ホウエンチャンプは世界を超える   作:惟神

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やめて!相手のHPはもうゼロよ!

ユウキは激怒した。

かならず、かの邪智暴虐なスカル団員を除かんと決意した。

ユウキには一般常識がわからぬ。

ユウキは、廃人(ポケモントレーナー)である。

きのみを育て、ポケモンと共に戦って暮らしてきた。

けれども邪悪に対しては、人一倍に敏感であった。

 

豪華にフル改行しながらの要領を得ない話が結局なにを言いたいのかというと、一言で要約出来る。

 

 

――――コイツら絶対潰す。

 

 

***

 

 

「だからってあんな殺気出して叩き潰すなんて馬鹿なんじゃないですか!?もはやバトルじゃなくて処刑でしたよね!?ただの八つ当たりじゃないですか!!」

 

「どうどう、落ち着け」

 

「これが落ち着いていられますか!?あんな、あんなバトル…………」

 

 

そういってミヅキは言葉を探すかのように黙り込む。参ったな、思ったよりも精神がやられてるのか?

 

先程のバトル、それはただの処刑だった。僕のポケモンは育成限界(Lv.100)で、かつ今のパーティーで最硬のメタグロス。相手のポケモンじゃ傷一つ付けられないし、能力ランクを下げることさえ不可能(特性:クリアボディ)

どんな攻撃でも1ダメージは与えられる、というのは幻想だ。彼我の戦力差がどうしようもなく圧倒的であれるならば擦り傷一つ負うことはない。人間だって子供の癇癪でれんぞくパンチ(偽)を362回当てられたところで瀕死にはならないだろう。それと同じことがポケモンにも言える。

 

そして、フィールド全体を包み込む殺気。出力を並のトレーナーでは感じ取れない程膨大に垂れ流したそれは、感知は出来なくとも明確に存在する。指示を出す所か呼吸をするだけでも相手の精神力を削っていく。上位廃人クラスなら誰でも出来るお遊戯だ。基本的に同格相手には通じないが、格下相手ならばこれ以上ない効果を発揮する。

 

結果あのバトルはトレーナーとポケモンの精神に攻撃しているようなものになった。ミヅキがショックを受けるのも当然といえばそうだろう。

 

 

「だって…………だって、あれじゃあまりにポケモンが可哀想じゃないですか!?」

 

 

ミヅキの強さは優しさが由来だ。だからあんなバトルは認められない。

僕による指導で詰め込まれ過ぎて許容量を超えて上手く動いていない時、さりげなくそのリミットが外れるように軽度な暗示を掛けていたが…………やはり日数が日数だ。あまり上手くいってない、か。

それどころかあんなバトルをしたんだ、多少の不信感を持たれても仕方がない。

 

…………プランの変更をするべきか。

暗示やこの先使う諸々はこちらに対する信頼が必要となる。それがなくても使えるものはどれも安定性が低く、下手をすると逆に駄目になる。それが原因で折角の原石が台無しになっては元も子もない。

 

ともかく、なんとか修正する言葉を話そうとして――――それよりも先にミヅキが告げる。

 

 

 

 

「ポケモンの精神にダメージを与えるような方法をよりも、トレーナーを直接狙うほうがいいじゃないですか!!」

 

 

 

「すまな…………えっ?」

 

 

…………どうやら上手く行き過ぎて明後日の方向へ爆走していたらしい。別の意味でプランを練り直さないと。そっちの道はトレーナーじゃなくてただの外道だ。

 

 

***

 

 

思わぬ形で判明した課題点に頭を悩ませながらも、足取りは決して緩めない。

道中のトレーナーを片っ端から蹴散らしながら、僕らは2番道路にある茂みの洞窟へとたどり着いた。

入口にはイリマが待ち受けている。普段からああやって試練を受ける者を待ち受けているのだろうかと考えると、まったく接触のないにも関わらず哀れみの念が湧いてくる。きっと彼は将来忍耐心のある傑物となるだろう。それがトレーナーとして発揮されれば嬉しい限りだ。害悪とかどうやって打ち破ろうか心が踊る。

 

 

「アローラ、ミヅキさん。そちらの方は……ユウキさん、ですね?初めまして。ようこそ、僕の試練へ」

 

「それで合っている。こちらそこ初めまして、キャプテン・イリマ。噂はかねがね」

 

「アローラ。試練挑みに来ました」

 

 

喜ばしそうな雰囲気(だが真顔だ)を浮かべながら挨拶するミヅキに合わせ、僕も軽く挨拶する。表情に好戦的な笑みが浮かぶ。実力は低くはないうえ、ククイ博士からこちらのことを聞いているのだろう。さっきから僕へと熱い闘気を向けてくる。

 

