ただしこれは、ドンドルマでの物語である!
泰然自若の剣斧 1
使っていた武器が折れた。それも緊急クエストの真っ最中に。砦蟹シェンガオレンに踏まれて折れた。
武器というものは本来、大型モンスターの攻撃を受け続けても大丈夫なように頑丈に作られている。それを折ったシェンガオレンの体重を嘆くべきか。その程度で折られるほど武器を乱暴に扱い、劣化させてしまったことを反省すべきか。
それでもひとつ言うなら、折れたのがほかのモンスターの狩猟ではなくシェンガオレンの狩猟であったことを感謝すべきなのだろう。武器が折れても大砲、バリスタ、撃龍槍、対巨龍爆弾と豊富な設備が揃っていて、そのおかげで晴れて俺はギルド87人目のG級ハンターとなったわけだ。
「で、爺さん、コレ、何とか直せねぇか?」
「諦めるんだな。」
加工屋のグレン爺さんは首を横に振った。俺の相棒だった業斧グラバリタはイビルジョーの素材を鎖で束ねたような斧だ。素材が大丈夫なら鎖がダメになっても意外と直せるのではないか?とも思ったが、無理なものは無理らしい。
「じゃあ、他の素材でこれと同じ…いや、これよりいい奴って作れねえか?」
「
確かにそうだが。使わないものをいつまでも持っている、と言うのは性に合わない。だが。
「安心しろ爺さん、
俺は今、大量の
「ああ…」グレン爺さんはどこか遠い目をして続けた。
「それは知ってるんだ。新しいG級ハンター様だぞ?もうとっくに町中で話題になっとるわ。」
だがな、と爺さんは続ける。
「シェンガオレンの素材じゃあ、スラッシュアックスは作れねえんだ。」
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「オーダーメイドスタジオ ヴィーラント」。それがこの店の名前だ。
さあ、今日のお客さんは誰かな?
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グレン爺さんいわく、「鍛冶屋はレシピがないと武具を作れない」。
いや、作れない、というのは語弊がある。「まっとうな性能の、G級で通用する武器などレシピなしではたとえどんな素材を使っても不可能だ」とのこと。「工房が趣味で作った」さぼてんハンマーやおやすみベアは、今ではきちんとレシピを使っているためまっとうに強い武器だが、レシピのなかった15年前は本当にネタ、担いでいったハンターが「素手のほうがマシ」と言って帰還した例すらあるという。
死ななくてよかったなそいつら。
というか、そもそもなぜそんな武器を使おう、と思い立ったのだろうか。
趣味で買った、面白半分で買った。もしくは、「その武器を使って勝てる勝算、その武器でないとできない先方があった」か。前者2つならまあ自業自得だが、後者ならまあ…武器の性能がついてこれなかった、ということか。
だが、そんな状況を覆す例外が存在する。それが「レシピを書く側の鍛冶師」の存在だ。加工屋に卸されるレシピの多くは王立武器工匠によるものだが、それ以外の者も少数存在するらしい。つまり、まっとうな性能の、G級で通用する武器を、オーダーメイドできる。そんな規格外の加工屋も存在することになる。
グレン爺さんにもらった地図の通りに歩いてたどり着いたのは、まさにそういう店だった。
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風情ある木の扉を開けた先にあったのは、工房、といったものではなかった。
センスのいい調度品、客を休ませるための椅子と机、なるほど。ある程度高級なカフェと考えるならばいたって普通の内装だ。
ログハウス調に木で覆われたあたたかな部屋は、客を安心させてくれる。なんせここはレシピを使わない加工屋。腕が優秀なのは聞き及んではいるが、その職人に美的センスがなかったら、実務的性能だけを考えるような職人だったのであれば、まあ、それは拍子抜けだろう。
武器はハンターの魂。それは命を預ける武器だから、というもの以外にも、「そのハンターの象徴」とされるから、というものもある。G級第二位、「英雄」ルードヴィヒの「角王剣アーティラート」やG級第三位、「歌姫」ディーヴァのトラグシリーズ・セリスィシリーズなどが有名だ。
俺も68人しか居ないG級ハンターの末席に名を連ねたのだ、どうせ「ベルデの象徴武器」となるならば、より格好いい武器であってほしい、というのは人情だろう。
「ああ、お客さんかな?」背後から声がした。振り向くと、そこにいたのは年若い少女だった。
金色の長髪を一本に結び、最近の町娘、といったいでたちだが、首飾りを見ると見たこともない飛竜の鱗で作られているあたり、この工房の関係者、とみるのが適切だろう。大方端材で作った、というところか。
「嬢ちゃん、ここの娘さんなのかい?」「違うよ。
「そうか。じゃあ早速注文したいんだが…」
「あれ?一見さんだよね?」「そうだが…それがどうした?」一見さんお断り、ということか。グレン爺さんには地図しかもらっていないが紹介状も必要だったのかもしれない。
「私の言ったことに疑問とかないんだね。」
お?なんとなく好感度が高めな気もするな。もう俺はオジサンと呼ばれることもあるくらいの年にはなったが、それでも可愛いお嬢ちゃんから好印象を持たれるのは嬉しいものだ。
「まあ、G級になった人なんだし、
なに?ちょっと俺の先行きが不透明になってきた気がするぞ?
そんな俺の内心など知るべくもなく、
「じゃあ、ご注文はどのように?」
「手持ちの素材で作れてG級で通用するスラッシュアックスだ。性能は
「了解。メイン素材はこの前襲ってきた砦蟹でいいんだよね?」
「話が早い。素材の帳簿は持ってきてある。天殻とかも使っていい。」
ハンターは多くのモンスターの素材を所有している。そして狩猟にいかない時はいらない素材を切り詰めて生活していくのだが、当然、そんなものを置いておく場所を持っているハンターなどほとんどいない。これを解決するため、ハンターズギルドは素材の預かりサービスを行っている。ネコタク、クエスト斡旋などと並ぶギルドの重要業務だ。
素材を受け取るためにはギルドカードが必要になるので、ギルドカードをなくすなどあっては言語道断のはずなのだが、俺の友人にも数人失くしたやつがいる。ハンターには杜撰な奴が多いのだ。
そして、その素材の目録を加工屋に見せ、ともにギルドに取りに行くまでが加工屋への委託、ということになる。
「じゃあ、早速行こうか。」
だから、彼女がこう言いだしたのも、きっとそういうことだと思っていたのだ。
「ああ。」
そして、着いたのは大老殿だった。