「あんたねぇ…いつまでそこでぐうたらしてるのよ」
放課後の鍛錬を終えて戻ってきたら鷹人は毎度の様にリビングでテレビをつけながらごろ寝している。お前はどこの休日のおっさんだ。
オリエンテーションから数日が経過した。1年生は代表選抜に出場する人数は減ったものの、来週から行われる試合に向けて各々準備をしている。また、出場できなかった者はこの学園から早速去る者、理不尽な扱いに不貞腐れる者、楽観的に納得する者、来年はこの学校が存続しているか分からないのに来年に向けて腕を磨く者と多く分かれた。
「んー…暇っ」
「暇なんならあんたも一緒に鍛錬に付き合いなさいよ」
いくら試合は来週から始まるからと言ってもここまでぐうたらしてたら流石の私でも放っておけない。
「虎はなんで強いと思う?もともと強いからよ。虎や狼が日々鍛錬するか?」
「その態度でそんな台詞言っても誰も納得しないわよ」
というか前田慶次に謝れ。悔しいが鷹人の実力は私以外にあるのは確かだ。ふざけている割には思った以上の実力を持つっていうのは相当厄介だ。けれども、同じルームメイトなのだから少しはしゃんとしてほしい。
「朱音殿の言う通りでござるよー。そんなにぐうたらしてると太るでござる」
「あんたどっから入ってきた!?」
どこからともなく当たり前かのように梅軒が割り込んできた。神出鬼没でいつの間にいたのか、毎度毎度驚かされるのは本当に勘弁してほしい。そんな梅軒はにこやかに笑って窓の方を指さす。
「ベランダでスタンバっていたござる。あ、窓はピッキングで開け申した」
「物騒すぎるわよあんた!?」
「まあまあ、梅軒よくきたな。ポテチしかねえがゆっくり寛いでくれや」
「私の部屋でもあるのだけど」
梅軒まで来るともうバカ二人の収拾がつかなくなる。もうやだこいつら。そこから小一時間ほど話で盛り上がっていた。お前らは本当に日曜日のおっさんか。
「それで、梅軒。俺達になんか用事があってきたんだろ?」
「うむ、今週の休は暇でござるか?暇でござったら拙者達と一緒にショッピングモールへ出掛けようと思って誘いに来たでござる」
珍しい。梅軒が私達にそんなお誘いをしてくるとは思いもしなかった。友好関係を築いていくつもりなのだろうか。
「拙者のルームメイトが美味しいパフェの店を見つけたから行こうと一点張りで…拙者だけじゃ少し心許ないと思ったのでござるよ」
「うん、見るからに心許なさすぎでしょ」
兜を付けたまま外出するのはいろいろと問題があるのは当然だ。というよりもよくこの見るからに怪しい奴を誘えるなと思う。
「仕方ないわね、行ってあげるわよ。ちょうど休日は買い物に出かけようと思ってたところなの」
「「下着を買いに?」」
「ちゃうわ‼」
どうしてそうすぐに下着につなげるのだろうかこの変態共は。
「まあ休日をゴロゴロ寝過ごすのもなんだかと思ってたところだし、俺も行ってやるよ」
「かたじけない!お二方のご協力に感謝いたすでござる。集合時間や場所は後程お知らせいたす。ではっ‼」
梅軒は一礼すると颯爽とベランダから降りていった。毎度毎度思うのだが玄関から帰ってほしい。さて、休日に外出するということになればそれなりの支度を事前にしておかなければならない。
「まあまだ日にちもあるしゆっくり支度をしましょうか。で、あんたはいつまでぐうたらするつもりなの?」
「晩飯ができるまで」
「少しは動け!」
再び寝転がろうとする鷹人を蹴とばして起こさせる。決めた、こいつのぐうたらを私が叩き直してやることにしよう。そしてその後めちゃくちゃ料理を手伝わした。
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「ひとつ言っていいかしら?」
「あ?どうした?ちゃんとお前の言うように身嗜みはしっかりしてるぜ?」
「違う。なんなのよそのTシャツは」
待ち合わせ場所である駅前で私は鷹人をジト目で睨む。朝早く叩き起こして身嗜みを整えさせたのはいいが、こいつが着ているTシャツに【世紀末覇者】とロゴがでかでかと書かれていた。
「そんなに見つめるなって、照れちまうぜー」
「まともなのはなかったの‥‥」
どうしてそれをチョイスしてきたのか…もう不安でいっぱいである。