ああ、闘いたい。どうしようもなく闘いたい――――が、それはこの試練が済んでからだ。

 

僕の思いを理解したのか、イリマは闘気を一旦収め、試練についての解説を始める。

 

曰く、一度入れば主ポケモンを倒すかリタイアしない限り出られない上に、捕獲も禁止。

 

その程度なら僕は問題ない、が…………傍らのミヅキを見る。彼女は僕の視線に気付くと軽く頷いた後、ジト目を返してきた。どうやら回復道具の準備もロクにしないような奴だと思われるのは心外らしい。僕の回復薬を分ける必要はなさそうだ。今は金があっても回復薬は買えないため、有限のものをわける心配がないのは安心だ。

 

ちなみにだが、カントー、ホウエンその他の回復薬とアローラの回復薬では規格が異なる。紛らわしい事に、名前が同じでも値段や回復量が大幅に違うのだ。原因は環境による素材の違いと言われているが定かではない。僕としては平均育成度(レベル)が低いからこの程度で充分なんだろうと思っているが…………それはどうでも良い。

 

肝心なのは色々違うという点と、そもそも僕はZクリスタルがないから上位の回復薬を買えないという2点のみ。それ以外は些事に過ぎない。

 

 

「ああ、それと。試練は本来1人で行うものなので、ミヅキさんかユウキさんのどちらが先に行うか決めてもらう必要があります」

 

「ミヅキで」「…………え?」

 

「わかりました。ではミヅキさん、イリマの試練を始めます」

 

「えっ、ちょ、待っ………!?」

 

 

そして引きずられていくミヅキ。どなどな〜という効果音が聞こえてくるようだが、彼女が本気なら振り払う事など余裕な筈だ。なのにそれをしないということは、何だかんだ言いつつ受け入れているのだろう。

 

僕も16歳ということで名目上は一応島巡りでもあるのだが、任された本来の役目は島巡りのアドバイザーだ。確かに試練についての興味はある。単純に強い野生のポケモンと戦うというのは多いようで案外少ない機会だし、彼の育成力も知りたい。

だが、野生ポケモンはいくら強かろうが所詮は野生。超古代ポケモン程に突き抜けていなければ容易く処理出来る。そして彼の育成力だが、1目見ればわかる。確かに優れてはいるが上の下程度だ。そんなものよりもミヅキをより強くする方が優先に決まっているだろう。

 

故に僕は黙って待ってよう(イリマの日常を知ろう)と、そこら辺の木を背もたれにして周囲を眺める事にした。

 

 

***

 

 

「4匹目っと。これで終わりかな?」

 

 

ユウキさんに売られ、イリマさんにドナドナされた私は素直に試練を受けていた。1番最初の試練ということもあって緊張は一入だったけど、どうやら少しルールの変わった野戦らしい、と認識が成立してからはだいぶ落ち着いてきた。

 

巣穴から出てくるならそのままバトル(リンチ)、穴蔵を決め込むならばでんきショックで叩き起こしてバトル(リンチ)

 

途中で相変わらずのスカル団員ABが出てきたけれど、躊躇いなく叩き出した。トレーナーへと直接攻撃(ダイレクトアタック)はユウキさんによっぽどの場合を除き禁止されてしまったため、バトルで敗北させるという過程をふむ必要があったけど。

 

誤解しないで欲しいのは、私はポケモンが傷付くこと自体を否定するつもりはないということ。ただ精神に大きなダメージを与えて再起不能にするのがダメだと思っているだけで。トレーナーの身勝手に付き合わされたポケモン(手持ち)がそんな事になるくらいだったら、トレーナーに直接するほうが良いと思うから。

だからトレーナーとポケモン共々潰そうとしたユウキさんには反発する。あの人基本的に手加減はしても容赦はしないし。

 

何を言いたいのかというと、私はポケモンを普通に倒すこと自体には躊躇うつもりはないってこと。もちろん、ユウキさんの言う悪い廃人みたいになりたくないから限度は守るけど。だから倒していいという許可が出ている場合、容赦はしない。

 

そうやって指定されたポケモンを倒した私は奥へと進んだ。

最奥部には天井がなく、降り注ぐ直射日光の暴力が洞窟の暗闇に慣れた私を襲う。暫くするとその刺激にも慣れ辺りを軽く見渡すと、そこは剣山の如く聳え立つ巨石に包まれた空間だった。中心には台座に置かれたZクリスタルが見える。

 

 

「あれがZクリスタル…………みんな、周囲の警戒をお願いね」

 

 

手持ちのポケモンに注意を促し、私はゆっくりと台座に近づいていく。近づくにつれてZクリスタルの輝きは大きくなる。暖かくて、優しい光。

そっと手に取ろうとして――――視界の端で何かが動いた。

 

