勇者エリちゃん(憑依)勇者の旅へ出ます。   作:小指の爪手入れ師

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前半はおねロリがやりたかっただけ。後半はエリちゃんの流されやすさが強調されただけのお話。

今回の犠牲者はこの人だ!


やればいいんでしょ!?

ㅤ私は現在服を抱き締めながら簡易テントの端で体育座りをしている。通る人は気を使ってか近付かないし、直ぐに退出する。だから私は一人だ。詰め込もうと思えば二十人は入るテントに一人…それも端っこで体育座り。孤独だ。圧倒的な孤独。でも丁度いいのだ。私が望んだ事だもの。

 

ㅤ此処に篭っているのも全ては例の事件が原因だ。あの事件、エリちゃんボディビルデビュー事件…!アレは可愛くない。筋肉(マッスル)系アイドルなんて私は求めていないのだ。やっぱりゴリゴリの私よりもキャピキャピの私だと思うの。

 

ㅤまぁそれはいい。あの事件で辱めを受けた私ではあるが、引き篭もった理由は周りの人間の目が生暖かいとか、あれ以降、子ジカこと立香のスキンシップが激しいとかそういうのじゃない。

ㅤあの子ジカは何故あそこまで下心丸出しで言い寄れるのか…ある意味素直という事なのか、欲望に忠実とも言えるけど。

 

ㅤまた脱線したが、私の引き篭もった理由は─

 

──服を着れないからだっ!!

 

ㅤ理由は簡単。着たら筋肉(マッスル)に即攻撃される。彼曰く、「シンボル(勇者)たるもの証を掲げ、同志を煽るべし」との事だ。もうわけがわからないよ!?

 

「これも全てあの金髪アロハシャツの胡散臭い神のせいなんだ!私がエリちゃんになったのも、勇者になったのも、こうして戦場に立っているのも、清姫がヤンデレなのも、スパルタクスが筋肉(マッスル)なのも…!」

 

ㅤ私にだって家族が居たし、やり残した事もある。だが、神などという身勝手な奴によって引き離され、スマホさえ触れることが叶わない!まだ育成の終わらないサーヴァントを残した無念さが、悔しさが、今になって渦巻く。

 

ㅤ悔しい、悲しい、寂しい、恋しい…

 

ㅤ負の感情は収まらない。

 

ㅤ怒涛の日々を誰かしらと過ごした為か、その騒がしさで忘れていたんだろう。

 

─忘れていたかった─

 

ㅤキッカケが新たなトラウマで一人になった結果とは、なんとも私らしい。

 

─構ってもらいたい─

 

ㅤあぁ、情けないな私。可愛くないな私。格好悪いな私。

 

─アイドルなのに─

 

「勇者なのに…」

 

ㅤうじうじしていても何も生まないのに、何をセンチメンタルになっているんだエリザ!

ㅤ私は綺麗に畳んだドレスを強く握りしめる。シワになるだなんて気にしなかった。ただ、そうする以外にこの気持ちの捌け口が見つからない。さっきから空回りして、矛盾している。

 

ㅤ思考の海に沈んでいく中、頭の上に重みを感じた。こうムニュッとした感触。そして、女性特有の甘い匂いが鼻腔をくすぐった。ビクッと私の身体が震える。このつい堕ちてしまいそうになる包容力の持ち主を私は知っていた。だが、意地になっているのか素直に甘えたくない。

 

「何?」

 

ㅤ私の声も心做しか震えている。

 

「んー?何でもないよ。私が人肌寂しいから抱きついているだけだし」

 

「何それ。空気読めないの?私、今、傷心中。放っておく空気、OK?」

 

「うんうんOKOK。だけどお姉さん我儘だから無視するね」

 

ㅤブーティカは私の頭をゆっくり撫でていく。頭頂部から暖かい何かが伝わってくる。優しくて愛おしい。

 

「ほらほら、折角の可愛いお顔が全く見えないじゃん!」

 

「放っといてよ!!」

 

ㅤ私は優しくするブーティカに苛立ってつい声を荒らげてしまった。私は後悔した。優しくしてくれた人物を傷付けたかもしれない。そう思うと申し訳なさで一杯になる。

 

