの組織にも根付いている。

特に歳を重ねた政治家がそうだ。

 

「それだけで代表の座を譲ってくれるのか?」

 

オルガとしては、いまいち押しが弱い理由に思えてしまう。

蒔苗もその意見に同意する。

 

「あやつはワシのことを嫌っておるからのぉ……

頭では利点を分かっていても、心が拒絶してしまうかもしれん」

 

たしかに、とアグニカも頷く。

合理的な判断だけでは決められないのが人間だ。

 

「頑なに信じない可能性はある。だから懐柔案と並走して強硬案も用意しておこう」

 

 

アグニカはニヤリと笑った。

 

残り63時間41分63秒

 

 

「強硬案とは?」

 

「アンリとイズナリオの癒着をバラすぞって脅す」

 

本来、政治とは関係を断ち、一歩離れた場所から世界を監視すべき暴力装置。

それがギャラルホルンのあり方だ。

経済圏の代表に近い人物と繋がりを持っていることは許されない。

それが決まり事だったはずだ。

 

「このネタは時間が経つほどに効果が薄くなる。

イズナリオに全権が移譲した今、ギャラルホルンと親密になるのは「当たり前」のことだ」

 

任務を円滑に遂行するため、協力関係を結ぶのは当然。

経済圏の政治家とセブンスターズが繋がっていたことが「悪いこと」と認知されるのは今しかない。

時間が経てば経つほど、この罪状はうやむやになる。

 

「刃を突きつけるなら今だ。

刃を握る手とは逆の手で、相手に握手を迫れ」

 

いわば飴と鞭。

従えば利益を得て、従わなければ不利益を被る。

そう分からせれば従順になるはずだ。

 

「丁度『赤雨旅団』が、制限時間を三日と宣言してくれている。利用してやろう。

この余裕の無さを突けばいい」

 

相手から余裕を奪い、判断力を低下させることは常套手段だ。

 

破滅の水。

アンリは腰まで浸かっている。

しかし、精神的な圧迫感は既に、首もとまで水は上がってきている。

 

溺れかけのアンリ、その首に刃を突きつけ、手を伸ばす。

溺れる者は藁をも掴むが、それが悪魔の手であろうとも掴まざるを得ない。

 

悪魔は囁く。

喉に穴を開けて濁流に呑まれたいか?

溺死する苦痛だけでなく、刺し傷による苦痛まで味わいたいかーーー?

 

苦痛が安上がりで済むのなら、それに越したことはないはすだ。

 

「アンリはアーブラウ防衛軍についてはどう思ってるんだろうな?」

 

「イズナリオと繋がりがあるなら、今まで通りギャラルホルンに任せる方針じゃろう。利権を調整するだけじゃろうな」

 

ギャラルホルンに頼らない軍事組織など、アンリには発想すら無いのかもしれない。

防衛軍ができたとしても、その扱いは杜撰で、評価も低いはず。

それは逆を言えば、防衛軍の兵士と、防衛軍設立を望む者達からの支持が集まりにくいということで、その支持は自然と、防衛軍を丁重に扱う蒔苗に集まる。

 

「なら防衛軍はギャラルホルンの元で働く下っぱって設定で始めよう。そこからいつでも独立できる体制に育てる」

 

「その説明でいこう。防衛軍もやる気が出るじゃろうて」

 

「なら重要になるのは『教育係』だな」

 

ギャラルホルンの下部組織ではあるが、ギャラルホルンとは違った戦闘組織。

そんな自己認識を保つには、やはり『独自の戦い方』を持っている必要がある。

 

ちらりとオルガ、ビスケットを見る。

 

「その役回り、適任がおりますが」

 

「『鉄華団』か」

 

戦場にこそ命の糧がある少年兵達。

 

「彼らは確かな戦闘経験と技術があります。教師としての才能はまだまだですが、幸い、『戦いながら覚える』という体勢で世界は動く」

 

未知の敵、未知の技術、未知の状況。

そういった暗闇の中を、自ら突き進んでくれる先鋒の存在は、後方の者にとって非常にありがたい。

 

「なにができるか分からない状況で、それを模索して、柔軟に動けるのが『鉄華団』の強みです」

 

「ふむぅ……」

 

結局の所、ギャラルホルンも経済圏も『硬直化』しているのが問題。

水面に波紋を起こそうと石を投げてみても、水面が凍っているのだからどうしようもない。

 

その氷を叩き割る落石と、溶かし尽くす業火。

 

「コロニー落としは現状を変えるきっかけとしては最適だったって訳です」

 

「それはあまりにも……」

 

クーデリアの表情が曇る。

世界を良い方向に導くことが、変化という混乱を引き起こすことは覚悟していた。

変化し、混乱することは仕方ない。

しかし、混乱し、変化せざるをえない状況には、嫌悪感を抱いてしまう。

 

「アーブラウの存続のためにも、防衛軍の設立は大事だ。ギャラルホルンの言いなりになれば……」

 

「精魂尽きるまで吸い盗られるじゃろうて」

 

「そう、金を取られるってだけじゃない。平和が前提って経済圏の考え方すら変えられてしまう」

 

クーデリアは自らの考えや行動すら、値段をつけられ、財産として課金されることを知った。

その経験から、思考すら価値あるもの、つまり『財産』だと知った。

 

「平和という理念は、人々の財産です」

 

人々の営みの果てに積み上げたものだというのなら、高い塔と同じだ。

建造物だ。それは人々の歴史的財産。

 

人類滅亡の危機は、容易に『総動員』という法律を作らせやすい。

確かに、全人類が死にもの狂いで働かなければ勝てない相手だ。

人を『必死』にさせるには、確固足る『システム』が必要。

社会、制度、常識、心象操作。

戦争に参加することこそが正義であり、尊いものだという『常識』を、ギャラルホルンは作り出そうとする。

その流れに経済圏規模で対抗する。

 

「戦争に傾向する流れに、政治で歯止めをかける訳じゃな?」

 

「ええ。たとえ日和見だのどっちつかずだの言われようとも、それだけは主張していかねばならない」

 

「それが経済圏の正しいあり方です」

 

クーデリアが目を輝かせる。

戦争を幇助する国家体制など間違っている。

 

「奪われないように力をつけるってことですよね」

 

「そうだ」

 

ビスケットは無言で聞いていたが、ほぼ全ての内容を理解していた。

力を持たぬ者は搾取されるのみ。

抑止力を持つべき。それが防衛軍。

アーブラウ全土が鋳溶かされ、銃弾に変えられる前に、剣を持たねばならない。

オルガはこの世界情勢の中で、鉄華団が出来ることを模索していた。

 

「アンリだって、イズナリオの言いなりになる未来が露骨になってくれば、心が揺らぐはずでしょう」

 

アンリ・フリュウとイズナリオ・ファリドが、金剛石のように純潔で硬い結束で繋がれているという保証もない。

どこかに付け入る隙もあるはずだ。

 

「それに、アーブラウのやり方は『根本的解決』に繋がる」

 

蒔苗の成し遂げようとしていること。

それは、火星アーブラウ領の独立を認めることで、火星が搾取される現状を変えること。

 

「『赤雨旅団』を倒した所で、地球と圏外圏が対立したら泥沼だ」

 

