勇者エリちゃん(憑依)勇者の旅へ出ます。   作:小指の爪手入れ師

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続きを望む方が少なからずいたので書きました。
私は……悪…く…………ない。


切実に帰りたい!

ㅤ頭に鈍い痛み。痛みによる覚醒。覚醒に次ぐ感覚の機敏化。鼻に甘い香りが流れ込み歪んだ視界を開けさせる。

 

「清…姫?一体何が、私はどうして背負われて……」

 

「起きましたか?なんと申しましょうか…ええまぁそうですね。見事に大敗しまして、その後はこの通りエリザベートの、いえこの際エリザと呼びましょうか。エリザを背負いながらなんとか逃げ延びました。貴女の体重が軽かったことは幸運でしたね…役得役得」

 

ㅤそう言って上品に笑う彼女は何とも弱々しい。背負われている状態では分かりにくいが清姫の歩みは軸がよくブレる。明らかに限界が近い事を示唆しているだろう。

 

「下ろして、もう大丈夫だから。私思ったよりも丈夫みたいだし、気絶していたのもきっと頭でも強く打ったんだろうし。取り敢えずもう大丈夫だから」

 

ㅤ支えである手が緩められた。着地をしようと足を伸ばすが、地に足はつかなかった。清姫が前へと倒れ込んだからだ。どうにか清姫を潰さないように身を捩る。清姫の横に倒れ込むように避け、直ぐに彼女を抱き抱えた。

 

「清姫!?ちょっとアンタ大丈夫!?」

 

「えぇ、ちょっと疲労が溜まっただけで…流石に長時間の変化は無理がありました。どうぞ、私なぞ此処に捨て置いてください。放っておいたらきっと起きられるでしょう」

 

ㅤきっと魔力を著しく消費したのだろう、衰弱している。直ぐに対処しなければ間も無く消滅すると理解した。どんなに強がってもこの結果は覆らない。

 

ㅤこのまま消滅しても彼女は文句の一つも漏らさないだろう。彼女がやりたいように行動した結果だから。彼女はその行いを否定する事はない。

 

ㅤけれど─

 

「勝手に無茶して勝手に助けて、そして最後にはスッキリした顔してステージから退場?ふざけないでよ!私はあの時、貴女を守ろうと思って助けたいって思って…捨て置いてなんて言わないでよ……短い付き合いしかしていないけれど、私たち友達でしょ?」

 

「私としては友達以上恋人以上妻くらいが好ましいんですが」

 

「それは勘弁して!?…もう、こういう時も茶化して。取り敢えず私はどんな手を使ったって助けるからね!なんたって私、勇者だから!!」

 

ㅤそう言って私は清姫の唇に自分の唇を重ねた。別にやましい理由があってじゃない、唾液に含まれた魔力を譲渡する為だ。私は時々呼吸のタイミングを挟んでは彼女に粘膜を摂取させた。顔を離せば顔色は大分いい、と言うよりも紅潮しているあたり色々元気みたいだった。

 

「えぇっとこういう時は…やっぱりご飯?」

 

ㅤひとまずは清姫を木を背凭れにし腰つかせた。「もっと、もっと下さいまし」などと言う戯言をよそに、私は不思議魔術でそこはかとなく緩い判定のハロウィーン系オブジェクトを召喚した。

 

ㅤかぼちゃやニンジン、鍋に適当に、そこはかとないハロウィーンっぽい調味料一式を準備しつつパンプキンシチューを作るため竈を作る。

 

ㅤこう言っては不謹慎だが、普通の冒険っぽくて少し楽しかったりした。作る際に名盾レトロニアをまな板、名剣エイティーンを包丁代わりにしたが別に気にすることではないだろう。

 

ㅤ想像以上にいい感じに仕上がった、思わず嬉しくて清姫をチラチラと数度見てしまったほどだ、彼女はそんな私を見て鼻を押さえていたが死にかねないのでやめて欲しい。

 