「お待たせでござるー‼」
そしてもう一人の問題児である梅軒の声が聞こえてきた。果たしてちゃんとした格好で来ているのだろうかと心配だったが‥‥やっぱりダメだったよ。梅軒は西洋騎士の兜をつけてはいなかったが、鳩のマスクをつけて顔を隠していた。
「今回はお出かけ用のマスクをつけてきたでござる」
「梅軒…あんたマスクを取るという選択肢はなかったの?」
「やだなー、こういうのが拙者の個性でござるよー」
そんな個性はいらん。通りかかる人の視線が痛すぎる、もう早く明日が来てくれ…
「ところで、お前のルームメイトは?」
「ほら拙者のすぐ隣にいるでござるよ」
梅軒はすぐ隣で他人のフリをしてた桃色の長い髪に大きな赤いリボンをつけた少女を指さした。少女は明後日の方向を向いていたが梅軒の声を聞いてすぐにこちらに振り向いてにっこりと笑った。
「どもー♪初めましてかなー?」
一瞬お淑やかかと思いきやこの子も梅軒と同じように一味違うのだろうと色々と察してしまった。私は引きつった笑顔で返す。
「私は梅軒とルームメイトをしてるアスカ・ガーネットっていうの。よろしくー」
「よ、よろしく…」
私の周りはどうしてこうも個性があり過ぎる人ばかりなのだろうかと遠い眼差しをしてアスカと握手を交わす。あのオリエンテーションで森に焦げた道を作ったところによれば彼女は恐らく炎系の固有霊装なのだろう。そんな事を考えている私をよそに鷹人と梅軒はマジマジとアスカを見つめていた。
「ほほう…黒のガーターストッキングとかいいですなぁ、梅軒さん」
「同志よ、わかってらっしゃるでござるなぁ」
「そんなに見てたら目つぶししちゃおっかなー?」
「もうしてるがな!?」
アスカはニコニコしながら鷹人と梅軒に目つぶしをお見舞いする。のたうち回る鷹人と梅軒をクスクスと笑いながら見下ろしていた。彼女もそうとうな個性を持っているようだ。うん、今日はさっさとショッピングモールへ行ってパフェ食べて買い物してさっさと帰ろう。
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「へー、朱音さんも変わったルームメイトで大変だったんだー」
「もう大変よ…隙あらば何かしでかすんだから」
アスカと私はお互いのルームメイトの話をしながら店内を進む。アスカとはすっかり馴染めて安心した。ショッピングモールでは鷹人は普通の学生の様にはしゃでいた。何かやらかすんじゃないかと心配だったが杞憂のようだった。アスカが行きたがっていたパフェの店では鷹人が注文したパフェを食べて「うますぎる‼」と何処かの傭兵みたいな声を出したのは驚いたが…
「梅軒なんか初めてでった時は私の足下からあいさつしてきたから驚いたわよ。勿論踏んづけてやったけど」
「アスカの所も相当ね…」
私は先に歩いて談笑している鷹人と梅軒をジト目で見据える。お互い変なルームメイトを持って大変だなとため息をついていると鷹人がこちらへ振り向く。
「なあ朱音、次は何処へ行くんだ?」
「服を買うのよ。ほら、すぐあそこにあるあの店で」
私はお手頃価格の全国展開している服屋である。鷹人と梅軒はその店を見てははーんと頷く。
「やっぱり下着を買うんじゃないか。黒でお願いします」
「だから買わないわよ‼」
「違うでござるよ鷹人殿、服を買うついでに勝負下着を…」
「だから買わないつってんだろ!」
「ええっ?じゃあ朱音さんははいてないの?」
「なんでそうなるの!?」
もうやだこいつら、悪乗りしすぎ。私はプンスカしながら洋服を選ぶ。運動用のウインドブレーカーと春物の洋服を買いに来たというのになんでこんなに疲れなきゃいけないのかと愚痴をこぼしながら良さそうな服を取って試着室へと向かう。
「願わくば、あいつらと試合でぶつかりたくないわね…」
鷹人の実力はかなりのものであるし梅軒とアスカの能力やらも未知数であるという事と、彼らのノリについてこれるかどうかという不安でいっぱいである。まあ代表選抜は2年や3年も混じった組み合わせになる。彼らとぶつかる確率は低いだろう。一先ず気を取り直して試着しようと上着を脱ごうとした時、アスカがクスクスと笑いながら試着室に入ってきた。