圏外圏への弾圧と搾取。

この根本的問題が残る限り、同じような惨劇は繰り返される。

それではいくら安上がりに済ませようと、出費は続き、破産する。

 

(安物買いの銭失い……か)

 

蒔苗の脳内で、損得勘定の算盤は弾かれ続ける。

 

「今は畑が燃えて喰うものがない。

じゃあ雑草を喰おう。

武力とはいつの世も「その場しのぎ」の方法でしかない。

根本的解決、畑を再建するのは武力じゃない」

 

根本的解決を前提に設立された組織が存在しない。

それこそが、この世界の抱える問題である。

ならば作ればいい。

 

ギャラルホルンは雑草。

赤雨旅団は隣人を喰う餓鬼。

 

そのどちらにもなれないとなれば。

 

「歴史的偉人、救世主。

称号には事欠かないですよ」

 

統合と再編。

アグニカの目指す完成形、そのピースが見えてくる。

 

「この世界のいい所は、『細分化しても雑魚』って所です。

必然、大きなものに合体していく」

 

零細組織でいて得することは米粒のように小さい。

お椀一杯にまとまって初めて「米」と認識されるのであって、一粒だけ落ちていればそれは「ゴミ」である。

 

「蒔苗氏」

 

アーブラウが一個の巨大組織として固まれば、必然、世界はそれにくっつこうとすり寄ってくる。

 

「世界を盗れるぞ」

 

国盗りどころの規模ではない。

アーブラウを掌握することは、地球全土、果ては全宇宙平定も夢ではないのだ。

 

「ホッホッホッホ!!」

 

アグニカ・カイエルという強力な引力が、バラバラに散らばったデブリを引き寄せ、一個の星として再誕しようとしている。

 

その中心に近い場所に居座れる蒔苗は、幸運と言う他にない。

 

「さて、俺の考える『本音』を話しておきましょう」

 

蒔苗の政治家としての勘が告げている。

『現在』をより良くしようという提案は、十中八九、『未来』をよくするためのものだ。

現在の混乱を収めることが、未来の混乱と利益独占に繋がる。

その手筈を語ってくれるのだろうと。

 

「『転送装置』の強みは、距離を無視できることです。必然、距離が長い場所を行き来する方が『得』になる」

 

この世界の重要な要素、距離。

その距離が離れている空間と言えば。

 

「断然、地球内よりも宇宙空間の方が距離は長い。

『転送装置』は地球より宇宙で使った方が得をするんです」

 

例えばSAUと日本列島の距離は一万キロほど。

対して地球から火星には7000万キロから二億キロの距離がある。

 

距離を無視できるのならば、国家間ではなく星間の方が数千倍から数万倍効率がいい。

 

「地球で『転送装置』を使って、例えば工業や軍事拡張をしたとしても、成果は頭打ちになる。

すぐに宇宙、圏外圏の方が成果を出すでしょう。そうなれば地球との貿易のパワーバランスは逆転する。

戦争になるのは目に見えている」

 

モビルアーマーという利害度外視の敵とばかり戦っていると、そんな常識まで希薄になってしまうが、アグニカは『人類の戦争』を熟知していた。

経済問題が戦争に繋がることを忘れたりはしない。

蒔苗も目をギラリと光らせる。

 

「だからこそ、『植民地』という武装蜂起しやすそうな状態から、『友好国』という戦争しにくい状態にすることで、悪い芽を摘んでおくと」

 

「その通り」

 

戦争を始めるには『大義名分』が必要だ。

その名分を作り方法を、出来る限り潰しておく。

相手の武力が上回る可能性があるのなら、絶対に必要な方策だ。

 

「これほど綺麗な形で『先回り』できるのは今しかない。そして、『コロニー落とし発動前』から『火星独立』を掲げていた、クーデリアと蒔苗氏にしかできない」

 

『コロニー落とし』発動前と後とでは、世界が変わった。

 

これからどれほど高尚で完璧な和平案を提出しようとも、それは『コロニー落としがあったから』であって、その強烈な出来事に動かされただけだという見方が残る。

経済圏側も、圏外圏側も、「テロに屈したのだ」と軽んじながら『世界平和』を模索する。

権威も武力も軟弱な『世界平和』は、後の世に簡単に破壊されるだろう。

それこそ一発の銃弾で。

 

「だがクーデリアは、世間の混乱など起こる前から、ずっと火星独立を説いてきた。そして何より、その渦中にありながら『世界の正しいあり方』を説いた。この効果は絶大だぞ」

 

言ってしまえば『タイミング』だ。

時期が良かった。

この世界で唯一、コロニー落とし発動前から、『必死』になって火星独立を訴えてきた人物。

 

後から口を出してきた有象無象とは、『格』が違う。

 

たった数日、数年の差で、扱いに雲泥の差が生じる。

クーデリアが特別だという理由になる。

 

「今ここにいる人物だけで、後の歴史が変わる」

 

蒔苗は久しく味わっていなかった、背中にゾクゾクと刺激が走る感覚を味わった。

まるで英雄譚!!

夢にまで見た状況ではないか!!!

 

蒔苗は自分でも気付かないほど、熱意と野望に満ちていた。

そんな浮き立つ気持ちのまま、ふとクーデリアの目を見る。

 

クーデリアの覚悟は、既に決まっている。

彼女はただ、その大任を粛々と受け入れていた。

その強大な覚悟、意思の強さを見て、蒔苗は固唾を飲む。

 

(なんと……)

 

蒔苗でさえ身震いする遠大な計画を、クーデリアは表情も変えずに聞いていたのだ。

 

(よもや、本当に……『革命の乙女』を目の当たりにしておるのか、ワシは……)

 

アグニカが満足そうに頷く。

 

「ま、細かいことは俺に任せてくれ」

 

誕生パーティーを開催する少年のような無邪気さで、世界の命運を語る。

 

ここでまとめに入る。

 

「クーデリアと共にアーブラウで働いてくれれば、蒔苗氏は得をする。アーブラウも得をする。だから我々に協力していただきたい」

 

「うんむ」

 

「『転送装置』の使い方ですが、これについては覚えるよりも、先ず「受け入れる」という難関がある。

その点、クーデリアと鉄華団は渦中にいた。経験値としてはどの組織よりも一歩先にいる。鉄華団をアーブラウ防衛軍の教育係として起用していただきたい」

 

「うむ、うむ」

 

「当面の目的はアンリ・フリュウを仲間にしてアーブラウ代表に当選。

そしてギャラルホルンと共に『ルキフグス』を討伐する」

 

「うむ」

 

蒔苗との合意も完了した。

 

「ではアンリと交渉をお願いするか」

 

「あの、いきなり行っても大丈夫でしょうか?」

 

クーデリアの脳裏には、先程の蒔苗が仰天して嘔吐した情景が浮かぶ。

それに交渉とは、先に相手にも情報を与えてからでなければ上手く進まない可能性もある。

 

「その場で政府を立ち上げる訳じゃないからな。あくまで意思の確認だけ。そりゃあ情報の洪水かもしれんが、そこはアンリに頑張ってもらうしかない」

 

ファーストコンタクトは大切だが、今は時間がない。急いで話をする必要がある。

アンリが情報を噛み砕く時間を作るためにも。

 

「何故アンリの元に行ったかという理由については、アフリカンユニオンのせいにしよう」

 

アグニカの十八番、矛盾は誰かの責任として丸投げする。

 

「アーブラウの内輪揉めを仲介し、恩を売る。影響力を確保するためのお節介」

 

「ありそうな話じゃの」

 

オセアニア連邦代表が、アーブラウ政権設立に一役買った。

そうすれば後々アーブラウに口出しできる。

 

パンッと手を叩く。

 

「よし、あとの細かい所は蒔苗氏に任せる!

