まだ見ぬ美少女を求めて 作:マリア
ある日、気が付けば私は転生していた。しかも、女の子に。
当時はそれはもう混乱に次ぐ混乱と、親を含む周りを巻き込んでの大騒ぎになったが、なんとか無事にこの歳まで生きる事ができた。
育ててくれた親には感謝している。
それで、当初は転生チートだなどと大はしゃぎしたものだけど、残念ながら私の知識はあまり役に立たなかった。
いやまぁ、細々とした日常の知恵に対しては有用だったけどさ。
正直、この三国志的な世界に応用できるほど、私の頭のできはよろしくない。
……そう。何故か名を馳せている人は女性が多いとか、女性の方が色々と強いとか意味不明な部分はあるのだが、私が転生した世界は古代中国の時代だったのだ。
どうして、ここが古代中国かわかるかと言うと、私の名前が理由である。
性が劉で、名が和。ついでに伯禄なんて字まで完備。
こんな特徴的な名前、日本ではなく古代中国だとしか考えられない。
まあ、この時代が三国志かどうかと言うのは、私の半ば当てずっぽうな勘なのだが。そもそも、中国の歴史なんかに詳しくないし。とりあえず、古代中国と言ったら三国志でしょ、多分。
ともかく、前世の死因がなんだったのかはわからないけど、今生は面白おかしく暮らしてみたいなぁ……。
♦♦♦
「──と、いう訳で。旅に出たいんだけど、いいかな?」
「いいよ〜。いってらっしゃい〜」
間延びした声で手を振る女性──私の母親を見て、思わず私はずっこけそうになる。
「かるっ!? ちょっと、心配とかしないわけ?」
「いや〜。
「ああ、そう……」
とりあえず、止められないのなら問題はないか。
母さんが呼んだ陽というのは、私の真名だ。
なんでも、真名とは非常に神聖な物のようで、勝手に許可なく人の真名を呼んではいけないらしい。
仮に呼んでしまったとしたら、その場で殺されても文句は言えないのだとか。
物騒すぎる風習に、改めて世界が違うと認識した事は記憶に新しい。
ちなみに、私の真名は天子様を表す太陽に使われている文字なので、役人達に聞かれると凄く面倒臭い事態になるかもしれないのだとか。なんでこんな名前にしたし。
と、話が逸れた。
「じゃあ、明日にここを出るから」
「お土産よろしく〜」
「いや、お土産なんか用意できないと思うよ」
呆れた表情を向けた後、私は室内を後にしようとしていく。
その途中で振り返り、いつの間にか寝巻きに着替えて就寝の準備をする母さんに。
「ああ、そうそう。私がいない間、ちゃんと仕事をしなよ?」
「え〜!?」
「いやだって、いま何刻だと思ってんの?」
私がそう尋ねると、母さんはこてりと可愛らしく小首を傾げた。
「お昼前、かな〜?」
「……わかってんなら、さっさと仕事しなよ」
「その仕事から逃げる人に言われたくありません〜」
「うっ」
確かに、これから旅に出る私が言っても、説得力に欠けてしまうよね。
自覚しているだけに、思わず言葉に詰まってしまった。
そんな私の様子を見て、母親……というより、幽州牧である劉虞が、にっこりと微笑む。
「大丈夫よ〜。他の人達にちゃーんと指示を出しておいたから〜」
「母さんって、人を使うのは上手いんだよなぁ」
「その方が楽できるからね〜。だから、陽ちゃんが考えた政策は助かったのよね〜」
「ああ。寺子屋だね」
嬉しそうな母さんの姿に、私は合点がいって頷く。
前世の知識を使って、なにかできないかと考えていた時。
私が頭を悩ませるより、頭が良さそうな人を育ててそいつに考えさせれば良いのではないか、と思いついたのだ。
で、前世を元に作った寺子屋。当時は諸侯からの評価は悪かったが、地道な努力でとりあえずそこそこの評判になった。
母さんが領民達に親しまれている事もあってか、徐々に加入する子供達も増えている。
新たに育った人材を手に入れた事で、母さんの居眠り癖も比例して増してしまったが。
「だから〜、わたしがいなくても問題なし〜」
「……まあ、いいわ。じゃあ、私はもう行くから」
「おやすみ〜」
抜けた笑顔で手を振る母さんに、私は毒気が抜けて肩を落とす。
こうして、想像に反した緩い雰囲気で、私は旅に出る事となるのだった。
♦♦♦
「と、いう事でさ。どっか面白そうな場所知らない?」
「いや、私に聞かれても困るんだが」
今までの経緯を軽く話して尋ねるも、相手の返事は芳しくない。
現在、私は家を出て身近な街で食事を摂っているところだ。
店内は非常に混んでいたので、目の前にいる少女と相席になっている。
水を飲んで喉を潤していた彼女は、困ったように眉根を寄せてため息をつく。
「まあまあ。せっかく会った縁なんだし、いいじゃん?」
「初対面の者に尋ねる話ではないが」
そう告げつつも、心根は律儀な性格なのか。彼女は腕を組んで私の質問に答えようとしていた。
首を傾けて唸るその様子を眺めながら、改めて私は少女の事を観察していく。
