勇者エリちゃん(憑依)勇者の旅へ出ます。 作:小指の爪手入れ師
少しは清姫たちをイチャコラ出来たかな…
場所は私の夢の中、相対するはロリコン疑惑が日に日に深まっている
二人の狭間には今確かに陽炎の如く揺らめくものがあった。強者同士の死合い、譲れぬ者同士の問答の際に生じる威圧感のせめぎ合いこそこの現象の真実である所だが、故にこそ不可解な点がある。
「なして二人とも笑顔?」
「笑顔は乙女の最終兵器ですから!」
「表情筋が固まった…」
「そうですか……」
流石に数多な修羅場を掻い潜ってきた私でも困惑が隠せない。と言うか清姫はともかく魔神(笑)の方…表情筋が笑顔固定されたって明日は顔面筋肉痛間違いなしよ。笑顔の練習しても本気の笑顔なんて数十分持てばいい方なんだからね。
「顔にサ○ンパス処方しておきますねぇ…」
一週間分のサ○ンパスを吸魔の結界(仮)が破壊されたおかげで使える原理謎魔術で召喚して処方せん袋に入れて、名前もふらうろすとでも書いておく。
「毎日顔面をよく揉みほぐして、大体三分一日朝昼晩で三セットずつね。指先を使ったり掌全体を使って筋繊維を傷付けないように気を付けつつ乳酸を外へ外へと出すように意識してください。肌を傷付くようなら保湿ローションを使ったり、アフターに乳液とか肌を労る事が大事よ!」
小道具の銀縁の若干釣り上がり気味なフレームを持った眼鏡をクイッと上げながら説明してから処方せん袋を浮かせて送ってやる。
きちんと手元にに送った所で眼鏡を外し、ナースキャップを被る。尚この切り替えの速さは常人では追えない。
「お値段の方500万QP頂きます!!」
「あらお安い!」
今ならあの天パもサラサラストレートヘアへと大変身出来る毛髪剤も付いてくる特別プライス。コストパフォーマンスに見合った
「この紳士用香水まで付いてきてきっかり500万QPよ!」
「そのガラス容器はエリザのデザインを参考に私が手作り致しました一点物で、火力調節や彫刻が難しかった分美術品としての価値も高くなっています」
「…カードで」
ここからが本番。
「それで? 助けは来たがこの後はどうする?」
「貴方を灼き次第脱出ですが何か?」
そういって業火を纏いバスターバフを掛ける清姫。焔色の接吻によって底上げされた火力でいつものごとく焼き尽くす算段らしい。
「アレ、それってセルフ発動出来たの? 接吻は?」
「…してますよずっと」
え、いやした覚えないんだけど! てかずっとってなんですかね、まるで現在進行形で致してるみたいな言い様だけれど。キスしてる所か手と手さえ触れ合って無いんだけど!?
「夢の外では今もなおエリザの……ふへへ──じゅるり」
「ぴゃー──────!!?」
耳をすませば今も尚バフの効果音が高速で鳴り響いている。えぇと焔色の接吻のバスターアップはLv10で30%くらいだったかなぁ(遠い目)
「もうエリザったらそういうのは同衾の際にでもしてくだされば!」
と今更感が途轍もないいやんいやんタイムに入っているが、外の私は一体何をしているんだろうネ。アレかな、ハーレム王並の寝相の悪さを発揮してるのかナ?
その様に私が何処か遠い世界を覗いている間も業火の勢いは増すばかりでまるで宇宙怪獣のラスボスが繰り出す熱線の様な有様だ。見ろよ奴さん、白目向いてるぜ? 南無三!
──こうして悪は去ったのだった。
「前回強キャラ感を醸し出していた敵が僅か一ページでワンパン退場とは……世の中世知辛いわねぇ」
「愛は勝つんですよ」
まだバフが盛られ続けている清姫は誇らしげに有る胸を張る。あんたマジかと本気でツッコミたい。
「構いませんやってください!」
「うん取り敢えずいつも通りで安心したわ!」
何故だろう安心したのに涙が出ちゃう。私女の子だもん。
しかしあのロリコンの話だと自分が倒された所で私はこの空間から出ることが出来ないらしいけどどうやって帰ればいいんだろうか。そういえば清姫はどうやってここまで来たんだ?
