ガールズ&パンツァー+ボーイズ&ゾルダース   作:宇宙刑事ブルーノア

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2014/4/28
白狼のキャラを投稿していただいたドラグナー様からの意見により、白狼のセリフと直後の描写を一部修正したしました。
御理解とご了承のほど、よろしくお願いします。


第87話『お父さんです!』

『ガールズ&パンツァー+ボーイズ&ゾルダース』

 

第87話『お父さんです!』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

フィンランドの白い死神、『シモ・ヘイヘ』の子孫であるシメオン・ヘイヘ………

 

ドイツ空軍の空の魔王、『ハンス・ウルリッヒ・ルーデル』の子孫であるハンネス・ウルリッヒ・ルーデル………

 

そしてその相棒を務めたドクトルスツーカ、『エルンスト・ガーデルマン』の子孫であるエグモント・ガーデルマン………

 

かつての弘樹の戦友達の活躍もあり………

 

遂に大洗機甲部隊は、プラウダ&ツァーリ機甲部隊を辛くも打ち破った。

 

頼もしい仲間が増え、優勝への期待も高まっていたみほ達に水をさすかの様に現れたのは………

 

みほの実の母であり、西住流の現師範………

 

『西住 しほ』だった………

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

第5回戦・試合会場………

 

北緯50度を超えた、雪の降り頻る雪原地帯………

 

「お、お母さん………」

 

突如現れたしほの姿に、みほは怯える様に身体を震わせる。

 

「えっ? お母さんって?………」

 

「みほさんのお母様ですか?」

 

「! と言う事は! 西住流の!!」

 

「現師範だな………」

 

そのみほの呟きを聞いた沙織、華、優花里、麻子が、しほへと視線を向ける。

 

「…………」

 

しほは、沙織達の視線など気にしていない様子で、感情の感じられない目でみほを見据えている。

 

「…………」

 

弘樹は、そんなしほの様子に眉を顰める。

 

「あ、あの西住師範。試合会場に部外者は………」

 

とそこで、主審のレミが恐る恐ると言った様子でしほにそう言って来たが………

 

「黙っていなさい。コレは西住家の問題です」

 

しほはそう言ってレミを睨みつけた。

 

「ヒイイッ!? す、スミマセン!………」

 

途端に萎縮して下がるレミ。

 

如何に戦車道連盟の主審と言えど、西住流の師範に正面切って意見する度胸は無い様だ。

 

(何と勝手な………)

 

しほの傍若無人とも言える態度に、弘樹は益々不快感を覚える。

 

「みほ………1度は戦車道から逃げた貴方が、こんな無名チームの総隊長をやっているとは………随分と偉くなった様ね」

 

「あ………」

 

そうしほが言うと、みほはビクリと身体を震わせる。

 

(それが久しぶりに会った娘に言う言葉か………)

 

無意識の内に、拳を握り締める弘樹。

 

とそこで、しほの後ろに控える様に居たまほ、都草、久美の姿を見やる。

 

「「…………」」

 

まほはしほには見えない様に辛そうな表情を浮かべ、都草も苦虫を噛み潰した様な表情をしている。

 

「ゲロォ………」

 

久美は何か言いたげだが、言えずに居ると言った様子である。

 

(やはり面と向かっては逆らえんか………)

 

と、弘樹がそう思っていた瞬間………

 

「西住の名を持つ者として、コレ以上の勝手は許しません。即刻黒森峰に戻って来なさい」

 

「!!」

 

「なっ!?」

 

「「「「「「「「「「!?」」」」」」」」」」

 

しほは、みほに向かってそう言い放ち、大洗機甲部隊の面々は驚愕の表情を浮かべる。

 

「き、貴様! 何を勝手な事を………」

 

「…………」

 

「ヒイッ!?」

 

噛み付こうとした桃だったが、しほから睨まれて、慌てて杏の後ろに隠れる。

 

「…………」

 

その杏は、苦い顔でしほの事を見据えている。

 

如何に権限が大きい学園艦・大洗女子学園の生徒会長と言えど、相手は保護者………

 

歯向かえば、立場的に不利になるのは自分達の方である。

 

