ガールズ&パンツァー+ボーイズ&ゾルダース   作:宇宙刑事ブルーノア

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第143話『別れです!』

『ガールズ&パンツァー+ボーイズ&ゾルダース』

 

第143話『別れです!』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

戦車道・歩兵道の第7回戦………

 

西部機甲部隊との戦いは………

 

代表戦車チーム同士による延長戦に縺れ込んだ末に………

 

みほ達あんこうチームが、一か八かの大作戦でクロエを撃ち破り………

 

遂に勝利を収めたのだった!

 

しかし、その最中………

 

自軍フラッグ車をフレンドリーファイヤすると言う大失態を犯した白狼が………

 

姿を消したのだった………

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

第7回戦の会場の最寄駅………

 

白狼はそこに居た。

 

駅の改札の前では、美嵩が待ち構えていた。

 

「さあ、約束よ」

 

「用意の良い奴だ………」

 

そう言って来た美嵩に、白狼は皮肉交じりにそう言う。

 

約束………

 

そう、西部との試合で良い成績を出せなかったら、歩兵道を辞めて鈴鹿に帰る………

 

試合前に、白狼は美嵩とそう約束を交わしていた。

 

しかし、イザ試合が始まって見れば、白狼は初っ端から会場を間違えると言う失敗をし、参戦できたのは試合が終わり掛かっていた頃………

 

西部歩兵のエースであるオセロットを撃破と言う戦果を挙げたが………

 

それを帳消しどころか、マイナスにする程の大失態………

 

自軍フラッグ車をフレンドリーファイヤで撃破すると言う事を仕出かしてしまった。

 

(俺なんか居なくても、今の大洗なら優勝出来るさ………)

 

そう思い込む白狼。

 

何より彼自身が、自分の失態を許せていないのである………

 

「行くわよ………」

 

そこで美嵩は、白狼の分の切符を取り出す。

 

「…………」

 

白狼はそれを受け取ると、自動改札を通ろうとする。

 

「待ってください! 神狩殿っ!!」

 

だがそこで、そう言う声が響いたかと思うと、パンツァージャケット姿のままで、息を切らせている優花里が現れる。

 

「! 秋山………」

 

「…………」

 

軽く驚く白狼と、優花里の事を不機嫌そうな目で睨み付けている美嵩。

 

「神狩殿! 行かないでください!!」

 

「………良いんだ、秋山」

 

「ですが!」

 

「俺がいなくてもお前らだけでも勝ち進めるさ………」

 

食い下がる優花里に、白狼は何処か遠い目をしてそう言う。

 

「結局俺は俺の為に戦っていただけだ………けど、お前等は学園艦の為………そんな俺があわや負ける原因を作ってしまうところだった………もう俺には歩兵道を続ける理由が無い」

 

「待ってよっ!!」

 

とそこで、優花里とは別の人物の声が響いた。

 

「!」

 

優花里が声の聞こえた後ろを振り返ると、そこにいたのは明菜だった。

 

「行っちゃうの?………」

 

「約束だからな」

 

「そんなの無いよ! ここまで来て、鈴鹿に帰っちゃうなんて!!」

 

「約束は約束だ。これ以上曲げてどうするんだ。それじゃ………」

 

白狼は踵を返し、改札口まで行こうとする。

 

………その瞬間!

 

「バカッ!! 待ってっていってるじゃないっ!!」

 

明菜は走り出し、白狼の背中に抱きつき、離すまいと必死にしがみ付いた。

 

その瞳は必死であり、どこか泣きそうな表情だった。

 

「…………」

 

優花里はその光景に、何か胸にズキンという痛みが走った………

 

「そりゃ、確かに遅刻したり間違って撃ったりしたのは悪いって思っているよ………だけど! それでもあたし達の為に頑張ってくれたじゃない!! なのに! なのに!!」

 

「…………」

 

明菜の言葉に只無言のままの白狼。

 

「だけど約束は守らなきゃ………違う?」

 

とそこで、美嵩がそう言って、明菜を白狼から引き離した。

 

