ホウエンチャンプは世界を超える   作:惟神

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中古で安く買ったポケモンSMやってたらふと思い浮かんだネタを晒してみる。

5/31、サブタイトルを変更しました。
6/17、誤字修正しました。
10/25、主人公の一人称で誤っていた部分があったため、修正しました。
11/26、持ち物を拘りスカーフ→拘りハチマキに修正しました。



世界を渡るフロンティア
大誤算、空から隕石が!?


バトルフロンティア。

それは全てのバッジを得たトレーナー達の中でもごく一部、もはや普通のバトルでは満足出来ないポケモンバトルの修羅達が行き着く最果ての地。

バトルを愛するトレーナー達の楽園。

そして、7種ある施設の中でも最難関を誇る塔――バトルタワー。

 

倒した対戦相手を見下ろして、ゆっくりと息を吐く。

次の対戦相手はタワータイクーンだ。

ここまで来れた回数はそれこそ数えられない程にあるが、勝利はその半分に満たない程に少ない。

それが僕を更なるバトルの深みにハマらせるのだが――それは今、関係ない。

 

「おめでとうございます。次の勝負はタワータイクーンとの…………」

 

自身の勝利を讃える声など、最早耳に入りすらしない。

ここまで共に勝ち上がってきた3匹のポケモンがモンスターボール越しにゆっくりと頷いたのを確認し、一呼吸。

堪えきれなくなった獰猛な笑みが顔に浮かぶ。

 

毎回繰り返すルーチンワーク。

今までの連戦の疲労で少なからず鈍った脳内が、途端に活発な活動を始め、ポケモンバトル用に最適化される。

 

ドアを潜った先に――果たして彼女はいた。

 

 

 

「………来たね――ユウキ」

 

 

「ああ――リラ。今度こそ勝たせて貰う」

 

 

 

彼女の名はリラ。

一見男にも見える中性的な顔つきに華奢な体躯。色素の薄い髪や服装がそれに拍車をかけ、吹けば飛ぶような儚さを醸し出す。

 

だが、その外見に決して油断してはならない。

何故なら彼女はバトルタワーの女主人(タワータイクーン)

この修羅地獄を統率する7つの頂点。

その中でも最強を誇る天才である。

 

 

***

 

 

 

「バトルフロンティア……ですか?」

 

 

「うん。今度作られる施設なんだけど、そこでバトルしてみないかな?

なにも無理矢理時間を作れって訳じゃない。暇な時間でいいさ。どうする?」

 

 

ポケモンリーグを制覇して早数ヶ月。

あの頃の僕はどうしようもなく退屈していた。

ホウエンという一地方の頂点(チャンピオン)。1人のトレーナーとして、最初は輝いて見えたその頂きも、至ってしまえばつまらないものでしかない。

 

 

並ぶものなき最強(・・)

敵と呼べる相手もいない無敵(・・)

意欲がなくても、執着が薄くても、戦えば勝てる(・・・・・・)勝ててしまう(・・・・・・)

心の赴くままに行き着いた最果ては、好敵手(ライバル)のいない、ひとりぼっちの空白(チャンピオン)でしかなかった。

 

 

「どうする?って言われても………」

 

 

「そこは、既存のバトルでは満足出来ない強者だけの修羅道(楽園)

そこでなら――チャンピオン、君の心の中にある、どうしようもない飢餓感さえをも埋められる」

 

 

だから、その誘いに心を動かされた。

僕がチャンピオンじゃなく、ただの1トレーナーだった頃から交友を持っていたエニシダさんがそうまで言うのならば、この飢餓感も埋められるのではないか……と。

 

 

***

 

 

バトルフロンティア――それは、バトルを愛する全トレーナーにとっての楽園。

 

エニシダさんの言に対し、正直あんまり期待はしていなかった僕だったが、バトルフロンティアはその予想を遥かに超えて、これまでのバトルを凌駕しうるものだった。

 

 

どんなポケモンを選ぶ?

ポケモンに持たせる道具は?

そのポケモンの特性は?

