勇者エリちゃん(憑依)勇者の旅へ出ます。   作:小指の爪手入れ師

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思い付きです。過度な期待を止めゆったりとした気分で読み進めてください。


最初からクライマックス

ㅤ館と言うか、お城と言うか、とにかく悪趣味な場所に私は居る。アレだ、転生だ。三次元から二次元へ、目眩く大冒険、チーレムよろしく神様転生だよ。

 

ㅤ好きでしょ?そういうの…

ㅤ私?私はね─

 

 

──クソくらえだ!!

 

 

ㅤいきなり、「Youいいネ!転生しちゃおうYo!!」って言われて返事もなくこの謎空間に叩き込まれたんだぜ?私はただ種火周回に没頭していただけなのに…

 

ㅤ極めつけはこの手に持った紙切れだ。内容は─

 

『You中々のイケ魂じゃん!?最っ高にcoolな展開期待してっから転生しちゃいなYo!大丈夫大丈夫、君が没頭してたFGOだからネ。問題ないし!あぁYouのbodyはspecialだかr(以下略』

 

ㅤ私は思わず紙切れをビリビリに破り暖炉に投げ捨てた。焦げた匂いが漂い少しスッキリした。そして、無常にも紙切れはテープを巻き戻したかのように灰から紙吹雪に、紙吹雪から元の紙切れへと戻っていく。

 

「力の無駄使いか!?」

 

ㅤ紙切れ一つに巻き戻しまで使うか?馬鹿じゃないの!?そして私の声なんか甲高いんだけど!!?

 

ㅤ情報量の多さに思わず目を回す。通常な思考は徐々に輪郭を失いツッコミのキレだけを上昇させる。思考回路はショート寸前、叩き込まれた情報の整理以外作業が出来ない。

 

ㅤ予期もしない出来事に体勢を崩した。近くのドレッサーに手を付き持ち直しつつ顔色はどうかと鏡を見る。

 

「え?」

 

ㅤ私はマヌケな声が出たなと思った。だがそれも仕方ないだろう…

 

ㅤ私の姿は以前とは異なっていた。その姿は、何度も出てきて恥ずかしくないの?でお馴染みエリザベート・バートリーだった。それもセイバークラス、所謂勇者エリちゃんである。

 

 

 

 

──「キャアァァアアアアァァァ!!!??」

 

 

 

 

 

ㅤ私は絶叫した。それだけで鏡、窓、ドア、シャンデリアが弾け飛んだ。だが、それもまた紙切れと同じく巻き戻った。

 

ㅤ此処はどうやら私専用の座らしい。なるほど特権の無駄使いだな。

 

ㅤえ、思ったよりも狼狽えない?違うよこれはただの諦めだ。喚いても時間の無駄…いやこの空間での時間の概念がどうとか知らないけどね。

 

ㅤ取り敢えず不貞寝しよう。現状から出来る限り逃れたい。現状を諦めたのであって受け入れた訳では無いからね現実逃避くらいいいでしょう。

 

ㅤ丁度此処にはこの身体に関係なく広くデカいベッドがある。つまり神は言っている不貞寝していいんだと。

 

「おやすみなさ─ムギャァ!?」

 

ㅤ寝ると思ってベッドにボディプレスを仕掛ける突如、身体が引っ張られる感覚が私を襲う。

 

「もしかして召喚!?嘘、私まだ心の準備が、と言うよりも戦闘経験のないサーヴァント何て呼び出さないでよね!」

 

ㅤベッドから引きずり下ろされ床に這いつくばるエリちゃんの図、コアなファンは喜ぶと思うが私は嬉しくない。床を削りながら後方に謎引力で引っ張られ私ピンチ!!

 

「頑張れエリザ!ファイトだエリザ!!私ならいけるこの召喚を乗り切れば勝てるんだから。あぁ、もう…ダメ──」

 

ㅤ嗚呼、勇者エリザよ吸い込まれてしまうとは情けない。

 

 

◇◆◇

 

 

ㅤ眩い光へ変換された後、私は洋風建築並ぶ広場にて現界した。どうやら私は為す術もなく召喚されてしまった様だ。

 

「それで、私の様な不運なサーヴァントを引き当てた。これまた不運なマスターは誰かしら?」

 

ㅤ周りを見回しても居ない…まぁ当然だ。FGOにおいて足元に雪花の盾がない召喚なんて野良だと相場が決まっている。もしそれでマスターがいた場合は味方である賢王か敵キャラたちに扱き使われる事になる。

 

ㅤだが、幸か不幸かマスターとの繋がりはなく魔力だけが流れ込んできているのが分かる。

 

「ならぐだ男かぐだ子に聖杯回収を任せて私は隠れる。私ったら天才ね!そうと決まったら町を出て─」

 

「あら、似た匂いを感じたのですが、やっぱり同じサーヴァントでしたのね。…痴女?」

 

ㅤ振り返ればこの風景に溶け込めていない和服を着込んだ美少女(13歳)がいた。どう見ても清姫です本当にありがとうございます。そして帰ってください!こんなことをしているうちに主人公勢が来たら私の計画が狂うわ!

