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「すみません!!遅れました!!」
ゼンリョクで走ってきたらしきミヅキは、荒らげた息をそのままに、開口一番で謝罪する。
時計を確認すると、彼女の家の前で別れてから約3時間もの時が過ぎていた。まさか、あれから今までずっと1番道路で戦い続けていた訳じゃないよな…………。
「何があったんだ?」
「はぁ、はぁ………ふぅ。
ええっと、ずっと戦ってたら時間忘れちゃってて……。ポケモンを回復する時にお母さんが教えてくれなかったらすっぽかす所でした」
まさかの戦い続けてた案件が発生していた。相変わらずの真顔なのに器用に照れた雰囲気を浮かべるミヅキに戦慄を隠せない。
そういえば、ふと昔を思い出す。僕が最初にハルカと戦った時、その前に僕はその周辺にあるポケモンの群れをアチャモと共に何個か壊滅させていたのだ。それが生態系に大きな影響を与えたとして、ハルカにやたらと睨まれていたのを覚えている。
これは余談だが、その後ハルカと戦った時には既にアチャモはワカシャモに進化していた。もしかすると、当時の僕もこんな思いを抱かれていたのかもしれない。
そう考えると、人のふり見て我がふり直せ、という諺も理解出来る。これはその最たるものだろう。もっとも、直せるとは到底思えないが。
「勝負が始まるまでまだ少しの余裕がある。手持ちのポケモンと一緒に出店を回ってきたらどうだ?戦うだけがポケモンとの付き合い方じゃないんだから」
「それもそうですね。みんな、出て来て!!」
ミヅキが投げた
…………まだ少し疲労が残ってるか。そりゃそうだよな。ここまで戦い続けていたならば当然疲れるし、傷薬など、ポケモンセンターを利用しない回復には限界がある。
そこら辺を掻い摘んで説明しながら、2匹のポケモンと、ついでにミヅキにもポロックを与え、その辺の出店を回る。カントー出身のミヅキも知らなかったあたり、案外ポロックはマイナーなお菓子なのかもしれない。メリットも沢山あるんだが…………ヒンバスがきれいなうろこを使用せずに進化出来たり、ポケモンの見栄えが良くなったり。
人間が食べてもその恩恵を多少は預かれるため、ホウエン出身のトレーナーには美形が多いんだとか。あくまで比較的、という程度で個人差はある。僕にはまったく影響がないし。
それを話すとミヅキの食いつきがやたらと良くなった。やっぱり女子だな、と実感する。そんなに容姿に頓着して、旅を続けられるのだろうか。不安は結構大きい。
いよいよ儀式が始まることもあってか、出店周辺は先程見た時よりも更に人混みを増している。ホウエンのミナモやカイナに比べると流石に人は少ないが、普段の限界集落っぷりが嘘のようだ。そんなことを考えながら適当に品目をチェックする。
時に諸君。ビール片手にツマミを齧り、野次を飛ばしながらバトルを見物するのは心が踊る。それは全国異世界共通の真理ではないだろうか?
僕はそうだと確信している。故に――――
「オヤジ、ビール1杯くれないか?」
「いや兄ちゃん未成年だろ。甘酒やるからそれでも飲んでな」
――――それでも、僕は
チャンピオン時代はそこら辺には目を瞑って貰えていたんだがなぁ…………。大誤算の大誤算たる所以を四天王と一緒にゲラゲラ笑って見ながらビールを飲んでたというに!
