ガールズ&パンツァー+ボーイズ&ゾルダース 作:宇宙刑事ブルーノア
『ガールズ&パンツァー+ボーイズ&ゾルダース』
第30話『英霊VS442です!』
フラッグ車の撃破に手間取り、サンダース戦車部隊と442連隊の増援を招いてしまった大洗戦車部隊。
アヒルさんチームの八九式と、ウサギさんチームのM3リーが撃破され、窮地に陥る………
だが、その頃………
白狼の救援によって、窮地から脱した大洗歩兵部隊の内、弘樹達と共に半数が歩兵副隊長であるボブを撃破して、カーネル歩兵部隊の包囲網を突破。
そのまま更に、カーネル歩兵隊長のジェイをも撃破し、楓達の偵察兵部隊と合流。
大洗戦車部隊の救援に向かった。
果たして、間に合うのだろうか?
観客席・まほが居る小高い丘の上………
「もう時間の問題ですね」
「…………」
「みほ殿………」
エリカは大洗戦車隊の様子を見てそう言い放ち、まほは無表情で、久美は不安げな表情でそれを聞いていた。
「いや、それは如何かな? 言っただろう? 勝負と言うものは、始まってから終わるまで、如何転ぶか分からないものだとね………」
しかし、都草だけはそう言って、楽しそうに笑っていた。
一方、その大洗戦車部隊は………
サンダース戦車部隊のフラッグ車を追いながら、ファイアフライを含めたサンダース戦車部隊とカーネル442連隊に追われている。
八九式とM3リーがやられた事で、サンダース戦車部隊からの砲撃は激しさを増している。
『危ない危ない、大洗戦車部隊! 最早その命運も風前の灯火かぁ!?』
『コレはマズイですよ………』
放送席のヒートマン佐々木とDJ田中も、大洗戦車部隊の劣勢を見て、そう実況する。
「………もう駄目なの?」
沙織の口からそんな言葉が漏れる。
「…………」
みほはそれに返事を返せず、只々黙り込むだけだった。
「ほうら、見なさい! アンタ達何か蟻よ蟻! 呆気無く象に踏み潰されるね!!」
アリサはすっかり調子付き、大洗戦車部隊をそう小馬鹿にしている。
とそこで、カバさんチームのⅢ突が、38tの背後へ回った。
突撃砲と言う特性上、追撃戦には不向きな為、フラッグ車の盾になる道を選んだらしい。
「弁慶の立ち往生の様だ………」
「最早コレまで………」
「蜂の巣に されてボコボコ さようなら」
「辞世の句を詠むな!!」
しかし、後方から迫り来るファイアフライを含めたサンダース戦車部隊と442連隊を見て、流石のカバさんチームにも諦めムードが漂う。
「駄目だ………もう終わりだ………」
中でも1番諦めているのが桃だ。
まるでこの世の終わりでも訪れたかの様な表情である。
「っ!!………」
みほも、無意識の内に震えていた左手を右手で握り締める。
その間にも、後方のサンダース戦車部隊の砲撃が襲い掛かる。
Ⅳ号が果敢にもフラッグ車を攻撃するが、中々命中しない。
と、1発の砲弾が、38tの砲塔側面を掠めて、火花を散らした。
「ヒイッ!?………」
それが引き金になったかの様に、桃の目に涙が浮かぶ。
「も、桃ちゃん! 大丈夫だよ! 掠っただけだし!!」
蛍が慌てて宥めようとするが効果は無い。
「あんなに近づいて来た!」
「追い付かれるぞ!」
「駄目だ~~~~っ! やられた~~~~~っ!!」
次々と悲痛な叫びが挙がり始める。
「! 皆、落ち着いて!!」
するとそこで、みほが全員に向かってそう呼び掛けた!!
