まだ見ぬ美少女を求めて 作:マリア
関羽と共に送る事になった旅は、非常に順調であった。
困っている村があったら助けたり、襲いかかってくる賊を倒したり、偶に起こる関羽とのハプニングで良い思いをしたり。
うん、最後のは蛇足だったかな。
ともかく、あの時関羽を誘うという私の考えは間違っていなかった。
我ながら諸手を挙げて賞賛したいところだ。
「私としては、微妙な気持ちなんだが」
「うん? 突然どうしたの?」
「いや。劉和の顔を見ていたら言いたくなってな」
首を捻ってそう返した関羽に、私は勘の鋭さに内心で苦笑いをした。
武士としての勘か、はたまた女としての勘なのか。
どちらにしても、関羽の直感レーダーの感度は良いという感じかな。
ついでに、感度が良くなって欲しい場所が……
「あたっ!」
「こら。あまり変な事を考えるな」
頭を軽くチョップされ、思わず額を押さえる私。
対して、関羽は両手を腰に当てて呆れた表情を浮かべていた。
こうして一緒に旅をしていてわかったのだが、関羽はどこか世話好きな所がある。
私が変な行動を取ろうとすると、素早く対処して軽い説教をしたり。迷子の子供を見つけたら、積極的に関わって親探しを手伝ったり。私が美少女に釣られそうになれば、滔々と道徳の大切さを説いたり。
……あれ。思い返せば、ほとんど私関連な気がする。
ま、まあ。それだけ関羽と仲良くなったという事だし、問題ナッシングだよね!
「とりあえず、暗くならないうちに早く街に行こう」
「誤魔化したな」
「そんな事ないって。実際、もう直ぐで夕方になるでしょ?」
「まあ、確かにそうなんだが。いまいち釈然としないというか」
微妙な表情を浮かべた関羽を尻目に、私は意気揚々と視界の先に広がる街……というより、村へと向かっていく。
「はっ! やっ! せいっ!」
関羽と村に向かっている途中で、どこからか鋭い声が耳に入る。
その方向へと視線を転じてみれば、一人の少女が気合いを込めて拳を振っていた。
全身には大小様々な傷があり、それだけで彼女の弛まぬ鍛錬の跡が窺えるだろう。
手甲を着けた徒手を突き出し、直後には滑らかに回転しながら回し蹴り。
綺麗な風切り音を奏で、同時に少女から珠の汗が弾け飛ぶ。
「……ゴクリ」
ここからでもわかる、彼女を中心に立ち上る健康的な色気。
形の良い美乳を揺らし、短い銀髪を靡かせて少女は舞う。
演舞に通じる動きをしつつも、拳に込められた力は酷く実戦的だ。
恐らく我流でここまで鍛え上げた少女に、私は素直に尊敬する。
ぷるんおっぱいを……じゃなかった。その動きをいつまでも見ていたいものであった。
と、腕を組んで頻りに頷いていたのだけど、対する関羽は疑念の眼差しを送ってくる。
「目線が厭らしいぞ」
「失敬な! 私はあの人の鍛錬に見惚れていただけだし!」
「本音は?」
「揺れるおっぱいが美味しそう……はっ!?」
は、謀ったな関羽!?
慌てて視線を少女の胸から関羽に移せば、白い目をした彼女とかち合う。
だ、だって仕方ないじゃないか! あの少女が凄く可愛いんだから!
あの堅物そうな雰囲気の彼女を、くっ殺したりデレ顔に変えたりするのを想像するだけで……するだけで……!
「そう思うでしょ!」
「黙れ、変態」
「ぐぅっ!」
言葉の矢が胸に突き刺さり、私は一歩二歩と後ずさって膝をつく。
こ、この短期間で私の心を的確に抉るとは。関羽、恐るべし!
否、否。逆に考えよう。これは、少女の方ばかり意識を向けていた私に、関羽は嫉妬をしてあえて冷たい言葉を言ったのではないか?
つまり、関羽はツンデレ……やっぱり関羽はツンデレ委員長だったんだ!
