気の向くまま、風の向くままに 作:かりびとさま
はじめの印象が大事。そうはいうものの、どうすればいいんだろうか?あと少しで妖怪の賢者が来る。うーむ。まあ、大丈夫だろう。なんとかなるさ。おっと、そうこうしているうちにもうすぐだね。
「それで、橙。私に来ているお客様はだれかしら?」
「えっと、風見幽香さんと…あっ、ここで待ってもらっています」
「あら、幽香。何の用かし、ら…」
硬直。それに続いて藍も入ってきた。どうやら橙は何か用事があるようで、自分の部屋に戻ると言っていた。
「紫様、幽香がどうかしたのです、か…」
またもや硬直。目の前の二人が不思議がっている。そして数瞬後、二人で同じことを聞いた。
「幽香、さん?隣にいるのは?」
すると幽香が頬をほんのりと朱く染めながら質問に答えた。
「二人共何をそんなに驚いているのかしら?そんなもの決まっているじゃない。私の最愛の夫よ」
「ははは、最愛だなんて嬉しいよ、幽香。僕はやっぱり幸せ者だよ」
「うふふ、こっちも幸せよ。あなたという人に逢えたのは、きっと運命だったのね」
「ああ、そうだとも。きっと如何なる運命でも、きっと僕たちは逢っているだろう」
二人共驚愕した。聞きたい事が山ほどあるが、一番最初に聞きたいものはやはり譲れなかった。
「幽香」
「なにかしら?」
「あなた、結婚していたの?」
「ええ。ざっと1600年程前かしら?」
更に驚愕。1600年前からというと、まだ私達は生まれてすらいないではないか。そしてここまできてから気付く。
ーーー自己紹介をしていない。初対面の人に。しかもあろうことか礼儀とか関係なく声を荒げてしまった。これはさすがに失礼だな、と思い返してみるが…
「それにしても、僕達が出会ってから随分経つんだね」
「そうね…でもあなたとだったらいつまでも過ごしていける気がするわ」
「ああ、僕もだよ」
当の本人達は気にしてすらいないようであった。しかし年齢の割には、というと変な気がするが、二人共まだまだお熱いようである。恋している、というよりはやはり少し落ち着いた感じの愛し合っている、というのが似合っている。
しかしこのままだといつまでたっても話が進まない気がしたので、紫と藍は自分達から話を進めることにした。
「えっと…あらためまして、はじめまして。この幻想郷の管理をしている、八雲紫です」
「その式神の、八雲藍だ」
「ああ、すまない。まだ自己紹介をしていなかったね。僕の名前はマーリン。しがない魔法使いさ」
すると紫が笑顔のまま硬直した。瞬間、幽香の下に時空の狭間ができた。そして紫も自分でそれを作り、中に消えていった。残されたのは、二人。
「ん?いなくなったみたいだね」
「あー、その、なんだ。うちの主人が申し訳ない…」
「なに、大丈夫さ。見たところ、君は九尾の狐かな?」
「ああ、そうだ。それがどうかしたのか?」
「いや、僕の知っている九尾の狐とはちがうなぁ、と思ってね」
「おお、私以外にも見たことがあるのか!一度も私と同じような者を見たことがなかったのでな、少し気になっていたんだ」
「いや、本当に同じ種族なのか疑わしくなるほど似ていないんだけどね」
「そんなに変わっているのか?」
「うん、なにせ傘を武器にしたりするしね。何よりテンションが違う」
「そ、そうか…そんなに変わっているのか…」
「名前は有名だけどね。多分一度は聞いたことがあると思うよ。彼女の名前は、玉藻の前。恐らく妖怪の中でもトップクラスで有名なんじゃないかな?」
「!?」
正直言って、お茶を吹き出しそうになった。玉藻の前といえば、多分妖狐の中で一番有名だろう。私でも見たことがないのに知りあいということは、この男、わりとすごい人なんじゃないなかろうか。いや、幽香と結婚している時点でそれはそうなのだが。
「大丈夫かい?」
「あ、ああ。すまない。見苦しい所を見せた」
「いや、大丈夫さ。それにしても、おそいねぇ…」
「そうだな…」
と言った直後に、何やら興奮した様子の紫が戻ってきた。幽香もしれっとマーリンの横に座っていた。
「お帰り。打ち合わせは終わったのかい?」
「は、はい!えっと、それで、どうでしょうか、この幻想郷は!」
藍は驚いた。自分の主がここまで興奮しているのは見たことがない。
「うん、とてもいい世界だと思うよ。文句無しでね」
「あ、ありがとうございます!」
二人が会話し、幽香がそれを見ながらお茶を飲んでいるなか、藍だけが取り残されていた。
(なぜ紫様がここまで興奮しているのだ?いや、そもそも目の前にいるマーリンとやらは何をしにきたのだ?うーむ、分からない事か多すぎる…)
こうした中、時間は過ぎていった。
それにしても、ここまで喜んでくれるとは思わなかったね。普通に挨拶もできたしね。それにしても、何か忘れているような…
本題は引っ越しの件だけれど、まあ、大丈夫でしょう。マーリンがとても嬉しそうにしているしね。それにしても、やっぱり今日もマーリンは魅力的ね。ずっと眺めていられるわ…