勇者エリちゃん(憑依)勇者の旅へ出ます。   作:小指の爪手入れ師

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あぁ…ゴチャゴチャしちゃったよ。
うーん、清エリ成分は最後の方で自分達で補完して欲しいな…

頑張れ読者!


ジョブチェンジは必要だろうか?

ㅤ世の中にはハロワでは紹介されない職業(ジョブ)が存在する。所謂一般的では無い職。闇的なモノも含まれる、そんなモノ達だ。斯く言う勇者もハロワでは引っかからないが─

 

「そんな事はどうでもいいのよ!私は海賊王になるわ!!」

 

「ちょっとソレ僕のカットラス、アンのマスケット銃まで…」

 

「無邪気で可愛らしいじゃないかしらメアリー。それに同じ女海賊が増えるのは喜ばしいことよ!」

 

「むぅーそれで良いのかなぁ…」

 

ㅤ帽子をコスプレグッズから引っ張り出した今の私は女海賊。

ㅤアイドルで勇者で女海賊。夢とロマンが詰まったジャンルの数々。右手にカトラスを、左手にピストルを、背中にマスケット銃を、頭に髑髏の入った帽子を。そして、それで身を包んだ私。

ㅤ時と場所に合った装いには痺れる事間違い無し。

 

「次のジャケ写はこれで決まりね!」

 

ㅤ時折ポーズを撮ってやれば焚かれるシャッター。清姫の指揮で黒髭の部下を十二分に使った撮影が行われているのだ。場所も名の知れたエドワード・ティーチ、黒髭の船。

 

ㅤ臨場感は段違い。見たものを惹き付けて離さない写真の出来上がりだ。

 

「良いですぞ良いですぞ、エリザベート氏!ヒップをもっと上げて、尻尾を突き出してッ!!顔も挑発的にッ!!──そうソレェ!!!!!!!!!」

 

「うわっ…」

 

「引くわー、ですわ」

 

ㅤシャッター音は止むことを知らず。

ㅤ踊る様に取られるポージングは私をより魅力的にしている。

 

「ハーイお疲れちゃん。後はこっちでやっちゃうからエリザベート氏は休憩入っておくでござる」

 

「ハイ、お疲れ様death!」

 

「ん?ニュアンス違うにょ!?」

 

ㅤ身体に走る悪寒が耐えられず、つい黒髭に口が滑った私は休憩に入る為、パラソルの下に入り、マットにうつむけで寝転がる。

ㅤ右に左に身体を転がす。こういう日常を特異点で味わえる事に感謝をしつつ、尻尾も右に左に傾ける。

 

「キャプテン、例の海賊船が島から出てきました!」

 

「どれどれ……あるぇ、BBAの船直ってない?」

 

ㅤ何やら騒がしい。だがマットは私を離してはくれないようで、身体は弛緩しており微睡へと誘うのだ。船上の阿鼻叫喚など私にとっては子守唄に等しいと思って欲しい。

 

「総員対ショック体勢ッ!!」

 

「あ、良いなぁ!拙者もソレ言いたかったですぞ。と言うか此処拙者の船なんだが!?」

 

ㅤはて、対ショック体勢とは何ぞや?

ㅤ意識が飛びそうな私にはどの様な言葉を言われたとて理解できない。

ㅤ私を起こしたくば清姫サンを呼んでこいと言いたい。清姫サンを呼び出した瞬間呼び出した者は葬られる運命だが、死に目を美少女に看取って貰えるのだから幸福でしょう?

 

ㅤ直後響く轟音と衝撃。

ㅤ弾かれるように甲板を飛ぶ私。フワフワとした曖昧な意識が一変して緊張状態に変わる。

ㅤそして、ハッキリした意識で認識した。

 

ㅤ──作戦開始だわ!