何を重視して鍛錬した(努力値は?)

ポケモンの才能(個体値)は?

 

 

普通のバトルとは比べ物にならない。

風変わりなルール上で、単純な力押しではなく、深い戦略、優れた育成が必要とされるこのバトルフロンティアのバトルの深みに、僕は溺れてしまった。

 

そしてここでの戦いを重ねるうちに、胸にあった飢餓感も、思えば随分と薄まった。

 

 

バトルファクトリー

バトルチューブ

バトルピラミッド

バトルアリーナ

バトルドーム

バトルパレス

 

 

僕が『挑戦者(チャレンジャー)』として立った久々の舞台。

各施設のブレーンとの戦いは正に激戦で、紙一重の攻防を繰り返し、結果的に僕が勝ったものの、1つ間違えば負けていたという、ギリギリの緊張感が漂うもので――バトルに勝って達成感を感じるのは、果たしていつ以来だっただろうか。

 

 

そして、最後の施設――バトルタワーで。

 

僕は、旅を始めてから初めての敗北を味わった。

 

 

 

***

 

 

 

バトルフロンティアの施設は、各自の課題に合わせたルールが敷かれている。

そしてここ、バトルタワーで問われるものは『才能』。

ルールは1vs1のターン制バトル。

同じポケモン、同じ道具の使用は禁止。

カロスやイッシュなどの儀礼やら騎士道やらを重視する地方を始め、このルールがリーグ戦に正式に使用されている場所は非常に多く、ある意味最も王道的なバトルと言えるだろう。

 

ちなみに、ホウエンリーグが問うのは純粋な『力』。ポケモンや道具の制限、ルールもなにもない、なんでもあり(・・・・・・)の総力戦だ。

他の地方からすれば、ここはキ〇ガイの巣窟らしい。

――――悲しいかな、だからこそより巨大な力(僕達)に圧倒されたんだが。

 

 

「――――それでは、試合開始ィっ!」

 

 

審判の宣言と共に投げ入れられたモンスターボールが光を放ち、中からポケモンが現れる。

僕の出したポケモンはネンドールで、リラのポケモンはライコウ。

ジョウト地方に伝わる伝説の三犬のうち一体なだけあって、種族としての強さは向こうの方が圧倒的に上だが――必ずしも種の強さが勝利を決定づけるわけじゃない。ただちょっと強いだけ(・・・・・・・)のポケモンなら、付け入る隙はいくらでもある。

それに、ライコウの覚える技の範囲は酷く限定的だ。過信は禁物ではあるものの、相手の攻撃技は今までの経験から10万ボルトしか覚えていない。地面・エスパーの複合タイプであるネンドールには通じない。

 

対峙するリラの表情が微妙に歪むのを確認する。バトル中はポーカーフェイスで通している彼女の変化を察せるようになったのは、果たして何時からだろうか。

思考の片隅でそんな事を考えて――忘却。そんなことよりも今はバトルだ。

 

 

「じしん!」

「リフレクター!」

 

 

ほぼ同時に発された指示。

だが素早さの差によってライコウが先に行動。リフレクターを貼られ、じしんの威力が大幅に減少しために一撃で沈められなかったが――想定の範囲内だ。

元よりリラのエースであるライコウをワンキル出来るなどとは欠片も思っちゃいない。

 

 

「戻れライコウ。

行って、カビゴン」

 

 

リフレクターを貼った以上はもう引っ込めるべきだと判断したのだろう。リラが繰り出したポケモンはカビゴンだ。

一見ふゆうを有しじめん技を無効にするラティオスが最適に見えるが、それは読まれていて、かくとうタイプのポケモンは出さないとも思ったのだろう。

単純にシャドーボールによってネンドールの弱点も付けるし。

 

薄らと笑みが浮かんだ。

――――そんな読みに付き合う義理などどこにもない。

 

 

「バシャーモ!」

 

 

ネンドールを引っ込め、繰り出したのはオダマキ博士から貰ったアチャモから進化したポケモン、バシャーモだ。共に伝説を踏破した僕の旅の相棒である。

そして、このリフレクターが邪魔くさい現状でやることは決まっている。

 