「放って置かないよ。放って置けない。エリザベートは一人にして置けない」

 

ㅤブーティカは私の声がなんだと言わんばかりに強く抱き締め、意思のある声でそう囁きかけてくる。私はそこに言い知れぬ感動を覚えた。スッと私の中に溶け込んでくる。

 

「エリザベートは子供なんだから、お姉さんに甘えておきなさいって」

 

ㅤ私は何も言わず。子供じゃないと否定の言葉も言えずに、言わずにブーティカを抱き締め返した。そしてか細い声で精一杯嘆く。

 

 

「スパルタクス怖いよォォオオオ!!!」

 

 

「服が着たいよォォオオオ!!!!」

 

 

◇◆◇

 

 

ㅤ一通りブーティカに愚痴った私は彼女の胸に埋もれる。これが求めた温もりだと思った。色々と言ってしまった。勇者にならざるを得なくなって辛いこと。清姫が清姫サンになって怖いこと。ネロが裸族何じゃないかと不安なことetc..

 

ㅤブーティカは時折相槌をうっては撫でてくれた。それで脳が溶けてしまいそうになるくらい心地よくて、愛おしい。そしてこう言ってくれるのだ─

 

「──大丈夫だよ。皆が君を助けてくれる。だから安心していいんだよ」と。

 

ㅤあぁ、安心した……。

 

ㅤ服はまだ着れないけれど、この負の感情はあらかた払拭出来た。服は着れないけれど、どうにか進めそうだ。服は着れないけれど…服は着れないけれど……

 

「ありがとう、ブーティカ。私もう大丈夫!アイドルらしく輝ける!!元々アイドルも勇者も民衆の期待の視線を集める物だもの。自分に自信が無くっちゃやってられないわ!」

 

「ハハハ、大丈夫だよ気にしないで。思った方向とは違うけれど、助けになれたんなら私としても嬉しい限りさ」

 

ㅤ彼女は本当に優しく英霊だった。私の唯一無二の癒しだった。だから今出来る最高の笑顔で伝えるんだ。

 

「──大好きッ」

 

「…。本っ当に罪な勇者様だねエリザベートは」

 

ㅤブーティカは天幕しか見えない空を仰ぎそんなことを言うのであった。私は求めた反応が得られて満足した。

 

ㅤブーティカが言うにはそろそろ戦場に出向くらしい。サーヴァントらしき司令塔も確認出来たとかなんとか。

 

ㅤ早速ブリーフィングで詳しい話を聞いた。作戦会議モドキも並行して行った結果、「取り敢えず暴れたら良いんじゃない?」、との結論だった。本当に大丈夫なんだろうか?不安材料が増えるばかりで頭痛持ちに─いやエリちゃんは頭痛持ちだったけど─なりそうだ。

 

 

◇◆◇

 

 

ㅤ荒野、幾度の戦、幾人の血が流れた大地。一歩一歩踏みしめると、そこからは染み込んだ流血の代わりに砂埃が乱舞する。

 

「見てみろ叛逆の勇者。これぞ圧制者に拐かされ、叛逆の機会を生涯得ることの出来なかった者の末路!」

 

「あ…うん。楽しそうでなによりよスパさん」

 

「楽しい?いやこれはそれを超える歓喜だ!全てがここにある。圧制の徒が跋扈するこの場この時、今こそ真の叛逆を示す時!さぁ勇者、凱歌の時だ!我らの未来への咆哮こそ勝利の先触れとしようではないか!ハッハッハッ!!!」

ㅤそう言ってスパルタクスは私の華奢な体を肩に乗せる。

 

「ブーティカ…助け──いやぁあああ!!?」

 

ㅤズンッと重重しい重低音が響けば景色が移り変わる。スパルタクスが疾走しているのだ。後ろからはスパルタクスを静止する声が聞こえるが、彼は絶賛叛逆モードな為一切見向きしない。

 

「戦え戦え戦え!手に、脚に、全身に力を漲らせよ!死を恐れるな。剣で圧制者の首を断て!死すその時まで盾を手放すな否、死した後にも手放すな!叛逆の誉れを戦場で行動にて雄弁に語れ!!」