そう思うと、杏は何も言う事が出来なかった。

 

「…………」

 

迫信の方も、何やら意味深な表情を、広げた扇子で隠しながら黙り込んでいる。

 

「「「「「「「「「「…………」」」」」」」」」」

 

学園トップの2人が黙り込んでいるのを見て、大洗機甲部隊の面々も沈黙するしかない。

 

「さあ、来なさい、みほ。貴方の居るべき場所はコチラに在るわ」

 

しほはそこで、みほを招く様に手を差し出す。

 

「…………」

 

そのしほの前で、俯いて沈黙しているだけのみほ。

 

「みぽりん………」

 

「みほさん………」

 

「西住殿………」

 

「…………」

 

そんなみほに不安げな視線を向ける沙織、華、優花里、麻子。

 

と、その時………

 

「…………」

 

みほが、しほの方へと向かって歩き出した。

 

「!? みぽりん!!」

 

「みほさん!!」

 

「西住殿!?」

 

「!!」

 

「「「「「「「「「「!??!」」」」」」」」」」

 

沙織達が悲鳴の様な声を挙げ、大洗機甲部隊の面々も驚愕を露わにする。

 

「…………」

 

そんな中を、みほは只、黙ってしほの方に向かって歩いて行く。

 

やがて、しほまで後数メートルの距離まで近づく。

 

「それで良いわ。それでこそ西住の名を持つ者よ」

 

その様子に満足そうにそう言うしほ。

 

………だが、しかし!!

 

みほは不意に歩みを止めた。

 

「? 如何したの?」

 

「………だ………」

 

「?」

 

「………! 嫌だ!!」

 

「!? なっ!?」

 

そこでみほから出たのは、拒絶の言葉だった。

 

「如何いう積りなの!? みほ!?」

 

途端に、しほはみほを怒鳴りつける。

 

「! うう………わ、私は………」

 

怯えるみほだったが………

 

「私は………黒森峰には………戻らない!!」

 

顔を上げ、しほの事をしっかりと見据えてそう言い放った!

 

「! みほ!」

 

「みほちゃん………」

 

「西住殿………」

 

まほ、都草、久美の表情に驚愕の色が現れる。

 

あの大人しいみほが、初めて母に………西住流の師範に逆らったのである。

 

「私は此処に居たい! 大洗に居たい! 沙織さんや華さん! 優花里さんに麻子さん! それに戦車部隊の皆や歩兵部隊の皆さんと一緒に戦車道をやりたい!!」

 

「言った筈よ! 西住の名を持つ者として、勝手な振る舞いは許さないと!!」

 

「西住流なんか要らない!!」

 

「なっ!?………」

 

そこでしほは、初めて驚愕の表情を浮かべた。

 

「私は………私だけの戦車道を見つけたい! 西住流じゃなくて、私自身が選んだ戦車道を貫きたい!! だから私は! このチームで優勝してみせる!!」

 

そうハッキリと、みほはしほに向かって言い放つ。

 

「みほ! 貴方は何時から親に歯向かう様な反抗的な子になったの!!」

 

「!? ひゃっ!?………」

 

だが、しほから一際大きな怒声が挙がると、みほは萎縮する。

 

「みほ! 貴方は!!………」

 

と、更に続けてしほが何か言おうとしたところ………

 

「…………」

 

まるでみほを守る様に、1人の人物がしほの前に立ちはだかった。

 

「! 貴方は………」

 

「! 弘樹くん!!」

 

「…………」

 

そう………

 

その人物は舩坂 弘樹であった。

 

「舩坂 弘樹………あの英霊の子孫までもが大洗に居たとは、驚いたわ。でも、貴方には関係の無い話よ。下がって居なさい!」

 

そう言って弘樹の事を睨みつけるしほだったが………

 

「………その台詞はそのままお返ししましょう」

 

弘樹は微塵も応えた様子を見せず、しほに向かって淡々とした様子でそう言い放つ。

 

「!? 何ですって!?」

 

「西住くんは我等が大洗機甲部隊の総隊長………その進退を決める権利は彼女自身に在る………そして彼女は、黒森峰は戻らないと言った………それが全てです」

 

