ガールズ&パンツァー+ボーイズ&ゾルダース   作:宇宙刑事ブルーノア

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最終回『大洗機甲部隊、優勝です!』

『ガールズ&パンツァー+ボーイズ&ゾルダース』

 

最終回『大洗機甲部隊、優勝です!』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

第63回戦車道・歩兵道全国大会………

 

長い長い戦いの末に………

 

遂に大洗機甲部隊は………

 

優勝の栄光を掴み取った!!

 

だが………

 

まだ倒すべき敵が残っていた………

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

戦車道・歩兵道全国大会の決勝戦の試合会場………

 

黒森峰側の応援席………

 

「負けた………」

 

「勝った勝ったぁーっ! 凄いぞみほー! まほも頑張ったなぁーっ!!」

 

愕然としているしほの隣で、常夫は無邪気に喜んでいる。

 

「そんな………黒森峰が………西住流が負けるなんて………こんな………こんな事………」

 

かなりのショックを受けている様子で、頭抱えてガタガタと震え出すしほ。

 

「そんな震える事じゃあるまい。人生は勝ったり負けたりの繰り返しだよ」

 

するとそこで、女性のモノと思われる声が聞こえて来た。

 

「!?」

 

その声に聞き覚えを感じたしほが、驚きながら声の聞こえた背後を振り返る。

 

「如何やら娘達に完全に乗り越えられたみたいだね、しほ」

 

そこにはしほと同じ様に、スーツに身を包んだ年配の女性が居た。

 

しかし、年配ではあるものの、女性は普通にしているにも関わらず、凄まじい覇気を感じさせる貫禄を持っていた………

 

例えるなら、『女王様』、『魔女』、『女帝』………

 

そんな言葉の似合うお方だった………

 

「せ、先代様!? どうしてコチラに!?」

 

「あ、どうも、お久しぶりです」

 

女性の事を『先代様』と呼び狼狽するしほと、至って普通に挨拶をする常夫。

 

「相変わらずだね、常夫。まあ、それがアンタの良い所だがね」

 

そんな常夫の様子に女性は笑みを零す。

 

「さて………それじゃ、行くとするかね」

 

「えっ!? い、行くって、どちらにっ!?」

 

「決まってるだろうが」

 

動揺し続けているしほに、女性は悪戯っ子の様にニヤリと笑って見せるのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

選手控所………

 

日が傾き、辺りがオレンジ色に染められた頃………

 

弘樹と都草を乗せた救助ヘリが、選手控所の傍に着陸する。

 

「気を付けて」

 

「問題ありません………」

 

注意して来るヘリの乗員にそう返し、弘樹は都草に肩を貸したままヘリを降りる。

 

「弘樹くーんっ!!」

 

「弘樹ーっ!!」

 

「「「「「「「「「「舩坂分隊長ーっ!!」」」」」」」」」」

 

途端に、控所に居た大洗機甲部隊の面々が、みほを先頭に駆け寄って来る。

 

「都草ーっ!!」

 

「梶歩兵隊長ーっ!!」

 

「「「「「「「「「「歩兵隊長ーっ!!」」」」」」」」」」

 

同じ様に、黒森峰機甲部隊の面々も、まほを先頭に駆け寄って来る。

 

そのまま両機甲部隊の面々は合流すると、黒森峰歩兵隊員達が、弘樹から都草を受け取る。

 

「都草っ!!」

 

「ああ、まほ………すまない、負けてしまったよ」

 

「何を言うんだ………良い戦いだったぞ」

 

心配そうに寄り添って来たまほに、都草は申し訳無さそうにそう言うが、まほは目尻に涙を浮かべながらも笑顔でそう返す。

 

「………西住総隊長。舩坂 弘樹、只今帰還致しました」

 

一方、弘樹は生真面目に気を付けし、みほに向かってお馴染みのヤマト式敬礼を取ってそう言う。

 

「お疲れ様、弘樹くん………」

 

それを笑顔で迎えるみほ。

 

「「…………」」

 

そのまま見つめ合う2人。

 

それ以上言葉は無かった………

 

まるで2人共分かっていると言う様に………

 

「完敗だな、舩坂 弘樹」

 

とそこで、都草がそう声を掛けて来た。

 

「…………」

 

都草の方に向き直る弘樹。

 

「私は全力を持って君に立ち向かった………だが君は私に勝っただけでは無く、その後のアクシデントから動けなくなった私を助ける活躍までしてみせた………君こそ歩兵道の体現者だよ」

