ここで終わらせる。
あまり力の残っていないライオニックは一撃必殺として右手をグッと握りしめた。
「目よ……」
あの依頼主は何か呟いた。
目がなんだって言うんだ。
「がぁぁぁぁぁぁぁっ!」
「開け……」
依頼主の胸の中央の六つの赤い目、水晶のような目が赤く光を放ち、ライオニックはさせるかと拳を水晶の目に叩き込んだ。
ぐちゃりと嫌な音が鳴った。自分の腕が依頼主の胸を貫通していた。
「な…………っ……!」
「ハハハッ……」
依頼主の肉体は元の形を維持するのをやめ、ドロドロのチョコレートのように溶けてしまっていた。
殺す気などなかった。今のは確かに自分の力を込めた一撃だった。だが命を奪う攻撃ではなかった。
これも言い訳に過ぎないのは理解している、だが平和主義の自分にとっては言葉では表せない重みの出来事であった。
その場に崩れ落ち、拳を床に叩きつけた。
「俺が悪いっ……俺のせいだ!」
あいつは俺たちの命を奪おうとした奴だ。でも死んでいい奴じゃなかった、元の世界の監獄に幽閉させ罪を償う事だってできたはずだ。
「ライオニック…………奴は死んだ……」
後ろからKが肩を掴んだ。この場から離れようと言いたいらしい。
「すまんお前は一旦アパートに戻ってこ……」
ババババババン!
全身に熱と衝撃を感じた。
身体を見ると腰の装甲以外のあらゆるところに穴が空いていた。
「な…………に……を……」
身体全身に糸が切れた。筋肉に力を入れようとしても言うことが効かない。
血のプールが身体中を生暖かく包んでくれる。
意識が朦朧とする、このままでは死んでしまう。起きろと叫んでも言う事を聞かない。
もう何がなんだが意味がわからない。Kに撃たれた事だけは理解できる。
「お前は死ぬべきだったな」
Kと思わしき声は男とも女ともわからない声を発していて、まさかと思いライオニックは顔をあげた。
そのものは自分がこの世界に来る理由となった黒い影であった。
黒い影は陽炎のような腕を刃へと変え、自分の首に向けた。
動けない、声も出ない、意識だけが生きている。
黒い影は「さらだば」と刃物を振り下ろそうとする。
やめてくれ、やめてくれ、やめてくれ。
「ああぁぁぁぁぁぁぁぁ!」
ライオニックは意地と根性で無理矢理立ち上がり黒い影に拳を与えた。
黒い影は蝋燭のように揺らぎ、消滅したかに思えたが、影の姿は増え、数十倍に増えていた。
意味がわからない、意味がわからない、ただわかるのはこれは恐怖の連続という事だ。
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青年は赤い光に照らされ硬直したようにその場に立ちすくんでいる二人を嘲笑うように見つめた。
彼らは今、夢を見ている。恐怖の渦に飲み込まれているだろう。
僕の真の力は生命体に強力な精神攻撃を与える事だ。それは怖い夢を見せることも、恐怖を与えて幻覚を見せることだって可能である。
ただ周囲も巻き込み、自分の力もかなり消費するのが難。現に今の姿が消費の少ない人間に戻っている。
青年は糸で短剣を作り出し、Kの目の前にまで近づいた。
本来なら彼ほどの男は僕を近づく事を許さないだろう、これで自分は二、三回死んでいる、が今となってはただの銅像にすぎない。
「悪いね、幸せな夢じゃなくて」
彼の頑丈な身体だろうと隙だらけの今なら殺せる。
僕は剣が胸に刺さるように突いた。
腕が動けなくなっていた。
「俺にそれは……効果ない……」
Kは僕の腕を掴み、逆の腕の銃を構えていた。
「一体君は…………何なんだァァァァ!」
憎悪に満ちた怒りが湧き、彼に自分の精神攻撃が効かなかった事よりも計画通りにいかない事に殺意が湧いた。
糸で武器を作る暇もなく、彼の弾丸が脆い生身に食い込んで行った。
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「頭がガンガンする……うう、Kお前は俺に何やったんだ?」
「お前は……目を覚まさなかった……だから何度も殴った……」
「もうちょっとマシな方法はなかったのか! 頭に血がぶしゃーって出てるんだぞ!」
ライオニックは着ていたジャージをハチマキのように頭に巻いて血を止めた。床の破壊痕が自分の頭のサイズと合うのを見て何度も叩きつけられたようだ。
だがしかし、自分の悪夢から助けてくれたのはまごうことなきKである。一応お礼はちゃんと言っておかないと。
「まぁ、助かった。恩にきる」
それでもKは無反応なんだろうと思っていた矢先。
「そうか……」
と意外な返事が帰ってきた。
「お前……もしかして偽物か?」
次は無視された。この反応は本物だ。
「ライオニック……指輪は持っているか……?」
「え? あああの指輪か、持ってる持ってる」
巨大監獄トシガミに転送させるアレだ。一瞬何の事かわからなかったのは内緒だ。
一旦サグーの姿に戻り、全身血だらけだが何とか息がある依頼主に指輪をはめた。これで彼は監獄に送られる、後に向こうから情報が来る。
これにて一件落着、はやく家に帰って飯を食べよう。
だったのだが、一向にいつもの転送される時の発光が発生しない。
「うん? どういう事だ?」
と彼にはめた指輪を見ようと近づいた。
一瞬視界に何かガムに似たのがひっつき息ができなくなった。
「………………避けろ!」
言うのが遅い。
「むがぁぁあ!?」
顔にひっつく硬い、これは糸だ。糸をベリベリと無理矢理剥がそうとするが、皮膚と毛までくっついてしまっている。
痛い。これは痛い。
仕方ないので視界と口だけ、無理矢理剥がして空気を大きく吸った。
「ぜぇぜえ…………あれ?」
その場には自分以外消えてしまっていた。