怪物だって傷つくよ!   作:空飛ぶマネッキー

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次から頑張るとも限らない

 ライオニックは夜に紛れながら次々と家の屋根を走り、飛び移り目的地へと向かった。

 出来るだけ人間に気づかれないように、人気のない道を選び慎重ながらも速度を少し早めた。

 

 人間に本当の姿を観られてしまったと考えると色々と困るし嫌だ。人間の知り合いからの場合だと拒絶されるかもしれない。捕まってしまうと解剖されてしまうかもしれない。その時は状況に応じて記憶の一部を消す事は可能だが、それは自分にとっては命とも言えるエナを消費する事になる。

 要は一切得しない。

 

 その時夜風がライオニックの体を舐めるように通り過ぎ、少し身震いをした。

 そんな夜の静けさに孤独すら感じたが、ライオニックには逆に母親に抱かれているような安心があった。夜はカイザの環境と似ていて我が母国「アルス」が愛おしく感じてしまう。

 

 早く元の世界に帰りたい。が帰りたくても帰れないのである。

 どうしてこうなったと記憶を辿ると、地球に来るちょっと前の出来事を思い出してしまう。

 そうあれは、カイザの世界でイカルの森で狩りをしていた時だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 イカルの森に踏み込む者は滅多にいない。理由は全てにおいて血のように紅に染まっている不気味な森だからである。他にも凶暴な肉食生物がうじゃうじゃと充満したりもするせいか、その地へ行く輩は重度の大馬鹿者と言われるだろう。

 だがライオニックはイカルの森は割と嫌いにはなれなかった。     

 周りの色が不気味でも普段からこの領土は暗闇で見えないし、凶暴な生物なら倒せば済む話だ。それにだ、昔から友人としょっちゅうこの森で遊んだせいか馴染みがある。

 そして今日もイカルの森へと一人の友人から誘われて気分転換として狩りをした。

 

 ライオニックは自分の真上にある木の枝に目をやった。すると自分の目には枝の上に座る少女の姿が映った。

 その少女は黒いローブを着こなし、フードからは二本の角が突出していた。夜風に吹かれ長く青い髪が消えかかる火のように揺れた。

 

 この暗闇の中、一見少女とは気づきにくいがライオニックは彼女が誰かは知っている。

 カフェル・アモン・ナナハルツ。アルスの女王だ。

 可憐な少女だが一応女王だ。

 

 前王である亡き父親の後を継いだカフェルだが、幼いだけあってか国民の批判や過激派の暗殺も多かった。だがそれをカフェルは力でねじ伏せたのだ。

 今の温和な世界に不満があるサグーの過激派を女王自らが死なない程度にぶち倒したりもして、強大な力を国民に偉大さを見せつけ無理矢理支持を得たりもした。

 昔の力がすべてだったカイザの時代とは違うが、カフェルは産まれてくる時代を間違えたとつくづく感じてしまう。

 

 だがそんな彼女も17の少女だ。こんな事ばかり続けてるとストレスで過労死してしまう。

 という事でたまに気分転換として王佐のワルツからバレずにこの森へやって来てるのだ。そしてこの森の中だけ童心に帰って女王ではなく、一人の友達としてカフェルを接する、それが彼女の願いだ。

 

「うう……」

 

 カフェルは思い詰めるように頭を抱え弱々しい声を出し、そこから飛び降りた。

 ライオニックは一瞬危ないと思い、降下するカフェルをキャッチしようとしたが、そんな気遣いは必要はなく綺麗に地へ着地した。

 

「悩み事か?」

 

 今も表情は顰めていて、ライオニックは少し心配した。

 カフェルはフードを取ろうとしたが、突出した角のせいで中々取れず、腹が立ったのか破いてしまった。

 フードが取れ、カフェルの顔が見える。肌白く綺麗に整った顔立ちであったが、いつ見ても疑問が生じてしまう。

 

 カフェルの姿はどのサグーの種族とも一致がしていない。自分のように全身に毛があって獣のような風貌でもなく、虫等の姿をしている訳でもない、角が生えているだけだ。

 彼女を初めて知り合う者は真の姿を見られたくなく、身体を変えているだけと捉えているが、実際は多分違うと思う。

 その理由はカフェルが過去に一度だけ自分自身の正体をライオニックに話してくれた事があるのだ。

 

『我には半分人間の血が流れている』

 

 何を言っているのかさっぱり理解できなかった。

 人間とはなんだ? 食べ物……という訳ではないだろ、色々と考察を繰り返してみたが、元々少ない脳味噌の自分に答えなんて出るはずがないし、頭を使うのは面倒くさいし考えるのをすぐやめてしまう、身体を動かしていた方が楽である。

