ガールズ&パンツァー+ボーイズ&ゾルダース   作:宇宙刑事ブルーノア

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第154話『決勝リーグ、始まります!』

『ガールズ&パンツァー+ボーイズ&ゾルダース』

 

第154話『決勝リーグ、始まります!』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

白狼が中国に行っていた頃………

 

大洗機甲部隊は、間も無く開始される決勝リーグを前に………

 

対戦相手である『ナイトウィッチ女子学園』と『ハロウィン高校』からなる『ナイトウィッチ&ハロウィン機甲部隊』のエキシビジョンマッチの見学へ向かった………

 

ナイトウィッチ&ハロウィン機甲部隊は、グロリアーナ&ブリティッシュ機甲部隊と同じく、過去に準優勝した事もある強豪校………

 

公式戦の最中にも関わらず、エキシビジョンマッチを行うなど、その態度にも余裕が見て取れる………

 

圧倒的パフォーマンスを見せるナイトウィッチのスクールアイドル………

 

謎の老人と、その老人に付き従う男………

 

様々な会合があった中で終わったエキシビジョンマッチから程無くして………

 

遂に、決勝リーグが開幕となったのだった………

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

戦車道・歩兵道全国大会、決勝リーグ………

 

大洗機甲部隊VSナイトウィッチ&ハロウィン機甲部隊の試合会場となったのは………

 

『廃墟となった工業地帯』であった。

 

その名の通り、試合会場の殆どの場所は、廃墟となっている工場である。

 

工業地帯らしく、海辺に面しており、一部の区画は従業員やその家族の為の施設が建つ都市部も在る。

 

遮蔽物が多い為、大洗機甲部隊が得意とするゲリラ戦がやり易いが、ナイトウィッチ&ハロウィン機甲部隊も不意打ち戦法を得意としており、混戦が予測される………

 

そんな中………

 

観客席が設置されているエリアでは………

 

「おはようございます」

 

「「「「おはようございます!」」」」

 

「おはようございます」

 

「今日はよろしくお願いします」

 

プロデューサーを筆頭に346プロ所属のアイドル達が、DJ田中にヒートマン佐々木と挨拶を交わしている。

 

今回の試合は『とときら学園』の特別企画と言う事で、戦車道や歩兵道を取り上げてのミリタリー授業を行う事となっているのだ。

 

衣装であるいつものチャイルドスモッグも、今回は特別として迷彩柄になっており、ヘルメットまで付いている。

 

「大和さん。今日はよろしくお願いします」

 

「こちらこそ! よろしくお願いするであります!!」

 

そしてこう言った事にうってつけなアイドル………『大和 亜季』が特別講師としてゲスト出演する事になっている。

 

御丁寧にバ○アー大尉のコスプレをしている。

 

「ねえねえ! みりあ達も戦車乗れるのかなぁ!?」

 

「もし私が乗ったら優勝間違い無しね!」

 

と、生徒役レギュラーメンバーである『赤城 みりあ』と『城ヶ崎 莉嘉』が、初めて生で見る戦車道・歩兵道の試合に興奮し、そんな事を言い始める。

 

それを皮切りに、10歳前後の年齢が多い生徒役レギュラーメンバー達はワイワイと騒ぎ出す。

 

「み、皆静かに!」

 

「そんなに騒いじゃ駄目だにぃ~」

 

先生役で司会進行の『十時 愛梨』と『諸星 きらり』が騒ぎ過ぎた生徒役レギュラーを諌めようとしたところ………

 

「この馬鹿者共っ! 私のケツを舐めろっ!!」

 

「「「「「「「「「「!?」」」」」」」」」」

 

突然亜季がそんな事を言い放ち、きらり達とみりあ達は固まる。

 

「や、大和さん!? 何を………」

 

「おっと、出ました! 『俺のケツを舐めろ』!!」

 

「コレは外せない名台詞ですからね~」

 

プロデューサーもアイドルらしからぬ発言をした亜季に困惑するが、ヒートマン佐々木とDJ田中は何時もの実況の様にそんな事を言い合う。

 

「アハトゥンクッ!!」

 

「「「「「「「「「「!!」」」」」」」」」」

 

亜季は続けて、ドイツ語で傾注と言い放つと、一同は意味は分からずとも、条件反射で姿勢を正し、亜季に注目する。

 

