ガールズ&パンツァー+ボーイズ&ゾルダース   作:宇宙刑事ブルーノア

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第71話『西 絹代さんです!』

『ガールズ&パンツァー+ボーイズ&ゾルダース』

 

第71話『西 絹代さんです!』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

戦力強化の為に行われた知波単学園の知波単機甲部隊との練習試合………

 

初手でみほの居るあんこうチームが随伴歩兵分隊のとらさん分隊ごと本隊から切り離される。

 

みほの指揮を失った大洗機甲部隊は知波単機甲部隊に包囲され、全滅も時間の問題かと思われた。

 

しかし、弘樹があんこうチームの足止めに来た五式中戦車の相手を引き受け、その間にあんこうチームは本隊へと合流。

 

いつもの調子を取り戻した大洗機甲部隊は、知波単機甲部隊の包囲を突破。

 

そして、知波単機甲部隊の総隊長である西 絹代の乗るフラッグ車でもある九七式中戦車と、みほ達あんこうチームのⅣ号との一騎打ちが始まる。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

練習試合会場・大洗町の外れ………

 

岩肌が露出している丘陵地帯………

 

「撃てっ!!」

 

みほの号令で、Ⅳ号の主砲が火を噴く!

 

「右15度転回!!」

 

「ハッ!!」

 

しかし、ハッチから姿を晒したまま絹代がそう指示を出したかと思うと、九七式中戦車は右へ15度転回。

 

Ⅳ号が放った砲弾は、九七式中戦車の砲塔右側、僅か10センチの所を擦り抜けて、後方の地面に着弾する。

 

「撃てっ!!」

 

「ハイッ!!」

 

そしてお返しとばかりに九七式中戦車の主砲が発射される。

 

放たれた砲弾は、Ⅳ号の正面装甲に当たり、弾かれる。

 

「キャッ!?」

 

「次弾装填完了!」

 

被弾の衝撃に沙織が悲鳴を挙げる中、優花里が次弾の装填を終える。

 

「撃ちますっ!!」

 

照準器を覗き込んで居た華が、その照準に九七式中戦車が重なった瞬間に引き金を引く。

 

「左20度転回!!」

 

「ハッ!!」

 

しかし、絹代がまたもそう指示を出したかと思うと、九七式が今度は左方向へと転回。

 

Ⅳ号の砲弾は九七式中戦車の車体横、僅か5センチの距離を通過し、またも後ろの地面に着弾する。

 

「! 外れたっ!?」

 

「さっきから信じられん様な紙一重の回避だぞ………」

 

外した事に華が驚きの声を挙げ、麻子が先程から紙一重でⅣ号の砲撃をかわしている事に若干の戦慄を覚える。

 

「敵はコチラの砲撃タイミングを完全に読んでいます!」

 

「コレが………西さんの実力………」

 

優花里がそう報告を挙げると、みほは冷や汗を流した。

 

と、そこでまたしても九七式中戦車の撃った砲弾が、Ⅳ号の正面装甲に当たり、明後日の方向へ弾かれる。

 

「キャアッ!?」

 

「だ、大丈夫です! 旧砲塔のチハの装甲貫通能力は距離300メートルでも26ミリ! 絶対にコチラの正面装甲は抜けません!」

 

「でも、さっきから何発も撃ち込まれてるよ! このままじゃマズイんじゃ!?」

 

座席から落ちそうになり、みほが悲鳴を挙げると、優花里が心配は要らないとそう言うが、沙織がそう指摘する。

 

そう………

 

先程からⅣ号の砲撃は紙一重でかわされ続けているが、逆に九七式中戦車の砲撃は全弾命中しており、しこたま撃ち込まれたⅣ号の正面装甲は、一部が変形を起こしている。

 

その上、九七式中戦車は徐々にⅣ号との距離を詰めて来ており、このままでは何れ持たなくなるだろう。

 