「何を考えているのか知らんが、その気持ち悪い顔はやめろ」
「うんうん。わかってるわかってる。関羽の気持ちはちゃーんとわかってるから」
立ち上がった私は、努めて優しい顔で関羽の肩を叩く。
「はぁ……まあ、いい。早くいくぞ」
呆れた表情で一瞥した後、関羽はスタスタと先に進んでしまった。
「あ、待って! ごめん、馬鹿な事を考えたのは謝るから置いてかないでー!」
慌てて追随していき、私達は少女がいる村へと近づいていく。
私達が少女と話せる距離まで縮んだ時には、彼女は腰だめに構えた掌を突き出すところだった。
瞬間、少女の掌から光る玉が飛び出し、近くにあった岩へと着弾。
見事に割れたそれを見て、私は自然と湧き立つ思いを抑えきれなくなる。
「ふ、ふぉぉぉぉ!」
い、今のは気弾!? 気弾なの!? 前世で一度は挑戦してしまう、気を放つ技なの!?
やばい……この世界に気があるのは知っていたけど、まさか気弾まであるなんて知らなかった!
気を外に放つ練習はしていたが、今まで成功した事がなかったから、てっきりこの世界での気はそういうのができないかと思っていたのだ。
しかし、今目の前で彼女が気を外に放っているのを目撃した。
つまり、この凛々しい美人に習えば、私も気弾を撃つ事ができる!
「な、なにか……?」
どこか警戒するように尋ねる少女に勢いよく近寄り、手を取って笑顔で告げる。
「私を弟子にしてください!」
「へ?」
その言葉に目を丸くする少女を見て、隣に並んだ関羽が呆れた表情で肩を竦めるのだった。
♦♦♦
少女の綺麗な顔を間近で見た事で、危ない思考に陥りかけた私の頭を、関羽が軽く叩いた後。
とりあえず立ち話もなんだから、と私達は少女──楽進の案内で村の宿へと案内された。
途中で楽進とは自己紹介をしており、私の強い押しでなし崩し的に名前呼びにする事ができたのだ。
初対面の人は字で呼ぶのが一般的らしいが、そんなの私の知った所ではない。
可愛い女の子はやっぱり名前呼びにしたいし。
できれば真名で呼びたいけど、流石にそれは難しいだろうなぁ。
ともかく、そういった経緯で私達は楽進と一緒にいる。
「それで、弟子というのは?」
訝しげな楽進へと、私は掌を突き出して口を開く。
「こう、バッ! とさっき気を玉にして撃っていましたよね?」
「はぁ、していましたけど」
「そう! 私も楽進のように気弾を撃つ練習をしていたんだけど、今まで成功した事がなかったの。だから、楽進の弟子になって教えていただければなーっと」
おずおずと窺うように尋ねる私に、楽進はなんとも言えない表情を返す。
これはもしかして、一子相伝の技だから私に教えられないという事だろうか?
た、確かに気自体を使っている人は見た事ある。関羽も気の扱いは上手いし。
しかし、楽進のように気を撃ち出す人は見た事ない。
やはり、そう簡単に必殺技を教えられるわけがないか……ならば!
「お願いします! 代わりに私が独自に編み出した気の扱い方を教えますから!」
「い、いや。教える事自体は吝かでもないんですが……」
「ですが?」
「その、今まで人に教えた事がないので、上手く教示できるかどうか」
そう告げると、頬を掻いて苦笑いする楽進。
堅物そうな美人が困ったように笑うその姿は、端的に言って可愛い。
一気に柔らかい雰囲気になり、思わず私はドキリと胸を高鳴らせてしまう。
……はっ! まさかこれが、俗に言う恋というやつ!?
