「この男を倒してくれないかな? 報酬は弾む、何をしてもいい。なんなら殺してもいい」
中性的で童顔な青年は俺に依頼を頼んで来た。殺しの依頼である。どうやら俺が只の人間ではないと気づいたらしい、それも当然だった、その青年も俺と同じ異形な者であるから。
「この金髪ジャージ野郎とゴリラ野郎はサグーらしいな。幾らだ? この仕事はリスクが高い、数十万程度で動くと思うか坊っちゃん?」
俺は青年の軽く捻り潰せそうな頭を掴み睨んだ。だが憶する様子もなく俺の顔に何かをぶつけた。
「これぐらいでいいかい?」
それはなんと数百万はありそうな札束が入った封筒だった。中身はちゃんと諭吉で一杯。
俺はご機嫌になり青年が座っていたソファーの隣で肩を組んだ。
「なんだよ、話がわかるじゃねえか」
俺の行動に青年は馴れ馴れしく感じたのか、顔に強烈な痛みが走った。殴られて鼻血が出た。
「じゃあ君達に任せたよ」
そう言って青年は去ろうとしていた。普段なら半殺しにしてやろうかと思ったが金がある客だ。ここはぐっと堪えた。
「チッ! ちゃんと依頼の金は守れよ! クソガキがッ……」
俺は酒が入ったウィスキー瓶をガブ飲みし怒りを酒と共に流し込んだ。よく考えてみるとこれ以上美味しい話はなかった。
危険があるが強い奴をぶちのめせる。それに前金と報酬は別らしい。
依頼主の青年が持って来た男の写真に酒をぶっかけた。
謎の少女にコテンパンにされた次の日だった。
ライオニックは昨日から不運続きで酷く頭を痛めた。昨日のバイトのクビは勿論、右腕骨折、この世界に来てからは良いことなど滅多に起きなかった。
自分のダンボールの箱で固定され包帯でぐるぐる巻きされた右腕を見つめた。まだズキズキ痛むが飯を食えば治る。
「次……頑張ろう」
焼け石に水にもならない自分への励ましだったが、少し前向きになれた気がする。
それはそうとライオニックは畳の上で三毛猫と戯れているKに話しかけた。
「このアパートはネコ禁止らしいぞ。大丈夫か?」
K は相変わらずの無表情なせいかネコと遊んでいる様子は調教師の特訓に見えた。
そのネコは今朝、K が散歩中に足から血を出して怪我していると連れ込んで応急処置をしてやったらしい。ライオニックも怪我は可哀想だと快く部屋に入れたが、後ほどアパートでネコは飼ってはいけないと気づいてしまった。
大家の戸塚は怖い婆さんだ。できるだけ相手にしたくはなかった。
「…………そうだな。考えておこう」
考えておこうってお前な、と文句を言いそうになった時にチャイムがなった。
まずい戸塚かもしれないと自分の第六感が探知し、ライオニックはネコのすぐさま畳まれたフカフカ布団をしまった横開き戸の押入れに隠した。そしてドアを開けると、やはり予感は的中チャイムの主は戸塚だった。
「お、大家さん。どうしたんすか一体」
チャイムの主が【せーるす】というのだったらどれだけ良かったものか……
前回も今回のように部屋確認という部屋中にキズがないかチェックされた、大きすぎるキズだと修理代を自腹されるらしい。
どうにか誤魔化そうと試行錯誤を繰り返していたが、戸塚はライオニックが考えてた事とは違って笑っていた。悪意なんて感じない子供のような感じの。
「うししし、このおいしい饅頭をお前達にやるよ」
顔はそばかすやシワばかりだったが、タッパーに入れられた美味しそうな食べ物を自分に渡すその姿は、冗談抜きで女神に見えた。
「え!? 本当か大家さん! いやぁ、俺今朝から何も食ってなかったんだ……本当に助かります」
「おや? あんた手を怪我してるじゃない。ちゃんと精をつけて治すんだよ」
機嫌の良い戸塚と軽く挨拶や話を交わし、ルンルンした気持ちでアパートの部屋に戻った。
「おいK! これ見てくれ、 この星の名物、マンジュウって奴だぞ!」
タッパーに入れられた饅頭を自慢するように見せびらかし、
ちゃぶ台に置いて軽く舌なめずり、Kはまたネコと遊んでいて饅頭には興味など持とうとしなかった。
「おい食べないのか? ネコもちょっとだけ食わないか?」
ネコに饅頭を薦めてみるが牙を剥き尻尾を巻いてKの胸に飛び移った。
「俺に……食べ物はあまり必要とはしない……それにネコはそんなものは食べない」
「やはりハカイ? って奴は不便だな」
「機械だ」
自分一人だけ食うのは罪悪感で嫌な気持ちでいっぱいになるが、本人が拒むのなら仕方ない。
「よし、えーとこの星では確か……そうだそうだ、いっただきまーす!」
ういーんがしゃんきゅいいいいいいん
タッパーを開けて口に放り込もうとした瞬間、Kの右指五本が九十度折れてはならない方向に折れて、第二関節辺りから円筒とした物が出てきた。
「お、お前……手が、手がァァァァァァァ!」
ばばばばばばばばななばばばななばばばは
心配し駆けよろうとした瞬間だった、ライオニックの頬を掠めるように指から光弾が発射された。
「ふぇ……?」
光弾が発射された方向を振り向くと、ちゃぶ台に無数の穴が空き饅頭の入ったタッパーごと消し炭にされてしまっていた。
「な、何をするだァーッ!」
こいつは許さない、怪我した右腕に痛みなんか忘れてぶん殴ってやろうかと思ったその時、Kがこんな事を口にした。
「今のは……毒が入ってあった」
「何言ってんだふざけるな! 俺の昼飯を奪ったお前だけは」
その時だった、またチャイムが鳴った。
ライオニックは、ふんと、鼻を鳴らしてまた玄関のドアを開けると次は宅配だった。何が何だか分からないうちにサインを書かされ大きいダンボールを手渡された。
どういう事なんだ、中身は果物と説明されたが一体誰が……手違いではないのか。
「とりあえず中身を確認」
ダンボールに手をつけようとした時だった、Kがダンボール箱を開けるのを阻止するように手を掴まれた。
まさか、また毒入りとか言うんじゃないだろうか。
「待て待て待て、今度は俺が自分で確かめてみる。お前を疑ってるわけじゃない、自分の目で見ないとダメなんだ」
「わかった……」
姿を金髪青年からサグーに変え、自慢の嗅覚でまずはダンボールの匂いを嗅いだ。特に毒が入っている匂いはしない。中から何かチッチッと時計の針のような音もするが毒の匂いなど微塵も感じない。
「なんだ、何もないじゃないか。よし開けるぞ」
その日、ライオニック達が借りている部屋が爆弾によって吹き飛んだ。
今日の蓮の目覚めは最悪だった。昨日の出来事は全て夢だと思っていたがやはり現実は甘くはないと知らさせられた。
まず顔を洗おうと部屋から出ようとするとドアノブが犠牲になった。次は朝ごはんを食べる為のマイ箸、次は蛇口のハンドル、一つ一つの単純な作業が蟻を潰さずに掴むより難しいと感じた。
こうなってしまったのも理由がある。今日はその問題を解決する為にブース達の拠点、駅前近くの商店街の電化製品店に蓮は向かうのだった。