「美嵩さん………」

 

明菜は美嵩の目を見て、何も言えなくなる。

 

「それじゃあな………」

 

遂に白狼は自動改札に切符を通し、駅の構内へと入る。

 

「「あ!………」」

 

優花里と白狼が思わず手を伸ばした瞬間………

 

「神狩ーっ!!」

 

「白狼ーっ!!」

 

「神狩さーんっ!!」

 

複数の白狼を呼ぶ声と共に、大洗機甲部隊の面々が現れる。

 

「お前等………」

 

「行くな、白狼!」

 

「そんなに責任感じる事ないだろう!」

 

「そうですよ! 試合には勝ったんですから、それで良いじゃないですか!!」

 

豹詑、海音、飛彗がそう言い放ち、他の面々も口々に白狼を引き留める。

 

「…………」

 

だが、白狼の心は変わらないのか、再び背を向け、歩き出そうとする。

 

「神狩さんっ!!」

 

みほが白狼を呼んで、一同の前に出た。

 

「…………」

 

白狼は背を向けたまま立ち止まる。

 

「神狩さん自身は如何なんですか!? 如何思ってるんですか!?」

 

「西住殿………」

 

「私は戦車道から逃げ出してしまいましたが、会長達に言われて、半ば無理矢理戦車道をもう一度やりました………でも! 今は周りの皆と一緒にやっていて、戦車道が楽しくてしかたないんです! 此処にいる皆と………ずっと続けていければ良いなって!! そしてその喜びと楽しさを、皆と一緒に伝えたいんです!!」

 

「…………」

 

無言でみほの言葉を聞き続ける白狼。

 

「神狩さんの答えを知りたいんです!! 約束とかそういう事は関係なく!! 此処にいる皆さんと歩兵道や戦車道をやって如何思ってたんですか!? 楽しくなかったんですか!?」

 

「…………」

 

「私が考えた戦車道や歩兵道は、皆と気持ちを分かち合う事が大事なんです! それを神狩さんもきっと分かってくれるんじゃないかと思っていたんです!! だからこそ! また皆と一緒に歩兵道をやりたいんですか!? 私達や、大洗の皆と一緒に………」

 

「そんなの当たり前だ!!」

 

そこで白狼はそう声を挙げた。

 

騒いでいた大洗機甲部隊の面々が一瞬で静まり返る。

 

「良かった………その答えが聞きたかったんです」

 

みほは笑顔でホッとする。

 

「だが、今の俺はお前達と一緒に戦う事は出来ない………もし、俺が自分を許せたら………いや、何でもない。今度こそホントにじゃあな」

 

白狼はそう言い残し、美嵩と共に乗る予定の電車が来ているホームへ向かった。

 

「あ!………」

 

「! 優花里さん! 来てっ!!」

 

「えっ!?」

 

と、思わず優花里が声を挙げると、明菜が優花里の手を引いて、駅の外へと向かう。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ホームに到着していた電車に乗り込むと、丁度発車のベルが鳴り、ドアが閉まって電車は走り出す。

 

「あそこが空いてるわ」

 

「ああ………」

 

美嵩が2人掛けのクロスシートが空いているのを見てそう言い、白狼が窓側に座って、美嵩が通路側に座る。

 

走り出した電車の窓から、ドンドンと景色が流れ始める。

 

「………!?」

 

と、そこで白狼は、その景色の中に、『とある物』を発見する。

 

それは、自分達が乗って居る電車と並走している、クロムウェルの姿だった。

 

「神狩殿ーっ!!」

 

そのキューポラからは優花里が姿を見せている。

 

「アイツ………」

 

思わず電車の窓を開ける白狼。

 

「我々は待っています!! いつでも大洗で待っています!! 神狩殿が帰ってくる事を信じて!!」

 

白狼に向かって懸命にそう叫ぶ優花里。

 

「…………」

 

白狼は何も言わず、片腕だけ出してサムズアップして見せた。

 

やがて電車の速度が上がり、白狼の姿が前に流れて行く。

 

