ガールズ&パンツァー+ボーイズ&ゾルダース   作:宇宙刑事ブルーノア

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第13話『練習試合、終了です!』

『ガールズ&パンツァー+ボーイズ&ゾルダース』

 

第13話『練習試合、終了です!』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

市街地でのゲリラ戦で、グロリアーナ&ブリティッシュ機甲部隊の撹乱に成功したかに見えた大洗機甲部隊だったが………

 

ブリティッシュ歩兵部隊のエースであるアールグレイとティム。

 

そしてダージリンの冷静沈着な指揮により、再び逆に追い込まれてしまう。

 

マチルダⅡ2両とチャーチルに追われるAチームのⅣ号。

 

アールグレイと対峙する弘樹。

 

そして遂に………

 

決着の時が訪れる。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

大洗町・市街地内………

 

「!!………」

 

路肩に停められていた車の陰に隠れながら、三八式歩兵銃を5連射する弘樹。

 

「…………」

 

しかし、騎兵のアールグレイは難なく回避する。

 

そして反撃とばかりにRifle No.4 Mk Iを、まるで機関銃の様な連射で発砲する。

 

「ぬうっ!?」

 

慌てて弘樹が完全に車の陰に隠れると、.303ブリティッシュ弾が、車のガラスを割り、車体側面に穴を開ける。

 

「流石はリー・エンフィールドだ………同じボルトアクションとは思えぬ連射だ」

 

三八式歩兵銃をリロードしながら、弘樹はアールグレイが使っているリー・エンフィールドのRifle No.4 Mk Iの連射力に感心する。

 

(そしてそれは熟練した歩兵だから出来る行為………やはり敵は手強い)

 

それと同時に、それを操るアールグレイの技量も改めて認識する。

 

とそこで、隠れている車の上を飛び越えて、何かが弘樹の傍に落ちる。

 

「! 手榴弾っ!!」

 

すぐにそれを手榴弾だと認識した弘樹は、車の陰から飛び出す!

 

直後に手榴弾が爆発し、盾にしていた車が爆発・炎上した!!

 

「うおっ!?」

 

爆風に煽られて、地面を道路の上を転がる弘樹。

 

「………!!」

 

そこをアールグレイは、Rifle No.4 Mk Iで狙い打ったが、

 

「チイッ!!」

 

弘樹はそのまま道路の上を転がり、辛うじて回避し、そのまま勢いを利用して膝立ちになり、三八式歩兵銃をアールグレイに向ける。

 

「!!………」

 

アールグレイもRifle No.4 Mk Iを弘樹に向ける。

 

「「…………」」

 

お互いがお互いを狙う状況となり、そのまま睨み合いとなる。

 

「…………」

 

何時でもRifle No.4 Mk Iを発砲出来る状態で居るアールグレイ。

 

(クソッ! このままコイツにばかり時間を取られているワケにはイカン。一刻も早くAチームの援護に向かわねば………)

 

対する弘樹も油断はぜず、追い詰められている筈であるみほ達Aチームの援護に行かなくてはと思いやる。

 

「「…………」」

 

しかし、両者はどちらも緊張状態から抜け出せずに居た。

 

何か切欠が無ければ、この状況は動かない………

 

………と、その時!!

 

「おうわああああああああぁぁぁぁぁぁぁぁーーーーーーーーーーーっ!?」

 

悲鳴が両者の頭上から聞こえて来て、空を飛んでいる自転車に乗った白狼が通り過ぎて行った。

 

「!?」

 

突如頭上を横切って行った珍妙な飛行物体を、アールグレイは思わず見上げてしまい、弘樹から注意が反れる!

 

「! 隙有りっ!!」

 

その一瞬の隙を見逃さず、弘樹は三八式歩兵銃を発砲!!

 

「!?」

 

三八式実包がアールグレイに吸い込まれる様に命中。

 

アールグレイは落馬し、地面に落ちた!!

 

落馬した主に反応したかの様に、馬が嘶く。

 

「助かった。さっきのは一体?…………いや、それよりも、今はAチームの援護だ!」

 

弘樹はそのまま踵を返し、道端に落ちていた試製四式七糎噴進砲を拾うと、Aチームの援護へと向かうのだった。

 

その場に残された、地面に倒れているアールグレイの頬を、愛馬が舐める。

 

………すると!!

 

「………クッ!」

 

何と!

 

アールグレイがむくりと起き上がった!

 

判定装置は、戦死を判定していない。

 

「………紙一重だったな」

 

そう言いながら、アールグレイは使っていたRifle No.4 Mk Iを見やる。

 

丁度薬室の側面に当たる木製部分に、三八式実包が突き刺さる様に命中していた。

 

撃たれたと思われた瞬間、アールグレイは咄嗟にRifle No.4 Mk Iを盾にして、被弾を防いだのである。

 

(………敵との戦いの最中に別の事に気を取られるとは………自分の心に隙が有った証拠だ………)

 

そこでアールグレイは、険しい表情を更に険しくする。

 

(こんな甘ったれた気概では、何も掴む事は出来ん………)

 

アールグレイの目の色が変わったかと思われた瞬間………

 

彼は再び愛馬に跨り、弘樹を追ったのだった!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

一方、その頃………

 

Eチームの活躍で、如何にかグロリアーナの戦車隊から逃げ果せたAチームのⅣ号は………

 

「次のところ、右折です!」

 

「ほい」

 

狭い路地から出て、大通りへ向かう。

 

(………! 居た!!)

 

とそこで、キューポラから上半身を出していたみほが、家々の隙間から、路地を進んでいるチャーチルを発見する。

 

「路地を押さえます! 急いで下さい!!」

 

みほがそう言うと、麻子はⅣ号のスピードを上げ、グロリアーナ戦車隊が出ようとしている路地の出口へと向かう。

 

「右折してください! その後は壁に沿って進んで急停止!!」

 

「ほい」

 

そして、正面に大通りが見えると、右に曲がると同時に壁側へ寄る。

 

すると、正面の交差点の右側から、先行していたマチルダⅡがヌウッと姿を現す。

 

側面の為か、Ⅳ号にはまだ気づいていない。

 

「至近距離まで接近! 秋山さん!! 成形炸薬弾を!!」

 

「了解っ!!」

 

みほの命令で、装填手の優花里が、Ⅳ号の主砲に成形炸薬弾………HEAT弾を装填する。

 

HEAT弾とは、簡単に言えば、装甲貫通能力に長けた特殊な榴弾の事である。

 

初速が遅いという弱点があるものの、Ⅳ号で使用出来る物では70mmから90mmの装甲を貫通出来る筈である。

 

「五十鈴さん!!」

 

「発射っ!!」

 

そして、Ⅳ号がマチルダⅡの側面至近距離まで着けた瞬間に発砲!!