「戦車道はお遊戯じゃないぞ! 今日は私が戦車道の何たるかをたっぷりと教育してやる! 私と共に祖国と兄弟肉親の為に死ね! 犬死はさせん!!」

 

そう言ってビシッと見事な敬礼をする亜季。

 

「「「「「「「「「「ヤヴォール! ヘルコマンダールッ!!」」」」」」」」」」」

 

すると、きらり達も何故かドイツ語でそう答え、見事な敬礼を返す。

 

「…………」

 

プロデューサーは唖然となり、最早何も言えなくなっている。

 

「おっと! ココでナイトウィッチ&ハロウィン機甲部隊が到着した様です!」

 

するとそこで、ヒートマン佐々木がナイトウィッチ&ハロウィン機甲部隊の面々が会場入りした事に気づいてそう声を挙げる。

 

ナイトウィッチ&ハロウィン機甲部隊は、マジックを披露しながら、まるでパレードの様に入場して来ている。

 

「わあ~~っ!」

 

「凄~~いっ!」

 

その圧倒的パフォーマンスに、生徒役レギュラーメンバーの一部は感嘆の声を漏らす。

 

「あ! 君、赤い瞳の! ジャックくんだよね? ソウルネームで悪いけど、今回は決勝リーグ開幕の試合だから、エースメンバーには紹介が入るんだ」

 

ヒートマン佐々木がやって来た赤い瞳の男、ハロウィン歩兵の『ジャック』にそう話し掛ける。

 

その男は、あのエキシビジョンマッチの時に、老人と共に観客席に居た男だった。

 

「しょーかいって?」

 

「スポーツ等で選手が入場する時に、アナウンサーがその選手の名前を観客の皆さんに紹介するのです」

 

『龍崎 薫』が首を傾げると、プロデューサーがそう説明する。

 

「その時の二つ名『兵隊処刑人(ソルジャー・オブ・エクスキューショナー)』で良いかな?」

 

ヒートマン佐々木が、ジャックにそう尋ねると………

 

「………『本当の英霊を継ぐ者』でも構いませんよ」

 

「えっ?………」

 

ジャックはそう言い放ち、唖然とするヒートマン佐々木を置いて、自軍の陣地へと向かって行った。

 

「英霊って………前に卯月ちゃん達がお仕事しに行った学校の人の事だよね?」

 

「ハイ、舩坂さんの御先祖、そして今の舩坂さんが呼ばれている名ですが、一体?………」

 

みりあがプロデューサーにそう尋ねると、プロデューサーも如何言う事なのかと首を傾げる。

 

「いよう! アイドルさん達っ!!」

 

「「「「「「「「「「??」」」」」」」」」」

 

するとそこで、今度は別のハロウィン歩兵が、346アイドル達に声を掛けて来た。

 

「俺はハロウィン歩兵の『カロ』! 今日は応援よろしくなっ!!」

 

そのハロウィン歩兵・『カロ』はそう言って、持っていた携帯用の折り畳み式の櫛で、髪型を整える。

 

「よろしくだにぃ~」

 

「ど、どうも………」

 

きらりは普通に挨拶を返すが、愛梨は突然現れたカロに困惑する。

 

すると………

 

「ホワタァッ!!」

 

カロは掛け声と共に、足元に転がっていた空き缶を蹴り飛ばす!

 

蹴り飛ばされた空き缶は、アイドル達の頭上を飛び越え、その先に在った空き缶用のごみ箱の、小さな入れ口へ飛び込んだ!

 

「「「「「「「「「「おお~~~っ!!」」」」」」」」」」

 

「す、凄いっ!」

 

その神業的な技術に、アイドル達は思わず声を挙げる。

 

「そして、中身入ってたぜ………」

 

が、如何やら雨水が溜まっていたらしく、蹴った瞬間に中の水が全てカロに掛かってズブ濡れになっていた。

 

「ありゃりゃ…………」

 

「「「「「「「「「「アハハハハハハッ!」」」」」」」」」」

 

そんなカロの姿に、きらりはギャグ汗を浮かべ、生徒役レギュラーメンバーの笑い声が挙がる。

 

「チイッ! この失態は試合で挽回して見せるぜ! 良~く見てなっ!!」

 

カロはそう言い残し、自軍の陣地へと向かった。

 

