ガールズ&パンツァー+ボーイズ&ゾルダース 作:宇宙刑事ブルーノア
『劇場版 ガールズ&パンツァー+ボーイズ&ゾルダース ~炎のさだめ~』
チャプター12『初恋の思い出です!』
各校機甲部隊メンバーが大洗の町を楽しんでいる中………
弘樹とみほ、都草とまほはダブルデートに出る。
訪れたのは、みほが愛して止まないキャラクター『ボコられグマ』、通称『ボコ』のミュージアムだった。
見た事無いテンションで燥ぐみほと、付いて行けずに困惑するばかりの都草とまほ。
そして何故かボコに興味を抱いている様子の弘樹と、多様な反応を見せる面々。
そんな中、みほ達は謎のサイドテールの少女と出会う。
コレが後にあの戦いの切っ掛けとなるとは………
この時、誰も予想していなかったのだった………
大洗町・ボコミュージアムの入り口………
「あ~、面白かった! やっぱり何回見てもボコは良いよね!!」
「あ、ああ………」
「そうだね………」
2回目のボコショーの鑑賞を終え、益々テンションが上がっているみほと、対照的に若干疲れた様子を見せているまほと都草。
「…………」
そして例によって仏頂面な弘樹だった。
「イッテーよぉーっ!!」
「「「「………?」」」」
とそこで、何か声が聞こえて来て、一同はその声が聞こえて方向に視線を向ける。
「イデデデデッ! イッテーよぉーっ!!」
「あ~あ~、こりゃ骨が折れてんなぁ」
「おうおう、嬢ちゃん。如何してくれんだ?俺のダチが骨折しちまったじゃねえか」
「そ、そんな………ちょっとブツかっただけで………」
「何だぁ? 俺達が嘘言ってるって言いてぇのかぁ?」
「うう………」
そこには、あのサイドテールの少女が、3人のチンピラ風の男に取り囲まれている光景が在った。
如何やら因縁を付けられてしまった様だ。
「アイツ等、あんな子供に………」
「許せないね………」
すぐにまほと都草が助けに向かおうとする。
しかし………
「取り敢えず、親を呼んでもらって………」
「折れたと言うのはこの足か?」
チンピラが少女の親に連絡させようとしたところで、何時の間にか移動していた弘樹が、足が折れたと主張していたチンピラの足を掴むと、持ち上げた。
「!? ぐはっ!?」
突然足を持ち上げられたチンピラは、当然転倒し、後頭部を地面に強かに打ちつける。
「…………」
だがそこで弘樹は、持ち上げた足を捻り始める。
「ぎゃあああああああぁぁぁぁぁぁぁぁーーーーーーーーーっ!?」
足が普通は曲がらない方向へ曲げられ、悲鳴を挙げるチンピラ。
「コ、コイツッ!」
「何さらすんじゃあっ!!」
それを見た残る2人のチンピラが、弘樹に襲い掛かろうとしたが………
「………むんっ!!」
その瞬間に弘樹は、足を捻っていたチンピラを武器代わりに振り回し、向かって来たチンピラ2人に向かって投げ飛ばした!
「「「!? ぐはっ!?」」」
3人纏めてブッ飛ばされ、地面を転がるチンピラ達。
「こ、コノヤロウ! もう許さ………」
「!? オ、オイ、待てっ!?」
「こ、コイツ!? 舩坂 弘樹だっ!!」
チンピラの1人が尚も立ち向かおうとしたが、そこで残る2人が弘樹の正体に気づく。
「舩坂って………!? 絢爛舞踏っ!?」
「人なんて息をするみたいに殺っちまうって話だぞ!?」
「………死にたい奴は前に出ろ」
途端にチンピラ達が戦慄すると、態と低いドスが効いた声で弘樹はそう言い放つ。
「「「スンマセンでしたーっ!!」」」
その瞬間にチンピラ達は土下座し、そして我先にと逃げ出して行った。
「…………」
そんなチンピラ達を冷めた目で見送る弘樹。
「いやはや、君の仕事の早さには感服させられるよ」
「君、大丈夫か?」
そんな弘樹に都草がそう声を掛け、まほが少女の傍に屈み込む。
