勇者エリちゃん(憑依)勇者の旅へ出ます。 作:小指の爪手入れ師
こっそりひっそり皆様の記憶からフェードアウトする為さ!
そんなことよりも今回の話は脱線したまま道草を食う様なお話です。テキトーに考えた設定を一部公開したりする回なのでシリアスからシリアルへの高低差で耳をキーンしてください。
気付いたら何とも不可思議な空間にて棒立ちになっていた。酷く老朽化が目立つ武道場に花々が咲き誇り、外を見れば曇の無い群青色の空と錆びと苔で覆われたビル群が見える。
退廃的だ。
長い年月、人の手が入らなければこのような惨状を目の当たりにしても納得ではある。事実、人の気配も無ければ動物の気配すら感じ取れはしない。ここに居る存在が自分だけなのではないかと若干の恐怖感を覚えたが深呼吸をして要らぬ感情を押し止めさせた。
さて、私はどこに来たのか。
まさか今更未来の世界に飛ばされたなどとは考えない。私たちが救う未来がこの世界だとは思えないし思いたくは無い。
ここに来る前後の記憶は特に苦もなく取り出せた。そう確か私は戦闘中に背後に転移されたランサーに反応しきれずにロンの槍にぶっ刺された後に肉壁要因としてリサイクルされていたはずだ。
それから先は記憶に無い。座に帰還されない所を考えると─
「サーヴァントで夢…」
通常サーヴァントは夢を見ない。マスターが居るのならば魔力が通るレイラインを伝ってきた記憶を閲覧するという事象が起こり得る事を知っているが、生憎と私はマスターと言われる都合の良い存在は持ち合わせてはいない。
「貴様がそれだけ特殊だと言う証左だ」
誰も居ないと思われた世界に私以外の声が発せられた。
それは背後から、先程相対していた、忌々しい声だ。
「フラウロス……夢にまで来たの? 追っかけもそこまで来るとストーカーね」
いつも不機嫌そうに歪めていた表情は形を潜め、一貫性を見せる無表情で私を見つめる魔神がいた。
謎の光が床に見える。円形で、綺麗に区切られていると感じた。そして魔神はその円のその中心に居り、出る気は無いのか何処からか出した装飾もない木製の椅子に座ってしまった。
いやそんなことよりも─
「何時もなら間髪入れずに暴言を吐く私がやけに大人しい…か?」
思っていた言葉の羅列を赤裸々にされ自分の表情が強ばるのが分かった。反応がいつもと違う、と言うよりも最早真逆の位置に達している。どうしようもないやりにくさを感じてしまう。
「まず状況の説明をしよう。現在貴様は夢の世界に囚われている状態となっている。この夢の外では未だに戦闘が継続中だ──ついでに私を倒した所で夢から脱出する事は出来ない」
「次にこの状況を生み出したのは分かっているとは思うが私だ。魔神としての力に聖杯の力を乗算させることで可能とした」
「最後に目的と脱出方法…これについては簡単だな猿でも分かる単純明快な方法」
「私の質問に答えるだけでいい…」
個人的な質問は他のファンの反感を買って争いの種に成りかねないのでやんわりお断りするのがいいんだろうけど、夢の世界に来てまで聞きたい質問となるとファン第一主義の私が答えないわけにもいかない。
まさかこの答えざるを得ない状況を態と作ったというのかしら、なんて恐ろしい子!?
くっ、答えるしかない!?
「いいわ特別に答えてあげる。スリーサイズでも聞きたいのかしら?」
「フッ」
「な、何に対して笑った貴様ァ!」
「勿論、貴様の
貧相…私の身体が貧相ですって!?
