ガールズ&パンツァー+ボーイズ&ゾルダース   作:宇宙刑事ブルーノア

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第20話『全国大会、出場します!』

『ガールズ&パンツァー+ボーイズ&ゾルダース』

 

第20話『全国大会、出場します!』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

天竺女学園とジョロキア男子校との交流から数日後………

 

遂に、戦車道・歩兵道の全国大会が開催される事となり………

 

戦車部隊の大洗女子学園からは、みほ達あんこうチームの面々と杏達カメさんチーム。

 

そして、歩兵部隊の大洗国際男子校からは、代表者として生徒会長であり歩兵部隊の総隊長である迫信とその護衛の熾龍。

 

更に、あんこうチームの付き添いとして、とらさん分隊から弘樹、地市、了平、楓が試合組み合わせの抽選会へ向かう運びとなった。

 

迫信がチャーターしたマイクロバスで、抽選会の会場であるさいたまスーパーアリーナへと向かったみほ達と弘樹達。

 

国際色豊かな(大半が日本人なのだが)他校の生徒が集う中、抽選会は滞りなく行われ………

 

遂に、大洗機甲部隊の番が回って来た。

 

代表であるみほが、抽選箱が置かれたステージ上に上がり、抽選札を引く。

 

高らかに上げたその札には『8』の数字が刻まれていた。

 

『大洗機甲部隊、8番!』

 

アナウンスがそう告げると、大型モニターに映し出されていた試合の組み合わせ表の8番枠に、大洗機甲部隊の名が刻まれる。

 

対戦相手の抽選は既に済まされており、大洗機甲部隊の全国大会1回戦の相手は………

 

戦車部隊女子校の『サンダース大学付属高校』と歩兵部隊男子校の『カーネル大学付属高校』からなる………

 

『サンダース&カーネル機甲部隊』だった。

 

「よっしゃーっ!!」

 

そのサンダースの戦車部隊のメンバーと思われる女子が、歓喜の声を挙げている。

 

大洗機甲部隊は無名校な為、楽勝だと考えているのだろう。

 

「サンダース&カーネル機甲部隊………」

 

「それって強いの?」

 

優花里に向かって、眠りこけている麻子に肩を貸している沙織が尋ねる。

 

「優勝候補の1つです」

 

「ええ~、大丈夫?」

 

いきなり優勝候補の相手と当たった事に、沙織は不安を口にする。

 

「初戦から強豪ですね」

 

「どんな事があっても………負けられない」

 

少し離れた場所でその様子を見ていたカメさんチームの中で、柚子も不安を口にするが、桃はやや切羽詰っている様な様子でそう呟く。

 

「そうだよ。負けたら私達の学校が………」

 

「…………」

 

蛍が桃の呟きを繋げる中、杏は瞑想しているかの様に目を閉じてジッとしていた。

 

「サンダース&カーネル機甲部隊か………」

 

そこで、その後ろの席に居た迫信が、広げた扇子で口元を隠してそう呟く。

 

「フン………アメリカ被れ共が最初の相手か………」

 

隣に居る熾龍は、何時にも増して毒舌な言葉を吐く。

 

大日本帝国軍人の子孫としては、アメリカ風の気風を持つサンダース&カーネル機甲部隊には色々と思う所が有る様だ。

 

一方、もう1人の大日本帝国軍人の子孫はと言うと………

 

「オイオイ………初戦から優勝候補が相手かよ………」

 

「また厳しい戦いになりそうですね………」

 

地市と楓が、いきなり優勝候補の一角であるサンダース&カーネル機甲部隊と戦う事になった事に溜息混じりで呟く。

 

「戦う前から弱音を吐いて如何する? 優勝候補ならば勝ち続けていれば何時かはぶつかる相手だ。寧ろ戦車数の少ない初戦の方で戦えるのは幸運だ」

 

そんな2人に向かって弘樹は叱咤する様にそう言う。

 

「お前、マジで勝ち抜けると思ってんのか? 俺たちゃ素人に毛が生えた様な戦力なんだぜ?」

 

しかし、了平は無謀だと言う様な様子を隠さずに言う。

 

(事情を知らないから仕方が無いが………大洗女子学園には………如何しても勝たなければならない理由があるのだ………)

 

もし全国大会で優勝できなければ、大洗女子学園が廃校となる事を知る弘樹は、内心でそう思いやるのだった………

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

それから小1時間程して………

 

漸く参加全校の抽選が終わり、みほ達と弘樹達はさいたまスーパーアリーナを後にしようとしていた。

 