 

「………勝負は時の運です」

 

「皮肉にしか聞こえないよ………」

 

弘樹がそう返すと、都草はフッと笑う。

 

集合していた両機甲部隊の間に、和やかな空気が流れ始める。

 

………と、

 

「いや~、おめでとうございます。大洗の皆さん」

 

そんな雰囲気をブチ壊す様に、何処か気の抜けた拍手の音と共に、役人が姿を現した。

 

「!? 文科省の!?」

 

「ななな、何をしに来たっ!?」

 

途端に表情を強張らせる杏と、思いっきり動揺を見せるまほ。

 

「いえいえ、別に何だと言うワケではありませよ。ただ、優勝校になった大洗の皆さんに祝福をと思いまして、ハイ」

 

役人は丁寧な様子でそう言うが、その態度は慇懃無礼そのものであり、欠片も祝福している様子は見えない。

 

「………約束は果たしましたよ。そうですよね?」

 

杏は警戒しながらも、そもそも大洗機甲部隊が優勝を目指していた理由………

 

大洗女子学園廃校の撤回の件を問い質す。

 

「ええ、勿論ですよ。大洗女子学園は存続ですね」

 

しかし役人は、サラリとそう返す。

 

(? 何だ? 随分とアッサリしているな?)

 

そんな役人の態度に違和感を覚える杏。

 

「いや~、黒森峰の皆さんは残念でしたねえ」

 

しかし、役人はそんな杏には目もくれず、黒森峰機甲部隊員達の方を見やる。

 

「「「「「「「「「「…………」」」」」」」」」」

 

それを聞いた黒森峰機甲部隊員達は沈痛な面持ちになる。

 

「えっ? 何っ?」

 

「如何したんだ?」

 

「「「「「「「「「「??」」」」」」」」」」

 

突然沈痛な雰囲気に包まれた黒森峰機甲部隊の様子に、大洗機甲部隊員達は困惑する。

 

「本当に残念ですが………約束通り、黒森峰は今学期いっぱいで廃校とさせていただきます」

 

「「「「「「「「「「!?」」」」」」」」」」

 

そして、役人の口から黒森峰の廃校が伝えられると、一斉に驚愕の表情を浮かべる。

 

「う、嘘っ! 廃校って………」

 

「そんな、まさかっ!?」

 

「黒森峰にも廃校の話が?………」

 

沙織、優花里、華が驚愕の表情のままそう呟く。

 

(………黒森峰の状況はそこまで悪かったのか)

 

黒森峰の状況を推察していた麻子も、そこまで追い詰められていたとは予想外だった様である。

 

「お、お姉ちゃんっ!」

 

「良いんだ、みほ。気にするな………お前は戦車乗りとして戦い、その義務を全うした。何も責任を感じる必要は無い。全ては私の責任だ」

 

「そ、そんな………」

 

諦めた様な顔で力無く笑うまほの姿を見て、みほは動揺する。

 

(やはりショックは大きい様ですね………このショックを引き摺れば、大洗は来年は1回戦負けも有り得る………そうすれば前年度の優勝はまぐれと理由づける事は簡単だ………精々来年までの学校生活を楽しみなさい)

 

一方で役人は、計画通りに事が運んで、思わず下衆な笑みを浮かべる。

 

この様子を見る為に、態々出向いた来た様子である。

 

しかし………

 

天はその悪事を見逃さなかった………

 

黒森峰に続いて大洗も沈痛な雰囲気に包まれ、すっかり優勝ムードではなくなった控所に、けたたましいサイレンの音が響いて来た!

 

「? 何だぁっ?」

 

地市のそう言う声が挙がった瞬間………

 

数台のパトカーが、控所の傍へ乗り付けた。

 

「? 警視庁だと?」

 

そのパトカーの側面に書かれていたのが、東富士演習場の在る静岡県警ではなく、警視庁の文字である事に、十河が首を傾げる。

 

何故東京が管轄の警視庁のパトカーが来たのか?