多くのブタとリスたちの羨望の眼差しを独り占めしてきたこのエリザボディが貧相だと宣いやがりましたかこの
◇◆◇
ふぅ、落ち着いた。
「じゃあ何が知りたいって言うのよ、一応トップシークレットの情報はノーコメントだからね!」
「では一つ目、貴様にとって一番優先するべきは何か?」
「無視しないでよォ!」
可愛くあざとく両腕をオーバーに動かしつつ批難の声を上げるものの、この魔神は相も変わらず無表情を突き通して行く。眉のひとつも動かさず、じっと視線を私から逸らさない。そこまで見つめられると照れちゃうわ。
しかし一番優先するべきは何か、と言う質問の意図はさっぱりである。まず範囲は何処にあるのか、アイドルや勇者とか人生とまで来ると色々答えが出てきてしまう。
「それは勇者として? それともアイドル?」
「質問の通りだ。貴様にとっての最優先事項を問うている」
私にとっての最優先事項。
つまり、勇者やアイドルも含んだ私を意味する。であるならば私の答えは──
「─平和ね」
「その心は?」
「勇者が平和を求めるのは当たり前で、アイドルは笑顔を振りまいて幸せを押し売りするのが仕事。じゃあどちらも意味するのは平和というわけね!」
満足そうに首肯する私とは対照的に魔神は何処か苦々しい。無表情なのに苦々しいとは随分と器用なことを……
「では二つ目、一番幸福だった記憶は?」
「……はぁ?」
質問の意図がさっぱりなんだが。私の内心は「なんだこいつ」の一言で埋まっちゃってるんだけれど。
当人の魔神さんは自分の瞼の裏を見つめて返答待ちなスタイルだし、いや本当に人の夢ん中来てまで聞きたい事ってそれでいいの?
「ねぇもっとマシな質問考えて来たら? 次の特異点潰す前後まで待つから、○○診断みたいな本に影響された女子みたいよこの質問」
「貴様は黙って質問に答えていればいい。速くしないと眠りこけている間に戦闘が終わるぞ」
「そういや清姫たちがまだ…」
うん忘れた。
いや本当ごめん、思ってたより現状に動揺してたみたい。制限時間がきっちり設けられてる当たり計画的犯行らしい。良く考えたらこれ誘拐よねハイ○ースなんて乗った覚え無いんだけれど。というかハイ○ースして来る候補に一番最初で上がるのが身内に居る時点でやばいのでは──
そんなことよりも質問に答えない事には始まらないし終わらない。今すぐ起きて解決特異点をぶっ壊さなきゃ。
一番幸福だった記憶。
まぁこれは今になって思えば単純明快にしてシンプルな答えだわ。と言うかもう私にはこれしか考えられないまであるわ。
「─きちんとした衣服が着れてる私ッ!!」
それはもう胸を張って言えるわ。痴女みたいな服装を強制され、動く度にチラリチラリとチラリズム、全世界のブタ共が股間を押さえて前屈みになること必至の私の毎日。
まさに普通の服を着衣出来ている時間こそ私のオアシスであり、救いであり、無償の愛である。あぁなんと良き文明かな衣服。
「では最後だ─」
「無関心過ぎか!?」
自分から聞いておいて反応が何一つ返ってこないなんて、そんな雑な進行が許される訳ないじゃない。エンターテインメントって知ってるのこの魔神!
なんなのこの魔神、TVとか見ないの? 若者のTV離れが原因なの?
──この魔神は若者じゃないんじゃね?
察してしまった。
これ気付かん方がよかったよね。魔神なんだから精神年齢人外とか良く考えたら当たり前だし…見た目は若者、頭脳は
「お若いですね!」
「……大丈夫か、ロマニを呼ぼうか?」
「おまいう!?」
人の世を垣間見て絶望したから世界を作りかえ隊に精神の心配されたんだが、私ってそんな酷い?
脱線ばっかりするけど仕様だからしょうがないもん。文句言うなら毎日
「改めて最後の質問だ」
「バッチコーイ!」
「……貴様の名は?」
うん、もう突っ込まないわ。
「私はエリザベート・バートリー。職業は勇者とアイドル。趣味は世界を救うこと。願い事が叶うなら毎日マトモな服が着たい超絶可愛い美少女ッ!」
もうただの自己紹介である。
「質問で得た情報から考察も終了、既に情報局が管理するに値する事実がここで立証出来た。感謝するよ勇者エリザベート・バートリー」
魔神は立ち上がった。
「貴様の記憶をそのまま閲覧出来ればそれが一番手っ取り早く事が終えられた筈だったんだがな、異常なまでのプロテクトに私も手が出せなかった」
魔神はここに来て初めて笑った。いや嗤った。
嗜虐的な嘲笑を浮かべ、可笑しくて仕方が無いと言った表情だ。私の困惑で濡れた精神を薄ら寒い風が否応なしに吹き抜けていく。