 

マチルダⅡの側面で激しい爆発が上がり、黒煙が立ち上ったかと思うと、撃破を示す白旗が上がる。

 

Ⅳ号はすぐに移動を始め、撃破したマチルダⅡの前を横切って、路地入り口の反対側へ。

 

と、撃破したマチルダⅡの隣を抜けて、もう1両のマチルダⅡが出て来ると、Ⅳ号に主砲を向けようとしたが、それよりも早くⅣ号が反転し、再びHEAT弾で砲撃!!

 

もう1両のマチルダⅡも撃破され、白旗が上がる。

 

するとそこで、撃破されたマチルダⅡ2両を押し退け、チャーチルが大通りへと進入して来る。

 

その砲塔側面に、Ⅳ号は再びHEAT弾を撃ち込む!

 

しかし、HEAT弾は命中したものの、95mmあるチャーチルの砲塔側面を貫く事は出来なかった。

 

チャーチルの砲塔が回転を始め、Ⅳ号に向けられようとする。

 

「後退して下さい! ジグザグに!!」

 

みほは車内へと引っ込むと、後退の指示を出す。

 

チャーチルが発砲するが、撃破されたマチルダⅡが邪魔で射線が完全に取れなかった為、外れる。

 

Ⅳ号は十分に距離を離したかと思うと再度前進。

 

大通りを進み始め、チャーチルの前を抜けて行こうとする。

 

チャーチルはそんなⅣ号を追う様に砲塔を旋回させながら再び発砲するが運良く外れ、砲弾は交差点角の家を破壊した。

 

Ⅳ号はそのまま、チャーチルから大きく距離を離し始める。

 

「路地行く?」

 

「いや、ココで決着着けます! 回り込んで下さい! そのまま突撃します!!」

 

麻子の問い掛けに、みほはそう返す。

 

如何やら歩兵が居ないこの状況が、絶好の勝負所と踏んだ様だ。

 

「………と見せかけて、合図で敵の右側部に回り込みます!」

 

チャーチルから距離を離していたⅣ号が反転し、チャーチルの方に向き直る。

 

「向かって来ます」

 

「恐らく、さっきと同じ所を狙って貫通判定を取る気ね」

 

「そうはさせるものですか!」

 

その様子をチャーチルの車内で見ていたオレンジペコ、ダージリン、アッサムがそう言い合う。

 

チャーチルは突撃して来るⅣ号との距離を逆に詰めて、不意を衝こうとする。

 

と、その次の瞬間!!

 

爆発音がして、チャーチルの車体が揺れた!!

 

「キャアッ!?」

 

「!? 何事ですっ!?」

 

「!?」

 

オレンジペコとアッサムが悲鳴に似た声を挙げる中、ハッチを開けて車体後部を見やるダージリン。

 

チャーチルの車体右後部から黒煙が上がり、履帯が千切れている。

 

「! 履帯がっ!?」

 

ダージリンが淑女に似つかわしくない荒げた声を挙げながら更に後方を見やる。

 

そこには、砲口から白煙を上げている試製四式七糎噴進砲を右肩に担いでいる弘樹の姿が在った。

 

「! あの男!!」

 

「Ⅳ号! 接近して来ますっ!!」

 

オレンジペコから声が挙がる中、Ⅳ号が先程と同じ場所を狙おうと突撃して来る。

 

「動きさえ止めれば!!」

 

それと同時に、弘樹も撃ち終えた試製四式七糎噴進砲を捨て、吸着地雷を手にチャーチルへ肉弾攻撃を仕掛ける。

 

「! 砲塔右旋回っ!!」

 

ダージリンは慌てて車内に引っ込みながらそう指示を出す。

 

迫って来るⅣ号に対しては、砲塔を右旋回させて砲撃を正面装甲で防ぎつつ反撃する積もりだ。

 

しかし、後方から突撃して来る弘樹に対しては手立てが無い。

 

車長用の機関銃架が有れば話は別だが、チャーチルにはデフォルトでは機銃架は装備されていない。

 

履帯損傷状態の今では車体機銃は使えず、同軸機銃もⅣ号に対応している為、向けられない。

 

精々弘樹が取り付く前にⅣ号を撃破出来る事を祈るしかない。

 

(アールグレイッ!!)

 

ダージリンは思わず、心の中でアールグレイの名を呼んだ。

 

と、その時!!

 

馬の嘶きが聞こえて来て、民家の塀を飛び越える様にして、愛馬に跨ったアールグレイが参上する!!

 

「!? 何っ!?」

 

「トアアッ!!」

 

驚く弘樹に向かって、アールグレイは馬上から跳ぶ!!

 

そして、腰のフルーレを抜き、弘樹へと襲い掛かる。

 

「!! チイッ!!」

 

弘樹は一瞬反応が遅れながらも、吸着地雷を投げ捨てると、腰の日本刀を抜こうとする。

 

「遅いっ!!」

 

だが、それよりも早く、アールグレイはフルーレで弘樹の胸を突いた!!

