勇者エリちゃん(憑依)勇者の旅へ出ます。   作:小指の爪手入れ師

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戦闘が書きたくないがために茶番を伸ばしに伸ばす。くどいと言われるまで伸ばす。

ロンドンのストーリーを完全に忘れてしまった…


胸と胸と胸と筋肉

ㅤうつむけで寝ることが習慣付いた今日この頃、私の朝は早い。と言っても朝と言う概念がこの場に存在するのか未だに不明なのだが気持ちの問題だ。

ㅤつまり私が今、『朝早く起きた。』と思うのであれば現在は早朝なのである。そういう事にして置いた方が私の精神衛生上良いはずだ。

 

ㅤ私のパッチリお目目が半開きに収まっているのは決して私が悪い訳では無い。私に(くる)まった毛布が離れてくれないのだ。感情の無いはずの毛布まで魅了してしまうとは私は私が恐ろしい。

 

「朝から何に思考を割いてんのよ私は…」

 

ㅤ無性に馬鹿らしく思えてきた為身体を起こすことにした。が、右腕が全くと言っていい程動かない。左腕を立て、引っ張り出そうと試みたがどうにも動いてくれない。

 

「んぁ…」

 

ㅤ引いてダメなら押してみる。柔らかい感触が手の平に伝わり、高級なクッションを想起させる。手触りはスベスベ、シルクのカバーでも付けているんだろうか。

 

「はふぅ…あぁ、エリ、ザァア!」

 

ㅤうんいい加減くどいと思う。ここまで腕を引いても押しても離さない彼女(クッション)にはお灸を据えた方がいいだろう。

 

「えい」

 

ㅤ腕力で彼女(クッション)を天に突き上げる。この際にも可愛いアピールを忘れることが無いアイドルの鏡はここに居た。

 

「─キャン!!」

 

ㅤ犬の様な断末魔が響き、同時に腕に残った圧迫感は消え去った。

ㅤ天井には美少女型のオブジェが変わりに突き刺さっていたがこれもまた日常。破壊されても直ぐに修繕される為お金の心配をする必要が無い。幸せである。

 

「ふぅ…まぁ今の私にとってはごくごく普通の日常ね。清姫朝御飯食べたい」

 

「清姫朝御飯…清姫朝御飯食べたい、清姫は朝御飯、朝御飯食べたい。朝御飯は清姫……清姫を食べたい、私を食べたい!? あ、朝からだなんて、心の準備がまだ! ですがエリザがどうしてもと仰るのであれば女清姫喜んで御一緒致します!」

 

ㅤ天井から降ってきた清姫は満面の笑みでそう言ってのけた。どうやら頭に強い衝撃を与え過ぎたらしい脳内のリミッターが解除されている。

ㅤくっ、お願いだからお淑やかだった清姫を返して。

 

「落ち着くのよ清姫、深呼吸して」

 

「ヒッヒッフー」

 

「違う、そうじゃない。てかまたあの駄狐の仕業ね! いい加減しろよ天照大神!!」

 

ㅤ私の生活を乱すのはたいてい神だな。こちらに来てからというもの特に女神関係の出来事が悲惨過ぎる。龍と追いかけっこ(安珍伝説追体験)したり、シンプルに貞操の危機に陥ったり。

 

ㅤ神に対する怒りで拳を強く握っている際にも清姫の暴走は止まらない。と言うか脱ぎ出そうとしている。もちろん腕を掴んで止めますとも。

 

「何故止めるのですか、もしや"脱がせたい"と言う事でしょうか?」

 

「違うから。普通に朝御飯が食べたいだけだから!」

 

「さ、さささ、流石にその、"あぶのーまる"が過ぎるのでは無いかと。いえ、エリザが誠に望むのであれば受け止めますとも。ただ、困惑してしまったというか…」

 

ㅤすっかり脳内がピンク色に染まっている。ヤンデレはいいけど淫乱にはならないで下さいお願いします。寧ろほら焼きに来いよ!

 

ㅤ手を帯に導こうとするな。掴ませようとするな。引かせようとするな。そして私は悪代官ではない!

 

「あぁ…これは盲点でした。ベッドではお代官ごっこは出来ませんよね! やはり敷布団でなければ!」

 

ㅤと言っては布団を何処からか取り出した。ダミ声で取り出す必要性がよくわからない。なぜベストを尽くしたのか。

 

「ご心配なさらず、丁度良い塩梅に仕立てました。密着せざるを得ないと言うよりも、触れるか触れないかの瀬戸際を再現した大きさ。ありとあらゆる態勢を想定した生地の伸縮性や強度は信頼に値すると自負しております。さぁ何処からでも来てください求めてください頂いてしまってください。もちろん私からでも、その…構いませんよ?」

 

ㅤ駄目だこの娘。完全に毒されてやがります。何が『構いませんよ?』、何ですかね。私は先程から朝御飯食べたいとしか言っていない。何をどう間違えたらyes枕を抱き締める事態に発展するのか理解不能出来ませんしたくもありません。

