勇者エリちゃん(憑依)勇者の旅へ出ます。 作:小指の爪手入れ師
何時もは脳内エリちゃんが勝手に動くのでそれを文字に起こしているのですが、今回明らかに一部作者の私怨が入ってしまいました。申し訳ありません。
ネタバレすると円卓の騎士が出ます。
そこは地獄の少し手前の世界。
飢餓が蔓延し、身重の女性の頬は痩けていて腹の子が無事かも定かではない。スラムのように人が寄せ集まっているこの場は目の前の白亜の壁を越えれば幸福が待っていると藁にもすがる思いで形作られている。
確かにこの荒れ果てた大地には希望など無い。緑は死滅して、獣に堕ちた亡者が徘徊しかつての隣人を貪ろうとするこの地には。
だがあの白亜の城へ入城出来たとて希望はそこにあるかどうか。
私は断言しよう。
決してありはしない。
当然だ。白亜の城の玉座に座る王は人の心が分からない。既に人ではなくなった王は人類の生命維持装置の役割しか果たさず統治はしない。あるのは管理と保管。フィギュアをガラスケースへ入れる様に人の魂を保存するだけだ。
最早そこにヒトの営みは無い。かつての理想は彼方へ、ヒトを助けなければと言うカラダに染み付いた存在意義だけが居座っている。これより行われる聖抜を見た騎士王は喉を引き裂くように怒号を鳴らし民を救う為剣を振るうだろう。
だがそうはならない。
この特異点には騎士王なんて居ないから。
ならば勇者たる私が成そう。
「はい食料の配給よ! 順番は守ってねぇ、皆の分あるから!」
「汁物からゆっくり嚥下してくださいませ。胃に障りますからね」
まずは炊き出しから!!
「……あったかい」「あぁ美味い飯なんて久方振りだァ」「でも何入れたらこんな紅くなるんだ?」
知らん着色料無使用でソレだ。
「なんで俺たちまで……」
「追い剥ぎなんてしようとするから」
「そんな展開は許しませんし許しませんし、絶対許しません」
「どんだけ許せないんだよ!? 分かった、分かったからその目止めてくれ! 蛇か何かかよアンタ!?」
こっちの小汚い野盗は少しお話したら喜んでボランティアに参加してくれました。いやぁ小汚いですね。
「ヒィ、アンタもか!? 勘弁してくれぇ!」
私から衣服を剥ごうなんて許しませんし許しませんし、絶対許せない。命が残っただけマシなのである。
「お姉ちゃん、ボクにも食べ物頂戴!」
「えぇどうぞ。水もあるから持って行ってね。あとこれも持って行きなさい」
「なにこれ?」
「御守りよ」
少年に渡したのは道具作成で作った護石。ガラス玉に術式を刻んでデコっただけの急造品だが性能はまぁまぁでしょう。見た目はビー玉に見えるけど着色した塗料は……内緒である。
衣食住全て用意してあげたかったけど直ぐにこの場から離れる事になる。身軽にするに越したことはないと納得しよう。まぁテントくらい直ぐに作れるし。
「マシュ見てエリちゃん居る! この列なんだろ、握手会?」
「炊き出しではないでしょうか? 仄かにいい香りがしますし」
「エリちゃんの手料理、だと?」
「ちょっと料理の成分が気になるなぁ。見た目が毒々しい割に香る匂いは絶対美味しいって脳に直接語りかけてくる」
カルデア陣営も無事ここまで到達か。そしてちゃっかり並ぶのね。
「ラーメン一丁!」
「はいラーメン一丁入りましたぁ」
「あるんだ」
「入りませんよエリザ」
「ないんだ……」
「即席なら」
「あるんだ!?」
お湯を入れて3分でらくらくクッキンッ!
「あのエリザベートさん。この特異点の事はどれくらいご存知ですか?」
タイマーをガン見するマスターはさて置いてマシュと何気に初対面なダ・ヴィンチちゃんにはスープとパンを渡す。味は良いぞ、味は……
「誰を倒すべきかは分かってるわ。まぁ足踏みしてるのが今の現状だけど」
「じゃあここで何が行われるかも?」
「まぁね。それがなきゃ今頃此処はライブ会場よ」
「キミ特異点一つにつき一回はライブし出すよね」
「アイドルだもの」
歌で世界を救える勇者って素敵やん?