「コチラの攻撃を紙一重でかわしながら、自分達の攻撃は的確に当てて来る………」

 

「隊長車兼フラッグ車を務めている戦車の乗員だけあるな。かなりの練度だぞ」

 

「…………」

 

華と麻子がそう言い合う中、みほはペリシコープ越しに九七式中戦車の姿を見やる。

 

「…………」

 

そんなみほの視線を感じているのか、絹代は不敵な笑みを浮かべている。

 

「!!………」

 

と、その笑みを見た瞬間に、みほはハッチを開けてキューポラから姿を晒す。

 

「!? 西住殿!?」

 

「みほさん!?」

 

「麻子さん! 敵戦車との距離をもっと詰めて下さい!!」

 

優花里と華の驚きの声も耳に入らない様子で、麻子にそう指示を出す。

 

「みぽりん! 幾らなんでも本当に危ないよっ!!」

 

「良いのか? 距離を詰めれば不利になるのはコッチだぞ?」

 

至近距離で撃ち合っている状況にも関わらず、車外へと姿を晒すみほに向かって叫ぶ沙織と、冷静にそう尋ねる麻子。

 

「構いません」

 

「分かった………」

 

「ちょっと、麻子ぉっ!?」

 

みほの返事を聞くと、沙織の抗議の様な声を無視し、麻子はⅣ号を九七式中戦車に近づける様に操縦し始めた。

 

「敵、接近してきます!」

 

「この状況で更に踏み込んで来るか………良い度胸だわ」

 

砲手兼装填手からの報告を聞き、絹代は自分と同じ様に車外へと姿を晒しているみほを見てそう言う。

 

「流石は弘樹の今の上官ね………コッチも更に接近よ! どうせ撃たれたら御終いよ! ぶつける積りで行きなさい!!」

 

「ハイッ!!」

 

絹代がそう指示を出すと、九七式中戦車の操縦手は、更にⅣ号に向かって接近して行く。

 

「総隊長!」

 

「西住総隊長が危ない!」

 

「援護するんだ!」

 

「根性ぉーっ!!」

 

磐渡、梓、俊、典子がそう声を挙げ、あんこうチームの援護に入ろうとする大洗機甲部隊。

 

「させるかぁー!」

 

「俺は防衛を行う! この位置を保てぇーっ!!」

 

「「「「「了解っ!!」」」」」

 

「貴様は強くない!」

 

「ワシが片づけてやる!」

 

「知波単機甲部隊、此処に在りだぁーっ!!」

 

だがそれを、態勢を立て直した知波単機甲部隊が阻む。

 

「! 知波単機甲部隊!!」

 

「クッ! もう態勢を立て直したのか!? 予想以上に早い………イレギュラーだ!」

 

逞巳と十河がそう声を挙げる。

 

知波単機甲部隊は、絹代のあんこうチームとの対決への介入を防ぎつつ、大洗機甲部隊のフラッグ車であるサンショウウオさんチームのクロムウェルを狙う。

 

「後退するんだ、サンショウウオさんチーム! 万が一と言う事もある!!」

 

「りょ、了解っ!!」

 

エースがそう叫び、聖子が返事を返すと、クロムウェルが援護砲撃を行いながらやや後方へと下がる。

 

「「「「「「「「「「着剣っ!!」」」」」」」」」」

 

とそこで、知波単機甲部隊の突撃兵達の中で、着剣機能を持つ銃を持った者達が一斉に着剣!

 

「知波単機甲部隊! バンザーイッ!!」

 

「「「「「「「「「バンザーイッ!!」」」」」」」」」」

 

そして、大洗歩兵部隊に対し、一斉に突撃を行って来た!

 

「来たぞ! 万歳突撃だ!!」

 

「砲兵部隊! 援護を………」

 

重音がそう声を挙げると、鋼賀が砲兵部隊に援護を要請しようとしたが………

 

「日本男児の意地の見せどころであるぞぉーっ!!」

 

「前進ー! 前進あるのみーっ!!」

 

それよりも早く、知波歩兵部隊達が、大洗歩兵部隊の中へと雪崩れ込んだ!