次は肝心のギャラルホルンだ」

 

軍事力でルキフグスを止められなければ話にならない。

先ずはギャラルホルンへの繋がりであるマクギリス・ファリド、ガエリオ・ボードウィンと接触する。

 

蒔苗、クーデリア、メリビットをアンリ・フリュウの元へ転送し、鉄華団とアスカロンの面々と共にマクギリスの元へと場所を移した。

 

ーーーーーーーーーー

 

残り62時間37分6.66秒

 

『ヘイムダル召喚』の儀を終え、四大経済圏から『ルキフグス討伐』の大任を与えられたイズナリオ・ファリド。

 

イズナリオ特務大将が掌握する指揮統制に、ギャラルホルン内部は変革を求められていた。

ギャラルホルンに資金を提供している四大スポンサーから、直々の依頼だ。

優先度は最高。

先ずは結果を残さねばならない。

ギャラルホルン存続のため。ひいては、人類存続のために。

 

イズナリオが選抜した、ファリド家と縁の深い名家出身の者達が、イズナリオの軍門へと下るために集まった。

 

今やイズナリオは『世界の光』だ。

その光に目を焼かれないように、つまり「力に溺れないように」という意思と伝統を重んじ、ファリド家直属の四家の代表は、『仮面』をつけて現れた。

ルキフグスを討伐するまで絶対に外せない仮面である。

 

「タリスマン剣の友修道騎士会

総勢52036名 参陣!!!!」

 

ザンッッッッ!!!!

 

 

ファリド家直属「タリスマン家」当主

カリス・タリスマン少将

 

 

「パーフィケーション護衛団

総勢23566名 参陣!!!!」

 

ザンッッッッ!!!!

 

「パーフィケーション家」当主

テーレー・パーフィケーション少将

 

 

 

「テスキョ騎士団ネメシス軍団

総勢15304名 参陣!!!!」

 

ザンッッッッ!!!!

 

「ネメシス家」当主

カーラ・ネメシス少将

 

 

 

「マルタ警備隊

総勢53092名 参陣!!!!」

 

ザンッッッッ!!!!

 

 

「マルタ家」当主

ロン・マルタ中将

 

 

それぞれ代表者である当主が横一列に並ぶ。

そして片膝をつき、深々と頭を垂れた。

それを雄大な雰囲気を漂わせ、満足げに見下ろすイズナリオ。

 

「よくぞ召集に応じてくれた。真の英雄達よ」

 

「「「「はっ!!!偉大なるイズナリオ特務大将殿!!!!」」」」

 

おそらく現時点において、ギャラルホルンの最高権力者である『元帥』に最も近い立場にある。

とはいえ、ギャラルホルンは世界平和のために尽くす滅私奉公の組織だ。

『元帥』は空位となって久しい。

ギャラルホルンを金銭的に支える四大経済圏をこそ、『元帥』と呼ぶという見方もできる。

 

だからこそ、その四大経済圏から全権を委譲されたイズナリオは、他のセブンスターズ達とも一線を画する存在と言えた。

 

「此度集まってもらったのは他でもない、『赤雨旅団』なる不届き者達の蛮行、そして『ガンダム・ルキフグス』という悪鬼に天誅を下すべく、宣戦を布告した」

 

「「「「承知しております!!!」」」」

 

 

この戦いが世界の命運を分けるということは、全員が重く受け止めていた。

 

「聞き及んでいるとは思うが、奴等は三日後にSAUとアーブラウの首都を襲撃するとほざいている。

それが単なる脅しであれ、我々は対処せねばならん」

 

「はっ!状況を説明いたします!」

 

そこでカリス・タリスマンが前に出る。

彼が手を掲げると、立体映像でSAU北米大陸の状況が映し出される。

SAUの『被害調査室』から送られてきた情報を元に、被害の規模ごとに色分けされている。

 

「『ガンダム・ルキフグス』が陣取るのはミズーリ州カンザスシティ。ほぼ北米大陸の真ん中と言っていいでしょう。

ここから四方向、東西南北から攻めこむことが可能です。

基地が最も機能しているのは『北』ですね。

6つの国境警備基地のうち、スノーベルト基地以外は機能を保っています」

 

北はアーブラウとの国境に面している。

アーブラウ首都エドモントンへ攻めこむとすれば、先ずウィニペグの鉄道網を押さえに来るというのが、SAU支部の見解だ。

 

「『東』にはSAUの首都、ワシントンがあります。基地は『ノーフォーク海軍基地』があります」

 

ジョージア州やフロリダ州に外壁が落ちたことにより、南北への脱出経路を失い、東は大西洋。背水の陣とはこのことだ。

 

「攻めの経路は四つ。我ら実働部隊も四つ……各当主が各方面を受け持つ、という戦力配備を具申いたします」

 

カリス・タリスマンの意見に、皆が頷く。

 

その胸中には、数々の利権についての思惑があった。

 

『北』アーブラウとの国境

『東』SAU首都防衛と避難民救助

『南』中南米との橋渡し

『西』太平洋からの増援

 

軍事的な攻略の難易度と、そこに元々あった利権が、彼らを悩ませた。

 

ここに集った当主達は、いかに手柄を立て、イズナリオに重用されるかを目的としている。

 

リスクとリターンを天秤にかけ、慎重に選定する。

 

『北』方面はアーブラウを防衛することと同義だ。

そしてアーブラウには、イズナリオと癒着しているアンリ・フリュウの政権がある。

イズナリオの経済圏への繋がり。

ここを守りきればイズナリオからの評価もうなぎ登り。さらにはSAU内だけでなく、アーブラウ領内での利権も認められる公算が高い。

しかしその防衛範囲は広く、手を大きく広げることになるため、隙が生じやすい。

もし失敗してアーブラウに損害を及ぼせば、イズナリオから重い責めを受けることになる。

 

『東』はSAU首都の防衛。

ルキフグスの根城からニューヨークを真っ直ぐ繋いだ経路上を防衛すればいいので、防衛範囲は狭い。

しかし敵の攻撃は強烈なものになるだろう。

成功すれば、SAU代表ドナルド・ポーカーからも称賛され、SAUとイズナリオを繋いだ功労者としても称えられる。

失敗すればSAU首都壊滅の責任を全て被る。

再起の目はない。

 

『南』には中南米があり、そこにはエリオン家の配下が管理するモビルスーツ工場が存在する。

ニューヨーク方面までは外壁墜落のために経路が閉ざされ、増援にも行けない。

逆に言えば、『北』と『東』に目を向けているガンダム・ルキフグスを背後から強襲できる絶好の立地でもある。

少ない軍事力で確かな効果が見込める。

さらに中南米がSAU政府機能を乗っ取ろうとしているため、これの鎮圧と称して戦力を割けば、労力と被害を減らせる。

『北』や『東』に比べれば、『南』ははるかにコストパフォーマンスが良好に見える。

 

