勇者エリちゃん(憑依)勇者の旅へ出ます。   作:小指の爪手入れ師

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なんか徐々にエリちゃんが私の手を離れていく…

もうこの作品見る人居ないんじゃなかろうか?
匿名の投稿者は失踪するって良くあるらしいからネ!!

それと、オリジナルのエリちゃんがどう行動するかで四苦八苦した結果諦めました。


励まされたが嵌められた!

 墓穴を掘るとはこのような事なのだろう。

 

 私は『ニンジンたっぷりポトフ(キャット風)』を口に運びながら自身の失態に辟易する。現在では真エリちゃんの興味は帰ってきた子ジカに移っている為、私に噛み付いてはこない。だが、彼女の内心を察するに、いきなり自分の同位体が現れたと思ったら別人だった訳だ…ハッキリ言って何するか分からない。

 

 私もエリザベート・バートリーに違いないのだからソレをなぞれば良いと思うだろうが、ソレが絶対正しい訳では無いし、実際なぞってみても結果は分からないと出るだろう。

 

「エリザ、ほらあ〜んしてください。口移しも可ですよ。寧ろ推奨しましょう!」

 

「アンタは平常運転ね。仮にも私が好きならこう、気になってソワソワするもんじゃ無いの?」

 

 清姫は私に食べさせようとしたニンジンを自身の口に運び、咀嚼をしながら思考する。そして呑み込んだと同時に私の目を見てことも無さげに言った。

 

「気になりません」

 

 「気にならねぇのかよ!?」とは口には出さないが思わずには居られない。日頃から好き好き言っている彼女なら、秘密があった事に何かしらのアクションや感情を見せるはずと思っていたからだ。

 

 ハッキリ言って拍子抜けだった。

 

「ですが─」

 

 アレ?雲行きが怪しいような…

 

「─あとでゆっくり、ですよ?」

 

 全身の鱗が逆立つのを感じた。お蔭で尻尾が直立してしまってる。スカートを持ち上げてしまうので直ぐに戻したが、慣れてしまったものだと強ばった笑みを浮かべてしまっている事だろう。

 

「ぶっちゃけると偽物を決めるとなれば、私がそうだと思うのよ。嫌じゃない?そういう存在を好きなるのっ─ムグッ!?」

 

 この際聞けることをトコトン聞いてみようと思い、濁流の様に言い流していったが、口に『キャロットonステーキinハンバーガーパティ(キャット命名)』が差し込まれた。予備動作なく、歯にも当てず、唇が開いている状態と言う針に糸を通す精密さを見せたのはもちろん清姫なわけだが、正直心臓に悪いので一言欲しい。

 

「美味しいですか?」

 

「美味しい…」

 

 美味しい。美味しいのだが、普通に食べたい。

 

「私が愛しているのは貴女です」

 

 私は飲もうと思ったスープを取り落としそうになる。勿論無事に確保したが、話の高低差に耳鳴りがしそうだ。

 

「私にとって貴女が偽物であろうと、そうでなかろうと、さして問題では無いのです。貴女が偽物()だと言っても言われても、私の愛は偽物()ではないんですよ?私にとってその真実さえ有れば、貴女が居て頂けるならば、それ以上の幸福は有り得ませんから」

 

 彼女は最後に「旦那様の行く所、清姫ありです」と締め括った。私は言葉が見つからなかった。何と言ったら良いのか見当もつかない。

 

 ヤンデレはマトモなのでは!?と絆されかけている私。

 

「はぁ…見てるだけでも肌がツヤツヤになりそうだわ。こういう時どう言うのが正解だったかしら…ご馳走様?」

 

 ステンノはニヤニヤしながらガン見していた。いや、と言うか……全員こっち見てる!?

 

「ふぅ…尊いな」

 

 子ジカは浄化されている。

 

「べ、勉強になります!」

 

 マシュは何を学んだのかメモを取り始めている。

 

「ヌ?余のポジションは何処だ!?」

 

 無い。

 

「良妻ポジを攫って行ったナ!?ぁ、おかわりも頂いておけ!!」

 

 キャットは相も変わらずキャットだ。

 

「アワアワアワ───ッ!!?」

 

 やはり処女…私カ?気にしたら首が飛んじゃうゾ。

 

『録画班!録画班!!撮れた?撮れたのかい!?ぇ、そもそも録画班なんていない!?』

 

「黙れ!幸せにしてやろうか!!」

 

『え?ぁ…うんごめんなさい?』

 

 おっと、つい本音が出てしまった。

 

 こうして、僅かな日常は過ぎていく。いやこれは日常なのか?

 

 

◇◆◇

 

 

 私は置いて行かれた。皇帝御一行様は帰還すべく帰った。私は置いてきぼり。清姫は近くに居るが、問題はそこではない。問題は何故─

 

──私が清姫に拘束されているかだ!!?

 

 何で毎度毎度恒例のように私を縛るの?

 それと何で脱がしたんだ!?