苛立つ様子を見せるしほだったが、弘樹は相も変わらず淡々としたした様子でそう語る。

 

(す、凄い、あの子………西住師範に面と向かって逆らってる………)

 

主審のレミが、そんな弘樹の姿に驚愕する。

 

「貴方………それでも英霊の血を引く者なの!! 西住に生まれた者は西住に帰るべきなのよ!!」

 

「………オイ、いい加減にしとけよ」

 

と、怒りの様子を見せるしほに、そう言う声が飛んだ。

 

「! 神狩殿っ!?」

 

優花里が驚きの声を挙げる。

 

その声の主は、白狼だった。

 

「さっきから聞いてりゃ、好き放題言いやがって………西住総隊長はアンタの都合の良い道具じゃねえんだぞ」

 

静かだが、ハッキリと怒りの心情が聞き取れる様子でそう言い放つ白狼。

 

如何やら、みほがまるで西住流の為に道具の様に扱われている様に、彼としても我慢ならないものがあった様である。

 

「貴方も西住流の重さが分かっていない様ね! 西住流は戦車道の『力の象徴』! そして西住流こそが戦車道! 西住の名を冠することは戦車道を体現するも同じ! 勝利こそが戦車道の本質よ!!」

 

「それは違う! 西住 しほ!!」

 

と、勝利こそ全てと説くしほに、真っ向から反論する者が居た。

 

「!? 何ですって!?」

 

「! エース!」

 

エースこと内藤 英洲だ。

 

「この世には、勝利よりも誇るに値する敗北と言うものも有る!」

 

「! 勝利よりも誇るに値する敗北ですってっ!?」

 

「そうだ! 武道とは、本来は人を殺傷・制圧する技術に、その技を磨く稽古を通じて人格の完成を目指す、と言う『道』の理念が加わったもの! 勝利に為に犠牲を必然とするのは、その『道』の精神に反している!!」

 

そう言い放ち、武道としての西住流の考えを完全否定する。

 

「知った様な口を………」

 

「知った様な口を利いてるのはどっちだ!!」

 

とそこで、大洗歩兵部隊の中からそう声が挙がる。

 

「!?」

 

「西住流だか、何だか知らねえが、俺達にはそんな事は関係ねえっ!!」

 

「そうだ! 俺達は総隊長が西住流だから付いて来たんじゃねえっ!!」

 

「みほちゃんがみほちゃんだから付いて来たんだ!!」

 

「それを横からしゃしゃり出て来て、グダグダ抜かすんじゃねえっ!!」

 

それを皮切りに、大洗歩兵部隊からしほへの非難の声が飛ぶ。

 

「あわわわわ………」

 

レミはその光景を見て、顔を真っ青にする。

 

西住流の現師範であるしほに、こんな野次にも似た非難を飛ばすなど、戦車道に関わる者なら先ず考えられない。

 

数ヶ月前まで素人だった大洗の面々ならではの、怖いもの知らずな行為である。

 

「西住流なんかお呼びじゃねえんだよ! 帰れっ!!」

 

「そうだ! 帰れ帰れ!!」

 

「「「「「「「「「「かーえーれっ!! かーえーれっ!! かーえーれっ!!」」」」」」」」」」

 

とうとう大洗歩兵部隊の面々から帰れコールが始まった。

 

「あ、貴方達っ!!………!? キャアッ!?」

 

と、しほがそんな大洗歩兵部隊の面々に怒声を挙げようとした瞬間、何者かが後ろからしほを掲げ上げる様に持ち上げる!!

 

「!? ルダさんっ!?」

 

みほが仰天の声を挙げる。

 

しほを掲げ上げていたのは、シャッコーだった。

 

「………アンタは母親のクズだな」

 

今までに見た事の無い嫌悪感を露わにした表情で、掲げ上げているしほにむかってそう言い放つシャッコー。

 

そしてそのまま、しほを投げ飛ばそうとする。

 

「や、止めなさいっ!!」

 

「シャッコーッ! 止せっ!!」

 

しほが悲鳴の様に叫び、弘樹もやり過ぎだと制止しようとしたが間に合わず、シャッコーはしほを投げ飛ばす。

 

2メートル30センチの身長を誇るシャッコーが掲げ上げて投げ飛ばしたのである。

 

高さは優に3メートル近くは有る。

 

如何に地面が雪で覆われているとは言え、下手をすれば只ではすまない。

 

「!?」

 

と、しほが思わず目を閉じた瞬間!