「「「「「「「「「「!?」」」」」」」」」」
「落ち着いて攻撃を続けて下さい! 敵も走りながら撃って来ますから、当たる確率は低いです! フラッグ車を叩く事に集中して下さい! 今がチャンスなんです!!」
自身も顔に冷や汗を浮かべながらも、皆を鼓舞する様にそう言葉を続けるみほ。
「当てさえすれば勝つんです! 諦めたら、負けなんです!!」
「諦めたら………」
「負け………」
みほの言葉を聞き、エルヴィンと柚子がそう呟く。
「いや、もう駄目だよ、柚子ちゃ~~~ん!!」
しかしそんな中、桃は1人情けない声を挙げる。
「大丈夫、大丈夫」
「桃ちゃん! しっかりして!!」
「…………」
そんな桃を慰める柚子と蛍に、無言で頭を撫でる杏。
「…………」
そして、そうは言ったみほだったが、それで絶望的な状況が変わるワケではなく、再び俯いてしまう。
すると………
そんなみほの、膝の上に置いていた右手に、装填手席の優花里の左手。
左手に、砲手席の華の右手が乗せられる。
「西住殿の言う通りです」
「そうだよね………諦めたら、負けなんだよね!」
「うん………」
優花里がそう言うと、通信手席の沙織、操縦席の麻子もそう言い放つ。
「皆………」
『そうだ、諸君! 諦めるのはまだ早いぞ!!』
みほがそれに感激した様子を見せた瞬間、通信回線に男性の声が響き渡った。
「「「「「「「「「「!!」」」」」」」」」」
「! 舩坂くん!!」
皆が驚く中、その声の主が弘樹である事に気付くみほ。
その次の瞬間!!
試合会場内に、ラッパの音色が鳴り響いた。
「むっ?………」
「WHAT?」
「何だ?………」
「何よ、このラッパ?」
突如として聞こえて来たラッパの音色に、サンダース&カーネル機甲部隊の面々は困惑した様子を見せる。
そのラッパの音色は………『突撃ラッパ』だった!!
「突撃いいいいいいいぃぃぃぃぃぃぃぃーーーーーーーーーっ!!」
「「「「「「「「「「うおおおおおおおおおぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉーーーーーーーーーーーっ!!」」」」」」」」」」
そして次の瞬間!!
大洗戦車部隊を追撃していたサンダース戦車部隊と442連隊の中に向かって、側面から弘樹が乗るくろがね四起を先頭に、大洗歩兵部隊が突っ込んだ!!
「なっ!?」
「て、敵襲ーっ!! 大洗の歩兵部隊だぁーっ!!」
「大洗、バンザーイッ!!」
「「「「「「「「「「バンザーイッ!!」」」」」」」」」」
全員が万歳と叫び、サンダース戦車部隊と442連隊の中へと雪崩れ込んだ。
『おお~っと!! 大洗歩兵部隊の乱入だぁーっ!!』
『乱戦ですよぉ、コレは』
ヒートマン佐々木とDJ田中の実況にも熱が入る。
「おうわぁっ!?」
「危ないっ!!」
「避けろっ! 避けろっ!!」
突如として、自分達の隊列の中へと雪崩れ込んで来た大洗歩兵部隊の面々に、サンダース戦車部隊と442連隊は混乱し、避けようとして戦車部隊と車両部隊が一斉にハンドルを切る。
密集陣形を取っていた中で、突然各々が勝手に動き出せば如何なるかは………火を見るよりも明らかだった。
「「「「「おうわあああああぁぁぁぁぁぁーーーーーーーっ!?」」」」」
442連隊のジープ同士が激突し、乗員が車外へと投げ出される。
打ち所が悪かったと判定された者には、そのまま戦死判定が下る。
「「「「わあああああぁぁぁぁぁぁーーーーーーーっ!?」」」」
更に別のジープも、シャーマンの1両と接触。
シャーマンはビクともしなかったが、ジープの方は錐揉み回転する様に宙に舞い、そのまま逆さまになった。
「「「ぐああああああぁぁぁぁぁぁぁーーーーーーーーっ!!」」」
他にも、突っ込んで来た大洗歩兵部隊の車両を避けようとして急激にハンドルを切り、車体が横倒しとなって投げ出される者達の姿もある。
「キャアァーッ!?」
「SORRY!!」
シャーマン同士も接触事故を起こし、停止してしまう。
「ガッデム! ボブったら突破されたの!? 何やってるのよ!!」
ケイが珍しく、苛立っている様な声を挙げてそう言い放つ。
「落ち着け、ケイ総隊長! 冷静に指揮を執るんだ!!」
そんなケイを、ジョーイが宥めようとする。
「! 側面から大洗の車両が!!」
「!? 何っ!!」
とそこで、ジープの運転手からそう報告が挙がり、ジョーイが横を見ると、そこには………
ジョーイ達が乗るジープに向かって、一直線に突っ込んで来ている助手席に弘樹を乗せたくろがね四起の姿が在った。
「分隊長! 本気なんですか!!」
「本気だ! このまま突っ込めっ!!」
「ああ~、もう! ヤケクソだぁ~っ!!」
運転席に着いて居るとらさん分隊員にそう言い放ち、くろがね四起はジョーイが乗るジープに突っ込んで行く。
「つ、突っ込んで来るぞっ!!」
「クレイジーだ! 大洗の連中は皆イカれてやがるっ!!」
「しがみ付けっ!!」
同乗する442連隊員が、悲鳴の様な声を挙げる中、ジョーイがそう叫んだ瞬間!!