 

「!! ゴフッ!?」

 

肺の空気が全部吐き出されてしまったかの様な感覚に襲われ、弘樹はそのまま仰向けに倒れ………

 

そのまま戦死判定を受ける。

 

その直後、2連続の爆発音も聞こえて来る。

 

「「!!」」

 

アールグレイと、倒れている弘樹がその爆発音のした方向を見やるとそこには………

 

砲塔の一部が炎上しているチャーチルと………

 

砲身が砕け散り、白旗を上げているⅣ号の姿が在った。

 

『大洗機甲部隊の全戦車の行動不能を確認。よって、グロリアーナ&ブリティッシュ機甲部隊の勝利っ!!』

 

日本戦車道連盟の審判がそう判定と勝敗を告げるアナウンスを流す。

 

「………無念」

 

それを聞いた弘樹は、心底悔しそうな表情を浮かべる。

 

(あと少し遅れていれば………如何なっていた事か………)

 

だが、アールグレイの方も、あと少し自分が遅れていれば、勝敗は如何なっていた分からなかったと考え、表情を険しくしていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

大洗アウトレット・特別観覧席………

 

「あちゃ~! 負けちゃったぁ………」

 

「お兄ちゃん、大丈夫かな?」

 

遥とレナが、特設モニターに映った大洗機甲部隊敗北の知らせを見てそう呟く。

 

「清十郎がぁ~! 清十郎がぁ~っ!!」

 

「姉さん、落ち着いて………」

 

ブラコン全開で清十郎を心配している愛と、そんな愛を宥めているあかね。

 

「…………」

 

そして湯江は1人、ジッと敗北を知らせているモニターを見上げていた。

 

(負けてしまいましたね………でも、お兄様、西住さん………御2人は立派に戦われました………何も恥じる事はありません)

 

湯江は心の中で、1人ひっそりとそう思いやる。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

数10分後………

 

撃破された大洗機甲部隊の戦車は、SLT 50 エレファント戦車運搬車によって運ばれて行く。

 

更に、その他の装甲車や兵員輸送車、軍用車両にバイクも同様に運ばれて行き、試合中に鹵獲した武器の返却も行われる。

 

そんな中………

 

Aチームのみほ達と、弘樹、地市、了平、楓の面々は、大洗の港………

 

荷揚げした荷物を運送するトラックが並んでいる駐車場に集まっていた。

 

 

 

 

 

「負けましたね………」

 

「ハイ………」

 

何処か力の無い楓の呟きに、華が悔しそうな様子でそう返事を返す。

 

「まあ、相手は準優勝経験も有る強豪校だ………私達が勝てたら奇跡だったろう」

 

「それは………そうだけど………」

 

「でも、悔しいもんは悔しいぜぇ………」

 

麻子、沙織、了平もそう言い合う。

 

「………チキショウッ!!」

 

地市も悔しさを露にしてそう声を挙げた。

 

「西住総隊長………申し訳ございません。自分の力が及ばなかったばかりに………」

 

「そ、そんな! 舩坂くんのせいじゃないよ!!」

 

そんな中、弘樹は敗北の責任を感じてみほに侘び、みほは弘樹のせいではないと言う。

 

と、そこへ………

 

「失礼致しますわ。ちょっと宜しくて?」

 

「「「「「「「「「!?」」」」」」」」」

 

そう言う台詞が聞こえて来て、一同がその声が聞こえた方向を見やるとそこには………

 

聖グロリアーナ戦車隊のダージリン、アッサム、オレンジペコ。

 

通称・ノーブルシスターズと呼ばれる面々。

 

そして、ブリティッシュ歩兵部隊の隊長であるセージに、アールグレイとティムの姿が在った。

 

「! グロリアーナの!」

 

「ブリティッシュ歩兵隊………」

 

突如現れたダージリンとアールグレイ達の姿に、みほは驚き、弘樹も眉をピクリとさせる。

 

「うおおっ!? 金髪の美人が目の前に!!………!? ゴヘッ!?」

 

「オメェは黙ってろ。ウチの品位が疑われる」

 

ダージリン達を見て興奮した様子を露にする了平を、地市が物理的に黙らせる。

 

「貴方が大洗の総隊長さん?」

 

「あ、ハイ………」

 

「お名前をお伺いしても宜しいかしら?」

 

みほに向かって、ダージリンはそう尋ねる。

 

「あ………西住 みほです」

 

「! もしかして、西住流の?」

 

みほの名を聞いたダージリンが、軽く驚いた様子を見せて言う。

 

「ハイ………」

 

「そう………貴方のお姉さんのまほさんとは1度試合をした事がありますわ。けど………貴方はお姉さんとは違うのね」

 

ダージリンは微笑みながら、みほに向かってそう言うのだった。

 

一方………

 

「…………」

 

アールグレイは、弘樹の姿をジッと見やっている。

 

「…………」

 

対する弘樹も、そんなアールグレイの姿を注視している。

 

「「…………」」

 

両者の間に、独特の緊迫感が流れる。

 

(((………ゴクッ!!)))

 

傍から見ていた地市、了平、楓の3人は、その緊迫感に思わず息を呑む。

 

「「…………」」

 

更に両者の沈黙は続く。

 

「アールグレイ………喋らなきゃ会話は成立しないわよ」

 

そこで、ダージリンは呆れた様な表情で、アールグレイにそう声を掛ける。

 

「………聖ブリティッシュ男子高校歩兵部隊所属、突撃兵………アールグレイだ」

 

するとアールグレイがイギリス陸軍式敬礼をしながら、弘樹に向かってそう名乗る。

 

「………県立大洗国際男子高校歩兵部隊所属、大洗女子学園戦車隊Aチーム随伴分隊分隊長………舩坂 弘樹」

 

それに返礼するかの様に、弘樹もヤマト式敬礼をして、そう名乗りを挙げた。

 

「! 舩坂………だと?」

 

「まあっ!?」

 

「「!?」」

 

「何っ!?」

 

「何と!?」

 

と、それを聞いた途端、アールグレイやダージリンはおろか、オレンジペコ達やセージ達も驚きを露にする。

 

「そうか………あの舩坂 弘殿の………」

 

「…………」

 

何処か納得が行った様にそう呟くアールグレイに、弘樹は沈黙で肯定する。

 

「そうでしたの。道理で、勇猛果敢な方だと思いましたわ」

 

「英霊の子孫が歩兵道をしていると言う噂は聞いていたが、まさかこの大洗に居たとはね」

 

ダージリンも納得した様な表情でそう言い、セージもそう言いながらメガネをクイッと上げた。

 

「ダージリン様、そろそろ」

 

するとそこで、オレンジペコがダージリンにそう告げる。

 

「アラ、残念ね………では、コレで失礼致しますわ」

 

「御機嫌よう」

 

ダージリンとアッサムがそう言うと、グロリアーナ&ブリティッシュの面々はその場から去り始める。

 