 

困惑する一同。

 

すると、乗り付けたパトカーから、スーツ姿の刑事と思われる警察官達が降りて来る。

 

そして、良い気になっていた役人の前に立つ。

 

「な、何ですか? 貴方達は?」

 

突然現れた刑事達に、役人は僅かに動揺の色を見せる。

 

「警視庁捜査二課です」

 

「同じく、捜査一課です」

 

「公安部の者です」

 

それに対し、3名の刑事が其々の部署ごとに名乗りを挙げる。

 

「文部科学省学園艦教育局長の辻 廉太さんですね」

 

「そ、そうですが………」

 

「貴方に逮捕状が出ました」

 

そう言うと、刑事の1人が、スーツの懐から1枚の書類………

 

『逮捕状』を取り出し、役人に見せつけた。

 

「「「「「「「「「「!?」」」」」」」」」」

 

逮捕状と言う言葉に、両機甲部隊の隊員達は一斉に驚愕して役人に注目する。

 

「なっ!? 何をっ!? 何かの間違いだっ!!」

 

「惚けるな! 証拠は挙がって居る! お前の秘書が全部吐いたぞっ!!」

 

「貴様が学園艦を売り飛ばそうとしたN国の工作員もな」

 

何かの間違いだと言う役人に、捜査二課と公安の刑事がそう言い放つ。

 

そして、そのまま刑事達の口から………

 

役人の恐るべき悪事が語られた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

現在、文科省が進めている『学園艦の統廃合計画』………

 

理由は学園艦の維持費による経費圧迫だが………

 

何と廃校をしなくても予算は十分に足りていたと言うのだ。

 

では、何故学園艦を統廃合しようとしたのか?

 

全ては、文部科学省学園艦教育局長である役人に、N国と言われる国の工作員が接触したのが始まりだった………

 

N国は所謂独裁国家であり、自国民から搾り取った高い税金で軍備拡張を進めており、拡張した軍事力で、周辺諸国と領土問題を起こし、国際的な非難を集めていた。

 

遂には安保理で制裁決議が可決され、あらゆる国との全ての取引が禁止される。

 

徐々に国力が衰えて行ったN国は、反省するどころか更なる軍備増強の為に、空母を保有しようと企てる。

 

だが、制裁によって衰えた国力では、空母を建造する事は叶わない………

 

そこでN国が目を付けたのが、『学園艦』である。

 

形状は正に空母であり、通常の空母よりも遥かに巨大な学園艦………

 

それを戦闘用に改造すれば、正に動く軍事基地となる。

 

そして学園艦は通常の船舶扱いをされており、コレまでも様々な国で多くの中古学園艦が他国へ払下げされている。

 

無論、軍事転用は国際法によって禁じられているが、既に制裁を受けているN国にとっては知った事ではない。

 

そしてN国は、世界でも有数の学園艦保有数を誇る日本に工作員を送り込み、役人と接触させた。

 

言葉巧みに役人を抱き込み、更に役人が学園艦解体業者や文科省の他の役人や官僚、挙句に大臣をも抱き込んで学園艦転売の隠れ蓑である統廃合計画を立ち上げた。

 

そのままN国に売る事は出来ないので、密かに裏でN国と繋がっていたC国を経由すると言う方法を取りながら………

 

しかし、そのC国経由と言うルートが仇になった………

 

C国の人間は総じて金に汚いと言われており、政府の高官であっても、金さえ渡せばアッサリと汚職に手を染めると言われている。

 

そのC国のN国への学園艦転売に関わっていた人物へ、『金さえ出せばクレムリン宮殿だって持って来てやる』と豪語する友人を通じ接触に成功したのが、ゴウトである。

 

秘密の話を金を握らせた事でアッサリと自白。

 

その話を元に証拠を集めた。

 

決勝戦直前に弘樹から迫信に渡した、あの書類である。

 

迫信はすぐにその書類をデータ化して後藤警部補と荒巻課長へ送った。

 

そして、今に至ると言うワケである。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「そんな事が!?」

 

「文科省が国際犯罪だなんて、前代未聞だぜ」

 

「何たる事を………」

 

文科省の巨悪を知った両機甲部隊の隊員達は、皆憤りを露わにする。

 

「嘘だっ! コレは私を嵌める罠だっ!!」

 

「見苦しいぞっ!!」

 

「貴様には他に、カンプグルッペ学園とつるみ、奴等のせいで敗退した学園に廃校を通達したり、西住流の強硬派にV1、V2を横流しした容疑も有る!」

 

「廃校を取り消してやると嘯き、女学園の生徒と淫らな行為をしたという、児童買春の容疑もな!」

 

尚も言い逃れようとする役人に、刑事が新たな罪状を突き付けた!