 

「危なーいっ!!」

 

そう言う台詞と共に、何者かがしほの落下地点へと回り込んだ!

 

「!? ぐへっ!?」

 

その人物は、そのまましほの下敷きになり、クッションの役割を果たす。

 

「「「「「「「「「「!?」」」」」」」」」」

 

突然の乱入者に、その場に居た一同は驚きを露わにする。

 

「~っ! 何が………」

 

投げ飛ばされたしほが状況を把握しようと上半身を起こすと………

 

「う~ん、しほちゃ~ん。またお尻おっきくなったんじゃない?」

 

「!?」

 

そう言う声が下から聞こえて来て、しほが慌てて視線をやるとそこには………

 

「えへへへ、でも柔らかくて良いお尻~」

 

しほの尻に顔面を潰されている男が、満足そうな声でそんな事を言っていた。

 

「!? キャアアアアアアアァァァァァァァァーーーーーーーーーッ!!」

 

即座に立ち上がると、その男の腹を思いっきり踏みつけるしほ。

 

「!? ゲボッ!?」

 

衝撃で、男の身体がくの字に居れ曲がる。

 

「ハア………ハア………ハア………ハア………」

 

羞恥と心労でしほが肩で息をしていると………

 

「もう~、しほちゃんてば、相変わらず照れ屋なんだから~」

 

腹を思いっきり踏まれた男が、何事も無かったかの様に呑気そうなセリフと共に立ち上がる。

 

「だ、誰?………」

 

「さあ?………」

 

その男の様子に若干引きながらそう言い合う沙織と華。

 

大洗機甲部隊の面々も突然現れた謎の男に困惑している。

 

と………

 

「! お父さん!」

 

「お父様!」

 

みほとまほが、その人物を見てそう声を挙げた。

 

「えっ?………」

 

「お父………さん?」

 

「じ、じゃあっ!?」

 

「まさか………」

 

みほの言葉を聞いて、沙織、華、優花里、麻子が有り得ないと言った表情をするが………

 

「ああ、みほ! 久しぶり! 元気だったかい? ちゃんとご飯は食べてるんだろうね? 1人暮らしで寂しい思いなんかしてないだろうね?」

 

男はそんな事を言いながら、みほの元へ近づいて来る。

 

「おや? 君達はみほの友達かい? いや~、こりゃどうも。娘がお世話になってます。みほの父の『西住 常夫』です」

 

そして、沙織達の姿を見ると、男………みほとまほの父親であり、しほの夫、『西住 常夫』はそう挨拶をした。

 

「「「「「「「「「「!? えええええええぇぇぇぇぇぇぇぇーーーーーーーーーっ!?」」」」」」」」」」

 

途端に、大洗機甲部隊の面々から驚愕の声が挙がる。

 

「お、お父さん!? この人、みぽりんのお父さんなの!?」

 

「本当なのですか!?」

 

「何かの間違いじゃないんですか!?」

 

「全然似てないな………」

 

先程の光景もあり、みほの父親だと言う事が信じられずにいる沙織達。

 

「ア、アハハ………」

 

みほは苦笑いを零すしかない。

 

「…………」

 

まほに至っては、常夫から完全に目を反らしている。

 

(………何処かで見た様な………)

 

そんな中、弘樹は1人、常夫の顔に見覚えを感じていた。

 

「あ、貴方! 何で此処に居るの!?」

 

とそこで、先程の事が尾を引いているのか、まだ若干顔が赤いしほが、常夫に向かってそう問い質す。

 

「えっ? 何でって………娘が出てる試合を見ない父親が何処に居るよ?」

 

常夫は不思議そうな表情でしほにそう返す。

 

「その子は西住流から逃げた子なのよ! 本来ならば黒森峰で西住流を叩き込む積りだったのに! 貴方が勝手に転校手続きや生活援助までして!!」

 