「タマモさん曰く夢枕に近い現象をアリスさんの協力を得て起こしているらしいです。それと接吻は成功率を高める為の列記とした魔術行為です。つまり
「合法の時だけ圧が強い…」
まず前提として誰が違法としてキスを罰するのかと問いたいんだが、ここでハッキリ言っておくけれど私は拒絶はしないから。ただそういうのは時と場所を弁えた上で行うべきだと思うわけで、そう所謂ムードが大事だと思う。
目と目が自然と合って、ゆっくりと顔が近付いていく、周りは静かで二人っきり、お互いの姿が丁度見えるくらい小さな光源を頼りに寄り添っていく──
「─みたいな感じで!」
「今度から部屋の方を常にその様にすればいいのですね!」
いやそれはそれで私のチェイテがラブなホテルに改装リフォームされてしまう。この娘本当にやり出してしまうから困る。既にチェイテには茶室とか枯山水が眺望出来る縁側が入っている。このままではピラミッドやら姫路城やらが超融合されるのも近いかもしれない。
「それでどうやってここから出るの? 王子様のキスでも必要……清姫サンその顔は修正が掛かるから」
「浮気を仄めかす発言は……メッですよ?」
「分かった、分かったから! 取り敢えずここ出るわよ!」
うちの娘本当に
「あらやだ私ったら末期!?」
『いつまでイチャコラしてるんですかぁ?』
こいつ脳内に直接。
タマモのねっとりとした声が後頭部あたりから聞こえてきた。うん声で分かるがなんか不機嫌だ。
「チッ、もう迎えが来ましたか…」
『聞こえてますよ清姫さん。全く片道切符だけしか用意出来ていないのにも関わらず吶喊した貴方がなんでそんな態度で居られるんですか!?』
清姫らしくなりふり構わず私を追ってきたらしい。
「相変わらずバカね…」
「愛ゆえです」
『じゃかあしいですよ!』
姦しいやり取りが頭と耳とを行き来している間、清姫がぶち破って来た穴から糸が吊り下がって来た。迎えってこの糸でいいの? ちぎれそう何だけど!?
『さぁさぁハリーアップ!』
取り敢えず急かされたので清姫を抱えて掴む。おい今舌打ちしたの聞こえてるから。もうこの良妻賢母(仮)は不機嫌さを一切隠さなくなってきたな!
「って蜘蛛の糸じゃない。ちょっとベタってしてて気持ち悪いんだけど……」
擬音で表すならば「ヌチャア」みたいな感じな糸を掴むと逆バンジーの様に一気に空へと引っ張られる。スリングショットの弾の気持ちが体験出来て全然嬉しくない。
そして私の意識は浮上する。
◇◆◇
おめでとうございます。エリザの意識が回復しましたよ。
ファンファーレと共に頭に流れるログはきっと私がまだ寝惚けているからだろう。
だが口に今も尚伝わる柔らかさや温かさは寝惚けているからなのだろうか。優しい花の匂いが鼻腔を擽り、口内はほんのり甘く、私の頭蓋の中を溶かしていくようだ。
そして閉じている目を開ければ目の前には可憐な美少女が─
──あ、いやコレ清姫だ。
そうと分かれば引き剥がしに掛かる、が残念な事にエリちゃんアームズは上に一括りに固定されている。動かそうにもびくともしない。此奴よく見たら左手だけでエリちゃんアームズを抑えてる。
そんな馬鹿な。私の筋力は
いや単純に力が入ってないのか。槍ぶっ刺されたし、脳は溶けてるし、ある意味当たり前。
顔を逸らそうにも目の前のキス魔によって固定されているので全くとは言わないが動きそうも無い。そして何でこの馬鹿は私の角を無我夢中に擦っていらっしゃる?
よく考えたらコレシュールな絵面だ。特に清姫の右手部分。そうかお前の右手は忙しいか。
ならば蹴り上げる。がまたまた残念。清姫は全身を使って固定して来る。オイオイオイ詰んだわコレ。ロリコン野郎に襲われそうになったと思ったら次は身内の
でもあれコレってスキャンダルなのだわ!?