「チイッ! ココまでだっ!!」

 

最早追跡は不可能だと判断した唯が、クロムウェルを止める。

 

「…………」

 

遠ざかって行く電車を、優花里は何時までも………

 

何時までも見つめていた………

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

翌日………

 

大洗学園艦・大洗女子学園の戦車格納庫にて………

 

「諸君! いよいよ我々は第7回戦を突破した! 次は準々決勝となる! 長いこの戦いも後3戦を残すのみだっ!!」

 

集まった大洗機甲部隊の面々を前に、迫信がそう言い放つ。

 

「遂に準々決勝か………」

 

「ホント、良くココまで来れたぜ」

 

「ほんの数ヶ月前まで、僕達、素人同然の集まりでしたからね」

 

いよいよ準々決勝と聞いて、大洗機甲部隊の面々もざわめき立つ。

 

「私達は負けられないよぉ。学校の為にもねえ」

 

そこで、真面目な表情の杏がそう言い放つ。

 

「「「「「「「「「「…………」」」」」」」」」」

 

それを聞いて、大洗戦車チームの面々は、コレが自分達の学校の命運を掛けた戦いである事を改めて認識する。

 

「必ず優勝するぞ! 我々にはそれしか道はないっ!!」

 

「大洗バンザーイッ!!」

 

「「「「「「「「「「バンザーイッ!! バンザーイッ!! バンザーイッ!!」」」」」」」」」」

 

続いて桃がそう言い放つと、弘樹が音頭を取る様に万歳三唱を始め、他の面々がそれに続く様に万歳三唱を始めた!

 

「バンザーイッ! バンザーイッ! バンザーイッ!」

 

優花里もその中で、何時もと変わらぬ調子で万歳三唱をしている。

 

(優花里さん………)

 

(本当はお辛い筈なのに………変わらない様に振る舞って………)

 

(今はそっとしておいてやろう………)

 

(それしかないよね………)

 

みほ、華、麻子、沙織は、優花里が無理をしていると見抜いていたが、原因を解決する手段が無い為、今はただそっとしておく事しか出来なかった………

 

と、その時………

 

「アラ? 盛り上がってるわね」

 

格納庫内に、昨日良く聞いていた声が聞こえて来た。

 

「「「「「「「「「「!?」」」」」」」」」」

 

全員がその声に驚いて、聞こえて来た方向である格納庫の入り口の方を振り返ると………

 

「ヤッホー、こんにちは~」

 

呑気そうな声と共に、ヒラヒラと手を振っているクロエの姿が在った。

 

「!? 西部のクロエッ!?」

 

「!?」

 

十河が驚きの声を挙げ、みほは弘樹の背中に隠れた!

 

「………何用だ」

 

先日の事もあり、みほを庇いながら色々な意味でクロエを警戒する弘樹。

 

「そう警戒しないでよ。別にココの娘達を取って食いに来たワケじゃないんだから」

 

しかし、クロエはケラケラと笑いながら、格納庫内へと入って来る。

 

「じゃあ、何の用なのかな~?」

 

「聞いたわよ。仲間が1人居なくなったみたいね」

 

「!!」

 

杏がそう尋ねると、クロエはそう言い、優花里が反応する。

 

「ク、クロエさん!」

 

「ああ、ゴメンゴメン。別にそれで弄ろうって積りは無いわ」

 

みほが弘樹の背に隠れたままながらも抗議する様に声を挙げると、クロエは手を上げて謝罪する。

 

「ちょっと落ち込んでいるんじゃないかなと思って来てみたんだけど………余り心配は要らなそうね」

 

「! 心配してくれたんですか?」

 

クロエが自分達の事を心配して来てくれたと言う事に、みほは驚いた様子を見せる。

 

「そりゃ、自分を倒した相手が落ち込んでるって知ったら気にもなるわよ。それに………」

 

そこで一旦言葉を区切るクロエ。

 