「みほちゃ~ん」

 

と、背後から声を掛けられて、みほ達が振り返ると、ターメリックを連れたローリエの姿が在った。

 

「あ! ローリエさん。この間はどうもありがとうございました」

 

「い~え、気にしないで~。それより~、大分組み合わせが離れちゃったからぁ~、私達との再戦は決勝近くになるわね~」

 

みほが先日の交流会の事のお礼を言うと、ローリエは対戦表を見ながらそんな事を言う。

 

「頑張って勝ち抜いてね~。私達も決勝で待ってるから~」

 

「ハ、ハイ! 頑張ります!!」

 

優しげな笑顔を浮かべてそう言うローリエに、みほは照れた様子でそう返す。

 

「………決勝で待っているぞ」

 

「………ああ」

 

一方、ターメリックと弘樹も、言葉少なに、再戦の誓いを交わし合うのだった。

 

「じゃあ連盟への手続きがあるから~、今日はコレでね~」

 

「また会おう………」

 

そう言うと、ローリエとターメリックは事前の手続きをしに、連盟の委員達が居る場所へ向かう。

 

「西住ちゃん。私達も手続きしてくるから、どっか適当な所で時間潰してて」

 

「あ、ハイ。分かりました」

 

「私も行こうかね?」

 

杏に付き添いは居るかと尋ねる迫信。

 

「いんや、良いよ。今日は送って貰ったからね。コレ以上貸しは要らないよ」

 

「ふむ………そう言う事ならば」

 

迫信は不敵に笑ってそう返す。

 

「じゃ、宜しく~」

 

杏はそう言ってみほ達と弘樹達に手を振ると、柚子と桃、蛍を連れて、事前手続きへと向かったのだった。

 

「時間潰すって言っても………如何すんだ?」

 

「でしたら! この近くに良い喫茶店があるので、行ってみませんか!」

 

地市が如何時間を潰すのかと言うと、優花里がそう声を挙げる。

 

「喫茶店?」

 

「ハイ! 『戦車喫茶 ルクレール』ってお店なんです!」

 

「やっぱり戦車関連なんだね………」

 

楓に向かって優花里がウキウキとした表情で答えると、沙織が苦笑いしながら呟く。

 

「良いんじゃないでしょうか? そこにしましょう」

 

「代金は私が持とう。皆好きな様に注文してくれたまえ」

 

華が賛同すると、迫信は自分の奢りだと宣言する。

 

「流石会長閣下! 太っ腹! そこにシビれる! あこがれるゥ!」

 

「お前は何処のスタンド使いの吸血鬼の取り巻きだ?」

 

奢りと聞いてテンションが上がる了平に、地市がそうツッコミを入れる。

 

「じゃあ、行こっか! ホラ、麻子! しっかりして!!」

 

「眠い………」

 

相変わらず半分寝ている麻子に肩を貸しながら、沙織が歩き出すと、他のメンバーもそれに続いて行くのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

さいたまスーパーアリーナの近く………

 

戦車喫茶 ルクレール・店内………

 

男子と女子に分かれて、隣同士のテーブルに着いたみほ達と弘樹達は、メニューを手に注文する品を選んでいる。

 

「うむ………」

 

そんな中、何やら難しい顔をしてメニューと睨めっこをしている弘樹。

 

「? 舩坂くん? 如何したの?」

 

そんな弘樹の様子に気づいたみほが声を掛ける。

 

「………実は洋菓子は如何も苦手でな」

 

弘樹はメニューに載って居るケーキやらシュークリームやらの写真を見ながらそう答える。

 

「えっ!? そうだったんですか!?」

 

「弘樹。後ろの方に和菓子も有るぜ」

 

それを聞いた優花里が申し訳無さそうな顔をしたが、地市がそうフォローを入れた。

 

「む、そうか………」

 

それを聞いた弘樹は、メニューの後ろの方に載っていた和菓子のコーナーを見やる。

 

「コッチはもう決まったから先に注文させてもらうぞ」

 

「ああ、では………」

 

と麻子がそう言うと、優花里がテーブルの上に有ったFIAT2000の形をした置物の砲塔部を押した。

 

すると、戦車砲のモノと思われる砲声が、店内に響き渡る!!