最後に『西』だ。

太平洋沿岸部のサンディエゴ基地が津波によって壊滅したため、部隊展開の基盤となる基地がない。

『北』に攻めこむガンダム・ルキフグスの側面から攻撃できるが、基地からは距離がある。

基地もなく、前線まで距離があるため、武功を立てるには不向き。

最悪、愚鈍な部隊と罵られる可能性もある。

苦労は少ないが、旨味も少ない。

 

そんな東西南北を、タリスマン家、パーフィケーション家、ネメシス家、マルタ家が分割して受け持つ。

 

「エリオン家の配下ですが」

 

そこで口を開いたのはネメシス家当主、カーラ・ネメシスだ。

 

「SAUでの利権を手に入れるために、障害になると存じます」

 

「うむ」

 

此度のギャラルホルンの団結は、SAUにおけるエリオン家の利権を全て、武功を立てた者への報酬とすることで成り立っている。

当のエリオン家と、SAUの実地で利権を享受していた配下の家々からすれば、堪ったものではない。

当然、反抗してくるはず。

 

「彼らに最前線で働いていただき、自然とその力を落としていただく、というのが理想では」

 

蛇のように細い舌をチロチロと蠢かす。

 

「この地を治める守護者ならば、真っ先に戦いたまえ、と背中を押すのだな」

 

「その通りでございます」

 

利権は全て奪うつもりでいながら、戦う労力は現地人に任せる。

悪魔のような考えであった。

 

「ネメシス家に『東』方面。

SAU防衛をお任せください。

最前線での防衛を全て、エリオン家配下に押し付けるように計らいます。

そしてエリオン家だけが血を流す体制を作り上げ、最終的にはエリオン家を雑兵とする」

 

「分かった。お前に任せる」

 

「はっ!」

 

深々と頭を下げるカーラ・ネメシス。

 

「エリオン家といえば、奴隷!!

そう世間に認識させてみせます」

 

「楽しみにしているぞ」

 

イズナリオは闇の深い笑顔を浮かべた。

そこでマルタ家当主が手をあげる。

 

「『西』方面は我々にお任せあれ。

太平洋からの艦砲射撃、モビルスーツの空輸、そして地上での仮設基地建設。

陸海空の美しい連携をご覧に入れます」

 

エイハブ・リアクターの出現で冷飯食らいをしている戦闘機や、海上警備くらいしか仕事がなかった戦艦軍に仕事を与える。

非常に手堅い軍備拡張を思い描くロン・マルタ。

 

「それならばバクラザン家の保有戦力とも協同できよう。バクラザン家を指揮下に加えるといい」

 

「畏まりました」

 

ロン・マルタは胸の中で拳を握りしめた。

リスクを最小限に、最大限のリターンを手に入れた。

最高の役所と言える。

 

「『南』の防衛は我ら、タリスマン家が」

 

カリス・タリスマンが南を選択。

 

「中南米のクーデター鎮圧には、義に厚いボードウィン家の力をお借りしたい」

 

他の三家がカリス・タリスマンの顔を見る。

まさか堂々とセブンスターズを配下にしてくださいと頼みこむとは思わなかったからだ。

結果的にバクラザン家を指揮下に入れたロン・マルタとは違い、カリス・タリスマンは博打打ちだ。

 

「ふむ、よかろう。ボードウィン卿には私から協力要請を出しておく。

不測の事態がないように努めよ」

 

「はっ!ありがたき幸せ!!」

 

地理的に美味しいとは言えない『南』方面で、ボードウィン家を巻き込むことで任務の価値を上げた。

ファリド家と縁の深いボードウィン家。

彼らと密接に働けば、人脈の繋がりという得難い財産を得る。

ガルス・ボードウィンからの評価があがれば、自然とイズナリオからも重用される。

 

カリス・タリスマンの力技によって、チャンスを勝ち取った。

 

「では、パーフィケーション家が『北』を受け持ちますね」

 

ゆったりと語るテーレー・パーフィケーション。

腰の重さが災いして、最も難易度の高い『北』を押し付けられたようにも見える。

他の三家が、心の中で笑っていた。

 

「難民への対応を協議したいので、アーブラウ代表との接触をお許しください」

 

これには他の三家だけでなく、イズナリオの表情も固くなった。

暴力装置であるギャラルホルンの者が、経済圏との繋がりを持つのは御法度。

イズナリオも表向きは、アンリ・フリュウと何の関係もない。

そこに、任務のためとはいえ、経済圏の代表とのコンタクトを許可して欲しいと言い放った。

 

「……それは後々角が立つ。全権を委任されたのは私だ。私を通して、アーブラウへ申請しよう」

 

「畏まりました……」

 

にっこりと微笑むテーレー・パーフィケーション。

 

テーレーは腐り落ちる部分を的確に見抜く。

彼の感覚からして、SAU北米大陸は滅びる。

まるでデコボコになった月面のように。

彼が目指す理想の未来とは、SAUがアーブラウに吸収されるという展開だ。

そうなれば、国境の再配置の指揮を取るのは、『北』を守りきったパーフィケーション家。

混乱に乗じた線引きが、どれほどの暴虐を黙認してくれるか。

略奪と支配。

テーレーは穏やかな笑顔の裏に、残虐な支配者としての本性を隠していた。

 

そして何より、イズナリオとアンリ・フリュウの間に入ることで、自然とその仲に割り込めるという狙いもある。

 

イズナリオは正式に配置を決定する。

 

「『北』に『パーフィケーション家』

『東』に『ネメシス家』

『南』に『タリスマン家』

『西』に『マルタ家』を配置する」

 

「「「「はっ!!!!!」」」」

 

「宇宙からの増援として、地球外縁軌道統制統合艦隊から、カルタ・イシューの隊を下ろす」

 

「だが指揮系統が混乱するため、アーブラウへは下ろさない。

直接SAUへ下ろす」

 

『北』を担当するテーレーは穏やかに微笑んだ。

他の三家は歯噛みする。

カルタ・イシューといえば、セブンスターズの権力を使って好き勝手に動き回る跳ねっ返り。とんだ厄介者だ。

先のコロニー落としの汚名挽回のために、無茶な作戦をするつもりだろう。

絶対に自分の担当地域に降りてきて欲しくない。

そう思う中で、アーブラウ領には降りないという追加情報。

これは四家には知る由もない情報。

つまり、『北』担当のテーレーだけが安心できる情報だった。

 

「諸君らの奮闘に期待する」

 

「「「「はっ!!!!!」」」」

 

様々な利権と思惑が交差しつつも、SAUへの遠征部隊の配置が決定した。

 

ーーーーーーーーーー

 

残り62時間04分08秒

 

ガエリオ・ボードウィンはマクギリス・ファリドを壁に叩きつけた。

 

「どういうつもりだ!!」

 

ガエリオは憤怒の表情。

対してマクギリスは涼しい笑顔だ。

 

「阿頼耶識を埋め込むだと!?

よりによって、あのアグニカ・カイエルに手術させるだと!?