 

「みんな!!」

 

 

余計な指示はいらない。ユウキさん曰く、複数のポケモンに指示を出す時は単純である方が望ましいとのこと。あまりに複雑すぎる指示は混乱の元となり、失敗の原因にしかならないんだとか。

だから単純な指示を出すか――予めパターンを設定する必要がある。

ユウキさんはポケモン共々経験が豊富なので重要な事を除きポケモンに任せているらしいけど、私は初心者だ。経験が足りなすぎて任せるなんて芸当は出来ず、結果ある程度パターンを決めつつ、それ以外の指示は単純にという両方取りを選んだ。

 

そして、今は怪しげな気配を感じたら速攻で攻撃してと頼んでいる。私はまだまだなってないから、手段を選ぶ余裕なんてないんだ。

 

つい先程進化したフクスローのはっぱカッターに、ケララッパの確定5回(特性:スキルリンク)ロックブラスト、コイルのでんきショック、そして捕まえたばかりのアブリーのぎんいろのかぜ。この周辺のポケモン程度ならどう考えたってオーバーキルな攻撃に耐えられず落下する怪しげな存在。

見てみると、それはごく普通のヤングースだった。

 

…………なんだ、主ポケモンじゃないのか。

 

そのことに安堵とも残念つかない感情を抱き、若干緊張が弛緩した。

直後、後方で響くコイルの悲鳴。

 

弾かれたように後ろを見ると、コイルの傍には金色のオーラを纏ったポケモンがいた。

 

 

「――――一斉攻撃っ!」

 

 

間違いない、あれが主ポケモンだ。

そう結論を出すまでに空いた一瞬の隙間に、主ポケモン――――デカグースは逃走する。慌てて攻撃を指示するも最早間に合わず、岩と岩との隙間へとまんまと逃げおおせた。隙間は中で繋がっているのか、覗いても影も形もない。

 

周囲に気を配りつつ、コイルの様子を伺う。大丈夫、かなりのダメージを受けているものの瀕死にはなってない。これならキズぐすり1つ使うだけで問題なく戦えるだろう。

 

それよりも問題なのは主ポケモンだ。開幕早々仲間を囮に使い、その隙に一致技に耐性を持つポケモンを落そうとした挙句、気付かれた瞬間に逃走を選ぶなどあまりに頭脳が発達しすぎている。ホントに野生のポケモンかと疑問に思ったけど、よく考えるとイリマさんに育てられたポケモンなんだから不思議はないか。

 

そう、主ポケモンを野生のポケモンと同一視してはいけないんだ。これまでのバトルが野生でのそれと大差ないから勘違いしていたけど、そもそもこれはイリマさんの試練。決して野戦でも、そしてトレーナーとの勝負でもない。

 

 

だからこそ――――

 

 

「フクスローは辺り一面にはっぱカッター!コイルは弱めの10まんボルトでそれに火をつけて!そしてアブリーはぎんいろのかぜで煙を隙間に!ケララッパはロックブラストでアブリーの補助を!」

 

 

だからこそ、躊躇わなくてもいいよね?

 

 

フクスローが撒き散らしたはっぱにコイルが火をつけ、アブリーがそれを隙間へと入れる。ケララッパの岩はその補助だ。煙を入れやすくなるように方向を限定させる。

 

ポケモンといえども生物である以上、酸素は必須。さて、主ポケモンは一体どれだけ耐えられるかな?

 

他3匹とは異なりケララッパは一度岩を設置したら仕事が終わりなので、耐えきれずに出てきたポケモンをロックブラストで狙い撃つ役目を新規に任せる。私はぎんいろのかぜのPPが尽きたアブリーにヒメリのみを渡す役割だ。

それから5分は過ぎただろうか。ロックブラストに沈んだヤングースが山のように積み上がった時、ついにデカグースが飛び出てきた。

相も変わらず眩しい程の光具合。アレに包まれたポケモンはランクが元来から高くなるらしいけど――――もうあなたにランクの有利はない(・・・・・・・・・)よ。

 

 

「アブリー、むしのていこう!」

 

 

 

ねえ、主ポケモン(デカグース)。あなたはなんのためにようせいのかぜじゃなく、ヒメリのみを与えてまでぎんいろのかぜを使わせたと思っているの?

 

 

 

ぎんいろのかぜの追加効果によって全ランク3段階上昇したアブリーのむしのていこうは、たいあたりを繰り出したデカグースを真正面から撃退した。

 

 

 

 

 

 

 

 




真顔さん殺戮マシーン化不可避な様子。

ユウキがポケモンに任せたと言えるのはバトルパレスでの経験のおかげです。それまでは単純な指示(レベルの暴力)でなんとかしてました。
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