 

「うおわっ!?」

 

「駄目だ! フレンドリーファイアになる! 砲撃支援不能!」

 

「コッチもだ!」

 

両部隊の歩兵が入り混じった事で、フレンドリーファイアの危険性が大きくなり、砲兵部隊から明夫、戦車チームからはエルヴィンのそう言う声が挙がる。

 

しかし、それは知波単機甲部隊にとっても同じ事………

 

両歩兵部隊が激しく激突する中、知波単戦車部隊と砲兵部隊、大洗戦車部隊と砲兵部隊は睨み合いとなっている。

 

「クッ! 乱戦に持ち込まれたでござるか!」

 

周りで近距離での銃撃戦や格闘戦を展開している両歩兵隊員達の姿を見て、小太郎がそんな事を言う。

 

と、その時!!

 

「………!!」

 

殺気を感じて、小太郎は連続でバク転する。

 

すると、バク転する小太郎を追う様に、次々とスリケンやクナイが飛んで来て、地面に突き刺さる!

 

「!? コレは!?」

 

「「「「「ソイヤァッ!!」」」」」

 

驚く小太郎の目の前に、5つの影が舞い降りる。

 

「!!」

 

「赤の忍! 壱!!」

 

「青の忍! 弐!!」

 

「黄色の忍! 参!!」

 

「緑の忍! 四!!」

 

「黒の忍! 五!!」

 

その5つの影………忍装束風にアレンジされている大日本帝国陸軍の戦闘服を着込んだ、赤、青、黄色、緑、黒のカラフルな知波単歩兵達が、そう名乗りを挙げる!

 

「「「「「5人揃って! ゴニンジャーッ!!」」」」」

 

そして最後には、戦隊もの宜しく、5人で集合してポーズを取った。

 

「「「「「ドーモ。葉隠 小太郎=サン。ゴニンジャーです」」」」」

 

その後、小太郎に向かってアイサツをする。

 

「ドーモ。ゴニンジャー=サン。葉隠 小太郎です」

 

それに対し、小太郎も身体の前で両手を合わせると頭を下げて、アイサツと共にオジギをする。

 

「貴殿の噂はかねがね伺っていた………」

 

「手合せの機会を得られたとは、僥倖」

 

「我等のカラテを見せてくれる」

 

「忍の誇りを賭けて………」

 

「イザ、尋常に勝負!」

 

ゴニンジャー達はそう言い放つと、其々忍者刀やクナイ、鎖鎌やスリケン等の獲物を構え、小太郎へと向かって行く。

 

「ニンジャ殺すべし。慈悲は無い………Wasshoi!」

 

そんなゴニンジャーに対し、小太郎はいつもの台詞と掛け声を決め、跳躍と共に迎え撃つのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

一方、あんこうチームと絹代の九七式中戦車の戦いは………

 

「「撃てっ!!」」

 

みほと絹代の声が同時に挙がり、正面から突撃し合っていたⅣ号と九七式中戦車が同時に発砲!

 

砲弾は、互いの砲塔のすぐ横を掠める様に飛んで行く。

 

「くううっ!」

 

「フッ………」

 

苦い表情を浮かべるみほと対照的に、不敵に笑う絹代。

 

Ⅳ号と九七式中戦車は、そのまま互いに更に接近して行ったかと思うと、衝突するかと思われた直前で互いに左へ方向転換。

 

そのまま、まるで戦闘機の巴戦の様に、互いに相手を追う様に回り出す。

 

「「…………」」

 

襲い掛かって来る遠心力に耐えながら、尚も姿を晒し続け、相手を見据えるみほと絹代。

 

「………急速後退!!」

 

とそこで、絹代が意表を衝くかの様に九七式中戦車を後退させた!!