何をトチ狂ったことを!!」

 

マクギリスが阿頼耶識に興味を持っているとは知っていたが、まさかアグニカに手術を依頼するなどとは予想外だった。

 

「力を得るためだ、ガエリオ」

 

「なにも、あんな化け物から与えられなくてもいいだろう!

もっと正規の方法を探そう!な!?マクギリス!!」

 

「そんな時間はない」

 

マクギリスはガエリオの手を優しく押し退ける。

 

「モビルアーマーによる二代首都襲撃まで三日。その最前線で戦おうと思うなら、阿頼耶識の適合も含め、ギリギリなんだ」

 

「しかし!それでは人でなくなってしまう!!」

 

マクギリスが、人間を『意思』の生き物であると定義していることは知っている。

正義のために戦う『意思』があれば、身体に異物を埋め込もうが、それは高潔な人間なのだと。

 

「俺は剣であれば良かった。一振りの黄金剣。ただ敵を斬るために研ぎ澄まし、折れれば潔く散る。そんな存在になりたかった」

 

「だがお前は人だろお!?お前は剣じゃない!!人間なんだよお!!」

 

ガエリオは必死に呼び止める。

 

「ガエリオ、俺を人間と呼んでくれるのは、この世でお前だけだ」

 

「マクギリス……」

 

マクギリスの陰惨な過去を聞いた後では、その言葉に嘘はないと分かる。

 

「お前が死ねば、俺は人であることを止める。意思なき生き物、暴力の化身になる。

だがお前が居るうちは、俺は『人間』として戦おう。そして、人間とは阿頼耶識をしても人間でいられる」

 

「……うぅ」

 

ガエリオは顔を青くし、顔を掻いた。

 

「俺は誓った、マクギリス。お前の抱える闇を、半分受け持つと」

 

「そうだな」

 

「だから、お前が阿頼耶識を埋め込むというのなら、俺も……おれ、も…………」

 

顔を覆うガエリオ。

どうしても、人を捨てる忌避感が拭えない。

 

(マクギリス、お前を一人にしないと思う気持ちは本当だ。そのためならいくらでも力が出せる。

だが俺が一人ではないと思うには、どうしても自信が持てない。

俺は結局、自分だけが助かりたいだけなのか……?

戦場を前に怖じ気付いただけなのか……?)

 

マクギリスが口を開こうとした瞬間、空間揺れた。

 

マクギリスは唇を吊り上げて笑う。

 

「アグニカ!!!!」

 

ガエリオがビクリと顔をあげる。

するとそこには、黒い影のような少年、アグニカ・カイエルがいた。

 

「マクギリス、SAUはどうなってる」

 

「はっ!!!」

 

先程までの静香な余裕が嘘のように、今は狂信的な熱気を発するマクギリス。

マクギリスはSAUの被害状況と、先程イズナリオ・ファリドと配下四家の会議で決定した戦力配置図を説明した。

 

ガエリオはアグニカの他にも、鉄華団の二人と、時計を大量につけた男、野良犬のような少女がいることに驚き、ぎょっとした顔をしていた。

 

「なるほど、エリオン家を土木工事に駆り出すか」

 

アグニカは顎を擦りながら頷く。

 

「いかがなさいますか?」

 

マクギリスは期待を込めた眼差しで見つめている。

そこにガエリオは割って入った。

 

「おい!そもそもモビルアーマーが首都を狙うという保証はあるのか!?」

 

テロリストの犯行声明だ。

それが嘘という可能性もある。

だがアグニカは首都襲撃を前提に作戦を立てようとしている。

そこに噛み付いた。

 

「モビルアーマーの目的は、人類を極限まで追い込むことだ」

 

マステマという人外が引き起こした混乱。

その目的は世界を荒らすこと。

 

「『厄祭戦』とは人類を追い詰める『儀式』なんだ。その手順を踏まねば、奴等の目的は達成されない。だから、連中の首都襲撃は本当だ」

 

人類に、自分達は追い詰められていると自覚させる必要がある。

だからこその犯行声明。

 

人類を滅ぼすのではなく、追い詰めるための戦争。

 

「でなきゃ、厄祭戦で世界は滅ぼされてるよ」

 

当時も不思議に思われていたのだ。

モビルアーマーほどの強大な力がありながら、何故人類は滅ぼされていないのか?

 

本気で人類を滅ぼしたいなら、核兵器を乱発すれば済む話なのだ。

この疑問への推測として、「まだモビルアーマーは人類を支配することを諦めていない」という説が有力だった。

モビルアーマーを作ったのは『セフィロト』と呼ばれる組織だ。

彼らは全人類の支配を目的としていた。

故に、モビルアーマーに『人類をギリギリまで滅ぼさない』というリミッターがかけられているのではないかと考えられていた。

 

だが実際は、一人でも多くの人間をニュータイプにし、エイハブ・リアクターに改造し、ツインリアクターのガンダムに進化させるという頭の狂った計画のため、人類を滅ぼすことが出来なかった、というものだった。

 

「この三文芝居に付き合ってやるんだ」

 

アグニカの額に青筋が浮かび上がる。

 

「奴等の書くシナリオに乗ってやる。その上で、奴等の計画ごと叩き潰してやる」

 

アグニカの壮大な反攻作戦。

その原動力となるのは『怒り』だ。

 

ーーーーーーーーーー

 

残り61時間33分16秒

 

「アグニカ、その作戦に、是非とも参加してもらいたい人物がいるのですが」

 

「誰だ?」

 

「カルタ・イシューです」

 

ガエリオが目を見開く。

マクギリスが悪魔の計画にカルタを巻き込んだ!!!

 

「マク……」

 

「いいよ」

 

アグニカが目を閉じ、手をかざすと、この場に一人の女性、カルタ・イシューが姿を現した。

 

「……!!?? な、はっ!?」

 

カルタは目の前の景色が変わったことに狼狽し、後ずさる。

体勢を崩した彼女を、そっと優しく抱き止める。

 

「やあ、カルタ」

 

「ッ!!?……マクギリス!?」

 

カルタは顔を青くしたり赤くしたりと忙しない。

 

「また会えて嬉しい」

 

「……ッ!!!」

 

顔を真っ赤にするカルタ。

マクギリスを押し退け、体勢を立て直す。

 

「なんなのここは!?マクギリス!何故ここに貴方が!?」

 

カルタの前に、アグニカが歩み寄る。

 

「ナギサ・イシューの子孫」

 

鋭い眼光を向けられる。

その影のような少年を見て、カルタは全身の産毛が逆立った。

 

(人間ではないーーー)

 

カルタは流れるような早さで、腰に差していた刀を抜く。

即座にアグニカの首を跳ねようとするも、アグニカはその刀身を指で掴み、奪い取る。

 

一瞬の出来事であった。

ガエリオの目には、カルタが抜刀の構えを取った瞬間、アグニカが刀を持っていた。

 

「……な」

 

カルタは呆然と、自身の右手を見ていた。

チキリと音を立て、カルタの刀が、彼女の首元に当てられる。

身体が硬直する。冷や汗が止まらない。

 

つい先程まで艦隊のブリッジに居たというのに、今は地獄の魔王に刃を突きつけられている。

 

「遅すぎる」

 