「「「「バンザーイッ!!」」」」
弘樹が乗るくろがね四起が、ジープに突っ込んだ!!
「「「うわあああああぁぁぁぁぁぁーーーーーーーっ!!」」」
「くうっ!?」
振り落されそうになる中、必死に車体にしがみ付くジョーイ。
「!?」
だが、その時!!
ジョーイは見た!!
自分に向かって飛び掛かって来る………
舩坂 弘樹の姿を!!
「うおおおおおおおぉぉぉぉぉぉぉぉーーーーーーーーーっ!!」
「ぐおあっ!?」
弘樹はそのままジョーイに体当たりし、ジョーイをジープから引き摺り下ろした!!
「ぐあっ!?」
「ぬうあっ!?」
そのまま地面を転がるジョーイと弘樹。
「「!!」」
だが両者とも素早く立ち上がり、弘樹は九九式短小銃を、ジョーイはM1ガーランドを構えた。
周りでは、既に大洗歩兵部隊と442連隊員達が入り乱れた乱戦が始まっている。
「だ、駄目です! 動けません!」
「くうっ!? こう両軍が入り乱れてたら、援護も………」
サンダースの戦車部隊はその乱戦に巻き込まれ、大洗戦車部隊の追撃を中断せざるを得なくなった上、乱戦の為に442連隊の援護が不可能となっていた。
「舩坂さん達が!!」
と、その様子を砲塔のハッチを開けて見ていた優花里がそう声を挙げる。
「舩坂くん………ありがとう! 皆! フラッグ車を撃破するチャンスは今です!!」
「了解っ!!」
「こうまでしてもらったら、やるっきゃないね!」
それを見たみほはそう呟いた後、カバさんチームとカメさんチームにそう呼び掛け、フラッグ車への攻撃を再開する。
(………良し、コレで何とか………)
それを横目で見ていた弘樹が、心の中でそう思っていると………
「!!」
殺気を感じて反射的に横へ飛び退くと、先程まで弘樹が居た場所を銃弾が通過した!!
「良く避けたな………」
銃口から硝煙が上がって居るM1ガーランドを構えていたジョーイがそう言い放つ。
「…………」
弘樹は無言のまま、ジョーイに九九式短小銃を向け直す。
「舩坂 弘樹………英霊の血を引く者よ………正直、お前と戦える事を楽しみにしていたぞ」
「そう思ってもらえるとは光栄だな………」
「貴様を倒す………我が偉大なる祖先達のアメリカ陸軍第442連隊戦闘団の名に掛けて!」
「…………」
そのまま、弘樹とジョーイの2人は、銃を構えての睨み合いへと発展する。
と、その時!!
「「「うわあああああぁぁぁぁぁぁーーーーーーーっ!!」」」
またも442連隊のジープが横転し、乗員が投げ出されたジープが、弘樹とジョーイの間を土煙を挙げて通り過ぎて行った。
「「!!」」
その瞬間に、2人は土煙に紛れて移動を開始!