 

「ええっ!?」

 

「うわぁ………」

 

「最低………」

 

児童買春と言う言葉を聞いた両機甲部隊の戦車部隊員達の役人を見る目が、忽ち汚物を見る様な目に代わる。

 

「逮捕するっ!!」

 

そして遂に………

 

刑事の手によって、役人の手に手錠が掛けられた。

 

「や、止めろっ! コレは陰謀だっ!!」

 

「言い訳は取調室で聞いてやる! 来いっ!!」

 

喚く役人を、刑事達はパトカーに乗せようとする。

 

「い、嫌だぁっ!!」

 

が、そこで!!

 

役人は最後の力を振り絞って刑事達の拘束から脱出し、手錠を掛けられたまま逃走しようとする。

 

「あっ!? 待てっ!!」

 

「捕まってたまるかぁ! 私は! 私は!!………」

 

必死に逃げようと走る役人。

 

と、その前に、人影が立ちはだかる。

 

「!?」

 

「むんっ!!」

 

立ちはだかった人影………弘樹が、突っ込んで来る形になった役人の顔面に、思いっきり拳を叩き込んだ!!

 

「!? ゲバハッ!?」

 

メガネが粉々に砕け、錐揉みしながら地面に叩き付けられる様に倒れる役人。

 

「見苦しいぞ! 貴様も日本男児ならば、潔く裁きを受けろっ!!」

 

殴った手から血を滴らせながら、倒れている役人にそう言い放つ弘樹。

 

「弘樹! 俺にもやらせろっ!!」

 

「コイツ、許せねぇっ!!」

 

するとそこで、大洗歩兵部隊の一同が役人を取り囲む。

 

「今日ばかりは紳士である事をかなぐり捨てさせてもらおう………」

 

「私達も我慢出来ません!」

 

更にその輪に、都草を初めとした黒森峰歩兵部隊員達も加わる。

 

「オラッ! コノヤロウッ!!」

 

「テメェ、コイツゥッ!!」

 

「ぎゃああああああああぁぁぁぁぁぁぁぁぁーーーーーーーーーーっ!!」

 

そのまま一斉に役人を袋叩きにし始める両歩兵部隊員達。

 

「ちょっ! 皆っ!! 駄目だよっ!!」

 

「幾ら何でも、警察の目の前で袋叩きにすると言うのは!?」

 

沙織と優花里がそう言いながら、刑事達の方を見やると………

 

「いや~、しかし、夕陽に照らされている富士山と言うのは美しいな」

 

「全くですね」

 

何と刑事達は態とらしくそんな事を言いながら、全員が富士山の方を見ていた。

 

((((((((((ええ………))))))))))

 

そんな刑事達の様子に心の中で呆れる両戦車部隊の面々。

 

「フン! 思い知ったかっ!!」

 

「今日はコレぐらいで勘弁してやる」

 

やがて気が晴れたのか、落ち着く両歩兵部隊メンバー。

 

その中心には………

 

「…………」

 

最早声も出ず、人なのかボロ雑巾なのか分からない状態になっている役人の姿が在った。

 

「ああ、コレは酷い!? 誰がやったんだーっ!? お前達、何か見たか?」

 

「見てません」

 

「何かあったんですか?」

 

「本官のログには何も無いです」

 

態とらしくすっとぼけてそう言い放つ刑事達。

 

「まあ良い。逃亡は防がれたんだ。連行しろ」

 

「「ハッ!!」」

 

そしてそのまま、ボロ雑巾………もとい役人をパトカーに放り込み、刑事達は去って行った。

 

「………コレで文科省の学園艦統廃合計画も白紙だね」

 

それを見送り、迫信がそう言い放つ。

 

 

 

 

 

迫信の言葉通り………

 

この後、文科省がN国と結託していた事が白日の元に晒され………

 

全国民が怒りの声を挙げた!!

 

事は内閣の総辞職にまで及び、政治的混乱を避ける為にすぐさま行われた総選挙では、政権が交代。

 

新政権は直ちに文科省を徹底的に弾劾。

 

大臣を初めとした実に9割の官僚・幹部の首が飛び、逮捕されると言う、後に『戦後最大の大粛清』と言われる厳しい処分が行われた。

 

無論、N国も加担していたC国にも世界各国から批判の声が挙がり、C国にも制裁が科せられる事になる。

 

そして更に厳しい制裁を科せられたN国はとうとう暴走。

 

周辺各国へ宣戦布告し、戦争状態に突入。

 