歳は私よりやや低いだろうか。
傍らには背丈以上の青龍刀? のような武器を立てかけており、凛と伸びている背筋と相まって、どこかできる武士の雰囲気を漂わせている。
長い黒髪はサイドテールになっていて、キリリとしたカッコイイ美少女だ。
そして、胸が大きい。
おっぱいがでかい。
同年代の平均よりは確実に大きいだろう。
長らく今生の女として生きてきた影響で、女性の意識が芽生えてきた私としては、若干悔しい気持ちを抱かざるを得ない。
ま、まあ。私だって胸は美乳と言えるほどの大きさはあるし。貧乳ではないから、そこまで目くじらを立てる事もないだろう。
……前世では男性だったんだけどなぁ。気が付けば、一人称も俺から私に変わっちゃったし、自分の身体を気にするようになるなんて、本当に人生何が起こるかわからないもんだ。
思わず遠い目をしている間に、どうやら少女は何かしら結論が出たらしい。
「すまない。私では力になれそうにない」
申し訳ない表情を向ける少女に、私は首を横に振って口を開く。
「いや、いいよ。ダメ元で聞いただけだし」
「そう言って貰えて助かる」
ホッと安堵の息をつく少女。
思ったよりも、質問に答えられなくて気に病んでいたようだな。
根が真面目というか、生真面目すぎるというか。
前世でいたなぁ。こういうタイプの委員長。
委員長と言えば、眼鏡をかけて読書をしているイメージがあるけど。
「な、なんだ?」
たじろぐ様子を見せる少女を無視して、私は顎に手を添えて想像上の眼鏡を、目の前の彼女にかけていく。
……うん、ありかな。
ぶっきらぼうに文句を言う口調とは裏腹に、頬を僅かに赤く染めてクラスメイトの手伝いをする。
「ツンデレ委員長」
「待て。お前が言っている事の意味はわからないが、それは私にとって非常に不愉快な呼称だとはわかるぞ」
「そう? 貴女にピッタリな渾名だと思うんだけどなぁ」
「そ、そうなのか?」
「その通り! 私が言うんだから、間違いない!」
自信満々に頷けば、困惑気味に口元を開いたり閉じたりする少女。
私の言葉を素直に受け取りたいが、自分の勘に従った方が良いのではないか、といった事を考えているのだろう。
なんというか、凄く弄りやすそうな性格だ。美少女だし、見た感じ強そうだし、おっぱいもでかいし、正直旅仲間としては最適ではなかろうか。
いくら女性としての意識があるとはいえ、元が男性だったからか、やはり見ていて癒されるのは美少女の方なのだ。
イケメンより、美少女。
ショタより、ロリ。
つまり、そういう事なのです。
一人で旅をするのも良いが、やはり目の前の彼女を誘うべきだろう。
いや、断られても私がついて行く。その方が、面白そうだし。
そう考えた私は、さっそく行動に移すべく、考えすぎで目を回している少女に声を掛ける。
「それよりさ。私と一緒に旅をしよう!」
「私はツンデレ……そもそも、ツンデレというのは一体……はっ! な、なんだ?」
「だーかーらー。適当にこの国を回って旅をしようって言ってるのー」
机を軽く叩いて復唱すると、少女は綺麗な瞳を丸くした。
「わ、私とか?」
「そうそう。貴女みたいな美少女と一緒だと、旅も潤うじゃん?」
「び、美少女!?」
瞬く間に顔色を真っ赤に染め上げた少女に、思わず私は首を傾げる。
「違うの? 私の中では、貴女はすっごい美少女なんだけど」
「い、いや。その、今まで美しいと言われた事がなくてな」
「えぇ!? それは周りの人の目がないって! 貴女が美少女じゃなかったら、そこらの人なんて虫と一緒だよ虫と!」
「そ、そこまで言うほどなのか?」
目を逸らして照れている少女へと、私は力強く頷いて拳を握り込む。
「当たり前だよ! 鮮烈な意志が篭った美麗な瞳に、絶妙なバランスで整っている顔立ち。
すらりとした華奢な身体とは裏腹に、一目で鍛えているとわかるほどよい肉つき。
なにより、まだまだ将来性が期待できる胸! これだけでご飯三杯はいける」
「そ、そこまで褒められると……ん、胸?」
初めは嬉しそうに頬を掻いていた少女だっだが、ふと何かに気が付いたのか、眉尻を上げて私にジト目を向けた。
どこか冷めた眼差しを送ってくる少女に、私は慌てて手を振って言葉を重ねる。
「待って待って待って! 確かに、貴女の胸は美味し……ゴホン。とにかく! 貴女は私が今まで見た中で、三本の指に入る美しさだから!」
「……いまいち、褒められた気がしないが。まあ、ありがとうと言っておこうか」
「うんうん。褒め言葉は素直に受け取るのが良いって」
「お前が言う事ではないな」
「うっ。ごもっともです」
ばっさりと切り捨てられ、私は身を縮こまらせた。
なんだろう。前世の幼い頃で学校の先生に注意された時のような、どことなく逆らいづらい雰囲気を感じさせる。
……はっ!? これが母性というやつか!