アグニカの言葉が、ずしりと臓物にのし掛かる。

 

「お前が弱いと、部下が死ぬぞ」

 

「……」

 

カルタは親衛隊の面々や、副官、そして艦隊の隊員達の顔を思い浮かべる。

彼らはするカルタの未熟さが原因で死ぬことになる。

 

その事実を突きつけられて、カルタはギリリを歯を食い縛った。

 

「お前は力に酔っているだけだ。実戦を知らなすぎる」

 

「血を流す覚悟ならある!!!」

 

カルタは刀を素手で掴み、力づくで下に下ろした。

床に血がボタボタと落ちる。

 

空いた片手を手刀とし、アグニカの目を突く。

しかし、その手刀も手首で押さえられ、瞬きの間に地面に叩きつけられていた。

 

「ぐぅ……!!」

 

逆手に取り、カルタを拘束するアグニカ。

 

「いいね」

 

牙を見せて笑う姿は狼のようだ。

 

「おいやめろ!!!」

 

ガエリオが殴りかかる。

それを後ろに下がって回避するアグニカ。

 

ガエリオは追撃を止め、カルタを抱き起こす。

 

「カルタ!」

 

「げほっ、ガエ、リオ……?何故貴方までここに?」

 

「俺がいること知らなかったのか……」

 

マクギリスとアグニカしか目に入っていなかったらしい。

苦笑するガエリオ。

それを見つめるマクギリス。

 

対してアグニカは、カルタ・イシューの持つ才能に目をつけた。

 

(磨けば光る)

 

地獄の業火で炙り、悪魔の金槌で叩いて精錬すれば、きっと業物の刀となるだろう。

そんな原石の匂いを嗅ぎ付けたのだ。

 

「ナギサ・イシューの子孫」

 

カルタに語りかける。

カルタは刃のように鋭い眼光で睨みつけた。

 

「お前は……!?」

 

「俺はアグニカ・カイエル」

 

「はっ!?アグニカ……!?」

 

カルタは信じられないという表情。

しかし、マクギリスが以前言っていた、「アグニカについてどう思うか」という問い掛けが、このアグニカを名乗る魔王に起因していると素早く気付いた。

 

「マクギリス……こいつは、何者なの!?」

 

説明を求めるカルタ。

マクギリスはニコリと笑う。

 

「それは君が判断するんだ、カルタ」

 

アグニカを英雄と見るか、悪魔と見るか。

それは個々の判断に任せると言う。

その方が、ずっと厄祭戦らしいからだ。

 

「それよりマクギリス、イズナリオに追加情報を送っとけ。

俺が予想する敵の攻撃とその対策案だ」

 

「どのような?」

 

マクギリスが目を輝かせる。

ガエリオとカルタは、未だにアグニカを本物とは信じられないものの、マクギリスとの会話を黙って聞く。

 

「モビルアーマーの進路を三つに分ける。

『最短ルート』

『包囲ルート』

『迂回ルート』だ」

 

カンザスシティから出発すると仮定して、そこからモビルアーマーが進むであろう経路を予想する。

 

『最短ルート』は文字通り、最も早く人口密集地に迫る移動経路で、多くの場合は真っ直ぐ進んでくる。

 

ルキフグスの根城であるカンザスシティ、元エリオン家総本山の地点から、SAU首都ニューヨークと、アーブラウ首都エドモントンを直線で結んだルートだ。

 

SAU側を見ると、ニューヨークとワシントンへ、比較的整った高速道路。

 

通称『食肉の道』を通ってくるはず。

エリオン家が整備している高速道路で、SAUを横断し、食料を迅速に運ぶトラック群が名物となっていた。

通りにくい山岳部よりも、亀裂が入っているとはいえ、整えられた高速道路を辿ってくるはず。

特に小さなプルーマ達は、この道の方が通りやすいはずだ。

 

その侵攻経路上で、最初にある大きな町が『セントルイス』。

 

「防衛戦で押さえるべきは、

『山』と『川』だ」

 

上から見下ろせる山頂、敵の進行を止める川、崖。

これらの地形があれば、たとえモビルアーマーが相手だろうと有利を取れる。

 

「地形よりデカイ奴は『滅多に』いない。地形条件は防御側であるこっちに有利に働く」

 

地図を見るアグニカと、セブンスターズの若き三名。

そこで目をつけた地形が『河』だ。

 

「ミシシッピ川が丁度良く進行を止めてくれるな」

 

ミシシッピ川はカンザスシティを中心に半円を描くように流れており、モビルアーマーの進撃を包囲しながら阻止できる、絶好の立地条件だ。

 

「ミシシッピ川に沿うように、防壁を築く」

 

川に阻まれて動きが鈍ったモビルアーマー達を狙い撃つ。

なにより川という存在がありがたいのは、『水』の持つ性質が関係している。

 

「ビームは水中だと威力が半減する。

水のカーテンで威力を減らしてくれれば、防壁へのダメージも減らせる。

ビームが拡散じゃなくて衰退する所がいい」

 

ナノラミネートアーマーを持つモビルスーツに、ビーム兵器は効かない。

しかし、コーティングされていない銃火器や設備、モビルワーカー、そして後方の町などには効果がある。

そしてナノラミネートアーマーはビームを消し去るのではなく、拡散して威力を殺す。

そのため、拡散したビームが味方の武器や後方の町に流れていってしまう。

厄介な代物だった。

 

それを、川という天然のビーム防壁ならば、分散せずに威力を減らしてくれる。

素敵な地形条件であった。

 

「こっちは動かないから、位置を変えながら射撃する必要はほとんど無い。命中率は

高いはずだ」

 

阿頼耶識の高速照準が無くても、しっかりとした事前準備、つまり地形データの調査による観測射撃なら、動き回るモビルアーマーやプルーマ相手にも高い命中率を保てるはず。

 

「いやまて、河の防衛線よりも前に、セントルイスがあるぞ。町を見捨てるのか」

 

市民が全員避難したとはいえ、町をまるまる一つ戦場に選んだとなっては、批判は免れない。

 

「町はまるごと転送して、この地域は『塹壕』にする」

 

「転送……?」

 

「塹壕……?」

 

「この防衛戦は、いずれ来る『反撃』のための第一歩だ。

ルキフグスの居る城を攻め落とすためでもある。

なら『功城戦』の性質も持ち合わせておくべきだ」

 

『塹壕』とは要するに、地面に穴を掘って、その穴に隠れて敵の攻撃を凌ぎつつ、さらに穴を掘って前に進み、敵城に近づいていくという戦い方に使われるものだ。

 

だが『塹壕』には、攻撃だけでなく、防御にも役立つ魅力が溢れている。

平地を走る側からすれば、長い地面の穴からひょっこり顔を出す敵兵は、身を乗り出す面積が最小限でいいので被弾面積が少ない。撃たれる部位が少ないという安心感がある。

さらに、長い穴のどこから出てくるか分からないため、不意を突きやすい。

さらに、ジグザグに掘られた穴はお互いの死角を埋め、互いに援護射撃が出来るように経路を作られている。

 

敵の意識と戦力を散らし、こちらの攻撃は集中させやすい。

正に理想的な防御陣地なのである。

 

 

『モビルスーツ用の塹壕』を作るとなれば、先ずモビルスーツの頭頂高20メートル以上は深さが必要で、その足元は重量30トンはあるモビルスーツが歩くのに耐えられる地盤か敷板で補強が必要だ。

 

だがそんなものを作るために、どれだけの費用と時間が必要だろうか?