 

「!? 停止っ!!」

 

「!?」

 

みほが驚きながらも指示を出すが、麻子の反応が遅れる!

 

後退して来た九七式中戦車は、後部からⅣ号の正面へとブチ当たる!

 

「「「「!? キャアアアアアアァァァァァァァーーーーーーーーッ!!」」」」

 

「!!」

 

凄まじい衝撃が走り、沙織達が悲鳴を挙げ、みほはキューポラの縁にしがみ付く!

 

一方、ブチ当たった九七式中戦車は重量の違いで弾かれ、独楽の様に回転する。

 

「! 今よっ!!」

 

しかし何と!!

 

絹代が声を挙げたかと思うと、回転していた九七式中戦車がピタリと止まる!

 

如何やら、弾かれたと見せかけた運転だった様である。

 

恐るべき操縦技術である。

 

「貰ったわっ!!」

 

弾かれた様に見せかけて移動した九七式中戦車は、まだ静止した状態のⅣ号の車体後部へと狙いを定めた!

 

「!? 左信地旋回っ!!」

 

「クッ!」

 

だが、みほが素早く指示を出し、麻子はⅣ号を左信地旋回させる。

 

直後に九七式中戦車の主砲が火を噴いたが、車体を傾けたので避弾経始が出来、九七式中戦車の砲弾は弾かれる。

 

「! 今のを凌ぐの!?」

 

絹代が驚きの声を挙げる中、九七式中戦車は再び発進する。

 

「華さん!」

 

「ハイッ!!」

 

と、その移動先を読んでいたみほが、華へと指示を出すと、今度はⅣ号の主砲が火を噴く!

 

「!? うわっ!?」

 

直撃はしなかったが、かなりの至近弾で、九七式中戦車の車体が一瞬浮き上がった!

 

「やるわね! そう来なくっちゃっ!!」

 

しかしそれでも、絹代は楽しそうに笑い、九七式中戦車が発砲する。

 

放たれた九七式中戦車の砲弾はⅣ号の正面装甲に当たって弾かれる。

 

「ぐうっ!………」

 

「西住殿! 装甲が限界であります!!」

 

車体に走る振動にみほが顔を歪めていると、優花里が次弾を装填しながらそう報告する。

 

優花里の言葉通り、Ⅳ号の正面装甲はボコボコであり、コレ以上の攻撃に耐えられそうもなかった。

 

「分かってる。次で決着を着けます」

 

「何か手が有るんですか?」

 

みほがそう返すと、華が策が有るのかと問う。

 

「一か八かだけど………やるしかない。沙織さん!」

 

「えっ?」

 

突如呼ばれ、沙織が少し困惑した様子でみほの方を振り返って返事を返す。

 

「そろそろ残弾が心許無いわね………決着を付ける時かしら?」

 

一方、絹代の方も、九七式中戦車の砲弾の残り少ないのを確認してそんな事を呟く。

 

「やりますか! 総隊長!!」

 

「コッチは腹を括りました!」

 

「御命令を! 総隊長!!」

 

その途端に、覚悟を決めたと言う乗員達の言葉が挙がる。

 

「よし、やるわよ!………西住総隊長っ!!」

 

「!? ハ、ハイッ!?」

 

そこで絹代はみほに呼び掛け、突然呼びかけられたみほは困惑しながら返事を返す。

 

「車内に引っ込みなさい」

 

「えっ?」

 

「じゃないと危ないわよ」

 

そう言って、絹代は車内へと引っ込む。

 

「…………」

 

みほは困惑しながらも、どのみち最後の勝負に出る為、車内へと引っ込む。

 

そしてその瞬間に、Ⅳ号と九七式中戦車が、またもお互いに突撃する!