「過ぎた事を気にせずただ前を見て進んだ方が、明るくて楽しい未来が待ってる筈よ。どんなに辛い事があっても、過ぎれば過去になるわ。それを穿り返しちゃったら、きっと一生呪う事になる。大事なのは、過ごしている今の事。そしてその喜びを他の皆と分かち合い、教える事よ」

 

「!!」

 

再び驚くみほ。

 

それは、みほが白狼に向かって言った事と同じであった。

 

「じゃあ、1つ目の用事は済んだから、2つ目の方に行かせてもらうね」

 

「? 2つ目?」

 

「「「「「「「「「「??」」」」」」」」」」

 

とそこで、クロエがそう言うと、大洗の一同は首を傾げる。

 

「2つ目は………コレよ」

 

クロエはそう言い、右手を上げてその指を鳴らしたかと思うと………

 

格納庫の戦車出入口の方の大きな扉が開いて、数台のトラックが入って来た。

 

そして、そのトラックの運転席と荷台から、西部歩兵部隊の面々が現れたかと思うと、次々にトラックに積まれていた荷物の木箱を下ろし始める。

 

「何だ何だ?」

 

「何が始まるんだ?」

 

「??」

 

突然の事態に、大洗機甲部隊の面々は戸惑うばかりである。

 

やがて、トラックに乗って居た全ての木箱が、大洗機甲部隊の面々の前に並べられた。

 

「私からの細やかな勝利祝いよ」

 

クロエが再び指を鳴らすと、西部歩兵部隊の面々が木箱の蓋を開けて行く。

 

その中には………

 

「! おお! スゲェッ! キングサーモンだっ!!」

 

海音が見た木箱の中には、立派なキングサーモンが氷と共に大量に詰められていた。

 

「コッチは卵だぜ!」

 

地市が空けた箱には、大量の卵が詰められている。

 

「皆ウチの学園で獲れたヤツよ。遠慮しないで持ってってね」

 

「学園で?」

 

「そう言えば、西部学園はもともと農業と水産業を教える学校だったね。その延長線上で生物学や遺伝子工学を始め、更に何代か前の学園長の趣味で学校を西部劇風にしたと」

 

クロエの台詞に俊が首を傾げると、迫信が思い出した様にそう語る。

 

「へえ~、そうだったんだ………」

 

「しかし、お祝いと言っても、コレだけの物を只で頂いてしまうのはちょっと悪い気がします」

 

沙織が相槌を言っていると、華がそんな事を言う。

 

「「「「「「「「「「…………」」」」」」」」」」

 

他のメンバーも、多かれ少なかれそう思っている様子である。

 

「そんな、気にしなくて良いのに」

 

「いえ、折角ですから、何かお礼をさせて下さい」

 

気にしないで良いと言うクロエだったが、みほがそう食い下がる。

 

「う~~ん………そうね~」

 

頭をガシガシと掻いて考えを巡らせるクロエ。

 

「………あ! じゃあ、ウチの仕事を手伝って貰うってのは如何かしら?」

 

そこでハッと思いついた様にそう言う。

 

「ウチの作業をって………農業ですか?」

 

「そ! 幸い体力には自信有るでしょう?」

 

「「「「…………」」」」

 

大洗機甲部隊の面々を見回しながら、クロエはそう言うが、十河とアリクイさんチームの面々だけは視線を反らしていた。

 

「ふむ、面白そうだね。幸い決勝関係戦に入ったから、次の試合まで結構間が空く。時間的な余裕は有るね」

 

いよいよ次の試合から準々決勝となる為、決勝関係戦用の専用試合会場が用意される様になり、その準備の為に次の試合までの期間が大分開く事となる。

 

それを見越して迫信がそう言う。

 

「皆さん、如何ですか?」

 

そこでみほが、改めて大洗機甲部隊の面々に向かって問い質す。

 

「「「「「「「「「「…………」」」」」」」」」」

 

大洗機甲部隊の面々は、無言で文句は無いと言う肯定を行う。

 

「………分かりました。クロエさん、よろしくお願いします」

 

「コチラこそよろしくね。じゃあ学園艦を横付けしておくから、明日は朝5時にウチの学校に来てね」

 

