勇者エリちゃん(憑依)勇者の旅へ出ます。   作:小指の爪手入れ師

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お久しぶりですね皆さん。
まぁこんなに期間が空いたのは初めてですから失踪の疑いを掛けられていて当然だと思いますが、どうにか帰ってきましたよ。

次いでにそこまで清エリ成分は無いので、希薄している成分を分け合って下さますようお願い致します。


これは確実にポジションを間違えている。

 壮絶な親子喧嘩、と言うよりもただの殺し愛。顔に浮かぶのは鬼の形相では無く、慈母の顔とそれに甘える子供の顔。全てが奇妙であり狂気的。

 

「たァ!」

 

 ジャックの逆手に構えられたナイフが清姫の下腹部に突き立てられる。それは清姫の閉じられた扇子によって弾かれるもジャックはめげずに身体を捻らせてラッシュする。

 

「解体するよ!」

 

 顔に喜色の笑みを貼り付けながら家の外壁を蹴り立体機動に入るジャック。変則的な切り結びは紅い軌跡を描きながら飛び回る。霧で視界が優れないのにも関わらず全て扇子で流していく清姫の技量に顎が外れそうな私。

 

 誰かいい加減にこの非常識な状況を解消すべきだろと私は思うの。けれど私はコレをどうにかしろと言われても手が出せない。助けてゴールデン、いやそんなに全力で首振らないでも…

 

 清姫の内に高魔力反応、明らかに宝具の前兆である。これにはジャックも距離を取って構え直した。互いに緊張状態が保たれ、次の一手で勝負が決まる事を示唆した。

 

「─って、それはマズい!!」

 

 こんな細っこい道で清姫の宝具何て使ったならばみんな仲良く焼け本、焼け狐、焼け金時(ゴールデン)になってしまう。なお私は大丈夫だと思われる。オルレアンでの実績がある。

 

「この、バッカモンがァ─!!」

 

 私の身体に纏われた魔力渦で霧は晴れていき、清姫へのルートを引いた。後はそれになぞってドリルキックを叩き込む。

 

「はッ、これが新たな愛のかた─」

 

 寸分狂い無く清姫の脇腹をゴリゴリと削り取るドリルキック。ピンと伸ばされた両足を屈む形で収めた後清姫を蹴って反動を得る。そして着地した後ガッツポーズ。アイドルとして恥ずかしくない一連の動作だわ。

 

「まずアイドルはそんな事しないと思うわ…」

 

「俺はいかしてたと思うけどな」

 

「金時さん、タバコ逆さですよ?」

 

 誰になんと言われようとアイドルっぽい行動です。文句があるなら生ライブに来ることを推奨するわ。死んじゃうくらいの感動をアナタにプレゼント出来る自信があるもの。

 

 清姫の顔を踏み付けながら何故宝具を使おうとしたのか問いただす。苦しむと言うよりか何処と無く恍惚な顔を浮かべながら答えてくれた。この娘はもう末期だわ、知っていたけれど。

 

「そう言う愛の形もあると──あぁもっと足蹴にして下さいませぇ」

 

 取り敢えず角を鷲掴み無理矢理立たせ、首に腕を回して意識を刈る。最後まで「エリザの控えめな乳房が背中に─」などと幸せそうな悲鳴を上げていた。

 

「何か私の知っている清姫さん以上にアブノーマルに染まっちゃってるんですがソレはどういう」

 

「色々あったのよ…」

 

「いやいや安珍厨の清姫さんが他の英霊にここまでの影響を─」

 

「─色々あったのよ…」

 

 それを最後にタマモは小さく声を漏らし、察したように哀れみの視線を向けてくる。

 私は好きで清姫をこんなピンク色に染めたわけでは断じてない。何か勝手に染まって、勝手に言い寄って来ただけです。初対面でいきなり胸をまさぐってくるぐらいに最初からピンクしてたもん。私悪くない。

 

 手に持ったピンクをそこらに投げ捨て、呆然としているジャックに向き直る。ナイフは構えたままだが話は出来そうだ。

 

「おかあさん寝ちゃったの?」

 

「そうなのよ、困っちゃうわよねぇ」

 

 何処と無く不満顔なジャックは遊びはおしまいと思ったのかナイフをクルリと回して腰のホルスターに収納した。そしていつの間にか脱ぎ捨てた襤褸の外套を羽織って路地に戻っていこうとする。

 

 ここで逃すのはマズいと考えた私は呼び止める。あどけない表情を浮かべながら振り向いてくれたジャックに一緒に来ないかと勧誘を掛けてみた。結果は─

 

「ダメだよ」

 

 拒絶だった。

 ジャックの目的は母親を見つけ、中に帰る事だ。目的は既に半分達成されている筈、清姫と言う母親を得たジャックはここから離れる必要はない。だから一緒に居ていいと言ってやれば嬉々としてパーティに加わると予想していた。

 