「ちょ、あ、アスカ!?何で入って来たの!?」
「いいじゃん、女の子同士だし♪それに第三者の意見を聞くのもいいわよー♪」
アスカはそう言いながら持ってきた洋服を私に渡す。まああの変態共じゃないし、問題は無いのでそのまま進めることにした。
「朱音はこっちの方が可愛いと思うなー…そういえば朱音って破軍学園と間違えてついうっかりこっちに入っちゃったのよね?」
「ま、まあね…正直私のミスよ」
「うけるー♪」
アスカはプギャーと笑う。わたしのうっかりで廃校寸前の学園に入る羽目になったのだから返す言葉がない。私はピキピキしながら笑顔で返す。
「でも、なんで破軍学園に入ろうと思ったの?」
「破軍学園にはどうしても会いたい、手合せしたい人がいたの。結局は七星剣舞祭に持ち越しになっちゃったけどね」
「なるほどー、私とちょっと似てるわね」
似てる?それはどういう事なのだろうか、アスカも破軍学園に入りたかったのだろうか。先ほどまで天真爛漫だった様子が一変して落ち着いた表情になっていたアスカが気になった。
「私もね、本当は破軍学園に入りたかったの。でも…ぶっ潰したい人がそっちに入るって聞いて気にくわなかったから敢えてこっちに入ったわけ。それに七星剣舞祭で優勝したら校長が何でも願いを叶えるみたいだし一石二鳥でしょ」
ただ気にくわないからという理由で学園を変えるなんてもったいないとは思ったが、アスカの声のトーンや表情でかなり深い理由があるに違いない。私はその理由を聞こうとして声を掛けようとした。しかし、それを遮るかのように試着室に鷹人と梅軒がどかどかと入ってきた。
「ちょ!?なんであんた達も入って来るのよ!?」
「ちょっと!?流石にそういうのは私も怒るわよ!?」
アスカも顔を赤くして怒ってる所から常識人であったことに内心喜んだ。二人でいきなり入ってきた変態共を蹴とばそうとしたが鷹人が静かにと指で合図してきた。
「気配を消せ…!面倒くさい事になった」
それはどういうことか文句を言おうとしたが、耳をすませば遠くで銃声や悲鳴が響いてきた。
「銃声…!?」
「どうやら只のドッキリではなさそうでござるな」
梅軒も警戒しているようでこれはただ事ではなさそうだ。銃声と悲鳴が通りすぎるまで潜み、やっと静かになって鷹人と梅軒が先に出て安全を確認した。どうやら通り過ぎたようで、恐る恐る試着室から出て店内の様子を伺うとガラスは派手に割れ、展示している服はズタボロに、あちこちに空薬莢が落ちていたりと酷い有様になっていた。
「おいおい、日中からドンパチ騒ぎなんて正気の沙汰でじゃねえな」
「もー、折角のショッピングが台無しね」
「とりあえず、状況を確認するのが先だわ」
「どうやらテロリストがこのショッピングモールをジャックしたようでござる。ネットやニュースではもう大騒ぎになってるでござるよ」
折角の休日だというのに、なんて面倒な事をしてくれたのだろうか。考えられるのは『解放軍』とかいう世界的有名な犯罪組織だろう。こんな所じゃなくてもっと襲撃するところがあるはずなのだが、何を考えてここを襲撃したのか…そう愚痴ながら私はデバイスでリハク校長に電話をする。
「もしもし、リハク校長?私です、黒鉄朱音です」
『あ、黒鉄さん!?今テレビみてますか!なんかヤバイ事が起きてるみたいですね!いやー、実は私、お買い物にそこへ出かけようと思ってたんですが寝坊してよかった‼』
「‥‥私の他に鷹人、梅軒、アスカの3名もそのショッピングモールにいます。一先ず事態を収拾するために霊装の使用の許可を」
『勿論ですとも!実像形態の使用も許可します。遠慮なく振る舞ってください。黒鉄さん、皆さんで力を合わせてテロリストを倒し、捕らわれた市民の救助をお願いします!』
リハク校長は物凄く熱心に応援してきた。物凄く頼りない校長でも正義には熱いのだろうかと少し感心した。
『ここで活躍すれば他の学園よりも死兆学園が優れているとアピールできるのでよろしくお願いしますぞ‼』
だろうと思った。
アスカ・ガーネットのモデルはブレイブソード×ブレイズソウルよりアンティオキアちゃん。ガーターストッキングも魅力的だけども、お声と容姿が合わさりキュートでせくしー。お気に入りです、はい