しかし、すぐさま国連で多国籍連合軍の結成が採択され、世界各国の軍が派遣される。

 

元々制裁で国力は0に等しい状態にまで落ち、更に無駄に戦線を彼方此方に広げたN国軍は忽ち各個撃破されて壊滅。

 

直後にとうとうN国民が革命を起こした。

 

これにより遂にN国の独裁政権は崩壊。

 

今後は国連の元に民主化が進められる事になったのだった………

 

 

 

 

 

「良かったね、お姉ちゃん」

 

黒森峰も大洗も廃校から免れ、一安心したみほが、笑顔でまほにそう言う。

 

「あ、ああ………」

 

しかし、まほは何処か浮かない顔である。

 

「? 如何したの?」

 

「確かに廃校の危機は無くなったが、今の黒森峰に立ち直る力が残っているか如何か………」

 

と、まほがそう言っていると………

 

「黒森峰機甲部隊の総隊長が、何を弱気な事を言ってるんだい」

 

「えっ?」

 

「「「「「「「「「「??」」」」」」」」」」

 

不意に聞こえて来た声に、まほを初めとした両機甲部隊のメンバーが、その声が聞こえて来た方向を見やると、そこには………

 

「久しぶりだね、まほ、みほ………大きくなったじゃないか」

 

スーツ姿の年配の女性の姿が在った。

 

その後ろでは、常夫に連れられ、借りてきた猫の様に大人しくしているしほの姿が在った。

 

「? 誰?」

 

「「「「「「「「「「??」」」」」」」」」」

 

年配の女性に見覚えの無い、みほを除いた大洗機甲部隊メンバーが首を傾げる。

 

「! お祖母ちゃんっ!!」

 

「お、お祖母様っ!?」

 

「「「「「「「「「「せ、先代様!?」」」」」」」」」」

 

しかし、みほとまほ、黒森峰機甲部隊メンバーは仰天の様子を露わにして固まる。

 

「えっ? お祖母ちゃん?」

 

「みほさんの………お祖母様ですか?」

 

「にににににに、『西住 町子』様っ!?」

 

沙織と華が漠然とそう言うのとは対照的に、見た事も無いくらい動揺した様子で優花里がそう声を挙げる。

 

「如何した、秋山さん?」

 

「ああああ、あのお方は、西住流の先代の家元にして師範!! そして西住流の歴史に於いて最強と謳われた生ける伝説のお方!! 『西住 町子』様ですっ!!」

 

麻子が尋ねると、優花里は相変わらず動揺を露わに、年配の女性………『西住 町子』について語り始める。

 

 

 

 

 

『西住 町子』………

 

西住 しほの実母で、まほ、みほの祖母。

 

西住流の先代師範・家元であり、現在は日本戦車道連盟の親善大使として、世界中の戦車道連盟と交流をしている。

 

その為、日本に居る事は少ない。

 

現役を引退しているとは言え、戦車道の腕はまほやみほ、果ては現師範・家元であるしほよりも遥かに上。

 

しほが引き継ぐまで、黒森峰女学院の戦車道の担当教師を務めており、当時無名だった同校を、当時の戦車道の強豪校であった『電子高校』、『太陽高校』、『恐竜高校』、『魔法高校』と渡り合える程に強くした。

 

当時を知る者からは、『戦車女王』または『戦車魔女』、『戦車女帝』等と呼ばれ、恐れられている。

 

噂では、Ⅰ号戦車1両で、ティーガーやパンターから成る1個機甲師団を全滅させたと言う話もある………

 

 

 

 

 

「マジかよ………」

 

「トンでもねえな、オイ………」

 

優花里の話を聞いた大洗歩兵隊員達に戦慄が走る。

 

「そ、そんな人が何の用だろう?………」

 

「わ、分かんないよ………」

 

戦車チームでも、あやと梓がそんな会話を交わす。

 

「…………」

 

町子は無言でみほとまほの元へと向かう。

 

「「…………」」

 

緊張した面持ちで固まっているみほとまほ。

 

「「「「「「「「「「…………」」」」」」」」」」

 

両機甲部隊メンバーも、町子から発せられている気迫で動けない。

 

「…………」

 

只1人、弘樹だけが、ジッと町子の姿を見据えている。

 

「…………」

 

とうとう町子は、みほとまほの目の前に立つ。

 

そして………

 

「あ~、会いたかったよ~! 私の可愛い孫達~っ!!」

 

徐に2人を抱き締めると、2人に頬擦りを始める。

 