確かに、目の前の少女は教育ママと言わんばかりに、根が真面目そうだ。
つまり、将来はこうやって子供を教育していくという事だろう。
あれ。母性と子供の教育方針って関係あるの?
話が脱線しすぎてゴチャゴチャに混ざり、よくわからない事になっているような。
「それで、旅の勧誘だったな。悪いが、私にはやる事がある。すまないが、その申し出は断らせて貰う」
「ちなみに、そのやる事って?」
問いを投げかけると、少女は遠くを見るように虚空を眺めた。
今にも消え失せそうなその雰囲気に対し、表情にはどこまでも行きそうな強烈な想いが込められている。
思わず惹き込まれる私を尻目に、少女はポツリポツリと独白していく。
「今のこの世は、悪意が充満している。誰もが賊に怯え、権力者達は私欲を尽くし、争いが絶えない。
この辺りは比較的落ち着いているようだが、やはり人々の平穏にはほど遠いだろう」
「まあ、確かに」
母さん達が頑張っているお蔭で、この辺の治安は非常に良い。
年々他州からの移住者が増えているぐらいだからな。
それに、私の前世の知識をどうにか捻りだして、使えそうな政策はバンバン取り入れた。
結果、現代日本ほどの治安とは口が裂けても言えないけど、この時代にしては破格の住みやすさとなっているのだ。
ただ、いくら私の知識を披露したところで、この世界のとは国も時代も文化も違う。
だから、この場所に合った物にしなければならず、そのすり合わせで何年もかかった。
今でも完璧とは言えないし、ある程度の治安になるのは、あと数十年単位の時間がかかってしまうだろう。
……それに、この国を良くするのは、もはや手遅れと言っても過言ではない。
母さんから聞く話や自分で調べただけでも、出るわ出るわ埃の数々。
権力者のほとんどが甘い汁を啜っており、もう荒治療でしかどうにもできないだろう。
それこそ、前世の物語とかでよくある、革命や国の滅亡なんかでしか。
「この時勢で呑気に旅に出るというのは、正直お前の正気を疑ったぞ」
「言いたい事はわからなくはないけどさぁ」
「まあ、別に止めはしないが。と、話を戻そう。
簡単に言うと、だ。私は今の世を少しでも変えるために、人々の平穏を脅かす賊共を退治している」
「つまり、今の乱れた世の中をなんとかしたいってこと?」
「ああ、そうだ」
なるほど。少女らしい真面目な夢だ。
少し話した私でもわかるほど、少女は常に真っ直ぐで心身共に立派だと思う。
そりゃあ、私だってこの国をなんとかしたいと思う気持ちはある。だけど、本質的に自分と周りだけ良ければよいと考えてしまう私からすれば、少女のような純粋でひたむきな想いは眩しい。
まあ、だからと言って少女の事を諦めるつもりもないけど。
重々しく頷いている少女を見て、私はにこやかな笑みを浮かべる。
「じゃあ、その旅に私も付き合うよ」
「え?」
「武術には自信があるし、貴女のその夢を応援したくなったの。それに、貴女と私の目的。一緒に旅をしても一致するでしょ?」
「ま、まあそうだが」
「なら、決まり! 今日から私達はパートナーね!」
そう告げて手を差し出せば、困惑した様子で手を握り返してきた少女。
「よくわからないが、話し相手がいるのもいいだろう。これからよろしく頼む」
よし!
とりあえず、勢いで押せて僥倖だった。
上手く言質も取れた事だし、これで私の旅も退屈しそうにないな。
と、そうだ。
「そういえば、名前を聞いてなかった。なんて言うの? あ、私は劉和でいいよ」
「……まあ、これから長い付き合いになるだろうし、私の事も関羽と呼んでくれ」
口元を綻ばせてそう返してきた少女──関羽の言葉を聞いて、私は頭に何かが引っかかった。
関羽……関羽……どこかで聞いた事があるような。主に前世の記憶の片隅に置いてあるような。
「どうした?」
「いや、うーん。何か大事な事を思い出しそうなんだけど」
「思い出さないのなら、大した内容ではないんじゃないか?」
「それもそっか。改めて、これからよろしく、関羽!」
「こちらこそよろしく、劉和」
関羽の言葉に頷いた私は、これからの旅路に思いを馳せるのだった。
♦♦♦
こうして、私と関羽の旅が始まったのだ。
自分の足でこの生を謳歌しながら、関羽と一緒に悪い人達を成敗していく。
ついでに、可愛い女の子とお近づきになれれば御の字!
ゆるーく旅を楽しみつつ、関羽のおっぱいを……うへへ。
「おい、その気持ち悪い顔は止めろ」
「はっ!?」
「……劉和と旅をするのは早まったかもしれない」
表情に後悔を滲ませているが、もう手遅れだからね。
いつか、関羽の胸を……おほん。とにかく、色んな女の子とイチャイチャしてやる!
「やったるぞー!」
「はぁ……前途多難だ」
拳を握る私を見て、関羽はそれはもうふかーいため息を零すのだった。