ㅤそれに作る物の質が向上して行くことに連れて断っていくのが心苦しくなっていくのです。どう見ても手間暇掛けていらっしゃる。

 

「この程度の手間、貴方様の為ならば惜しくはありません」

 

ㅤ知ってる。

 

ㅤよっぽど頑張ったのか彼女は発育の良い胸を張って答えた。歳の近い英霊たちと比べたら悲惨、圧倒的よね。これが胸囲の格差社会。現実って残酷だわ。極東では一体何を食べればこうなるのかしら…

ㅤ私? 私はこれが完成形だから、均整の取れた美ボディとはこのこと言うのよ。つまり貧乳はステータス。

 

「どうしました?」

「…なんでもない」

 

ㅤ拙いな、つい視線が胸元に向いてしまう。微妙に着崩れた着物は艶かしいと言うかフェチズムを刺激される。

ㅤいや私にとってはその手の欲は微妙な範囲か。視線の先を胸に固定してしまった私の心中は果たして姿貌への憧れか妬みか…

 

「何処を見ていらっしゃるんですか?」

 

ㅤ女の視線対する察知能力の異常さを垣間見た。

 

「いや何処って、アンタをよ…」

 

「いえ、そうではなく…質問を変えましょう。私の何処を凝視(・・)していらっしゃったんですか?」

 

ㅤ何故だ。何故私が責め立てられている。条件反射だろう? 誰が私を責められると言うんだろうか。いやこれはこれで変質者の言い訳に聞こえる。そうだ正直に言おう、謝ろう。不躾な視線をすみませんで終わりだ。さぁ心は決まったなエリザ、胸を見ていたと言う告白を羞恥を隠しつつも言い切るんだ。

 

「…胸を、見てました。なんかごめん」

 

「私は一向に構いません!」

 

ㅤ私は良くない。想像以上の恥ずかしさだ。

ㅤ同性の友人に「胸を凝視していた」やら「股間に凝視していた」なんて話があってみろ。何処と無く微妙な羞恥心がずっと胸を燻るよ。

 

「寧ろどうぞ顔を埋めてしまっても構いません。そう言うのもあると聞き及んでおります」

 

「アブノーマル過ぎんだろうが!」

 

ㅤいや弁明しておくが、私は決して清姫にバブみを感じる様な特殊性癖など持ち合わせて居ないからね。相手はほぼ同年代鯖だもん。

ㅤおっと"清姫に"と言う部分に反応した優秀者は後で生歌披露をしてあげるわ。喜んで、私の為だから!

 

「理性などかなぐり捨てる覚悟は宜しいですか? 私の敏捷からは逃げおおせても既成事実からは逃げられ無いと心得て下さい。私、逃がしませんので…」

 

「いやいやいや、英霊にそういうの無いから! 私たち反英霊にも無いから! ちょっと手を引っ張るの止めなさ─ヒィ!」

 

ㅤ清姫の瞳には最早私しか映っていない。本気と書いてマジと読む、そんなヤバい目をしている。ギリギリ保たれていたボーダーラインを踏み越えようと躍起だよこの娘。ちょっと必死過ぎないだろうか、正直ドン引きです。

 

ㅤ─勇者よ…

 

ㅤ蛇は獲物を締め殺さんと巻き付く。清姫は私を逃がさんと組み付いてくる。

ㅤだが、脱出法はあちらからやって来た。地方営業だろうが、人類悪を殴り倒す簡単な作業だろうが何でもいい。一時だけでもこの場から逃げ遂せるならばおつかい感覚で救っちゃいます。エリちゃん世界救っちゃいます!

 

ㅤ貞操の危機を乗り越える為に強く念じる。─速く飛ばせぇ!!

 

ㅤ─言質取ったり!

 

ㅤやけに嬉しそうな声と後、いつもの浮遊感が訪れる。

 

ㅤ清姫は舌打ちのあとで「焼いておくか…」と謎の言葉を零した。彼女は一体何と戦っておられるのか、エリザは頭が痛いです。

 

 

◇◆◇

 

 

ㅤ竜の感覚器官を大きく刺激する過多な魔素を感じた。視界はほぼ白く塗り潰す濃霧。身体を撫でる水気は異常を存分に意識させる。

 

ㅤ場所はロンドン、この地は霧が出ることで有名であったがそれにしても異常だ。一般人が外に出ては死んでいく魔霧が常時発生している様が普通なのであれば観光には向かないし行きたくはないでしょう。

 

「取り敢えず拠点を置く事にしましょう。闇雲に突っ込むにしても危険だし、突っ込むのにも準備が必要でしょうしね」

 

「では六畳一間の物件を探しましょうか」

 

「あるわけ無いでしょうが。ここロンドンよ?」

 

ㅤ本気なのか冗談なのか真顔なので全く分からないが何処と無く楽しそうだ。

 

「みこーん、みこーん。みこっと感じます。類稀に見ないイケ魂反応です!」

 

ㅤ周りには何も居ない。と言うか視認できないだけだろう。居るのか、そこに!