 

「リフレクターを破壊しろ!」

 

 

そして放たれたかわらわりがリフレクターを砕き、カビゴンにダメージを与える。こうかはばつぐんで、その上カビゴンの防御力自体はあまり高くはない――だが、その程度で耐久オバケ(カビゴン)を倒せるならば苦労しない。

 

案の定攻撃を耐えたカビゴンはのろいを使う。ゴーストタイプではないため、素早さが下がり、攻撃と防御が一段階上昇する。まだ何とかなる範囲だが、これ以上積まれると手が付けられなくなる。

 

故に狙うべきは速攻。

 

 

「スカイアッパーだ!」

 

 

リフレクターの消えたカビゴンの土手っ腹へとスカイアッパーが直撃し、その巨体を天高く打ち上げる。純粋な格闘能力に加えて手首より噴出した炎によるジェット加速は、彼我の質量差を鼻で笑って超越した。

 

純粋な物理ダメージに加え落下ダメージ。墜落したあたりに土煙が立ち上り、相手の姿を包みこむ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「――――――やったか!!?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

口にした僕を誰が責められようか。

そんな僕を見て、リラは不敵に笑って指示を出した(・・・・・・)

 

 

 

「それはフラグだよ。

――――カビゴン、ねむる」

 

 

「ああ………失敗したな」

 

 

 

カビゴンは眠って体力を回復し、さらにカゴのみによって眠気を覚ます。

ただでさえ耐久に優れたカビゴンにねむる+カゴのみは正に鬼に金棒と言ったところか。父さんのガチパやここでのバトルで幾度となく戦ったが、毎回酷く苦戦している難敵だ。

舌打ちしたくなるのを堪え、バシャーモへと指示を出す。

 

 

「もう一度!」

 

 

メトロノームがテンポを刻む。

他の地方へ旅行しに行った時にデザインが気に入って買ったものだが、ポケモン用の道具だと気付いたのはそれから半年過ぎてからだった。

 

瞬間的に吹き荒れる炎のブーストが速度を底上げし、強化されたスカイアッパーがカビゴンを打ち上げる。

こうかはばつぐん――――だが、瀕死までは程遠い。

 

 

「カビゴン、のろい!」

 

 

また一段階積まれた。

攻防が2段階上昇している状態。デメリットである素早さの2段階下落など、元からあまり素早くはないカビゴンにとって機能していないも同然だ。

 

 

 

「これ以上は手が付けられなくなる!

ここで決めろ!スカイアッパァァァァ!!」

 

 

 

さらに炎は勢いを増す。並のポケモンでは余波だけでも瀕死に陥るだろう炎を存分に活用して威力を底上げしたスカイアッパーが直撃し――――

 

 

 

「――――おんがえし!!」

 

 

 

それをギリギリで耐えきったカビゴンが、トレーナーへの絶対的な信頼に基づいた、最大威力のおんがえしを発動する。

炎・格闘の複合タイプであるバシャーモにノーマル技は等倍だが、2段階上昇した攻撃でタイプ一致技。元々バシャーモは耐久には優れていない。結果は――――。

 

 

――――凍りついたように止まったフィールドの中、じれったくなるほどにゆっくりと2匹が倒れていく。

 

 

 

「――カビゴン、バシャーモ、戦闘不能!!」

 

 

 

静寂に包まれたフィールドの中で、審判の声が響き渡る。

ふぅ、といつの間にか止まっていた、息を吐いて、バシャーモをボールに戻した。

――これで手持ちはお互いに2匹。だが、ライコウは初っ端のじしんによるダメージがある。尤も、ねむる+ラムのみで回復される可能性は高いが、1ターンを稼げるのには充分な価値がある。………まあ、技とタイプの兼ね合い上、他にポケモンがいない状態でネンドールが対面したら、まず間違いなく倒せる。

 

そう、ネンドールに確殺される以上、リラはライコウを殿には出来ないはす。

ならば次に出るポケモンは――――。

 