「ええ~~、だってみほがお願いって言うんだもん。そりゃ聞いちゃうよぉ」

 

怒り心頭と言ったしほの様子など何処吹く風と言う様に、飄々と言葉を返す常夫。

 

「貴方! 婿殿とは言え、貴方も西住家の人間! 西住流の鉄の掟は守ってもらわないと困るわ!!」

 

「別に良いじゃん、そんなの。継ぐ子が居なくなったら、畳んじゃえば良いんだからさぁ」

 

「「「「「「「「「「!? ええ~~~~っ!?」」」」」」」」」」

 

大凡武道の家元の人間の発言とは思えぬ無責任な言葉に、大洗機甲部隊の一同はまたも仰天の声を挙げる。

 

「戦車道を止めたら、そうだな~………あ! パン屋なんかやるのが良いんじゃないかな? 毎日美味しいパンが食べられて、万々歳じゃない」

 

「貴方は如何して何時も何時も!!………」

 

「あ、君!」

 

とそこで、常夫はしほの言葉を無視する様に、レミに声を掛ける。

 

「えっ? な、何ですか?」

 

「この後、暇? 良かったら一緒にお茶しない?」

 

そしてそのまま、妻であるしほの目の前で、少々古い文句でレミをナンパし始めた。

 

「!? 貴方~~っ!!」

 

途端にしほは、顔を茹蛸の様に真っ赤にして、常夫に近づき、襟首を締め上げる。

 

「もう、しほちゃんてばホント、怒りっぽいな~。夜はあんなに泣き虫なのに~」

 

「!! 何を言っとるか~っ!!」

 

常夫から飛び出した下な発言に、しほは常夫の首を絞めたままガクガクとその身体を揺さぶる。

 

「アハハハハハハハッ!」

 

頭がシェイクされているかの様にガクンガクンと揺れているが、その状態で馬鹿笑いを続けている常夫。

 

「「「「「「「「「「…………」」」」」」」」」」

 

大洗機甲部隊の面々は、その光景に最早驚きを通り越して、呆れて何も言えなくなっていた。

 

「こ、個性的なお父さんだね………」

 

と、その光景を見ながら、沙織が言葉を選んだ様にみほにそう言う。

 

「アハハ………お父さん、昔っからああなんだ。いつもいつも無責任で………」

 

しかし、みほも常夫が無責任な事は認めているのか、苦笑いしながらそう返す。

 

「無責任?………!? 思い出した!」

 

すると、その無責任と言う言葉で、弘樹がそう声を挙げる。

 

「うわぁっ!? ど、如何されたのですか!? 舩坂殿!?」

 

突然声を挙げた弘樹に、優花里が驚く。

 

「西住くん。君の父は婿だと言っていたが………旧姓は『平良(たいら)』じゃないか?」

 

「えっ? そうだけど………」

 

「やはりそうか………『日本一の無責任隊長・平良 常夫』か」

 

「「「「「「「「「「『日本一の無責任隊長・平良 常夫』?」」」」」」」」」」

 

「何ソレ?」

 

何とも情けない名前に、沙織が微妙な顔をしながらそう尋ねる。

 

「あれ? 僕のこと知ってくれてたの?」

 

と、その名に反応して、常夫が大洗機甲部隊の方を見やる。

 

「歩兵道者の間じゃちょっとした有名人だ………微風学園と言う学園の歩兵部隊で総隊長を務めていたんだが………ハッキリ言って歩兵としての能力は全く無く、兵法に対する知識もからっきし………その上、やる事なす事が全て無責任だった」

 

「最悪の隊長じゃねえかよ、ソレ………」

 

弘樹がそう語ると、地市はそうツッコミを入れる。

 

「いや~、それ程でも~………」

 

「いや、褒めてないから………」

 

常夫が照れた様子を見せると、今度は俊がそうツッコミを入れる。

 

「だが、彼には他の歩兵には無い恵まれた才が有った」

 

「才?………」

 

「そりゃ一体何だ?」

 

「それは………」

 

「「「「「「「「「「それは?………」」」」」」」」」」

 