「そこか!」
弘樹が居る位置に当たりを付けてM1ガーランドを発砲するジョーイ。
「!!」
足元に銃弾が着弾したのを見た弘樹は、その銃弾が飛んで来た方向へ九九式短小銃を発砲する。
「狙いが甘いぞっ!!」
だが、銃弾は外れ、弘樹がコッキングを行っている間に、ジョーイは更にM1ガーランドを発砲する。
「クッ!!」
咄嗟に、目の前に在った砲弾の着弾で出来た窪地へ転がり込む様に隠れる弘樹。
その間に、ジョーイのM1ガーランドの弾丸が次々に飛んで来る。
(流石はM1ガーランド………正面切っての撃ち合いは不利か………)
目の前に土に銃弾が当たって弾けても、弘樹は顔色1つ変えずにそう思案する。
ジョーイが使用しているM1ガーランドは半自動小銃………
即ち、引金を引く毎に弾が1発ずつ発射され、射撃姿勢を崩さずに連射する事が可能なのである。
対する弘樹の九九式短小銃はボルトアクション式………
つまり、1発撃つ毎にボルトを操作し、排莢と次弾装填を行う必要が有るのだ。
その為、余程熟練しなければ連射速度は早くならず、ボルト操作の為には多少の差は有れど、射撃姿勢を崩さなければならない。
早くも武器の差が出始めていた。
(しかし、ガーランドには弱点が有る………)
窪地の中に伏せながらそう思案する弘樹。
そう、一見有利に見えるM1ガーランドだが、弱点も存在する。
M1ガーランドは、エンブロック・クリップ装弾方式と言う装弾方式で弾を装填している………
つまり、専用のクリップに弾丸を挟み、そのクリップを銃へと装填するのである。
クリップには8発の銃弾を挟め、撃ち終えたクリップは自動的に排出される。
その後に新たな銃弾を挟んだクリップを挟めば、素早く射撃を続行する事が出来る。
だが、そのクリップこそが最大の弱点でもあった。
先程説明した通り、ガーランドは装弾した弾を全て撃ち切ると、クリップを自動で排出する。
その際に、クリップは独特の金属音を立てる。
つまり、その音で弾切れの瞬間が相手に分かってしまうのだ。
だが、この絶え間なく銃撃音や爆発音等の様々な音が鳴り響いている戦場で………
クリップの音を聞き分ける事は困難である。
「…………」
それでも、弘樹は九九式短小銃に着剣すると神経を研ぎ澄ませる。
すると、周りで立っている音が、徐々に遠ざかって行く様に感じ始める。
ドンドンと音が遠くなって行き………
遂には無音の世界が、弘樹の周りに展開した。
「…………」
その無音の世界の中で、何かを待つ様にじっとしている弘樹。
すると、その時!!
無音の世界に、ピーンッ!と言う金属音が鳴り響いた!
(! 今だっ!!)
その瞬間に弘樹は起き上がり、ジョーイが居る方向に向かって、着剣した九九式短小銃を構えて突撃する!!
「!」
しかし、そこで弘樹が見たのは、突っ込んで来る自分に向かってM1ガーランドを構えているジョーイの姿だった!
「掛かったな!」
そう言うジョーイの足元には、空のクリップが転がっている。
最初から空だったクリップを落し、弘樹に弾切れだと誤認させたのである。
(迂闊だったな、舩坂 弘樹! 貰ったぞっ!!)
突っ込んで来る弘樹に照準を合わせ、ジョーイは勝利を確信する。
だが………
「…………」
何と弘樹は突撃を止めるどころか、更に勢いを付けてジョーイに向かって突っ込んだ!
「!? 気でも狂ったのか!?」
その行動に驚きながらも、すぐに引き金を引こうとするジョーイ。
その瞬間!!
「うおおおおおおおぉぉぉぉぉぉぉぉーーーーーーーーーっ!!」
弘樹は気合の叫びと共に、着剣した九九式短小銃で突きを繰り出した!!
九九式短小銃に着剣された銃剣が、M1ガーランドの銃口に突き刺さる!!
「!? なっ!?」
驚くジョーイだったが、既に引き金を引いてしまった為、弾丸が発射されるが、銃口を塞がれていたので、暴発を起こす!!
「うおわっ!!」
「!?」
衝撃で仰け反るジョーイと弘樹。
M1ガーランドと九九式短小銃は、共に銃身が爆ぜ、使い物にならなくなっていた。
「クッ! 何と言う奴だ!!」
使えなくなったM1ガーランドを投げ捨てると、腰のホルスターからM1911A1を抜く。
「! シエエァッ!!」
だが、その引き金を引くよりも早く、同じ様に九九式短小銃を投げ捨てた弘樹が、腰の刀を居合抜きで抜き放ち、M1911A1を弾き飛ばした!!