「!? 朝の5時っ!?」

 

と、話が決まったのでそう言葉をかわしたみほとクロエだったが、その中に在った朝の5時集合と言う言葉に、麻子が過剰に反応する。

 

「………スマン。私は欠席させてもらう」

 

「麻子、またぁ?」

 

途端に欠席を表明する麻子と、そんな麻子に呆れる沙織。

 

「アラ? 貴方、朝起きれないタイプ?」

 

「そんな時間に起きる奴の方がおかしい………」

 

「じゃあ、私が起こしに行ってあげようか?………私のやり方でね」

 

そこでクロエは、麻子の事を獲物を狙う猛禽類の様な目で見る。

 

「!?!?」

 

そのクロエの姿に、背筋が凍る様な感覚を覚える麻子。

 

「では、明日は朝5時に西部学園艦の学園に集合だ」

 

その様子に気づかず、迫信が最後にそう話を纏めるのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

翌日………

 

大洗学園艦に横付けした西部学園艦の西部学園に、大洗機甲部隊の面々は、作業着姿で集結していた。

 

その中には麻子の姿も在る。

 

沙織が、珍しい事もあると言うと麻子は………

 

「身の危険を感じて目が覚めた………」

 

と、力無い様子で答えていた。

 

その後、クロエを筆頭に西部機甲部隊の面々が姿を現し、大洗機甲部隊の面々は何組かに分かれると、各メンバーに連れられ、担当の場所へと案内される。

 

その中で、クロエとシャムに案内されるみほ、優花里、弘樹、飛彗が向かった場所は………

 

「わあ~~、凄~い!」

 

ケージに入れられて大量に並べられている鶏を見て、みほが驚きの声を挙げる。

 

「この規模は普通の養鶏農家でも見ないな」

 

弘樹もそう感想を述べる。

 

一同が案内されたのは、養鶏所の在る鶏舎棟だった。

 

「さあさあ、さっさと取り掛かるわよ」

 

「数が数なんだから、手早くやってよね」

 

とそこで、クロエとシャムがそう言って、鶏卵の回収を始める。

 

「では、やりますか」

 

「了解であります!」

 

飛彗と優花里がそう言うと、弘樹達も養鶏の回収を始めるのだった。

 

 

 

 

 

数10分後………

 

「ふう~~………思ったより大変でありますなぁ………」

 

数が多い事に加えて、次から次へと卵を産むので、回収するのも一苦労であり、優花里が額に浮かんでいた汗を拭う。

 

ふと、近くに居たシャムに目をやると、彼女は既に優花里の倍以上の卵を回収していた。

 

(流石に、西部学園の生徒だけあって、手慣れているでありますな~)

 

と、優花里が感心していると、目の前の鶏が新しい卵を産んだ。

 

「おっと………」

 

すぐにその卵を回収する優花里。

 

しかしそこで………

 

「…………」

 

ある疑問が湧き上がり、手が止まる。

 

「ちょっと、何ボーッとしてるの? そんなじゃ困るわよ」

 

それに気づいたシャムがそう言って来る。

 

「あ、あの、シャム殿………鶏の卵とは………何処から出てくるんでありますか?」

 

「何処からって………肛門に決まってるじゃない」

 

(糞と一緒にっ!?)

 

予想が当たり、優花里は内心で驚愕する。

 

「まあ、正しくは総排泄腔って言って、卵管の出口と直腸が………」

 

「西住殿ーっ!!」

 

シャムの説明も半ばで、優花里は大急ぎで、みほの元へと向かった。

 

「ど、如何したんですか? 優花里さん」

 

突然走り寄って来た優花里に、みほは戸惑う。

 

「西住殿!! それは! それは!!」

 

みほが手袋をした手に持っている卵を指差しながらワナワナと震える優花里。

 

「ハイ、産み立てほやほやの卵ですよね」

 

「ってぇ!? 汚くないんですか!? コレ!!」

 

しかし、特に気にした様子の無いみほの姿を見て、優花里は再び驚愕する。

 