見出しは『エリザ・清姫伝説』。いやこれだと私が燃えないアイドルだって証明されるだけか、でも鐘の中で蒸し焼きはキツイな。あと私は萌えるアイドルだと一応明言します。
しかしずっとコレは私のいつ心臓がエクスプロードするか分かったものじゃないわ。内心淡々としているけれど私自身の本当の精神パラメータは尻尾の先が如実に表現している。凄い勢いでピクピクしている。私が英霊じゃなければ尻尾の先部分だけ筋肉痛ね。
かくなる上は─
「ガブッ!」
噛み付きゃ止めるはずだ。
「ぁ、もっと…」
私は知らなかった。清姫からは
噛まれても寧ろ喜び始める清姫は私の気持ちが1ミクロも分かっていない。と言うより拘束が日常化する今日この頃清姫が私の静止を聞いた事があっただろうか? いや無い。
だがここで救いの手が私へと向けられた。
「チビッ子サーヴァントの教育上よろしくないのでもう打ち止めですよ清姫さん。あと私のご機嫌メーターも急降下中、金時さんの純情さにもオーバーキルです」
声の先を見ればタマモのそばにジャックとアリスが顔を胸部装甲に押し当てられる形で目隠しされている。何それ羨まけしからん。
「エリザ…」
「ひぇ、ハイライトが息してない…」
では金時はと言うとこちらに背を向ける形で遠くを見ながら煙草をふかしている。きっちりジャックたちから距離を空けている分エリちゃんポイントは高い。やはり金髪碧眼のイケメンはええなぁ…今ビクリとした。
「エリザ…」
「清姫大好き!」
「グッハァ──!?」
不意打ち勝利、やり遂げたぜ。アイドルの本気の大好きを喰らえば常人は爆発する。不意打ちならクレーターが出来る。清姫が吐血と鼻血だけで済んでいるのは単純に耐性が付いてるからに他ならない。本来なら高確率で即死である。
だが耐性が付いても今の清姫の状態を見ればどれ程の破壊力があったのかが伺えるだろう。
「永続的魅了状態、これで清姫は私に攻撃できない。この戦い私の勝利だ!」
「いやいや、エリザベートさん永続的魅了状態は清姫さんにとっては最早
「オッフゥ…」
もしや清姫が高ステの鯖と殴り会えたり、頭おかしい技術力を持ってるのってそういう理由があったの? 可笑しいとは思ってたし、特異点を潰して行くたびに異常性を見せてきたから否定出来ないんですけれど。
「おいドラゴン。寝起きで悪いんだが、どうにも雲行きが怪しいぜこりゃあ。まさに世界の危機ってヤツだ」
ギャグ街道をひた走っていたらゴールデンが何やらシリアスを担いでやって来たようだ。
「雲行き所か霧で何も見えないけどね」
しかし霧が魔霧じゃないから魔力感知にビンビン警鐘がなっている。身震いする程の濃密にして邪悪な気配だわ。
「今洒落言う場面じゃねぇよ。あっちみろあっち!」
ゴールデンが指さす先を見るとあら不思議。魔神柱を数体従え堂々とぷかぷか浮かぶソロモンが居るじゃないですか。威圧感とか目に見える魔力とかスゴい(小並感)。
「ラスボスだね分かるとも」
「ほぉあれが元凶なんですね」
清姫復活。
あの瀕死から一気に快復とかやっぱり可笑しいよ。この時空を歪めているのは一体誰なんだろうな全く。許さんぞゲーティア!
兎にも角にも、私がシエスタしている間に子ジカが全てのお使いを終えたらしい。まぁアリスとジャックのイベントは私が消化したし、私が回収されてると言うことは騎士王は倒しただろうし、色々前倒しになっているとしても可笑しくない。
うんよく考えたら騎士王だけ倒してジャック回収なんてよく出来たな!?