「う、うん………あ、アレ?………!? な、無いっ!?」
するとそこで少女はポケットを探り、何かが無くなった様な様子を見せる。
「コレの事?」
みほがそう言い、少女の傍に落ちていたあの激レアのボコのヌイグルミを差し出す。
「! ボコッ!!」
少女はそれを確認すると、嬉しそうな顔をしてボコを受け取る。
「良かった………」
「貴方もボコが好きなんだね」
ボコを大切そうに顔に摺り寄せる少女の姿を見て、みほはそう言う。
「うん、大好き!」
「そっか! 私と一緒だねっ!!」
少女がそう答えると、みほは途端に嬉しそうな様子を見せる。
「貴方もボコが好きなの?」
「うん! 喧嘩っ早いのに、全然弱くて、何時もボコボコにされて!」
「でも、全然諦めないでまた喧嘩してボコボコにされる!」
「「それがボコだからっ!!」」
みほと少女はガッチリと握手を交わす。
如何やらすっかり意気投合した様だ。
「「…………」」
「…………」
そんなみほの様子に苦笑いを浮かべて固まるまほと都草に、何時も通りな弘樹。
「えへへ、何か嬉しいな。今までボコの事で話し合える人って居なかったから」
「そうなの? 如何して皆分かってくれないんだろ?」
しかし、そんな3人を置いてけ堀にして、みほと少女の会話は尚弾む。
「あ、そう言えば、まだ自己紹介してなかったね。私、西住 みほ」
「姉のまほだ」
「梶 都草です。よろしく、お嬢さん」
「………舩坂 弘樹だ」
そこでみほがまだ名乗って居なかった事を思い出して自己紹介すると、まほ、都草、弘樹も続く様に自己紹介する。
「!?」
そこで少女は強張った表情を浮かべたが、ほんの一瞬だった為、一同は気づかなかった。
(? 何だ、今の反応は?………)
弘樹だけを除いて。
「わ、私はし………『愛里寿』」
少女………『愛里寿』は若干どもった後、自己紹介する。
「愛里寿ちゃんか。可愛い名前だね」
「そ、そう?………」
「うん! すっごく可愛いよ!」
「あ、ありがとう………」
手放しで褒めて来るみほに、愛里寿は照れた様子を見せる。
「ねえ、私と友達にならない?」
「友達?………」
「うん! 駄目、かな?………」
不安そうな目で愛里寿を見やるみほ。
「………ううん。凄く嬉しい」
だが愛里寿は、柔和な笑みを浮かべてみほに右手を差し出す。
「ありがとう! よろしく! 愛里寿ちゃんっ!!」
みほはその手を取って、固く握手を交わす。
この日みほに………
ボコ仲間の友達が出来たのだった………
◇
その夜………
大洗学園艦・甲板都市………
舩坂家にて………
「………と言う事があってな」
「まあ、そんな事があったんですか」
夕飯をちゃぶ台の上に並べながら、昼間の出来事を話していた弘樹に、湯江がそう言う。
「ああ、みほくんとしても、趣味が合う友達が出来て嬉しかっただろう」
ボコミュージアムの売店で買ったボコの大きめなヌイグルミを携えながら、弘樹がそう返す。
「うふふ………」
と、その姿を見た湯江が思わず吹き出す。
「? 何だ?」
「いえ、お兄様とヌイグルミと言う取り合わせが何だか可笑しくって………ふふふ」
弘樹が首を傾げると、湯江はそう答えながら更に吹き出す。
「コレはお前への土産だ」
すると弘樹は、そう言ってボコのヌイグルミを湯江に差し出す。
「あら、そうでしたか。それにしても………変わったキャラクターですね」
ボコのヌイグルミを受け取った湯江は、傷だらけのボコの姿を見て率直な感想を口にする。
「…………」
そんな湯江の言葉を聞きながら、弘樹はボコの姿を思い浮かべた後、愛里寿の事を思い出す。
(………あの時の表情)
気になっているのは、自分達が自己紹介した時に、ほんの一瞬だけ見せた強張った表情である。
(何故あんな顔を………小官の見間違いか?)