 

ㅤカットラスとマスケット銃をアンとメアリーに投げ渡し、被っていたコスプレグッズも仕舞い込む。変わりに出したのは何時もの勇者装備。

 

「野郎共、略奪のお時間よ。使えそうな物は一切合切奪って奪って奪い尽くしなさい!主に私の為に!!」

 

ㅤ黒髭の部下に檄を飛ばせば野太い声と掲げられた武器で返してくる。全員が一丸となっているのは元からなのか、私がいるからなのかは知らない。別に知って得はない、寧ろ黒髭の日常を垣間見る結果となりマイナスを天元突破だろう。

 

ㅤ既に敵は乗り込んで来ている。開戦の狼煙も済んだようだ。砲台から白煙が登っている。

 

ㅤ清姫にアイコンタクトを飛ばした。即座に行動を開始した所を見て理解したようだ。

ㅤ目で語るのは楽でいい。手間が省けるし、何より情報の漏れが無い。この分なら子ジカにもそれとなく伝えられるかもしれない。

 

「もう軍師エリザベートでもやっていけるんじゃないかしら… 溢れ出る才能が私を更なる高みに押し上げちゃうのね!」

 

「言ってる場合じゃないよエリザベート。こんの、執拗いなあの弓兵!」

 

ㅤ恋愛脳な月の女神様が放つ矢を、メアリーはカットラスで軌道を逸らし続けている。

 

「アン!まだアレ撃ち落とせないの!?」

 

「弾幕が濃すぎて隙が殆ど無いのよ。隙間を縫って撃ち込んでも避けられる。全くもって割に合いませんわ!」

 

「チィ、エリザベート。火薬庫をやられて移動が儘ならない中じゃ逃げられない。そうなると船上で白兵戦になる。いくらヘクトールでも苦しいだろうからそっちに回って直ぐに帰ってきて!」

 

ㅤ私は何も言わず駆け出した。目指すのは子ジカの所。黒髭やヘクトールも居るだろうから戦線の維持自体は可能だろう。

ㅤ当初の目的通りに事が進めばそれで良し、駄目ならプランB…考えて無いけどね。

 

「あ、エリザベート氏!助太刀に来てくれたんでござるね!ついでに夜の助太刀も─」

 

「──清姫に言うわよ」

 

「んん〜辛辣!? でもそれが良い。ぁ、ごめんなさいごめんなさい、清姫氏に報告は止めて!! 愛が重いのぉお〜!!」

 

ㅤ黒髭は青ざめた顔で懇願してくる。正直あれだけ念入りに燃やされたらこうなるのも頷ける。

ㅤあれをまだ愛と形容できる黒髭には呆れを通り越して尊敬してしまいそうだ。

 

「え、エリちゃん!? 何でそっちに居るのさ? ついさっきまで居なかったのに…」

 

ㅤ子ジカはこの世の終わりの様な顔をしていた。確かに現状では刻々と終わりが進んでいるが、私を見てその顔はショックだ。私可愛いのに…

 

「また会ったわね子ジカ。まぁこういう事だからよろしくね」

 

ㅤウィンクを一つ。

ㅤこれで子ジカにも伝わった筈だ。演技に徹してくれれば嬉しいが、完璧を求めるのは酷だろうと考えて私から話し掛ける。

 

「じゃあ行くわよ子ジカ。構えなさい!」

 

「うん。何処からでも来ていいよ!」

 

ㅤ子ジカは構えた。「私の胸に飛び込んでおいで!」と言わんばかりに両腕を広げて…

 

「エリザベート・バートリー、戦闘態勢です。先輩、腕を広げていないで私の後ろに下がっていてください!」

 

「いやだってエリちゃんが抱きとめてって…」

 

ㅤ駄目だこのマスター、全く別の意味でサインを受け止めてしまっている。大きな問題とはなり得ないが、グダグダになる可能性は急上昇だ。

 

ㅤ腕を広げて不動な子ジカに、その子ジカを庇おうと前に出るマシュ。完全にコントだ。

 

「なんだい、アンタら知り合いかい?」

 

「ゲェ、BBA!?」

 

「…余っ程海の藻屑に成りたいらしいね!」

 

ㅤなし崩し的に戦闘開始。銃弾が飛び交い、時に拳や蹴りが飛ぶ。ついでに罵声や煽りもセット。まさにトリガーハッピーセット。

 

「…じゃあ此方も早いとこ始めちゃおうか」

 

「遅かったじゃない!」

 

ㅤ見当たらなかったオジサンが今になって現れた。咎めるように話し掛ければ、手をヒラヒラとさせて遇ってくる。

ㅤそして、彼は槍をマシュに突き出した。

 

「ぐっ─重い」

 

「おうおう、硬いこと硬いこと。これだから盾持ちは厄介だよなぁ」

 

「ちょっとぉ、話は終わってないわよ!」

 