「今のハロウィンの歩兵も実力者が揃っているみたいですね………」

 

そんなカロを見送った後、プロデューサーがボソリとそう呟く。

 

「そう言えばプロデューサーさん、歩兵道の経験者だっけ?」

 

と、それが聞こえていたのか、ヒートマン佐々木がプロデューサーにそう尋ねる。

 

「あ、ハイ。学生時代に多少齧った程度ですが………当時のナイトウィッチ&ハロウィン機甲部隊と試合をした事もあります」

 

「へえ~、そうなの。やっぱり当時も強かったワケ?」

 

「強い、と言うよりも………不気味だったかも知れません」

 

「? 不気味?」

 

プロデューサーからの意外な返しに、ヒートマン佐々木は首を傾げる。

 

「ハイ。それは試合が目前に迫ったある日の事でした………」

 

そのままプロデューサーは、当時の出来事を語り始める………

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

プロデューサーが所属していた機甲部隊で、ある1人の先輩が………

 

試合の迫ったナイトウィッチ学園とハロウィン校の噂話を話し出した。

 

とある学校の歩兵の1人が、偵察の為に、ハロウィン校に忍び込んだ。

 

天気は曇り空から雨………

 

学校の中は静まり返っており、まるで無人の廃墟の世界みたいだった。

 

情報を得ようと探索してみるが、生徒の姿は影一つすら見当たらない………

 

何か変だと思い、潜入した歩兵は辺りを見回していると、携帯電話が鳴った。

 

潜入した歩兵が出ると………

 

「こんにちは。今、校門前に居るの」

 

その言葉に、潜入した歩兵はすぐに窓から校門を見てみるが、校門には誰もいなかった………

 

悪戯かと思い気を取り直すと………

 

再び携帯が鳴った。

 

「こんにちは。今、下駄箱前に居るの」

 

下駄箱………

 

既に学校に入っているという意味なのか………

 

潜入した歩兵はこっそりと下駄箱の辺りを覗いてみたが、そこには誰もいなかった………

 

やはりイタズラなのかと考え、コレ以上此処に居ても無駄だと思い、偵察を終えて帰路に着く。

 

雨が激しくなり、雷が轟く………

 

早いところ港に行かなくてはと校門近くまで走ると、携帯が鳴った。

 

「こんにちは。今、貴方の後ろにいます」

 

その言葉に潜入した歩兵は恐る恐る後ろを振り返ると………

 

人影が立っていた………

 

しかも雨だというのに頭に炎が燃えている………

 

その色は青い………

 

稲光が照らし出すと、目は鋭く、口はギザギザしていた………

 

そして、その手に持っているものは………

 

鉈だった。

 

潜入した歩兵は悲鳴を挙げると、全力疾走でその場から逃げ出した。

 

余程の恐怖で正気を失っていたのか、船に乗らず、嵐の海へ飛び込んだ。

 

その歩兵が見つかったのは、それから3日後………

 

全身の皮膚が白くなり、痩せこけた様子だった。

 

歩兵は言った………

 

あの学園は呪われている、と………

 

そんな怪談話をしていると、誰もが怯えたが、話していた先輩は、相手がマジシャンの養成学校なので、きっと何かの仕掛けやトリックだと考え、皆を安心させる。

 

この世に幽霊等の類いはある筈はないとし、遂に試合の日を迎えた。

 

その日の天気も、雨であり、途中からは雷も鳴り始めた。

 

歩兵達が其々位置に着き、攻めて来たナイトウィッチ&ハロウィン機甲部隊を迎え撃つ形で交戦を開始し暫くすると………

 

突如として次々と歩兵達の通信が途絶し、戦死者が一方的に出続け始めた。

 

歩兵部隊が混乱する中、その隙を突く様にナイトウィッチ戦車チームは攻勢を強め………

 

遂にはフラッグ車だけが残っている状態となってしまう。

 

フラッグ車だけは死守せねば………

 

そう言い聞かせながら、残存歩兵部隊は守りを固めたが………

 

建物の屋上にスタンバっていた狙撃兵が戦死したという情報が入り、唖然とする。

 

するとその屋上に誰かが立っている様子があったが、暗くて見えかったが、落ちた稲光が照らし出した。

 