 

 

「出番だ、ネンドール!」

 

 

「行って、ラティオス(・・・・・)!!」

 

 

 

堪えきれない舌打ちが表に出かけるも、素知らぬ顔で覆い隠す。

まあ、僕がアイツの雰囲気の変化を感じ取れるように、アイツも僕の変化は理解出来ちまうだろうが、癖の様なものだ。

 

……………読まれた、か。

ボールから表れたのは青い流線型のフォルムをした準伝説のポケモン、ラティオスだ。

こちらの3体目のポケモンはドラゴンタイプ。加えて素早さではラティオスに劣るため、迂闊に対面には出せない。交換したターンと次のターンのドラゴンクロー2発で確殺される。

 

………仕方ない。

 

 

 

「ラティオス、ドラゴンクロー!!」

 

 

「ひかりのかべを貼れ!」

 

 

 

ドラゴンクローには間に合わなかったものの、直撃を耐えきったネンドールはひかりのかべをはる。

………これで布石は打ち終えた。あとは次のポケモンへと託そうか。

 

 

 

「…………まさか。

 

――ラティオス、ここで倒さなきゃダメだ!ドラゴンクロー!!!」

 

 

 

気付いたかのような反応をみせ、ラティオスに指示を出すリラだが………もう遅い。

ドラゴン技は全て特攻ステータスを参照する。ひかりのかべによってダメージが軽減されたことで、ネンドールはラティオスの攻撃を耐えきった。

 

そして――――

 

 

 

 

 

「――――爆ぜろ、ネンドール」

 

 

 

 

 

だいばくはつ。

 

フィールドの全てを対象とした爆発が巻き起こった。

威力は250だが、防御力を半減してダメージを与える以上、実質的には500だ。タイプこそ一致していないものの、圧倒的な威力という名の暴力がラティオスに襲いかかる。

 

いくらひかりのこなによって命中率を下げていたとしても、周囲全てを巻き込んで破壊するだいばくはつを回避できるはずもない。

加えて、単なる衝撃だけでなく破壊されたフィールドの破片もラティオスに襲いかかる。吹き飛ばされているラティオスに回避しきる余裕などあるはずも無く、全身を強打して地へと落ちた。

 

 

 

 

「ラティオス、ネンドール、戦闘不能!!」

 

 

 

 

お互いに残っているポケモンはあと1体。だが、ライコウはじしんのダメージが残っている上、こちらのフィールドにはひかりのかべが貼られている。

有利なのは僕だが――その程度で勝利を確信できるほど、タワータイクーンは甘くない。超一流のトレーナーとポケモンなら、確率無視して全発急所攻撃くらいは簡単にやる。尤も、相手も同程度の力量の場合、結局は元の確率に落ち着くのだが。

 

 

「出番だ、ボーマンダっ!!」

 

「行けっ、ライコウ!!!」

 

 

対峙するボーマンダとライコウ。

ボーマンダの特性であるいかくによって相手の攻撃を一段階下げたものの、元々ライコウは物理技をおぼえてはいないため、一切関係ない。

 

 

「リフレクター!!」

「じしんだ!!」

 

 

やはり素早さの関係上先に動くのはライコウか。

唯一の弱点である地面技は全て物理攻撃であるため、これで威力が半減される以上、実質的に弱点はなくなった事になる。

 

そしてボーマンダの繰り出したじしんの直撃。半減されているとはいえ、ネンドールと合わせて2発目のじしんだ。それを受けて未だ現在なのは流石は準伝説だと言えるだろう。

 

 

「ライコウ、ねむる!」

 

 

ちなみに、持ち物はラムのみである。

ねむって体力を回復し、さらにラムのみによって即座に状態異常が回復。

そして、目覚めと同時に伝説の名に相応しい夥しい雷を周囲に撒き散らした。

 

今までのダメージが全て帳消しになったことで、少なからず苛立ちが募る。

加えて、リフレクターが貼られている以上、じしんは最早弱点技足りえない。

…………元々1度もリフレクター抜きでブチ当てたことないだろって言うのは禁止な。

 