「状況見ろって… 戦いはもう始まっちゃってるんだよ? 細かい事抜きにして仕事はしなきゃ、さ!」

 

ㅤ軽い会話を挟みながら猛烈な槍さばきでマシュを翻弄していく。明らかに状況はこちらに傾いている。

 

ㅤ子ジカの周りにはマシュ以外のサーヴァントが居ない、ガラ空きと言っても過言じゃない。

ㅤ私はこの時に気付いた。ゲームと現実の大きな違い。それはマシュ以外のカルデア産のサーヴァントが存在しない事。次に─

 

 

ㅤ──フレンドサンが居ない事だ!

 

 

ㅤオケアノスではマシュの経験値は乏しい。彼女にとっての本領とはギャラハッドをキチンと認識し、宝具を解放できた時を言うのだと私は思う。

ㅤつまり、彼女達は初心者だ。故にフレンドサン達がいない状態でコレを撃破するのは必死である。マシュと現地サーヴァントだけで全特異点を踏破すると言う強制縛りプレイを実行させられている彼女等には涙が出そうだ。

 

閑話休題(エリちゃん可愛い)

 

ㅤ何はともあれ、彼女等を失う訳にもいかない。それとなく事態の収拾を図りつつ、それとなく頑張って働いているアピールをしなければならないのだ。

ㅤよって私は─

 

 

ㅤ──子ジカを攫います!

 

 

ㅤ魔力放出を並列解放。常人が認識する段階を超えた疾走。ヘクトールを相手取っているマシュでは追い付けない。私は難無く子ジカの前に現れることになる。

 

ㅤだが、ここで私の予想外が起こった。

 

「エリちゃん捕まえた!」

 

「ニギャア──!?」

 

ㅤこの一般人は私を抱き締めている。私が子ジカの前で一時停止したとほぼ同時に広げていた両腕でホールドを掛けてきた。正直言ってありえない。常人が認識出来ない速度で近付いたという事は、子ジカから見たら瞬間移動にも等しい現象という事であるわけだ。つまり、破裂音しか移動した証拠を確認出来ない。その破裂音も銃弾飛び交う中では紛れて認識が阻害されるだろう。

 

ㅤ─なら何故彼女は私を抱き締めている?

「まさか…まさかまさかまさか! アンタ最初から!!」

 

「そのまさかだよ。──私は前しか見てない!!」

 

ㅤ子ジカは目の前に現れるだろう私しか認識しようとしていなかった。そこに私が一瞬で現れた。だから抱き留めた。彼女の行動に移すまでの脳内で積んだプロセスが極小だったが故に引き起こされた事態だ。

ㅤいや、それ以上かもしれない。

ㅤつまり彼女は『考えるより早く動いた』と言うのだ。

 

「あんたバカァ!?」

 

「ハッハッハッ! きよひーが居ない今が私の独壇場。此処でヤらず何処でヤる? 女藤丸立香、決める時は決めるんです!」

 

「バカだったかぁ!」

 

ㅤ頭を抱えたい気分だ。いや子ジカには抱えられて居るが…

 

ㅤあ、アンとメアリーが離脱した。

 

ㅤ戦線は崩壊。黒髭にもこれには焦る焦る。そしてヘクトールは無表情に黒髭を…打ち取れない。

 

ㅤ私は動いていない。動いたら子ジカが粉砕骨折間違い無し、即刻バッドエンドだ。だが事実黒髭は死んでいない。

ㅤ私がカボチャを召喚して槍の軌道をコンマ数センチズラしたからだ。お陰で黒髭の身体中カボチャ塗れになっている。

 

「嬢ちゃん案外腹芸が出来たんだな。オジサンちょっと関心しちゃったよ」

 

「よく言うわよ、ちゃっかり聖杯だけ掻っ攫ってる癖に!」

 

「ハハッ、そいつァ大人故の余裕だよ。嬢ちゃんもそのうち分かるさ」

 

ㅤさり気なく煽ってくる。いやさり気な過ぎて本当に煽って来てるのか分からないくらい自然だ。

 

「だがまぁ、大人だからやらなきゃいけない事もあるもんでな」

 

ㅤヘクトールは『黄金の鹿号(ゴールデン・ハインド)』目掛け跳躍。ポカーン顔で固定された一同は置いてけぼりの模様。

ㅤ寧ろ適応する者達が異常な道程を歩んだ事がハッキリ分かる場面と言える。

 

ㅤだが、私はコレを黙認しよう。私の手の平に乗っている間は余計な行動を取るべきではない。策士エリちゃんは賢い!