「だからこうして全部丁寧に洗って丁寧に磨いているのよ」

 

「そうそう。卵1個1個に生産者の気持ちが籠ってるんだから」

 

シャムとクロエが、回収した卵の洗浄作業をしながらそう言う。

 

「優花里さん、一体如何したの?」

 

みほは優花里が何故そんなに慌てているのか分からない。

 

弘樹と飛彗も、淡々と作業を進めるのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

更に数10分経過後………

 

「ん! ああ~~、終わった~」

 

慣れない作業で疲れたのか、みほが伸びをしながらそう言う。

 

「中々良い経験をさせて貰った」

 

「ですね」

 

手袋を外しながら弘樹がそう言うと、首を鳴らしていた飛彗がそう相槌を打つ。

 

「…………」

 

一方で、優花里はまだ先程の事を引き摺っていたのだった。

 

「お疲れ様」

 

「ま、初めてにしては良かった方ね」

 

そんな弘樹達に向かって、クロエとシャムがそう言い合う。

 

「おう、終わったのか?」

 

とそこで、そう言う台詞が聞こえて来たかと思うと、1羽の鶏を足を掴んで手に持ったサーバルが現れる。

 

「貴方は確か………」

 

「サーバルか………」

 

「おっ! 覚えていてくれたとは嬉しいねぇ」

 

「サーバル、今日はチキンかしら?」

 

クロエがサーバルに向かってそう尋ねる。

 

「ああ。美味いスモークチキンを食わせてやるから待ってろ」

 

と、サーバルはそう言うと、みほ達の目の前で、持っていた鶏を絞め始めた!

 

「!? ヒイイッ!?」

 

生々しい光景を目撃してしまい、優花里が悲鳴を挙げる。

 

「な、何!? 何が起こったの!? 弘樹くん!?」

 

「君は耐えられん………」

 

一方、みほの方は弘樹が目を塞いだので、その光景を目撃していなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

やがて朝食の時間となり、大洗の一同は西部の面々と共に食堂に集合。

 

一緒に食事を楽しんでいた。

 

「…………」

 

しかしそんな中で、優花里が1人固まっていた。

 

彼女の目の前に有る朝食の中には、先程彼女達が回収していた物………

 

『生卵』があった。

 

(何処からって………肛門に決まってるじゃない)

 

「ううう………」

 

先程の光景とシャムの言葉を思い出してしまい、卵には手が伸びない優花里。

 

「秋山さん? 如何かしましたか?」

 

と、近くに座っていた飛彗が、そんな優花里の様子に気づいてそう尋ねる。

 

「あ、いえ………その………コレ、差し上げます」

 

すると優花里は、卵を飛彗に差し出した。

 

「えっ? 良いんですか? ありがとうございます」

 

飛彗は喜んで卵を受け取ると、早速殻を割って混ぜ、炊き立てのご飯の上に掛けて掻っ込む。

 

「…………」

 

そんな飛彗の姿を、優花里は複雑そうな目で見やる。

 

「美味しいね、弘樹くん」

 

「ああ、新鮮な卵と炊き立ての白米の組み合わせは絶品だ」

 

ふと、そんな声が聞こえて来て、優花里がその方向を向くと、そこには飛彗と同じ様に卵掛け御飯を食しているみほと弘樹の姿が在った。

 

「!! に、西住殿ぉっ!………! へぶっ!?」

 

慌ててみほの元へ向かおうとして、立ち上がりそこなって転んでしまう優花里だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

その後、朝食を終えた大洗の一同は、引き続き農作業へと向かった。

 

酪農の定番である、乳牛の乳絞りにも挑戦した者達が居たが、見た目と違って意外にも難しく、失敗する者も多数居た。

 

畑を耕したり、馬の蹄鉄を取り付けたり、色々とあるが、どれも難しい。

 

そして更にはマンモスの毛繕いと言った危険を伴う作業もあった。

 

数匹繁殖に成功したマンモスを近日中には、本島へと放す予定であるとの事である。

 

それまでは、これからの暑い季節に備え、出来る限り毛並みをカットするようだ。

 

