勇者エリちゃん(憑依)勇者の旅へ出ます。   作:小指の爪手入れ師

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遅筆過ぎると私でも笑っちゃいますね。
完結できる気が致しませんよ本当に。

恐らく今年最後の投稿ですかね…

はぁ、キヨエリを誰か書いてくれないだろうか……


他力本願は勇者に有るまじき行為だろうか?

ㅤ魔神フォルネウスは奇声を上げながら脈動する。イアソンなど最早居ないと言わんばかりの攻撃性を秘めた目力を私たちに向ける。

 

ㅤアイドルの私に視線が集まるのは当然だと言えるが、血走った目を幾つも向けてくるファンは正直嬉しくない。人外でも節度を守ったファン活動に従事して欲しいものよな。

 

ㅤ兎にも角にも勝手に始まった魔神柱との戦闘。

 

フラウロス(節穴さん)との戦いを鑑みると如何してもヘラクレスと比べてショボい。

ㅤ二、三発程清姫が打ち込めば終わった前例があるのだからどうしようもないが、FGOプレイヤーとしても魔神柱=素材と繋がるが為にどうしようもないだろう。哀れかな魔神柱諸君。

 

ㅤだが、今回はどうやら奴さんもやる気らしい。目線だけで起きる爆発やら広範囲に攻撃される火砕流。お前は火山かと言わんばかりの活火山ぶりで泣きたい。暑さに強いのが救いだわ。

 

ㅤただ手を拱いているだけの私ではないのだ。未だにフワフワしている黒髭に向かってダッシュ。

 

「ウボァー!?」

 

ㅤそして回転を掛けた蹴りで目を覚まさせる。

 

「ヌォ!? なんでござる、なんでござるかァ!? 拙者がルルブレされてる間に何が。この醜きバベルの塔は何ぞや? と言うかルルブレ刺さったとこ痛いんだが!!?」

 

ㅤ取り敢えず黒髭が復帰。すかさず破戒すべき全ての符(ルールブレイカー)を回収。付属品(黒髭)はバッチィので魔神柱にポイしておいた。

 

「なんででござるかァ──!!」

 

ㅤ断末魔と共に魔神柱に特攻した黒髭に敬礼。

 

ㅤ矢張りと言うべきか黒髭という存在は不可解極まり無い。

ㅤあろうことかあの男は魔神柱の攻撃を見事避け、目玉(イクラ)を穿った。

ㅤ可笑しな軌道を描いた彼は因果逆転でもしているのではないかと疑ってしまいそうだ。ただ後を引くのは赤い軌跡ではなく涙の痕だったが…

 

ㅤこの場合は投げた私を褒めるべきか、黒髭の溢れんばかりの変態性を指摘すればいいのか非常に迷う。

 

ㅤだが黒髭への注目が集まっている今が好機だ。

 

ㅤヘラクレスの拘束はそのまま、棺と鉄の処女(アイアン・メイデン)から上半身だけ露出させる。

 

「今だ。『破戒すべき全ての符(ルールブレイカー)』ッ!!」

 

ㅤ私はジャンピング&ルルブレを発動。

ㅤ宝具、破戒すべき全ての符(ルールブレイカー)はヘラクレスの厚い胸筋の筋を確かに突き立てることの出来る軌道を得ている。加えて、私を阻むものなど既に居ない。

ㅤ唯一メディアは視線を寄越している。だが、手遅れだ。私の対魔力はAランクを誇っているのだから止める手立てなど元より存在もしない。

 

ㅤ─これが詰みというものよ!

 

ㅤ私は勝利への確信に笑みを浮かべる。間違い無く勝てると言う自信がヘラクレスには持てる。このままこの歪な短剣を突き立てるだけでイアソンとの契約は切れる。その後私は強制的に契約してしまえばいいのだ。やって出来ないことは無いネ。

ㅤそうなれば、この怪物退治のエキスパートであるヘラクレスが魔神柱をナマス切りにするだろう。目には目を怪物には怪物を、という訳よ!

