ホウエンチャンプは世界を超える   作:惟神

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新年のお慶びを申し上げます
……前々話の前書きでこのセリフ言ったような(殴

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めざパの計算ミスってたので修正しました。

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カプ・テテフの分類を間違えていたので修正しました。


ロッククライム(物理)

 ……これで島巡りも折り返し、か。

 

 大試練を達成したことに大した感慨も抱かないまま、ただ漠然とそう思う。

 手に入れたイワZを掌で弄ぶように転がす。バトル自体はまあ、悪くはなかった――求めるレベルとは程遠いだけで。溜まりに溜まったフラストレーションが僕を苛んだ。

 

 ――何故全力を出せない?

 ――何故お前たちはそんなにも弱い?

 

 ため息を一つ。

 なに考えているんだ僕は。それは最初から理解していることだろうに。

 アローラは閉塞している。外部の者を拒む環境に、それを是とする大多数の住人。加えてZワザという強力な力がある以上、それ以外に頼るという発想が欠けている。だから厳密には弱いのではなく、止まっているのだろう。

 

 ……その環境を改善しようともしていない()が、我が物顔で言うセリフではないが。加えて言うなら、その状況下に不満を持つべきでもない。

 それはククイを始め、問題に真摯に取り組んだ者だけが言える言葉だ。

 

 ――ん?

 

 考えに耽っていた僕の視界に、金髪の少女が紛れ込んだ。

 リーリエだ。彼女はここで見るべきものは見終わったかのようにほしぐも(コスモッグ)を鞄のなかに入れ、帰る準備を始めている。

 

「……遺跡の探索はどうした?」

 

 聞いてみると、どうやら大試練の連続によってそのことを忘れていたらしい。

 ため息を吐きたくなる気持ちをぐっと堪え、僕はライチに遺跡の見学許可を取り付ける。すると、案外あっさり許可が下りた。そもそも、命の遺跡は一般に公開されており、わざわざ許可をとる必要などないとのこと。その時に彼女が見せた意味深な笑みが気になったが……それは置いておこう。

 

「話によると、カプ・テテフさんは()()()()で、気に入られてしまうととんでもないことが起きてしまうとのことでした。気を付けないといけませんね……」

 

「ああ。性格補正無(きまぐれ)よりも、素早さ↑・攻撃↓(おくびょう)特攻↑・攻撃↓(ひかえめ)であって欲しい」

 

「ふふ、ユウキさんでもとんでもないことは避けたい(そう思う)んですね。少し意外です」

 

「ここで失敗したら致命的なんだ。限りなく理想に近いのに、性格(その)一点だけでやり直しになるからな……」

 

 本当に、()()()()は折れそうになる。今でこそ多彩な道具*1を使って簡単に理想個体を作れるが、僕が旅を始めた頃は非常に敷居が高かった。具体的には個体値。無難に5Vor6Vにするとしてもまずそこまでが遠すぎるし、特殊型だと"めざめるパワー"を考慮する必要がある。この世界では威力が60に固定されているが、元の世界では個体値によって威力も変化する*2ため、調整がシビアだったのだ。しかも高個体値とめざパの両立ができたとしても、能力値は6Vに届かない。素早さが1違うだけで上を取られる以上、この差は非常に大きなものになる。

 いまでこそ"すごいとっくん"がメジャーなものとなっているが、当時は可能な人が極々僅かだからなぁ……。僕は探すのが面倒で自力習得したクチだ。

 

 そして、基準に満たなかったポケモンをどうするかも考えなけえればならない。そのまま逃がすと場合によっては環境が変化し、生存競争に敗れたポケモンの生息地が変わってしまう。そのポケモンや、努力値の効率的な取得場所を求める廃人連中からのフルボッコは避けられない。僕の場合は初心者用ポケモンとしてあちこちに配布したり、ポケモン大好きクラブに渡したりしていたが、それも限界はある。

 

 本当に、本当に、心が折れる作業だったんだ…………!!

