勇者エリちゃん(憑依)勇者の旅へ出ます。 作:小指の爪手入れ師
私は無事だ。
台風にビクつきながらこの話を仕上げてたぞ。ニュース見て震え上がってた。まさにワルプルギス……
今回は、と言うか今回も謎の設定を盛り込んだ。
そして清姫の出番は少ない。けど基本はエリちゃんの後ろでニコニコしてます。尊い、いいね?
ㅤドリル、ビーム、ミサイル、火炎放射、超音波。
今の戦場に於いて最も飛び交っている兵器はこれらだ。ドリルは鋼の肉体を貫き、ビームはあらゆるものを溶かす。ミサイルで人は飛び、火炎でステーキにされ、超音波で爆ぜる。
メカエリチャンの量産機一体につきケルト兵が何人犠牲になると思う?
たくさんだ。
ならば機械化歩兵は?
めっちゃたくさんだ。
そんな機体が空一面を埋めた。
太陽光に反射して鈍い金属の色が空色を染めた。
警告も無く、威嚇も無い。無機質な視線の数々はケルト兵や機械化歩兵などの区別を一切無くして前触れの無い絨毯爆撃を始めた。
超音波で敵の動きを鈍らせ、間髪入れずミサイルを発射する。驚く程にケルト兵が宙を舞った。隊列を組んだ量産機は交互にビームと火炎放射を放ちながら一帯を焼き尽くし、難を逃れた者にも平等に急所をドリルで穿ち死を送った。
そんな凄惨な戦場を私はモニター越しに眺めている。
「えげつない……」
「戦場というものはいくら時代を跨ごうともこの様なものですよ」
『害虫駆除は徹底的にした方がいいわ。ケルトの兵は特に念入りに叩かないと死なないから』
戦場の指揮を執るⅠ号機は何処か楽しそうである。お母さんはそんな子に
「一匹見つけたら十匹はいるって聞きますものね!」
「駄目みたいですね!」
どうやら清姫たちには目の前の地獄を黒光りしたG軍の駆除にしか見えないらしい。いやそっちはそっちで地獄だわ。大量のGって私発狂しちゃう。
「まぁ引き続き駆除をお願い」
『了解。そして遂に自分から駆除と言い出したわね艦長』
「火炎放射器を持ち出した時点でこの特異点は世紀末と化したわ。汚物は消毒、害虫は駆除。当然の結論ね」
もう一度考えたらGにしか見えないわあんなん。無尽蔵でしぶといとかもうほぼGじゃん。家庭の黒い悪魔だよ奴ら。紅い彗星で倒さなきゃ。
『Ⅱ号機からセントラルへ、Ⅱ号機からセントラルへ』
Ⅰ号機の連絡が終わったと思えば次は戦力増強の為に出たⅡ号機から連絡が来た。モニターも同時に出たので状況はよく分かる。
「こちらセントラル。Ⅱ号機、視覚情報から察するにトラブルね」
『えぇ見ての通りよ』
モニターに映るのはライオンだった。
『アメリカ大統王エジソンである!!』
『Gahooo』と吠えるライオンは不思議な事に人語を返し首から下が人間だった。
『機械化歩兵にライオンとの面会に応じるように言われたからホワイトハウスまでひとっ飛びした、それでコレ』
「知らない人について行かないように言っておいたでしょ!」
『そんな事はプログラムされていない。そもそも知らない人では無く、知らないロボット。そして私は目標に従っただけよ』
確かに
「さてはアンタ……
『ぷい』
「あら分かりやすい。エリザにそっくりですわ」
「私はあんなあからさまに態度に出ないわよ!」
「無自覚と言うのは恐ろしいですね。まぁそこがまた良いんですが……ぽんこつかわいくて」
「アンタねぇ……」
久々に清姫に対して一発殴ってやりたいと思ったがどうにもモニターに映るライオンが凄い咳払いをしだしたのでまた後で締める事にする。このライオンなんで噎せてんだろ。
「はじめまして大統王トーマス・エジソン。私はエリザベート・バートリー。職業アイドル兼勇者兼超弩級メカエリチャンの艦長よ」
「私は清姫、
『肩書き多くないかね!? あと恋人兼妻ってそれ矛盾してね?』
「誤差ですわ」
『なんだ誤差か』
「いや直流と交流くらい違うと思うけど」
『全ッ然誤差じゃない──ッ!!』
うむこのライオン打てば響く。ガオガオ響く。
「さて小粋なトークも結構だけどいい加減本題に入りましょう。私と話したい事って何かしら?」
まぁ心当たりしかないが。
『率直に言おう。我々への攻撃をやめて頂きたい。敵は同じだろう?』
「言い掛かりよ。私は其方に攻撃は仕掛けていない」
『私の目にはケルト共々倒そうとしている様に見えるが?』
「偶々貴方のロボットがそこに居たのよ。
『必要な犠牲? そんな理由で兵力を削がれる此方の身にもなって頂きたいものですな』
表面だけ見ればエジソンは笑顔だ。獣の顔は表情が読み取りにくいがにこやかなのは間違いない。しかし話してみればわかる。
──コイツめっちゃ怒ってる!