 脱がす必要も縛る必要も無いでしょ!

 

「包み隠さず全て言ってもらう為です。それに気になっているのは私だけでは無いようですし。見応えもあります」

 

「最後のが本音でしょうアンタ!?」

 

「そうですが?」

 

「開き直んなァ!?」

 

 清姫は口元を扇子で隠し、目をギラギラさせている。蛇に睨まれた蛙の様に動けない。物理的に!

 

「アタシは自分に拷問するまでとち狂って無いから。早く言う事言いなさいよ」

 

 ここまで来て話さないでは恐らく許して貰えないだろう。

 

 言うしかないのよエリザ!どうせ死んでも座に戻るだけ!!死ぬなんて嫌だけど…本当に嫌だけど!!

 

「クッ!『かくかくしかじか』よ……」

 

「は?」

 

「なるほど『エリちゃん可愛い』でしたか…」

 

「分かっちゃうのアンタ!?」

 

 正直話すのは避けたかった。捉え方によっては清姫に嘘を吐いているのと同じだから。彼女が起こす炎は必ず私を焼くだろうから。

 

「事情はよく分かりました。ですが、私のやる事は変わりません」

 

「アタシは分かってないんだけど!?ねぇ、ねぇねぇ!!」

 

「清姫…私はアンタに嘘を吐いていたのよ?」

 

「私がソレを嘘だと思っていない。それでいいじゃないですか?それとも、焼かれたいのですか?」

 

 最早押し黙るしかない。そして、感謝するしかない。

 清姫に掛ける言葉は謝罪では無いだろう。

 

「ありがとう清姫」

 

「友人として、恋人として、妻として当然の事をしたまでです」

 

「結局アタシは何もわかんないけどね!!」

 

 そうと決まれば此処に縛られている必要も理由も無い、いや元々無いけれど。手錠程度で縛られる私では無いので、気合で引きちぎる。

 

「手錠の意味ィ!何でアンタアタシなのにそんな力強いのよ!?て言うか、何で大人しく拘束されてたのよ!!?」

 

「いつもの事だから、ねぇ?」

 

「そうですね。最早愛情表現としてはマンネリ化してない事も無いくらいですわ」

 

 その後は真エリちゃんのツッコミのツッコミによるツッコミのためツッコミがツッコミしたから割愛させていただきます。

 

 一言の感想を述べるとしたら「疲れない?」です。

 

 だがしかし、仮にも私のオリジナルに当たる存在な訳で、エリちゃん歴の先輩でもあるのだ。それに「何度も出てきて恥ずかしくないんですか」で有名なこの娘。

 

──ぶっちゃけ次会った時のフォローが面倒なことこの上ない。

 

 我ながら面倒な娘だ。

 

 まぁ、自分の事だからこそ分かるというものだから複雑だな。

 

「まぁ、アレよ真エリちゃん()。要は姉妹みたいなもの!」

 

「…姉妹、ふぅん。そうか、そう……」

 

 地団駄を踏んでいた真エリちゃんは急に大人しくなり、うんうんと何かを確かめる様に首を縦に振る。

 

「じゃあ姉妹でユニットを組めるのね!」

 

「お断りします」

 

「何でよッ!?」

 

「方向性の違いです」

 

 これは事実。紛れもない、揺るがし様もない事実なのよ!

 真エリちゃんは純正のアイドル志望、私はファンタジックな勇者系アイドル。方向性が違うし、組んでも速攻で脱退する。

 

「それに、そう言うのはマネージャーを通しなさいよ。アンタこの世界何年目?」

 

「マネージャー!?アンタ私の妹のクセに専属マネージャーなんか居るの?何処に?」

 

 アホの姉が聞くので、私は隣で微笑む清姫の肩を両手でポンッと叩く。

 

「アンタァ!!?」

 

「私ですわ」

 

 清姫は何処からか取り出した眼鏡を装着し、スケジュール帳を取り

出す。このスケジュール帳、私の机の中に入っていて、『人LOVE!』のロゴが入っていたりする。

 

 エリちゃんよくわかんなーい!

 

「そういう訳で、もう行くわ」

 

「う〜、納得いかないわ。別に今からでも改めて聴いてあげてもいいのよ?お姉ちゃん怒ってないから怒ってないから!!」

 

 いきなり姉ぶってくる英霊は放っておくとして、予定はどうなっているのか確かめないといけない。まぁ十中八九特異点修復の為に子ジカと合流か、直接聖杯回収かだろうけれど。

 

 だが、正直に言うと私は自分の強さを測りきれていない。明らかに本家ブレエリちゃんを超えるスペック、変化しているエリちゃんの設定、何処からか供給される魔力。

 その上私は正史に存在しないイレギュラー。どの様な影響があるかが分からない。

 

 結論はどうしても、敵本陣の単独突破はリスキー、子ジカと合流がベターと出る。

 

 我儘を言ったらそんな状況は「つまんない」と本能がぼやく。

 