 

「……どうしてでしょうか。話がかみ合っていない気がします」

 

 それは僕も思った。

 が、その辺を一々気にしてはいたら日が暮れてしまう。というか、既に傾いている。1日で3回も大試練を行った以上当然といえばそうなのだが。夜道はなるべく避けたい。僕は夜目が効くし、ポケモンの出現率が変更するため、一人であれば一切頓着せずに移動するのだが……今はリーリエがいる。危険な行為は控えるべきだ。

 リーリエの発言に曖昧な表情を浮かべつつ、僕たちは命の遺跡の中へ入っていった。

 

 


 

 

「すごく……大きいです」

「その発言は色々マズイ。だが確かに……デカいな」

 

 具体的には――岩が。

 命の遺跡に入った僕たちを待ち受けていたのは、一切のポケモンが存在せず、人工的に作られたであろう巨岩が行く手を阻む石造りの橋だった。数tはあるだろう岩が点在するのに石橋にはまったく影響がないあたり、これを作った古のアローラの住人は余程優れた技術力を有していたのだろう。

 

「見事な岩だ。色々と感じ入るものがある」

 

「はい!以前読んだ雑誌には、こんな大きい岩でも"かいりき"で移動させられるとあったので、ポケモンって本当に凄いですよね!」

 

「は?」

 

 え、マジで?

 軽く調べてみると、なるほど確かに、固定されているわけではなさそうだ。

 いや、でも、え、マジか。

 世界の違いって、こんなところにまで出てくるんだな……*3

 

「困りました。"かいりき"のライドギアを持ってない以上、私たちはここを通れないですし、諦めるしかないですね……あれ、ユウキさん?」

 

「どうした?」

 

「その…手に持っているものは何ですか?」

 

「あなぬけのヒモにねばりの鉤爪を括りつけたもの*4だな」

 

「なるほど。ちなみに、使用用途は?」

 

「ロッククライミング」

 

秘伝技(ロッククライム)ではなく?」

 

自力で登る(オリジナルの方)に決まっているだろ?」

 

 その答えを返すと、リーリエは完全にフリーズした。手を振ってみても何ら反応を示さない。主人の異常事態を察したのか、カバンのなかでコスモッグ(ほしぐも)がガタゴト動く。それで意識を取り戻した彼女は、既に鉤爪を岩にひっかけて強度を確かめている*5僕を見て、うっすらと笑みを浮かべた。

 

 その笑みを見て僕は―――覚悟が決まったんだと思い、もう一つのロープを渡す。

 

「ちがいます!わたしはユウキさんみたく特殊な訓練を受けた逸般人じゃないので、こういった肉体労働は専門外なんです!」

 

訓練を受けてない一般人(ミヅキ)でも出来たぞ?」

 

「ユウキさんに目を付けられる時点で一般人って嘘ですよね!?」

 

「まさか。(マサラタウン基準なら)一般人だ。(頂点(レッド)と比べたら)特に秀でてるわけでもない」

 

「一般人とはいったい何なんでしょうか……」

 

 隠している部分が多すぎて詐欺に近いが、まあ、あの町出身なら多少優秀レベルに収まるだろう。レッド・グリーンは当然として、オーキド博士も頭がおかしい。現役時代――つまりは黎明期、モンスターボールがないからという理由で瀕死になったポケモンを()()()()()()ポケモンセンターまで連れて行った伝説をもつ男だ。端的に言って化け物。

 

 身体能力をポケモンの強さで例えるなら、僕はケッキング――それも、特性が封印された出勤王(シュッキング)だ。伝説に匹敵する能力値の暴力*6はまさに圧巻と言っていいだろう。立ちふさがる敵を真正面から粉砕できる一般ポケモンの最高峰。それが僕だ。

 