大昔絶滅した動物を甦らせ、本島へと還した種類は数10。

 

日本のみならず、海外の各大陸にも、そういう動物を甦らせ、還しているそうである。

 

自然保護団体などのエコロジー関係からの支援もあり、現在のところ順調に進んでいる。

 

数10年くらい前は、外国の科学者が恐竜を甦らせ、それを利用した島のテーマパークを設けたが、現在は放棄されている。

 

しかも1つだけではなく、幾つも同様の施設が在るがそれだけに留まらず、海に住む古生物すらも甦らせたと言う噂もある。

 

………そうこうしている内に、何時の間にか日が沈みかけていた。

 

そろそろ帰ろうとしていたところで、農園の顧問の先生が、慌てて駆けて来た。

 

曰く、今夜に掛けて天気が荒れるとの事であり、ビニールハウスが飛ばされてしまうかも知れない。

 

急いで補強を行うので、人手が欲しいと。

 

大洗の一同は、すぐに西部の面々と共にビニールハウスが在るエリアへと向かった。

 

しかし、その時点で既に強風が吹き荒れており、作業は困難を極めた………

 

「そっちを押さえろーっ!!」

 

「馬鹿! そんなペグじゃだめだっ!!」

 

「補強用の鉄パイプは何処だっ!!」

 

「踏ん張れーっ! もう一息だーっ!!」

 

強風が吹き荒れ、怒号が飛び交う中、懸命な補強作業が続く。

 

漸くの事で補強を終えた頃には、全員がすっかりボロボロとなっていた。

 

日もすっかり暮れており、夕食の方も、西部の学園艦で頂く事となった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

西部学園の学食………

 

「皆ー、お疲れ! 大洗の皆も、今日はありがとうねー! それじゃあ、頂きまーす!!」

 

「「「「「「「「「「頂きまーすっ!!」」」」」」」」」」

 

集まっている西部の面々と大洗の一同に向かって、クロエがそう言い、頂きますの音頭を取る。

 

「…………」

 

その席でまたも固まっている優花里。

 

食事にはまたも、卵が付いていたからである。

 

周囲の皆は、一様に御飯の上に卵を割って乗せ、醤油を掛けて食べている。

 

「…………」

 

その様子に優花里は頭を悩ませる。

 

まだあの事は払拭出来ていないが、ビニールハウスの補強作業を手伝った事ですっかり腹ペコなのと、皆が美味しそうに卵掛け御飯を食べているのを見て、迷っている様だ。

 

(ええいっ! ココは突貫でありますっ!!)

 

やがて意を決した様に、卵を割り、御飯の上に乗せたあと醤油を掛け、掻き混ぜた。

 

そしてガツガツ食べると………

 

(………ヒヤッホォォォウ! 最高だぜぇぇぇぇ!!)

 

と、心の中でパンツァー・ハイの様な状態になりながら、感動していた。

 

あのイメージはすっかり払拭出来た様であり、今となっては感涙の賜物。

 

更に、またもサーバルが用意してくれたスモークチキンにも噛り付き、感無量な美味しさにがっつく。

 

(鶏って凄いであります………)

 

(良かった………優花里さん、本当に元気出たみたい)

 

鶏の凄さに感動している優花里と、そんな優花里の様子を見て安心するみほだった。

 

こうして………

 

西部学園での1日は過ぎて行った………

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

つづく




新話、投稿させていただきました。

フラッグ車をフレンドリーファイヤし、危うく大洗を敗北させてしまうところだった白狼。
責任を感じ、美嵩との約束もあった彼は………
引き留める仲間達の声も虚しく、大洗を去った………

白狼が居なくなった事に人一倍落ち込んでいた優花里だったが………
西部学園との交流イベントで、少し元気を取り戻す。

次回から、白狼復帰に向けたストーリーへと突入します。
あの大人気ブラウザゲームのキャラクター達が設定を変えてですが登場したりしますので、楽しみにしていて下さい。

では、ご意見・ご感想をお待ちしております。

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