「キャッ!?」

 

「お、お祖母様っ!?」

 

「「「「「「「「「「!?」」」」」」」」」」

 

思わず声を挙げるみほとまほに、仰天して固まる両機甲部隊メンバー。

 

「ホントにもう、美人になったじゃないかい。私の若い頃にそっくりだよ」

 

「あわわわっ!?」

 

「もう~、お祖母ちゃん。くすぐったいよ~」

 

完全に狼狽しているまほとは対照的に、みほは嬉しそうな様子を見せる。

 

「あ、アレが生ける伝説?」

 

「只の孫バカなおばあだぞ」

 

「いや、コレは………」

 

「良いお祖母様みたいですね」

 

沙織と麻子が戸惑いながら、困惑している優花里に尋ねる中、華だけは笑顔でそんな台詞を言うのだった。

 

「さて、孫分も補給したし、本題に入ろうかね」

 

と、みほとまほの事を存分に堪能した町子は、すぐに真面目な表情になる。

 

「…………」

 

「うふふ、お祖母ちゃんたら」

 

そのギャップに若干付いて行けなくなっているまほと、笑いを零すみほ。

 

「先ずは黒森峰機甲部隊、それに大洗機甲部隊の諸君」

 

「「「「「「「「「「!?」」」」」」」」」」

 

そこで町子が両機甲部隊メンバーに呼び掛けると、一同に緊張が走る。

 

「………今回の件、本当にすまなかったね。許しておくれ」

 

だが次の瞬間に町子は、そう言って深々と頭を下げた。

 

「「「「「「「「「「!?!?」」」」」」」」」」

 

町子の思わぬ行動に、両機甲部隊メンバーに衝撃が走る。

 

「お祖母ちゃんっ!?」

 

「お祖母様!? 何を………」

 

みほとまほも戸惑っていると………

 

「全ては私が娘の教育を間違っちまったせいさ」

 

町子はしほの方を見やってそう言う。

 

「!?」

 

視線を向けられたしほは、一瞬ビクリとする。

 

「えっ?」

 

「それは一体?………」

 

「そもそも『勝利こそ絶対』、『勝つ為の犠牲は止むを得ない』なんて考えは西住流には無かったんだよ」

 

「「!? ええっ!?」」

 

「「「「「「「「「「!?」」」」」」」」」」

 

告げられた衝撃の事実に、みほとまほ、黒森峰機甲部隊メンバーは驚愕する。

 

「それはあの子自身が言い始めた事なんだよ」

 

しほに視線を向けながらそう言葉を続ける町子。

 

 

 

 

 

曰く………

 

生きる伝説とまで言われるくらいの凄まじい功績を遺した町子

 

だが、それは………

 

娘であり、次期後継者であるしほにとって重荷として降り掛かった………

 

町子が立てた功績故に過剰な期待を抱かれてしまい、それに十分に答える事が出来なかった結果………

 

しほは勝利至上主義者へと変貌してしまったのである。

 

『勝利こそ絶対』、『勝つ為の犠牲は止むを得ない』を新たな教訓として、西住流を、黒森峰の戦車道をより強固なものにして行った。

 

無論、町子もその姿勢を咎めたが………

 

『お母様に私の気持ちは分からない!!』

 

そう言われてしまい、何も言えなくなってしまった。

 

やがて、自分に賛同する一族の者達の支持を集め、しほは西住流の師範代・家元に就任した。

 

町子は隠居へと追いやられ、その後しほへの口出しはしなくなった………

 

だが、今回の1件を受け、事態の収拾を図る為に急遽帰国したのである。

 

 

 

 

 

「そう言うワケさ………全ては私の責任だよ。だから………今回の件の後始末は全て任せてもらうよ。安心なさい。黒森峰と西住流は必ず立て直してして見せるから」

 

そう言って、力強く、安心感を感じる笑みを浮かべる町子。

 

「お祖母ちゃん………」

 

「お祖母様………」

 

「「「「「「「「「「…………」」」」」」」」」」

 

その笑みを見て、みほとまほ、そして黒森峰機甲部隊メンバーは確信する。

 

きっと大丈夫だと………

 

(コレが先代の西住流家元か………)

 

弘樹もそんな町子の姿に、尊敬の念を覚える。

 

「…………」

 

とそこで、町子の視線が弘樹に向けられる。

 

「!!………」

 

弘樹は自然と姿勢を正し、ヤマト式敬礼を執っていた。

 