「良かったよ貴様が馬鹿で、いや馬鹿と言うより純粋過ぎたおかげだ。その身体が仇になったな!」
腹を抱え、仰け反り、歯を剥き出し、大口を開け、彼は呵呵大笑と言わんばかりに笑い転げている。一見無邪気にも見える笑い方が私にはどうにも不気味に見えた。
「まぁ結果は変わらん。貴様にはここでご退場願うよ」
「いやアンタ最初にここから出してくれるって─」
一文字に固く結ばれた唇からはそんな馬鹿な言葉しか出せなかった。どう考えても出してくれる可能性なんて無いのにも関わらず何処までも楽天家は変わらないのだと分かった。
「あぁ出してやるとも─」
─廃人になってからな
「どう言う…」
どういう事なのとは最後まで言えなかった。
不可解な言葉が先程あったから、確かに聞こえたのだ聞いたのだ『その身体が仇になった』と、つまりあちらは既に私が憑依者だと気付いた上で今までのやり取りをしてきた事になる。
英霊に憑依だとかそんな突飛な発想なんてそうそうしないだろうと高を括って居たけれど……
「説明する義務は無いな!」
「いつも垂れ流しでしょうが。こういう時だけケチるんじゃないわよ!」
「聞こえんなぁ」
都合の良い節穴しやがって。
先程からレトロニアもエイティーンも手元に出せない。攻撃して来た場合は逃げの一手しかない。更に逃げ場は無い上に時間を稼いだ所で事態が好転する可能性も低い。
いや茶番に付き合うくらい時間に関心を見せなかった所を考えれば幾ら時間を掛けようと構わないのかもしれない。
「教えてよぉ!」
「ちっ、煩い奴だ。要は比較だ─」
ウガウガ、ガオガオと駄々を捏ねてみればため息を吐きながらも今回の質問の真意を零した。やっぱり残念な魔神筆頭は一味違った。
長々と語られてしまったが要約するとこうだ。
私の初登場時、つまり第一特異点オルレアンから現在に掛けて徐々に変化をしているらしい。それが今回で確信できたとか何か。
「それと廃人がどう関係するのよ?」
「関係ないな」
いや無いんかい……
「結果は変わらんと言っただろう。単純に貴様の現界の仕組みを解き明かした上での効率的な貴様の排除方法が精神崩壊を引き起こす事だったと言うだけだ」
出るわ出るわ情報の数々、いや本当に味方なのでは?
「そろそろお開きにしよう。さてどれだけ惨たらしく殺され、何度繰り返せば勇者が堕ちるのか楽しませて貰おうか」
「急にゲームの対象年齢が跳ね上がったわね……」
そうかこれが本当の『私に乱暴する気でしょう? エロ同人みたいにエロ同人みたいに!』って奴なのか。
「私、初めてなので…そのぉ……ね?」
「大丈夫だ痛いと感じるのも最初だけだ」
これは事案ですよ。
と言う事で逃げます。
「魔力を全開だ!」
「対策済みだ」
魔力の流れが淀んでる。
ダムの放水の如く力強く吹き出した魔力が今では見る影もなく整備不良の蛇口の様にか弱い。かと思えばそんな微量な魔力も吸われて消えていく。
「随分情熱的なお誘いじゃない」
「溜まってるんだよ」
「ストレスの事よね? 発言が全て怪しく聞こえ出したんだけど!? 変態…変態よぅ。助けて私の貞操のピンチィ──!!?」
今まで見せたことの無い爽やかな顔をして近付いてくる
カタカタと身体中震えてる。人はよく分からない、理解出来ない物に恐怖心を抱く。私も又何をして来るのか分からない魔神に恐怖している。
「た、助けて……」
「命乞いのつもりか? まさか自分の夢の中に助けを求めているのか? 明晰夢のような都合の良い夢じゃないこれは悪夢だ」
「助けて清姫ェ───!!」
目から涙が頬を伝い、乾いた木の床濡らした時に声が響いた。
『エリザの初めては──』
─私のものですッ!!
朽ちた天井を吸魔の結界(仮)と共にぶち破り、何処ぞのヒーロー宜しく三点着地を決め、ゆっくりと立ち上がってガイナ立ち。
ばさりと勢い良く開いたエリザLOVEとプリントされた扇子で口元を隠し、射殺さんとばかりに眼前の敵を睨み付けている。
ひらり半身を私の方に覗かせれば花のような雅さを感じさせる微笑みを浮かべた。
「大丈夫ですよ、私が来ました」
アレ、主人公って清姫だっけ?
たぶん訳わかんねぇと思う設定がチラホラしたと思いますが私が分かっていれば問題無いものばかりなので流して下さい。考察とかはくれぐれもしない様にお願いします。
ガバガバ具合がバレますのでね…
次回は清エリ成分を多めに提供出来る予定です。
待たれよ次回!!