ㅤそして次の瞬間に私は衝撃の光景を目にする。刹那的だった。瞬き一つで色が変わった。シチューはかぼちゃをベースにしているのでそれらしい色をしていた。だが、私が目にしたのは赤だった。私は思わず声が漏れた。

 

「ふぇ…エェエエ!!?真っ赤、真っ赤なんでええええ!!!?」

 

ㅤ暴力的な見た目とは裏腹に匂いは甘い物だった。味見もしてみたが不味くはないし毒でもない。ただ、目には余りよろしくない色合いだった。

 

ㅤ一体何処に赤色の要素があったのか理解出来ない。いやそもそも瞬き一つの間で変色したところからして可笑しい。

 

「折角私の為に貴女が作ったのだから食べましょう。私も味、気になりますわ」

 

ㅤ清姫の言葉に努力が報われる感覚がした。

 

「まぁ味は保証するから存分に味わいなさい。そして寝て、起きたら移動しましょう!あの聖女に一発かましてやらなきゃ気が済まないものね!」

 

「えぇ、そうですね!今度こそ灼きます!」

 

ㅤお互いがリベンジに燃え、夜の帳が降りていった。

 

ㅤ私は霊体化して周辺警戒する事と、霊体化して睡眠を取ることを提案した。もちろん、前者は私、後者は清姫で、という事だ。だが、その提案は彼女に焼き捨てられてしまった。

 

「嫌です」

 

ㅤこの一言で…

 

「いや、なんでよ?」

 

「横に居てください。手を上に重ねるだけでもいいのです、貴女を感じたまま眠りにつきたい。…私の我儘を、どうか聞き入れて貰えませんか?」

 

ㅤ清姫は私のマントの端をちょこっと摘みながら問い掛けてくる。私は首肯することで肯定した。ぶっちゃけこんな事されて断れる人いる?

 

ㅤ私たちは巨木に背を預け、コウモリやかぼちゃ、キャンディのイラストが入ったタオルケットを膝に掛けて目を閉じる。私は寝る訳では無いので閉じるだけ。

 

ㅤ清姫の手が私の手に触れたのが分かった。そっと上から重ね、包み込んだ。見なくても彼女が嬉しがってるのが分かる…ちょっと息が荒い気がするけれど、きっと深呼吸だと割り切って周辺にだけ気を配る。

 

ㅤ気配のするエネミーは例外無くお化けかぼちゃを頭上にプレゼントしておいた。

 

ㅤ彼女の頭が私の肩に寄り掛かり寝る体勢に入った。

 

ㅤ私はその場の勢いで歌が歌いたくなった。何故かはよく分からないけど歌いたかった。子守唄でも歌おうか…

 

ㅤふと顔を上に向けた。木と木の間から覗くあまねく星を見た。

 

──そうだキラキラ星でも歌おうか!

 

ㅤ私は彼女の為に(・・・・・)歌った。自画自賛になるが上手いんじゃないんだろうか?

 

ㅤじきに、彼女の寝息が耳に届いた。

 

 

 

 

 

 

 

──アレ?音痴設定どこ逝った!!?

 

 

 

 

 

 

◇◆◇

 

 

 

 

 

 

ㅤ変化は突然だった。昨晩まで星を眺めることの出来た木の狭間は今では木漏れ日が降り注ぐ。だが時々大きな羽音と共に影が落ちる。

 

「これは…」

 

ㅤ影の頻度が高い。明らかに異常だ。私は寄りかかる清姫を起こし木の上に飛び出る。

 

「なっ!?」

 

ㅤそこには大郡を成したワイバーンの軍団があった。同じ方向に脇目を振らず飛び進んでいる竜種に私は圧倒された。

 

ㅤ進んでいく先は予想できる。あの聖女の所だろう…

 

ㅤだが、それが意味する所は─

 

「もう最終決戦!?」

「どうしましょう?」

 

ㅤ清姫はそう単純な質問をしてくる。答えなど昨日の夕飯前に話しただろうに…

 

「行くわよ、オルレアンに!!」

 

「旦那様の行く所、私在りですわ」

 