 

ㅤ今まさに、短剣がヘラクレスを突き貫─かなった!

 

ㅤ金属同士が打ち付けあったような音がするだけである。

ㅤ虚しい音だった。思わず唇を尖らせて「アレ?」っと首を傾げる。ぁ、今の私可愛い。

 

ㅤ─って違う、 話が(ちーがー)う!

 

「何で刺さんないの! ねぇヘラクレス何でぇ!?」

 

「■■■…」

 

ㅤヘラクレスくんもこれにはたじたじの様だった。

ㅤまぁ彼からしたら復活して、捕まって、拉致されて、刃物を突き立てられた挙句に刺さらない事に対する反応が涙目で訳が分からない状態だ。混沌としたシチュエーションに狂戦士としての在り方を改めそうになるのも当然と言える。

 

「当然です。ヘラクレスには低ランクの宝具なんて通用しませんからね…正直すっごく焦りました」

 

「おーい本音本音」

 

「な、なんの事やらわわわ、分かりませんね」

 

ㅤこの場の誰もがメディアに対し「分かりやすい娘」と評価した瞬間である。魔神柱もこの間は攻撃していないので間違い無い。

 

ㅤ忘れていた物はどうしようもない。不幸中の幸いにもヘラクレスの使役する方法はまだある。

ㅤそれは─

 

 

ㅤ─契約者である魔神柱(イアソン)に刺すことだ。

 

 

ㅤ足を肩幅に広げ、短剣を右手に収める。

 

ㅤ魔力を身体中や体表面に循環させ続ける。

 

ㅤ高める。高める。高める!!

 

「『破戒すべき(ルール)』」─

 

ㅤ大きく振りかぶる。

 

─「『全ての符(ブレイカー)』ッ!!」

 

ㅤ高まった魔力で全力投球。

 

ㅤ深紅の軌跡を描いた短剣が音を置き去りにして魔神柱に直進する。誰も止める事は出来ない。私の突飛なアイディアに対応出来る者など居ない。

 

ㅤ何で出来ているのかさえ不明なブヨブヨとした魔神柱の皮膚を短剣は容易く貫いた。雷のような轟音を響かせたその攻撃力は目に見えて凶悪だ。ぶっちゃけフォルネウスくんは瀕死である。

 

ㅤそんなフォルネウスくんに悲報である。

ㅤ私は彼がこの私の言葉にどの様な感情を抱くのかとても興味がある。絶望か、或いは憎悪か、イアソンならば改めて畏怖と憧憬の念を覚えたかもしれない。

 

「じゃあ殺すね。やっちゃえ、バーサーカー…」

 

ㅤ言いたかっただけである。

 

ㅤ私の台詞に応えるようにけたたましい咆哮が開いた棺から溢れ出す。演出めいた登場シーンの様に一つずつ拘束具がパージされる。

 

ㅤ言っておくと鉄の処女(アイアン・メイデン)の針や釘は全く刺さっていなかった。凹んでいただけと言う微妙な出来栄えだ。

 

ㅤ全ての拘束が解放された。鉛色の巨人は直立不動にそこに有るのみ。

 

ㅤだが、彼のターンは未だに終わってはいない。淡い光に包まれたのだ。

 

「おや、ヘラクレスの様子が…」

 

ㅤ携帯出来る怪物が進化する時のBGMを脳内再生している私は余裕綽々。もう何も怖くない。

 

ㅤ光が止めばそこには獅子の意匠を凝らしたアクセサリーに腰巻を纏い、私の身の丈より大きい斧を持った大英雄が巨木の様な二本足で直立しているではないか。アレ、髪伸びた?

 

ㅤ─誰がそこまでしろと言った!?