 

「!?」

 

それを聞いた弘樹が一瞬身構えた。

 

「ご注文はお決まりですか?」

 

とそこで、みほ達のテーブルへドイツ国防軍の戦車兵の制服風のウェイトレス服を来たウェイトレスがやって来る。

 

「何だ………敵襲かと思ったぞ」

 

「そりゃ職業病だぜ、弘樹」

 

弘樹が安堵した様子でそう言うと、地市がツッコミを入れる。

 

「ケーキセットで、チョコレートケーキ2つとイチゴタルト、レモンパイにニューヨークチーズケーキを1つずつお願いします」

 

「承りました。少々お待ち下さい」

 

華が代表して注文を言うと、ウェイトレスは手帳にメモを取り、敬礼して去って行った。

 

「このボタン、主砲の音になってるんだ」

 

「この音は90式ですね」

 

ウェイトレスが去った後、先程の戦車型の呼び出しボタンとその音についての話をする沙織と優花里。

 

「流石戦車喫茶ですね」

 

と、華がそう言うと、他の注文が決まった客が押したと思われるボタンから、次々に砲声が鳴り響き、忽ち店内は轟音に包まれる。

 

「う~ん。この音を聞くと、最早ちょっと快感な自分が怖い」

 

「快感って………ゲヘヘヘヘ………」

 

「了平………顔が法律違反です」

 

沙織がそんな事を言うと、それで良からぬ想像をした了平が危ない顔になり、楓がツッコミを入れる。

 

 

 

 

 

数分後………

 

弘樹達も注文を済ませて少しした頃………

 

先に注文していたみほ達のテーブルに、荷台に戦車型のケーキを乗せたドラゴンワゴンのラジコンが現れる。

 

「わっ!? コレって、この前の試合の時、私達の戦車を運んでくれてた………」

 

「ドラゴンワゴンですよ」

 

沙織が天竺ジョロキア機甲部隊との練習試合の時、大洗戦車部隊の戦車を運んでくれた神大コーポレーション傘下のPMCが使っていたドラゴンワゴンを思い出す。

 

「可愛い~」

 

「ケーキも可愛いです」

 

みほと華が、ラジコンのドラゴンワゴンと、戦車型のケーキを見てそう感想を漏らす。

 

やがて少し遅れて、弘樹達の元へも同じ様に注文の品を乗せたドラゴンワゴンが到着する。

 

「お! 来た来たっ!!」

 

「それじゃあ、いただきましょうか」

 

楓のその言葉で、一同は注文した品に手を付け始めるのだった。

 

「………ゴメンね。1回戦から強いとこに当たっちゃって」

 

とそこで、1回戦からいきなり優勝候補の一角であるサンダース&カーネル機甲部隊との対戦カードを引いてしまったみほが謝る。

 

「気にするな、西住くん。例え初戦は回避出来たとしても、優勝候補ならば何れはぶつかる相手だ。戦車数の少ない初戦で当たったのは寧ろ幸運だ」

 

それを聞いた弘樹が、地市達にも言った言葉でフォローする。

 

「サンダース&カーネル機甲部隊って、そんなに強いんですか?」

 

「強いって言うか、凄いリッチな学校で、戦車の保有台数が全国1なんです。チーム数も1軍から3軍まであって」

 

「オマケに歩兵部隊は高度に機械化され、対戦車兵の数も全国1だ」

 

華がサンダース&カーネル機甲部隊について尋ねると、優花里と迫信がそう返す。

 

「公式戦の1回戦は戦車の数は10両までって限定されてるから。砲弾の総数も決まってるし」

 

「でも10両って………ウチの倍じゃん。それは勝てないんじゃ」

 

「歩兵数も少なく見積もっても、我々の3倍は有るだろうな………」

 

「戦う前から詰んでるんじゃねーかよ………」

 

サンダース&カーネル機甲部隊と物量の差の前に、沙織と了平は弱音を吐く。

 

「単位は?」

 

「負けたら貰えないんじゃない?」

 

「…………」

 

それを聞いた麻子は不機嫌そうにケーキにフォークを突き刺し、大き目な一口を頬張った。

 

「それより! 全国大会ってテレビ中継されるんでしょ? ファンレターとか来ちゃったら如何しよう~?」

 

「フッフッフッ………この了平様の大活躍に、全国の女子高生の皆さんから熱~いラブコールが………」

 

「「「それは天地がひっくり返っても無い(ありません)」」」

 

「ヒドッ!!」

 

沙織の言葉に、了平の妄想が炸裂するが、即座に弘樹、地市、楓からの容赦無いツッコミが入る。

 

「生中継は決勝だけですよ」

 