 で、レッド・グリーン・オーキド博士はゲンシグラードンやゲンシカイオーガ、メガレックウザだ。住む世界が違う*7。まあ、この世界もそうだとは限らないが……あいつらが弱いなんて想像がつかない。

 

 見たところリーリエはコイキング*8である。雑魚だ。強くなるためには進化(がんばリーリエ)しなければならない。これはそのための経験値稼ぎだ。

 

「気張れよ。落ちても問題ないように下で待っててやる」

 

 そう告げると、彼女は途端にスカートを抑えて後ろへ下がる。表情には明確な怯えが含まれていた。

 

「あの、わたしスカートなんですけど……」

 

「で?」

 

年下の女の子の下着見たいならそう言っていただけますか?

 

僕はロリコンじゃない

 

 結局、ポケモンに乗って(リザードン:フライト)乗り越えることになった。

 

 


 

 

 最深部はやや大きな部屋になっていた。不思議な置物や模様付きの石があちこちに置かれており、神秘的なイメージを醸し出している。

 そして、一段高い場所にある高台には――

 

「カプ・テテフさんはいらっしゃらないみたいですね」

 

「ぴゅいっ!」

 

 ――不思議な石像があるだけだった。

 こちらと微妙に距離を置きつつ、リーリエは言う。嫌われたものだ。冒険へ出るにあたりスカートを履いているほうが悪いだろうに。

 

 そんな彼女の発言を聞いて何か思ったのか、コスモッグ(ほしぐも)がカバンから飛び出し、石像の方へと飛んで行く。

 

「あっ、ほしぐもちゃん!」

 

 リーリエが声をかけても止まらない。コスモッグは瞬く間に石像に到達すると、ぴゅいぴゅいと鳴き声をあげた。まるで、何かに呼びかけるように。

 

 そこではじめて気付いた。あれはただの石像じゃない。思えば、イッシュにも似たようなものがあった。古代の城周辺にあった石像――夢特性(ダルマモード)のヒヒダルマ*9だ。そういった先入観を持ってみると、確かにかすかな違和感を感じる。

 

「試してみるか。ネンドール、だいばくはつ

 

「――え?」

 

 先制攻撃だ。ネンドールが出現すると同時に大爆発を指示。ネンドールは色々諦めた雰囲気を醸し出しながらも、爆発へのカウントダウンを()()()()()始める。

 さあ、早くしないとお前の住処が滅茶苦茶になるぞ?

 

 

足元が 不思議な感じに なった!

 

 

 極光が走る

 ムーンフォースだ、と認識するのに一瞬の時間を必要とした。恐るべきはその火力。流石は守り神(準伝説)。一般ポケモンでは到底届かない、月を宿した極光。とはいえ、耐久特化のネンドールを瀕死にするには遥かに不足している。不意打ちの攻撃を受けたことで爆発のカウントは停止したが、些細なことだ。元から放つつもりはあんまりないのだし。

 

 石像があった場所を見ると、そこにはピンクのポケモンが浮かんでいた。

 とちがみポケモン、カプ・テテフ。エスパー・フェアリーで特性はサイコメーカー。素の特攻が高い上、サイコフィールド下での一致エスパー技は単純計算で威力2.25倍と高い火力を誇る。

 

 ゴクリ、と唾液を呑み込んだ音が聞こえる。人目でわかった。これをただのポケモンと侮ったら即死する。それどころか、並の準伝説と比較することすら致命傷だ。なぜなら相手は数百年前からアローラを護り続けたポケモン。築いた時間の長さは経験値に直結する。数百年もの時間があれば、育成上限(レベル100)へ到達していることに疑いの余地はないだろう。

 

 それでも、所詮は野生のポケモンでしかない。

 強いだけのポケモンに、僕が負けるなどありえない。

 

「交代、メタグロス」

 