「!? しまったっ!?」
「チェストオオオオオオォォォォォォォーーーーーーーーッ!!」
驚くジョーイの脳天目掛けて、弘樹は刀を垂直に振り下ろす!!
「!?」
だが、ジョーイは素早くM1銃剣を右手で逆手に持って抜き、左手で峰を抑えて弘樹の刀を受け止めた。
「「!!」」
そのままバッとお互いに距離を取る弘樹とジョーイ。
弘樹は八相の構えを取り、ジョーイは右手でM1銃剣を逆手に握ったまま構えを取る。
(懐に入られれば此方が不利………)
(リーチは向こうが上か………)
お互いに自分がやられる場合の状況を想定し、そうならない様にと注意を払う。
「! キエアアアアアアアァァァァァァァァーーーーーーーーーッ!!」
と、先に仕掛けたのは弘樹!
八相の構えから更に刀を高く掲げる様にして、独特の掛け声とともにジョーイに一気に斬り掛かった!!
(この初撃をかわせば!!)
ジョーイは、弘樹の初撃をかわし、そのまま懐に飛び込んでカウンターを食らわせようとする。
「シエアアアアアアァァァァァァァーーーーーーーーッ!!」
ジョーイの眼前まで踏み込んだ弘樹は、袈裟懸けに刀を振るった。
(! 今だっ!!)
その瞬間に、ジョーイも弘樹に向かって踏み込む!!
振り下ろされる刀の刃を、身を捻りながらかわそうとする!
(コレさせかわせば!!)
関節が悲鳴を挙げる程に身体を捻りながら、更に前に進もうとするジョーイ。
そして、弘樹が繰り出した斬撃は、僅かにジョーイの身体から逸れ、空を切った!!
「取ったぞっ!!」
刀を振り切った姿勢の弘樹を見ながら、ジョーイは素早くM1銃剣を弘樹の頭目掛けて振るう!
「!?」
弘樹の目の前に銃剣の刃が迫る。
最早此処までか!!
………かに思われたが!!
「!? なっ!?」
ジョーイの顔が驚愕に染まり、動きが止まる!!
その目の前には、M1銃剣の刃を………
歯で噛んで受け止めている弘樹の姿が在った!!
「!!」
そしてそのジョーイの隙を見逃す弘樹ではなく、即座にその足を払う!!
「!? おうわっ!?」
思わず、M1銃剣を手放してしまい、地面に倒れるジョーイ。
「!!」
弘樹は振り切っていた刀を両手で逆手に握り、倒れたジョーイの胸目掛けて振り下ろした!!
「ガハッ!?」
胸にハンマー殴られた様な衝撃が襲い掛かり、ジョーイは思わず声を挙げる。
そして一瞬間が有って、戦死判定が下された。
「プハッ!………ハア………ハア………」
その瞬間に、今まで止めていた息を吐き出し、荒くなった呼吸を整える弘樹。
M1銃剣が零れて、地面に突き刺さる。
「まさか………そんな受け止め方をするとはな………予想も出来なかったぞ」
戦死判定を食らったジョーイが、弘樹にそう言う。
「身体の頑丈さには自信がある方だ………」
「歯と顎もそうだと言う事か、何て奴だ………負けたよ」
そう言い放つジョーイの顔は、何処か清々としていた………
だが、そこで!
ファイアフライが、混戦状態となっていた戦場を突破する!
