「安心しましたわ。まさか訓練機で対戦しようとは思っていなかったでしょうけど。」
休み時間になるなり、オルコットが俺達の所に来た。正直、今は関わりたくないし眠いから視覚補助をオフにして目を閉じる。
「まあ? 一応勝負は見えていますけど? さすがにフェアではありませんものね。ところであなたはわたくしのお話を聞いていますの?」
「? なんで?」
「訊いてないし、訊く意味もない。」
「まぁっ!? なんですのその態度は!? そちらの方はご存じないのね。庶民のあなたに教えて差し上げましょう。このわたくし、セシリア・オルコットはイギリスの代表候補生……つまり、現時点で専用機を持ってますの。」
「そのぐらい知ってる。」
全く、寝ていたいのに邪魔しやがって。
「へ~」
「あなた方はわたくしを馬鹿にしてますの?」
「どうすげーかは分からないが、凄いのは分かった。」
「一夏さっき言っただろうが、ISのコアは467個しかないって。世界の人口が60億人超、女性はその半分で約30億人超、そのうちで年齢とかを考慮するとISを使えるのは少なく見積もっても数千万人。ここからは単純な算数だ、コア一つがどれだけ貴重か分かるだろう?」
「へ~、そうなのか。」
「やっと分かりましたの?」
「人類って六十億人超えてたのか。」
そこかよ……
「そこは重要ではないでしょう!?」
バンッ バサバサ
オルコットが一夏の机をたたいたせいで一夏の机に乗っていた教科書が落ちる。
「あなた! 本当に馬鹿にしてますの!?」
「いやそんなことはない。」
完全に棒読みだな。
「だったらなぜ棒読みなのかしら……?」
「なんでだろうな、箒、月茂。」
一夏が『ほう』と言ったあたりで箒が『私に振るな』といった視線を飛ばしてきた。当然俺も振られたくないので無視する。
「そういえばあなた、篠ノ之博士の妹なんですってね。」
「妹と言うだけだ。」
箒はオルコットの言葉に鋭い視線を返す。おぉっ、視線だけでオルコットがひるんだ。さすがだな。まあ妹や弟というだけで特別扱いや期待されても困るからな。
「ま、まあ。どちらにしてもこのクラスで代表にふさわしいのはわたくし、セシリア・オルコットであるということをお忘れなく。」
オルコットは髪を手で払って颯爽と去って行った。
◇
「月茂も一緒に飯行かないか?」
昼休みになると一夏が飯に誘ってきた。箒の腕を掴みながら。……これは面倒な事になりそうだが断る理由もないから行くか。
「ん。わかった。」
俺は椅子から立ち上がって一夏達の後に続く。
◇
「箒、何でもいいよな。何でも食うよなお前。月茂はどうする?」
「面倒だから、一緒のを頼む。」
「ひ、人を犬猫のように言うな。私にも好みがある。」
「ふ~ん。あ、日替わり3枚買ったからコレでいいよな。鯖の塩焼き定食だってよ。」
「鯖か。鯖うまいよな~。」
俺はこの二人の雰囲気が嫌だから軽く現実逃避する。ちなみに鯖は好きな魚だ。一番ってわけではないが。
「話を聞いているのか、お前は!」
「聞いてねえよ。俺がさっきまでどんだけ温和に接してやってると思ってんだ馬鹿。台無しにしやがって。お前、友達できなかったらどうすんだよ。高校生活暗いとつまんないだろ。」
なんで俺はこんな空気の中いなくちゃいけないんだ? やっぱり途中で抜けた方が良かったかもな。
「わ、私は別に……頼んだ覚えはない!」
「俺も頼まれた覚えがねえよ。あ、おばちゃん、日替わり3つ。食券ここに置いときます。」
「一夏。俺は先に席取りしとくぞ。」
「悪いな月茂。頼む。」
俺はひとまず逃げる為に席取りに行く。良かった、あの空気から逃げ出せて。
「一夏、箒。こっちだ。」
3人分の席を確保し待っていると一夏と箒がトレーを受け取っているのが見えたので手を挙げて合図する。
「月茂サンキュ。」
一夏は礼を言いながら俺の分の日替わり定食を渡してきた。鯖の焼き加減が絶妙だな、いい匂いだ。
「そういやさあ。」
「……なんだ。」
一夏が鯖の身をほぐしながら聞くと箒は味噌汁を飲みながら返事をする。俺は我関せずと言った感じで箸を進める。実際関係ない気がするが。
「ISのこと教えてくれないか? このままじゃ来週の勝負で何もできずに負けそうだ。」
「俺は自主錬があるからあんまり時間無いぞ。質問ぐらいなら答えてやるが。」
しばらく槍を振るっていないからいつも以上に練習しないといけないからな。
「箒はどうだ?」
「くだらない挑発に乗るからだ。馬鹿共め。」
「ちょっと待て。俺も馬鹿に含まれてないか!?」
「当たり前だ。貴様も挑発に乗っただろうが。」
俺は隣の馬鹿と違うぞ。ちゃんと勝算はある。
「そこをなんとか、頼むっ。」
一夏は箸を持ったまま拝むように箒に頼みこむ。なんか惨めだな。
「……………………」
箒は無視を決め込んで、黙々とほうれん草のおひたしを食べている。
「なあ箒――」
「ねえ君たちが噂のコでしょ?」
一夏が箒に頼みこもうとしたところで隣から声がかけられた。リボンの色からすると3年生のようだ。年上だからか大人びた容姿と雰囲気を纏っていて、顔立ちは人懐っこそうだ。
「はぁ、たぶん。」
「どんな噂かは知りませんが……」
ロクな噂じゃない気がする。先輩は俺達の返事を聞くと自然な動きで椅子を用意して一夏の隣に座る。組んだ腕をテーブルに置いて首を若干傾けた顔を俺達に向けてきた。なんか危ない気がするな。
「代表候補生のコと勝負するって聞いたけど、ほんと?」
「はい、そうですけど。」
「流れで巻き込まれました。」
噂が広がるの速いな。それとも注目の男性操縦者だからか?