 

「知波単学園! バンザーイッ!!」

 

「「「バンザーイッ!!」」」

 

絹代がそう叫ぶと、乗員達も呼応して叫び、九七式中戦車が更に加速する。

 

「来ます! 沙織さん! お願いっ!!」

 

「わ、分かった!」

 

通信手席に備え付けられている車体機銃のMG34を構えながら返事をする沙織。

 

「麻子さん。合図したら相手の左側へと避けて下さい。沙織さんはその直後に履帯を狙って撃って」

 

「うん………」

 

「よ、よ~し! やるぞ~!!」

 

何時も通りポーカーフェイスの麻子と、やや緊張している様子を見せる沙織。

 

(多分、衝突直前で進路を変える筈………その時に一瞬動きが停まる………そこがチャンス………機銃で履帯の破壊は出来ないけど、上手く噛み合わせ部分に撃ち込めれば、一瞬だけど動きを止められる)

 

みほは食い入る様な目で、ペリスコープ越しに突撃して来る九七式中戦車を見据える。

 

ドンドンと距離を詰めて行くⅣ号と九七式中戦車。

 

すると、その瞬間!!

 

九七式中戦車の砲塔が旋回し、真後ろを向いた。

 

「!? 何をっ!?………」

 

その様子にみほが驚きの声を挙げた瞬間!!

 

「行っけえええええええぇぇぇぇぇぇぇぇーーーーーーーーーっ!!」

 

「エンジン全開っ!!」

 

絹代の叫びと共に、九七式中戦車の操縦士は、エンジンを目一杯吹かした!!

 

途端に!

 

九七式中戦車の車体前部が持ち上がり、ウィリーする!!

 

「!?」

 

「なっ!? 戦車でウィリーを!?」

 

みほと優花里が驚きの声を挙げた瞬間!!

 

ウィリーしていた九七式中戦車はⅣ号と接触!

 

そのままⅣ号を乗り越え始めた!!

 

「「「きゃああああああぁぁぁぁぁぁぁーーーーーーーっ!?」」」

 

「「!?」」

 

絹代が乗る九七式中戦車の荒業に、沙織、華、優花里が悲鳴を挙げ、麻子とみほが仰天を露わにする。

 

やがて、九七式中戦車はⅣ号を完全に乗り越えて、その背後の地面に着地した。

 

「!? しまった!?」

 

九七式中戦車の砲塔は後ろを向いており、既にⅣ号に狙いを定めている。

 

(やられる!!)

 

砲塔旋回も信地旋回も間に合わない為、みほはそう覚悟を決める。

 

しかし………

 

ボンッ!!と言う音が響いたかと思うと、九七式中戦車のエンジンルームから黒煙が上がった。

 

そして、一瞬の間の後、砲塔上部から白旗も上がる。

 

「「「「「………えっ?」」」」」

 

やられると思い込んでいたあんこうチームの面々は、思わず間抜けた声を漏らす。

 

「ア、アラァ?………」

 

絹代も、一瞬何が起こったのか分からず、困惑の表情を浮かべる。

 

「すみません、総隊長………エンジンがイかれました」

 

そこで、操縦士が申し訳無さそうにそう報告を挙げた。

 

「アチャ~~、持たなかったかぁ………まあ、仕方ないわね」

 

「すみません、総隊長! 自分がもっと上手く操縦出来ていれば………」

 

「貴方の責任じゃないわ。エンジンの負荷を見誤っていた私のミスよ………」

 

頭を下げて来る操縦士に、絹代は優しくそう返す。

 

「た、助かった~~………」

 

「間一髪だったな………」

 

「ドキドキしました………」

 

「私、まだちょっと手が震えてます………」

 

危うい所で難を逃れ、沙織、麻子、華、優花里から安堵の声が挙がる。

 

(もし、エンジンが壊れなかったら、やられていた………)

 

只1人、みほだけはペリスコープ越しに黒煙を上げている九七式中戦車を見て、まだ戦慄を覚えていたのだった。

 

「………何だ? 終わったのか?」

 