 

「痴女とは随分な言い様じゃない」

 

「…ご自身の装いをよく見たらどうですか?」

 

「ん?」

 

ㅤ私は自分の衣服を見た。いや正しくは服なんて着ていなかった。まるで八十年代に回帰したかのような鎧、俗に言うビキニアーマー。着ているのではなく着いている、しかも胸はパカパカと緩くなる始末。これで羞恥心を感じるなという方が不可能である。

 

ㅤ私は蹲り、白いマントで身体を隠そうと躍起になる。これは恥ずかしい。かなり恥ずかしい。

 

「何この格好!?デザイナーは何を考えているのよ!モラルがなってない、そもそもこんなにユルユルで一体何を守るっていうのよ!?何も守ってないじゃない!!!」

 

「えぇ……で、ではそれは貴女が進んで着てい…着いているわけでは無いとそういう事でいいんですか?」

 

「当然じゃない!?こんなもの着たが…着けたがるのは本当の痴女だけよ!」

 

「まぁ嘘はついてないと誰が見ても分かりますね」

 

ㅤ当然だ!私はこの装備に不満を漏らさない程奇抜な発想をしていない。私の霊基でさえ軽く身震いするほどだ。いやこの身震いの意味は私でもよく分からないが…

 

「まぁいいわ。霊体化すれば人の目に晒される訳では無いから。第一目標を普通の衣服の製作として今はここを離れないと…それじゃあね和服の人」

 

ㅤ私は早急にこの場を後にするべく歩き出す。この嘘絶対殺すウーマンに関わっていたら色々と手遅れになりかねない。

 

ㅤ町を出るため門を潜った辺りで背後に気配を感じた。振り返ってみれば目の前に顔があった。

 

「ホラーかッ!?」

 

「あら酷い。私はただ後ろを付いて来ただけですのに」

 

ㅤいやそれ普通にストーカーなんじゃ……

 

「いやなぜ?」

 

「自己紹介」

 

「はい?」

 

「ですから自己紹介です。ここであったのも何かの縁ですし…私は清姫と言います。貴女のお名前は?」

 

ㅤ自己紹介、自己紹介ねぇ?私は一体誰なのか最早わからない。過去の私は既に此処に存在しないし現在私が名乗る名前と言えば…

 

「エリザベート・バートリーよ。よろしくね清姫…それじゃあね」

 

「そうエリザベート(安珍)と言うのですね…嗚呼やっぱり」

 

ㅤこの意味を理解したくない悪寒から逃れるべく私は走り出す。

 

「やっぱり結ばれる運命でしたのね。嗚呼安珍様ァ!」

 

ㅤ残念エリザは回り込まれてしまった。狂った音程で声を発し乱れる清姫。押してはいけないスイッチを押すだけに留まらず貫いてしまった様だ。どう見ても狂化EXが仕事をしてしまっている。

 

「安珍様安珍様エリザベート(安珍)様安珍様ァア!」

 

「ルビが可笑しい!止めて止めなさいってば!」

 

ㅤ清姫はチロチロと舌を鳴らし時々火花を零している。そしてその白魚の様に綺麗な手を私の頬へ。

 

「ちょっ!?待て待てぇ、本当に待って。私は安珍じゃないから!!」

 

ㅤ逃げようと身を捩るが腰をガッチリホールドされてしまった。服が無い分清姫の体温が直で感じられる。熱い、とても熱い。吐き出す吐息もまた熱い。

 

「えぇ、えぇ分かっておりますとも清姫にお任せ下さい」

 

ㅤそう言って更に顔を近付けてくる。駄目だこいつ…早くなんとかしないと……

 

「落ち着いて…」

 

ㅤ悲痛な声が木霊する。だが清姫の耳には届かない。盲目的に安珍を求めたからではない、轟音に掻き消されたからだ。

 

「新しいサーヴァントが召喚されたから私直々に始末にと思って来て見れば。何?仲間割れェ?なんて愚かで無様なのかしら!」

 

ㅤ声は真上から、周りは素手に爆炎と共に瓦礫へと姿を変えていた。上に顔を向ければ竜を駆る魔女の姿があった。その名はジャンヌ・ダルク、その反転(オルタ)。青髭のダンナの欲ぼ…理想を詰め込んだ聖処女である。

 

ㅤそしてこの特異点の渦の中心と思いきや違う系ボスだ。

 

「こ………絶対に……」

 

ㅤ清姫は何やらボツボツと言葉を零している。先程から悪寒が止まらない。寒い格好なのに更に寒くなる。逆に、今も尚燃え続ける炎が今はとても尊く感じる。

 

「え?何そこの白いの。何か言いたげじゃない?死に際の恨み言くらい聞いてあげても良くてよ」

 

「ではお言葉に甘えまして…」

 

ㅤ清姫は朗らかな笑顔で、光の消失した瞳を邪ンヌへ向け、底冷えする様な声で、大胆に言い放った。

 

「私たちの秘め事を邪魔した事、万死に値します。潔くこの世から去ね、この匹婦」

 

ㅤ徐々に清姫の角が根元から黒く染まっていく。それに呼応したように服をも染まっていく。

 

「…そう、なら死になさい」

 

ㅤ邪ンヌはその手に持った旗を振り下ろす。そうすれば何処からともなくワイバーンが大群をなして召喚された。

 

「私、まだ何も言って無いんだけど!?」

 

ㅤそうよ、私まだ声の一つも挙げてないわ

 

「大丈夫ですわ。私が私たちの往く道を切り開きます」

 

ㅤあらやだ惚れそう…って言ってる場合じゃない!?