そこに居たのは………

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「………結局その試合は、何が起こったのか分からないまま私の所属する部隊の負けでした」

 

「「「「「「「「「「…………」」」」」」」」」」

 

プロデューサーの口から語られた、ホラー映画の様な試合内容に、アイドル達とヒートマン佐々木、DJ田中は言葉を失っていたのだった………

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

一方、その頃………

 

大洗機甲部隊の陣地では………

 

「バッテリーOKか!? 燃料と弾薬も大丈夫だなっ!!」

 

「12.7ミリ弾の予備は何処に置いたっ!?」

 

「馬鹿野郎っ! 榴弾じゃ無い! 徹甲弾だっ!!」

 

「油の1滴は血の1滴だぞっ!!」

 

整備部員達が忙しく走り回り、戦車や戦闘車輌、武器の最終チェックを行っている。

 

「徹甲弾、行きますね」

 

「は、ハイ!」

 

サンショウウオさんチームのクロムウェルでも、今回砲手を担当する静香が、車体の上でしゃがんでいた装填手であるさゆりに搭載する徹甲弾を渡す。

 

「無線機の調子は良いみたいだにゃ」

 

通信手の満里奈が、通信手席で通信機を弄りながらそう呟く。

 

「ゴメン、お待たせー!」

 

「ワリィ、遅れちまった」

 

そこへ、車長を務める聖子と、操縦手である唯がやって来る。

 

「あ、聖子さん」

 

「ゆ、唯さん」

 

やって来た聖子と唯に反応する静香とさゆり。

 

と、その時!!

 

手が滑ったのか、さゆりが抱えていた徹甲弾を手放してしまう。

 

落下先には静香の姿が!!

 

「あっ!?」

 

「えっ?………」

 

声を挙げたさゆりの方を振り返った静香に、徹甲弾が………

 

「! 危ねえっ!!」

 

降り注ぐかと思われた瞬間に、すぐさま駆け寄って唯が、静香の肩を掴んで下がらせる。

 

………が!

 

「!? うわっ!?」

 

静香を下げた際に足を滑らせ、尻餅をつく様に転んでしまう。

 

そして、さゆりが落とした徹甲弾は、唯の足に落ちる。

 

「!? ぐあああああああぁぁぁぁぁぁぁぁぁーーーーーーーーーっ!?」

 

「!? 唯ちゃんっ!!」

 

「!? 天地先輩!!」

 

「せ、先輩っ!?」

 

「だ、大丈夫かにゃっ!?」

 

悲鳴を挙げた唯の傍に、慌てて駆け寄る聖子、静香、さゆり、満里奈。

 

「如何したのですか!?」

 

「何があったっ!?」

 

同じく悲鳴を聞いたサンショウウオさんチームの残りメンバーと、大洗機甲部隊の面々も駆け寄って来る。

 

「唯ちゃんが足に砲弾を!」

 

「何だってっ!?」

 

「衛生兵ーっ! 衛生兵ーっ!!」

 

「だ、大丈夫だって、ちょいと声が出ちまっただけ………!? ぐうっ!?」

 

騒ぎが大きくなる中、当の唯が何て事は無いと言って起き上がろうとしたが、砲弾が落ちた足を地面に付けた瞬間に苦悶の表情を浮かべる。

 

「無理しないで下さい。骨折かも知れませんよ」

 

「でも、如何するの!? サンショウウオさんチームの操縦手は!?」

 

華がそう言って唯に楽な姿勢を取らせるが、沙織が困惑した様子でそう言う。

 

そう………

 

サンショウウオさんチームは唯以外のメンバーが操縦適性が無く、ずっと唯に操縦手を任せっきりだった。

 

その唯が負傷したとなれば、サンショウウオさんチームには致命的なダメージである。

 

「大丈夫だって、言って………!? ッ!!」

 

「駄目です、天地さん。総隊長として、今の貴方が試合に出る事を認める事は出来ません」

 

尚も平気に振る舞おうとした唯だったが、厳しい表情をしたみほが、有無を言わせぬ迫力でそう言い放つ。

 

「そんなっ!? 私が居なかったら、一体誰が操縦をするんだよっ!!」

 

「わ、私なら多少適性があります! 私が………」

 

「無理だ。お前の適性値じゃ、この準々決勝の試合に付いて来れない」

 