と、そこでやっとの事で戦場へ辿り着いた弘樹が、その場の様子を見てそんな声を挙げる。

 

『知波単機甲部隊フラッグ車、行動不能! よって、大洗機甲部隊の勝利!!』

 

主審の篠川 香音によるアナウンスが響き渡り、大洗機甲部隊VS知波単機甲部隊の練習試合は………

 

辛うじて、大洗機甲部隊が勝利を収めたのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

試合終了後………

 

両機甲部隊は試合開始前の集合地点に再集結。

 

損傷した戦車や車両が其々の学園艦に運ばれて行く中、両部隊の面々は互いの健闘を称え合っている。

 

「凄いですよ! 八九式中戦車であそこまで戦うなんて!」

 

「感動しました!」

 

「い、いや~、そんな~………」

 

「何か照れちゃいます~」

 

特に知波単戦車部隊からの人気が高いのが、日本初の国産制式戦車である八九式中戦車を使っているアヒルさんチーム。

 

そして………

 

「栗林殿に敬礼!」

 

「凄い!」

 

「お見事ぉ!」

 

「太平洋の嵐!」

 

「…………」

 

知波単歩兵部隊から人気を集めているのが、あの名将・栗林中将の子孫である熾龍だ。

 

当の本人はこういう事に慣れていないのか、只々仏頂面で黙り込んでいるが、それでもドンドンと知波単歩兵隊員達が群がっている。

 

「………アレ? 舩坂くんは?」

 

そんな中、弘樹の姿が無い事に気付いたみほが、弘樹を探し始める。

 

「………あ」

 

そして、弦一朗が使っているバイク・陸王と同じ型のバイクの前で、そのバイクに寄り掛かっている絹代と談笑している弘樹の姿を見つける。

 

「流石ね、弘樹。まさか貴方1人に五式中戦車をやられるとは思わなかったわ」

 

「いえ、今回撃破出来たのは運が良かっただけです。試合も、何かが違っていれば、勝ったのは西総隊長達だったでしょう」

 

「フフ、運も実力の内………寧ろ、運さえも呼び込むのが、必然の勝利って奴じゃない?」

 

そんな自論を弘樹へと語る絹代。

 

「フフフ、相変わらずですね」

 

その自論を聞いて、弘樹は微笑を見せる。

 

「…………」

 

みほは思わず、近くに在った一式装甲兵車の陰に隠れて、そんな2人の会話に聞き耳を立て、様子を窺う。

 

「それにしても、やっぱり弘樹と居ると昔の事を思い出すわね」

 

「確かに………思えば色んな学校と戦ったものです………」

 

「ウド学園の混乱………クメン校の地獄………巡り巡ってサンサ学園の狂気………クエント高までもブッ飛ばしたわよね」

 

「元生徒だったグレゴルー達に乗せられて、赤肩高校と試合した事もありましたね」

 

「1番肝を冷やしたのはモナド校との戦いよ。アンタが居る分隊がよりによって敵陣の中央で孤立して、敵全軍が群がって行ったんだから」

 

「ええ、良く覚えています」

 

「もう、皆自棄になっちゃって、『俺達は死なねえっ!』なんて叫びながらモナド校の戦力を全て相手にしてね。結局、最後には弘樹を残して全滅したけど」

 

絹代は懐かしむ様な表情で、楽しげに語る。

 

「コチャックが真っ先にやられた時は、悪いと思ったけど、笑っちゃったわ」

 

「笑い事じゃありませんよ。本当に死ぬかと思っていたのですから」

 

そう言う弘樹だが、その顔にはやはり微笑が浮かんでおり、絹代と同じ様に楽しげな様子だ。

 

「…………」

 

そんな2人の姿を見ていて、みほは胸が苦しくなる。

 

「………ねえ、弘樹」

 

と、不意に絹代が真面目な表情となり、弘樹に声を掛ける。

 

「? ハイ?」

 

