ユウキさん達と別れてから、私はハウオリシティの港へと足を運んでいた。
私としては早く次の街へと進みたかったんだけど、ケンタロスがまた道路を塞いでいて通り抜けることが出来なくて。
なのでそれ以降はのんびりと街を巡っている。一旦別れて各自で行動している手前、他の人を誘うのも妙に気まずい。それに加え、必要そうなものは買ったし昼食をとろうとお店に入ってみたところ、ユウキさんがポケモンバトルで他のお客さんを蹂躙していたのを見てすぐさま回れ右。あんな人と関わりを持ってるって知られて私も戦々恐々と見られたら羞恥心が天元突破する。
てかユウキさん、なにやってるんですか…………。
という訳で、道端でたまたま会ったハウに勧められてマラサダを購入。店内はとても混んでいたので持ち帰りにしてもらって、今潮風を浴びながら食べているのだ。勿論、ポケモンたちも一緒にね。
「どう、美味しい?」
マラサダを食べているモクロー、ケララッパ、コイルに話しかける。彼らの好みがわからなかったからとりあえず甘いマラサダを買ったんだけど、ひとまず喜んでくれているようで何よりだ。
面子が増えていたり、進化しているのはトレーナーズスクールでの実践練習の成果だ。あの周辺にはポケモンの出る草むらが多く存在しているので、野生のポケモンとバトルを繰り広げたり、スクール通いのトレーナーと勝負を繰り広げたりしたところ、ツツケラはケララッパへと進化を遂げ、コイルをゲットすることが出来た。モクローも進化まではあとちょっとかな。かなりのレベルアップができたと思う。
そんな風に時間を過ごしていると、誰かが私に話しかけてきた。
「その特徴的な真顔…………ひょっとして、キミはミヅキさんですか?」
「…………そうですけど、あなたは?」
真顔ってなにさ真顔って。
自覚はしてるし治す努力だってしてるのに、私の表情筋はまるで凍ってしまったかのように動かない。生まれつきのものだ。私はこれが原因で幼い時から周囲に気味悪がられてたし、お母さんがこの地方に引っ越した理由の一つにもそれがあるんじゃないかな。おおらかな人が多いアローラ地方なら、そんな気にする人もいないんじゃないかって。直接お母さんが言ってきたりはしてないけど、たぶんそういう事なんじゃないかなって思う。てかそうであって欲しい。リージョンフォルムのニャースに会いたいという理由だけで引っ越すなら、これからも頻繁に引っ越すことになりかねないし。
話しかけてきたのは浅黒い肌にピンクブロンドの男の人。温和そうな顔つきで、危険そうな雰囲気は感じないからひとまず安心。でも、初対面で人の地雷を全力で踏み抜いてきたという底知れなさや、どうして私の名前を知っているのかという疑問はある。知り合いの旧ロケット団員だって「一見温和そうな奴でもヤバい奴はヤバい。あと無表情の奴はマジで狂ってる。赤かったらその3倍はキ〇ガイ…………真顔って無表情の仲間なのか?」って言ってたし、過信は禁物かな。
「失礼。ボクはこの島のキャプテンをしている、イリマという者です」
「あっ、キャプテンさんだったんですか」
だけど、その一言に疑いは一気に払拭された。
ククイ博士から聞いたことがある。キャプテンとは20歳以下でありながらも試練の管理者――つまり、最低でも地域の主とされる強力なポケモンを育て上げるだけの実力を有する優秀なトレーナーだ。
でも、そんなトレーナーがどうしてわざわざこんなところに?
私の疑問が届いたのか、イリマさんは柔らかな微笑みを浮かべて話す。
「ボクの家はこの近くにあるので、海を見たくなった時はよくここに来るんです。とはいえ頻繁って程でもないので、ここでキミに会えたのはラッキーでした」
「ラッキー、ですか?」
「ええ。カプ・コケコに会ったというだけでなく、バトルの腕もククイ博士やハラさんが絶賛していたトレーナーなので、試練の前に少し話してみたかったんです」
そんなことを言われても、困惑の方が大きい。カプ・コケコには助けてもらっただけだし、バトルにしたって直後にそれ以上のインパクトがあったから自分ではあまり理解出来てないし。
「そんなこと言われても――――」
「ヨヨヨー!挨拶なしが俺たち《スカル団》の挨拶!」
「キャプテンのポケモン俺たちにくれないッスカ?」
戸惑いの声をあげようとするも、それを掻き消す大声が響き渡る。
その方向を見てみると、黒いタンクトップ姿の男性2人組がなんか変な動きをしながらこちらへと向かってくる。
…………この人達、誰?