愛里寿があんな表情を見せた理由が分からず、見間違いかとさえ思い始める弘樹。
「あ、お兄様。始まりましたよ」
とそこで湯江が、テレビ番組が始まったのを知らせる。
「ああ………(如何にも何かが起こりそうな予感がする………外れてくれれば良いが)」
弘樹は一抹の不安を感じながらも、それが杞憂である事を願い………
最近ハマっている5人の中年農家兼アイドルが、無人島を開拓する番組を見つつ、夕食を摂り始めるのだった。
◇
そして翌日………
大洗女子学園学生寮のみほの部屋では………
残っていた夏休みの宿題を片付ける為、あんこうチームの勉強会が開かれていた(麻子は全て終わっている為、付き添い兼家庭教師役)。
「それでね、愛里寿ちゃんって凄いんだよ! 私でも持ってないボコグッズを持ってたりして!」
勉強を進める中、みほは類友が出来た事が嬉しかったのか、愛里寿と友達になった事を嬉々として語っていた。
「へえ~、そうなんだ~」
「良かったですね、みほさん。趣味が合うご友人の方が出来て」
沙織と華は、自分の事の様に喜んでくれている。
「不肖、この秋山 優花里。西住殿の事は理解している積りですが、流石にボコの事はちょっと………」
一方、みほへの忠臣ぶりを発揮している優花里だが、ボコの事だけは理解出来ないと語る。
「ええ~、ボコ可愛いのに」
「いや、全く分からん………」
不満そうにそう言うみほだったが、麻子が何処かの猫科のフレンズの様な台詞でツッコミを入れる。
「むうう~~………」
それを聞いて更にふくれっ面になるみほ。
「みほさんは如何してそんなにボコさんの事が好きなのですか?」
するとそこで、華がそんな事をみほに尋ねた。
「えっ………?」
その質問を聞いたみほは、一瞬戸惑う様な様子を見せる。
「あ、分かった! ズバリ、恋の思い出があるんでしょうっ!?」
沙織はそんなみほの表情を見てそう推理する。
「沙織、如何してお前はそうピンク色な方向に持って行くんだ………?」
幼馴染の相変わらずの思考に、麻子が呆れる様にそう言ったが………
「…………」
当のみほは、頬を赤く染めて俯いていた。
「えっ? ひょっとして………マジ?」
「あらあら………」
まさかの直撃弾に、沙織自身は困惑し、華も意外そうな顔をする。
「ほほほ、本当なんですか、西住殿!?」
「沙織の勘が当たるとは………明日は空から戦車が振って来るかもしれん」
何故か動揺しまくる優花里に、唖然とした様子の麻子。
「ねえねえ、教えてよ! どんな恋の思い出なのっ!?」
物凄い勢いでみほに食い付く沙織。
「ふええっ!?」
「沙織さん、失礼ですよ」
「そそそ、そうですよ!」
「親しき仲にも礼儀ありだ」
みほは戸惑うと、華、優花里、麻子が制する。
「うう~、だって~………」
「………良いよ。話すよ」
沙織が未練がましい様子を見せていると、みほはそう言って来た。
「えっ!?」
「みほさん、良いんですか?」
華が心配する様にそう言って来るが………
「うん。だって………沙織さん達は友達だから」
みほは笑ってそう言う。
「あ、あはは………ありがと、みぽりん」
そんな真っ直ぐなみほの言葉を受けて、沙織は気恥ずかしそうに頭を掻く。
「「「…………」」」
華、優花里、麻子も、何処か照れた様子を見せている。
そこでみほは立ち上がると、ボコのヌイグルミが並んでいる棚から、1つのボコのヌイグルミを取る。
それは大分年季が入っている様に見え、元々ボコボコな姿なボコのせいで、かなり古ぼけている様に見える。
「それは………?」
「大分年季が入っているな………?」
華が尋ねると、麻子がそう指摘する。
「コレはね………私が初めて出会ったボコ………『初恋の思い出のボコ』なんだ」
みほは懐かしむ様な穏やかな笑みを浮かべて、その古いボコ………『初恋の思い出のボコ』を胸に抱き寄せた。
◇
みほの回想………
それはまだ、みほが幼き日の頃………
この頃のみほは、今と比べてかなり活発………
いや、やんちゃと言っても良いほどの性格であった。
西住家が所有していた自家用のⅡ号戦車の上から飛び降りて姉のまほ共々泥だらけになったり………
そのⅡ号戦車を水没させ、まほと共に母・しほにこっぴどく怒られていたにも関わらず、猫を見つけて移り気したりと………
父・常夫に似たのか、中々の大物ぶりを発揮していた。
そんなある日………
例によって、稽古をサボらせた常夫が、まほとみほを連れて熊本市の中心街へ繰り出した。
見た事も無い数の人で溢れた熊本市に、みほは大興奮。
そして、常夫とまほがちょっと目を離した隙に、2人から離れて1人で歩き出してしまったのである。
色々な初めてのモノを見て、大満足していた。
しかし………
イザ戻ろうとした瞬間、初めて自分が迷子になっていた事に気づく。
流石のみほもコレには狼狽え、常夫とまほの姿を探して見知らぬ街を走り回った。
だが、2人の姿は何処にも見えず………
寧ろ動き回った事で余計に迷子になってしまっていた。