 

ㅤ私はすぐさま名剣エイティーンと名盾レトロニアを取り出し構える。この様な動作は情報の一握りにあった上、実戦が伴っていないのにも関わらずまるで身体が覚えているとでも言うように対応出来ていた。

 

ㅤ清姫は既にワイバーンへと炎弾を放っていた。ワイバーンに炎が直撃する度に墜ちていく。

 

「とぉ!!」

ㅤ剣を近寄って来たワイバーンに切りつければ熱したナイフをバターに入れた様にワイバーンの首が胴体から泣き別れした。

 

「弱ッ!?」

 

ㅤどうやら無意識のうちに魔力放出(勇気)と何故か使える魔力放出(かぼちゃ)を使用していたようだ。私器用すぎ!?

 

ㅤ斬って斬って斬って斬る。そらそら牙を落とせワイバーン共!使い道知らないけどね!!

 

「チッ、思った以上に足掻くじゃない。フフッ、なら一瞬で消し炭にしてあげるわ!行きなさいファヴニール!!」

 

ㅤ巨龍は咆哮を上げ、口に魔力の渦を閉じ込め発火する。

 

「いきなりブレス!?」

 

ㅤ開幕チャージMAXは悪い文明。逃げるっきゃないわ!

 

「清姫撤退!二人じゃ無理よ」

 

ㅤ私は清姫を引き寄せ横抱きに、そしてファヴニールの正面から逸れるように全力疾走。

 

「これが、愛の逃避行!!」

 

「まだ暴走中なの!?」

 

ㅤそもそもこの立ち位置はぐだーズの物だろうに。と思考がドツボにハマりそうになった時、途轍もない熱が真後ろを通過した。

 

「ひぃ!?何よアレ、勝てるわけないじゃない。竜特攻持ってきなさい竜特攻!!」

 

ㅤ怖すぎ。あんなのに関わりたくないから隠れようとしていたのに、物語の進行はどこまで行っているのよ!強力なサーヴァント連れて来てんでしょうね!!

 

──帰りたいよぉ……

 

「パク」

 

「ぁ…なんでこの状況で耳を甘噛みしてんのよ、馬鹿なのこのヘビ女!こっちは必死に避けてるっていうのに!!」

 

「そこに耳があったから。キリッ」

 

「私の耳は山か!?」

 

「山ならここだと」

 

「ズラすなぁ!!!」

 

ㅤ後ろから熱を感じた。くぐもった咆哮を聞いた。黒い聖女の怒りが怒髪天を衝いた。

 

「乳繰り合ってんじゃないわよ!!」

 

「間に合わ─」

 

ㅤ受けるしかない。死ぬかもしれない…アレ?死んだら座に帰れるんじゃ……

 

ㅤ傍らの清姫を見る。険しい顔で巨龍を見ていた。宝具の使用でも検討しているのかもしれない。だがファヴニールの方が格が高い。

 

ㅤ守らなきゃ!清姫だってうちのカルデアで育ててた娘なんだもの。死んだって大丈夫、座に帰るだけ。さぁエリザ、盾を構えなさい!女の子を守るのも勇者の本懐よ…知らんけど。

 

「ハアァァアア!!」

 

ㅤ名盾レトロニアはブレスを受けるには小さ過ぎる。だから魔力放出で面積を広げ強化する。私が魔力を注ぐ度にかぼちゃの妖精さんが仕事をしてくれている。かぼちゃの要素が何処にあるとかは聞いてはいけない。

 

ㅤブレスが直撃、盾に損傷は見られず。だが徐々に後方へと追いやられる。内に流れる魔力も筋力へと回し、地に足先を掛ける。

 

「エリザベート…せめて私も……筋力はからっきしですが…」

 

「清姫アンタ、早く逃げなさいよ!私が抑えてるから」

 

「想い人を置いて逃げる乙女がおりまして?」

 

ㅤ清姫が私の身体を支える。

 

「さっき会ったばかりじゃない…バカね」

 

「女は好きな方の為ならば何処までもバカに成れる生き物ですことよ…」

 

ㅤ自虐だろうか。彼女は笑っていた。なんだろうこの最初からクライマックス状態は…

 

 

ㅤそして弾けた。襲う浮遊感。そしてとても熱…くは案外無かった。言ってしまえば少し高めなお風呂程度でピリピリする感じに似てる。

 

ㅤあぁ、なんていうか─

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

──ぐだぐだが過ぎるわ

 

 

 

 

 

 

 

 

 




やってしまった感が否めないがとてもスッキリしたので気にしない方向で……

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