「「…………」」

 

弘樹とアールグレイは去り際まで、互いの目を見合っていた。

 

と、そこで………

 

「すみません、宜しいですか?」

 

とそんな弘樹に声を掛ける者が居た。

 

ティムである。

 

「! 何か?………」

 

アールグレイに注目していた為、若干驚きながらティムにそう尋ねる。

 

「申し送れました。ブリティッシュ歩兵隊のティムと言います。僕と戦っていた歩兵さんの事をご存知ですか?」

 

ティムは弘樹に向かってそう尋ねる。

 

「………神狩の事か?」

 

試合の片付けを手伝っていた際に得た情報から、目の前の人物・ティムと戦っていたのは神狩であると推察する。

 

「お知り合いですか?」

 

「まあ、そんなものだ………」

 

するとそこで、ティムは弘樹に向かって、1輪のリコリスを差し出す。

 

「? コレは?」

 

「彼に会ったら渡して下さい………では、失礼致します」

 

弘樹がそれを受け取ると、ティムはペコリと頭を下げ、ダージリン達とアールグレイ達の後を追って行ったのだった。

 

「「「「「「「「「…………」」」」」」」」」

 

立ち去って行くグロリアーナ&ブリティッシュの面々の姿を、見えなくなるまで見送るみほ達と弘樹達。

 

「いや~、負けちゃったね~、ドンマイ」

 

「だが、得た物は大きい筈だ………決して無意味な敗北では無い」

 

とそこで、そんなみほ達と弘樹達の背にそう言う声が掛けられたかと思うと、杏と迫信と筆頭に、両校の生徒会メンバーが姿を見せる。

 

「約束通りやってもらおうか………あんこう踊りを」

 

「んで、俺達はふんどし姿で大洗海岸をランニングだっけ?」

 

桃がそう言うと、俊もまるで他人事の様にそう言い放つ。

 

「「「「うぅ………」」」」

 

Aチームの面々が、麻子を除いて一気に表情に影を落とす。

 

「マジかよ………」

 

「最悪だ………もう一生女の子にモテねえよ」

 

「貴方の場合、その心配は無いと思いますよ」

 

地市も絶望した様な様子となり、了平が血の涙を流さんと言わんばかりに呟くと、楓が割と容赦無いツッコミを入れる。

 

「まあまあ。こういうのは連帯責任だから」

 

するとそこで、杏が思い掛けない言葉を発した。

 

「うえっ!?」

 

「会長、まさか!?」

 

「杏! やるの!?」

 

それを聞いた桃、柚子、蛍が仰天の様子を露にする。

 

「うん!」

 

「………少なくとも何処かの広報には相当の責任があって当然と見るがな」

 

杏が満面の笑みを浮かべてそう言うと、熾龍がそう呟く。

 

「! 貴様! 何処かの広報と言うのは私の事かぁっ!!」

 

「自覚は有る様だな………そこまで分からない程の馬鹿ではなかったか」

 

「当然だ! 第1作戦の失敗の原因はお前に有る!! 成功さえしていれば試合結果も変わったかも知れないものを!!」

 

その発言に桃が噛み付くと、熾龍は更なる毒舌を浴びせ、十河も不快感を露にした顔でそう言う。

 

「五月蝿い! あんな姑息な作戦如何だって良いっ!!」

 

「元は貴様が立てた作戦だろうがぁっ!!」

 

「ちょっ! 2人供! 落ち着いて下さいっ!!」

 

「冷静に! 冷静に!!」

 

ヒートアップする桃と十河を見て、清十郎と逞巳がオロオロとし出す。

 

「…………」

 

とそこで、迫信が手にしていた扇子をもう片方の掌に打ち付け、パンッ!と鳴らした。

 

「「!?」」

 

その音で桃と十河が、迫信に注目する。

 

「2人供………敗軍の将、兵を語らず………だ」

 

そう言いながら、迫信は扇子を開いて、口元を隠しつつ、流し目で2人にそう言った。

 

何気ないその姿だが、これ以上の無駄話は要らないと言う雰囲気が伝わって来る。

 

「「…………」」

 

その雰囲気に気押しされ、2人はもう何も言えなくなる。

 

「じゃあ行こうか!」

 

そこで再び、杏が満面の笑みでそう言い、罰ゲームが開始されるのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

大洗の街中………

 

「ふええぇぇぇぇ~~~~~っ!?」

 

「もうお嫁に行けない~っ!!」

 

「仕方ありませんっ!!」

 

「恥ずかしいと思えば余計に恥ずかしくなりますっ!!」

 

妙に耳に残る盆踊り調の曲『あんこう音頭』をバックに大型輸送車の荷台の上にて、デフォルメされたあんこうの被り物を被って、鰭が所々についたピンク一色の全身タイツを来たAチームの面々が踊りを踊っている。

 

全員が羞恥を露にしているが、麻子だけはポーカーフェイスのまま踊り続けている。

 

「か、格好もキツイけど、踊りもキツイ~っ!」

 

そして同じ姿で踊っているEチームの中で、格好に加えて踊り自体の難易度の高さに根を上げかけている蛍。

 

そんな蛍とは対照的に、杏、柚子、桃の3人は、妙に慣れた様子で見事なシンクロを維持して踊りを続けていたのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

一方、その頃………

 

大洗海岸でも………

 

「アハハハハハッ! 何アレェ!!」

 

「ふははははははっ!!」

 

面白半分に見物に来た大洗の住民の笑い声を浴びながら、大洗歩兵部隊の全員がふんどし一丁の姿で大洗海岸の波打ち際を走っている。

 

オマケに、先頭を行く弘樹が応援団旗の様な『あんこうで有名な大洗へようこそ』と書かれた旗を掲げているものだから目立つ事この上ない。

 

コレは、白狼が戦闘中に住民の自転車を使用した事へのペナルティである。

 

歩兵道に於いては、対戦相手の車両や武器を試合中に限り鹵獲して使用する事は出来るが、街中などが試合会場となった場合、その場所に置いてある車両などを使用する事は硬く禁じられている。

 

盗難の原因となる可能性が有るからである。

 

「うおお~~~っ! 殺せぇっ!! いっそ一思いに殺せぇっ!!」

 