 

「――怯むな!げきりんだ!!」

 

 

故に弱点技などという小細工は行わない。絶対的王者たるドラゴンが誇る最強の暴虐がライコウを襲う。

牙で爪で翼で尻尾で――――逆鱗に触れた敵対者に与える容赦のない連撃。

これにはライコウも堪らず動きを止め――――

 

 

「――――10まんボルト!!!」

 

 

それはエースの意地か、それともトレーナーとの信頼関係がなせる技か。

連続攻撃の間に生まれた一瞬の空白を狙い、ライコウが10まんボルトを放つ。

 

 

――――きゅうしょにあたった。

 

 

今度こそ誤魔化しようがないほど完璧に舌打ちが表に出る。

電撃が直撃したボーマンダは全身から黒い煙を上げて墜落。瀕死にこそならなかったものの、ダメージはデカい、か………。

なら、

 

 

((――――次で決める!!))

 

 

それが互いの共通見解。

言葉にせずともその表情が、仕草が、雰囲気が意思を疎通させる。

 

ライコウは倒れこそしなかったもののげきりんによるダメージが非常に大きいし、ボーマンダにしたって言わずもがな。

途中で技をキャンセルされたので、疲労故の混乱はしてはいないのが不幸中の幸いだろう。

 

両者、あと一撃でも攻撃が当たれば瀕死に陥る最終場面。

だがその内容はこちらが不利だ。

遠距離から雷速の攻撃を繰り出すライコウに対し、至近距離にまで接近する必要があるボーマンダ。ひかりのかべがあっても耐え切れるとは思えない。素早さだってあっちの方が上。

だが――――凶暴な笑いが抑えられない。

敗色濃厚――それがどうした。

ギリギリの緊張感に滾る感情をそのままに、ボーマンダへと指示を出す。

 

――――そして、イッシュ地方から輸入したカムラのみ(・・・・・)をボーマンダが口にするのを見た。

 

 

 

 

「――――10まんボルトォォォォ!!!」

 

「――――げきりィィィィん!!!」

 

 

 

 

全く同時に発された2つの指示。

普通はライコウが先手を取るだろうが、カムラのみによって素早さを強化されたボーマンダの方が早い。

 

前方から10万ボルトが放たれるも、それは十分に力を溜めていない不完全なものでしかない。ボーマンダは速度を一切落とさないままに紙一重でくぐり抜け、ゼロレンジへと到達。最早互いの攻撃を避けられない超至近距離。

ライコウは叫びながら雷を撒き散らし、ボーマンダは最早それを回避することさえなく、勘を頼りに特攻する。

そして互いの攻撃が直撃する刹那――――――壮絶な悪寒を感知。

 

 

「………なんだ、今のは」

 

 

………まるで、僕がチャンピオンになる前、カイオーガやグラードンが真正面から衝突した時のような、壮絶な悪寒。

気付けばボーマンダもライコウも攻撃を辞めて周囲を見渡している。

決着に水を差された事への憤りが湧き上がるが、それは後。また次の機会を待てばいい。今はこの悪寒の原因を探る事が最優先だ。

 

 

「――――ユウキ、上!!」

 

 

悲鳴のようなリラの声に促され、上を見上げるとそこには――――

 

 

「なん、だ…………?

なんだよ!アレは!!?」

 

 

空にあったのはあまりにも巨大な隕石だった。直径にして数百キロは下らないだろう。ニドキングのじしんにさえ微動だにしないこのバトルタワーが、まだ彼方にある隕石が落下する衝撃だけで軋んでいることから、直撃したときの被害を最低限察することが出来る。

 

――――まず間違いなくホウエン地方は滅亡する、か。

 

 

呆然としていた俺を我に返らせたのはポケナビの着信音だった。相手は――ダイゴだ。

 

 

『ユウキくん、今どこにいる!?』

 

「バトルタワーの最上階だ。あの隕石を確認したか?」

 

『ああ。一体どうしてあんなデカいものが急に………いや、そんなのは後だ。

幸い、ボクはトクサネに里帰りをしていたからね、これから宇宙センターへ行って情報を確認してくる』

 

「任せる。わかり次第こっちへ連絡しろ!

