ホウエンチャンプは世界を超える   作:惟神

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…………お久しぶりです(超小声)



壁は超えれないから壁と呼ぶ

 

僕が戦いで手心を加えるのは、その方が面白いと思った場合のみである。単純な実力において、未だハウは僕の足元にも及ばない。

ただの蹂躙でしかないはずだった戦いーーなのに、意外な収穫があった。

 

ーーハウのやつ、もう戦い方(スタイル)を確定させたのか。

 

無意味に逆らって消耗しないようにあえて相手の流れに乗り、肝心な所で自分が主導権を握り流れを作るこの戦法は、格上殺し(ジャイアントキリング)に特化したものだ。

 

それは、今までハウが勝てないと思っていた絶対的強者に対する逆襲の戦法(スタイル)。勝利を諦めていた過去の自分との決別にほかならない。

 

島巡りで成長しているのはミヅキだけじゃない。改めてそれを実感し――

 

――ならもっと格上を見せてやろうと本気の一端を出して蹂躙した挙句、せめてひと目だけでもミヅキの大試練を観よう・観させようとハウを引き摺って命の遺跡へと走った。

……残念ながら間に合わなかったが。

 

それからはミヅキと少し話をして、ハウの大試練を見学した。

彼の闘い方(スタイル)は格上殺しだ。そのため、あえてレベルが低いポケモンを使い試練を課すというこの形式には決して向いているものではなかったが――奮闘の末に勝利を収めた。

 

そして、次は僕の番。

ではあるのだが………

 

 

「…………疲れているようだが、問題はあるか?」

 

「ははっ、まさか対戦者に心配されるなんてね。大丈夫、ライチさんはタフだからね」

 

「なら良い。疲労で全力を出せない、なんて事になれば面白くないからな」

 

 

僕の言葉に、ライチは薄く笑う。なにやら意味深だが、観察した感じ特に問題はない。意味深なだけだ。

 

なら問題ないと自己完結。腰元のボールを手に取った。戦闘用のそれへと切り替えられた意識を眼前へと向け――

 

 

「じゃあ、始めようか。ライチさんが使うのは、ハードでタフないわタイプ。

君のヤワなポケモンぐらい倒してやるから覚悟しなよ」

 

「……いわタイプのどこがハードでタフなんだ?寝言は技の命中率と自身の耐性を増やしてからほざいてみろ」

 

 

――宣誓と共にボールを投げた。

 

 

「行くよ、ジーランス!」

 

「出ろ、バシャーモ」

 

 

些か唐突であるものの、試合は開始された。こちらのバシャーモに対し、相手が繰り出したのはジーランスだ。

物理耐久力に優れ、攻撃技にも恵まれているポケモンではあるものの、経験値が少なくレベルが低い。手加減は必須だなと思いつつ、

 

 

「もっと先へ――進化を超えろ(メガシンカ)

 

 

即座にメガシンカを行う。

()の意向を受けて瞬時に終了した演出に風情など存在しないが、元よりこれは戦闘である。そんな長すぎる隙を放置する筈もない。

 

真紅の紅蓮を宿したメガバシャーモは、己の力を誇示するかのように高らかに吠えた。

 

 

「メガシンカ――まさか、島巡りをしてるトレーナーがそんなレアなモノを見せてくるなんてね。驚いたよ、さすがは異世界のトレーナーってとこかな」

 

「…………まあ、な。この力は()()習得したんだが、能力の上がり幅が非常に大きいうえ、ポケモンへの負担も尋常じゃない。だがそれでも、スペックという一点()()なら優秀だ」

 

「おや?『だけ』とは、意外とマイナスイメージなんだね」

 

「一部ポケモンは図鑑の説明文に問題がありすぎる。あと、スペックが劇的に向上したことに体が対応できず、繊細な動きに難が出るようになった。力だけのゴリ押しは、あまり好みじゃない」

 

「なるほど、メガシンカってのも一長一短なんだね」

 

「ああ――雑談はこれまでだ。行くぞ」

 

 

この雑談でメガバシャーモの素早さランクが一段階上昇(特性:加速)していた。正直ちょっとアレかなと思う気持ちもあるが、先に話してきたのはあちらである。《加速》持ちなことを知っているか否かは定かではないが、前者なら己の油断を、後者なら己の無知を、悔やみながら負けるがいい。

 

 

「――蹴り穿て、メガバシャーモ」

 

 

飛び膝蹴り。威力130に加えて、メガバシャーモの高い攻撃力(種族値:160)によって放った超火力の一撃ではあるが、物理耐久が極めて高いジーランスは大きなダメージを受けながらもそれを耐える。

削れたのは2/3くらいか?半分以上であればそれで良い。元よりジーランスは《頑丈》持ちだ。一回分の行動保証があるのは変わりない。

 

 

「――――あくびっ!!」

 

 

そしてジーランスは、反撃を繰り出した。欠伸――相手を次のターンには眠らせる、流し技の最高峰である。これを避けるためには、不眠を始め眠らない特性を持つポケモンを繰り出すか、カゴの実などの道具をあらかじめ持たせておく必要がある。