ㅤ清姫は柔和な笑みを持って私に手を差し出してくる。私はソレを取り横抱きにし地面へと降り立ち、オルレアンへと走り出した。

 

 

ㅤ取り敢えずワイバーンの群れを追う形でオルレアンに向かう事になった。清姫の敏捷値に合わせて走るため早い訳では無いがその分寄ってくるワイバーンを焼いて走っている。私も火を吐けるがちょっと気持ち悪い。オェッという声が吐いた後自然と溢れる程だ。

 

ㅤちょっと清姫、その熱っぽい視線止めて!?変な扉をこじ開けようとしないで本当に!!十分濃いのよアンタ。13歳、ヤンデレ(安珍限定)、バイ(安珍限定)。そこにドSを入れるの?

 

ㅤ何それ死ねる…

 

ㅤそんな事を考えている内に巨大で強大な竜の姿が見えた。近くに黒い聖女の姿もある。一度も会ってなかったが主人公組も居る。この世界ではぐだ子か…

 

ㅤだが、私が目を奪われたのは邪ンヌでもファヴニールでも無かった。

 

ㅤカーミラだ。私では無い私。エリザベート・バートリーの未来。罪の完成系。

 

ㅤ身体の奥底から湧き立つ。これは怒りか憎悪か、それとも悲哀なのか…私は否定してはいけない(カーミラ)を、私は(エリザベート)ではないがそう感じる。私は(カーミラ)の歩んだ道を進んでいない。知っているだけだ。実感の伴わないボンヤリとした使命感は膨れ上がるだけ膨れる。

 

ㅤその後は想像に難くないだろう。膨れ続ける風船はいずれ暴発する。私は脳で考えるより先に動いていたのだ。

 

「カーミラァ!!」

 

「ッ!?死に損ないの私じゃない。聞いたわよ、ファヴニールに炭にされたって…存外元気じゃないの。あの聖女崩れはこういう所で詰めが甘い」

 

ㅤ私の奇襲はカーミラの杖で受け流された。距離を取り様子を見れば杖を振り光弾を飛ばしてくる。

 

「随分と辛気臭い顔してんじゃないカーミラ!今すぐその顔に重い一発をあげるからそこに棒立ちしてなさい」

 

「ふん、過去の私が完成系たる私に勝てるわけがないでしょう?」

 

「それを決めるのはアンタじゃない!悔しいけど(エリザベート)の未来は紛れもなくアンタなんでしょうよ。でも私は違う!!」

 

ㅤカーミラは仮面の奥の瞳を細めた。

 

「私はエリザベート・バートリー[ブレイブ]!領民を苦しめる鮮血嬢なんかじゃない!そもそも私の属性、混沌・善だから!!過去とか未来とか私は関係ないの。私は勇者(ヒーロー)!アンタは(ヴィラン)よ!」

 

ㅤ言葉が纏まらない。伝えたい事を一言で言ってしまえばいいのに無駄に伝えたい事が多くて混乱する。でもそう、私はカーミラにこう言いたい。

 

「つまり正義()が勝つ!これが当然の帰結よ!!」

 

「フッ、アハハハハハ!!何を言うのかと思えばそういう…本っ当にくだらない。何それ罪悪感を抱いてるの貴女?生前はその行為がイケナイ事だと知りもせず血を浴びていたのに……」

 

ㅤぶっちゃけそう言われても私は困る。私はイラつく神が原因でエリザベートになっただけの一般人だ。知識や身体はあっても中身が違うなら全てチグハグな事になる。今もそうだ、勢い余って最前線まで来てしまった。最初の目標は主人公に丸投げだったのにね。

 

「まぁ所詮は小娘。過去の過ちを死後清算(生産)だなんて甘い考えしか思い浮かばない!甘やかされた結果ってやっぱり無様ね。ありがとう私、改めて実感できたわ」

 

「あぁもぅうるさい黙れ年増!!」

 

「……へぇ」

 

ㅤ私は悪くない…悪くないったら悪くない!何かイラついたからやった。後悔も反省もしない。揚げ足を取り続けられれば流石に怒りを覚えるでしょう?だから私は悪くない!