場合によっては、アイツ(・・・)の使用も視野に入れる――切るぞ」

 

 

ポケナビの向こう側から絶句したような気配を感じたが、それに頓着することなく通話を切断。

こちらへと駆け寄ってきたリラへと指示を出す。

 

 

「ホウエンチャンピオンの名で緊急警報を出す。お前は他の職員と共に避難誘導に勤めろ。エニシダさんには申し訳ないが、ここの放棄も視野に入れる。

それと、預けていた僕の手持ちは今どこに」

 

「受付で預かってる。すぐに取ってくるから、君はここで指示を出して」

 

「…………ああ、頼んだ」

 

 

見上げると、憎らしい程に雲一つない青空だ。

眼下の視界は良好。全体を見渡せるここならば、指示を出すこと自体はわりと楽ではある。が、障害物が存在しない以上、人々は徐々に近付いてくる隕石をダイレクトに視ることになる。結果、集団パニックに陥った民間人は指示を一切聞こうとせず、我先にとあちこちへと逃走を始めてしまった。フロンティア職員の奮闘も虚しく未曾有の大混乱に陥っている。

 

指示を出せどどうにもならない現状に苛立ちを募らせながらも諦めずに指示を出し続けて暫く。

ポケナビから響く着信音。相手は――ダイゴか。

指揮権を本来の責任者に委譲し、通話を開始する。

 

 

「状況は?」

 

『想定よりも悪い。到達まであと12時間を切っている』

 

「被害状況はどうなっている」

 

『いまの所は問題ない。せいぜいが避難で足を滑らせたり、衝撃波によって転んで軽傷を負う程度だ』

 

「いや、現状じゃない。地表に激突したときの被害だ」

 

『………………良くてこの地方が。最悪、この星が滅ぶ』

 

「――――そう、か………」

 

 

予想はしていたが、口に出されるとやはり気が滅入る。

タイムリミットはあとおよそ12時間。

それまでに、あの隕石をなんとかしなければならない。

 

 

『ソライシ博士に変わるよ。具体的な解決策はその後だ。

………ソライシ博士、お願いします』

『もしもし、ユウキくん。お久しぶりです』

 

「前置きはいりません。現状の説明と解決策の相談が最優先だ」

 

『ええ、そうですね。

――――結論から先に言いましょう。我々ではあの隕石の破壊はほぼ不可能です』

 

「――そうか」

 

 

不可能と言われたわりに、僕が受けた衝撃はそれほど大きくはなかった。

それはほぼ、というまだ可能性が残っていると受け取れる表現だったからか、はたまた他の何かだろうか。

 

 

「理由は?」

 

「真っ先に挙げられる原因としては、やはり時間です。たった12時間では、解決策を練る時間さえ満足には取れません。加えて、解決策を練ったとしても、準備には時間がかかる。

そもそも、アレは恐らく別の世界(・・・・)から転送されたものです」

 

「…………別の、世界?」

 

『ええ。唐突ですが、ユウキくんは『通信ケーブル』というものを知っていますか?』

 

「ああ。使ったことはないが」

 

 

何しろ交換する相手などせいぜいハルカくらいしかいない。

オマケに、ポケモン図鑑にはポケモン交換の機能も付いているため、専らそれでのやり取りだ。

使う機会なんてロクにない。

オマケに、この質問をよりによって『知ってますか?』と問われたのがイラッとする。なんだその遠まわしな『あなた友達いないから使ったことないだろうし、存在認識してんの?』みたいな言葉は。どうせ僕には友達いねぇよ畜生!

………どうして僕はこんな危機的状況下で精神的なダメージを負わなきゃいけないんだろうか。

 

 

『あの隕石は、通信ケーブルを経由して別の世界から送られてきたものだと思われます』

 

「異世界、か………。

――――そうか、だからあんな唐突に表れたのか!