唯がそう言うと、辛うじて操縦の適性値が有った静香が名乗りを挙げるが、麻子にそう否定される。

 

「如何しよう………」

 

打つ手無しかと、聖子の顔にも影が差す。

 

と、その時………

 

「私がやるわ」

 

「「「「「「「「「「!?」」」」」」」」」」

 

突如背後から聞こえて来た声に、大洗機甲部隊の一同は驚きながら振り返る。

 

そこに居たのは………

 

「! 近藤さん!」

 

クロムウェルのマニュアルを携えた、近藤 里歌だった。

 

「お前っ!?………」

 

「近藤さんっ!?」

 

「嘘っ!?」

 

サンショウウオさんチームの面々が驚愕を露わにする。

 

「細かい話は後よ。試合はもうすぐ始まるわ。早く準備を済ませてしまいましょう」

 

しかし、里歌はそんなサンショウウオさんチームや大洗機甲部隊の面々の反応なぞ気にせず、ぶっきらぼうにそう言い放つ。

 

「いや、待て! マニュアルは目を通したみたいだが、そんないきなり………」

 

「この前受けた戦車道教習の適性結果よ」

 

十河がそう言うと、里歌はそう言って1枚の書類を取り出した。

 

そこには、『操縦適性・S』と言う文字が大きく書かれていた。

 

「何とっ!?」

 

それを見た十河は驚きの声を挙げる。

 

「………西住総隊長、確かに彼女の言う通り、もう試合開始の時間だ。無駄話をしている時間は無い」

 

「そうですね………分かりました。近藤 里歌さん。貴方の戦車道参加を許可します」

 

「…………」

 

迫信の言葉を受けたみほが、里歌に向かってそう言うと、里歌は綺麗な敬礼を返す。

 

「近藤さん!」

 

とそこで、聖子が里歌に近寄る。

 

「言ったでしょう。細かい話は後でって………」

 

「コレッ! 受け取ってっ!!」

 

里歌の言葉を遮り、聖子は里歌に向かって、段ボール箱を差し出す。

 

「? 何よ?………」

 

戸惑いながらも、その段ボール箱を開けて、中を確認する里歌。

 

入っていたのは………

 

パンツァージャケットとアイドル衣装だった。

 

「!? コレはっ!?………」

 

「きっと近藤さんが来ると思ってたから………用意しておいたんだ」

 

驚く里歌に、聖子は屈託の無い笑顔でそう言い放つ。

 

「…………」

 

その聖子の笑顔を見て、里歌は照れた様に視線を反らす。

 

「よろしくね! 近藤さんっ!!」

 

「………里歌で良いわ」

 

「うん! 里歌さんっ!!」

 

「…………」

 

そこで里歌は、パンツァージャケットを段ボール箱から取り出すと、袖を通す。

 

「………頼んだぜ」

 

「ええ………」

 

そして唯からそう言われると、表情を引き締め、聖子達と共にクロムウェルに乗車するのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

程無くして………

 

『皆さん、お待ちかね~っ! 遂に第63回戦車道・歩兵道全国大会、決勝リーグの開幕です! 気になる最初の試合は、今大会最大のダークホース・大洗機甲部隊VS準優勝経験もある強豪校・ナイトウィッチ&ハロウィン機甲部隊!!』

 

ヒートマン佐々木のノリの良い実況が、実況席から観客席へ届けられる。

 

『実況はお馴染み、このヒートマン佐々木! そして解説の!』

 

『DJ田中です! 決勝リーグもよろしくお願いします』

 

『そして本日はスペシャルゲスト! 今を時めく346プロダクションのアイドル! 『川嶋 瑞樹』さんと『十時 愛梨』ちゃんにお越し頂きました!!』

 

『よろしくお願いします』

 

『よろしくです』

 

今回はゲストとして、『川嶋 瑞樹』と『十時 愛梨』が実況席入りしている。

 

『それではココで、試合会場入り口へと中継が繋がっております。現場の安部 菜々さ~ん!』

 

『ハ~イ、ウサミンパワーでメルヘンチェ~ンジ! ウサミン星からやって来た、歌って踊れる声優アイドル! ウサミンこと安部 菜々で~す!』

 

とそこで、ヒートマン佐々木がそう言うと、観客席に設置された大型モニターに、レポーターをやっている奈々の姿が映し出される。

 

