日本・冬木
ー遠坂邸ー
「間もなくだ。間もなく遠坂家の悲願が達成される日が来る」
遠坂邸の一室に男の声が響き渡る。名を、遠坂蓮貴。当代の遠坂家当主である。その部屋にいるのは蓮貴のみ。いや、この男の他にもう1人。
「おいおい、少し気が早過ぎるのではないか?主よ」
そう言って、その人物は姿を現す。それは初老にさしかかった男であった。典型的な物より軽装な甲冑、ボディビルダーとまではいかないものの筋肉質な体格という見た目。何より目を引くのは傍らにある得物である。形は日本式の長槍の形状だが、全長は5メートル近くの長さと異様なサイズの槍だ。
「まだ戦も始まってないというのに、もう勝利宣言であるか?」
「ふふ、それほどに気分がいいということだよ、ランサー。全クラスの中で最優とされるセイバーでなくとも、君ほどの英霊ともなれば勝ったも同然だろう?」
蓮貴のこの発言に、ランサーは軽く溜息を吐く。
「儂とて負ける気は毛頭ないが、少々買い被り過ぎだ」
「そのぐらい君を評価しているのさ。なんせ日本においては知らぬ者無しの英雄なのだから」
「まあいい、戦いとなれば全力で敵の首を獲りにいくだけだ。それより、主がそれほど気分が良いというなら儂も楽しませてもらおうか」
そう言って、ランサーはテーブルの上の物に目を向ける。そこにあったのは1本のワインボトルである。
「生前は全く縁の無かった西洋の酒となれば、飲んでみたいと思うだろう?」
その発言に蓮貴は肩を竦める。
「やはり英雄というのは、酒に目が無いらしい。まあいい、彼の武人と酒を酌み交わすというのは光栄なことだ。是非ともお供させてもらおう」
こうして、2人は静かに酒を酌み交わしていく。
ー深山町・とある別荘ー
1人の男が、退屈そうに酒を呷っている。彼、ジェイク・グランツは世界でも名の知れた財閥のトップである。そんな人物が何故ここにいるのか、それは彼の裏の顔に関わりがある。表向きは財閥のトップという肩書きだが、裏では魔術協会とのコネを持っている。魔術が一般人に知られないための隠蔽工作や、資金・資源の調達を行う見返りに、魔術を用いた実験に協力するという形でこの関係が成り立っている。
今ここにジェイクがいるのは、もうじき行われる聖杯戦争を見てみたいというジェイクの要望が協会に通ったからである。だが、ただ見ているだけというのが思ったよりも退屈そうに感じてきていた
「いっそのこと、俺が聖杯戦争に参加するか?」
何気なく思いついたことだが、だんだんとその思いが強くなっていく。そして彼は行動に移し始めた。
この別荘の地下には、様々なアイテムが保存されている。どれもこれも、魔術的価値がかなり高いものばかりである。この中から召喚の触媒を選び始める。流石に、特定の英雄のアイテムはないが、選んだアイテムに関わりのある英雄の中で、性格が似ている人物を召喚できるとなれば、ある程度狙って召喚できるだろうと考えてだ。
「よし、これにしよう」
そう言ってジェイクが手にしたのは、ボロボロになった海賊旗だった。それは、ジェイクの財閥が手を付けていた事業の一環で海底の調査をしていた時に発見した、沈没した海賊船のものである。名も無き海賊のものであるが、「海賊」という枠組みの中から相性の良い人物が呼ばれるであろう。
「閉じよ、閉じよ、閉じよ、閉じよ、閉じよ、繰り返すごとに五度、ただ満たされる刻を破却する」
触媒を準備すると、ジェイクはすぐに召喚の儀式を始める。この辺りの知識もツテによるものだ。
「汝三大の言霊を纏う七天、抑止の輪より来たれ、天秤の守り手よ!」
しかし、詠唱を終えても何も起こらない。間違えた訳でもない。
「そう簡単にはいかねぇか、面白そうだったのになぁ…」
諦めて片付けようとしたその時、右手に一瞬痛みが走った。何事かと思っていると、手の甲に浮かび上がる3画の模様。それと同時に、部屋に風が吹き荒れる。
「もしかして、成功したのか?」
その現象を目の当たりにしたジェイクの表情は、驚喜に包まれる。
そして怪物は現れた。それはどう見ても、人とは呼べないものだった。しかしかろうじて、海賊の特徴ともいえるロングコートと二角帽を身につけているおかげで、人の形には見えている。
「問おう、お前が俺のマスターか?」
その声は、地獄の亡者を思わせる声であった。
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