と、思い至ったところで、先ほどまで黙って景色を眺めていた関羽が、半目になって私の肩を小突く。
「お前は真面目に考える事ができんのか」
「な、なんで私の考えている事が。いや、皆まで言わなくてもわかってる」
「別に以心伝心というわけでもないからな?」
「なんですとっ!?」
てっきり、私と関羽の心が繋がっていると思っていたのに。
違うんだ……違うのか……
「あ、あの?」
「ん、ああ。すまない。こいつの言葉は八割ほど戯言だから、適当に受け流すのがいいと思うぞ」
「ちょっとー! どうして、そう私の評判を下げる事を言うの!?」
「日頃の行いのせいだな」
ばっさりと切り捨て、肩を竦めてやれやれと首を横に振る関羽。
く、くぅ! ちょっとばかし可愛くて凛々しくておっぱいが大きくて性格も良い完璧超人の癖に!
そんなに私を馬鹿にするような事を言いやがって。だったら、私にも考えがある。関羽の悪い所を楽進に教えて……教えて……
「うわーん! 関羽を貶す部分がないよー!」
「御託は良いから、早く話を進めたらどうだ? 楽進も困ってるぞ?」
「それもそうだね」
嘘泣きを止めて楽進に向き直れば、頬を引き攣らせている彼女と目が合う。
若干引き気味な楽進は、咳払いを落として。
「ま、まあ。私も劉和殿の力量には興味があったところです。ここは、互いに気について講義し合うといいのはいかがでしょうか?」
「了解しました! では、これからよろしくお願いします、師匠!」
「し、師匠!?」
ビシッと敬礼をした私に、楽進は素っ頓狂な声を上げた。
どうやら、まさか自分が師匠などと大層な呼び名を言われるとは思わなかったらしい。
しかし、それは楽進の考えであり、私にとって敬意を評するのは当たり前だ。
私にできない事をする技量に、それを惜しみなく教えてくれる度量の広さ。
これだけで、楽進の素晴らしさが窺えるだろう。
ならば、その楽進を師匠と仰ぐ事は間違っているだろうか。いや、間違っているはずがない。
なお、師匠と弟子という禁断の関係に惹かれたわけではない。
嬉し恥ずかしハプニングの期待に胸を膨らませている事なんて決してない。ないったらないのだ。
「あ、関羽も一緒に講義受ける?」
「興味はあるが。いいのだろうか、楽進?」
「師匠……私が師匠……良い響きかもしれない……あ、ええ。構いませんよ」
「師匠! わざわざ私に敬語を使わなくてもいいんですよ! むしろ、もっと親密になるために是非普段の口調で!」
「あ、ああ。わかった」
楽進は私の勢いに押されて、頷いた。
よっしゃ! これで楽進……師匠と更に距離が縮まったかな。
後は手取り足取り師匠に教えて貰えれば、もっともっと師匠と仲良くなれるはず!
手取り足取り……なんだか、とてつもなく良い響きではないか。
いやいや、私は真面目に男のロマンを実現するために気を習うんだ。そんな邪な考えをしてはいけない。
「とにかく、さっそく修行をしよう!」
という事で、師匠監修の男のロマン……もとい、気の講座が始まるのだった。
♦♦♦
──銀線が駆け抜ける。
瞬く間に数を増すそれ等は、宙に演舞を奏でて縦横無尽に一人の少女を囲む。
しかし、手甲を装備している彼女が両手を回せば、連続した金属音が響き、銀色の旋風が火花と化す。
雷鳴の如く、あちこちで煌めく銀と銀の剣戟。
「ふっ!」
青龍刀を振り翳して、恐ろしく精錬された太刀筋で拳闘士を討たんとする、黒髪の美少女。
サイドテールにしている美髪を翻し、口元に弧を描いて愛刀を振るう。
「はぁっ!」
対して、手甲を打ち合わせた銀髪の美少女は、好戦的な瞳で殺戮の剣撃を受け流す。
彼女達を中心に風が吹き荒れ、円状に砂埃が広がっていく。
全身に刻まれた己の鍛錬の証。それに違わぬ流麗な動きで、銀の少女は手足を交えて黒の少女へと攻撃を浴びせる。
銀と黒の攻防。交差したかと思えば、甲高い音が鳴り響く。闘気と剣気が複雑に入り混じり、時折地面に蜘蛛の巣状の亀裂を走らせていた。
「……」
常人では立ち入る事ができない戦闘を、死んだ魚のような目で見ていた私。
あれから、私達がさあ気の講座を始めようとなったのだが、何がどう間違ってこうなったのか。
あれよあれよという間に関羽と師匠が闘ってみたいとなり、私を放って模擬戦を始めてしまったのだ。
酷い。酷すぎる。せっかく私の華麗なるロマン技が創れると思ったのに。こんな、こんな焦らしプレイをするなんて……!