「エリちゃんがライブを敢行しない程の理由かぁ」
「ん? あぁ、子ジカたちは知らないのね」
「差し支えなければ教えて頂きたいのですが」
「此処じゃ言い難いわ。このテントには遮音機能無いし」
下手を打てば一歩手前だった地獄に百歩は踏み入る。パニックを起こされたらそれこそ助けられる命も限られてしまう。
「ちょっと冷えて来たかしら?」
「夜風侵入し放題だからねぇ」
気温が高めとは言え流石に夜は寒い。少し風が吹けば先端や節々に堪えるだろう。ブランケットやひざ掛けくらい用意してあげた方がいいかも。
「おや?」
急激に空が白み始めた。まだ日の出には遠いと言うのに。夜は白昼夢の様に消え去り、天には燦々と輝く太陽が辺りを照らしている。ざわざわと雑多に響く人の声はやがて1つの言葉に収束した。
「円卓の騎士様だ!」
アイドルを差し置いて衆目を奪っている男が一人、ぞろぞろと騎士を連れて門から出てきた。
「今宵はお集まり頂きありがとうございます。これより聖都の門は開かれ皆さんを楽園へと誘いましょう」
観衆は歓喜した。熱に浮かされたように皆一様に騎士たちへ歩み寄ろうとする。
「ですが残念ながら誰もがこの門を潜ることは叶いません。選ばれた者だけが通る事を許される。厳正にして公正な審査を我が王、獅子王によって執り行われる」
熱は冷め始めそんなことは聞いてないと野次が飛び出す。だが騎士たちはそれに対し意も介さない。ただ自分に課された命を遂行するだけだと隊列を一切乱さず。
「ではこれより聖抜を開始します」
「うわ、人が光出したぞ!」「わぁお母さんキレイ! ピカピカだぁ!」
少ないが辺りにポツポツと光の柱が建った。
分かりやすい方式だ。光っている者は選ばれた者、それ以外は選ばれない者。
「3人ですか。喜ばしい事です。貴女方は我が主に選ばれました。そして同時に残念な事ですがそれ以外の方は─」
人好きのする笑みを浮かべていた円卓の騎士は表情を消した。太陽の騎士に似合わない冷えきった貌で冷酷に判断を下したのだ。もう主を裏切る事が無いように、ガウェイン卿は己が聖剣を抜剣した。
「──粛清を、と。これも人の世存続のため、恨み辛みはどうかこの身だけに……」
柄に宿る太陽の複写体は火を灯す。難民は今までに感じたことの無い殺意を浴びた事で腰を抜かす者や震える者も出だしている。
ガウェインの後方に待機していた粛清騎士も抜剣し選ばれた者とそれ以外をより分け、無辜の民を害そうと陣を敷くだろう。
「だけどそんな事は私がさせないわ!」
魔力放出で空を駆りガウェインの元へエイティーンを振り下ろす。
「何者ですか!?」
「その問い掛け、答える必要なし!」
今のガウェインは聖杯より『不夜』のギフトが与えられた常時3倍バスターゴリラ(ターン無限、即宝具チャージ)の皆のトラウマだ。私は何処ぞの下姉様じゃないからまともに取り合わず悪即斬である。
「『魔力放出』機能拡張術式起動、穢れなき勇者の剣を全身で体感しなさい!
エイティーンは何処ぞの聖剣、魔剣の様にビームは出ない。ただどんなに粗雑に扱おうと壊れないと言うだけだ。故に攻撃に転じるには変わったアプローチが必要になった。
それが『魔力放出』によるかさ増し。私がレトロニアを広い受けの盾へと変えた手法と同じである。
今までレトロニアは敗れたことは無い。魔力放出で補完した部分を含めて罅さえなかった筈だ。故に私はこう推測した。
──これ不壊属性付与してね?
つまり今のエイティーンは鋭さや硬さをそのままバカでかくなってる。超巨大剣、それが私の答えだ。
パワーゴリラは質量パワーで捻り潰す!
「ぶっ潰れろォ!」
「ぐっ! おおおォォォ!」
剣の押し合いに入った状態では逃げ場無く、真上からの強襲だから剣の重心全てと膂力を身体で支えなければならない。たとえガウェインの両足が耐えられても、その両足を支える地面は彼を押し上げることは無い。
「まだまだァ!」
エリクサーを召喚!
瓶を頭上に掲げ握力で砕いて盛大に自分にぶっ掛ける。体力魔力状態異常を完全回復。
──そして魔力放出ッ!!
鼻血が出ても、毛細血管ブチ切れても、血涙が流れようとガウェインには一時的であっても動いてもらいたくは無い。私は今のコイツが大嫌いだから。
当時のカルデアには星5アーチャーが居なかった。なんだったら孔明もジャンヌも居なかった! マーリンなんて実装もしてない時期だ!
正直無理ゲーだと思った。確か星4もアタランテくらいしか居なかったし、スカスカ? 影も形もないです、と言うかあってもキツイですが何か。そして星3以下だとどうしても限界があった。聖杯転臨? だからねぇって言ってんでしょ!