「コレは………想像以上です」

 

「何も考えるな! 無心で走るんだっ!!」

 

了平、楓、地市からそう声が挙がる。

 

「はははははっ!!」

 

「ホラ、頑張れ頑張れ!」

 

「こりゃこりゃ! 見ないでやれ!!」

 

「武士の情け、武士の情け」

 

と、流石に不憫に思われたのか、通り掛った医者らしき人物とその助手らしき人物が、面白半分に見物していた住人達にそう呼び掛ける。

 

「チキショーッ! 旗さえなけりゃあ!!」

 

「大体、この目立つ原因を作った本人は何処へ行ったんだよーっ!!」

 

地市と了平が愚痴りながら叫ぶ。

 

そう………

 

目立つ原因となっている旗を持つ原因となった白狼は、この面子の中に居ない………

 

と言うよりも、試合が終わってから誰も姿を見ていないのだ。

 

「…………」

 

色々と思う様なところがありながら、弘樹は仏頂面で歩兵部隊の面々と共に、大洗海岸のランニングを続けるのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

小一時間後………

 

戦車隊Aチームの面々と、弘樹達は大洗の観光市場の前に集合していた。

 

「ああ~………恥ずかしかった………」

 

「どんな拷問だよ、コリャ」

 

身も心も疲れ果てた様子で、沙織と地市がそう呟く。

 

「ゴメンね、皆………」

 

そんな姿を見て、みほが申し訳なさそうに謝るが………

 

「そんな! 西住殿のせいじゃありませんから!」

 

優花里がそうフォローを入れる。

 

「そんなに責任感じてるんなら、今ココであんこう踊りを………ゴメンナサイ、ナンデモナイデス」

 

了平はそんなみほにまたあんこう踊りをと言おうとしたが、弘樹が無言で刀を抜こうとしたのを見て片言になりながら思い止まる。

 

「この後、7時まで自由時間ですけど、如何します?」

 

とそこで、華が皆に向かってそう尋ねる。

 

「買い物行こう~!」

 

沙織が右手を挙げながらそう提案するが………

 

「…………」

 

ふと麻子が、一同の中から抜け出して歩き出す。

 

「? 麻子、何処行くの?」

 

「おばあに顔見せないと殺される」

 

沙織が尋ねると、麻子は振り返らずにそう返す。

 

「ああ、そっか~」

 

「すまねえ。俺も実家から顔出せって言われてるんだ」

 

「私も用事がありまして………」

 

沙織が納得した様子を見せると、今度は地市と楓がそう言う。

 

「俺も御一緒したいけど………積みゲーが大分出来たから攻略するんだぁ」

 

了平もそんな事を言う。

 

因みにその積みゲーが何かは………語るに及ばずだ。

 

「舩坂くんは………」

 

「すまない。小官にも用事がある」

 

そこでみほが弘樹に尋ねるが、弘樹も用事が有ると言う返事を返す。

 

「そう………」

 

「ワリィな」

 

「すみません」

 

「それじゃあね!」

 

「失礼する………」

 

みほが残念そうな顔をする中、弘樹達は其々バラバラの方向へと去って行く。

 

「まあ、用事が有るんじゃ仕方ないよね。私達だけで行こうか?」

 

残った一同の中で、沙織が気を取り直させる様にそう言うと、みほ達はアウトレットモールへと向かった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

アウトレットモール内………

 

「可愛いお店いっぱい在るね~」

 

「後で戦車と歩兵ショップにも行きましょうねぇ」

 

「その前に、何か食べに行きません?」

 

沙織、優花里、華がそんな事を言いながら、アウトレットモールの中を歩く。

 

すると………

 

「白狼~っ!」

 

「お~い! 白狼~っ!!」

 

「何処行ったんや~っ!!」

 

「? あの声は………」

 

聞いた事のある声がして、みほが聞こえてきた方向を見やると………

 

「この辺りには居ないみたいですね」

 

「フラリと居なくなるのはいつもの事だけどよぉ………」

 

「罰ゲームもサボっとるんや。心象悪くなるで」

 

飛彗、海音、豹詑の3人の姿が在った。

 

「宮藤さん。江戸鮫さん。日暮さん」

 

みほがスラスラと名前を出す。

 

「! あっ! 西住さん達………」

 

「お、何や。あんさん等も居ったんか?」

 

飛彗と豹詑がそう言うと、3人はみほ達の下へ歩み寄って来る。

 

「如何かされたんですか?」

 

「いや、白狼の奴の事を探してたんだけどよぉ………」

 

華が尋ねると、海音がそう返す。

 

「? 神狩殿をですか?」

 

「試合が終わってからも姿が見えなくて………皆で探してるんです」

 

「フラリと居なくなるんはいつもの事なんやけどなぁ」

 

困った顔をしながら、飛彗達は頭を捻る。

 

「西住さん達は、白狼を見かけませんでしたか?」

 

「えっ? ううん、見てないけど………」

 

飛彗に尋ねられて、みほがそう答えていると………

 

「おっ!? 人力車だ。珍しいなぁ」

 

海音がアウトレットモール内に入って来た人力車を見て、そう声を挙げた。

 

「あ! 目が合っちゃった」

 

そこで、沙織が人力車を引いていた男と目が合う。

 

「!!」

 

すると、人力車を引いていた男が、みほ達と飛彗達に近づいて来る。

 

「や、やだぁ!」

 

何か勘違いをしているらしく、頬を染めて狼狽する沙織。

 

「新三郎」

 

すると、華はその男と顔見知りなのか、そう声を挙げる。

 

「知り合い?」

 

そうこうしている内に、新三郎と呼ばれた男は、華達の前までやって来て、一旦人力車を停めると、更に近づいて来る。

 

「あ! 初めまして、私華さんの………」

 

沙織が勢い付いて挨拶をしようとしたが、新三郎と呼ばれた男はその横を通り抜けて華の前に立つ。

 

「お嬢、元気そうで………」

 

「何! 聞いてないわよっ!!」

 

思わず目を潤ませながらそう言う新三郎と呼ばれた男の背後で、沙織が喚く様にそう言う。

 

「ウチに奉公に来ている新三郎」

 

「お嬢がいつも、お世話になってます」

 