「!?」
『此方ナオミ! 突破に成功しました!!』
『急いでアリサのところへ向かって! Ⅳ号が丘の上から狙ってるわ! ハリーアップッ!!』
『イエス、マム!!』
そしてファイアフライは、混戦している場所からやや離れた前方にて、フラッグ車を上から狙い撃とうと、フラッグ車が避けた手前の丘を駆け上がって居るⅣ号の元へと向かう。
「イカン! Ⅳ号が狙われている! 誰か援護に行けるか!?」
と、弘樹がそう声を挙げると、その頭上を1台のバイクが飛び越えて行った。
「! 神狩 白狼!!」
「…………」
それが白狼である事に気付く弘樹だが、白狼はそれに反応する事もなく、一直線にファイアフライへと向かって行く。
大洗戦車部隊サイド………
弘樹達が追撃部隊を足止めしている間に、如何にか決着を着けようとする大洗戦車部隊。
しかし、サンダースのフラッグ車は蛇行運転を繰り返して、大洗戦車部隊の砲撃を次々にかわしてしまう。
「華! 撃って撃って撃ちまくって! 下手な鉄砲も数撃ちゃ当たるって! 恋愛だってそうだもん!!」
通信手席の沙織が、華にそう言い放つ。
するとそこで、その行く手に小高い丘が見えてくる。
「いいえ、1発で良い筈です」
「えっ?」
華がそんな返事を返してきて、沙織は首を傾げる。
「冷泉さん、丘の上へ」
「?」
「??」
突如麻子にそう呼び掛けた華の姿に、麻子とみほが何をする気なのかと考える。
「上から狙います」
「! そうか! 舩坂くん達が敵を食い止めてくれてる今なら、稜線射撃が出来る!」
華のその言葉で漸く合点が行ったみほが、正面の丘を見ながらそう言う。
「行くぞ………」
麻子がそう言うと、Ⅳ号は速度を上げ、サンダースのフラッグ車が迂回した丘を登り始める。
38tとⅢ突は、そのまま丘を避けてフラッグ車を追う。
「!? 停車っ!!」
しかしそこで、みほは何かを感じ取り、反射的にそう指示を出した。
「!?」
麻子は驚きながらもその指示に従って、Ⅳ号を横滑りさせながら無理矢理停車させる。
その直後に、先程までⅣ号が進もうとしていた位置に、砲弾が着弾する。
「キャアアァッ!?」
「うわあぁっ!?」
「!? 何が!?」
至近距離に着弾した砲弾の衝撃が車内に走り、沙織、優花里、華が声を挙げる。
「!? ファイアフライッ!!」
しかしみほだけは、後方で砲口から硝煙を上げているファイアフライの姿をしっかりと見つける。
「突破されたか………」
「冷泉さん! 急いで!」
「ん………」
みほが呼び掛けると、麻子は再びⅣ号を発進させ、丘の上へと急ぐ。
「チイッ!………」
ナオミはかわされた事に舌打ちしながらも、ファイアフライを前進させ、Ⅳ号を追撃する。
「ファイアフライが次の弾を撃ってくるまでが勝負!」
「分かりました!」
みほと華がそう言い合っていた直後に、Ⅳ号は丘の上へと到達する。
眼下には、38tとⅢ突の追撃から逃げるサンダースのフラッグ車が、Ⅳ号の目の前を横切る様に進んでいる。
Ⅳ号は砲塔を旋回させ、逃げるフラッグ車に照準を合わせようとする。
しかし、砲塔旋回だけでは間に合わず、麻子が車両ごと旋回させてカバーを行う。
と、その間にファイアフライは、Ⅳ号を砲撃可能範囲へ納めていた。
こうなると、Ⅳ号がフラッグ車を撃破するのが早いか、ファイアフライがⅣ号を撃破するのが早いかの勝負となる。
「華を活ける時の様に集中して………」
ファイアフライに後ろから狙われていると言うプレッシャーの中、砲手である華は華道で養った集中力をフルに発揮し、冷静にフラッグ車へ狙いを定める。
「装填完了!」
その間に、ファイアフライは次弾の装填を終える。
(貰った!)
Ⅳ号に照準が定まり、ナオミがそう確信する。
だが、その瞬間!!
衝撃がファイアフライを襲ったっ!!
「!?」
「キャアアッ!?」
「何っ!?」
思わず照準器から目を離してしまうナオミと、悲鳴を挙げる乗員達。
「クソッ! 撃破出来なかったか!!」
そこで、何時の間にかファイアフライのやや後方に現れていた 銃口から白煙の上がって居るワルサーカンプピストルを構えている白狼が愚痴る様に叫ぶ。
如何やら、後部を狙ってグレネード弾を発射した様だが、砲塔部分に当たったらしく、撃破には至らなかった様だ。
しかし、ナオミが砲撃するのを遅らせる事には成功する。
「! くうっ!」
慌ててナオミは、再度照準器を覗き込む間もなく、トリガーを引いた!!
「………発射!」
だが、それよりも一瞬早く、華が発砲!
Ⅳ号から放たれた砲弾が、一直線にフラッグ車へと向かう!