「でも君たち、素人だよね? IS稼働時間っていくつくらい?」
「俺は八〇〇時間超えてるから素人じゃないですよ。」
「八〇〇時間!? だって最近ISが乗れるようになったんじゃないの!?」
先輩は俺の発言に驚いて大声を上げる。うわ~注目浴びちゃってるよ。
「篠ノ之博士が公表したのが最近なだけで、ISを使い始めてから二年半です。それにISならコイツですから。」
俺は面倒なので一気に話す。
「う~ん。確かに八〇〇時間も操縦してるなら……」
先輩はまだ納得していないと言った様子だ。周りの女子もざわついている。
「月茂はすごいな。俺なんて二〇分くらいしかないぞ。」
「それじゃあ無理よ。ISって稼働時間がものをいうの。その対戦相手、代表候補生なんでしょ? だったら軽く三〇〇時間はやってるわよ。そっちのコはそれを超えているけど。」
なんで俺が変みたいな扱いなんだ? いや、当然か八〇〇時間なんてそうそうないからな。人目に付くと面倒な事になるから地下実験場を借りたりしてなんとか動かしてたからな。
「でさ、私が教えてあげよっか? ISについて。」
言いながら、一夏の方に身を寄せてくる先輩。おそらく、というか絶対、男性操縦者に近づきたいと言った理由だろう。
「はい、ぜ――」
「結構です。私が教えることになっていますので。」
一夏が先輩の親切心? からくる申し出を受けようとした時に正面にいる幼馴染が申し出を断った。あぁ、対抗心みたいなものか。恋心というのはいまいち分からんな。
「あなたも一年でしょ? 私の方がうまく教えられると思うなぁ」
「……私は、篠ノ之束の妹ですから。」
言いたくなさそうにしながら、箒は自分の最強のジョーカーを切る。いや、身内だからって教える方がどうかとか分からないだろ? それに優秀な人間ほど感覚的に覚えているから説明は下手だったりするし。
「篠ノ之って――ええ!?」
先輩はこっちが驚きそうになるほど驚いた。当然かISを開発した稀代の天才……の身内が目の前にいるんだからな。
「ですので、結構です。」
「そ、そう。それなら仕方ないわね……」
流石は稀代の天才だ。その名だけで相手をひるませるとは……指導を申し出た先輩は軽く引いて去ってしまった。一夏は少し、いや、かなり残念そうだ。
「なんだ?」
「なんだって……いや、教えてくれるのか?」
「そう言っている。」
箒はこの馬鹿を教えられるのか? 一夏が蒔いた種だから俺の気にすることじゃないか。
「今日の放課後。」
「ん?」
「剣道場に来い。一度、腕がなまってないか見てやる。月茂お前もだ。」
「いや、俺は槍の稽古があるから剣道は結構なんだが」
「俺はISのことを……」
「見てやる。それと月茂は槍でいいから私が相手になってやる。相手がいた方がいいだろう?」
「「……わかったよ。」」
俺と一夏の台詞が被る。しかし、槍VS竹刀なら結果が見えているだろうに……
月茂のIS稼働時間はだいたい一日一時間ぐらいで計算しています。
やっと、次回 月茂の槍の腕前を披露できそうです。
感想・コメント・指摘などありましたらお気軽にどうぞ。
活動報告にて一夏のヒロインアンケートもやってます。
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