なら、その世界へと返すことは出来ませんか?」

 

『不可能です。あんな大質量、我々が転送するには研究が足りません。

そしてここに、私が隕石をどうにかするのは不可能だと考えた根拠があります。

――――我々よりも優れた文明を有する世界が転送することでしか対処出来なかったものを、我々がどうにか出来るとは思えないのです』

 

「――――そう、か。わかりました」

 

最早人の手には余る、という事が。

ポケナビの通話を切り、腰のモンスターボールに手を伸ばす。

ならば後は神頼み(・・・)、か。

先ほどリラが届けてくれた、6つのボール。チャンピオンとしての、僕の最強の手持ち。

その6番目に装着されたマスターボール(・・・・・・・)が、カタリと動いた気がした。

 

 

***

 

 

隕石到達まで、あと9時間。

 

 

「そんな、無茶だ!!」

 

「これしか手はないんだよ!!」

 

「だからって、あんな巨大な隕石を破壊できるわけが――」

 

「壊せなければどうせ死ぬ。どの道死ぬのなら、僕は最後まで足掻いてやるさ」

 

 

残り少ない時間を時間を黙って無駄に費やすつもりはない。僕の姿は宇宙開発センターにあった。

僕のやろうとしている事を察し、静止しようとするソライシ博士やその他研究員の静止を振り切って更に上へ。

道中でかっぱらった宇宙服に着替え、動きにくいと罵りながら。

小脇に抱えたヘルメットが正直クッソ邪魔くさい。が、これがなければ内側から弾けることを考えると捨てるわけにもいかない。

 

そして、たどり着いた最上階。

果たしてそこに、彼女はいた。

 

 

「……………どうしてわかったんだ?」

 

「どれだけバトルしたと思ってるの?

君の考えてることぐらいわかるよ」

 

 

柔らかな微笑みを浮かべてリラは言う。

こんな状況には不釣り合いだが、その笑顔があまりに綺麗だったから、つい一瞬見惚れてしまう。

 

 

「…………僕は君が来ることを予想出来なかったんだが」

 

「ふふっ、読みが甘かったね。これでタワータイクーンの面目躍如かな」

 

「言っとけ」

 

 

苦笑を返し歩みを進め、彼女の隣に立つ。

 

 

「バトルの決着は、帰ってきた後だな」

 

「そうだね。……まあ、本当はボクのライコウが先に10万ボルトを当てて勝ってたけど」

 

「いーや、ボーマンダが紙一重で避けてげきりんで倒してたな」

 

「なにおぅ!!」

 

「なんだとぉ!!」

 

 

キスでもするかのような至近距離。

互いの顔を見つめあった俺達は、やがてどちらかともなく目を逸らす。

相手の頬が赤く染まっていると指摘しようと思っても、それは自分も同じこと。結果として生まれた僅かな静寂。

 

それを先に破ったのはリラだった。

 

 

「…………帰ってくる、よね………」

 

「当然。僕を誰だと思ってる?

この地方の頂点(チャンピオン)を甘くみるなよ」

 

 

 

 

 

「――――なら、待ってるよ。

キミが挑戦しにくるまで、ボクはあの塔を守り続ける」

 

 

 

「ああ。帰ってきたら、さっきの決着をつけよう」

 

 

 

 

 

 

リラの体を軽く抱きしめてから、俺はマスターボールを天高く投げる。

そして現れたのは、トクサネの夕日に照らされて神秘的な光を放つ翠玉(エメラルド)の龍。

そのポケモンの名は――――

 

 

 

 

「――――行くぞ、レックウザ」

 

 

 

 

小脇に抱えたヘルメットを被りなおし、宇宙(そら)へと飛翔した。

 

 

 

***

 

 

 

レックウザに乗って空を飛んで暫くすると、茜色だった空は次第に青みを帯び始め、心なしか空気も吸いにくくなってくる。

高速で飛翔するレックウザから振り落とされないように強く握りしめ、大気圏突破の衝撃に備える。

 

 

「ッ、クッ………ガァァァァァァァァッ!」

 

 