 

ㅤ周りはエウリュアレが攫われた事に目が行く。私は釣れたことにほくそ笑む。

ㅤ別にエウリュアレがステンノに思った以上に似てるからって仕返ししようとか思った訳では無い。無いったら無い!!

 

「子ジカ。離して、落ち着いて、私の声に耳を傾けて」

「ででででも! エウリュアレが持ってかれちゃった。早く追わないと! ドレイク、直ぐに此処を離脱して追跡しないと! エウリュアレも聖杯も持ってかれる訳にはいかない!!」

 

「分かってる! 女神様(エウリュアレ)も私の船員(クルー)だからね。キッチリ返してもらうさ」

 

ㅤ切り替えが早い。彼女の成長が浮き彫りになった一場面だと思った。狼狽えたと思ったら次の瞬間から追う算段に思考を割くなんて若干高校生に出来るわけない。いや『魔術に関係が無い』と形容詞が入るが。

 

「私は別ルートから追うから先に行って!」

 

「──分かった!」

 

ㅤ子ジカは眩しい笑顔でそう言う。馬鹿正直に私を信頼しているからそう言う顔が出来るのだと思う。二つの特異点を私たちと解決し、次は三つ目、せめてアイドル()が彼女の心を潤いで守れていればとは思うが、心配だわ。

 

ㅤ子ジカが離れた事を確認してから作戦の要であるカボチャ塗れの汚物(黒髭)に近づく。

 

「船貰うから」

 

「え?」

 

「船貰うから。清姫出てきて良いわよ」

 

「はぁい」

 

ㅤ船室から待機していた清姫が─

 

ㅤ──私目掛けて飛び出して来る

 

ㅤ予想通りだったので躱す。何度も捕まるとは思わないで欲しい。

 

「残像ですわ」

 

「なん…だと──!?」

 

ㅤ直線的に突き進んで来ていた清姫が残像だけ残し、私の後ろを捕らえていた。高速移動とか瞬間移動とかそんなチャチなもんじゃあ断じて無い。それより恐ろしい清姫のストーキング技術を見たわ。

 

「寂しかった」

 

「いやほんの数十分…」

 

「一分一秒が私にとって何度の四季を乗り越えたか…嗚呼エリザ。もう離れないで」

 

ㅤ蛇の様に私の身体中に巻きついてくる。清姫の四肢が私の身体を愛撫する。力強いようで繊細なタッチにムズムズする。

 

「エリザニウムで満たされていきそう。いえ全然足りません。もっと欲しい。もっとあげたい」

 

「ちょっと何処舐め─ヒッ!?」

 

ㅤエリザニウムなる謎元素は皮膚間の接触や、口内摂取で賄う物らしい。清姫はコレさえ有れば二十四時間三百六十五日ぶっ通しで動けるとの事だ。私が発生源なのだから私の中に永久機関でもあるのかもしれない。

 

「ちょっとメアリー! アン!」

 

「諦めてくれよエリザベート。彼女、中でもこんな状態だったんだからさ」

 

「取り押さえるのに苦労しましたわ…」

 

ㅤそう言って出てくるのはアンとメアリー。細工がキチンと機能していて安堵する。

 

「続きは中で…ね?」

 

「いや、結構、です。本当に要らな─いやぁぁぁぁああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああっ!!!」

 

ㅤ清姫はエリザニウム欠乏症になるとゲームオーバー。この言葉は私の魂に刻まれる事だろう。

ㅤじたばたと身体を捻らせてもブレない。清姫の(ハイパー)清姫サンモードの恐ろしさが此処で極まった。

 

「助け─」

 

ㅤ無慈悲に扉はしまった…

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「拙者空気じゃね?」




今回のエリちゃんは比較的大人しかった…
次回は…何であぁ言う事するかなぁ!?
失礼…

こんなまどろっこしい書き方をしたのは理由がありましてね。話数を稼ごうと思って挟んだ話です。正直、最初のボツ案だと2話話完結してしまったのでご容赦を。

待たれよ次回!!

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