砲弾は、フラッグ車の後部上側………エンジン部分へ突き刺さる様に命中!
フラッグ車は一瞬揺れたかと思うと、激しく黒煙を上げた!!
その直後に、Ⅳ号の右履帯部分にファイアフライの砲弾が直撃!
履帯が千切れ飛び、転輪の半分以上が吹き飛ぶ!!
「「「「「「「「「「…………」」」」」」」」」」
その2つの砲撃音と破壊音で、アレほど騒がしく、慌しく動いていた戦場が、一瞬にして静まり返り、全員が動きを止める。
「………如何なったんだ?」
「勝ったのか? それも負けたのか?」
「砲撃音と破壊音が2回ずつ聞こえてきましたけど………」
やがて絞り出すかの様に、地市、了平、楓の3人がそう声を挙げる。
「…………」
弘樹は只ジッと黙って、試合結果が放送されるのを待つ………
そして………
『大洗機甲部隊の勝利!』
審判がアナウンスで、大洗機甲部隊の勝利を告げた。
途端に大洗側の観客席は、割れんばかりの歓声が響き渡る。
「勝利?………」
「勝った………んかいな?」
「みたい………ですね」
しかし、イマイチ状況を把握出来れていなかった大洗歩兵部隊からそんな声が挙がる。
だが、徐々に勝利と言う文字が脳内に浸透し始め………
「「「「「「「「「「うおおおおおおおおおおおぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉーーーーーーーーーーーーーっ!!」」」」」」」」」」
戦死判定を受けていない生き残った歩兵全員から、歓喜の声が湧き上がる。
「「「「「「「「「「バンザーイ! バンザーイ! バンザーイ!!」」」」」」」」」」
歓喜の余り、万歳三唱が始まる。
「勝ったか………」
そんな中、弘樹は静かにそう呟き、刀を鞘へと納める。
そして、Ⅳ号が駆け上がった丘の方を見やる。
丘の上では、右の履帯が吹き飛んだⅣ号の傍で、みほを中心にあんこうチームが、初めての勝利に沸き立っていた。
そこへは、生き残ったカメさんチームとカバさんチーム。
更に、撃破され回収されたアヒルさんチームとウサギさんチームも集結する。
そのまま戦車チーム全員で、勝利の喜びを分かち合う。
とその時、弘樹の目に、此方に向かって手を振っているみほの姿が映る。
恐らく歩兵部隊に対して感謝を示しているのだろう。
「…………」
弘樹はそんなみほの姿を見て、姿勢を正すと、ヤマト式敬礼をする。
そんな弘樹の姿に気付いた他の大洗歩兵部隊員達も、みほが手を振っている事に気づき、同じ様に姿勢を正して、思い思いの敬礼のポーズを取ったのだった。
『ココで試合終了です! 第63回戦車道・歩兵道全国大会第1回戦! 大洗機甲部隊VSサンダース&カーネル機甲部隊の試合! 勝ったのは………大洗機甲部隊だぁーっ!!』
『いや、素晴らしいですね。武器の性能や数の差を見事に戦術と気迫で覆しましたよ。いや~、久々に見ごたえのある試合でした!』
ヒートマン佐々木とDJ田中も、興奮冷めやらぬ様子で、そう実況を締めるのだった。
つづく
新話、投稿させていただきました。
サンダース&カーネル機甲部隊との戦いに、遂に決着です。
原作同様に追い詰められた大洗戦車隊でしたが、そこでカーネル歩兵部隊を突破した弘樹達が駆け付け、ファイアフライを含めた追撃部隊を足止め。
乱戦へ持ち込んだ中で、弘樹はジョーイとの戦いに臨みます。
最後は原作通りにⅣ号が決めましたが、この作品では白狼のアシストが入っています。
次回はサンダース&カーネル機甲部隊との試合後の交流。
サンショウウオさんチームの初ライブ。
そして、黒森峰機甲部隊の面々との遣り取りをお送りします。
それで、その後は『紹介します!』的な主人公の弘樹を含めたオリキャラの設定紹介をしようと思っていたのですが、ちょっと都合で変更して、先に原作7話の『次はアンツィオ戦です!』に当たる話をしてからにさせていただきます。
ご迷惑をお掛けして申し訳ありません。
では、ご意見・ご感想をお待ちしております。