「結果的にこの特異点が修復できれば良いのではないかしら?」
『ハッハッハ、
エジソンはアメリカだけはなんとか守り通そうと足掻いていたんでしょう。彼は利口だから配られたカードでは万人を救う事は不可能だと断じてしまった。この特異点が修復されても残り二つの特異点とラスボスとの戦いで敗れてしまえばアメリカ諸共消えるのだから。
『聖杯があれば改造する事でアメリカだけは難を逃れる。確証の無い勝利へ手を伸ばす位であれば安心安全懇切丁寧な未来を選ぶ。私はアメリカの代表として決断する義務と責任がある』
「その方法でアメリカを救っても世界は救われない。後味が悪いビターエンドよ」
『承知の上だとも、どれほどの罵詈雑言を浴びせかけられるとしても私はアメリカを救う。──救わねばならない』
言葉尻に語気を強めるエジソンは毛を逆立たせ、力一杯に握る拳を振るう。さっきまでのギャグを払拭する程の迫力だ。
最初から説得は諦めてはいたけど想像以上にガチガチの脳みそになっている。一度交流電気を流し込まれない限り梃子でも動きそうにない。お互いに電気が滑らせる仲のいいライバルが彼には居ないのだろうか。
しかし祈っても野生の天才が現れることは無い。彼の出番はまだ先だから。よってエジソンを救う手立て無し。
「ならエジソン、貴方は私の敵に他ならない。人理を救う英雄が人理の焼却を速める行為に手を染める。到底見逃す事能わず」
『ならばどうする!』
「ケルトを倒し、聖杯を先に奪わせてもらう。貴方がアメリカ大統王としてアメリカを救う義務が有ると主張するならば、私は勇者として世界を救う義務が有る!」
互いの意見は衝突し議論は平行線を辿る以上話し合いには既に意味は無い。早々にⅡ号機には
幸運、いやエジソンの厚意でカルナたちは居ない。居たとしても拘束はされないだろう。実際そこに居るのはメカだし。
「そう言えば貴方に言うべき言葉があったわ」
『何かな?』
「負けないでいてくれてありがとう」
『……』
私は呆気にとられたエジソンにウィンクだけして通信を切った。ウィンクはファンサービスだ。きっと画面の向こうのブタたちは感動で泣いてるわ間違いない。事実清姫は私を見てアホ面を晒している。アンタにウィンクした訳じゃ無いってのに。
話し合いは残念ながら決裂した訳だが、別にやる事は変わらない。寧ろ気兼ねなく両成敗出来るので楽まである。カルナを嗾けるなどされない限り私の負けはない。
《どうやらお客様が足下に来ているわ》
「お客様?」
「まぁ! ではお茶を用意しますね」
《映像出すわね》
映し出されたのは予想外の人物。
『ムム、これは凄いな。余の彫刻に勝るとも劣らない。大きさと派手さだけならば大敗……クゥ、だが余の至極の劇場の方が絶対すごいもん!』
『ちょっとスカートの下が無防備過ぎるんじゃない!?』
『大丈夫大丈夫誰も見ませんて、見ても面白くともなんともないから』
『面白いわよ!!』
『それはそれで問題があるでしょ! オタク本当にめちゃくちゃだな!?』
頑張れ緑茶、諦めるな緑茶、お前だけが頼りだ
まぁ幸か不幸かと言えば幸な巡り合わせ。即刻Ⅱ号機の目標リストを更新し、通信のミュートを外す。
「よく来たわね!」
『その声はアタシ!? という事は
いつか会った時に自分を妹と称していたがまさか覚えていたとはね。正直厄介、私じゃなくても分かる。絶対姉と言う立場に託けてマウントを取ってくる。ウザ絡みしてくる。