 

仮に10キロメートルの長さの塹壕を作るとして、費用は数百億以上かかるだろう。

それも半年以上はかかる。

 

況してや、コロニー落としでどこもかしこも混乱状態。

塹壕など作る余裕はどこにもない。

 

 

「だからこその『転送装置』」

 

アグニカは狂気を滲ませて言い放つ。

 

「そこにある『土』だけを転送し、穴を開けるんだ」

 

シャベルで土を掘り返すように、決められた空間に存在する土を転送。

塹壕を掘ったという結果だけを作り出す。

正に神の見えざる手である。

 

「転送装置の素晴らしい所は、『掘る』と『盛る』を同時に出来ることだな」

 

転送した土を、土嚢のように積み上げることも可能だ。

二つの作業を同時に、一瞬で終わらせられる。

何より、穴を掘る場合、先ずは土を掘って捨て、穴の断面が崩れないように馴らし、形を整えなければならず、手間がかかる。

 

しかし、転送装置はケーキを切り分けるかのように鋭敏に、正確に土を取り上げられるため、その手間が省ける。

 

「『塹壕』と『山』を軽く作れる。地形条件をお手軽に変えることが出来る。

革命だな、これは」

 

軍事的な準備をするために、莫大な資金と時間が必要だった時代は終わる。

手軽に防衛線が引ける時代が訪れたのだ。

 

「『最短ルート』の課題は、いかに相手の突撃を止めるかにある。

モビルアーマーの衝突力は尋常じゃない。鉄の塊が限界設定無しで突っ込んでくるからな。

そこにビームによる砲撃まで加わったら厄介だ」

 

ガエリオ、カルタも無言で聞き入っている。

 

「先ず大前提として、『最短ルート』防衛は『後退しながら』行うことにする」

 

「なに?退くというのか!?」

 

ガエリオが意義を唱える。

 

「防衛線を固定して死守するには戦力が足りない。

一つの場所に捕らわれて戦力を過剰投入すれば、被害が上乗せされて壊滅する。

防衛線は使い捨てと思ってくれ。いかに一つ一つの防衛線で敵の戦力を削げるかに注力するんだ」

 

勝てる条件でしか勝負しない。

モビルアーマーの強力な武装を前に、立ち止まったら狩られていくだけだ。

 

「一つの防衛線や拠点を取られても、少し戦線を下げて部隊を再編成して防衛線を張り直す。死ぬまでそこで戦うなんてのは論外だ。運動戦ではないが、止まることも許されない」

 

モビルアーマーの侵攻に合わせて、後ろに下がりながら、敵の戦力を削ぐ。

 

「厄祭戦ではよくあった。

こっちが守らなきゃいけない重要な場所に攻撃してきて、戦力を次々投入させられて、出血を強要される。

疲弊させて体力を奪う、吸血鬼みたいな戦い方。兵のすり潰し合いには付き合うな。そんな余裕はない」

 

後ろに下がりながらの戦いになるため、一つ一つの防衛線の距離を開けておく必要がある。

つまり、距離が必要になってくる。

後ろに長く、厚みを持った陣地。

 

「ミシシッピ川の防衛線を本命としつつ、それより前方でいくつも仮の防衛線を引く。それらから攻撃し、下がりつつ戦う」

 

仮の防衛線での防御力と攻撃力を高めるための『塹壕』である。

 

「モビルアーマーの初撃は、間違いなく防衛線を突き破る『体当たり』と『ビーム砲』だ。

『体当たり』の衝撃力に対しては、分厚い壁を用意したいな」

 

城壁を用意する。

ビームも体当たりも止められる頑丈な、『ナノラミネートアーマー』で防御力を高めた防壁。

それをミシシッピ川の本命の防壁線に用意する。

 

「そして『塹壕』にはプルーマの前進を止める「鉄条網」と大穴。

武装は固定砲台や機関銃みたいな高火力の射撃武器を組み合わせたい」

 

マクギリスが口を挟む。

 

「では、この戦闘は『射撃戦』がメインになると?」

 

「そうだ」

 

モビルアーマーに対して近接戦闘を挑めるほどの実力者が少ない。

それに今回はモビルアーマーの数と密度が高いため、接近すれば津波のような物量に呑み込まれてしまうだろう。

 

「厄祭戦の初期ですね」

 

マクギリスが熱を帯びたように笑う。

 

「ああ、奴ら、本気で厄祭戦を模倣する気らしい」

 

モビルアーマーに対して遠距離からひたすら射撃を繰り広げていた、厄祭戦初期。

それを今回に当て嵌めるのだ。

 

「防御陣地を構成し、射撃武器で各個撃破……!」

 

マクギリスはこの陣営の方針を理解した。

 

「敵が馬鹿正直に、真っ直ぐ突っ込んでくるだけなのか?回り込まれたらどうする」

 

ガエリオは地図を広く見つめた。

どんなに頑丈な防御戦も、回り込まれたら御仕舞いである。

 

「それが『包囲ルート』だな。

防衛陣地に正面突撃を避けて、少し回り道をしつつ、こっちを囲い込む動き」

 

『最短ルート』が正面衝突なら、『包囲ルート』は包囲撃滅の動き。

 

要塞の弱点といえば、やはり『その場から動くことが出来ない』という当たり前のことで、敵がその場所を迂回した場合、無用の長物と化してしまう危険もある。

 

「『包囲ルート』の対策として、こちらも防衛線を横に伸ばす。

地図上では、左右に腕を広げるように見える。さながら、鳥が羽を広げる求愛行動だ」

 

延翼競争と呼ばれる、一種の意地の張り合い。

回りこまれないようにこちらも防衛線を伸ばし、相手もそれを回り込むためにさらに横に走り……と徒競走のようなことになり、戦線が延びていく現象。

 

「横にずっと広がるのは無理だ。戦力が足りない。

そこで円状に取り囲む。攻撃に転用するってのは覚えてるな?包囲を維持しつつ、振り分ける戦力は最小限、なおかつ援護射撃が容易な円の防衛陣地だ」

 

ミシシッピ川がカンザスシティを半円状に囲んでいるのは好都合だ。

この川の通りに防衛線を引けば、延翼競争に無駄な力を割かなくて済む。

 

「転送装置の素晴らしき利点……

それは、一度作った要塞を、まるまる別の場所に移動できる点だ」

 

どれだけ設備や武装が充実した要塞も、そこに敵が攻めてこなければ無意味だ。

だが『転送装置』の力があれば、要塞そのものを移動できる。

マクギリスは天恵を得た信徒のように、晴れやかな表情となる。

 

「要塞を一つのユニットとして使える!!」

 

「その通り」

 

要塞とモビルスーツが肩を並べて進撃する時代が訪れた。

 

確かにこれは、『軍事における革命』だ。

 

「ま、百聞は一見にしかずだ。

一旦現地を見て考えよう」

 

そう言うや否や、アグニカはこの場にいる全員を転送し、SAUのセントルイスへと移動した。

 