大洗機甲部隊の一同が、弘樹に注目する。

 

「………『運』だ」

 

「「「「「「「「「「ハッ? 『運』?」」」」」」」」」」

 

「そうだ。悪運と言っても過言では無いな」

 

思わぬ答えに唖然とする大洗機甲部隊の面々に、弘樹は真面目な顔のまま語る。

 

「彼が参戦した試合では、所属していた機甲部隊は毎回の様に壊滅寸前の大打撃を受けて敗北が決まったかに見えるまで追い詰められるのだが、その度に有り得ないと言いたくなる様な偶然が重なり、悉く逆転勝利を収めている」

 

「そら確かに悪運やなぁ」

 

「その運の強さは折り紙付きだった。何せ………当時、西住 しほ師範が率いていた黒森峰機甲部隊に、唯一土を付けた事が有るくらいだからな」

 

「!? ええっ!? お母さんが率いてた………」

 

「黒森峰機甲部隊を相手に!?」

 

「「「「「「「「「「!!」」」」」」」」」」

 

弘樹のその台詞を聞いた途端、みほと優花里を始めとして、大洗機甲部隊の面々は驚愕の表情を浮かべる。

 

「…………」

 

対するしほは、苦い顔をして顔ごと大洗機甲部隊の面々から視線を反らしている。

 

如何やら真実の様である。

 

「で、でも! そんな話、聞いた事有りませんよ!」

 

「微風学園の機甲部隊は、公式試合に出れる程の規模が無かったので、練習試合しかした事がない。故に公的な記録には残されていない。しかし、歩兵道をやっている者の間じゃ有名な話だ」

 

「いや~、懐かしいね。それが切っ掛けでしほちゃんと出会って、お付き合いが始まったんだよね~」

 

常夫は懐かしむ様な顔をして、しほと肩を組む。

 

「! 触らないでっ!!」

 

「!? うひゃあっ!?」

 

途端に、しほは常夫の事を投げ飛ばす。

 

「貴方なんかと………貴方なんかと結婚してしまった事が、私の人生の中で最大の敗北よ!!」

 

握った拳を震わせながら、倒れている常夫に向かってそう言い放つしほ。

 

「兎に角! みほ!! この世に西住流は2つも要りません! 貴方が黒森峰と戦う事になった時! それが貴方の最期よ!!」

 

「ハ、ハイ………」

 

何時もだったら怯えるみほだったが、先程までの常夫との遣り取りの光景のせいで、微妙な表情になる。

 

「舩坂 弘樹! 貴方も覚悟して居なさい! 西住流に逆らうと言う事は、神に逆らうも同然だと言う事を教えてあげるわ!!」

 

更に、しほは弘樹に向かってそう言い放つ。

 

だが………

 

「例え神にだって、小官は従わない」

 

弘樹はしほを見据え、毅然とそう言い放った。

 

「! まほ! 行くわよ!!」

 

「ハ、ハイ!………」

 

それに立腹した様な様子を見せると、しほは踵を返してその場を後にし、まほも一瞬弘樹達の方を見て、しほに分からない様に頭を下げて、後に続いた。

 

「…………」

 

その様子に、みほは複雑そうな表情を浮かべていたが………

 

「みほ。しほの事は僕が何とかするよ」

 

とそこで、雪の上に倒れたままだった常夫が立ち上がり、みほに向かってそう言う。

 

「! お父さん!」

 

「大丈夫、大丈夫。何とかなるって」

 

そう言って朗らかに笑う常夫。

 

その言葉には何の根拠も確証も無い………

 

だが………

 

不思議と信じてしまいそうな『何か』が在った。

 

「それじゃあ、皆さん。今日はコレで失礼させてもらいます。また後日、改めてご挨拶に伺いますから………しほちゃ~ん、待って~」

 

そう言って、常夫はしほを追い掛けて行く。

 

「失礼するよ………」

 

「ゲロ、みほ殿。応援しているであります」

 

それに呼応するかの様に、都草と久美も踵を返す。

 

「「…………」」

 

去り際に、都草と弘樹は一瞬視線を交差させる。

 