華がそう紹介すると、新三郎は礼儀正しく頭を下げて一同に挨拶をする。

 

「華さん」

 

するとそこで、人力車に乗っていた和服の女性が、和傘を広げながら降りて来る。

 

「お母様」

 

如何やら、華の母親の様だ。

 

「良かったわあ、元気そう………コチラの皆さんは?」

 

娘の健在な姿を喜ぶと、みほ達や飛彗達の事について尋ねる華の母・五十鈴 百合。

 

「同じクラスの武部さんと西住さん」

 

「「こんにちはー!」」

 

華に紹介されると、沙織とみほは元気良く挨拶をする。

 

「私はクラス違いますが、戦車道の授業で………」

 

「僕達も、学校は違いますが、歩兵道の授業で………」

 

「戦車道?………歩兵道?」

 

そこで、優花里と飛彗が自己紹介しようとしたところ、百合は戦車道と歩兵道と言う言葉に目を細めた。

 

「ハイ。今日試合だったんですぅ」

 

「華さん! 如何言う事!?」

 

百合の態度が変わる。

 

「お母様………」

 

「あ!………」

 

優花里がマズイ事を言ったと思い、慌てて口を塞ぐが時既に遅し。

 

百合は華の手を取り、その匂いを嗅ぐ。

 

「鉄と油の臭い………貴方! もしや戦車道を!?」

 

「………ハイ」

 

「花を活ける繊細な手で………戦車に触れるなんて!………!? ああっ?」

 

と、余程のショックだったのか、百合は白目を剥いて気を失い、そのままバタリと倒れてしまう。

 

「! お母様!!」

 

「奥様!!」

 

「た、大変だっ!?」

 

「救急車だ! 救急車呼べぇっ!!」

 

華達と新三郎が慌てて駆け寄り、飛彗達は救急車を呼びに掛かるのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

数時間後、辺りが夕焼けになり始めた頃………

 

一同は、水戸に在る華の実家に居た。

 

幸い、百合は救急車で1度は病院に運ばれたものの、具合はそれほど悪くなく、その日の内に退院。

 

医者からは家の方で落ち着いて療養した方が良いと言われている。

 

みほ達と、済し崩し的に付き添う事になった飛彗達は現在、五十鈴家の客間に居た。

 

「すみません。私が口を滑らせたばっかりに………」

 

「そんな………私が母にちゃんと話していなかったのがいけなかったんです」

 

申し訳無さそう言う優花里に、華も申し訳無さそうな様子でそう返す。

 

「何だか………俺達、凄く場違いじゃねえか?」

 

「すみません………成り行きで一緒に付いて来ちゃって………」

 

そこで、海音と飛彗も、華に向かってそう謝る。

 

「いえ、そんな………宮藤さん達が救急車を呼んでくれたから、母も大事には至らなかったんですよ」

 

華はトンでもないと、逆に飛彗達にお礼を言う。

 

「…………」

 

そんな中みほは、客間に飾られていた生け花に魅入っていた。

 

「失礼します。お嬢、奥様が目を覚まされました。お話が有るそうです」

 

とそこで客間と廊下の襖が開き、新三郎が姿を現すと、華にそう告げる。

 

「………私………もう戻らないと」

 

「! お嬢!」

 

「お母様には、申し訳無いけれど………」

 

百合と話したくない様子の華。

 

「………差し出がましい様ですが、お嬢のお気持ち! ちゃんと奥様にお伝えした方が、宜しいと思います!」

 

「新三郎………」

 

「そうですよ、五十鈴さん」

 

するとそこで、飛彗が口を挟んで来た。

 

「他人の家の事情に踏み込む様で申し訳ありませんが、このまま何も話さないで行ってしまっては………きっと後悔すると思います!」

 

「宮藤さん………」

 

飛彗の言葉を受けて、華は少し考える様な素振りを見せた後、百合の元へと向かう。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「良いのかな?」

 

「だって気になるやんけ」

 

「偵察よ、偵察」

 

「諜報活動ってやつだ」

 

百合の部屋の前で、襖に耳を当てて様子を伺っている沙織達と海音達。

 

「申し訳ありません………」

 

「如何してなの? 華道が嫌になったの?」

 

「そんな事は………」

 

「じゃあ、何か不満でも?」

 

「そうじゃないんです………」

 

「だったら如何して!」

 

中々話を切り出せないで居る華に、百合の声が思わず大きくなる。

 

「私………活けても活けても、『何か』が足りない様な気がするのです」

 

「そんな事ないわ。貴方の花は可憐で清楚………五十鈴流そのものよ」

 

「………でも、私は………もっと力強い花を活けたいんです!」

 

(!!)

 

華のその言葉に、襖を隔てているみほが、何か思う所がある様に反応する。

 

「………あ………あああ」

 

一方の百合は、華の言葉を聞いて、崩れ落ちる。

 

「お母様!」

 

「素直で優しい貴方は、何処へ行ってしまったの? コレも、戦車道のせいなの? 戦車なんて、野蛮で不恰好で………五月蝿いだけじゃない!」

 

(随分な言われ方だなぁ)

 

(戦車道に対して、少し偏見が有るみたいですね)

 

百合の言葉を聞いた海音と飛彗がそう小声で言い合う。

 

「戦車なんて………皆鉄屑になってしまえば良いんだわぁ!」

 

「鉄屑!?」

 

(シ~ッ! 静かにせんかい!)