 

ㅤ霊基再臨。それが光の正体だった。

 

ㅤ走り出すモーションを見せるヘラクレス。二歩目から既にフォルネウスの眼前に迫り、叩き切っていた。その先は目にも捉えきれない乱打。魔神柱が不思議な肉塊の山と化すのはそう時間を要さない。

 

ㅤ跳ねるだけの肉の山は血液で起こる水音を出すだけの物体に成り下がった。流石の子ジカたちも口を押さえている。吐かないだけ正直可笑しいメンタルだ。私は少し吐いた。鮮血魔嬢とは何だったのか…

 

ㅤ魔神柱がミンチになった頃には黒髭は自力で脱出していた。よく生きてるなゴキブリよりしぶとい耐久力だ。あと清姫、あれで料理したら承知しないからね。もう出禁だからね!

 

「張り切って料理いたしますね!」

 

ㅤいや違う、そうじゃない…

 

ㅤカランコロンと私の足元に聖杯が転がってくる。何処と無く赤黒くてヌメっていそうだ。フォルネウス汁付き聖杯とか誰得なのだろう。私はそっと洗浄した。

 

ㅤ水気を拭き取った聖杯を子ジカに届ける。

 

「はいコレ今回の分ね」

 

「あ、いつもありがとうございますエリザベートさん」

 

「毎回エリちゃん経由な気がしないでもない。アレ、私いらない子?」

 

ㅤ何処と無く悲壮感漂う彼女にはそっとエリちゃんブロマイドを渡しておいた。エリザベートはクールに去る。

ㅤ尚、後ろから雄叫びを上げる先輩とそれを止めようと躍起になっている後輩の声が聞こえたが関わりたくないので足早にクールに去る。

 

ㅤ海賊組にも労いの言葉を言葉を掛け、黒髭には罵声を浴びせておいた。喜んでいたので立派なご褒美になったのだと思う。エリザもう気にしない。

 

ㅤ女神にも同じくお疲れ様の一言くらい言ってやろうと近付いて見ると先程まで後ろで這いつくばっていたはずの黒髭が次はアステリオスの足元で這いつくばっていた。

ㅤ後ろを向いても黒髭は居なかったので分身では無いようだ。瞬間移動とは変態性も極まったら恐ろしいものだと恐怖する。

 

「うう、えうりゅあれ、これどうする?」

 

「海に捨てなさい。自然に還る事を祈りましょう」

 

「うっ…」

 

ㅤアステリオスのジャイアントスイングがスタン中の黒髭に襲い掛かる。高い筋力は数十メートル先まで黒髭を飛ばし、音も届かない距離で水柱を生んだ。顔面から入水した様だ、南無三。

 

「あら居たの?」

 

ㅤあいも変わらず愛想が無い女神だわ。だが所詮旧き偶像(アイドル)と言ったところ。男の欲望が詰まったと言ったものの当時の男性がどれほど異常(アブノーマル)かが分かるな。つまりギリシャ男児は皆マゾという事だね分からない。

 

「今失礼極まりない事を考えていなかった?」

 

「うぇ!? んん、別に」

 

「アステリオス」

 

「すみませんでした!」

 

「あら、別に彼の名前を呼んだだけよ?」

 

ㅤ嵌められた!?

 

ㅤ本当に女神って嫌い。と言うか神が嫌い。性格が悪いと言うかただただゲスいと言うか!

 

「取り敢えずお疲れ様。もう消えそうだからそれだけ、じゃあね!」

 

「待ちなさい」

 

「何よもう!」

 

ㅤ右の首筋に柔らかい感触がある。

 

ㅤエウリュアレは「ご褒美」と言った後にはにかんだ様な笑みを浮かべる。腹黒い女神の事だ、どうせこの後の出来事でも楽しみにしているのだろう。正直既に背後から漂う熱気を感じるのだ。寒気がするのに暑い

 

「き、清姫、話せば分かるわ」

 

「何を慌てているのですか?」

 

ㅤ顔は闇で覆われていた。表情が読めないが声は慈母の様に優しい。果たして彼女は笑っているのだろうか、いやそんな訳は無い。違和感の塊と化した彼女は私の精神をゴリゴリと音を立てて削っていく。