「…………」

 

そんな弘樹の姿を見て、町子は満足そうな笑顔を浮かべる。

 

「さ、みほ。行きな。優勝旗の授与が始まるよ」

 

「あ、うん!」

 

そこで、優勝旗の授与が迫っている事を町子が言い、みほは大洗機甲部隊メンバーの元へと向かう。

 

「………お姉ちゃん! お祖母ちゃん!」

 

と、その途中で立ち止まると、まほと町子の方を振り返る。

 

「やっと見つけたよ! 『私の戦車道』っ!!」

 

「!………ああ!」

 

「…………」

 

まほは一瞬驚いた様子を見せたが、すぐに笑顔になり、町子の終始満足そうな笑みを浮かべていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

そして………

 

『優勝! 大洗機甲部隊っ!!』

 

壇上の上に集合した大洗機甲部隊メンバーの前に立ったみほが、優勝旗を掲げる。

 

「うわっ!? とっ!?」

 

と、優勝旗の重さでよろめくが………

 

後ろから伸びて来た手が優勝旗の竿を掴んで支える。

 

「!………」

 

「…………」

 

振り向いたみほが見たのは、微笑を浮かべている弘樹の姿だった。

 

「…………」

 

それを見てみほも笑顔を浮かべて、正面を見やる。

 

観客達の惜しみない歓声と拍手が、大洗機甲部隊を祝福する。

 

こうして………

 

第63回戦車道・歩兵道全国大会は………

 

幕を閉じた………

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

翌日………

 

茨城県大洗町・大洗鹿島線大洗駅にて………

 

「帰って来た………」

 

優勝旗を手に、堂々の凱旋を果たしたみほ達。

 

「総隊長、何か言え」

 

するとそこで、杏の無茶振りが振られる。

 

「えっ!?」

 

「「「「「「「「「「…………」」」」」」」」」」

 

戸惑うみほに、大洗機甲部隊メンバー全員の視線が注がれる。

 

「え、ええっと………」

 

「みほくん。『アレ』で良いだろう」

 

戸惑うみほに、弘樹がそうアドバイスする。

 

「あ! うん!!………パンツァー・フォーッ!!」

 

「アールハンドゥガンパレード!」

 

「「「「「「「「「「おおーっ!!」」」」」」」」」」

 

そして、みほと弘樹からお馴染みの掛け声が掛けられると、ガッツポーズと共に跳び上がった。

 

 

 

 

 

 

 

そのまま、大洗機甲部隊は学園艦に向かって街中を行軍。

 

その途中で、町中の人々から大歓声の祝福を受けた。

 

地元のマーチングバンドの演奏が響き………

 

百合に新三郎、淳五郎に好子、久子、湯江と言った家族達にも見守られ………

 

一航専の航空機が上空でアクロバット飛行を披露し………

 

洋上で呉校艦隊が祝砲を盛大に撃つ中………

 

大洗機甲部隊は、自らが守り抜いた母校の在る………

 

『大洗学園艦』へと帰還するのだった………

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

エピローグへつづく




新話、投稿させていただきました。

遂に明らかになった文科省の陰謀。
何と国際的な犯罪でした。
コレは公安も動きます。
しかし、暴露された事で学園艦統廃合計画自体が無くなり、大洗も黒森峰も存続出来る事になりました。

そして登場した先代の西住流師範で家元………
みほ達のお祖母ちゃん、『西住 町子』
モデルは、特撮界の永遠の女王様である魔女である『曽我 町子』さんです。
先代と言う事で、あのしほを超える様な人物を想像していたところ、特撮で多くの悪の女王を演じられた曽我さんのイメージが来まして。
人当たりが良いのは、普段の曽我さんのエピソードなんかから来てます。
彼女の下に、黒森峰と西住流は再起を行います。
具体的にどんな感じに風評を払拭したかは、黒森峰組の出番もあるOVAのリボンの武者エピソード内で語ります。

何はともあれ、遂に大洗機甲部隊の優勝です。
優勝旗を引っ提げて大洗に凱旋。
そして、自分達の守り抜いた学園艦へと戻ります。

次回はエピローグとなる『エンカイ・ウォー』
その後にショートエピソードの『勲章授与』を挟み、OVAとなるリボンの武者エピソード………
そしてその後に劇場版です。
まだまだお使いの程をお願い致します。

では、ご意見・ご感想をお待ちしております。

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