ソレを見た時、まず最初に感じたのは痛みだった。
心の奥底に未だ残る、消えることのない痛み。それが増長され、私の体を貫く。
痛い。
痛みが身体に染み渡ると、次に身体に力が、魔力がみなぎる。普段とは違う、紅くそしてドス黒いその力は感情を、精神を沸騰させるのに十分だった。それが怒りということを理解するのに、そう時間はかからなかった。理性という鎖を易々と壊し、溢れ出る怒りは自然とソレに向けられ、殺意へと変貌する。
殺意が向けられた先のソレは、理性の欠片もないような、暴力の化身と言うべきものだった。
魔力を吸収し肥大化した身体と、絶えず聞こえてくる不気味な鳴き声。
私はソレに幾度となく対峙し、そしてその全てをこの手で殺してきた。
今日もまた変わらない。怒りのままに、ただ殺すだけ。
ロザリアの意識が飛ぶ。
全てを怒りに任せ、慣れた動作で背中の矢筒から矢を引き出し、弓を構え、つがう。
標的を射抜くような鋭い眼が光り、つがった弓に紅い力が流れる。
限界まで引き絞った後、力を解放する。
解き放たれた矢は、全てを貫かんとする紅い光と化し、不気味な声をあげるソレに襲いかかる。
断末魔が、森の中に響く。
命が削られ、消えゆくその声は、ロザリアの意識を戻すに至った。
荒くなった息を整え、血液を絶えず送り出す心臓を落ち着かせる。
標的を仕留めるために放った紅い魔力の籠もった矢は、堅い甲殻をチーズのように突き破り、標的の急所を射抜いていた。
身体を、精神を支配していた怒りの感情は徐々に引いていき、悲鳴をあげる身体をぼうっと感じつつ、動かなくなったソレを見やる。
痛い。
身体が冷えと共に増していく痛み。
怒りで忘れることができていた、しかし消えることのないあの痛み。
私の、唯一無二の親友を奪ったアイツと同じ種のソレは、今はもう動くことはなく、かつての私の親友のように、ただ朽ちていくのを待っていた。
こんなことを、こんな復習を繰り返しても、この痛みが消えないのは分かっている。それでも抑えきれない怒りの衝動が殺意を生み、私の身体を駆り立てていた。
こんなことをしても、アリサは帰ってこない。
そう、もう帰ってくることはない。
元気な声と、明るい笑顔。
いつも私に元気をくれた、かけがえのない親友。
ロザリアの頬を、冷たい涙が濡らす。
右腕に巻いた紅い髪紐が、ただ一つ遺された親友の形見。
ロザリアは、それを見るたびに彼女との日々を思い出す。
かつて、二人ならどんな困難も乗り越えられると、そう信じていた。