困惑の表情でイリマさんを見ると、彼はあの2人組を横目でチラリと伺って、
「そうですか?ボクには凄い潜在能力を持っているように見えますけど。キミはきっと、この島巡りで大きなものを手に入れることが出来ると思いますよ」
一切の躊躇いなくシカトして、そう私へと話しかけた。
これにたまったものじゃないのは例の2人組だ。先ほどまでの
「ちょ、ちょっとお前、スルーするとはどういうことだ!?」
「シカトっスカ!?俺らに関わるほどの価値もないとか言ってるんじゃないでスカ!?」
「そうそう、2番道路にはボクの試練がありまして…………」
「そ、その…………そちらの人たちはお知り合いですか?」
それでも平然とシカトするイリマさん。これはちょっと流石にあの2人組が哀れに思えて来たので、疑問を投げかける。スカル団、って言ったっけ?
「あぁん?ユー、俺達の事が知らないってのか!?」
「うん。だから教えて欲しいんだけど…………」
「それはボクから説明しますね。この地方の恥を晒してしまうようで申し訳ないのですが、彼らはスカル団というゴロツキの集まりです。この島のどこにでもいて、住民の頭を悩ませている面倒な手合いですね」
…………もしかしてイリマさんって少し黒かったりするのかな?意気揚々と自分たちの説明をしようとしたところをいい感じにジャマする彼の姿をみてふと思う。
彼らはスカル団、というらしい。うん、これからは2人組をスカル団員ABと呼ぼう。ともかくスカル団とはこの地方密着型で平均年齢が大幅に引き下がった超ダウンスケールなロケット団みたいなものらしい。イリマさんに相手してもらえてなかったり、島の恥部扱いだったりするあたり、そこまで深刻なものでもないっぽい。精々が黒歴史扱いみたいな?
そう考えると、彼らに向ける視線は自然と生暖かいものになった。
「や、やめろ!そんな目で俺らをみるな!!」
「何スカその『ああこいつら明日には出荷されるんだよな。かわいそうだけど、これも運命なのよね』みたいな視線は!」
「そ、そこまで酷いことは思ってないよ!精々が『うわ頭可哀想。近い将来黒歴史扱いされそう』くらいです!」
「「グフォッ!!」」
「えっ」
思っていたことをそのままに伝えると、スカル団ABは精神にだけでなく肉体的にもダメージを受けたかのように腹部を抑えて蹲る。私を見るイリマさんの視線も微妙に引きつっていた。何故に?
「…………こうなりゃポケモン勝負だ!俺らが勝てばお前らのポケモンいただくぜ!」
「やるスカやらないスカどっちっスカ!?」
「…………しかたないですね。ミヅキさん、マルチバトルでどうですか?」
「えっ、私もなんですか?…………わかりました、それでお願いします」
そして私は一旦ポケモンをボールに戻し――――
***
…………随分と面白みのないバトルだった。先ほどまで見ていた勝負にはそんな感想しか思い浮かばない。空になったビールの缶を苛立ち紛れに握り潰し、バックの中へと放り込む。バックに入った荷物はデータとして保存されるため、液漏れや混ぜるな危険などを気にしなくていいのは非常に便利だ。
ケララッパ&デカグースvsズバット&スリープ。
パッと見た瞬間にわかるだろう、この試合の行方が。
結論から言おう。スカル団したっぱのポケモンは、どちらも一撃であっさり倒れて敗北した。
…………雑魚だ雑魚だと思っていたが、まさか抵抗さえ出来ずに確一されるほどだとは思わなかった。ツツケラをケララッパへと進化させている以上、ミヅキの育成レベルはそれなりに高いレベルにあると知れたのは収穫ではあるが――――いや、正直ないわー。
僕が知りたかったのはいかに適切な指示を出せるか、ポケモンとの信頼関係はどうか、という点であり、
そう、ミヅキは育成型のトレーナーにはなれない。単純なレベル上げ程度なら充分だが、基礎ポイント用の虐殺には躊躇いが生まれるだろう。彼女は優しすぎる。加えて僕の講義が虐殺を過敏にさせてしまった。もはや彼女が育成型の極みへと至る可能性は皆無だろう。もう少しドライだったなら、僕ももっと突っ込んだ説明をしていたのに。
ともかく、開幕速攻確一で決めたためにロクなダメージを受けていなかったとはいえ、一応キャプテン君(イリマ、だったか?)はミヅキのポケモンを回復させる…………なんでそこでかいふくのくすり?おいしいみずで充分だろ。ミヅキもポカンとした顔で見てるし、これだから実家が金持ちのトレーナーは常識がなくて金蔓扱いされるんだ。