ちなみに、アイツのドヤ顔は十中八九フラグだ。アレが出た瞬間、今度はどうやってあのドヤ顔が崩れるのかトトカルチョをしている。四天王内ではプリムが最も勝率が高く、それ以外の、例えばジムリーダーや元チャンピオンを含めると途端にミクリが浮上する。そしてツツジが腐上する。曰く、私が
見事に腐ってやがる。
「そういえば、ユウキさんはポケモンを出さないんですか?さっき手本を見せてくれた時に使ったポケモンとか」
「ああ、
僕の手持ちのポケモンはここではかなり珍しい上に大きいヤツもいるから、下手な所で出すと混乱が起きる。まあ出す機会は作っているからその時に
それよりも、良いのか?そろそろ時間だぞ」
「?……あ、そうみたいですね。じゃあ、先に行ってます」
ポケモンをボールに戻し、人混みを縫うように走り去っていく彼女の姿を見ながら、僕はどうにかしてビールを手に入れられないものかと頭を悩ませていた。
***
「ではこれより、島の守り神――カプ・コケコに捧げるポケモン勝負を始めます」
そして始まった勝負の決着は極めてあっさりしたものだった。
というか、ミヅキが強くなりすぎた。
最初のポケモンは、ミヅキはツツケラ、ハウはピチュー。
飛行対電気ということでミヅキの方が不利ではある。だが、ミヅキのツツケラは攻撃が高い上、進化すると極めて多様な技のバリエーションを持つポケモンだ。技には4つという上限があるため流石に全部は覚えられないが、有利だと思っていた勝負で思わぬダメージを受けて負けることもありえる。
そして対するピチュー系列は全体的に技の範囲こそ狭いものの、素早さが高く、ヘタをするとなにも出来ないうちに負けかねない。さらに、リージョンフォームのライチュウはエスパータイプが追加され、対応出来る範囲が増えている。羨ましいな、こっちのライチュウにもエスパータイプ寄越せよ。
2人の将来のパーティーを想定しながらビールを口に運ぶ。キンキンに冷えたビールが喉を通り過ぎる際に生じる特徴的な苦味と刺激の暴力を楽しみながら、しょっぱめに作ったポロックをつまんだ。この世界に来てから1人で作った数を重視した粗悪品ではあるが、程よい塩味はビールとよく合う。やはり祭りの雰囲気ってのは一種の魔法のようなものだ。決して美味しくはないものがやたらと美味く感じる。
その間もフィールドから目は離さない。昔からの習性だ。ホウエンリーグのルールはなんでもあり。鉄火バトンを始め、ホウエンでは高速化したバトルも数多くあった。超高速で行動し、一瞬の油断はおろか、指示と行動の隙間にさえ攻撃を入れるスタイルだ。そういった
その経験が、今は役にたった。
何故ならば、ビールを飲み、ポロックを食べるというこの
「ツツケラ、いわくだき」
ピチューはたおれた。
ピチューはたおれた。
「…………えっ?」
え、一撃で終わり!?
それがおそらく見ていたであろうほぼ全員の感想だろう。しまキングの孫であるハウは昔からこの町に住んでおり、その実力は観客全員がよく知っている。
流石はカプに興味を持たれたもの……と勝手に戦慄を抱いている観客を尻目に、勝負は次の段階へと進む。
「強いねーミヅキ。でもー、俺も負けないよー」
次にハウが繰り出したのは水タイプの御三家、アシマリだ。最終進化するとアシレーヌになるが、このポケモンは水・フェアリーという、すべてのタイプに等倍を出せる優秀なタイプになる。そして弱点耐性も高く、耐久性という点でも優秀だ。あと綺麗だし。僕があの3匹の中から1匹を選ぶならば、それはきっとアシマリだろう。
まあ進化形がいかに優秀とはいえ、現状戦っているのはアシマリだ。ただの水単色で、ステータスも未進化のポケモン故の哀しみか、イマイチパッとしない。
これはつつくで一撃か?と思ったが、見ればツツケラの動きが妙に鈍いことに気付く。
…………麻痺ったか。
結果的に使用されず準備段階だったでんきショックの電気によって、ピチューの特性である静電気の効果がブーストされて、結果的にツツケラは麻痺になったって感じか。
運がいい――だが、運を引き込む力も一種の強さだ。
余談ではあるが、その強さを極めたのが向こうのジョウト地方における
攻撃はどんな技でも命中する上に必ず急所にあたり、乱数までもが向こうの味方。挙句彼がタマゴから孵したポケモンは確定で6Vになるという幸運の申し子だ。
そしてミヅキはツツケラを引っ込め、モクローを繰り出した。
草・飛行タイプという弱点がかなり多く、耐性を持たれている相手も多い、他の2匹に比べると序盤がハードになるポケモンだが、進化すると草・ゴーストのジュナイパーになる。覚える技の打点は低いが、攻撃力が高めなので頼りにはなるポケモンだ。それはそれとしてダダリンが欲しい。