「難しい事を考えるのね。正直意外よ…気持ち悪い」

 

「さらりと心読んだ上に罵倒なんて良い趣味ねステンノ。それにその罵倒も理不尽でいいセンスよ」

 

「私もそう思うわ、ありがとう」

 

 今まで隠れていたステンノが現れた。この女神、アサシンだけあって気配遮断A+。偶像(アイドル)とは、隠れ忍ぶことと見つけたり。

 

 清姫はアホの子(真エリちゃん)改め、アホの子()の対応に忙しいようでコチラには気付かない。

 

「それで何?」

 

「あら、私が本題を切り出すのを待てないの?つくづく不敬ねアナタ。メドゥーサでさえ待てくらい出来るのよ?」

 

 いい加減妹さんが不憫で泣きそうです。もう許したげて……

 

「さて、冗談はソコソコに本題ね。女神らしく加護でもあげようと思うのよ。ありがたく頂戴することね」

 

「其の心は…」

 

 神が優しくする時は厄介事もセットだと言うことを決して忘れてはいけない。彼女達はいつでも娯楽に飢えているのだから。

 

「そっちの方が楽しい」

 

「これだから神は嫌─チュッ─ぃ……」

 

「──ご馳走様。精々楽しませてね?」

 

 今起こった事態を説明しよう。

 ステンノがいきなり左の首筋にキスをした。恐らく加護的な儀式の簡略なのだろうが、私にその手の知識が無い為保証は出来ず、女神ステンノの気まぐれから生じたいたずらと言う線も捨てきれない。

 だが、注視して頂きたい事象はステンノの意思でも真意でもない。私にキスしたと言う、ステンノが行使した手段だ。

 

 彼女は聞き逃さない。彼女はこういう時だけは異常なまでの地獄耳を働かせる。

 

「フフ…さっそく浮気ですか?もう首輪でも繋がないと自制出来ないのでしょうか?心配なさらずとも私もお揃いの物を着けますわ。もう何処にも……」

 

 私に首輪着けて誰が喜ぶのだろうか。いや、結構居そうで怖い…これ以上この事を考えるときっと立ち直れないから止めよう。明らかに精神衛生上宜しくない。

 だが、それより怖いのが目の前の清姫サンなのだが…

 

 さて、此処でどのようにして生存するか、下手な選択肢を選ぶと即刻道場行きだから慎重にクールにだ。慌てるな、真の勇者は狼狽えない。

 候補一、死んだフリ。予想結果、喰われる。意味は各々で補完して欲しい。

 候補二、挑み倒す。予想結果、相手は最早ティアマトの如く死の概念が欠如している可能性があります。

 候補三、冷めるまで逃げ切る。予想結果、全力を出しましょう。

 

 取るべき行動は一つ、後方に全力疾走!

 

 魔力放出を推進力として使用。リソースを何時もより多く引っ張り出し、体内を循環。原理が分からない魔術を併用し強化、補強。

 道無き道は素手で切り拓く。林を裂き、木々を倒し、岩石は砕く。

 背中から発せられる熱量はこれだけしても消えてくれない。愛の獣は今も尚、変態機動をもって迫る。

 

 確かに目指すべき道は分からない。だが今は、首の熱いモノに導かれている。そこが敵地なのかも理解できないが、明らかに女神の企み事の上なのだろうと理解。

 

「■珍■■ァ■■ーーーッッ!!!」

 

 チョロい、チョロすぎるぞ清姫サン。スイッチがぶち壊れていたのは最初から知ってはいた。だが、だがだよ!たかだかキスだろう。それくらいは許せ!!

 

 …ヤバいな、思考が完全にクズ男だ。体は美少女だけど。

 

 狂戦士(バーサーカー)の正しい姿を晒す清姫は愛憎塗れる咆吼を止めない。時折火の渦が辺りを焦がすのだから愛も憎しみもかなりのモノだろう。

 

 墓穴を掘ったら何故か地球を貫通したみたいだ。下手人は勿論ステンノ、全くこれだから神って奴は嫌いなんだ。

 

 試しに少しだけ振り返る。

 

「安珍安珍安珍安珍安珍安珍安珍──■珍安珍安■■■■■ーーーァアアーーーーッ!!!!!」

 

「ピャー!?」

 

 手から時折火球を出して推進力を得、反り立つ岩や木々を足場に立体機動を実現。足場は清姫が踏み締め、蹴った瞬間に粉砕。だと言うのに、彼女の着物は乱れない。乱れているのは顔だけである。顔に掛かる厚く漆黒の影に、三日月に割れる口に縦割れの瞳孔はいつにも増してギラギラと光っている。

 

 防御デバフが掛かったな辛い。

 

「神なんて大ッ嫌いだァーーーッ!!!」

 

 最後に響く声は虚しく木霊する。

 

 同時に女神がクスクス笑う声が聞こえた気がした。




次回から本格的にローマを殴りに行くでしょう。
まぁ見たいだなんて言う奇特な御方は見てください。


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