「じゃあ、決勝行ける様に頑張ろう~」

 

沙織はそう言って、ケーキに手を付け始める。

 

「ホラ、みほも食べて」

 

「うん」

 

そんな沙織に促され、みほもケーキに手を付け始めようとする。

 

すると………

 

「副隊長?」

 

何者かがみほにそう声を掛けた。

 

「!?」

 

「「「「「………?」」」」」

 

みほがその声に反応し、他の一同も声が聞こえた方向を向く。

 

「ああ、元でしたね」

 

そこには、みほを小馬鹿にする様な態度を取っている銀髪の少女と、みほと良く似た顔立ちをした少女の姿が在った。

 

(彼女は………西住 まほ………西住くんの姉か)

 

その少女………みほの実の姉であり、黒森峰機甲部隊の総隊長であり、西住流の現有力後継者である『西住 まほ』を見た弘樹は、以前せんしゃ倶楽部のテレビで見た姿を思い出す。

 

「お姉ちゃん………」

 

「「「あ………」」」

 

みほがそう言った事で、沙織達も目の前の人物がみほの姉である事を知る。

 

「えっ!? みほちゃんのお姉さん!? は、初めまして! 私、綿貫 了平で………」

 

「空気読め!」

 

と、空気が読めない事に定評の有る了平がまほに迫ろうとしたが、地市にスリーパーホールドを掛けられて強制的に黙らせられる。

 

「………まだ戦車道をやっているとは思わなかった」

 

まほは感情の無い様子で淡々とみほにそう言い放つ。

 

「!!………」

 

それを聞いたみほの表情が曇る。

 

(実の妹にあの態度………コレが西住流か………)

 

久しぶりに会うであろう妹に対して第1声がそれかと思い、弘樹は心の中で西住流への嫌悪感を感じる。

 

「お言葉ですが! あの試合のみほさんの判断は間違ってませんでした!」

 

と、表情を曇らせたみほの様子に我慢出来なかったのか、優花里が席から立ち上がって、まほ達に向かってそう言い放つ。

 

「部外者は口を出さないで欲しいわね」

 

「う………すみません」

 

しかし、銀髪の少女………黒森峰女学園の戦車部隊・現副隊長である『逸見 エリカ』がそう言い放つと、反論出来なくなる。

 

「………行くぞ」

 

と、まほはもう言う事は無いと言う様にエリカにそう言い、店の奥へ進み出す。

 

「あ、ハイ、隊長」

 

エリカはそれに従い、まほの後を追ったが、その途中でみほ達の方を振り返る。

 

「1回戦はサンダース&カーネル機甲部隊と当たるんでしょう? 無様な戦い方をして、西住流の名を汚さない事ね」

 

「!!………」

 

エリカのその言葉に、ショックを受けた様子を見せるみほ。

 

「何よその言い方!」

 

「余りにも失礼じゃ!」

 

「そうだぞ! みほちゃんに謝れ!!」

 

「幾ら何でも、許せません!」

 

と、その一言にカチンと来たのか、沙織、華、地市、そして温厚な楓も立ち上がってそう言い返す。

 

「貴方達こそ戦車道と歩兵道に対して失礼じゃないの。無名校の癖に………」

 

そこでエリカは立ち止まって振り返り、完全にみほ、引いては大洗機甲部隊を見下した様子でそう言い放つ。

 

「この大会はね、戦車道と歩兵道のイメージダウンになる様な学校は、参加しないのが暗黙のルールよ」

 

「あ!? 如何言う事だ!?」

 

「強豪校が有利になる様に示し合わせて作った暗黙のルールとやらで負けたら恥ずかしいな」

 

そこで、エリカの台詞に対し、麻子がそんな毒舌を返す。

 

「おお! ナイス、麻子ちゃん!」

 

そんな麻子の台詞に、了平がサムズアップする。

 

「! 貴様………」

 

と、沸点が低いのか、エリカはその言葉で怒りを露わにする。

 

「オイ、エリカ、止め………」

 

「調子に乗るんじゃないわよ! 去年のアレさえなければ! 私達は全国大会10連覇と言う偉業を達成出来ていたのよ! それを台無しにしたのよ! そこの存在自体が西住流を貶めてる元副隊長のせいでね!」

 

「!!」

 

まほが止めようとした瞬間には、エリカは敵意の籠った視線でみほを見ながらそう言い放ち、みほはその視線と言葉に思わず俯く。

 

「何? いっちょまえに責任感じてるの? だったら、あの時あんな事なんてしなければ………」

 

と、そこまで言った瞬間!