絹代の空気が変わった事を察するが、その理由が分からず、軽く困惑を見せる弘樹。

 

「知波単に来る気はない?」

 

「!?」

 

そこで絹代はそう切り出し、隠れていたみほは驚愕する。

 

「貴方が来てくれれば、知波単はもっと強くなるわ。私は3年だから、来年の大会には出られないし、貴方だったら何れは知波単を纏める立場に立てる。如何、弘樹?」

 

弘樹の事を見据えながらそう問う絹代。

 

「…………」

 

当の弘樹は、只無言で絹代を見返している。

 

(舩坂くん………)

 

そんな弘樹の事を、隠れているみほは気が気でない様子で覗き込む。

 

と………

 

「………申し訳ありません。それは出来ません」

 

弘樹は絹代に向かってそう言い放った。

 

「!!………」

 

「そっか………まあ、予想はしてたけどね」

 

途端にみほは安堵した様に膝を着き、絹代はあっけらかんとそう言う。

 

「小官は今、大洗機甲部隊の一員です。今の戦友達を見捨てて行くなど、出来るワケがありません」

 

「そうよね。貴方はそう言う人だもんね」

 

「それに………小官には、今大洗機甲部隊で成し遂げなければならない使命があります」

 

「それって、西住 みほちゃんの事?」

 

「………!!」

 

自分の名が挙がり、みほは再び2人の様子を覗き見る。

 

「ええ………」

 

「へえ~~、あのお堅い弘樹がそこまで熱を上げるなんて………みほちゃんもやるわね」

 

「そういう事ではありません」

 

囃し立てる様な絹代の言葉を流す様にそう返す弘樹。

 

「総隊長もご存じと思われますが、彼女は去年の1件で戦車道に対しトラウマを抱えていました」

 

「決勝での事ね………」

 

「大洗に引っ越して来たのも、当初は戦車道が無いからでした。しかし、彼女は自分を守ろうとしてくれた友達の為に再び戦車道に向き合ったのです」

 

「そう………」

 

「そんな彼女の事を見ていたら、手助けしてやらねばならん………力を貸してやらねばならん………そう思ったのです」

 

「…………」

 

真剣な表情でそう語る弘樹を見ていたみほの顔が赤くなる。

 

「成程ね。貴方らしいわね………? アラ?」

 

とそこで、絹代がふと視線を弘樹から外すと、此方を覗き見しているみほの姿を捉える。

 

「?!」

 

みほは慌てて一式装甲兵車の陰に隠れる。

 

「? 如何しました?」

 

しかし、弘樹の方は気づいていない様で、絹代にそう尋ねる。

 

「………いえ、何でも無いわ」

 

すると絹代は、弘樹にそう返す。

 

「ねえ、弘樹。みほちゃんの事を1人の女の子としては如何思ってるの?」

 

そして、弘樹に向かってそう尋ねる。

 

「ですから、そう言う事では………」

 

「もう~、貴方って戦闘に関する事は鋭いのに、そう言うのはまるでニブチンね………いや、自分自身でも自覚しきれてないのかもね」

 

「? 如何言う事ですか?」

 

絹代の言う言葉の意味が分からず、弘樹は首を傾げる。

 

「それは自分で考えなさい。私からの………最後の命令よ」

 

絹代はそう言うと、バイクから離れて、その場を去り出した。

 

そのまま、みほが隠れている一式装甲兵車の方に向かう絹代。

 

そしてその陰を覗き込むと………

 

「…………」

 

一式装甲兵車の転輪の隙間に上半身だけ潜り込んで隠れている積りのみほの姿を発見する。

 

「ブフッ!………みほちゃん。その隠れ方は無理があるわよ」

 

思わず吹き出して笑ってしまう絹代だったが、何とか堪えてみほにそう呼び掛ける。

 

「…………」

 

するとみほは、気恥ずかしそうに転輪の隙間から出て来る。

 