僕なんて序盤はおいしいみずを売っている自販機に札突っ込んでボタン連打してたぞ。
まあ、チャンピオンになってからはだいぶ楽になったんだが。片っ端からバトルを挑み、社交パーティで連勝し、四天王にカツアゲを仕掛けた結果、所持金は億単位にまで登っている。幸いこの世界でも金は変わりないようで、ひとまずの行動を起こすには充分な軍資金となっている。
話がそれた。
ポケモンを回復させ終えたイリマはミヅキにポケモン勝負をしようと誘い、ミヅキはそれを了承したのを見て、ひとまず安堵する。将来的にはミヅキの方が圧倒的に格上になるとはいえ、現在の力量はまだイリマの方が上だ。加えて彼はどうやら手加減をするらしく、この辺りのレベルに合わせたポケモンを使うと言っている。
是非とも後に僕と全力でお手合わせ願いたい所だが――――流石に自重する。一応僕も試練を受ける身だ。管理者と関わる機会はまだあるだろうし、その時までに取っておく。今はミヅキの勝負が優先だ。
決して何も見落とすことのないように意識をフィールド上へと集中させ、ゾーンの1歩手前まで入り込む。
僕以外の全てが遅い世界で、僕はボールが投げられるのを見た。
***
試合形式は2vs2の勝ち抜き戦。特に珍しくもないルールなのに、イリマさんが自然体で醸し出すプレッシャーにボールを持つ腕が震える。
年齢的には大きな違いはないはずなのに、否が応でも感じてしまう圧倒的な格の違い。この周辺のレベルに合わせたポケモンを使うといっていた以上レベル的には私の方が上ではあるけど、決して油断は出来ない。迂闊に仕掛けてしまえば返しの刃に容易く倒されてしまうだろう。
――――――これが試練を任させたトレーナーの実力なんだ。
対決してみてわかるその事実を前に感情が高ぶる。ここでニヤリと笑えていればベテランのトレーナーっぽいんだろうけど、残念ながら私の硬直した表情筋は全くもって仕事をしてくれない。
そんなことを考えられる辺り、だいぶ緊張は解れてきたんだろう。それに、プレッシャーを受けるのはこれが始めてではない。それに、そもそもあの時のユウキさんの闘気と比べたらと考えるとだいぶ楽なように思える。
ゆっくりと息を吸い、そして吐き出す。そして胸に手を当てると先程までの激しい鼓動は最早なく、いつも通りの心音が感じ取れた。
――――うん、大丈夫。
そして私はボールを手に取り――――
「頑張れ、コイル!」
「ドーブル、行ってください!」
――――フィールドへと投げ入れた。
こちらのコイルに対し、イリマさんが繰り出したのはドーブル。
スケッチという技を使うことで本来覚えられない様々な技を覚えられる反面、全ステータスが極めて低いことから使い手を選ぶポケモンだ。実力が高いトレーナーが扱うと、途端に深刻な脅威と化す。
「でんきショック!!」
「
そうこのように、って…………え?
今なんか、手加減にはまったくもって相応しくない殺意溢れるガチな技の名前が聞こえたような気がするんだけど。
ドーブルは前方から襲いか来るでんきショックをステータスに依存しない技術によって巧みに回避し、コイルの懐へと入り込む。やはり手加減しているとはいえ年季の違いか、まともなダメージが入らない。そしてドーブルはまるで絵でも描くかのように筆を操り、コイルのすぐ近くにきのこのほうしを出現させる。
直後にドーブルは持っていた白いハーブを噛みちぎる。こころなしか動きにキレがうまれ、精度が高くなったように感じる。…………もしかして特性はムラっけだったりする?命中率が二段階上昇したとか。
「つるぎのまいです!」
コイルが眠っているうちにと、イリマさんはドーブルに積み技を指示する。技の殺意高すぎない?どうせこれからバトン使うんでしょ?薄々察しはついている。今すぐコイルを交換するべきか悩んだけれど、その決断を下すのが遅すぎた。たとえいま交換しても、そのポケモンがイリマさんの2匹目のポケモンに即座に狩られては状態異常のコイルだけが残るという意味のない結果になってしまう。
そして再びドーブルに起きる変化。…………もしかして特防が上昇して特攻が下がった?