やがて動く体力も無くなり、道の片隅で座り込んでしまった。
「ヒック……ヒック………お姉ちゃん………お父さん………」
そのまま泣き出すみほ。
だが、都会の無関心か、道行く人は気にも留めない。
「ヒック……ヒック………」
みほは更に泣きじゃくる。
「ヒック………?」
だがそこで、何かの気配を感じて顔を上げると………
「…………」
そこには、国民服姿のみほと同じ歳ぐらいの少年の姿が在った。
「…………」
何も言わずに、ただみほの前に佇む少年。
「…………」
みほも黙って少年を見上げる。
「………ヒック」
だが、やがて沈黙に耐え切れなくなったのか、再び愚図り出す。
「………!」
そこで少年は動揺した様子を見せる。
「………!」
そしてキョロキョロと周囲を見回すと、すぐ近くに玩具屋が在るのを発見し、飛び込む様に入店した。
数分後………
「…………」
玩具屋から出て来た少年が、再びみほの前に立つと、何かを差し出す。
「………?」
それはボコボコにされたクマのヌイグルミ………
みほが『初恋の思い出のボコ』と語った、あのボコだった。
「…………」
戸惑いながら、そのヌイグルミを手に取るみほ。
「…………」
ジッとそのボコを見つめるみほ。
「…………」
少年はややハラハラしている様子で、そんなみほの姿を見守っている。
「………プッ! 変なヌイグルミーっ!」
やがてみほは、目尻に涙を浮かべたまま、そう言って笑った。
「………!」
その笑顔を見た少年は、漸く安堵した様な様子を見せたのだった。
その後、落ち着いたみほの手を引き、少年は近くの交番へと向かった。
訪れた交番には、丁度常夫とまほが駆け込んでおり、みほが交番に姿を見せた瞬間に、思いっきり抱き付いて来た。
交番のお巡りさんが事情を聞くと、みほは少年の事を言ったが………
その時には既に少年の姿は何処にも無かった。
少年の姿を見ていたのはみほだけだった為、常夫もまほも最初は疑ったが………
みほの手には確かに、少年がくれたボコが残っていた………
尚、帰宅した常夫が、しほからこっぴどく叱られたのは言うまでもない………
◇
現在・大洗学園艦………
大洗女子学園寮・みほの部屋………
「…………」
話し終えたみほは、その『初恋の思い出のボコ』を再び棚に置いた。
「う~ん! 甘酸っぱ~いっ!!」
何とも甘酸っぱい初恋の思い出に、沙織は頬に手を当てながら身を捩る。
「素敵な思いでですね」
華も聞き入っていたのか、ほんのりと頬を染めてそう言う。
「それにしても、その少年と言うのも凄いですね。当時の西住殿と同い年ぐらいでそんな対応を取れるなんて………」
「事が終わったら名前も告げずに去って行く………まるで正義のヒーローだな」
優花里と麻子も、顔を見合わせながらそう言い合う。
「で、後から思い出して、その子の事が好きになってたんだ」
「…………」
沙織の言葉に、みほは恥ずかしそうに赤面する。
「それで、その方は?」
「あの後、お礼が言いたくてお父さんと一緒にその子を探してみたんだけど、どうしても見つからなかったんだ………市の小学校とかにも問い合わせてみたんだけど、分からなくて」
そこで華がそう尋ねると、みほは残念そうにそう答える。
「そうでしたか………」
「あ、皆。この話………弘樹くんにはしないでね」
するとそこで、みほはそう釘を刺して来た。
「? 如何して?」
「だって………気を悪くするかも知れないし………」
弘樹が気を悪くするのではと心配するみほ。
「じゃあみぽりんは、舩坂くんに初恋の人が居たら気を悪くする?」
「! そんな事ない!」
沙織の言葉に、即座にそう返すみほ。
「じゃあ、大丈夫だよ。きっと舩坂くんも同じだよ」
「あ………」
「舩坂くんなら、その話をしたって、きっと全部ひっくるめてみぽりんの事を好きでいてくれる………そうでしょ?」
「………うん」
照れながらも、みほは沙織にそう返した。
「うふふ、お熱いですね」
「ああ~、私も神狩殿とそんな関係になれたら………」
華と優花里もそう言い合う。
「オイ、そろそろ宿題に戻るぞ。予定を大幅にオーバーしてるんだからな」
しかしそこで、麻子が時計を指差しながらそう指摘した。
「! わあっ!? もうこんな時間っ!?」
「ヤバイよーっ!!」
「すぐに終わらせましょう!」
「了解です! 電撃戦でありますっ!!」
みほ達は大慌てて夏休みの宿題の残りを再開するのだった。
つづく
新話、投稿させていただきました。
原作ではお互いに相手の事を知らずに会合したみほと愛里寿でしたが、この作品では少し交友を持つ事になります。
その方がドラマとして盛り上がると思いまして。
そして今回のサブエピソード。
みほの初恋の思い出です。
勘の良い方は気づいているかも知れませんが、そこは言わぬが花でお願いします。
愛里寿も登場した事で、次回から物語が大きく動き出します。
お楽しみに。
では、ご意見・ご感想をお待ちしております。