 

エリカの視線を遮る様に、黒い影がみほの前に立った。

 

「…………」

 

弘樹だ。

 

まるでエリカからみほを守る様に、自らの身体を使って、その敵意の籠った視線を遮っている。

 

その表情は学帽の鍔で隠れて窺えないが、ヒシヒシと怒りのオーラが伝わって来ている。

 

「! 何よ、アンタ!」

 

「! 舩坂くん!」

 

エリカの声で、みほは弘樹が自分の前に立ちはだかっている事に気付く。

 

「! 舩坂だと………」

 

そこでまほが、初めて驚きの感情が籠った様な声を出し、弘樹の姿を見やる。

 

「舩坂………へえ~、アンタがあの英霊と呼ばれた伝説の歩兵の子孫なの」

 

「…………」

 

尚も小馬鹿にする様な態度を続けるエリカだが、弘樹はそんな物は何処吹く風と言わんばかりに無視している。

 

「フン、アンタも元副隊長と同じ穴の狢ってワケね………伝説の歩兵の子孫が無名校で歩兵をやってるなんて、恥晒しも良いとこ………」

 

しかし、それに気付かぬエリカが調子に乗って言葉を続けたところ………

 

「!!………」

 

弘樹は学帽の鍔で隠れていた顔を半分だけ見せ、片方の目を日本刀の様に鋭くし、エリカを睨みつけた!

 

「!? ヒイッ!?」

 

忽ちエリカは尻餅を着いて、床に座り込む。

 

(クウッ! 何て気迫だ!?)

 

まほも表情にこそ出していないが、弘樹から発せられる殺気とも取れる気迫の前に、内心で驚愕していた。

 

「すまない………ちょっと良いかね?」

 

するとそこで、何時の間にか席から立ち上がった迫信が、まほとエリカの前に立ってそう声を掛ける。

 

背後には熾龍が控えている。

 

「! な、何よ!?」

 

そこでエリカは若干足を震わせながらも立ち上がり、取り繕う様にそう言い放つ。

 

「私は大洗国際男子校生徒会長であり、大洗機甲部隊副総隊長兼歩兵部隊総隊長の神大 迫信だ。今の西住 みほくんに対する暴言は見過ごせるものではない。謝罪をしていただきたい」

 

何時もの様に広げた扇子で、不敵に笑っている顔の口元を隠しながら、迫信はそう言い放つ。

 

「ハンッ! 謝罪する必要なんて無いわ! 全部本当の事じゃない!!」

 

しかし、エリカは迫信に対しそう言い放つ。

 

「そうか………」

 

すると迫信は、ポケットから自分の携帯電話を取り出した。

 

そして、何やらボタンを操作したかと思うと、先程エリカがみほへ浴びせた罵声が再生される。

 

「!?」

 

「君も戦車道を嗜む者ならば、当然戦車道の試合規則は知っているだろう?」

 

驚くエリカに、迫信はそう問う。

 

「あ、当たり前じゃない!」

 

「ならば、その第5条、ホの項目も当然知っていると看做させてもらうよ」

 

「!? エリカ!!」

 

「えっ?」

 

迫信がそう言い放つと、まほが焦った様な表情を見せエリカに向かって叫び、エリカは何が起こっていると言う様な顔となる。

 

「………戦車道試合規則第5条、禁止行為についての項目のホ………『審判員、競技者に対する非礼な言動』………」

 

と、迫信の背後に控えていた熾龍がそう言い放つ。

 

「!?」

 

そこでエリカはハッとした表情となる。

 

「もし私がコレを然るべき場所へ提出した場合………如何なるかは言うまでも無いと思うがね」

 

不敵に笑ったままそう言い放つ。

 

「クウッ!………」

 

まほは焦りを増す。

 

もし、迫信が今言った通り、エリカがみほに浴びせた罵声を戦車道の委員会へ提出すれば、エリカは何らかの処分を受ける事となるだろう。

 

恐らく出場停止とまでは行かないだろうが、問題なのは『黒森峰戦車隊の副隊長が禁止行為の違反で処罰を受けた』と言う事態が起こる事である。

 

戦車道の名門として知られている黒森峰女学園の副隊長が委員会から処分を受けたとなれば、大幅なイメージダウンは防げない。

 

そうなれば、黒森峰女学園の戦車道は死んだも同然となってしまう。

 

「………何が望み?」

 