 ポケモントレーナーとしての利点を行使する。

 カプ・テテフが天敵とするポケモンは鋼タイプだ。僕のパーティではメタグロスがその役割を担っている。一致技が唯一等倍以上で通じない上、向こうからは弱点を突かれるという相性の悪さ。こういった場面で交代が出来ないのが野生のポケモンの弱いところだ。メタを張られると打開できない。こうなると強引に力技で突破するしか手がないが――それを許す僕ではない。

 

「コメットパンチ」

 

 必敗の運命への微かな抵抗としてムーンフォースを打ってくるが、無意味。彗星(コメット)の如き(パンチ)が急所へと突き刺さり――勢いを止めることなく壁に激突する。逃げ場がない状態。それでもメタグロスには一切の容赦がない。スーパーコンピューターを凌駕する頭脳をただ戦闘のためにフル稼働させて拳を放つ。決して油断しない。一手一手確実に可能性を潰していく。

 

 カプ・テテフも反撃しようとはしているが、起点のことごとくを予測・対処されている。ゲームによくあることだが、至近距離では魔法を唱えるよりも物理で殴ったほうが速い。それと同じことだ。特殊技は遠距離から攻撃できるが、放つまでにほんのわずかなラグがある。普通なら特に気にするまでもないが、ミリ秒単位でシミュレーションを繰り返すメタグロスを相手にするには分が悪い。

 攻撃の起点を潰され、一方的に攻撃を受け続け、サイコフィールドも切れた頃、漸くカプ・テテフは倒れた。

 

 勝負は決まった。僕はボロボロになったカプ・テテフの頭をむんずと掴みあげる。想定よりも重症だ。瀕死を通り越して死亡寸前。コヒューコヒューとかすかに響く呼吸音だけが生きていることの証明する。うん、生きているのなら問題ない。

 

 かすかに空いた口元に、元気の塊を詰め込む。

 即座に蘇ったカプ・テテフは、敵意を込めたまなざしでこちらを見た。

 

 

足元が 不思議な感じに

 

 

「ストップ。僕にこれ以上攻撃するつもりはない。この島の未来について話しに来たんだ。

……とはいえ僕がトレーナーである以上、勝負するつもりなら受けて立つ。ちなみに元気の塊の在庫はまだ残っているぞ」

 

 

――ならなかった!

 

 

*1
かわらずの石で性格が固定。パワー系アイテムで対応する個体値が確定で遺伝。赤い糸で両親から5つの個体値がランダムに遺伝する

*2
30~70。一応全タイプで威力70にも出来るが、タイプ調整と威力調整を両方ともこなすのは中々心が折れる

*3
正確には第5世代のイッシュ地方から

*4
あなぬけのヒモは体に巻き付けることで洞窟から脱出できるアイテム。普通のロープとして使うこともできる。ねばりのかぎづめはバインド状態を最大まで持続させる効果。持ち物枠を圧迫してまで使う者は殆どいないが、こちらも普通の鉤爪としては使える

*5
危険な行為をするときは、安全確認をしっかりしましょう

*6
種族値合計670。一般ポケモンとしては断トツでトップ。伝説と比較すると、キュレムより高くレジギガス・グラードン・カイオーガと同じ。バケモノではあるのだが、レジギガスと同格と言われると途端にそうでもないように思えてしまう

*7
種族値合計770or780。種族値だけでなく特性も優秀で、禁止級アリのルールなら間違いなくこの三体のうち一体はパーティに入っている

*8
雑魚の代名詞。種族値は下から数えて同率9位。覚える技はわずか4種類で、タイプ一致技に至っては0。弱い。某実況者の動画に、色違いのコイキング1匹のみでホウエン地方殿堂入りを果たす「金鯱の逆鱗」という動画があるので、観てない人はぜひ(露骨な宣伝)!リアルに泣きそうになった

*9
体力が半分以下になるとフォルムチェンジする。種族値が高速物理アタッカーから特殊耐久向きに変わる面白い特性だが、面白いだけで使い勝手は悪い

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