やはり専用に調節されないものでは無理があったか。大気圏突破のGで全身の痛覚が激痛を訴える。軽く咳き込むだけのつもりが、ヘルメットには血の紅がべっとりと付着していた。

――――すべて、すべて関係ない。

もとより無茶は覚悟の上だ。静止を振り切ってここまで来たのだから、おめおめと撤退するなんて選択肢はありえない。

 

 

「もっとだ!もっと速く――レックウザァァァァッ!!!」

 

「きりゅりりゅりしぃぃぃぃぃ!!!」

 

 

叫びに反応し、レックウザがさらに速度を増す。既に周囲は色を変えた。人を受け入れぬ漆黒の宇宙。隕石との距離も残りは少ない。

 

身体中の感覚が薄れていく。血反吐を吐く程の体内の怪我、全身へと響く衝撃さえ、今や鈍い痛みを残すのみ。

――――下唇を噛みちぎって意識を無理矢理覚醒させる。舌先を駆け巡る鉄錆の味、そして匂い。思わず顔を顰めるが、それは少なくとも味覚や嗅覚は復活した証拠だ。これ以上意識が危うくなっても振り落とされないよう、命綱代わりにレックウザの巨体へと巻いた、特注サイズのこだわりハチマキ(・・・・・・・・)を強く握りしめる。

 

次第に縮まっていく彼我の距離。

地表で見てもあまりに大きい隕石の質量だが、間近で見るとそれに輪をかけて圧倒的だ。こんなもの、果たして破壊できるのだろうか――?

 

 

 

「きりゅりりゅりしぃぃぃぃっ!!!」

 

「――――そうだな」

 

 

 

僕の内心の弱気を見抜いたんだろう。レックウザが活を入れるかのように咆哮する。

 

 

――――ああ、そうだ。僕がこんな所であきらめてちゃ、誰がこれを止めるというんだ。ホウエンの、僕達の未来を守るために、アレは絶対に破壊しなければならない!

 

 

……破壊した後の具体的な未来として、レックウザはリーグ戦での使用を自粛しよう。巨大隕石を破壊できるだけのバ火力だ。いかにホウエンリーグの規定では使用ポケモンに制限を課せられていないとはいえ、常識的に考えて普通のポケモン相手には使えない。

 

 

「――――きりゅりっ!!?」

 

 

レックウザが悲しげな声を上げた。

 

 

「――――あははははははははははははっ!!」

 

 

大口を開けて笑う。まさかこんな、いかにも最終回ですみたいな場面でコントじみたやり取りをするとは思いもしなかった!ましてや、相手がレックウザだったら尚更だ!!

 

すでに隕石との距離は1kmを切った。レックウザは動きを止め、口腔内に膨大なエネルギーを貯める。

ただでさえ1種類しか使えない技を1度だけ。決死の覚悟に答え、こだわりハチマキが数多の裂け目を入れながらも、1.5倍という限界を超えてレックウザへと力を供給する。

 

 

 

 

 

 

「――――――――隕石を破壊しろ!!!レックウザァァァァァァァァァァッッ!!!!!!」

 

 

 

「――――――――きりゅりりゅりしぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃ!!!!!!!」

 

 

 

 

 

 

 

そして臨界点を突破して放たれた、莫大な威力のはかいこうせん。

それが隕石に直撃した光景を、薄れていく意識で見届けて――――。

 

僕は白い光に――いや、違う。

縦線と横線がまるで円柱のように絡み合った、異形の『穴』に落ちて意識を失った。

 




ダメージ計算とかは割と適当です。書いてる途中でコレ実機ならないわーとか思ってたりする。

そしてメトロノームは完全なネタ枠です。エメラルドには出てこないし、低レートでも絶対出ないけど、同じ技繰り返すと威力あがるってぶっちゃけ描写的に美味しくね?と。

それと、エメラルドやってた当時の記憶も結構薄れてるため、間違っている所とか結構あると思うので、指摘よろしくお願いします。




………まあ、どうせホウエンでのバトル描写なんてこれっきりなんだがな!!
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