 

ㅤスパルタクスは私に敵を斬り捨てながらも息を乱すことなく饒舌に語る。見えるのは敵が流す鮮血のみ。それは私にとっての鎮痛剤であり、劇薬だ。

 

ㅤスパルタクスは周りに囲んだ敵を屠った後、今まで以上の声量で私を鼓舞し、敵本陣に投げ込んだ!追い付いたブーティカはそれに吃驚する。

 

「──戦え勇者ッ!!!!」

 

ㅤビキニアーマー、角、尻尾、盾に剣を持つ私が戦場の宙に舞う。それも敵地の中心。有象無象の顔が私を見つめ、剣を掲げ剣山を作る。もう後退できない、しちゃ行けない!

 

──スパルタクスに殺されるからッ!!

 

「消し飛べ圧制者ァ!」

 

ㅤ私はエイティーンを両手で掲げる。そして、二つの魔力放出を並列起動。吹き荒れる魔力の渦。装飾の無いエイティーンは圧制者にはきっと空を覆い隠す超巨大剣に見えている事だろう。自由落下し、剣の間合いに入ったその時、私は無慈悲を振り下ろした。

 

ㅤ地面が悲鳴を上げクレーターを形成する。暴風吹き荒れ砂が舞う。聞こえる有象無象の悲鳴が嬌声に聞こえてくる。鮮血が空を舞い、クレーターに降り注いでは染み込み、死の影だけを移す。

 

ㅤ私にも鮮血は注がれる。浄化される心地だ、コレは快楽などという枠に当て嵌らない。刹那的な部分であれば似ているが本質が異なるのだ。そうコレは、安らぎだ─コレが戦場、コレが闘争、コレが叛逆!

 

ㅤこの一瞬だけは染まろう。今だけは叛逆勇者系アイドルだ!!

 

「ニューシングルでも出せそうな程のハイテンション。たまらない止まらない!冷血冷酷残忍の三拍子を持ってして豚共を絶望の快楽地獄に落としてあげるわ!」

 

「まぁ…エリザったらいつにも増して激しい!嫉妬、してしまいそうですわ」

 

「え?」

 

ㅤリアル無双ゲームを体感していたらネットリとした視線と熱い吐息を感じた。もう言わないでも分かるだろうけれどあの人だよ。

 

「一人、二人、三人」

 

ㅤ彼女は目玉焼きを調理する手軽さで妬いていく焚いていく焼いていく。例外なく炭と化す。()()も例外無く蒸発する。

 

「…」

 

ㅤ私は萎えた身体で敵を処理して行く。アレをしていたらお母さんに見つかったぐらいの萎え方だ。

 

ㅤ気付いたら周りに敵が居なくなっていた。あるのは山になった焼死体の数々、呻き声さえ聞こえない山の中心には美少女二人というスプラッターホラーもドン引きな始末。

 

「さて、次は誰を焼きますか?誰でも良いのですよ?お選びください。誰を、何処で、いつ、どのようにして焼き殺すのかを」

 

「え?うん。ごめんなさい…」

 

「私は怒っていませんし、謝る必要もありませんよ?聞いてるだけじゃあないですか?誰を燃やすんですか?」

 

ㅤ怒ってないなんて嘘だ。半清姫サン状態に突入している。怒る理由も身に覚えがありすぎて困る。具体的には私のせいでは無いが…

 

「て、敵将を倒そっか…ごめんなさいごめんなさい、何でもするから許して、もう約束破らないから!」

 

ㅤ清姫サンのプレッシャーで思わず平謝り。危うく死体の中心で日本最高の謝罪姿勢、DOGEZAを披露するところだった。

 

作戦(オーダー)、確かに承りました。…何でもするなら」

 

ㅤ清姫はDOGEZAを阻止しようと中腰を維持している私に近寄り、か細い声で囁きかけてくる。

 

「─もっと私を見てください…」

 

ㅤ私は目を見開いて清姫を目で捉えようとするが、既に走り出しており、その影は妙に小さく感じた。

ㅤ私は清姫を追う形でまた敵を斬っては千切るを繰り返した。

 