 

「それを貴女が言うのね!余っ程死にたいらしい……」

 

ㅤ背後に金属音が響いた。ガコンと重い音がした頃には既に遅かった。アイアンメイデンは受け入れる体勢だ!

 

「『幻想の鉄処女(ファントム・メイデン)』ッ!!」

 

「アサシンのチャージは3ターン…吸血持ち!?抜かった!最短2ターンで打ってくる事を考慮すべきだった!!!」

 

ㅤ時既に遅し、女性特攻で死ぬ!!

 

「勝手に単独行動して勝手にピンチ…見事にブーメランですネ!そう思いませんかエリザ」

 

ㅤ寒々しい声がする。身体が震える。カーミラがキレた時よりも恐ろしい。

 

「生きる時も死ぬ時も死んだ後も…ずっと一緒だと言ってくれたじゃないですか?」

 

「いや言ってな…ぃ」

 

ㅤ言葉尻が徐々に弱くなっていく。もう分かるだろうが完全にキレた清姫サンだ。目はギラギラと鈍い光を放ち、顔はどういう仕組みか目と口以外暗闇が掛かっていた。三日月の様に弧を描く口はおどろおどろしい。

 

「こんな物で私の愛おしい方を傷付けようとしましたの?」

 

ㅤ清姫はアイアンメイデンに繋がれた鎖を持っていた。だが次の瞬間消し炭にされた。そして更に踏み潰され、鉄屑となった後も焼き尽くしていく。

 

「そして、そんな事をする悪い人は誰かしら〜?」

ㅤ間延びした可愛らしい言い方とは裏腹に、眼光は鋭く、カーミラを射殺す程の凄味があった。真の英霊は目で殺す……

 

「憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎憎憎憎憎憎憎憎憎──灼かなきゃ…」

ㅤ帰りたい。元の場所に帰りたい!今の清姫なら人類悪に匹敵するんじゃなかろうか?はっきり言って今の清姫は死んでも死ななそうだ。

 

「嘘ヲ、吐キマシタカ?」

 

「ヒッ、矛先がこっちに!?吐いてない吐いてない!エリザ、嘘、吐かない!」

 

「本当ニゴザルカー?」

 

ㅤ違う日本系サーヴァントが清姫に現界しかかってる。速く何とかしないと!

 

ㅤ此処で私の閃きはワームホールを通って降ってきた!!

 

「カーミラ!カーミラ!!私たち生前嘘なんて吐かずにピュアに生きていたわよね!!清純系アイドルをやってもボロが出ないくらい正直者よね!?」

 

ㅤ私は硬直したカーミラに半ば絶叫染みた問い掛けをした。生き残る為に未来の自分さえ利用する私は間違っているだろうか?いやもう知らん、私はカーミラを墓地に送りライフを回復する!!

 

「…そうじゃない?」

 

ㅤカーミラは嘘が絶望的に下手だった。此処で「Yes」と答えがちだが、清姫にとってそれはタブーだ。人間一回くらい嘘を吐く、そんな見え透いた嘘に反応しない彼女ではない。逆に此処で「NO」と答えれば問答無用に焦げ肉。ここでの正しい切り返しは「覚えていない」だ。

 

「ダウトォォォオオオオオオ!!!」

 

「クッ」

 

ㅤ清姫は変態軌道を描きながらカーミラの攻撃を避け、カーミラの頭上まで辿り着く。そして清姫は蛇にも似た竜へと姿を変える。

 

ㅤカーミラも抵抗として光弾を放つが、その攻撃は清姫の鱗を砕くに至らず、清姫の身体は自由落下する。カーミラはどうにかそれを避けるも器用に動く清姫に翻弄されていった。そして最後には蜷局の中心に閉じ込められる。

 

「『転身火生三昧』ッ!!!」

 

ㅤカーミラはこうして犠牲になった。私は黙祷しながら未来の自分に対して親指を立てた。そして私は清姫に嘘を吐く結果を心に刻んだのだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




雑ですまない…カーミラもすまない。

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