 だが、結果は拒絶だった。

 母親を探しに行く必要など何処にも無いと言うのに細い路地に帰ろうとする。それがたまらなく違和感だった。そんな違和感を払拭する為に理由を聞いてみたが。

 

「…よくわかんない、何でダメなんだろう…ねぇ何でおかあさん? どうしてわたしたちは一緒に居ちゃダメなの?」

 

 寧ろ聞いてくる始末。

 無垢な瞳に疑問の霧を被せた状態。とぼけた様子も無く、本当に分からないと言った雰囲気であった。唸りながら考え込んでも結果は変わらないらしい。

 

「ふむどうやら簡単な思考誘導の魔術を掛けられている様ですね」

 

「分かるのタマモ?」

 

「いやぁ何処と無く呪術っぽいですしぃ。となれば専門分野って寸法なんですよ」

 

 いやジャックに操られていた的な描写は無かったはずだけれど、その魔術を行使していそうな人くらいは分かる。と言うか(パラケルスス)でしょ間違いない。

 

 となれば術者をしょっぴいてジャック仲間入りイベントを消化するしかない。数は多ければ多い程いいのです。質が良ければなお良し。

 

「じゃあ魔力を追跡したりして直接叩くわよ!」

 

「いえ、霧的な理由でインポッシブルです」

 

「アリスでも?」

 

 胸の前で腕をクロスさせ、申し訳なさそうに顔を歪ませるアリス。正直心がジクジクするわ。

 

 しかしどうしたものか、これでは手も足も出ないままジャックを逃す事になる。

 

「ではいっそこちらがジャックに同行してみるのはどうでしょう?」

 

 いつの間にか復活を遂げていた清姫はツヤツヤした顔でそう言ってきた。脱皮でもしたのかしら…

 

「いやでも一緒に居ることには変わりないし流石に─」

 

「─それなら、うんいいよ」

 

「何でよ!?」

 

 ゆるい、ゆるすぎるぞ思考誘導。それでいいのか本当に、清姫の理性くらいゆるいわ。

 

 でもまぁ、(トラップ)だとしても踏み抜くだけ踏み抜いて行くのが勇者としての王道。正面からお邪魔しましょうそうしましょう。

 

 

◇◆◇

 

 

 何処に行っても霧ばかり、見える景色も一辺倒、清姫は今日も狂愛士(バーサーカー)。ひたすらに小さい女の子の後ろを追い掛けるのって勇者の前に人としてアウトと思うのは私だけかしら。

 半分飽き始めていた私はゴールデンの肩にアリスと一緒に乗車してダラダラと過ごしている。

 

「視線が痛てぇ」

 

 恋する乙女の眼光は質量を持っているからね。特攻でダメージソースがすごいのなんの、きっと奴らは真の英雄なんだね。

 

「真の英雄は目で殺す…」

 

「なんだ、ビームでも出んのか?」

 

「あら鋭いじゃない」

 

 そう言えば私の系譜にビームやらミサイルやら撃ちまくる娘が居たような気がする。もしかしてうちのチェイテにも居たりするのかしら、対軍宝具を個人に集中的に運用する鬼畜技を持っているのだし有用よね。コクピットに乗れば空中の高速移動とか出来るし、何より燃料って私だからエコで幸せいっぱい、地球に優しいからガイアもこれにはニッコリね。

 二体で合体メカも展開的に美味しいわ!

 

「英霊でメカニック候補は大勢居るのだし、今後のメンテナンスや装備改修の為にスカウトとかした方が…」

 

「とっても楽しそうねエリザベート、アリスも混ぜて」

 

「男にしか分からない世界なのよ!」

 

「エリザベートは女の子なのだわ…」

 

「心に少年を飼っているの」

 

 頬を膨らますアリスを横目にジャックを覗く。

 会話には入って来ない。黙々と迷い無く進んでいるという事は目的地がしっかりあると言うことだろうか。

 

「ねぇジャック、何処を目指して居るのか聞いて良い?」

 

ロンドン警視庁(スコットランドヤード)だよ。たくさん殺すんだって」

 

「へ、へぇその口振りじゃあ他にも来るみたいだけど…」

 

 だがそこでジャックは首を傾げた。

 いよいよ(トラップ)の線が濃厚になってきた。相手に同行者がいるのにも関わらずに同行を許可させるなんて分かりやすい真似を魔術師の様な秘密主義な奴らがするわけが無い。まるで私が付いてくる前提で仕掛けられたみたいな気持ち悪さだわ。

 

 兎に角、第一目標は術者を倒してジャックの仲間入りイベントを消化する事ね。

 それまでロンドン警察の人たちは警視庁内に隔離して安全を確保しないと。魔術の秘匿云々言っている場合じゃないし、彼等じゃあサーヴァント戦は不可能だし、持っても一分持つか分からない。漏れなく何も分からぬままに殺される。

 まぁその辺はキャスター組に任せよう。

 

「そろそろね」

 

 霧でシルエットしか拝めないし魔力の反応も鈍いが、近付いてみたらサーヴァントの反応をビンビン感じる。自分の索敵能力の高さに感謝ね。

 