「うへへ」
いかん。思わずだらしない笑みを零してしまった。慌てて袖で口元から垂れる涎を拭い、大きく揺れる二人の胸を凝視する。
関羽が飛び退いて師匠の攻撃を躱せば、ぷるんと美巨乳が揺れ動く。
拳を構えて呼気を震わせる師匠に併せて、形の良い美乳が上下する。
青龍刀を振り回す関羽。しなやかな身体が伸び、引き締まっているお尻が私を誘う。
回避して回し蹴りを放つ師匠の美脚が、健康的な色気を醸し出して私を惑わせる。
ああ……なんて、なんて最高なんだ!
ここは天国か!
素晴らしい。素晴らしいよ。やはり、美少女達の戯れほど、見ていて癒されるものはない。
微笑ましく思いながら見学していると、何故か関羽達が揃ってぶるりと身震いした。
「い、今何か悪寒が」
「私もだ。よくわからないが、背筋が冷えたぞ」
し、失礼な!
私はただ、親が子を見守るような気持ちを抱いていただけなのに。今だって優しい目をしていたはずだし。
ほら、二人揃って私に疑惑の眼差しを送らないで。早く模擬戦の再開をしなって。
釈然としない様子だったが、気を取り直した関羽達の剣戟が再び始まる。
「うん、それでいい」
さて。このまま目の保養のために楽しむのもいいんだけど。
ずっと眺めているのも飽き……はしないか。とにかく、私もそろそろ気の練習をしようっと。
座っていた岩から飛び降り、師匠の戦いを見ながら見様見真似で気を動かしてみる。
うーん。身体の中を循環させるだけなら簡単なんだけどなぁ。前世の熱血漫画とかの修行方法を参考にしたから、一部分に気を集めたりはできるのだけども。
しかし何故か、気を外に放出する事だけができないでいたのだ。なんでだろう。外に放つ事ができれば、夢の舞空術とかが使えるかもしれないのに。
「おぉー。随分と楽しそうやなぁ」
頭を悩ませて四苦八苦していると、背後から誰かが近寄ってくるのを察知。
独特なイントネーション……前世の関西弁に似た口調を聞いた私は、久しく聴かなかった言葉に驚きつつ振り向く。
「──」
瞬間、私の全身は稲妻に打たれた。
いや、そう誤認してしまうほど、私は凄まじい衝撃に襲われたのだ。
私の視界から眼前の少女以外の存在が消え失せる。色を失った白黒の世界で、艶めかしく映える肌色。
不思議そうな目を向けてくる彼女を見て、私は言い知れない感情をふつふつと沸き上がらせていく。
同時に、身体は自然とある行動を行う。
羽のように軽やかに跳び、縦に三回転しながら少女の前で正座。
直後には両手を前に倒し、頭も彼女へとひれ伏す。
「ちょ、いきなりなんや!?」
動揺した気配を漂わせる少女を尻目に、今生で一番の思いを込めた私の内なる叫びが、辺りに木霊す──!
「そのお胸様を触らせてくださいッ!」
「何を言ってるんだお前はぁ!」
「みぎゃぁっ!?」
関羽の声が響いたかと思えば、私の後頭部に激しい痛みが走る。
潰れたカエルのような断末魔を上げた私は、薄れゆく意識の中、顔を真っ赤にして腕で隠そうとする少女の零れんばかりの爆乳に親指を向けるのだった。
──ナイス、おっぱい。