ㅤ私はそっと、だが力強く拳を握った。

 

「おい待てフォックス。てかなんだよその魂…」

 

「ちょっと付いて来ないで下さい金時さん。毛がビッリビリバッチバチするんですよぅ。それに男連れなんて心象最悪です!」

 

ㅤ─既に最悪だよ!

 

ㅤ奴から見ても私は─魂的に─イケてるらしい。不意打ちに期待出来そうだ。全力全開を持って攻撃しても避けられては無意味である。確実に当てて行きたい。これまで私が味わった恥辱を単純なエネルギーに変えて黄金の右腕でもってけちょんけちょんにしてくれるわ。

 

ㅤ「みこーん、みこーん」と言う謎のサーチ音が徐々に大きくなって来ているのが分かる。緊張しきった私の尻尾(マイテール)が警鐘を轟かせている。─近いっ!

 

「それでイケ魂とやらは味方なのかよ?」

 

「イケモンだったら私は全力で逃げます。金時さんを置いて!」

 

「そいつァゴールデンじゃねぇな…」

 

ㅤくだらない問答している今がチャンスだ。私は音もなく駆け、右腕にキャスターでも死なない"めっちゃ痛い"くらいの魔力を込める。

 

ㅤ濃霧の先に標的を確認した。

 

ㅤ必殺技を叫びたい所だが出来ることならギリギリまでバレたくはない。心で叫ぼう。

 

(我が怒りによって磨かれた憎悪の鉄拳。鮮血を撒き散らしながら果てるがいい!)

 

 

ㅤ──鮮血(バートリー)鉄拳(・アイアンフィスト・)魔嬢(エルジェーベト)ッ!!

 

 

ㅤ標的もコチラを視認したようだが既に遅い。─勝った!

 

ㅤ─と思った…

 

ㅤ突如浮遊感に襲われる。小学生の時にハイテンションになっては同じ経験をした事がある。親にもよく注意をされる事だったのにも関わらず。親には決まってこう言われていた─

 

ㅤ─はしゃぎ過ぎると転んじゃうゾ、と。

 

ㅤ道には窪みがあった。私は棘のついた靴を履いている。つまり引っかかる。注意していればどうってことのない窪みであった。

 

ㅤ無駄に脚力が有るだけに勢いは止まらない。ベタなポーズで浮遊する私は何とヒロインをしているのだろう。エリザベート・バートリーはドジっ娘ヒロインであったか!?

 

ㅤ結果、私は標的の胸部装甲にダイブする事となった。

 

「おぅ!?」

 

ㅤふんわり柔らかである。

 

「ちょっとストップ、動かないで下さい! 刺さります。角が顔を突き刺さりますからァ!?」

 

ㅤそう言われてもこのままと言うのは私の体裁を考えてどうだろう。いきなり胸に飛び付いた美少女は果たしてどのように見えるだろう? 簡単だ、美少女である。

 

ㅤ閑話休題。

 

ㅤ出オチと言う悲しい結果となったタマモシリーズ殲滅計画。登場シーンとしては最低最悪であり、涙目は不可避だ。事実目頭がじんわり熱を帯びている気がする。

 

ㅤ清姫が駆けつけた後で一悶着有ったりしたが、些細な事だろう。結果、道が焦げ付くだけなのだから、タマモを倒せなかった事に比べれば本当に瑣末な出来事であると私は思う。

 

「こんなにも焦燥した姿は初めて見ました。清姫の胸であれば何時でもお貸しいたしますよ」

 

「下心しか出てきてないですよ清姫さん」

 

「む、元とは言えばタマモさんが原因らしいじゃないですか? どう責任取って下さるんですか!? 胸に飛び込まれたからって調子に乗らないで下さい!」

 

「最後の方が本音ですよねぇ? いえまぁ確か役得と言いますか、ご馳走様と言いますか…とにかく楽しんでいないと言えば嘘になりますが、私としても不可抗力ですしぃ! 正直アレだけアドバイスしといて何ですけれど、まだ落とせていないなんて脈無しなんじゃありません? フリーなら私が貰って行っていいですよね?」

 

「…言ってはならない事を言いましたね?」

 

ㅤキャットファイトとはこう言う様を表すんだったか、いやファイティングしているのは猫ではなく狐と蛇だけれど。

ㅤ正直バーサーカーの中でも筋力の低い清姫とキャスターと言う直接戦闘に向かない玉藻の前が争っても目に見えて泥試合なのだが…

 

ㅤこの後互いに燃え尽きるまで戦いは続いたらしい。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「取り敢えず俺っちの上着着とけよ。寒いだろそのカッコ」

 

ㅤアンタが一番イケ魂に見えるよゴールデン。

 

 

 

 

 

 




タマモを待っていたという方のリクエストにやっとこさ応えられた。
反響が良ければレギュラーでも良いよね!
後ゴールデンの口調が掴めない。

ワンパターン化を解消したいけれど、どうすればいいかわからないじぇ。

次回も気長に待っていてくれたら嬉しいです。

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