まほは迫信に向かってそう問い質す。

 

「望みと言う程のモノではないさ。ただ、仮にも戦車道………武道を嗜む者ならば、戦う相手には常に礼節を持って接して貰いたい。それだけの事だよ」

 

迫信は穏やかな口調でそう言うが、それは遠回しにみほへの謝罪を要求する言葉であった。

 

「………エリカ」

 

「! で、ですが!!………」

 

まほは無言でエリカに謝罪を促すが、エリカは青褪めた表情のままオロオロとするばかりである。

 

プライドが高いエリカは、謝罪を行うと言う事は負けを認める事だと思っており、それは尊敬する西住流の教えに反する。

 

しかし、謝罪しなけば黒森峰の戦車道の存続自体が危なくなる可能性がある。

 

エリカの心に今までに感じた事の無い葛藤が湧き上がる。

 

「…………」

 

そんなエリカの様子を、迫信は不敵な笑みを浮かべているが、感情の無い目で見据えていた。

 

「「「「「…………」」」」」

 

弘樹以外のメンバーも、流石にやり過ぎではないかと感じているが、迫信の得体の知れない迫力に押され、何も言えずに居る。

 

只ならぬ緊迫感が、弘樹達とみほ達、そしてまほとエリカの間に漂う。

 

………と、その時!!

 

「我等~黒森峰戦車隊~♪ 科学力は~世界一ぃぃぃ~~~のドイツ製戦車の軍団だ~♪ 作戦よりも、戦略よりも、戦車の性能が大事だよ~♪」

 

「「「「「!? だあああああぁぁぁぁぁぁ~~~~~~~っ!?」」」」」

 

突然音程など関係無しの脱力全開な、歌と呼ぶのも憚られる歌が聞こえて来て、弘樹と迫信、熾龍を除く一同は思わずズッコケそうになった。

 

「な、何だよ、この脱力系の歌は?………」

 

「って言うか、コレ歌なのか?」

 

「音程も何もあったもんじゃありませんね………」

 

最初に立ち直った地市、了平、楓の3人がそんな感想を漏らす。

 

「! この声は!?」

 

「みぽりん? 如何したの?」

 

と、続いて立ち直っていたあんこうチームの中で、みほが何かに気付いた様に声を挙げる。

 

「た、隊長………コレは………」

 

「奴だな………」

 

まほとエリカが頭を抱えながらそう言った瞬間………

 

「整備は大変~♪ お金は掛かる~♪ 結局戦車道ってお金が有れば勝てるのか~♪………おろっ?」

 

脱力系の歌を続けながら、1人の黒森峰女学園の制服を着た小柄で何処となくカエルを思わせる女子生徒が、喫茶店の中に入って来た。

 

「まほ殿にエリカ殿! 此方でありましたか!」

 

そして、まほとエリカの姿を見ると、まるで友達感覚の笑顔で敬礼してそう言う。

 

「毛路山………」

 

「久美………アンタねぇ」

 

まほは頭を抱えたまま、エリカはワナワナと拳を震わせながらそう返す。

 

「久ちゃん!」

 

とそこで、みほが笑みを浮かべて席から立ち上がると、その女子生徒の前に出た。

 

「おっ? おお~っ! みほ殿ではないでありますかぁ!!」

 

「久ちゃ~ん!」

 

女子生徒が驚きと感激の混じった声を挙げ、みほも嬉しそうな声を挙げて、両者は互いに抱き合う。

 

「!? はわぁ~っ!?」

 

その光景を見たみほを敬愛する優花里が、珍妙な声を挙げる。

 

「お久しぶりでありますな~。元気でありましたか? 新しい学校では楽しくやれているでありますか?」

 

「うん! 私は大丈夫だよ。友達も出来たし」

 

やがて離れた両者の内、女子生徒がみほの身を心配していたと言い、みほは大丈夫だと答えながら沙織達を紹介する。

 

「おお、コチラはみほ殿の御学友の方達でありましたか」

 

「に、ににに、西住殿ぉっ!! 誰なんですか、その人はぁっ!!」

 

「ゆ、ゆかりん、落ち着いて………」

 

思わずその女子生徒に噛み付いて行きそうな雰囲気を見せている優花里を、沙織が落ち着かせる。

 

「皆、紹介するね。私が黒森峰に居た頃の親友の………」

 

「黒森峰女学園第58番戦車隊所属! 機動防衛特殊先行工作部隊指揮戦車、Ⅳ号突撃砲車長兼分隊長! 『毛路山 久美(けろやま ひさみ)』であります!」

 

