怪物だって傷つくよ!   作:空飛ぶマネッキー

26 / 29
過去話シリーズ

 黒いハイエースは荒れ狂う牛のように走り、僕はそれを必死に追いかけようとする。

 ペダルがギシギシ音をたて、足の肉が悲鳴をあげる。

 糸の射程距離までは離れすぎている200mと言ったところか、もう少し、もっと近くに近づかなければ。

 だが自転車と車では馬力が違いすぎる、距離を保つのがやっとのところだ。

 僕はこのまま真っ直ぐの交差点にある十字路の信号に賭けた。あの交差点は走る車も多くさっきまで渋滞していたはずだ、急いでいたとしても危険を選ぶか安全を選ぶか、危険を選び運良く事故ってくれ。

 人間一人なら僕の糸で助け出す事は可能だ。

 

 その時、パトカーのサイレン音が背後から迫りくるよう近づく。ハイエースを追いかけてくれるのは有難いが、獲物を横取りされるようで癪に感じた。

 自分を抜き去って行く二台のパトカーを後ろから狙い撃ってやろうかと手を構えたが、何やってんだ自分と虚しさを感じ手を下ろした。

 もう後は彼らに任せようか、と諦め自動販売機でミルクコーヒーでも買った瞬間肌がピリリと異変を感じた。これは自分と同じ種族が力を使おうとしている合図でもあった。

 

「チッ……なんで今日はこうなるのかなァ!」

 

 ミルクコーヒーを一気飲みし足を止めていたペダルをまた漕ぎ出し、エナの発生源である十字路に向かった。

 数十分かかって十字路の交差点に近づいた頃にはハイエースは中央に不自然に留まり、パトカーがそれを包囲していた。もうパトカー以外の車はその周辺からは消え失せているがある程度の野次馬がウジャウジャとしていてよく状況が見えない。

 これから事件が起こるかもしれないのに呑気な人間達だと呆れもした。

 野次馬の壁を潜り抜けながらも、ふと三人の中年女が今の状況をペラペラと話していた。

 

「一体何があったんですか?」

 

「さっき警察の人が話ししてるのを聞いたのよ、女の子を人質に取ってるんだってさ!」

 

 いやそれは知っている。

 

 小太りの中年女が「大丈夫かしらねぇ……」と心配気味に言った。

 

「今の状況はどうなってるんですか?」

 

 そう言うと断食三日ぐらいやってそうな痩せた中年女が「あいつら今朝あった銀行強盗の犯人らしいのよ、そいつらが女の子を人質に取って車に立てこもってるって噂よ。私の娘も若いからこうなりそうで怖いわぁ……」

 

 貴方の娘なら誘拐される心配はないだろう。

 

「彼等銀行強盗までしていたのか……あまりに暇人だね……」

 

 僕はそのまま進み、キープアウトのテープギリギリにまで近づいた。目の前にはパトカーが通行止めのように佇んでいる。

 ここから車まで100mといったところか、なら弱い糸で車まで狙う事が可能だ。

 強い糸だと1キロほどまでなら狙えるが、車ごと破壊してしまうだろう。人差し指と中指に口から吐いた糸を絡めて小さな煙突の形を作りそれを銃にする。

 

 大柄な男とチビの男の二人の状況は自分が作り出した小さな蜘蛛が教えてくれた。後部座席に男二人、少女は後ろのトランクに倒れているそうだ。ちなみにサグーを探しに周辺を散らばせているが見つかる様子はない。

 まあいい、もうすぐ夜が来る、さっさと終わらせて自分は逃げよう。

 

「バイバイ」

 

 男二人を撃ち抜こうと手を構え、糸を放った。その時だった、エナが何処かで使われた。

 

 突然、強烈な破裂するような音が耳を殺し、自分の見ている景色がぐるりと廻っていた。

 何が起こった。そう考えを張り巡らせようとしたが頭に強い衝撃が走った。

 

 人々の悲鳴、怒号、焦り、それぞれの音が走り回った。

 自分の薄れかけた視界には一人の男性がこちらを心配そうに何度も声をかけている。

 

「君! 君! 大丈夫か!? 返事をしろ!」

 

 なんとか彼のおかげで消えかけた意識は元に戻ろうとしている。僕は喉から掠れるような声で話しかけた。

 

「何が……?」

 

 その支えてくれた男性は警官で、自分に何度も救急車を呼ぶと言いこちらの質問には答えてくれない。

 周囲を見るとパトカーが燃えていた。さっき僕の目の前に立ち塞がっていたパトカーだ。それでパトカーが爆発し、自分はそれに吹き飛ばされたのだと気づいた。

 

 情けない、人間の姿で無ければ無傷だったというのに。

 すると、またもや周囲から爆発音が起こり耳に追い打ちをかけてくる。またパトカーが何台も誘爆していくように爆発していく。

 これは自分と同じ同種の仕業だ。爆発するたびにエナを感じる。

 周囲がテロだとパニックに陥る中、一人のホウキ頭をした大男が冷静にハイエースに向かっていく。

 警官までパニックに陥り、誰も彼に気づくことはない。

 彼はハイエースに乗り込む前、僕の方に振り向き笑みを浮かべた。

 

「彼、か……」

 

 彼が同種だと一目見て分かった。

 今すぐにでも追いかけようとしたが、身体が言う事を聞かない。

 

 結局、ハイエースはこの場から逃げ去り、 日は暮れ夜が訪れた。

 救急車のサイレンの音が鳴り響く中、僕はその場から逃げ出した。このまま逃げられてしまったら今度こそ彼女の身に危険が及ぶ。

 

「今日の僕は………………ぐッ……本当に……変わってるよ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 その頃、ハイエースの中で一匹の白い蜘蛛の瞳が男三人を捉えていた。

 

 

 

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。