結果どうなったか、令呪と石を砕きました。
ガチャ以外で石を使ったのはその時が初めて。
この気持ちが理解出来るか……
「ガウェインーーーー!!!!」
「何故か身に覚えが無い憎悪がこの身を襲っている!!?」
心を乱したことで(自爆)隙を得たガウェインはどうにか私の剣の影を不格好ながら脱する。だけど私のバトルフェイズは終了しちゃいないわ。
デカくなったエイティーンを一時放棄、魔力放出でロケットタックル。浮いたガウェインを──
「ステラァ!」
一時放棄したエイティーンを握り直してフルスイング。ガウェインは城壁の星になった。多分これでも生きてる……
「が、ガウェイン卿ーーーー!!?」
粛清騎士共はと言うと難民をグルりと囲むように陣を組み、逃げ道を塞いでいる。難民もここまで来ると危険を察知して逃げ出そうとするも粛清騎士の凶刃によって阻まれる。
だが未だに死人はおろか怪我人も出ていない。
「なんだこの障壁はァ!?」
上手く御守りが機能したようだ。道具作成で作った物がただのアクセなわけないでしょう。ただ一回ぽっきりだからこれ以上放置はまずい。
「道を作って清姫!」
「承知しました」
「子ジカは難民引き連れて離脱しなさい。商人崩れも手伝いなさいよね!」
「うん分かった!」
「ゲェ……」
そして私の役回りはと言えば。
「やってくれましたね」
「何であの一撃をモロに受けて立ってられるのよ?」
「円卓の騎士ならば当然のこと、と言いたい所ですが。我が主によって下賜された
「あら嫌に弱気なのね円卓の騎士って」
笑ってるけど全然笑ってないガウェイン。
煽りまくる私。
相手は元より剣技に長け、聖剣を解放すれば辺り一帯を焦熱地獄へと変えることが出来る猛者。元パンピーが背伸びしてる私じゃ分が悪い。
「じゃあどうするかと言うと、こっちも手札を増やせばいいのよ!」
難民の中から飛び出す影がある。清姫では無い。あの娘は今先陣を切ってる。いやなんで先陣なのあの娘!?
では誰か。
「何故、貴方が……」
同じ円卓の騎士にしてアーサー王の最期を看取った者、とされる英傑。実際はもっと特殊な存在だが詳しくは実際に君が見極めてくれ。
「ベディヴィエール卿……」
「何故? それを貴方が問うのですねガウェイン卿……ではこちらからも問いましょう。何故守るべきヒトに刃を振るうのか?」
苦虫を噛み潰したような表情を浮かべるガウェインはだがしかし毅然に答える。
「我が主が望まれたこと。私はただ王の騎士として忠を尽くしています」
「これがアーサー王の望まれたことだと、そういうのですか!? あの方は誰よりも国とヒトに心砕いたお方だ!」
「今のアーサー王はかつてのアーサー王とは違うのです。でなければ獅子王とは名乗らない陛下自身も気付いておいでだ」
「そんな……」
揺らぐ目はベディヴィエールの脚を重くさせた。己が罪の重さを今ここで改めて痛感している。
いや私を空気にしないで欲しい。
「右腕を握り締めなさいベディヴィエール。元より貴方がする事は変わらないでしょう!」
「……彼が言った通りの方なのですねレディ」
え、グランドクソ野郎がなんだって?
「ガウェイン卿、私はどうやらどうあっても再び王に会わなければならない様だ」
「それは轡を並べると言う意味では、ないのでしょうね……」
騎士が戦場で会えば殺し合い。たとえ嘗ての友であろうと、仲間であろうと対立するならば切り結ぶほかない。
「いざ尋常に!」
「勝負!」
ギャラハッド曰くベディヴィエールはそこまで強くないらしい。けれどそれは言葉がやや足りない。円卓の騎士の中ではそこまで強くないのであって実の所騎士の中では強いのだ。
隻腕と言うハンディキャップを背負って尚その実力は一般の騎士を圧倒する。であれば剣を振るうのに申し分無い義手を持った場合はどうなのか、そら強いはず。
一つ気になる点が有るとすれば、彼が槍使いに長けた騎士という点。義手の特性上仕方ないのか、史実とは異なり剣使いなのか。
「『
「やっぱり義手ってカッコイイ!」
魂を燃やすベディヴィエールにエリクサーをぶっ掛けながら私は武器義手のカッコ良さを噛み締めていた。
「れ、レディ……」
今私は不意打ちで謎の液体をぶっ掛けてしまったわけで、ついさっきまで騎士として正々堂々口上を述べたわけで。甘ったるいフレーバーを髪から醸し出しているわけである。
うん台無しよね。
「いやごめんて」
だってこの後適当に逃げるし。
被疑者は「ガウェインを許せなかった」と訳の分からない供述をしており、余罪がないか捜査中です。
当時の私は石を砕いた未熟者でした……
感想ください(切実)