そこでみほは女子生徒………黒森峰戦車隊の1員である『毛路山 久美(けろやま ひさみ)』の事を紹介する。

 

「みほ殿が何時もお世話になっており、誠に感謝しているであります」

 

そう言って、沙織達に向かって深々と頭を下げる久美。

 

「あ、いえ! 此方こそ!!」

 

「御丁寧にありがとうございます」

 

華以外の面子は、とても強豪校の生徒とは思えないフレンドリーながら畏まった態度の久美に戸惑いを覚える。

 

「あ、そうだ、みほ殿! 久しぶりに『アレ』をやるであります!」

 

「えっ!? ア、『アレ』? 『アレ』はちょっと………」

 

と久美が何かをやろうとみほに呼び掛けるが、みほは戸惑う。

 

「何を言うでありますか! 『アレ』は我輩とみほ殿の友情の証であります! 何も恥かしがる事など無いであります!」

 

「久ちゃん………そうだね。久しぶりにやろっか!」

 

しかし、久美に懇願され、みほは折れる。

 

「? えっ? 何?」

 

「「「??」」」

 

事情を知らない沙織達は困惑するばかりである。

 

すると………

 

「ゲロゲロゲロゲロゲロゲロゲロゲロ………」

 

「ミホミホミホミホミホミホミホミホ………」

 

共鳴×2!!

 

「うええっ!?」

 

「に、西住殿!?」

 

「みほさん!?」

 

「何だそれは?」

 

突然珍妙な行動を取り始めた久美とみほの姿に、沙織、優花里、華から戸惑いの声が挙がり、麻子が1人冷静に突っ込む。

 

「共鳴であります! 我輩とみほ殿との友情を確かめる儀式であります!」

 

「へ、へえ~、そうなんだ………」

 

久美がそう答えると、沙織が苦笑いする。

 

「いや~、久しぶりの共鳴でありましたが、良かったでありますよ、みほ殿!」

 

「久ちゃんも変わってないね」

 

「ゲロゲロリ! 我輩は何時だってこうであります!」

 

互いに笑顔を浮かべながらそう会話を交わす久美とみほ。

 

「ユカユカユカユカユカユカユカユカ………」

 

「ゆかりん落ち着いて! 怖いから!!」

 

そんなみほと久美を羨ましそうに見ながら、2人の真似をして共鳴し始める優花里だったが、またも沙織に止められる。

 

「ちょっと、久美! アンタなに他校の戦車道の子と親しげに話してるのよ!!」

 

とそこで、エリカが久美に向かってそう怒鳴る。

 

「まあまあ、エリカ殿。固い事は言いっこ無しであります」

 

しかし、久美は何処吹く風と言った感じで、右から左へ受け流している。

 

「いや~、しかし正直みほ殿が副隊長だった頃が懐かしいであります。今はエリカ殿が副隊長なもんだから、まほ殿と合わさって厳しいのなんの………」

 

「本人の目の前で愚痴零すんじゃないわよ!!」

 

「気にするなであります! 我輩とエリカ殿の仲ではないでありますか!!」

 

「只の腐れ縁の幼馴染でしょうが!!」

 

先程までの緊迫した空気は何処へやら………

 

久美とエリカは、まるで漫才の様な遣り取りを繰り返す。

 

「「「「「…………」」」」」

 

それを見ている沙織達や弘樹達の中からは、最初にエリカに抱いていた、嫌味ったらしい女と言うイメージが雲散して行く。

 

「いやはや、恐れ入ったね………黒森峰は戦車道だけでなく、漫才道も1流らしいね………」

 

「…………」

 

迫信の皮肉に、まほは頭痛がするのを感じて頭を抱えた。

 

「アンタは如何してそう適当なの!! 黒森峰の戦車道が消えるか否かってこの時に!!」

 

「ゲロッ!? 如何言う事でありますか!?」

 

と、エリカが思わずそう言うと、久美は驚きを露わにする。

 

「ふむ、それはだね………」

 

そんなエリカに代わる様に、迫信自身が先程までの状況を久美に向かって説明した。

 

「な、何と!? そんな事になっていたのでありますか!?」

 

久美は驚愕を隠し切れない様子でそう言う。

 

(ひ、非常にマズイ状況であります………如何すれば………如何すれば………)

 

そしてすぐさま、この状況を打開する策を講じるべく、頭をフル回転させる。

 