 

鉄屑と言う言葉に思わず怒りを露にする優花里を、豹詫が宥める。

 

「ゴメンなさい、お母様………でも、私………戦車道は止めません」

 

華は百合の事を正面から見据え、堂々たる態度でそう言い放った。

 

「「「「「「「「「「…………」」」」」」」」」」

 

暫しの間、沈黙が続く………

 

「………分かりました。だったらもう、ウチの敷居は跨がないでちょうだい」

 

「「「「「「!?」」」」」」

 

「奥様、それは!!………」

 

百合の思わぬ言葉に、みほ達と飛彗達は驚愕し、新三郎も口を挟んだが………

 

「新三郎はお黙り!」

 

「!!………」

 

一喝され、奉公人の立場上、何も言えなくなってしまう。

 

「………失礼します」

 

華はそんな百合に向かって、華は深々と頭を下げると立ち上がり、部屋から出ようとした。

 

「「わわっ!?」」

 

「「おおっ!?」」

 

襖が開け放たれ、聞き耳を立てていた沙織と優花里、海音と豹詫が慌てて襖から離れる。

 

「………帰りましょうか」

 

華はそんな沙織達の様子を特に気にする事もなくそう言う。

 

「華さん………」

 

「すみません、五十鈴さん………僕が余計な事を言ったばかりに」

 

「いえ! それを言うなら、私が!!」

 

みほが如何声を掛けて良いか分からずに居ると、飛彗が謝り、新三郎も責任を感じるが………

 

「良いんです、皆さん………何時か、お母様を納得させられる様な花を活ける事が出来れば、きっと分かってもらえます」

 

「あ………」

 

その言葉は、家元の家を飛び出したみほの胸に、深く響いた。

 

「お嬢!!」

 

「笑いなさい、新三郎………コレは、新しい門出なんだから。私、頑張るわ」

 

「! ハイィッ!!」

 

華の言葉に、新三郎は男泣きする。

 

「五十鈴さん………」

 

「はい?」

 

「私も………頑張る」

 

実家に勘当されても、自分を貫き通す華の姿に思う所があったのか、みほは華に向かってそんな事を言う。

 

「…………」

 

そんなみほに、華はその名の通り、花の様な優しげな笑顔を浮かべるのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

その後、みほ達は男泣きし続けている新三郎の人力車で………

 

飛彗達はタクシーを使い、日が暮れて夜になりかけていた大洗町まで帰還。

 

学園艦の出港時間が迫っていた為、すぐに大洗港まで向かった。

 

「………遅い」

 

港に現れたみほ達を、昭和の大スターの様なポーズで係柱に片足を掛けていた麻子が迎える。

 

「夜は元気なんだから~!」

 

低血圧の為、午後以降にしか調子が上がらない麻子に沙織がそんな事を言いながら、共に学園艦へと乗り込んでいく。

 

「出港ギリギリよ」

 

「すみません」

 

「ゴメンなさい」

 

「スマンな、ソド子」

 

「その名前で呼ばないで!」

 

乗艦チェックをしていたみどり子に謝罪しつつ、甲板………街へと上がっていくみほ達。

 

すると、その前に………

 

試合にて戦車を放棄し逃亡した梓達、1年生Dチームの6人。

 

そして、柳沢 勇武と敵前逃亡をやらかした1年生のδ分隊部隊員が現れる。

 

「西住隊長………」

 

「総隊長殿………」

 

梓と勇武が、みほの名を呼ぶ。

 

「えっ?」

 

「戦車を放り出して逃げたりして………」

 

「恐怖に負けて、敵前逃亡をしてしまい………」

 

「「「「「「「「「「すみませんでしたっ!!」」」」」」」」」」」」

 

梓と勇武を筆頭に、Dチームとδ分隊の面々は、謝罪と共に一斉に頭を下げた。

 

「先輩達、カッコ良かったです」

 

「すぐ負けちゃうと思ってたのに………」

 

「あたし達も、次は頑張ります!」

 

「絶対頑張ります!」

 

あゆみ、優季、あや、桂利奈がそう言う。

 

「歩兵は戦車を守る存在………そう教えられたのに………自分達は未熟でした! 猛省します!!」

 

勇武もそう言うと、δ分隊の面々も真剣な表情を見せる。

 

「………うん!」

 

みほは、そんな梓や勇武の姿を見て、笑みを見せる。

 

すると、そこで………

 

「アラ? 皆さんお揃いで」

 

「何や? 何の集まりや?」

 

「如何したの?」

 

そう言う台詞と共に、湯江、大河、遥の3人が姿を現した。

 

「黒岩さん」

 

「湯江ちゃん? 如何したの? こんな所で?」

 

「ハイ。お兄様を迎えに行く途中でして………」

 

「ワイ等はその付き添いってワケや」

 

何故こんな時間に出歩いているのかと尋ねるみほに、湯江と大河はそう答える。

 

「えっ? 舩坂くんを?」

 

「如何言う事?」

 

「湯江のお兄ちゃん。学校で射撃訓練してるのよ」

 

「余程気を入れてらっしゃる様で、電話にも出ないので、直接迎えに行こうと思いまして」

 

如何言う事か分からず、首を傾げるみほと沙織に、そう言う遥と湯江。

 

「射撃訓練って………」

 

「何時からなさってるんですか?」

 

今日練習試合があったと言うのに、射撃訓練に撃ち込んでいる言う弘樹に、華がそう疑問を呈する。

 

「試合が終わってからすぐに学校へ向かわれた様ですよ」

 

「ええっ!? じゃあ、私達と別れてから、すぐに学校に戻って、そのまま訓練を!?」

 

湯江の言葉を聞い優花里が驚きの声を挙げる。

 

「昔からそうなんです。試合に負けたりすると、自分の力が足りなかったから負けたんだって………」

 

「湯江、早く行こうよ。じゃないともっと暗くなるよ」

 

とそこで、遥が湯江をそう急かした。

 

「あ、ハイ、そうですね………」

 

「あ、その………私達も行って良いかな?」

 

湯江が改めて弘樹の迎えにこうとすると、みほがそう言う。

 

「構いませんが………ご迷惑じゃありませんか?」

 

「ううん、そんな事ないよ」

 

「そうですか?………それじゃあ、一緒に行きましょうか」

 

「うん!」

 

「あ! 私達も!」

 

「舩坂先輩にも謝らないと………1番怒ってたし………」

 

一同はそう言葉を交わすと、湯江達に付き合って、大洗男子校へと向かうのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

大洗国際男子高校・屋内射撃訓練所………

 

「…………」

 

射撃ブースに立ち、三八式歩兵銃を構えて射撃訓練をしている弘樹。

 

既に足元には、撃ち終えた薬莢が多数転がっており、どれだけ訓練を続けているのかが窺い知れた。

 

「お兄様」

 

「舩坂くん」

 

とそこで、湯江とみほを筆頭に、射撃訓練所にAチームの面々達が入って来る。

 

「! 湯江………西住くんも」

 

その声でみほ達に気づいた弘樹は、三八式歩兵銃に安全装置を掛けると、テーブルの上に置く。

 