 

「清姫、近い…」

 

「いいえ寧ろ遠く感じますわ」

 

ㅤそんな訳は無い。彼女と私の距離は肌と肌が触れ合って居ても可笑しくない程の距離だ。これを目と鼻の先と言う。

 

「あのね清姫、そろそろテンプレ化が過ぎると思うの。ファンたちが飽きる頃合いだと思うのよ私」

 

「…つまり?」

 

「お家帰ろ?」

 

ㅤ暫し沈黙。

 

「察しました。帰りましょう!」

 

ㅤ私の手を自分の胸に当てるという慣れて欲しくない動作をし出す清姫。完全に落とし掛かってるなと落ち着いた思考をしつつ、落ち着いた清姫に安心する。

 

ㅤ舌打ち聞こえてんだからな駄女神!

 

ㅤいつものように退去する際に、メディアに襲い掛かる黒髭や「出遅れた」と嘆く弓兵二騎が居たりしたが、まぁ問題無いでしょう。

 

ㅤ黒髭に関してはもう何も言うまい…

 

 

◇◆◇

 

 

ㅤいつもの部屋。小市民出身の私としては落ち着かなかった広々空間もそろそろ慣れ始めてきた。正直身体は慣れているのにも関わらず心だけが追い付いていないと言うチグハグとした状態だった為、肩肘張らずに居られる空間になって来た事にホッとする私である。

 

ㅤ過労死の勢いで仕事場に強制的に送り込まれる日々に身体が悲鳴を上げない。英霊故にそれなりに丈夫らしい。賢王は過労死したが、それ程凄まじい雑事をこなしていたという事だね。彼は生身故にそこら辺がネックなのかもしれない。

 

「取り敢えず寝たい。疲れた」

 

ㅤいつも通りに寝る態勢だが、彼女は今回もそれを阻むんだろうなというある種の諦めの境地。

 

「これはあすなろ抱きと言うのだそうです。今回は趣向を変えてみました」

 

ㅤ背中越しに聞こえる清姫の声は何処と無く明るい。角がある分抱きづらくは無いだろうかと呑気心配する。

 

「清姫、寝たい」

 

「夜伽のお誘いですか!? どうしましょう私まだ心の準備など…お、女は度胸ですね!」

 

ㅤ次に彼女を唆したメル友が誰か特定出来たな。あの引き篭もりはどうしてくれようか。

ㅤ続々とブラックリストに書かれ始める日本系サーヴァントは何時か絶対に泣かしてやる。ウチの清姫を誑かす輩は一人残らず泣かすことにしている。

 

ㅤ何か私の立ち位置が友達とかパートナーから飛び越えて親視点な気がする。完全に保護者だね。

 

「えっと、ベッドが良いですか? それともマット…」

 

「おい待て。それ教えたのは誰だ?」

 

「その方から『絶対に教えないでくれワン』と仰せつかっているのでお教え出来ないのです。申し訳ございません…」

 

ㅤオーケー把握。最優先で処す事にしよう。

ㅤタマモナインは皆倒しておこう。彼女たちタマモシリーズは危険過ぎる。悪影響しか及ぼさない。故に排除(デリート)

 

「そ、それでどちらが…」

 

「寝る。そのままの意味で!!」

 

ㅤ順番通りならば次はロンドン。殴る機会は十分ある。ボッコボコのけちょんけちょんにしてくれるわ。

 

ㅤほくそ笑みながらベッドイン。今は英気を養おう。奴らを殴るまで私は絶対に諦めない!

 

「据え膳食わずは?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

安珍(エリザ)の恥ですよ?」

 

「何それ知らな─」

 

ㅤそこから記憶がありません。




うん、当初セプテムまでだっただけあって自分でも設定がぶれぶれしてるよ。まぁ清姫とエリちゃんさえ居れば良いみたいな感じであればもっと書きやすいんだろうけれどね…

では良いお年をキヨエリと共に!!

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