 

空気が変わった。

焦げた匂いと、雨上がりの湿気た温度。

一面が灰色の、瓦礫と残骸ばかりの町。

 

セントルイスの前にやってきた。

 

オルガやビスケットは、流石に転送装置に慣れてきたのか、あまり驚いた様子はない。

しかしカルタ・イシューとガエリオ・ボードウィンの動揺は激しかった。

 

直視した死と破壊の痕。

炭化した遺体、崩れた建物。

 

それらを見て、ただ呆然とする二人。

 

この戦争がもたらす影響というのを、肌を通じて味わったのだ。

被害地の空気。

それは、コクピット内やブリッジの中に居ては知りようもなかったこと。

 

目を見開くガエリオとカルタ。

その胸の内に沸き立つのは……

 

 

純粋な怒りだった。

 

 

 

アグニカは手を前にかざす。

 

ズン、と大きな衝撃。地響きと共に、眼前の広大な土地に、いくつもの穴が開いた。

 

そこにある『土』を転送し、『塹壕』を作り上げているのだ。

その速度は凄まじく、まるで巨大な土竜が掘り進むかのように塹壕を形成していく。

 

「う、うおおお……」

 

オルガやビスケットは、目の前の超常現象を固唾を飲んで見守る。

 

転送された『土』や『岩』は、ミシシッピ川の反対側に盛られていく。

首を右から左に向けて見渡せる範囲に、『塹壕』と『土壁』が形成された。

 

およそ50キロメートル先まで、モビルスーツが移動可能な塹壕が、ジグザクに掘り進められていく。

 

正に神の奇跡だ。

 

「ハハハハハハッ!!!

まあ軽くこんなもんかな!!」

 

アグニカは御満悦という様子で、高らかに笑う。

 

「す……すげぇ」

 

この場にいる全員が、ただ驚くことしかできなかった。

 

「素 晴 ら し い」

 

マクギリスは感極まって白眼を剥いていた。

 

「じゃ、じゃあ後は、ギャラルホルンを転送してくれば完成ってこと?」

 

ビスケットが質問する。

これほどまでの過度な情報の中で、その先を思考できるビスケットは、ある意味でガエリオやカルタすらも越えていた。

 

「いや、ギャラルホルンはまだ、『転送装置』を受け入れてない」

 

『転送装置』はコロニー落としに使われた禁忌の魔術だ。

ギャラルホルンの全兵士が受け入れるには、時間がかかるだろう。

よって、ギャラルホルンを転送すると、反感と混乱を呼び起こしてしまう。

 

「ではどうすれば……」

 

マクギリスはアグニカを見る。

三日後にモビルアーマーが攻めてくるのは確定なのだ。

しかし転送装置が無ければ、三日以内に防衛線まで全軍を送ることなど不可能。

 

不可能を可能にする手段があるのだろうか。

 

アグニカは振り返り、チクタクを見る。

 

「お前は言ったよな」

 

「……?」

 

「『転送装置』は、『刻を操る』ことと同義だって」

 

「ええ、言いました」

 

「それで閃いたんだが……」

 

アグニカは自身の思う『答え』を語る。

 

 

「『体感時間』を操って、『転送されたことに気づかせない』なら、三日で配備可能なんだ」

 

全員が押し黙る。

アグニカは狂気の笑顔を浮かべる。

 

「俺の声には、どうやら人の意識に作用する効果があるらしいんだ。

それを上手く使えば、『数ヶ月経過した』と思わせて、一日でここまで転送できるんじゃないかな」

 

「お前、頭、おかしいんじゃないか?」

 

ガエリオがこめかみをトントンと叩く。

 

アグニカのニュータイプとしての力。

魂に語りかける力を応用して、体感時間を操作する。

 

それによって、転送による混乱を抑制できる!!!

 

「失敗すれば、恐ろしいほどの混乱が全軍に蔓延しますよ」

 

マクギリスの指摘は尤もだ。

自分の思う日付と、時計が示す日付が違うのだ。

一種の怪奇現象。

ホラー映画だ。

 

「ならそのカレンダーと時報を操ればいいじゃねえか」

 

標準時間さえ操ってしまえば、労働時間さえ操れるというのだ。

この魔王は。

 

「そんなことが……」

 

「できる!!!!

世界が混乱し、正確な情報が少なくなった今だからこそ出来る!!!

普通なら絶対に無理だ!!だが!!

世界のテーマが『混乱』である今なら!!今なら出来る!!!

今しかないんだ!!!!」

 

 

アグニカは確信した。

『転送装置』の力があれば、地球の全戦力をルキフグス討伐に当てられる!!!!

 

 

「三日で防衛線を完成させるぞ!!!!」

 

 

『地獄の門』開門まで

 

残り60時間

 




戦闘シーンが1ミリもねーじゃねーかッ!!!
どうなってんだクソ!!クソがぁ!!クソッ!!クソオオオオ!!!!(ガンガンガン)

なんだこの権謀術数の暗躍祭りとチート巡りの旅はぁ……ホントにガンダム作品かぁこれぇ……(錯乱)

戦闘シーンが無さすぎて戦闘シーンメインの鬼滅の刃二次創作に浮気したりしたけど私は一途です。
バエル一筋。

今回から取り入れた残り時間表記。
『24』というよりは『Fate/Zero』が近いですね。
時間を表したいなら時間と分だけで良くない?秒までいらないよね?雰囲気出したいだけ?と自問した結果、秒数は『エンジェルナンバー』にすることにしました。
そのシーンに登場するキャラクター達にエールを送る、意味を持った数字。

ここでは希望や応援メッセージのみを含ませました。
不吉な未来の暗示や死の警告は、バエルゼロズの作中に飽和してるからね!

早速紹介していきましょう!

『45』 モーガン
意味は『一度感情を静めて、変えるべきところを変えて。それは貴方に新たな発見をもたらすでしょう』

『700』 ソロモン
『貴方は宇宙の真理とがっちり繋がっています。進むべき道を力強く歩んでいって』

『99999』 マステマ
『さあ使命に取り掛かって。さあ使命に取り掛かって。さあ使命に取り掛かって』

『0』 エイハブ 
『どうか原点を思い出して。全ての始まりは貴方』

『26』 ソロモン(全裸)
『ポジティブな言葉や、力を得られる言葉を口にしよう。それだけで活力が湧いてきます』

『534』 アグニカ
『貴方の人生が良くなるための変化を皆が望んでいます。どんどん周りを巻き込んで、変えていってください』

『608』 蒔苗
『お金が足りなくなるかもしれません。しかし、貴方の人生に不足はなく、望むものは全て与えられるでしょう』

『72』 クーデリア
『正しい道にいます。貴方の思想は愛の極致。光輝く勝者となるでしょう』

『63』 アンリ・フリュウ
『抱える問題を他者に頼って、一緒になって解決しましょう』

『666』 イズナリオ
『物質、名誉への執着に囚われすぎています。それらを手放し、天に委ねましょう』

『08』 マクギリス
『変化はあなたをより良くするでしょう。因果は回ってきます。でもそれは悪いものではない』

『16』 ガエリオ
『物質的なものにも肯定的になって。それは貴方を前に進めてくれます』

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