だが、メガバシャーモは持ち物が既に割れている(対応メガストーン)上、特性もこの状況には無意味だ。ライチほどの実力者なら、このターンが終了した直後メガバシャーモが速度を増したことで、加速持ちであることは特定出来ただろう。

 

である以上、継続に意味はない。

ここは交代一択――だが、タダで引き下がるつもりはない。

 

 

「バトンタッチだ。行くぞメタグロス」

 

 

バシャーモの素早さランクを引き継いで表れたのは、火力と耐久力を併せ持つ鋼鉄の城である。今回はそれに速さも加わったパーフェクトメタグロス(仮)だ。素直にメガシンカすれば良いのにとか言わない。そもそも出来ないが。

 

 

「ステルスロック!」

 

 

交代によって生まれた隙に、ライチはステルスロックを撒く。

ハチマキ・頑丈・化けの皮潰しになり、単に繰り返し利用可能なダメージソースにもなる優秀な技だ。岩技で最も厄介な技は何か、と問われたら僕はこの技を答えるだろう。

 

一回分の行動保証でステロを撒き、あくびで交代を強制・相手の手持ちの情報を得る・後続の起点作りが出来るジーランスが初手か。

 

よくもまあ、やってくれた。

だが、惜しむべきは。

 

 

「じしん――狙い打て」

 

 

ホウエン原産ポケモンなら飽きる程に相手してきたため、メタグロスの頭脳があれば急所に必中できるという事くらいか。

 

タイプ不一致のじしんは、ジーランスの耐久なら一撃は耐えただろう。だが、急所に当たったことでHPは残らず消し飛び、ジーランスは瀕死へと陥った。

 

 

「っ――やるね!だけど、次はどうかな」

 

 

表れたのはメレシー。岩・フェアリーという珍しい複合タイプ持ちで、防御・特防がレジスチル並に高い反面、他の能力は軒並み低い。岩タイプにしては多くの変化技を覚えるポケモンだ。特性はクリアボディか頑丈の二択。どちらも悪くない特性だが、僕なら後者を取る。何故ならば、

 

 

「バレットパンチ!」

 

「耐えてトリックルーム!」

 

 

一回分の行動保証があるからだ。

4倍弱点である鋼技は体力の貧弱さも相まって本来なら1発食らうだけで致命傷。ましてやタイプ一致のメタグロス(鋼ポケモン)である。クリアボディならここで終わっている。

 

だが、頑丈(夢特性)だ。故に耐えきったメレシーは時空の歪んだ世界(トリックルーム)を作り上げる。

厄介な、と軽く舌打ち。手持ちのアタッカーは基本的に素早さが高い上、岩タイプは大体鈍足だ。トリルが貼られた以上、素早さで勝るこちらが遅くなるのは確定しており、

 

 

トドメ(バレットパンチ)だ」

 

 

それでも変わらないもの(優先度+1)がある。相手も先制技を繰り出してきた場合は分からないが、それでもこの時ばかりはこちらに分があった。

 

 

「――ッ!なら、この子ならどう!?」

 

 

――ライチはゴローニャ(Rフォルム)を繰り出した。

 

攻撃防御が高く、特攻特防が低い典型的な岩タイプのポケモンである。この辺はゴローニャの原種と大差はない。

違うのはタイプと特性だ。地面を捨てて電気を得たRゴローニャは、弱点となるタイプが単純に半分になった反面、棄てられた怨みとばかりに地面が4倍弱点になっている。サブウェポンとして地震を積むポケモンは多いので、特性はそれをケアできる頑丈か、もしくは

 

 

「代われ、ネンドール!」

 

「大爆発――しまった!」

 

 

夢特性のどちらかだ。

 

そう、Rゴローニャの夢特性はエレキスキン。ノーマルタイプの技を電気タイプに変更させ、威力を1.2倍にする強力な特性だ。その上で、持ち物であるこだわりハチマキが命を賭した一撃(大爆発)の威力を底上げする。

その合計火力はキチガイ級。かつて行われた理論上最高火力打ち合いには(レベルと能力ランク的に)及ばないが、それでも比較対象に出来るという時点で異常であることは明白だろう。

 

ネンドール(電気技無効)でなければ他のどの手持ちでも確一だった……そんな一撃を防ぎきったことに僅かに安堵する。素早さの能力ランクは失ったが、些細なことだ。

 

 

「あの一撃を防ぐとはね……さすが、と言っておくわ」

 

「代名詞だろう、ゴローニャの。確かに大爆発は強力ではあるが、手持ちの全容もわかっていない前半戦で使う技ではない」

 

 

デメリットのある技――特に、電気タイプを始めひとつでも無効にされるタイプがある場合、相手の手持ちが大体公開されるのを待ってからにするべきだった。でなければ思わぬ伏兵によって無効化され、大きな代償を払う他なくなってしまう。

ライチ程のトレーナーがそれを分からない訳がない。想像される可能性として最も高いのは、

 

 

「――そんなに()()()()()()()か?」

 

「…………さて、ね。行くよダイノーズ!」

 

 