「そうよ久しぶり、と言えばいいのかしら
『何よ水臭いわね
嫌味も無く言ってくる
「……えぇそうだったわねお姉様」
『オタク妹に嫌われてない? すっごい気になる間があった気がするんだけど。あと声がビックリするほどそっくり……』
『そんな訳ないでしょ! なんてったって
いやエリザベート属エリザベート科に分類される者からすれば割りと汚点。今ならカーミラの気持ちがよく分かる。いや、カーミラからすれば私もアタシも特に変わりないかも……
『はいはいオタクに聞いたオレがバカでしたよっと。所でコチラの皇帝さんは何を黙り込んでいらっしゃる?』
『む? いやちょっと記憶に妙な引っ掛かりがな……まぁよいか』
何やら不穏な予感が、いや最早暴君の気配が嫁ネロから発せられている。違うはずだ、私に乱暴を働こうとした皇帝は英霊でもない生の皇帝だった。
いやしかし同一人物であることは確かだから要注意人物であるのは変わらない。此処は慎重に清姫を盾にしよう。助けて清姫、私を救いたまえ。
「取り敢えずタラップを出すからここまで登って来なさい。お茶くらい出すわ」
それだけ言って通信を切る。
「あの三人を誘導しておいて」
《了解よ、艦長》
さて何故私があのキャンキャン泣く愚姉を必要としたか説明せねばならない。
この超弩級メカエリチャンはエリザ粒子を動力源に稼働しているのはみんな周知している事でしょう。けれど予め注入しておいたエリザ粒子ではこの特異点修復を成す前にガス欠を起こす。如何に私でも特異点修復に必要なエリザ粒子を一人で捻出するのは骨が折れるどころか粉砕骨折。
そこで我が愚姉が必要になる。
「来たわよ!」
一人で駄目なら二人でエリザ粒子を生み出せばいい。二人で歌えば相乗効果で数10倍に効率が高まる筈。そうすれば私たちを止めるものはこの特異点に居なくなる。いやインド勢二人が一斉に来たら流石にまずいけど。
「いやそっくりって言うか、完全に一致だろ。同一人物だろ……」
「ほほぉ、内装も中々……むむむー」
ただ大きな問題が一つだけある。この一つが致命的なのよ。寧ろこの問題の為だけに魔術的防音室を用意した。
「そりゃそうよなんたって実際に同一人ぶッ───!?」
「行くわよお姉様!!」
「何処に!?」
──この愚姉、致命的な無自覚音痴である。
「レッスンスタジオ!!」
「へぁ!?」
アタシの
だが幸運な事にエリザベートという存在は心構え一つで歌声が変わる。自分の為でなく、他の誰か、もっと言えば気になるあの人? の為に歌えば忽ち世界一の歌声へと昇華する。
「姉妹でユニットを組む時が来たわ!」
「えぇえぇぇ!? 遂にその気になったのね勇者なアタシィ!!」
渋々よ愚姉。
「清姫、残った二人をお願い! 後でエリクサーを差し入れて頂戴」
「はぁいエリザ、では御二方はこちらへどうぞ」
「うむ、ところでここの主は余と何処かであった事が?」
「存じませんね……ふふふ」
「助けて」
頑張れ
第五特異点 北米神話大戦 イ・プルーリバス・ウナム にて、アイドルユニット:血濡れのドラクルシスターズを結成。
ゲリラライブ緊急決定。チケットはフリー、席はお好きにどうぞ。ルールは一つだけ守って欲しいのよね。
それは──
──死ぬまで楽しみなさい!!
なにこれぇー?
エリちゃんの口調がブレブレなのは単にカッコつけてるだけです。清姫は優しい微笑みで見守っていました。
感想はどしどし受け付けています。
───いのちだいじに───