 それにカフェルが何者だろうと親友である事に変わりはないのだ。

 ライオニックは生暖かい目で彼女を見守るが、カフェルは未だに悩めていて、いい加減悩みの種があるのなら自分に話してくれてもいいのではないか。

 

「何か悩みでもあるんだったら俺が相談相手になるぞ」

 

 赤子を癒すように言うと、カフェルは何か言いたそうな顔をしていた。引き出すにはもう一手必要だったが、少しイライラしてきた。

 

「あーもうじれったい。何でも話せよ友達だろ? 相談相手になるって言ってるから気を使うなよ」

 

 その言葉が引き金となったのか、口を開いてくれた。

 

「わかった……話そう……………………調査を……依頼したいんだが」

 

 非常に弱々しい声だった。

 

「何の調査なんだ?」

 

「…………………ち、地球という星の日本だ……」

 

「チーキュ? 聞いた事ない星だな」

 

 ライオニックは毛深い腕を撫でた。

 しっかし、何がカフェルをそこまでうじうじとさせるのだろうか、最近の彼女からは考えられない。

 

「この依頼は……我の私情で嫌だったら断ってくれ。地球は危険だからな……命令ではない」

 

 そう言いながら、地を指でなぞり円を書き始めていた。

 

「話が見えないがわかった。俺がなんとかする」

 

 ライオニックは自分の金色の胸をポンと叩いた。

 何をするのかわからないが、とりあえず後でもう少し詳しく聞かせてもらおう。

 

「本当か? やめるんだったら今だぞ? 本当に危険なんだぞ?本当に本当に大丈夫なのか?」

 

「カナは調査をしてほしいのか、やめてほしいのかどっちなんだ……」

 

 少々呆れ気味に言った。

 本当にカフェルは情緒不安定なのではないかと思ってしまう、最近だって料理に毒を盛られたと聞くし、やはり疲れてるのでなないか、自分も手伝える事がないかと思うが、なんせ自分は脳まで筋肉の塊とよく言われるほど馬鹿なのだ。肉体労働以外出来ない自分に腹が立つ。

 

「いや……ライオがいいのなら構わないのだが……」

 

 一瞬、皮膚がピリッとしたような気配を感じた。

 カフェルもライオニックと同様、瞬時に顔つきが変わり周囲を見渡した。

 誰かがこちらを見つめている。

 ライオニックはカフェルの前に盾になるように出る、彼女の力量を考えると必要はないだろうが一応だ。

 

「カナ。俺にもしもの事があったらお前は逃げ……」

 

 カフェルにそう言おうとして彼女を確認しようとしたが、カフェルの姿はその場にはいなかった。

 

「なぁッ……!?」

 

 どういうことだ。どうしてカフェルの姿が消えたんだ。こんな短時間の内に音を消して逃げれるわけがない筈だ。

 いや、落ち着け、カフェル程の実力者なのだ簡単にやられる事はまずない。

 そう言い聞かせ胸のざわめきを落ち着かせるが、緊張感が止まらない。

 

「おい! 誰か知らないが出てこい! 卑怯だぞ!」

 

 暗闇の中、野獣の咆哮の如く声を放ち全身の感覚を奮い立たせる。小さな虫の気配だって見逃す気はない。

 来るなら来てみろ、一発殴ってやる。

 その時、刹那だが気配がした方へと振り向き、拳を構えようとしたが、顔に鈍痛な衝撃が走り後方へとライオニックの身体は吹き飛ばされた。そして木に激突して痛みが全身に走った。

 

 ライオニックは何が起こったのか理解できなかった。拳を構える時間すら貰えず、攻撃を食らった。 一発の痛みがまるで何度も殴られたかのようにも感じた。

 謎の気配の者は足音を鳴らし、こちらへ歩んでくる。自分ならいつでも倒せるという事なのか。

 軋む身体を無理矢理立たせようとした頃には、謎の気配がこちらを見ていた。

 

「な……」

 

 謎の気配の姿は全身が黒い、としか言葉が出てこなかった。

 全身に毛が生えてい訳ではない。まるで影の姿を借りたようだった。顔も見えないし性別もわからない。

 

「お前はまだ死ぬべきではない」

 

 謎の気配は男か女かもわからない声を発し、右腕らしき物を空へかざした。

 するとライオニックの前方からねずみ色のゆらめく壁が現れた。そしてその壁は自分へと近づいて来る。

 ライオニックが逃げようとしても痛みによって身体が動かず、 地へ這いつくばってしまう。

 

「お前は地球へ行って……」

 

 壁が迫り、謎の気配が最後に何か言おうとしたが聞き取れず、ライオニックは壁の中へ吸い込まれるように消えて行った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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