 門の前に人影を捕らえたと同時にゴールデンの上から下車する。一人を除いて臨戦態勢を取るが徐々に明らかになっていく人影に私は思考を停止せざるを得なかった。

 

「何でアンタがここに居るのよ?」

 

 私が捉えた人物は白衣を着た錬金術師などでは無かった。私が見たのはモスグリーンのタキシードにシルクハットの魔術師だ。

 温和そうな笑顔をこちらに向けている。だがその目の奥に秘める憎悪の炎は確かに私に向けられている。

 

「ポジションミスよ。何でそこにいるのフラウロス!」

 

「蜥蜴風情が私の名を気安く呼ぶな。全く吐き気がする。何故貴様なんぞの始末を請け負わなければならないんだろうなァ」

 

 そう言って前回私たちに焼け魔神にされたフラウロスは手に持った聖杯を掲げた。濃密な魔力が周囲を輝きで満たしていく。私は何が来てもいいように構えを取ったままだ。取ったままだった。その筈なのに…

 

 ─私の胸に槍が生えているのは何故だろう?

 

 背後の者はサーヴァントで間違いなかった。アサシンならば納得も出来る。結果はランサーだが、果たして気取られずに私だけを奇襲出来る槍兵が居ただろうか? 李書文ならば出来そうな気もするが、槍の形状からして除外される。

 

 いや、良く考えれば振り返れば一発で分かるじゃない。

 

 馬だ。馬の顔がアップで見える。

 いや違う、問題なのはその馬の騎乗者、私を突き刺してきた槍の持ち主のはずだ。馬何かに目を奪われている場合じゃない。

 

 正体は闇色と言っていいほど黒々とした鎧を装着した騎士だった。やけに胸部装甲だけ盛り上がっているので間違いなく女だろう。と言うか普通に知っている英霊だったわね。

 アルトリア・ペンドラゴンのオルタなランサーで相違ないでしょう。つまり現在進行形で私の骨をゴリゴリしているのはロンの槍という事ね。

 

「じゃあ何でいきなり背後なんかに…」

 

「聖杯をただの目眩しだけに使ったとでも?」

 

 なるほど令呪で出来るような転移やブーストが聖杯に出来ないはずも無かったわね。クソゥ、呪い効果で傷口がジクジク痛む。こんな時に型月っぽさなんて要らなかったわ。と言うか選択肢なんて何処に…ジャックに付いていくことが選択か。

 

「好感度、足りてなかったかな?」

 

「んな、呑気な事言ってる場合じゃないぜオイ!」

 

 横に立っていたゴールデンがアルトリアに向かって斧を振るう。アルトリアは槍に刺さった私を盾にそれを防ぐ。

 

「いけませんわ金時さん、エリザが」

 

「チィ…」

 

「ちょっとあんまり揺らさないでよ傷口抉れちゃうじゃない」

 

 何処と無く意識がふわふわしてきた様な気がする。口内は血液で噎せ返るようなのに不思議ね。

 

「エリザ!?」

 

 清姫が呼びながら向かって来てくれているけれど、能面の様な顔になっているジャックに邪魔されている。どうやら来れそうに無いらしい。アリスやタマモではサポート位しか出来なそうだし、助けようにも当の本人は盾にされちゃってるわけで…あらやだ囚われのお姫様ポジションに抜擢なのかしら。

 

 いや囚われのお姫様ならもっと丁重に扱って欲しいわね、切実に。何処に槍でプランプランさせられちゃうお姫様が居るって言うのよマジありえない。

 全くこんな無様をプレゼントしてくれた人畜無害を装ったサディストはどんな顔をしているのやら、って居ないじゃない!?

 

「殺り逃げとか…サイテー」

 

「言ってる場合ですか!? てかエリザベートさん結構元気でいらっしゃいます?」

 

「何かお花畑が見えてきた。胡散臭い笑顔の爽やかお兄さん付きとは何とも豪華なオプションよ…」

 

「手遅れっぽいじゃないですかヤダー」

 

「縁起の悪いことを言わないでください! エリザは私を置いて逝ったり致しません…」

 

 案外喋れんじゃない。

 戦闘中に会話とかこれだからギャグ時空は困るわ。いやゴールデンは苦い顔しながら対峙してるし、アリスは泣いてるから、あの馬鹿二人だけギャグに生きてるのね。

 ぁ、私はきっとギャグとシリアスハイブリッドです。それって所謂シリアル?

 

「あぁ、何か道場と花畑がミックスしてきた…」

 

「エリザァ───!!」

 

 そう言えばフラウロスって噛ませで、何回か出てきて、その度に情報を残して帰るわよね…アレこれって─

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

─つまりアイツってそういうポジションなの!?

 

 




次回投稿は未定です。
どうにも最近は忙しさに喘ぐ日々でして、朝早く夜遅いの生活です。ちまちま書いて行こうとは思っています。
待ってくださる方々には申し訳ないのですがどうかご容赦を、そして今後ともよしなに…

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