メタグロスの処理は重いのか――僕の追求を誤魔化して、ライチはダイノーズを繰り出す。だが、そのダイノーズは今まで出てきたポケモンに比べると明らかに威圧感が小さすぎて、まるで孵化したてのように感じられる。

 

Lv.2ダイノーズによる低レベル戦闘か。上手くハマれば確かに強いが、それは一手間違えると何も出来ずに敗北するリスクも抱えている。

育成型トレーナーである僕には生理的嫌悪が先に立つ戦法だ。レベル1とか2とかの育成仕切ってないポケモンを出すとか、「レベル高くて調子乗ってる奴等に現実を教えてやれ」といった依頼をされない限り嫌だ。前言ったココドラwith貝殻の鈴も、可能な限りやりたくはない。

そんな僕の思いを余所に、ライチはダイノーズに指示を出す。

 

 

「手始めに――みがわり!」

 

「大爆発」

 

 

トリルの影響で先制を取ったダイノーズが極々僅かなHPを削って生み出した身代わりは、ほんの1秒と保たずに大爆発に巻き込まれて消滅した。

代償としてネンドールは瀕死になったが――なに、いつものことだ。交代と共にダメージを与える一石二鳥。そろそろなつき度がヤバいかも知れない。

 

 

「出ろ、メガバシャーモ」

 

 

そんな考えは一瞬で忘却した。

そして、無償降臨したメガバシャーモが次に繰り出す技なんて、とっくに決まっていた。

 

 

「いたみわけ!」

 

「にどげり」

 

 

いたみわけによってメガバシャーモのHPが半分近く吹き飛び、ダイノーズのHPが全回するが、それは大した問題でもない。

にどげり――一撃目がダイノーズのHPを消し飛ばして頑丈を発動させ、2撃雀の涙のような体力を粉砕した。普通に攻撃を撃つと瀕死を通り越して死んでしまうので、あくまで加減はしたが。

 

あまりに脆弱なダイノーズを余所にメガバシャーモの様子を見ると、HPが半分を割っていた。ダイノーズの持ち物だったゴツゴツメットの影響だろう。

とはいえこれで4:1。終わりが見えてきた。ライチの最後のポケモンはなんだろうか。

 

 

「やるね!でもこれが最後の1匹――行くよ、ルガルガンッ!!」

 

 

真夜中の姿のルガルガン。それがライチの切り札だった。

それを繰り出したと同時に、トリックルームが効果を失い元の時空へと戻る。

 

ここから先は僕のターンだ。

メガバシャーモに指示を出す。

 

 

「とびひざげり――トドメを!」

 

「やらせるかっ!!これがあたし達のゼンリョク――――ラジアルエッジストォォォムッ!!」

 

 

高く、高く、高く、高く、どこまでも高く。

にどげりのPPが尽きるまでの30段ジャンプの果てに得た最大のエネルギー(ゼンリョク)と、ルガルガンの専用Zワザ(ゼンリョク)がぶつかり合う。

 

拮抗の果てに、勝利したのは――

 

 

――――()()()()()()()()()()()()()メガバシャーモ。

 

 

両方の手首から溢れんばかりの炎をブースターに、音を超えた反動でダメージを受けるほど加速したメガバシャーモが突撃する。

地にて構えるはルガルガン。飛び散った岩の破片で出来た傷などなんてことないように、真正面から迎え撃つ。

 

 

「「――行けぇぇぇぇっ!!」」

 

 

――そして、

 

――――メガバシャーモの攻撃が、

 

――――――ルガルガンに直撃し――

 

 

 

…………直撃、し………

 

 

 

 

……………………なかった。

 

 

 

 

メガバシャーモの攻撃は外れた。

メガバシャーモは反動のダメージを受けた。

メガバシャーモは倒れた。

 

 

「「………………は?」」

 

 

全く同じ驚愕が重なって、一瞬皆の思考に空白が出来た。

困惑に染まった思考の片隅で、僕は戦闘開始直後の会話を思い出す。

 

 

『スペックという一点()()なら優秀だ』

 

『繊細な動きに難が出るようになった』

 

 

…………ああ、そう考えると想定は出来た筈だったのだ。スペックの違いに戸惑っている状態で慣れない全力を出せばどうなるかなんて、予想して然るべきだったのに。

 

命中率90%という壁。

嘗て克服した筈だった、10%の確率が僕の邪魔をする。

 

あまりと言ってはあまりなその情けなさで『いつも通り』を取り戻した僕は、即座にメガバシャーモをボールに戻し、最後となるポケモンを繰り出した。

 

 

「ミロカロス、ハイドロポンプ」

 

「え、あっ、ちょっ――――」

 

 

不本意ではあるが、不意を突いた攻撃にライチは反応出来なかった。

ミロカロスのハイドロポンプ(命中率80%)はちゃんと命中し、ゼンリョクのぶつかり合いによって疲労していたルガルガンはそれを耐えきれなかった。

 

 

「勝った……勝って、しまった…………」

 

 

そして得たぐたぐたな勝利には。

さすがの僕も、どう勝鬨を挙げればいいか判断に困った。

 

 

 

 


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