「起きて、コイル!!」
「バトンタッチ!」
案の定イリマさんはバトンをし、次のポケモン――ヤングースへと入れ替える。攻撃が2段階上昇している以上、たとえレベルが上で一致攻撃に耐性をもつタイプでも確一されかねない。
「みがわりです!」
そしてヤングースの攻撃が――――来ない?ああ、眠っているうちに予備の盾を作ろうとでもしたのかな。
でも体力の1/4を削って作ったみがわりは、だけどようやく目覚めたコイルのでんきショックによって消滅する。
………………後から振り返ってみると、この時私は事前の警戒の意味もなく、油断してしまっていたんだろう。ポケモンバトルは机上の空論では成立しない、それこそ伏せられたカードが表になるだけで結果が変わってしまうものだという意識が足りていなかった。
「
…………一応伝えて起きますが、ボクのヤングースの特性は
「――――ちょっ!?」
その油断は、暴力的な殺意を持って牙を向けた。
そのポケモンの覚えている全ての技を使わない限り繰り出せない、ノーマルタイプ有数の威力を誇る技がコイルへと直撃する。攻撃ランク2段階上昇で、しかも
だけどヤングースは、デメリットのない技を放ったのになぜかダメージを受けたように見える。もしかして、いのちのたまを持たせてる?
ならーーーー希望はある。
「ッ――――お願い、モクロー」
次に繰り出すポケモンはモクローだ。耐性を持っているわけでもないし、防御力が高いわけでもない。加えて高火力なわけでもないけれど、今必要なのはコイルに比べると優っている1つ。
「モクロー、はっぱカッター!」
若干レベルが高いです。具体的にはLv.13に対してLv.16。
素早さには積まれていない上、種族としての素早さはヤングースとモクローだと同じくらいなので、あえて後攻を取ろうとしない限りレベル差で先に攻撃できる。
そしてみがわりやいのちのたまで体力を削り続けたヤングースははっぱカッターを耐えきれず、最大の脅威は案外あっさりと地に伏した。
…………この光景をみると、ユウキさんは否定していたけど、やっぱりレベルをあげて物理で殴るのが一番安定するんじゃないかなーなんてことを思ってしまう。
「…………結末は見えましたか。ですがボクもトレーナーですので、最後まで足掻かせてもらいます。
――――ドーブル、頼みました」
そう言ってイリマさんはドーブルを繰り出した。
キノコのほうしは草タイプであるモクローには通じないうえ、バトンが繋がる控えのポケモンもいない。こちらに有利な状況ではあるけれど、だからといって油断は出来ない。ヤングースの一件で思い知った。だから加減なんてせず、最後までフルスロットルで行かないければならない。
「しんそくです!」
神速という名にふさわしい圧倒的な速度で接近するドーブルに、モクローはマトモな反応を返さない。防御姿勢をとることさえ出来ずに攻撃されて吹き飛ばされて――――違う、自分から後ろに飛んだんだ。ダメージをできるだけ抑えたうえ、飛行タイプという自分の強みを生かして空中で姿勢を取り戻す。
「はっぱカッター!!」
そして返しのはっぱカッターがドーブルへと命中し、私たちの勝利が決まった。
SMをやっていた時、ストーリー上仕方ないとはいえ防衛戦で戦うキャプテンと街とかで戦うキャプテンのレベル差に驚いた記憶があります。イリマなんて約3倍のレベル差つけられてますし。
というわけで、チャンピオン防衛戦で戦わない系キャプテンを多少強化します。目安としてはポニの険路あたりのトレーナーくらい。
イリマの手持ち(手加減)
ドーブル/ムラっけ
*しろいハーブ
・キノコのほうし
・つるぎのまい
・バトンタッチ
・しんそく
ヤングース/てきおうりょく
*いのちのたま
・みがわり
・とっておき
ゴーストタイプに完封されそうですが、実の所イリマ君はマラサダ食べているミヅキの手持ちを見てポケモンを決めたので、もし彼女にゴーストタイプがいれば違ったパーティーを使います。
そのうえあくまで手加減なので構成も少し甘いです。え、夢特性?タマゴ技?なんのことでしょう(すっとぼけ)