『今日の試合会場は、廃墟となった工業地帯! 遮蔽物が多く、工業地帯ならではの物も多く設置されているこの場所で、一体どんな戦いが繰り広げられるのでしょうか!? 今から楽しみで~す!! それでは! 両校の選手入場です!!』

 

奈々がそう言うと、2つ設置されていた試合会場の入り口の内、片方にスモークが放出され、大洗戦車チームが入場して来た。

 

『出ました! 先ずは大洗の戦車チームから! 全ての歴史命! 大口空けても隙を空かず、『カバさんチーム』!!』

 

『続いて! バレー部復活の望みの全てを戦車に!! 水の上ではなく空を翔ける、『アヒルさんチーム』!!』

 

『車だけでなく戦車も整備可能! 獅子と豹の如く勢いのある、『レオポンさんチーム』!!』

 

『ゲームだけじゃなくリアルにも挑戦! 戦車ゲームオタク仲間、『アリクイさんチーム』!!』

 

『風紀は守る為に存在する! 絶対風紀厳守、『カモさんチーム』!!』

 

『1年だからって甘く見るな!! 期待のスーパールーキー、『ウサギさんチーム』!!』

 

『学園廃校を免れるべく自ら戦陣に立つ! 実質上大洗の万年支配者『カメさんチーム』!!』

 

『同じく学園廃校を免れるべくべく、集結した選ばれし歌姫! 個性豊かな人気絶頂スクールアイドル、『サンショウウオさんチーム』!!』

 

『そして!! 学園を救うのは彼女達が鍵だ!! 大洗女子学園生徒を率いし軍神、『あんこうチーム』!!』

 

ヒートマン佐々木の熱い実況と共に、次々に紹介される大洗の戦車チーム。

 

続いて、大洗歩兵部隊の面々が入場する。

 

『さあ! ココからは戦車を守りし、勇敢なる歩兵達の紹介だ!! 先ず皆さん御存じこの漢! 付けられた2つ名数知れず! 不死身の兵士! 英霊を継ぐ猛虎『舩坂 弘樹』!!』

 

『続いては、その親友であり、趣味は特撮観賞! その佇まいはヒーローか!? 歩兵道の正義の味方『石上 地市』!!』

 

『スポーツ、航空会社の社長の間に生まれた、社長の息子! 大洗の貴公子『大空 楓』!!』

 

『原動力は女子への邪な思い!? 女の子にモテモテ願望! 下心丸見えの変態王子様『綿貫 了平』!!』

 

『自然の世界で育ち! 自然の環境で全てを見通せる! 全生命の護り手! ネイチャースナイパー『宮藤 飛彗』!! 」

 

『大洗を、世界を掌握する神大コーポレーションの御曹司! 絶対的総裁閣下『神大 迫信』!!」

 

『その冷たい目には何が映るか! 誰にも止められない居合いを繰り出す、名将の血を引く冷酷なる用心棒『栗林 熾龍』!!』

 

『子分の数は壮大!? 喧嘩の実力は強大!? 義理人情に厚い大洗連合の大将! そして応援団長の筆頭を勤める! 大洗の白虎『黒岩 大河』!!』

 

『食欲旺盛! 何でも食べてしまうその姿は正に蛇! 潜入ならばお薦めは必ずダンボール! ステルスコマンダー『蛇野 大詔』!!』

 

『忍者ではなくNINJA! ナンデニンジャ! 現代に復活のニンジャスレイヤー『葉隠 小太郎』!!』

 

『愛馬を巧みに操る騎兵! 食通の天才! 彼の正体は何者!? 黒き竜巻『ゾルダート・ファインシュメッカー』!!』

 

『大洗に外国人!? 1年生だけどその素早い動きは誰にも追い付けない! スピード・オブ・プレジデント『ジェームズ・モンロー』!!』

 

『彼から逃れられるのか!? いや、逃れられない! 彼の目に映る兵士は皆命を断つ………北欧からやって来たムーミン谷の白い死神『シメオン・ヘイヘ』!!』

 

『彼が味方するのは強いもの!? その上、救い料10億万円、ローンも可! ふざけんなこの野郎と言われるものの、その実力は正しく本物!! ジャッカルよりも凶暴な猟狐『ハンター』!!」 

 