「何時の間にか、西住流と正面から遣り合う事になっちまったなぁ………」

 

全員が去った後、俊がそう呟く。

 

「フフフ………面白い事になってきたじゃないか?」

 

「会長のその余裕さが羨ましいです………」

 

迫信は何時もの不敵な笑みを浮かべてそう言い、逞巳は胃の辺りを抑えながらそんな迫信を見やる。

 

「どの道、俺達には勝ち続ける道しかない」

 

「そうだねぇ………やれるだけやるだけさ。よ~し! 頑張ろうぜ、皆ーっ!!」

 

「「「「「「「「「「おおーっ!!」」」」」」」」」」

 

大詔がそう言うと、杏がそう言って全員に呼び掛け、大洗機甲部隊の面々が歓声を挙げる。

 

「………ありがとう、弘樹くん」

 

「言っただろう………小官は君の味方だ」

 

そんな中で、みほと弘樹もそう会話を交わす。

 

「ふふ~~ん………」

 

「うふふふ………」

 

と、そんな弘樹とみほの様子を、沙織と華を先頭に、一部の大洗機甲部隊のメンバーがニヤニヤとしながら見ている。

 

「? 何だ?」

 

「な、何? 沙織さん?」

 

「みぽりん………気づいてないの?」

 

「気づいてないって?………」

 

「舩坂くんの事………『弘樹くん』って」

 

「えっ?………!? ああっ!?」

 

沙織に指摘されて、初めて弘樹の事を名前で呼んでいた事に気づき、みほはトマトの様に真っ赤になる!

 

「キャーッ! 西住総隊長ってば、だいたーん!」

 

「ヒュー! ヒュー! お熱いねー! 御2人さんっ!!」

 

途端に、大洗機甲部隊の一部から、囃し立てる様な声が挙がる。

 

「あ、あうう………」

 

「…………」

 

そんな声に、みほは只々縮こまるばかりで、弘樹は困惑している様にヘルメットを被り直す。

 

と、その時………

 

「ノンナ! ノンナ! しっかりしてっ!!」

 

「「「「「「「「「「!?」」」」」」」」」」

 

今まで蚊帳の外だったプラウダ&ツァーリ機甲部隊の中で、カチューシャの悲鳴が聞こえて来た。

 

「ゲホッ! ガホッ! ゴホッ!」

 

見ると、ノンナが尋常ではない程にむせており、呼吸困難になりかかっていた。

 

「ノンナ!? 一体如何したんだ!?」

 

「さっき、あの大男が西住流の師範を投げ飛ばした時からおかしかったが………」

 

「舩坂 弘樹が神になんちゃらとか言った瞬間にコレだぜ!」

 

デミトリ、マーティン、ピョートル達も只々困惑するばかりである。

 

「! 医療班ーっ!!」

 

そこで、レミが慌てて医療班を呼ぶのだった。

 

しかし………

 

むせているノンナの顔は………

 

何処となく満足そうであった………

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

つづく




新話、投稿させていただきました。

みほを黒森峰の引き戻そうとするしほ。
しかし、みほはそんなしほを拒絶。
激高するしほだったが、弘樹がみほを守り、大洗歩兵部隊も面々から非難が飛ぶのだった。

そして、遂に登場。
みほとまほの父で、しほの夫である原作では名前だけ設定されている『西住 常夫』
この作品では、今回の様な無責任なお気楽キャラとなっています。
何故、こんなキャラにしたかと言いますと、切っ掛けはしほさんのCVからです。
しほさんのCVは冬馬由美さん。
冬馬由美さんと言えば、ガンダムF91のヒロイン、セシリーの人。
なら、夫のイメージCVは、シーブック役の辻谷耕史さんにしようと思いまして。
それでとある切っ掛けで見た『無責任艦長タイラー』の主人公・タイラーも辻谷耕史さんだったので、タイラーみたいな感じのキャラで、色々と引っ掻き回すけど、実は計算してやってるんじゃないかと思わせる様な感じと、悪運が強いって設定をつけようと思い、こんなキャラになりました。
実を言うと、主人公の弘樹の次に自分でも気に入ってるキャラだったりします。

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