「お兄様、そろそろ御夕飯ですよ。帰りましょう」

 

「何? もうそんな時間か?」

 

湯江にそう言われて、携帯を取り出し、着信履歴と時間を確認する弘樹。

 

「すまないな、つい熱が入ってしまって………」

 

「あ、あの!」

 

「舩坂先輩!」

 

と、そこで今度は、Dチームとδ分隊の面々が訓練所に入って来る。

 

「む………」

 

「あの! 舩坂さん! 試合では、その!」

 

「本当にすみませんでした!!」

 

梓と勇武がそう言って頭を下げると、Dチームとδ分隊の面々も頭を下げる。

 

「………その事についてはもう良い」

 

しかし弘樹は、素っ気無い様な返事を返す。

 

「! 先輩!」

 

「舩坂さん………」

 

呆れられてしまったのかと、表情に影が落ちるDチームとδ分隊の面々だったが………

 

「失態は言葉でなく、行動で取り返せ………それが歩兵道、そして戦車道だ」

 

弘樹は続けてそう言い放つのだった。

 

「! 先輩!!」

 

「舩坂さん!」

 

その姿に感激を覚えるDチームとδ分隊の面々。

 

「やあやあ、皆ぁ!」

 

「此処に居たのかね」

 

とそこで、そう言う台詞と共に、蛍を除いた大洗女子学園生徒会メンバーと迫信が姿を現す。

 

「! 会長さん」

 

「会長閣下!」

 

杏を見やるみほと、迫信に向かってヤマト式敬礼をする弘樹。

 

「今日の試合、負けはしたが………やはり得た物は大きかった様だね」

 

迫信が扇子を広げ、口元を隠しながらそう言う。

 

「つーわけで、これからは作戦は西住ちゃんと迫信ちゃんに一任するから」

 

「うえっ!?」

 

「くうっ!!」

 

杏の言葉に、実質作戦考案から外された桃と十河が声を挙げる。

 

「当然だな………今日の試合を見れば、副会長は兎も角………片メガネはな」

 

そんな2人に熾龍は容赦無く毒舌を浴びせる。

 

「西住さん。コレを聖グロリアーナの隊長さんが」

 

「舩坂くん。お前にも有るぞ」

 

「聖ブリティッシュのアールグレイさんからです」

 

とそこで、柚子がみほにバスケットを、俊と清十郎が弘樹に1通に文を手渡す。

 

「………紅茶?」

 

バスケットの中身が紅茶である事を見たみほがそう呟く。

 

「手紙が付いてるよ?」

 

と、バスケットの中に、紅茶と一緒に手紙が入っている事を見つけた沙織がそう指摘する。

 

みほは手紙を手に取ると広げ、内容に目を通す。

 

それは、ダージリンからのメッセージである。

 

『今日はありがとう。貴方のお姉様との試合より、面白かったわ。また公式戦で戦いましょう』

 

ダージリンからの手紙には、そう書かれていた。

 

「凄いですぅ! 聖グロリアーナは好敵手にしか、紅茶を送らないとか!」

 

優花里が興奮気味にそう語る。

 

「そうなんだぁ」

 

「昨日の敵は今日の友! ですね!」

 

「弘樹。お前さんの方はどないなメッセージやったんや?」

 

とそこで、大河がアールグレイの文を持っていた弘樹に尋ねる。

 

「………果たし状だ」

 

「えっ?………」

 

「は、果たし状!?」

 

弘樹からの思わぬ返答に、一同は思わずアールグレイの文を除き見た。

 

『拝啓、舩坂 弘樹殿。貴殿との試合は、私の心を確かに熱くした。実に久方ぶりの感覚であった。此度の戦いは互いに五分の状態では無かった。何れ行われる全国大会にて、またあいまみえん 聖ブリティッシュ高校歩兵部隊 アールグレイ』

 

「全国大会で今一度勝負か………」

 

「随分と古風な事を致しますね」

 

弘樹が思わず笑みを浮かべていると、華がそんな事を呟く。

 

「次の試合も頑張ろうじゃないの」

 

「ハイ!………次の試合?」

 

杏の言葉に、反射的に返事を返すみほだったが、その言葉に引っ掛かりを感じる。

 

「うん! 次の練習試合は既に1週間後に組んであるから」

 

「「「「「「「「「「えええええぇぇぇぇぇぇ~~~~~~~っ!?」」」」」」」」」」

 

いきなり次の練習試合を組まれた事を知らされ、みほ達は驚きの声を挙げるのだった。

 

「またまたトンでもない事に………」

 

「戦いは常に突然始まるものだ………ん?」

 

勇武にそう言いながら、戦闘服の懐に手をやった弘樹が何かに気づいた様に視線をやると、胸ポケットにティムから預かったリコリスが刺したままだった事に気づく。

 

「イカン、小官とした事が………神狩の奴へと預かった物を」

 

「!? あっ!? そう言えば、白狼は!?」

 

弘樹がそう呟くと、飛彗が思い出した様に声を挙げる。

 

「んあっ!?」

 

「そうやった!!」

 

海音と豹詫も声を挙げる。

 

「神狩くんって………確か、試合中に戦車にブッ飛ばされて、それ以来見てないんだよね?」

 

そこで沙織が、試合の様子を思い出しながらそう言う。

 

「「「「「「「「「「………まさか!?」」」」」」」」」」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

大洗町・とあるペットショップ………

 

「………此処は何処だ?」

 

戦車にブッ飛ばされ、自転車ごと宙に舞った白狼は、そのまま街中に在ったペットショップに突っ込んでおり、そのまま忘れ去られていたのだった………

 

結局………

 

白狼が学園艦へと戻ったのは、翌朝の連絡船でだった………

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

つづく




新話、投稿させていただきました。

練習試合、終了です。
結果は原作通りに大洗の負けですが、劇中で迫信が言った通り、やはりこの試合で得たものは大きかったと思います。

名物罰ゲームをしつつ、原作はこの後公式戦となり、サンダースと試合でしたが、私の作品ではもう1試合、練習試合を入れさせていただきます。
そして更に、新たなるキャラも登場します。
お見逃しなく。

では、ご意見・ご感想をお待ちしております。

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