『かつては不良を束ねし愚連隊の総長! だけど今は大洗の心強い味方! 舩坂 弘樹の舎弟『飛鳥 隆太』!!』

 

エースメンバーが次々に紹介され、大洗側の応援席を中心に、歓声が巻き起こる。

 

『さあ、今度はナイトウィッチ&ハロウィン機甲部隊の紹介だぁ! 先ずはナイトウィッチ戦車チームッ!!』

 

とそこで、ヒートマン佐々木がそう言うと、もう一方の出入り口からもスモークが放射され、そこからブロンドのウェーブヘアやセクシーなナイスバディの少女が現れる。

 

『出ました!! アメリカ大陸からやってきた本場のアメリカ人! マジシャンレベルはアメリカ級!! ラスベガスのショーにも出演した経験のある美しき奇術師! 『シュガー』!!』

 

「イッツ、ショータイムッ!!」

 

『シュガー』と呼ばれた女子生徒は、タキシードにレオタードと言う以前見た服装で登場すると、大きなカーテン布を取り出し、それを広げた。

 

すると、カーテン布は何もない場所に何かに覆われた様に被さり、それを一瞬で引くと………

 

「続いて現れたのは………何と! 全身を脱出不可能な鎖で繋がれたり、巻かれたりされた日本人美少女奇術師が現れました!! しかもガラスのショーケースの中でです!!」

 

そこに現れたのはガラスのショーケースの中に入っているシュガーと同じ服装の黒髪の女子生徒だった。

 

鎖で囚われ口を塞がれた女子生徒の回りには、何と幾つもの手榴弾が転がっている!

 

「よっ!」

 

すると、シュガーの胸のポケットから白いネズミが現れ、彼女の腕から掌まで進んで行くと、彼女はその白いネズミにハンカチを被せた。

 

そしてハンカチを引くと、彼女の掌には手榴弾!!

 

「ハッ! ホッ!」

 

シュガーは音楽のリズムに合わせ、手榴弾をお手玉の様にジャグリングする。

 

「アッ!?」

 

とそこで、誤って手榴弾のピンを引き抜いてしまい、彼女は慌てふためきながら手榴弾を持ち直そうとするが………

 

手が滑ったのか何と手榴弾を上空へと飛ばしてしまう。

 

宙に舞った手榴弾は、そのまま黒髪の女子生徒が入っているガラスのショーケースの中へと入ってしまった!!

 

「オー、ノーッ!!」

 

手榴弾は爆発し、ガラスのショーケースごと木っ端微塵になってしまった!!

 

「うわぁっ!?」

 

「大変だぞっ!?」

 

観客だけでなく、大洗の一同が騒然とする!!

 

「あわわわ………」

 

一番ショックを受けたのはみほだった。

 

中に人がいるのにまさかの大事故!

 

「落ち着け、みほくん。多分何かのマジックだ………」

 

そこで弘樹がそう言い、みほを落ち着かせる様に肩に手を置いたが………

 

「!? 誰っ!?」

 

みほはそう言って、弘樹から距離を取った。

 

「へっ?………」

 

「その通りだ。貴様、何者だ?………」

 

思わず呆けた顔をした弘樹に、後ろからM1911A1を構える………『弘樹』

 

「!? ふ、舩坂くんがっ!?」

 

「2人居るっ!?」

 

「「「「「「「「「「!?」」」」」」」」」」

 

『2人の弘樹』の姿に、大洗機甲部隊の面々は驚愕する。

 

「………何で分かった?」

 

M1911A1を向けられている弘樹が、みほにそう尋ねる。

 

「あ、その………な、何となくと言うか………」

 

しかし、みほ自身も、何故声を掛けて来た弘樹が違うと思ったのか、説明出来ない様である。

 

「………成程ね。そう言う事か」

 

するとそこで、銃を向けられていた弘樹が、『女の声』でそう言った。

 

「!!」

 

「…………」

 

驚くみほと、無言でM1911A1を降ろす弘樹。

 

すると、女の声を出した弘樹が、顔の皮膚を掴んだかと思うと、顔を引っぺがした!

 

いや、引っぺがしたのは顔では無く………『変装用のマスク』だった!

 

そのマスクの下から現れたのは、何と!

 

あの爆発で吹っ飛んだ筈の黒髪の女子生徒だった!!