「! そうでありますっ!!」

 

すると、何かを思いついた様な表情となり、迫信に向かい合う。

 

「大洗国際男子校生徒会長、そして大洗機甲部隊副総隊長兼歩兵部隊総隊長、神大 迫信殿! 機動防衛特殊先行工作部隊指揮戦車、Ⅳ号突撃砲車長兼分隊長として話があるであります!」

 

毅然とした態度で、迫信に向かってそう言い放つ久美。

 

「………聞こうか」

 

迫信は真面目な表情となり、久美と向き合う。

 

「「「「「…………」」」」」

 

再びその場に緊迫感が漂い始める。

 

「!!」

 

と、その次の瞬間!!

 

久美が勢い良く両膝を床に着き、更に両手も着けたかと思うと、最後には頭を着けた!

 

平身低頭覇!!

 

詰まるところ、『土下座』である!!

 

「お願いしますだ、お代官様~! 如何か!! 如何か平に御容赦を~っ!!」

 

「「「「「だあああああぁぁぁぁぁぁ~~~~~~~っ!?」」」」」

 

何をするのかと息を呑んで見守っていた地市達と沙織達は、思いっきりズッコケてしまう。

 

「お願い~っ! お願い~っ!!」

 

そんな中、久美は必死な様子で迫信に向かって土下座を続ける。

 

「ちょっ!? 止めなさい、久美!! アンタには黒森峰戦車部隊の隊員としてのプライドは無いの!?」

 

その情けない姿を見て、エリカが止めようとするが………

 

「プライドで飯は食えないのであります! エリカ殿も頭を下げるのであります!!」

 

久美はある意味の真理を突き、更にエリカにも頭を下げさせようとする。

 

「ちょっ!? 止めてよ、この馬鹿! そんなんだからアンタは駄目なのよ!!」

 

「何をぉっ!? まほ殿と一緒で、毎週末に我輩を呼びつけては部屋の掃除と洗濯! 挙句に食事の支度をさせてるのは誰でありますか!?」

 

「それを言うなぁーっ!!」

 

久美の暴露話に、エリカが顔を真っ赤にして怒鳴る。

 

「………お姉ちゃん、まだ自炊出来てないの?」

 

「…………」

 

それを聞いていたみほが、まほに問うと、彼女は無言で目を反らした。

 

「お願いであります! お願いであります!!」

 

恥も外聞も無く、只管に迫信に向かって土下座を繰り返す久美。

 

「ふむ………」

 

そんな久美の様子を見ていた迫信は、考え込む様な素振りを見せる。

 

すると………

 

「私からもお願いするよ。彼女達を許してやってはくれないか?」

 

その場に男性の良い声が響き渡り、一同はその声がした方向へと視線を向けると、そこには………

 

ドイツ国防軍の佐官用正装軍服に似た学生服を身に纏って軍帽風の学帽を被り、少々伸び気味な髪を後ろで縛ったオールバックヘアの男性の姿が在った。

 

「ゲロォッ!?」

 

「!?」

 

「貴方は!?」

 

「! 都草!」

 

その男性の姿を見た、久美、エリカ、みほ、まほが驚きの声を挙げる。

 

「君は確か………」

 

「黒森峰男子学院3年生。同校歩兵道部隊総隊長………『梶 都草(かじ とぐさ)』。宜しければ、以後お見知りおきを………」

 

そう迫信に向かって丁寧に挨拶をしながら、黒森峰女子戦車部隊を守る、歩兵道のエリート部隊、『黒森峰男子校歩兵部隊』の総隊長………

 

『梶 都草(かじ とぐさ)』は、笑みを浮かべるのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

つづく




新話、投稿させていただきました。

いよいよ全国大会開幕です。
今回は戦車喫茶でのエリカ、まほとの会合シーンの前半を書かせていただきました。
オリジナルキャラが1人登場していますが………
如何見てもあの軍曹です!
本当にありがとうございました。
何でこんなの考えたのかと言いますと、みほとエリカの中の人が日曜の朝8時半で、軍曹の中の人と共演してたもので、思いつきました。
あと、まほとエリカを原作より(色んな意味で)人間味溢れた魅力あるキャラとして書くためでもあります。

そして最後の登場した黒森峰歩兵隊の隊長『梶 都草』
彼が主人公である弘樹の、この作品を通してのライバルとなります。
カッコイイ敵キャラに仕上げる積りですので、楽しみにしていて下さい。

では、ご意見・ご感想をお待ちしております。

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