「え、えっと………わ、私………」

 

「可愛い~!」

 

みほが何と言って良いか分からず、しどろもどろとしていると、不意に絹代は、そんなみほの事を抱き締めた。

 

「!? はわわっ!?」

 

「もう~! 可愛いわね~、貴方! 弘樹が惚れるのも無理ないわ」

 

「!? ほ、惚れるって………」

 

絹代からそんな言葉が出て、みほは狼狽する。

 

「ああ、アレは自覚してないでしょうけど、確実に貴方に惚れてるわよ。良かったじゃない。相思相愛ってワケね」

 

「あ、あううう………」

 

真っ赤になって縮こまるみほ。

 

「けど、気をつけなさい。アイツ、あの通りニブチンで不器用だからね。しっかりと捕まえようとしないと、アッサリ置いてかれちゃうから」

 

そんなみほに向かって、絹代はアドバイスするかの様にそう言う。

 

「………西さん」

 

「絹代で良いわよ」

 

「………絹代さん………絹代さんは舩坂くんの事を………」

 

好きなのか? と聞こうとして言葉が出ないみほ。

 

「さあ、如何かしらね?」

 

それに対し、絹代ははぐらかすかの様にそう返す。

 

「ま、しっかりやんなさい。取り敢えずは先ず………名前で呼び合える様になりなさいよ」

 

「ハ、ハイ!」

 

そう言って朗らかに笑う絹代に、みほはしっかりとした返事を返すのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

そしてそれから数時間後………

 

知波単学園の学園艦が出航する事になり、大洗機甲部隊のメンバー全員で、港まで見送りに出る。

 

知波単機甲部隊は、全員が艦舷のエリアに立ち、一斉に敬礼を送って見送りに返礼する。

 

大洗機甲部隊のメンバー達がその様に圧倒される中、知波単学園の学園艦はゆっくりと出航して行ったのだった。

 

「ああ、そうだ。舩坂くん。実は西総隊長から去り際に、君に渡して欲しいと預かった物があるのだよ」

 

「コレです」

 

と、見送りが終わったタイミングで、迫信が弘樹にそう言い、逞巳が長いケースの様な物を持って現れ、そのケースを弘樹に差し出す。

 

「小官に?………」

 

そのケースを受け取ると、中を改める弘樹。

 

ケースの中には、1丁の小銃が納められていた。

 

「! コレは………」

 

その小銃を見て軽く驚きを示す弘樹。

 

「ほう、珍しい………『四式自動小銃』か」

 

迫信もその小銃を見てそう呟く。

 

そう………

 

その小銃は太平洋戦争末期に、旧日本軍がM1ガーランドをコピーして製造した日本製の自動小銃………

 

『四式自動小銃』だった。

 

「ん?………」

 

更に弘樹は、その四式自動小銃にメッセージカードの様な物が付けられている事に気付く。

 

『近々に良い事が有ると思うわ。楽しみに待っていなさい 西 絹代』

 

(………一体何の事だ?)

 

絹代のそう言うメッセージを受け取る弘樹だったが、まるで予想がつかないのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

プラウダ&ツァーリ機甲部隊との試合が迫る………

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

つづく




新話、投稿させていただきました。

遂に知波単機甲部隊とも戦いも決着。
戦車の性能差を覆す指揮技術でⅣ号を肉薄した絹代。
しかし、酷使し過ぎたチハの自壊で、正に首の皮1枚の勝利。

弘樹と絹代が懐かしい話に花を咲かせているのにちょっと嫉妬しながらも、他ならぬ絹代から恋も激励を受けるみほ。

去り際に、絹代は四式自動小銃を弘樹にプレゼントする。
更に、良い事があると言うメッセージを残す。
果たしてそれは何か?

次回からはいよいよプラウダ戦関連のエピソードになります。
年末年始も休まず週一更新しますので、ご安心下さい。

では、ご意見・ご感想をお待ちしております。

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