 

「何と何と!! お見事!! あの脱出不可能な鎖とショーケースの中から無事に脱出しました!! 正しくあの伝説の脱出王フーディーニの奇跡の復活です!! 彼女は現代のフーディーニ!! ナイトウィッチ学園『ソルト』!!」

 

「…………」

 

ヒートマン佐々木の実況が響く中、みほは目をパチクリしながら唖然としている。

 

「ゴメンナサイね、驚かせて。コレはお詫びよ」

 

ソルトは脅かしたお詫びにと、みほに掌を握らせたかと思うと、指で軽く叩く。

 

「あ………」

 

するとみほは手の中に違和感を感じ、開いてみると、中から現れたのはミルクキャラメルだった!

 

「ソルト。そろそろやるわよ」

 

「OK、シュガー」

 

そして、シュガーと合流したソルトは、シュガーから大きな布の先端を持つ様に言われ、ソルトはそれを持つと、大洗機甲部隊の面々からナイトウィッチ&ハロウィン機甲部隊の入場ゲートを隠す様に持つ。

 

「1!」

 

「2!」

 

「「3!!」」

 

そしてその掛け声で、布を落したかと思うと………

 

そこには、既に集結していたナイトウィッチ学園戦車部隊の姿が在った!

 

『BT-5』が11輌と『BT-7』が同じく11輌。

 

75ミリ砲を搭載した『バレンタイン歩兵戦車XI』が10輌。

 

『ヴァリアント歩兵戦車』が10輌。

 

『シュトゥルムティーガー』が1輌。

 

『Ⅳ号突撃戦車ブルムベア』が1輌。

 

『トータス重駆逐戦車』が1輌の、計45輌の戦車部隊である。

 

そして………

 

『続いては、ハロウィン高校の歩兵達を紹介します!』

 

ヒートマン佐々木の実況と共に、今度はハロウィン歩兵部隊が入場する。

 

『先ず、キック力100%、その蹴りの威力は何処まであるのか………蹴撃のスマートウルフ『カロ』!!」

 

『続きまして、パワフル率100%大きな体だけでなく、闘争たる野生本能全開のフランケンシュタイン『スコール』!!』

 

先程アイドル達に絡んでいたカロと、巨体の男『スコール』が紹介される。

 

更に………

 

『そして、ハロウィン校と言えばやはり彼! 全てが謎に包まれた戦闘力未知数の赤瞳の猟兵(イェーガー)『ジャック』!!………またの名を………本当の英霊を継ぐ者!!』

 

そう言う実況と共に、ジャックが姿を見せる。

 

「!? 本当の英霊を継ぐ者!?」

 

「ど、如何言う事ですか!?」

 

その説明に、地市と優花里が驚く。

 

「弘樹くん………」

 

「…………」

 

みほは弘樹を見やるが、相変わらず弘樹はいつもの仏頂面のままだった。

 

そのまま、両総隊長の挨拶へと事は進む………

 

「よろしく。お互い恨みっこなしの勝負をしようね」

 

シュガーは礼儀正しく、みほにお辞儀をしてそう言い、握手を求めた。

 

「ハイ! よろしくお願いします」

 

みほはそれに応じ、握手を交わす。

 

そしてそのまま、両機甲部隊は、開始地点へと向かった。

 

『試合開始っ!!』

 

『いよいよ試合開始です! 大洗機甲部隊! そしてナイトウィッチ&ハロウィン機甲部隊! 君達に、幸あれっ!!』

 

主審レミの掛け声と、ヒートマン佐々木の実況が響き………

 

遂に、準々決勝が開始されたのだった………

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

つづく




新話、投稿させていただきました。

またもゲストで、シンデレラガールズの面々に、試合観戦に訪れて頂きました。
今回入場で紹介が入りましたが、流石に歩兵隊員全員を紹介するとトンでもない長さになるので、とらさん分隊の他はエースや主要メンバーだけにさせていただきました。
御了承下さい。

そして登場のナイトウィッチ&ハロウィン機甲部隊の面々。
いきなりマジックショーを披露するなど、大胆不敵。
そして英霊を名乗る謎の男、ジャック。
果たしてその意味は?
ピンチヒッターで駆け付けた里歌を加えた大洗機甲部隊の奮戦や如何に?

では、ご意見・ご感想をお待ちしております。

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