そしてアシマリは交代したタイミングに合わせてみずでっぽうを放つも、相性に加えて育成差もある。ロクにダメージを与えられない。
そして返しの刃で繰り出したこのはをアシマリは耐えきれず、勝負はミヅキの勝ちで終わった。
***
「そこまで!この勝負、ミヅキの勝ちとする!!」
ハラさんの声が辺りに響き渡る。
育成の差がハッキリ出たが、2人の良い将来を予期させる勝負だった。
だからこそ断言出来る。
あの2人はもっと強くなる。彼等の旅路の果てがどんなものになるか、未だ想像はつかない。だが、一つだけ。今よりもっと強くなるというのは確かで――――
――――強くさえあれば他にはなにも要らない。
こんなことを思っている時点で自分が
ロクデナシなことは自覚している。だが、その程度で僕がバトルを辞めるなど有り得ない。ブレーキなどミシロから出る時には既にぶち壊した。滾る戦意をそのままに、戦いのロードを疾走して駆け抜ける暴走機関。
それでいいしそれしか要らない。
さて、次は
健闘した両者を称えるハラさんと、カプの囀りを軽く聞き流し、滾る戦意を抑える努力を放棄し、垂れ流す。
するとそれに気付いたのだろう、ステージ上の3人が驚愕の眼差しでこちらを見る。
「ああ、悪い。少し昂った。
…………ハラさん」
「うむ、わかっておりますぞ」
「ど、どうしたんですか!?」
ミヅキが慌てた様子で聞いてくる。そういう気配に敏感なのだろうか?さっきもいの1番に反応したのはハラさんではなく彼女だったのだから。
ちなみにハウはなんというか…………なんというべきだろうか?これ。
単に鈍感というだけでは言いきれない。戦意に反応していないわけではないんだが、如何せんそれが薄い。認識していないというのもまた異なる。
なんというべきか、正しく理解しているのに認識していないというべきだろうか。滅多に見ないぞこんなメンタルしているヤツ。祖父にしまキングを持った影響か?
「なにって…………バトルだよ。僕とククイ博士との勝負だ。
曰く、アローラでも5指にはいる実力者らしいからな。ゼンリョク祭りで戦おうと頼んでいたんだ」
「そういうことですからな、ミヅキもハウも、観客席に回ってくだされ。
このハラは審判としてここに立ちましょうぞ」
「うんー」
「…………わかりました。私も、ユウキさんの戦いには興味がありますからね」
「ありがとう。審判は頼んだぞ、ハラさん」
「任されました。
…………ところで、ククイ博士はどちらですかな」
「ああ――――今来たぞ」
そして、全員がリリィタウンへの入口を見る。
果たしてそこに、彼の姿はあった。
普段かけていたサンバイザーを外し、鋭い目でこちらを見据える彼は、ポケモン博士の――――いや、違う。
「合図を出したら入ってくれ、って聞いていたけど、まさかあんな膨大な戦意を合図代わりに出すとはね。以前の立場的にかなりの実力があると思ってはいたけど、まさかこれ程とは思わなかった」
「くはっ。それを軽く受け流しておいて何を言う。所詮は博士だと思っていたが、安心した。優秀なトレーナーでもあるようでなによりだ」
お互いに軽口を叩きあい、視線を交わす。息が詰まるようなフィールドの緊張感。ああ――これこそが勝負の醍醐味だ。
唇が歪に釣り上がっていることを自覚する。仕方がないだろう、待ちに待った勝負なのだから。
手持ちのポケモンがボール越しに軽く頷いたのを見て、一呼吸。思考のスイッチが完全に切り替わる。
一般にゾーンと呼ばれる領域へと入り込み、視界に映るは極彩色の世界。
上限など知らぬとばかりに猛る戦意に対し、思考だけは澄んだ水のように冷ややかだ。
「これより、第二試合を始める!」
ハラさんの声が遠く聞こえる。
そして、僕達は最初のポケモンを繰り出した。
プロローグでの主人公の鬱オーラの割に、なかなかにチャンピオン生活をエンジョイしている様子。やってる事は結構外道だけどな!そして大誤算は安定の大誤算。その点とカッコイイ所とのギャップでホウエンではファンクラブが出来てるらしいです。発足はルネジムから。
ちなみに、主人公が良い空気吸ってるのはフロンティア紹介されて飢餓感もマシになった頃だからね。ストレスを発散して周りとの付き合いを愉しむようになった、みたいな。
ツツジさん?……………………ああ、いい人だったよ。
前回の話でどうして家に訪れたのはククイ博士ではなく主人公&リーリエだったのか、ということですが、その時博士は研究所でバトル感覚を戻してました。そう、ユウキと戦うため、研究によって錆び付いた体を動かそうと必死に努力していたのです!…………なんだこの主人公臭。そして主人公のラスボス臭。
ポケモンの主人公ってそんなものか(レッドをみながら)