「清姫さんが全て殺りました…」
悔しい、でも納得しちゃった。
「それよりどうすんだよ」
「見敵必殺、悪即斬、汚物は消毒よ!」
「はっ、ゴールデンな返答だ。じゃあいっちょ暴れるか」
ラスボスの3分クッキング。
ではさっそく調理を始めましょう。
ステップ1【よく焼きます。】
「清姫、無駄に重複したバスターバフで最大火力!」
「お任せあれ。宝具『転身火生三昧』──ッ!!」
無駄なく焼いていくのがコツですね。生焼けだと食あたりになるので念入りに、真っ黒になるまで焼きましょう。
ありゃりゃ、よく見たら子ジカが居る。流石に調理場と言う戦場に立たせるには心許ない。危険だから退避させなければ。
ステップ2【危険だと思ったら退避します。】
「ジャックは子ジカたちを回収してホットゾーンをエスケープ。タマモも一緒に行ってあげて」
「うん分かった」
「わ、私の見せ場少な過ぎ!?」
ジャックの持ち前の高い敏捷性とタマモの支援によって子ジカの元へ急行。アンデルセンは居ないがモードレッドは居た様なので生き残れるだろう。生きよそなたは美しい。
「エ、エリザベートさん!?」
「またこういうパターンね。もう慣れたなぁ…」
『今の今まで重要なシリアスシーンだったよね!? あぁもう頭がゴチャゴチャだ…』
カルデア組が何やら苦情の声を漏らしているが七面倒臭いので一切聞き入れません。シリアスは私に合わないので浄化するわ。
轟々と燃え上がっている火炎を裂き、
ステップ3【食材が噛んでくるので防ぎます。】
「アリス、トランプ兵とかジャバウォックとか何でも良いから壁を張って、止まんないなら私が止める!」
「エリザベートが
トランプ兵が40数体整列し、その一番後ろにはジャバウォックが立っていた。だが通常のサーヴァントを一瞬で葬る一撃はトランプ兵を尽く飲み込み、ジャバウォックを容易く侵食していく。
「私が折れない限りこの盾は砕けず、欠けず、染まらない。故に我が勝利は揺るがず、故に我は勇者。『
この攻撃は止め切ってはいけない。止めれば次をすかさず打ってくるだろう。だから今が最大の好機。
ステップ4【切り分け、盛り付け、ゴールデン】
「決めて、ゴールデン!!」
「おうよ!」
ゴールデンの筋力ランクは元々高い。そして可笑しい事に怪力やら天性の肉体やらと筋力ランクに上方補正を掛けるものも所有している。つまり
ゴールデンの鉞である
『
ゴールデン本人の声さえ掻き消す衝撃が個人へと叩き付けられる。これを退ける存在は早々いないだろう。まぁ敵が普通に収まる存在であればだが─
「今回も随分引っ掻き回した様だな勇者」
「化けの皮くらい剥がさせなさいよ魔術王」
清姫の攻撃で服が焦げる以外のダメージは見られず、ゴールデンの攻撃なんて完全無効化してる。上手く偽っているけれどやはり人類悪としての権能は発動しているみたいね。ネガ・〇〇系は通常の英霊に対しては相性が悪すぎる。
「霊基が罅割れるくらいの一撃だってぇのに無傷かよ…」
「貴様ら凡百な英霊がどんなに身を切っても私には通らんさ」
清姫の攻撃は通るじゃん、とは言ってはいけない。
「私とエリザの愛の一撃は効いているようですけれど」
言っちゃだめだって。可哀想でしょ。
「しかし帰ろうとしたのも束の間、帰り道に思わぬ大穴を見つけてしまったな。埋めてしまうのも良いが、自然に塞がっていくのを眺めるのもまた一興。貴様には諦めろとは言わん、慈悲もくれてやる気も無い。足掻けよ勇者」
余りに一方的な言葉。会話を交わす気もない様で言いたいことは言い切ったと言わんばかりに微笑を浮かべて帰る体勢だ。
あと清姫の発言はどこかへ吹き飛ばしたようだ。そして帰ろうとすんな。
「ちょっと待ちなさいアンタ」
魔術王は待たない。
「待てって言ってるでしょうが!」
手頃な瓦礫を投げつけて無理矢理止めに掛かる。どうせ障壁みたいなのに阻まれるだろうが全力で投げつける。
けれど─
「──ヌグァ!?」
私の、そして恐らく魔術王の予想に大きく反して瓦礫は物の見事に後頭部に直撃した。ギャグみたいに大量の鮮血を撒き散らしながら痛みに悶える魔術王はそのまま帰って行った。
ギャグ時空は人理を救うかもしれない。
我ながら酷いな(自画自賛)
あと予定話数を越えたくないと言う私のわがままで色々おざなりになったことは謝罪致します。申し訳ねぇ。
そろそろお茶濁し回でも挟むべきかな…取り敢えず待たれよ次回!