ㅤそして、デブが居た…

 

ㅤ見た目にそぐわない俊敏な剣捌き。盾のサーヴァントであるマシュは防御しか出来ないでいる。清姫も合流するが、彼女の攻撃方法ではマシュさえ焼きかねない、故に動けないでいる。マシュを失う事で戦線が崩壊する事は明白なのだ。

ㅤ英霊ではないネロは火力不足?な為攻めあぐねている。だが、私にはまだ気付いていない。要するに勝てばよかろうなので、一撃必殺はできなくとも、大部分の体力を攫ってしまおう。

 

ㅤしかし、相手はデブってもセイバー。近接戦闘ではアサシンクラスでも無い限り接近する前にでも感知されると予想できる。だから、今こそ原理不明のおもしろビックリ魔術で全力攻撃を仕掛ける。名将として有名なカエサルの事だ、意外性を持ってして攻めなければならない。

 

「私の魔術はイマジネーションで全て形作られる。イメージするのは最高にキュートな私─じゃなくて最強の自分ッ!さぁ、勝利への方程式を組み上げるのよエリザ。『召喚(サモン)/恐怖呼ぶお化けカボチャ(ジャック・オ・ランタン)!!」

 

ㅤカエサルの頭上に直径五メートル程の火が灯っていないジャック・オ・ランタンを召喚する。タイミングもマシュのカウンターをバックステップで飛んだ時、周りにも誰も居ない。

 

「離れなさいィイイイ──!!」

 

ㅤ私はカエサル目掛け目一杯叫んだ。三半規管を刺激されたカエサルは蹌踉めき動けない。マシュたちも私の警告を受け、耳を塞ぎながらも後退した。離れた場所に居たマスターである子ジカの活躍もあったのかもしれない。

 

「ぬぐぉ!?」

 

ㅤ私はカボチャを両手で支えたカエサルにゆったりとした足取りで近付く。その際もカボチャへの負荷を掛けていく。

 

「ま、まだサーヴァントの伏兵がいたとはな…だが、うん。私に対して奇襲は良いアイディアだな!」

 

「でもまだ耐えるのね?だったらダメ押しにもう一個。召喚(サモン)!!」

 

ㅤ避けられる訳もなく、カエサルのカボチャはまた増える。同じく負荷を掛けつつ声を掛ける。

 

「耐えるのね?耐えちゃうのね?」

 

「どうにかな…はぁ、そろそろカロリーが足りなくなりそうだ。ジャンク品などこう、ガツガツ食べたいものだな!」

 

「あら?終わりのつもり?」

 

「ん?終わりだろうさ、終わりだとも。ランタンならば火が灯って然るべきだろう?それにやけに重い─魔術の使用を考慮してもな。これだけ負荷を掛けられると運が良くない限り避け切れない。武器も足元だと言う事もあってな…」

 

ㅤこの後、手足がプルプルになるまで原作通り語ってもらった。ネロはポカンとしていたが…チラチラとこちらを見られてもどうしようもない。

 

「では、そろそろ限界だ。名残惜しいが御暇するとしよう。ではな第五代皇帝ネロ・クラウディウス!!」

 

ㅤタイミング良く私はカボチャに火を灯す。直後大爆発。時折甲高い音が鳴るのはカボチャの中身が花火だからだ。

 

ㅤ黄金の光が霞と消えた。

 

「ネロ、これがサーヴァントの死だよ。この世界から消滅したんだ」

 

ㅤ立香はネロにそう説明した。

 

「そ、そうか…だが、これで皇帝一人を倒したという事だな?ウム、御苦労だったな皆の者!」

 

ㅤネロは一瞬暗い顔したと思えば、直ぐにニッコリと笑った。

 

ㅤ私は胸をキュッと締め付けられる。本当に傍迷惑な皇帝だ。

 

 

 




うん、まぁこうなっちゃった訳だよ…
いつもより筆が乗らなかったのでなんとも言えませんが、評価感想の程、お願いしますね。

ぁ、水着清姫来ました…

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